説明

酢酸及び無水酢酸を同時に連続的に製造する方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、メタノール及び酢酸メチル並びに場合によりジメチルエーテルからなる混合物を一酸化炭素と反応させて同時に酢酸及び無水酢酸を連続的に製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】酢酸及び無水酢酸は、工業的に大規模に製造される酢酸ビニル−又は酢酸セルロース生成物における中間生成物である。
【0003】ドイツ特許第3823645号明細書から、元素の周期系の第VIII族の貴金属のカルボニル錯塩を含有する触媒系の存在下でのメタノール及び酢酸メチルのカルボニル化により酢酸及び無水酢酸を同時に製造する方法は公知である。反応溶液中でロジウム濃度は、0.005〜0.05モル/l、特に0.015〜0.027に調整される。しかしこのように僅かしかロジウムが使用されないのは、この方法のコストレベルが高すぎることが原因である。
【0004】それゆえ高価なロジウムを安価な代替触媒に替える試みがなされている。
【0005】たとえばドイツ特許第3151371号明細書に、無水酢酸を製造するために酢酸メチル又はジメチルエーテルをカルボニル化するのに、代替触媒としてニッケルが提案されている。この代替触媒を用いて実施する場合の欠点は、わずかな空時−収量及び、工業的に利用できる反応率を達成させるために使用されねばならない高いニッケル濃度である。これは、カルボニル化を連続的方法として実施する場合、特に困難性を生じる。
【0006】ドイツ特許第49995号明細書において、同様に酢酸を製造するためにメタノールをカルボニル化するのにニッケル−触媒が提案されている。連続的実施の際触媒活性度を保持するために、一酸化炭素が水素と共に使用される。この場合、水素の添加によりエチリデンジアセテートの生成の選択性が、空時−収量が同一のCO−全圧で悪化することが欠点である。この場合も高い触媒濃度が保たれねばならず、これは連続的実施の場合困難性を生じる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】それゆえ、酢酸及び無水酢酸を同一の反応系で連続的方法で製造するにあたり、中程度の圧力範囲で高い選択度と共に高い空時−収量が達成され、反応器の腐食が僅少であり、そしてそれぞれ経済的要求に対応する処理を無水酢酸に対する酢酸の量比に簡単に適合させることができることが課題であった。
【0008】
【課題を解決するための手段】それゆえ、本発明は、ニッケル化合物、促進剤としてのヨウ化メチル、少なくとも1種の共−促進剤、例えばヨウ化アルカリ、ヨウ化第四ホスホニウム又はヨウ化第四アンモニウム及び共触媒を含有する、溶解された触媒系の反応域において、無水条件下で150〜250℃の温度及び高められた圧力で一酸化炭素と反応させることによって、メタノール及び酢酸メチル並びに場合によりジメチルエーテルの出発混合物から、酢酸及び無水酢酸を同時に連続的に製造する方法において、共−触媒としてロジウム−又はイリジウム化合物をニッケル:共触媒のモル量比1:(0.005〜0.1)で使用し、反応域におけるニッケル濃度を0.01〜0.1、好ましくは0.015〜0.06モル/lとし、30〜100、特に50〜80バールの高められた圧力で実施することを特徴とする、上記連続製造方法に関する。
【0009】さらに、本発明の方法は、好ましくは、反応域で1〜10分の滞留時間を調整することを特徴とする。
【0010】本発明による方法の場合、共- 促進剤としてヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化メチルトリブチルホスホニウム、ヨウ化メチルトリフェニルホスホニウム、ヨウ化テトラブチルホスホニウム又はヨウ化ジメチルジブチルホスホニウム並びにN,N- ジメチルイミダゾリウム、ヨウ化N- メチルピリジニウム、ヨウ化N- メチル- 3- ピコリニウム又はヨウ化N- メチルキノリニウムを反応溶液1l当たり0.05〜4.5モルの量で使用することにより良好な結果が生ずる。
【0011】酢酸メチル又はジメチルエーテルに対するメタノールの比率は、広範囲に選択することができる。良好な空時−収量に関して、10:1〜1:10のメタノール:酢酸メチル及び/又はジメチルエーテルのモル比が特に有利である。
【0012】水素、水蒸気並びにCO、CH又は別の不活性ガスによる一酸化炭素のわずかな汚染は、重要ではない。
【0013】250℃以上の温度は、タール状成分――これは生成物からの触媒系の分離を妨害する――の生成を促進する。
【0014】反応溶液は、好ましくは促進剤としてヨウ化メチル0.1〜7.5モル/lを含有する。
【0015】ニッケル化合物は、塩化ニッケル、ヨウ化ニッケル、酢酸ニッケル又はニッケルアセチルアセトネートとして並びにニッケルテトラカルボニルとして添加することができる。
【0016】適当なロジウム−及びイリジウム化合物は、対応する塩化物、ヨウ化物又は錯塩化合物例えば〔CHP(C〕Rh(CO)I又は〔CHP(C〕Rh(CO)である。
【0017】本発明による触媒系を用いて酢酸及び無水酢酸の回分式製造も可能であるが、本発明による触媒系は、連続的実施の際その良好な性能を示す。連続的に実施する場合、触媒系は、長時間の実施にわたって副反応の抑制及び高い空時−収量に対してその完全な触媒活性を維持する。連続的に実施する場合塩は沈降しない。ロジウム又はイリジウムのわずかな使用量により触媒コストを著しく低下させる。無水条件下の実施は、反応溶液中へのほんの僅かの腐食生成物の混入のみをもあたらす。
【0018】触媒系を高級アルカン酸及びアルカン酸無水物の製造にも使用することができるが、該系は酢酸及び無水酢酸を製造する場合その最良の成果を示す。エタノール−酢酸メチル−又はメタノール−酢酸エチル−混合物の使用は酢酸/プロピオン酸/無水酢酸/無水プロピオン酸からなる混合物及び酢酸及びプロピオン酸の混合無水物の製造も可能にする。
【0019】
【実施例】例1カルボニル化を190℃の温度において70バールの圧力下に使用容量4.5lを有する反応器中で実施する。反応容器中の反応溶液はヨウ化ニッケル平均0.060モル/l、三塩化ロジウム0.002モル/l、メチルトリブチルホスホニウムヨウ化物0.676モル/l及びヨウ化メチル2.3モル/lを含有する。
【0020】毎時0.79kg(10.7モル)の酢酸メチル、1.67kg(52.1モル)のメタノール及び11.7kgの低沸点物(酢酸メチル、ヨウ化メチル)を添加導管7を介して反応器2に供給する。導管3により一酸化炭素1.76kg/時(62.8モル/h)を反応器2中に圧入する。同時に返還導管4を介して、触媒系が溶解されている蒸留底部物9.8kg/hを蒸留段階12から反応器2中に配量する。これから反応器2における平均滞留時間10分間が算出される。生成物導管5を介して反応溶液22.9kg/hを排出弁6により液相の形で分離器8に供給する。1バールの圧力及び95℃の下で作動する分離器8から、液状生成物は導管11により蒸留段階12に流れ、気体成分は分離器8及び蒸留段階12から導管9及び13により低沸点留分塔10中に流れる。排気導管22を介して不活性ガス0.07kg/hを凝縮器14から排出する。低沸点留分塔10中で1バールの圧力及び底部温度126℃及び頂部温度70℃において低沸点物(塩化メチル、酢酸メチル)の分離が行われ、これらは凝縮器14から導管1を介して反応器2に戻される。底部生成物4.22kg/hは、排出導管15を介して塔16――これは0.15バールの圧力及び頂部温度70℃及び底部温度99℃において作動する――中に供給される。頂部生成物として塔16から純粋酢酸3.07kg/時が生成物導管20を介して排出される。これから使用されたメタノールに対し98%の収率が算出される。
【0021】底部生成物を排出導管17を介して塔18――これを0.15バールの圧力及び頂部温度90℃及び底部温度104℃において作動する――中に移行させる。頂部生成物として塔18から純粋無水酢酸1.08kg/hが生成物導管21を介して排出される。これから酢酸メチルに対して99%の収率が算出される。
【0022】高沸点物0.07kg/hが、塔18の底部生成物として底部導管19を介して取り出される。
【0023】酢酸及び無水酢酸の収率は、CO−反応率に対し98.1%に相当する。
【0024】空時収率は、酢酸及び無水酢酸922g/hである。
【0025】例2例1と同様に行うが、毎時0.7kg(10.7モル)の酢酸メチル、2.43kg(75.9モル)のメタノールを添加導管7を介して、2.42kg/hのCOを導管3を介しで配量する。
【0026】これから反応器2におてる9分間の滞留時間が算出される。
【0027】酢酸及び無水酢酸の収率は、CO−反応率に対し98%に相当する。
【0028】純酢酸4.49kg/時及び純粋無水酢酸1.07kg/hが得られた。
【0029】空時収率は、酢酸及び無水酢酸1236g/hである。
【0030】
【発明の効果】以上説明した様に、従来公知のニッケル触媒を使用する方法においては、酢酸及び無水酢酸を同時に製造する場合、連続的実施の際触媒活性度を保持するために、一酸化炭素が水素と共に使用される。この場合、水素の添加により選択性がエチルジアセテートの生成によりそして同一のCO−全圧における空時−収量が悪化することが不利である。この場合も高い触媒濃度が得られねばならず、これは連続的実施の場合困難を招く。これに対して、本発明によれば、酢酸並びに無水酢酸を同一の反応系において連続的方法で製造し、その際中程度の圧力範囲において高い選択度と共に高い空時−収量が達成され、反応器の腐食が僅かで、そしてそれぞれの経済的要求に沿った方法を酢酸:無水酢酸の量比に簡単に適合させることができる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明による方法を概略的に示した工程図である。
【符号の説明】
1―――――――――― 導管
2―――――――――― 反応器
3―――――――――― 導管
4―――――――――― 返還導管
5−――――――――― 生成物導管
6―――――――――― 排出弁
7―――――――――― 添加導管
8―――――――――― 分離器
9−――――――――― 導管
10――――――――― 低沸点留分塔
11――――――――― 導管
12――――――――― 蒸留段階
13――――――――― 導管
14――――――――― 凝縮器
15――――――――― 排出導管
16――――――――− 塔
17――――――――− 排出導管
18――――――――− 塔
19――――――――− 底部導管
20――――――――− 生成物導管
21、22―――――― 排出導管

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ニッケル化合物、促進剤としてのヨウ化メチル、共- 促進剤としてのアルカリ金属ヨウ化物、ヨウ化第四ホスホニウム及びヨウ化第四アンモニウムのうちの少なくとも1種及び共触媒を含有する、溶解された触媒系の反応域において、無水条件下で150〜250℃の温度及び高められた圧力で一酸化炭素と反応させることによって、メタノ−ル及び酢酸メチル並びに場合によりジメチルエ−テルを含む出発混合物から、酢酸及び無水酢酸を同時に連続的に製造する方法において、共触媒としてロジウム化合物又はイリジウム化合物をニッケル:共触媒のモル比量1:(0.005〜0.1)で使用し、反応域におけるニッケル濃度を0.01〜0.1とし、30〜100バ−ルの高められた圧力で実施することを特徴とする、上記製造方法。
【請求項2】 触媒系が共- 促進剤としてヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化メチルトリブチルホスホニウム、ヨウ化メチルトリフェニルホスホニウム、ヨウ化テトラブチルホスホニウム又はヨウ化ジメチルジブチルホスホニウム並びにヨウ化N,N- ジメチルイミダゾリウム、ヨウ化N- メチルピリジニウム、ヨウ化N- メチル- 3- ピコリニウム又はヨウ化N- メチルキノリニウムを含有する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】 反応域におけるニッケル濃度が0.015〜0.06モル/lである、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】 50〜80バ−ルの高められた圧力で実施される、請求項1記載の製造方法。

【図1】
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【特許番号】特許第3084107号(P3084107)
【登録日】平成12年6月30日(2000.6.30)
【発行日】平成12年9月4日(2000.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−286331
【出願日】平成3年10月31日(1991.10.31)
【公開番号】特開平4−264049
【公開日】平成4年9月18日(1992.9.18)
【審査請求日】平成10年10月29日(1998.10.29)
【出願人】(398010667)セラニーズ・ケミカルズ・ヨーロッパ・ゲゼルシヤフト・ミト・ベシユレンクテル・ハフツング (11)
【参考文献】
【文献】特開 平1−299248(JP,A)