説明

酢酸セルロース系樹脂用可塑剤

【課題】 樹脂との相溶性が良好で、可塑化効率に優れた酢酸セルロース系樹脂用可塑剤の提供。
【解決手段】 式(1)、(2)又は(3)で表される化合物、3価以上の多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物とC1-12の脂肪酸とのエステル、あるいは3価以上の多価脂肪酸とC1-12のアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステルを含有する酢酸セルロース系樹脂用可塑剤、並びにこの可塑剤と酢酸セルロース系樹脂を含有する酢酸セルロース系樹脂組成物。
1O(A1O)m1−COR3COO−(A2O)m22 (1)
4O(A3O)n15 (2)
6O(A4O)p1−R8O−(A5O)p27 (3)
[式中、R1、R2及びR4はC1-15のアルキル基等、R3はC1-8のアルキレン基、R5はC2-15のアシル基等で、R4とR5の合計炭素数は4〜18、R6及びR7はC2-6のアシル基、R8はC1-8の2価アルコール残基、A1O、A2O、A3O、A4O及びA5OはC2-4のオキシアルキレン基、m1、m2、n1、p1及びp2は1〜20の数を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸セルロース系樹脂用可塑剤、並びに柔軟性及び耐熱性に優れた酢酸セルロース系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の酢酸セルロース系樹脂は、強靭で光沢性、透明性、耐油性、耐候性が良いという特徴を有するが、可塑剤や溶剤の添加無しに単独で加熱すると溶融と同時に着色や分解が生じる為、良好な成形品を得ることができない。また、種々の溶剤を用いて酢酸セルロース系樹脂を溶解、混練、圧搾、成形し、シートを得るいわゆるブロック法においても、可塑剤の添加無しでは良好な可撓性を有する樹脂を得ることができない。
【0003】
このような酢酸セルロース系樹脂の可塑剤として、特許文献1には、グリコールと脂肪族二塩基酸とから得られる平均分子量700〜4000のポリエステル系の高分子可塑剤が開示されている。しかしながら、この可塑剤は酢酸セルロース系樹脂との相溶性が不充分で、可塑化効率が悪い等の欠点を有する。
【0004】
このような欠点を解決するための可塑剤として、特許文献2には、ソルビトールアセテート、キシリトールアセテート等の糖アルコールのヒドロキシル基の少なくとも1つを酢化してなる糖アルコールのアセチル化物を主成分とする可塑剤が開示されている。しかしこの可塑剤は柔軟性及び耐熱性において十分満足できるものではない。
【特許文献1】特公昭61−14168号公報
【特許文献2】特開2000−351871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、酢酸セルロース系樹脂との相溶性が良好で、可塑化効率に優れた酢酸セルロース系樹脂用可塑剤、並びに柔軟性及び耐熱性に優れた酢酸セルロース系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記(i)、(ii)、(iii)、(iv)及び(v)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する酢酸セルロース系樹脂用可塑剤、並びにこの可塑剤と、酢酸セルロース系樹脂を含有する酢酸セルロース系樹脂組成物を提供する。
(i):一般式(1)で表される化合物
1O(A1O)m1−COR3COO−(A2O)m22 (1)
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に、炭素数1〜15の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、又は炭素数7〜18のアルキルフェニル基、R3は炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、A1O及びA2Oはそれぞれ独立に、炭素数2〜4のオキシアルキレン基、m1及びm2はそれぞれ独立に、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜20の数であり、m1個のA1O、m2個のA2Oはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
(ii):一般式(2)で表される化合物
4O(A3O)n15 (2)
[式中、R4は炭素数1〜15の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、又は炭素数7〜18のアルキルフェニル基、R5は炭素数2〜15のアシル基、アルキル基もしくはアルケニル基であり、かつR4とR5の合計炭素数は4〜18である。A3Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、n1はオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜20の数であり、n1個のA3Oは同一でも異なっていてもよい。]
(iii):1分子中に3つ以上の水酸基を有する多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物と、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖脂肪酸とのエステル
(iv):1分子中に3つ以上のカルボキシル基を有する多価脂肪酸又はそれらの無水物と、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖アルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル
(v):一般式(3)で表される化合物
6O(A4O)p1−R8O−(A5O)p27 (3)
(式中、R6及びR7はそれぞれ独立に、炭素数2〜6の直鎖又は分岐鎖のアシル基、R8は炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖の2価アルコールから2個の水酸基を除いた残基、A4O及びA5Oはそれぞれ独立に、炭素数2〜4のオキシアルキレン基、p1及びp2はそれぞれ独立に、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜20の数であり、p1個のA4O、p2個のA5Oはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【発明の効果】
【0007】
本発明の可塑剤は、酢酸セルロース系樹脂との相溶性に優れ、酢酸セルロース系樹脂の透明性を阻害させずに柔軟性を付与することができる。また、本発明の酢酸セルロース系樹脂組成物は柔軟性及び耐熱性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[可塑剤]
本発明の可塑剤は、上記(i)、(ii)、(iii)、(iv)及び(v)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する。
【0009】
(i)の化合物において、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1〜15の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、又は炭素数7〜18のアルキルフェニル基を示すが、耐ブリード性の観点から、炭素数1〜12、更に1〜4のアルキル基又はアルケニル基、特にアルキル基が好ましい。R3は炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示すが、柔軟性の観点から、炭素数1〜3、特に炭素数2〜3のアルキレン基が好ましい。A1O及びA2Oはそれぞれ独立に、炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示すが、炭素数2〜3のオキシアルキレン基、特にオキシエチレン基が好ましい。m1及びm2はそれぞれ独立にオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜20の数であるが、柔軟性、耐揮発性の観点から、1〜5が好ましい。また、m1とm2の和は2〜8が好ましく、4〜8が更に好ましい。
【0010】
(i)の化合物の平均分子量は、柔軟性、透明性、耐ブリード性及び耐揮発性の観点から250以上が好ましく、250〜700がより好ましく、300〜600が特に好ましく、330〜500が最も好ましい。尚、平均分子量は、JIS K0070に記載の方法で鹸化価を求め、次式より計算で求めることができる。
【0011】
平均分子量=56108×2/鹸化価
(i)の化合物の好ましい具体例として、マロン酸、コハク酸又はグルタル酸から選ばれる二塩基酸と、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテルとのエステルを挙げることができ、特に好ましい具体例としては、柔軟性及び耐揮発性の観点から、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステルが挙げられる。
これらの化合物は単独で使用することもできるし、混合して使用することもできる。
【0012】
(i)の化合物の製造方法は特に限定されず、例えば、パラトルエンスルホン酸一水和物、硫酸等の酸触媒や、ジブチル酸化スズ等の金属触媒の存在下、炭素数3〜10の飽和二塩基酸又はその無水物と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとを直接反応させるか、炭素数3〜10の飽和二塩基酸の低級アルキルエステルとポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとをエステル交換することにより得られる。具体的には、例えば、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、飽和二塩基酸、及び触媒としてパラトルエンスルホン酸一水和物を、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル/飽和二塩基酸/パラトルエンスルホン酸一水和物(モル比)=2〜4/1/0.001〜0.05になるように反応容器に仕込み、トルエンなどの溶媒の存在下又は非存在下に、常圧又は減圧下、温度100〜130℃で脱水を行うことにより(i)の化合物が得られる。溶媒を用いないで、減圧で反応を行う方法が好ましい。
【0013】
(ii)の化合物において、R4は炭素数1〜15の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、又は炭素数7〜18のアルキルフェニル基を示すが、炭素数1〜14、更に1〜12のアルキル基又はアルケニル基が好ましい。R5は炭素数2〜15、好ましくは2〜8、更に好ましくは2〜3のアシル基、アルキル基もしくはアルケニル基を示すが、炭素数2〜3のアシル基が特に好ましい。また、R4とR5の合計炭素数は4〜18であり、4〜12が好ましく、4〜10が更に好ましい。A3Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示すが、オキシエチレン基が好ましい。n1はオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜20の数であるが、1〜15が好ましく、3〜15が更に好ましく、3〜10が特に好ましい。
【0014】
(ii)の化合物の平均分子量は、柔軟性、透明性、耐ブリード性及び耐揮発性の観点から、250以上が好ましく、250〜800がより好ましく、300〜800が特に好ましい。尚、分子量は、エステル結合を有する場合、JIS K0070に記載の方法で鹸化価と水酸基価とを求め、次式より計算で求めることができる。
【0015】
分子量=56108/[鹸化価+水酸基価]
また、エステル結合を含まない場合は、NMRによる公知の方法によって疎水基及びアルキレンオキサイドの鎖長及び付加量を決定し、分子量を算出する。
【0016】
(ii)の化合物のR5を除く部分のHLBは5〜18が好ましく、7〜17が更に好ましい。尚、HLBはグリフィンの式に従って計算した値であり、A3がエチレン基以外のアルキレン基の場合にはグリフィンの式に定義されていないので、炭素数3のアルキレン基はメチレン0.3個、炭素数4のアルキレン基はメチレン1個分の疎水基として換算することとする。また、(ii)の化合物の凝固点は30℃以下が好ましく、10℃以下が更に好ましい。
【0017】
(ii)の化合物の好ましい具体例として、アセチル化ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数2〜15)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数1〜15)エーテルプロピオン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数1〜14)エーテル酪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数1〜13)エーテル吉草酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数1〜12)エーテルカプロン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数1〜11)エーテルエナント酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数1〜10)エーテルカプリル酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数1〜9)エーテルペラルゴン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数1〜8)エーテルカプリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数1〜7)エーテルウンデカン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数1〜6)エーテルラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数1〜5)エーテルトリデカン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数1〜4)エーテルミリスチン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数1〜3)エーテルペンタデカン酸エステルなどが挙げられる。また、これらを混合して使用することもできるし、R4及び/又はR5として、上記範囲内の成分をあらかじめ混合して使用することもできる。
【0018】
(ii)の化合物の製造方法は特に限定されず、例えばアルコールにエチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加し、次いで脂肪酸によりエステル化するか、もしくはアルカリ触媒下で塩化アルキル等と反応させることによって得られる。
【0019】
(iii)のエステルのアルコール成分を構成する、1分子中に3つ以上の水酸基を有する多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物としては、1分子中に3〜12個の水酸基を有する炭素数3〜30の多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物が好ましい。具体的には、グリセリン、平均縮合度1より大きく10以下のポリグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、マンニトール、グルコース、フルクトース、リボース、マルトース、マルチトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールアルカン等の多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられ、本発明の効果を発現する観点から、平均縮合度2〜4のポリグリセリン、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンから選ばれる多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物が好ましく、ジグリセリン、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンから選ばれる多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物が更に好ましい。アルキレンオキサイド付加物としては、柔軟性、透明性、耐ブリード性及び耐揮発性の観点から、炭素数2〜4のアルキレンオキサイド、特にエチレンオキサイドを、多価アルコールの水酸基1個当たり平均0.2〜10モル付加させたものが好ましく、0.5〜6モル付加させたものが更に好ましく、1〜4モル付加させたものが特に好ましい。
尚、アルキレンオキサイド(AO)の平均付加モル数は以下の式により算出される。
【0020】
【数1】

【0021】
(iii)のエステルを構成する酸成分は、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖脂肪酸であり、透明性及び耐ブリード性の観点から、エステル1分子中の脂肪酸のうち、平均0〜2個が炭素数7〜12の脂肪酸で、残りが炭素数2〜6の脂肪酸であるものが好ましく、エステルを構成する全ての脂肪酸が酢酸であるものが更に好ましい。
【0022】
(iii)のエステルは、アルコール成分の水酸基の全てが脂肪酸によりエステル化された飽和エステル、あるいは水酸基の一部がエステル化された部分エステルのいずれでも良いが、透明性、耐ブリード性及び耐熱性の観点から、飽和エステルが好ましく、部分エステルの場合は、下記式で表される平均エステル化率が50%以上であることが好ましく、70%以上であることが更に好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0023】
【数2】

【0024】
(iii)のエステルの数平均分子量は、耐ブリード性及び耐揮発性の観点から、500以上が好ましく、500〜1500が更に好ましい。
【0025】
尚、(iii)のエステルの数平均分子量は、以下の方法により測定した値である。
【0026】
<数平均分子量の測定法>
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、下記条件で測定する。
カラム:TSK PWXL+G4000PWXL+G2500PWXL(いずれも東ソー(株)製)
カラム温度:40℃
検出器:RI又はUV(210nm)
溶離液:0.2mol/L リン酸緩衝液/アセトニトリル(9/1)
流速:1.0mL/min
注入量:0.1mL
標準:ポリエチレングリコール
(iii)のエステルは、上記のようなアルコール成分と、炭素数1〜12の脂肪酸又はその低級アルキルエステルとのエステル化反応又はエステル交換反応によって得ることができ、その製造法は特に限定されない。
【0027】
(iv)のエステルを構成する酸成分は、1分子中に3つ以上のカルボキシル基を有する多価脂肪酸又はそれらの無水物から選ばれる少なくとも1種である。
【0028】
1分子中に3つ以上のカルボキシル基を有する多価脂肪酸としては、本発明の効果を発現する観点から、3〜6価の多価脂肪酸が好ましく、3価又は4価の多価脂肪酸がより好ましい。多価脂肪酸の炭素数は、本発明の効果を発現する観点から、6〜20が好ましく、8〜12がより好ましい。これらの多価脂肪酸の具体例としては、クエン酸、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等が挙げられる。
【0029】
(iv)のエステルを構成するアルコール成分は、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖アルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも1種であり、アルコールの炭素数は1〜8が好ましい。アルキレンオキサイドとしては、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドが好ましく、エチレンオキサイドが更に好ましい。また、アルキレンオキサイドの平均付加モル数は、0.2〜20が好ましく、0.5〜10が更に好ましい。
【0030】
(iv)のエステルは、酸成分のカルボキシル基の全てがアルコール成分によりエステル化された飽和エステル、あるいはカルボキシル基の一部がエステル化された部分エステルのいずれでも良いが、耐ブリード性及び耐熱性の観点から、飽和エステルが好ましい。
【0031】
(iv)のエステルの数平均分子量は、耐ブリード性及び耐揮発性の観点から、450以上が好ましく、500〜1500が更に好ましい。
【0032】
尚、(iv)のエステルの数平均分子量は、(iii)のエステルの数平均分子量と同様の方法により測定した値である。
【0033】
(iv)のエステルは、上記のような酸成分と、アルコール成分とのエステル化反応によって得ることができ、その製造法は特に限定されない。
【0034】
尚、(iv)のエステルは、上記のような酸成分の替わりに、1分子中に3つ以上のカルボキシル基を有する多価脂肪酸の炭素数1〜3の低級アルキルエステルと、アルコール成分とのエステル交換反応によって得ることができるエステルも包含される。
【0035】
(v)の化合物において、R8は炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖の2価アルコールから2個の水酸基を除いた残基を示すが、樹脂との相溶性、耐ブリード性、耐揮発性の観点から、炭素数2〜4の2価アルコールの残基が好ましい。R6及びR7はそれぞれ独立に炭素数2〜6の直鎖又は分岐鎖のアシル基を示すが、樹脂との相溶性、耐ブリード性、耐揮発性の観点から、炭素数2〜4のアシル基が好ましい。A4O及びA5Oはそれぞれ独立に、炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示すが、オキシエチレン基が好ましい。p1及びp2はそれぞれ独立に、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜20の数であり、樹脂との相溶性、耐ブリード性、耐揮発性の観点から、1〜10が好ましく、2〜5が更に好ましい。
【0036】
(v)の化合物の平均分子量は、柔軟性、透明性、耐ブリード性及び耐揮発性の観点から250以上が好ましく、250〜800がより好ましく、300〜800が特に好ましい。
【0037】
尚、分子量は、JIS K0070に記載の方法で鹸化価を求め、次式より計算で求めることができる。
【0038】
分子量=56108×2/鹸化価
(v)の化合物の溶解度パラメータは、耐ブリード性及び耐揮発性の観点から9.1〜9.8が好ましく、9.3〜9.6が更に好ましい。
【0039】
(v)の化合物の好ましい具体例として、相当する2価アルコールヘのエチレンオキサイドの付加モル数が3〜20、好ましくは4〜10のポリエチレングリコールジアセテート、ポリエチレングリコールジプロピオネート、ポリエチレングリコールジブチレート、ポリオキシエチレン1,2−プロパンジオールエーテルジアセテート、ポリオキシエチレン1,2−プロパンジオールエーテルジプロピオネート、ポリオキシエチレン1,2−プロパンジオールエーテルジブチレート、ポリオキシエチレン1,3−プロパンジオールエーテルジアセテート、ポリオキシエチレン1,3−プロパンジオールエーテルジプロピオネート、ポリオキシエチレン1,3−プロパンジオールエーテルジブチレート、ポリオキシエチレン1,4−ブタンジオールエーテルジアセテート、ポリオキシエチレン1,4−ブタンジオールエーテルジプロピオネート、ポリオキシエチレン1,4−ブタンジオールエーテルジブチレート、ポリオキシエチレン1,3−ブタンジオールエーテルジアセテート、ポリオキシエチレン1,3−ブタンジオールエーテルジプロピオネート、ポリオキシエチレン1,3−ブタンジオールエーテルジブチレート、ポリオキシエチレン1,5−ペンタンジオールエーテルジアセテート、ポリオキシエチレン1,5−ペンタンジオールエーテルジプロピオネート、ポリオキシエチレン1,5−ペンタンジオールエーテルジブチレート、ポリオキシエチレン1,2−ペンタンジオールエーテルジアセテート、ポリオキシエチレン1,2−ペンタンジオールエーテルジプロピオネート、ポリオキシエチレン1,2−ペンタンジオールエーテルジブチレート、ポリオキシエチレン1,6−ヘキサンジオールエーテルジアセテート、ポリオキシエチレン1,6−ヘキサンジオールエーテルジプロピオネート、ポリオキシエチレン1,6−ヘキサンジオールエーテルジブチレート、ポリオキシエチレン1,2−ヘキサンジオールエーテルジアセテート、ポリオキシエチレン1,2−ヘキサンジオールエーテルジプロピオネート、ポリオキシエチレン1,2−ヘキサンジオールエーテルジブチレート、ポリオキシエチレン1,8−オクタンジオールエーテルジアセテート、ポリオキシエチレン1,8−オクタンジオールエーテルジプロピオネート、ポリオキシエチレン1,8−オクタンジオールエーテルジブチレート、ポリオキシエチレン1,2−オクタンジオールエーテルジアセテート、ポリオキシエチレン1,2−オクタンジオールエーテルジプロピオネート、ポリオキシエチレン1,2−オクタンジオールエーテルジブチレート等を挙げることができる。
これらの化合物は単独で使用することもできるし、混合して使用することもできる。
【0040】
(v)の化合物の製造方法は特に限定されず、例えば炭素数1〜8の2価アルコールにKOH、NaOH等を触媒としてエチレンオキサイドを付加し、次いで炭素数2〜6の脂肪酸又は脂肪酸無水物によりエステル化することによって得られる。
【0041】
本発明の可塑剤は、前記(i)、(ii)、(iii)、(iv)及び(v)から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、透明性の観点から前記(i)の化合物が好ましい。本発明の可塑剤以外に、これらの化合物の製造における未反応分や、これらの化合物以外の可塑剤等を含有することができる。
【0042】
これらの化合物以外の可塑剤としては、アセチル化モノグリセライド、アセチル化トリブチルサイトレート等が挙げられる。
【0043】
本発明の可塑剤中の、前記(i)、(ii)、(iii)、(iv)及び(v)から選ばれる少なくとも1種の化合物の含有量は、本発明の目的を達成する観点から、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは70重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0044】
[酢酸セルロース系樹脂]
本発明で使用される酢酸セルロース系樹脂は、セルロース鎖のヒドキシル基の1つ以上がアセチル化されたものであり、具体的にはセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート等が挙げられるが、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが好ましく、特にセルロースアセテートが好ましい。
【0045】
[酢酸セルロース系樹脂組成物]
本発明の酢酸セルロース系樹脂組成物は、本発明の可塑剤と酢酸セルロース系樹脂とを含有する。本発明の可塑剤の含有量は、酢酸セルロース系樹脂100重量部に対し、柔軟性、透明性、耐熱性及び経済性の観点から、好ましくは1〜200重量部、更に好ましくは3〜150重量部、特に好ましくは5〜100重量部である。
【0046】
本発明の酢酸セルロース系樹脂組成物中の、酢酸セルロース系樹脂の含有量は、本発明の目的を達成する観点から、好ましくは30重量%以上であり、より好ましくは50重量%以上である。
【0047】
本発明の組成物は、上記可塑剤以外に、必要に応じて他の添加剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種安定剤や、染顔料、充填剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤等を単独又は2種以上組み合わせて添加することができる。
【実施例】
【0048】
合成例1
攪拌機、温度計、脱水管を備えた1Lフラスコにコハク酸75.2g、トリエチレングリコールモノメチルエーテル251g、ジブチル酸化スズ1.59gを仕込み、185℃で12時間反応させた。反応終了後、85%リン酸1.2gを加えて70℃で30分間加熱攪拌した後、キョワード600S(キョーワ化学工業(株)製)を添加して吸着処理を行い、加圧ろ過した。さらに、減圧で過剰のトリエチレングリコールモノメチルエーテルを留去した後、加圧ろ過を行い、可塑剤1(式(1)において、R1及びR2がメチル基、R3がエチレン基、A1O及びA2Oがオキシエチレン基、m1=m2=3の化合物)を得た。
【0049】
合成例2
エチレンオキサイド用の計量槽の付いた10リットルの攪拌回転式オートクレーブ中にヘキシルアルコール(東京化成工業(株)製試薬特級)を510g、水酸化カリウムを1.7g仕込み、窒素置換を行った後110℃に昇温し、5.2kPaで1時間脱水を行った。次に150℃に昇温し、エチレンオキサイドを3.5kg/cm2の圧力で1540gオートクレーブ中に導入し圧力が低下し一定になるまで反応させた。反応終了後、温度を低下させて合成したサンプルを抜き出した。抜き出したサンプルを3Lフラスコに移し、キョーワード600Sを14g添加し80℃窒素微加圧条件で1時間触媒の吸着処理を行った。処理後吸着剤を濾過し約1.5kgの中間体であるポリオキシエチレンヘキシルエーテルを得た。
【0050】
上記ポリオキシエチレンヘキシルエーテル330gを1Lのフラスコに仕込み、撹拌装置を用いて攪拌しながら無水酢酸160gを滴下し反応温度80〜130℃で1時間反応し、さらに120℃で3時間熟成した。反応終了後100℃/2.5kPaで未反応の無水酢酸と副生した酢酸を留去させ、さらに100℃/1.3kPaでスチーミングを行い可塑剤2[式(2)において、R4がヘキシル基、R5がアセチル基、A3Oがオキシエチレン基、n1=7の化合物(アセチル化ポリオキシエチレン(7)ヘキシルエーテル)]を得た。
【0051】
合成例3
MPG(日本乳化剤(株)製、ポリオキシエチレン(4)メチルエーテル)とカプリル酸(花王(株)製ルナック8-98)をPTS触媒を用いて180℃で反応させた。反応後キョーワード500SHで触媒を吸着除去し、減圧条件で生成物を蒸留し可塑剤3[式(2)において、R4がメチル基、R5がカプリル基、A3Oがオキシエチレン基、n1=4の化合物(ポリオキシエチレン(4)メチルカプリレート)]を得た。
【0052】
合成例4
攪拌機、温度計、脱水管を備えた1Lフラスコにクエン酸75.0g、トリエチレングリコールモノメチルエーテル256g、ジブチル酸化スズ1.59gを仕込み、185℃で12時間反応させた。反応後85%燐酸1.2gを加えて70℃で30分間加熱攪拌した後、キョーワード600S(協和化学工業(株)製)を添加して吸着処理を行い、加圧ろ過した。さらに、減圧で過剰のトリエチレングリコールモノメチルエーテルを留去した後、加圧ろ過を行い、中間体を得た。これをフラスコに戻し110℃で無水酢酸80gを1時間かけて滴下し、さらに120℃で2時間熟成した。反応終了後100℃/2.5kPaで未反応の無水酢酸と副生した酢酸を留去させ、さらに110℃/1.3kPaでスチーミングを行い、可塑剤4(アセチル化クエン酸メチルトリエチレングリコールエステル)を得た。
【0053】
合成例5
ヘキシルアルコールの代わりに化粧品用濃グリセリン(花王(株)製)を用いた他は合成例2と同様な手順で、エチレンオキサイドを6モル付加し、アセチル化した可塑剤5(ポリオキシエチレン(6)グリセリンアセテート)を得た。
【0054】
合成例6
攪拌機、温度計、脱水管を備えた1LフラスコにPEG300(関東化学(株)製、分子量300)200gを仕込み、110℃で無水酢酸204gを1時間かけて滴下し、さらに120℃で2時間熟成した。反応終了後100℃/2.5kPaで未反応の無水酢酸と副生した酢酸を留去させ、さらに110℃/1.3kPaでスチーミングを行い、可塑剤6[式(3)において、R6及びR7がアセチル基、R8がエチレン基、A4O及びA5Oがオキシエチレン基、p1=p2=3の化合物(ポリエチレングリコールジアセテート)]を得た。
【0055】
実施例1〜6及び比較例1〜3
合成例1〜6で得られた本発明の可塑剤1〜6、及び下記の比較可塑剤1〜3を用い、酢酸セルロース(和光純薬工業(株)製、商品名:酢酸セルロース)100重量部、可塑剤40重量部からなる組成物を、220℃の混練機(東洋精機社製、“ラボプラストミル”)にて10分間混練し、220℃のプレス成形機にて厚さ0.5mmのテストピースを作成した。得られたテストピースについて下記の方法で、臭気、発煙性、着色の度合、柔軟性を評価した。これらの結果を表1に示す。
尚、全ての実施例、比較例において耐ブリード性は良好であった。
【0056】
<比較可塑剤>
・比較可塑剤1:フタル酸ジエチル(和光純薬工業(株)製ジエチルフタレート(試薬特級))
・比較可塑剤2:ソルビトールアセテート(特開2000−351871号公報実施例1と同様にして製造したもの)
・比較可塑剤3:キシリトールアセテート(特開2000−351871号公報実施例2と同様にして製造したもの)
<臭気、発煙性、着色の度合の評価法>
テストピース作成時の臭気(小、中、多で表示)、発煙性(少、中、多)、テストピースの着色(観察された色)について、官能評価を行った。臭気が小さく、発煙性が少ないほど可塑剤と酢酸セルロース系樹脂との相溶性が優れることを表し、着色がないほど透明性に優れることを表す。
【0057】
<柔軟性の評価法>
JIS K7161に基づき、テストピースを3号ダンベルで打ち抜き、温度23℃、湿度50%RHの恒温室に24時間放置し、引張速度200mm/minで引張試験を行い、降伏点応力、降伏点伸度、破断点応力、破断点伸度、弾性率により柔軟性を評価した。降伏点伸度及び破断点伸度の数値は大きい方が、また降伏点応力、破断点応力及び弾性率の数値は小さい方が柔軟性が高いことを示す。
【0058】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)、(ii)、(iii)、(iv)及び(v)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する酢酸セルロース系樹脂用可塑剤。
(i):一般式(1)で表される化合物
1O(A1O)m1−COR3COO−(A2O)m22 (1)
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に、炭素数1〜15の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、又は炭素数7〜18のアルキルフェニル基、R3は炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、A1O及びA2Oはそれぞれ独立に、炭素数2〜4のオキシアルキレン基、m1及びm2はそれぞれ独立に、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜20の数であり、m1個のA1O、m2個のA2Oはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
(ii):一般式(2)で表される化合物
4O(A3O)n15 (2)
[式中、R4は炭素数1〜15の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、又は炭素数7〜18のアルキルフェニル基、R5は炭素数2〜15のアシル基、アルキル基もしくはアルケニル基であり、かつR4とR5の合計炭素数は4〜18である。A3Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、n1はオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜20の数であり、n1個のA3Oは同一でも異なっていてもよい。]
(iii):1分子中に3つ以上の水酸基を有する多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物と、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖脂肪酸とのエステル
(iv):1分子中に3つ以上のカルボキシル基を有する多価脂肪酸又はそれらの無水物と、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖アルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル
(v):一般式(3)で表される化合物
6O(A4O)p1−R8O−(A5O)p27 (3)
(式中、R6及びR7はそれぞれ独立に、炭素数2〜6の直鎖又は分岐鎖のアシル基、R8は炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖の2価アルコールから2個の水酸基を除いた残基、A4O及びA5Oはそれぞれ独立に、炭素数2〜4のオキシアルキレン基、p1及びp2はそれぞれ独立に、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜20の数であり、p1個のA4O、p2個のA5Oはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
酢酸セルロース系樹脂と、請求項1記載の可塑剤とを含有する酢酸セルロース系樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−77300(P2007−77300A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−267861(P2005−267861)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】