説明

酵母エキスの製造方法

【課題】酵母特有の臭気がほとんど無く、味、香り、色ともに良好かつ嗜好性に富んだ、清澄度の高い酵母エキスの製造方法を提供する。
【解決手段】培養酵母あるいは乾燥酵母より得られた酵母エキスを、無機の濾過材、好ましくはセラミックス製クロスフロー型精密濾過膜、で濾過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母臭を除去するとともに風味を改善できる酵母エキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵母エキスには、うま味成分としてアミノ酸、ヌクレオチド類、更にビタミン類、ミネラル等が含まれており、調味料として極めて広く用いられている。そして、酵母エキスの製造における細胞壁成分等の固形物とエキスを含む液物の分離には、一般的に遠心分離を使用した方法あるいは珪藻土を用いた方法等が行われている。しかしながら、これら方法では、酵母特有の臭いを除去することが困難で、かつ、得られた酵母エキスの清澄化にも問題があり、食品への利用が制限を受ける場合があった。
かかる問題を解決するため、酵母エキスに添加物等を添加して処理する方法として、酵母エキスをトランスグルタミナーゼ処理及び活性炭処理する方法(特許文献1)、エキス抽出液にキトサン及びポリアクリル酸塩を添加して水不溶物を除去する方法(特許文献2)、エキスを含水率が70%以下のアルコールで抽出した後活性炭で処理する方法(特許文献3)等が報告されている。しかしながら、これら方法では、酵母臭の除去が十分とは言い難く、また、大量処理に面した作業効率の低下、産業廃棄物の発生を含めた作業環境の悪化などの問題点があった。
【0003】
そこで、酵母エキスを膜処理する方法も報告されており、例えば、特許文献4には、分画分子量1000〜200000の限外濾過膜を用いる方法が、特許文献5には、平均膜孔径0.05〜1μmの精密濾過膜で濾過する方法が、特許文献6には、自己消化法で得られた酵母エキスについて、R.O.膜による膜濃縮とメンブラン濾過による濾過殺菌を組み合わせた方法が、それぞれ開示されている。
しかしながら、限外濾過膜の領域の濾過では忌避される酵母臭や、苦み成分、うまみ抑制物質等の除去が十分ではなく、また、有機の膜による分離では、栄養源豊富な酵母エキスの汚染防止の観点から多大な設備を必要とし、工業的に有利であるとは言い難く、更に、簡便な操作で十分な効果を発揮し、清澄化にも寄与できる方法が望まれていた。
【特許文献1】特開平7−285995号公報
【特許文献2】特開平8−56611号公報
【特許文献3】特開2000−316523号公報
【特許文献4】特開平2−219560号公報
【特許文献5】特開平9−313130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、酵母エキスに含まれる酵母臭を除去すると共に、苦み物質、うまみ抑制物質等を除去・低減することにより風味を改善した、清澄な酵母エキスの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、無機質の濾過材を用いることで、かかる課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、
(1)酵母エキスを無機の濾過材で濾過することを特徴とする酵母エキスの製造方法、
(2)無機の濾過材が、セラミックス製クロスフロー型精密濾過膜である、上記(1)記載の酵母エキスの製造方法、
(3)濾過を加熱下で行う、上記(1)乃至(2)記載の酵母エキスの製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、酵母エキスに含まれる酵母臭を有効に除去できると共に、苦み物質、うまみ抑制物質等を除去・低減することにより、より好ましい風味を持つ酵母エキスを、簡便に製造することができる。さらに、酵母エキスの清澄性を向上させる効果も有する。
また、濾過処理時の温度、pHをコントロールすることにより、容易に酵母エキスの汚染を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、酵母エキスを無機の濾過材で濾過するものである。
用いられる酵母エキスとしては、菌体内の酵素を利用した自己消化によるもの、酸あるいはアルカリにより加水分解したもの、タンパク質分解酵素、細胞壁溶解酵素等を添加して可溶化したもの、熱水等により菌体からエキス分を抽出したもの、さらにこれらをヌクレアーゼ等の酵素処理したもの等、いずれでも良いが、中でも、タンパク質分解酵素、細胞壁溶解酵素等でエキスを可溶化したもの、あるいは熱水等でエキスを抽出したもの、が、特に好ましい。
酵母は、食用のものであればいずでもよく、例えば、サッカロミセス属、ハンセヌラ属、キャンディダ属の酵母等が挙げられる。
【0008】
本発明で用いられる無機の濾過材としては、無機のもので孔径が0.01〜1μm、好ましくは0.05〜0.5μmのものが望ましい。孔径がこの範囲であると、酵母臭、あるいは苦味物質、その他の高分子物質、あるいは高分子物質と結合している雑味成分等を有効に除去できる。
また、無機の材質としては、セラミックスを中心とした、溶出物のない耐熱性、耐殺菌性のある材質であれば特に制限はない。
これら無機の濾過材としては、具体的には、ラジオライト、ハイフロスーパーセル、トプコパーライト、セラミックス、セラミックカートリッジ、等が挙げられる。
これら濾過材の中では、セラミックス製のクロスフロー型の精密濾過膜が、濾過面積あたりの濾過速度を維持、制御でき、かつ、1流路あたりの単位面積が広いため高速で液循環を行うことができ、濾過面の閉塞も起こりにくいため、特に好ましい。
【0009】
濾過は、酵母エキスの溶液をそのまま処理できるが、多量に処理する場合、溶液の温度を40〜70℃、好ましくは45〜60℃にすることで、処理中の外部侵入微生物による汚染を防止することができ、品質を維持することができる。
温度を上げることは、有機性の濾過材にとってはその性質上好ましくなく、かかる操作で容易に汚染を防止できることも、本発明の特徴の一つである。
また、溶液のpHを調整すこと、pH8〜12、好ましくは8〜10、により、酵母エキス中のタンパク質に由来する物質類が結合し、より効率的に処理することができる。
【実施例】
【0010】
以下、実施例及び比較例によって本発明を詳細に説明する。
なお、実施例及び比較例中の評価は、以下の方法により行った。
(1)官能評価
10人のパネラーにより、対象(無処理)を3とする5点法で行い、平均点で表示した。評価基準は以下の通りである。
5:極めて有効性が見られる。
4:有効性が見られる。
3:対象とほとんど差が認められない。
2:劣っている。
1:極めて劣っている。
(2)清澄度
5%溶液の660nmT%の測定値より、水を100として算出した。
【0011】
実施例1
酵母エキスの濃縮噴霧乾燥品(興人製、ハイチオンYH)を10%濃度に溶解し(pH5.7)、ラジオライト#100(昭和化学工業製)(A)、セライトハイフロスーパーセル(東京珪藻土工業製)(B)、及びそれらを1対1に混合したもの[(A)+(B)]、を、それぞれ濾紙を基材としたヌッチェに通した。
濾液について評価し、結果を表1に示した。
なお、対象は濾過処理を行わないものである(以下、同様)。
【0012】
【表1】

【0013】
実施例2
実施例1において、酵母エキスの10%溶液のpH8.5に調整した以外は、実施例1と同様に実施した。
結果を表2に示す。
【表2】

【0014】
実施例3
キャンディダ・ウチリスCS7529株の42%菌体懸濁液20Lを90℃15分間加熱し、菌体内酵素を完全に失活させた後、60℃に冷却し、遠心分離にて不溶性固形物を除去し、20℃に冷却し、酵母抽出液を得た。
該酵母抽出液10LをpH8.5にし、膜面積0.25mの日本ガイシ製α−アルミナのセラミックカートリッジ(平均細孔径0.1μm)を使用して、カートリッジ周辺温度をほぼ50℃に保ち、循環濾過にて9Lの濾過液を回収し、塩酸にてpH5.7に調整後、濃縮、噴霧乾燥し、酵母エキスを得た。
結果結果を表3に示す。
なお、対象は遠心分離した酵母抽出液を用いた。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0015】
以上説明してきた通り、本発明によると、酵母臭がほとんどなく、風味が改善された清澄度の高い酵母エキスが容易に製造できるため、各種食品の調味料として幅広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母エキスを無機の濾過材で濾過することを特徴とする酵母エキスの製造方法。
【請求項2】
無機の濾過材が、セラミックス製クロスフロー型精密濾過膜である、請求項1記載の酵母エキスの製造方法。
【請求項3】
濾過を加熱下で行う、請求項1乃至2記載の酵母エキスの製造方法。

【公開番号】特開2008−237126(P2008−237126A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83176(P2007−83176)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】