説明

酵母カドミウムファクター1をコードする遺伝子(Ycf1)又はその改変遺伝子で形質転換された植物、及び、該植物を用いたカドミウム汚染土壌の浄化方法。

【課題】 野生型よりも高いカドミウム耐性を有する植物の提供、更に、該植物を用いてカドミウム汚染土壌を浄化する方法を提供する。
【解決手段】 (I) 配列番号1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド、並びに、(II) 酵母由来の特定な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、酵母カドミウムファクター1(YCF1)活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、から選択される少なくとも1種のポリヌクレオチドで形質転換された、カドミウム耐性植物。更に、(1) 該植物をカドミウム汚染土壌で栽培する工程、及び、(2) 工程(1)で栽培した植物の全体又は一部を回収する工程、を包含する、カドミウム汚染土壌からカドミウムを除去する土壌の浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、酵母カドミウムファクター1をコードするポリヌクレオチド(Ycf1)又はその改変遺伝子で形質転換された植物、及び、該植物を用いたカドミウム汚染土壌の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重金属化合物をはじめとする有害物質による生物圏の汚染が深刻な問題となっている。そこで、土壌や水環境に蓄積した重金属化合物を効率的且つ経済的に除去する方法が求められている。
【0003】
この問題に対する解決方法として、微生物を利用して浄化する方法(バイオリメディエーション)が知られているが、微生物は個体が小さく回収が難しいという問題点がある。
【0004】
1995年、金属を蓄積する植物を利用して浄化する方法(ファイトリメディエーション(phytoremediation))がSaltらによって提案された。バイオリメディエーションの実用化が進んでいる米国では、ファイトリメディエーションの市場が既に存在し、1999年の推定市場規模は3000〜4900万ドルとなっている(非特許文献1)。
【0005】
一方、ATP駆動型の輸送体タンパク質としてABCスーパーファミリーが知られており、ABCスーパーファミリーの代表的な分子種としてはYCF1、MDR1、MRP1、CFTR、cMOAT、SUR、ABCR、ABC1が挙げられる。近年、ヒト由来のMRP1が植物細胞内で機能することにより、該植物にカドミウム耐性活性を付与するとの報告がなされた(特許文献1)。しかしながら、形質転換に用いる外来遺伝子として、ヒト由来の遺伝子よりも、酵母、植物、藻類又は細菌類由来の遺伝子を使用する方がより実用的であると考えられる。そこで、酵母、植物、藻類又は細菌類由来の遺伝子を用いて形質転換された重金属耐性植物が求められている。
【特許文献1】特願2002−15510
【非特許文献1】日経バイオビジネス2001年9月号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、野生型よりも高いカドミウム耐性を有する植物を提供することを主な課題とする。本発明は、更に、該植物を用いて汚染土壌を浄化する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、酵母由来のカドミウムファクター1(YCF1)の全長cDNAを用いてタバコ(Nicotiana tabacum cv. Samsun NN)を形質転換したところ、該形質転換タバコがカドミウムに対する耐性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、主に、以下の事項に関する。
〔項1〕
(I) 配列番号1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド、並びに、
(II) 配列番号1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、酵母カドミウムファクター1(YCF1)活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
から選択される少なくとも1種のポリヌクレオチドで形質転換された、カドミウム耐性植物。
〔項2〕
(i) 配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、並びに、
(ii) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ酸が欠失、付加又は置換されているアミノ酸配列を有するポリペプチドであって、酵母カドミウムファクター1(YCF1)活性を有するポリペプチド、
から選択される少なくとも1種のポリペプチドを発現し得る、カドミウム耐性植物。
〔項3〕
植物がナス科、アブラナ科、アオイ科、アカザ科、マメ科、ヒユ科、キク科、イネ科、ヤナギ科、モクレン科、ツゲ科、ミカン科又はユキノシタ科に属する植物である、請求項1又は2に記載の植物。
〔項4〕
(1) 請求項1〜3のいずれかに記載の植物をカドミウム汚染土壌で栽培する工程、及び、
(2) 工程(1)で栽培した植物の全体又は一部を回収する工程、
を包含する、カドミウム汚染土壌からカドミウムを除去する土壌の浄化方法。
【0009】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0010】
本発明のカドミウム耐性植物は、基本的に、酵母由来のカドミウムファクター1(YCF1)又はその改変タンパク質をコードするポリヌクレオチドで植物を形質転換することにより得られる。
【0011】
本発明で使用されるYCF1又はその改変タンパク質をコードするポリヌクレオチドとは、
(I) 配列番号1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド、並びに、
(II) 配列番号1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、酵母カドミウムファクター1(YCF1)活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
から選択される少なくとも1種のポリヌクレオチドである。
【0012】
ここで、本明細書において「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるポリヌクレオチドを意味し、例えば、検出対象となるポリヌクレオチドを固定化した支持体に、プローブ(例えば、配列番号1の3171〜4017番目の塩基配列を有するポリヌクレオチド)を作用させ、0.7〜1.0MのNaCl存在下において42℃にて2時間プレハイブリダイゼーションを行った後、0.7〜1.0MのNaCl存在下において42℃にて12〜16時間ハイブリダイゼーションを行い、その後0.1〜2倍程度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用いて42℃でフィルターを洗浄することにより同定できるDNA等を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed.,(Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989)等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0013】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、例えば、プローブとして使用するDNAの塩基配列(例えば、配列番号1の3171〜4017番目の塩基配列)と一定以上の相同性を有するDNAが挙げられ、相同性は、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上である。
【0014】
YCF1又はその改変タンパク質をコードする上記(I)〜(II)のポリヌクレオチドは、常法により取得することができ、例えば、酵母から抽出したゲノムをテンプレートとして用い、当該ポリヌクレオチドを増幅し得るよう設計されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、PCR(Polymerase Chain Reaction)を行うことによって取得することができる。このとき、必要に応じて、常法により変異が導入されてもよい。
【0015】
取得された前記(I)〜(II)のポリヌクレオチドは、適当な遺伝子導入法により植物細胞へ導入される。このとき、前記(I)〜(II)のポリヌクレオチドは、通常、適当なベクターへ連結されて、植物細胞へ導入される。
【0016】
本発明において使用されるベクターとしては、植物細胞において目的のタンパク質を発現し得るものであれば特に限定されないが、植物細胞において目的のオリゴヌクレオチドを含有する発現ベクターの自律複製が可能であるか又は目的のオリゴヌクレオチドを含有する発現カセットの染色体中への組み込みが可能であり、目的のポリヌクレオチドを転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に使用される。本発明において使用されるベクターは、必要に応じて、選択マーカー(例えば、薬物耐性遺伝子、抗生物質耐性遺伝子、レポーター遺伝子)を含有する。
【0017】
本発明において使用されるベクターとしては、例えば、pBiEl2-GUS、pIG121-Hm、pBI121、pBiHyg-HSE、pB119、pBI101、pGV3850、pABH-Hm1等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
本発明において使用されるプロモーターとしては、植物細胞において目的のポリヌクレオチドの転写を促すものであれば特に限定されないが、例えば、E12プロモーター、CaMV35Sプロモーター、Cabプロモーター、RuBisCoプロモーター、PR1プロモーター等を挙げることができる。
【0019】
前記(I)〜(II)のポリヌクレオチドを含有する発現カセットをベクターへ連結する方法としては、ライゲーション等の常法が用いられる。このとき前記(I)〜(II)のポリヌクレオチドを含有する発現カセットは、ベクターへ適当な配列(例えば、制限酵素認識部位等)を介して間接的に連結されてもよいし、直接的に連結されてもよい。また、転写終結配列は必ずしも必要ではないが、本発明のポリヌクレオチドを含む発現カセットの直下に配置されることが好ましい。
【0020】
このようにして得られた前記(I)〜(II)のポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを植物細胞へ遺伝子導入する方法としては、植物細胞にポリヌクレオチドを導入し得るあらゆる方法を用いることができ、例えば、アグロバクテリウム法、プロトプラスト法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、酢酸リチウム法、カルシウムイオンを用いる方法等が挙げられ、好適にはアグロバクテリウム法、プロトプラスト法、パーティクルガン法である。
【0021】
また、前述のように形質転換された植物細胞から所望の成長(又は生長)段階における植物体を得るにあたっては、使用する植物種に応じて通常用いられる方法を行えばよい。
【0022】
例えば、プラントマスの大きいタバコを用いる場合、本発明の好ましい実施形態において、以下のような方法によりタバコ細胞を形質転換し、更に形質転換されたタバコ細胞から植物体を得ることができる:1/2Linsmaire-Skoog(1/2LS)培地で育てたタバコ(Nicotiana tabacum cv. Samsun NN)の芽生えを準備する。一方、本発明で用いるポリヌクレオチドを含むベクターを導入したアグロバクテリウム(例えば、Agrobacterium tumefaciens)を液体培地で培養し、この培養液にタバコの本葉を浸す。その後、タバコの葉をメスで切片にする。表面に濾紙を乗せたMurashige-Skoog(MS)培地に葉の裏を上にしてのせ、25℃、2日間明所で共存培養させる。その後、250μg/mlハイグロマイシン、300μg/mlクラフォランを含むMS培地に切片を移植する。切片の切り口からカルス化もしくはシュート化が始まってきたら、NAAフリーの同一組成培地に移植し、発根を促す。発根したら、ホルモンフリーのMS培地に移し、植物体はアグリポット中で育てる。ハイグロマイシンを加えた培地を用いて形質転換された植物体の選択を行う。
【0023】
前記(I)〜(II)のポリヌクレオチドで形質転換される植物としては、特に限定されないが、例えば、ナス科、アブラナ科、アオイ科、アカザ科、マメ科、ヒユ科、キク科、イネ科、ヤナギ科、モクレン科、ツゲ科、ミカン科又はユキノシタ科に属する植物が挙げられる。具体的には、タバコ(Nicotiana tabacum)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、ケナフ(Hibiscus cannabinus)、モミジアオイ(Hibiscus coccineus)、アメリカフヨウ(Hibiscus moscheutos)、ハマボウ(Hibiscus hamabo)、ブッソウゲ(Hibiscus rosa-sinensis)、カラシナ(Brassica juncea)、グンバイナズナ(Thlaspi rotundifolium)、オクラ(Abelmoschus esculentus)、トロロアオイ(Abelmoschus manihot)、ホウレンソウ(Spinacia oleracea)、フダンソウ(Beta vulgaris var. vulgaris)、サトウダイコン(Beta vulgaris var. rapa)、タヌキマメ(Crotalaria sessiliflora)、ガクタヌキマメ(Crotalaria calycina)、クロタラリア(Crotalaria juncea)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、イネ(Oryza sativa)、オオムギ(Hordeum vulgare)、カラスムギ(Avena fatua)、ナタネ(Brassica napus)、ポプラ(Populus nigra)、ユリノキ(Liriodendron tulipifera)、ホンツゲ(Buxus microphylla)、ウンシュウミカン(Citrus unshiu)、レモン(Citrus lemon)、アジサイ(Hydrangea macrophylla)、ヤナギ(Salix myrsinites)が挙げられ、このうち好ましくは、タバコ、ケナフ、カラシナ、オクラ、タヌキマメ、ポプラ、ヤナギが挙げられ、特に好ましくは、タバコが挙げられる。
【0024】
このようにして、前記(I)〜(II)のポリヌクレオチドで形質転換された植物が得られる。
【0025】
本発明は、以下の植物にも関する:
(i) 配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、並びに、
(ii) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ酸が欠失、付加又は置換されているアミノ酸配列を有するポリペプチドであって、酵母カドミウムファクター1(YCF1)活性を有するポリペプチド、から選択される少なくとも1種のポリペプチドを発現し得る、カドミウム耐性植物。
【0026】
本明細書において、「1又は2以上のアミノ酸が欠失、付加又は置換されているアミノ酸配列」とは、酵母カドミウムファクター1(YCF1)活性を有する程度に改変されたアミノ酸配列であれば特に限定されないが、例えば、1〜100個、好ましくは1〜60個、より好ましくは1〜15個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のアミノ酸が欠失、付加または置換されているアミノ酸配列のことを言う。
【0027】
また、本発明の植物には、あらゆる成長過程の植物体が含まれ、例えば、種子、カルス、芽生え、稚苗、中苗、成苗、繁葉、開花、結実等が含まれる。また、本発明の植物には、本発明の植物体の一部も含まれ、例えば、細胞、組織の切片、根、シュート等も含まれる。
【0028】
本発明は、更に、本発明の植物を利用したファイトリメディエーションにも関する。即ち、本発明は、(1) 本発明のカドミウム耐性植物をカドミウム汚染土壌で栽培する工程及び(2) 工程(1)で栽培した植物の全体又は一部を回収する工程を包含するカドミウム汚染土壌の浄化方法にも関する。
【0029】
本発明のカドミウム耐性植物を栽培する方法としては、植物種に適した方法が用いられる。例えば、本発明の植物を汚染土壌に移植し、植物種、植物の成長段階、気候などに応じて、水、肥料(例えば、堆肥)、汚染されていない土等を所定量補給しながら栽培することができる。本発明の植物が初期の成長段階にある場合には、例えば、本発明の植物が種子又は芽生えである場合には、適当な条件下においてある程度(例えば、稚苗又は中苗になるまで)成長させた後、汚染土壌に移植することが好ましい。
【0030】
本発明のカドミウム耐性植物を回収する方法としては、植物種に適した方法(例えば、収穫機を用いる方法)が用いられる。このとき、植物の一部のみを回収してもよいが、根部を含む植物全体を回収することが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、カドミウム耐性植物、並びに、該カドミウム耐性植物を用いた汚染土壌の浄化方法が提供される。本発明のカドミウム耐性植物は、高濃度(例えば、250μM)のカドミウム存在下において良好に生育可能である。
【0032】
本発明のカドミウム耐性植物は、カドミウムを含有する土壌のファイトリメディエーションに好適に利用することができる。
【0033】
また、本発明のカドミウム耐性植物は、酵母由来のカドミウムファクター1遺伝子又はその改変遺伝子で形質転換されているため、ヒト由来の遺伝子で形質転換されたカドミウム耐性植物よりも実用性が高いと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されることはない。
【実施例】
【0035】
1. バイナリーベクターの構築
バイナリーベクターpBiEl2-GUS (pHM6) においてサブクローニングに使用可能な制限酵素サイトは、5’-末端にXbaI、3’-末端にSacIの各1種ずつ存在する。そこで導入遺伝子の5’-末端にXbaIサイトを、3’-末端にSacIサイトを導入することとした。まずYCF1 cDNAの5’-末端を持つプラスミド (pBS-T-(SK+)-pKmYCF1-5’) のXbaIサイトを含むYCF1 cDNA 5’-末端を、オリゴYCF1プライマーを用いてPCRにより増幅し、AlwNIおよびBglII制限酵素処理を行い、AlwNI/BglII断片を得た。次にYCF1の5’-、3’-末端を欠損したcDNAを持つプラスミド(pIBI-YCF1) からBglIIおよびSalI制限酵素処理により約4300bのBglII/SalI断片を得た。さらにYCF1 cDNAの3’-末端とその下流にpQE70由来の6×Hisを持つプラスミド (pFastBacI-YCF1-6His) からSalIおよびNotI制限酵素処理によりYCF1の3’-末端を含むSalI/NotI断片を得た。それをpBS-KS+プラスミドにSalI/NotI制限酵素を用いてライゲーションを行い、YCF1の3’-末端に6×Hisを賦与した塩基配列を導入し、pBS-KS+-YCF1-6Hisプラスミドを得た。さらにこのプラスミドをAlwNIおよびSalI制限酵素処理し、AlwnI/SalI断片を得た。そこにpBS-T-(SK+)-pKmYCF1-5’由来のAlwNI/BglII断片とpIBI-YCF1由来のBglII/SalI断片をライゲーションにより導入し、pBS-pKm-YCF1-6Hisを得た。このプラスミドをXbaIおよびSacI制限酵素処理することにより、YCF1 cDNA全長とその3’-末端に6×Hisを含む断片を得た。これをpHM6にXbaIおよびSacI制限酵素処理サイトを用いたライゲーションにより導入し、CaMV35Sプロモータ、選抜マーカーにハイグロマイシン耐性遺伝子であるHPT遺伝子、YCF1 cDNA全長と6×Hisが連結されたバイナリーベクター (pHM6-pKmYCF1-6His) を作製した。
【0036】
2. Agrobacterium tumefaciensの形質転換
上記で得られたバイナリーベクター (pHM6-pKmYCF1-6His) を植物に導入するために、植物感染用Agrobacterium tumefaciens (strain LBA4404) の形質転換を行った。形質転換はエレクトロポレーション法によって行い、プレーティング後、カナマイシン耐性のコロニーからプラスミドを抽出して制限酵素処理を行い、バイナリーベクターが導入されていることを、アガロースゲル電気泳動で確認した。
【0037】
3. タバコの形質転換
アグリポット中で1/2Linsmaire-Skoog (1/2LS) 培地で育てたタバコ(Nicotiana tabacum cv. Samsun NN) の芽生えを準備した。バイナリーベクターで形質転換したAgrobacterium tumefaciens (LBA4404株)を液体培地で前培養し、このA. tumefaciensの培養液に、アグリポットのタバコの本葉をシャーレの中で浸した。このタバコの葉を、メスを用いて約5〜10mm角の切片にし、滅菌したキムタオルで軽く脱水後、表面に濾紙を乗せたMurashige-Skoog (MS) 培地に葉の裏を上にして乗せ、25℃、2日間明所で共存培養させた。切片は共存培養後、250μg/mlハイグロマイシン、300μg/mlクラフォランを含むMS培地に移植した。培地は2週間ごとに新しいものと交換した。切片の切り口からカルス化もしくはシュート化が始まってきたものについては、NAAフリーの同一組成培地に移植し、発根を促した。発根したら、ホルモンフリーのMS培地に移し、植物体はアグリポット中で育てた。植物体は実験に用いるまでハイグロマイシンを加えた培地を用いて常に選択圧をかけ、選抜を続けた。
【0038】
[結果と考察]
形質転換の結果、36クローンのタバコYCF1形質転換体が得られた。形質転換体は、その形態において野生株との差は見られなかった。
【0039】
4. ノーザン解析
形質転換により得られたクローンについてmRNAレベルでの発現量を検定するため、以下の手順でノーザン解析を行った。
【0040】
4-1. total RNAの抽出
アグリポット中で生育させたタバコYCF1形質転換体および野生株の葉(液体窒素中で急速冷凍させ、−80℃で保存していたもの)200mgからQIAGENのRNeasy Plant Mini Kitを用いて、10μg〜30μgのtotal RNAを抽出した。
【0041】
4-2. RNAサンプルの電気泳動とトランスファー
RNAサンプルの電気泳動とトランスファーに使用した各試薬は、以下の通りである。
【0042】
20×MOPS
(0.4M MOPS, 0.1M NaOAc, 0.02M EDTA)
KOHでpH7.0に調整後、1時間オートクレーブした。
RNA試料緩衝液
ホルムアルデヒド 1.6ml
ホルムアミド 5.0ml
20×MOPS 0.5ml
グリセリン色素液 1.6ml
total 8.7ml
ホルムアルデヒド

グリセリン色素液
グリセリン 5ml
1mg/ml ブロモフェノールブルー 1ml
1mg/ml キシレンシアノール 1ml
0.5M EDTA (pH8.0) 0.02ml
H2O 2.98ml
total 10ml
エチジウムブロマイド溶液 (10mg/ml in H2O)
20×SSC
(3M NaCl, 0.3M trisodium citrate dihydrate)
オートクレーブ水
電気泳動にはMupid-2 (コスモバイオ)を用いた。まず、ゲルを作製した。100ml三角フラスコにアガロース0.47gを入れ、さらにオートクレーブ水36ml、20×MOPS 2mlを加えて加熱し、アガロースを完全に溶かした。その後、手で触れられる程度まで冷めてきたら、ホルムアルデヒド2mlを加え攪拌し、ゲルカセットに流し込みコームをさしてゲルを固めた。泳動のバッファーには、20×MOPSをオートクレーブ水で薄め、1×MOPSとして使用した。
【0043】
10μg相当のtotal RNAを含むRNA溶液に16μlのRNA試料緩衝液を加えて、65℃で10分間放置した後に氷中で急冷し、それぞれ20μlずつアプライし、50Vで5分ほど泳動し、その後100Vにあげて電気泳動を行った。泳動後FAS (TOYOBO) により、泳動像を確認した。
【0044】
トランスファーにはキャピラリー・トランスファー法を用いた。トランスファーバッファーには20×SSCを使用した。20×SSCで十分に湿らせて2枚重ねたWhatman 3MM濾紙上に、ゲルの下面を上にして、空気が入らないようにゲルを置き、次にゲルの上にナイロンメンブレン(Amersham Hybond N+) をのせた。その上にメンブレンよりも一回り大きい、2×SSCに浸しておいたWhatman 3MM濾紙を置き、キムタオルと重しをのせて室温で15時間以上放置した。
【0045】
トランスファー終了後、メンブレンをゲルからはがす前に、耐水性色鉛筆でウェルの位置を記入した。その後、2×SSC中にメンブレンを移して5分程軽く振盪し、ラップフィルムに包んでUVクロスリンカー (フナコシ CL-1000) で1200カウントの紫外線を照射してRNAをメンブレンに固定した。
【0046】
4-3. プローブの調製
YCF1 cDNA全長を含むpHM6-pKmYCF1-6HisプラスミドDNAをテンプレートとしてYCF1-fw primer (5’-TGAAGAGCTACAACCAGATTCG-3’(配列番号3)) およびYCF1-rv primer (5’-TTCCAGCTCTCCTTCTACAGG-3’(配列番号4)) を用いて、YCF1 cDNA内部配列3171bから4017bまでの約850bの断片をPCRにより増幅した。このPCR産物を精製してプローブとした。PCR反応液の組成は以下の通りである。
【0047】
PCR反応液の組成
Templatae DNA 100ng
10×Taq buffer 5μl
2mM dNTPs 5μl
50μM YCF1-fw primer 1μl
50μM YCF1-rv primer 1μl
Taq polymerase (SIGMA) 1μl
+H2O 50μl
PCR反応のサイクルは以下の通りである:
[1]95℃1分
[2]45℃30秒
[3]72℃1分
上記[1]→[2]→[3]を30サイクル行った。
【0048】
4-4. プローブのラベリング
上記で調製したプローブ約50ngについて[α]-32P-CTPおよびRandom Primer DNA Labeling Kit (Roche) を用いてラベリングを行った。まず、プローブとなるDNA約50ngとH2Oで計9μlとし、100℃で5分間処理し、氷中で急冷した。次に下記のreaction mixtureの残りの試薬を加え、37℃で30分以上インキュベートした。
【0049】
試薬
Reaction mixture
denatured DNA (50ng) + H2O 9μl
dNTP mix (A, T, G) 3μl
reaction buffer 2μl
32P-dCTP (3700kBq/μl) 5μl
Klenow enzyme (exo-) 1μl
+ H2O 20μl
Reaction mixtureをクイックスピンカラム (Roche) を用いて精製し、32P-dCTPの取り込み率をガイガーカウンターで測定した。プローブは95℃で5分間熱変性し氷冷してハイブリダイゼーションに用いた。
【0050】
4-5. ハイブリダイゼーション
メンブレンをハイブリボトルにRNAが付着した面を内側にして入れ、あらかじめ60℃に温めたハイブリダイゼーション溶液(1M NaCl, 10% Dextran Sulfate, 20mM Tris-HCl (pH7.5), 1% SDS, 5×Denhardt’s solution, 50% Formamide)5mlと95℃で5分間熱変性させたサケ精子DNAを100μg/mlになるように添加した。42℃で2時間プレハイブリダイゼーションを行った。そして先にラベリングしたプローブを全量加え、42℃で12〜16時間ハイブリダイゼーションを行った。
【0051】
4-6. Wash
ハイブリダイゼーション終了後、メンブレンをあらかじめ60℃に温めた2×SSC/0.2% SDS中で、60℃で5分間振盪させた。洗浄液を捨て、これを再度繰り返した後、洗浄液を捨て、さらに2×SSC/0.2% SDSを加え、60℃で20分間振盪させることを2度繰り返した。この洗浄の後、メンブレンのカウントを測定し、X線フィルム (Kodak) に感光させて、シグナルを検出した。感光時間は−80℃で16時間行い、フィルムの具合を見て、再度感光時間を変えて検出を行った。
【0052】
[考察]
ノーザン解析の結果、タバコYCF1形質転換体の24クローンにおいてYCF1 mRNA全長に相当する約4.5kbのバンドが確認され、また、このバンドが野生株では確認されていないことから、タバコに導入したYCF1がmRNAレベルで発現していることが確認できた。
【0053】
5. カドミウム耐性試験
【0054】
5-1. 植継
36検体のYcf1導入タバコをアグリポット内で育成し、約1ヵ月毎に植継を行った。
【0055】
5-2. 1/2LS培地の調製
純水1LにSucrose15gを溶かし、表1のStockを所定濃度になるようにピペットで加え、よく撹拌した。1N-NaOHと0.1N-NaOHを用い、pHを5.8に調整後、全体を1Lにメスアップした。500ml容滅菌瓶2本に均等に分け、各々に寒天粉末4gを加えオートクレーブで滅菌した。アグリポットを滅菌乾燥したもの20個に、クリーンベンチ内で培地を無菌的、均等に流入し固化させた。
【0056】
【表1】

【0057】
5-3. 継代培養
植え継いで来たタバコ一株を、2個のアグリポットに無菌的に植え継いだ。上から2,3葉を残してメスとピンセットで葉を切り取り、茎部分をメスで切り取って新しいアグリポットにピンセットで植え込んだ。
【0058】
5-4. 保存
アグリポットを23℃培養室の蛍光灯下に静置し、観察を続けた。
【0059】
5-5. Cd含有カルス誘導化培地の調製
上記と同様に調製したLS培地(Stock6のみ2倍添加)にサイトカイニン10-6Mとオーキシン10-5Mを加え、滅菌した。培地を2等分し、1mMのCd水溶液Stockを0μM、250μMになる様に加え、シャーレに流し、固めた。
【0060】
5-6. 葉試料のアプライ
同様の培養ステージにあるタバコの、上から3葉目ぐらいの葉3枚を試料とし、葉脈を含む様に9mm角程の切片をメスで切り出し、各々10〜12切片をコントロール(0μM)及びカドミウム含有(250μM)培地を入れたシャーレに置いた。
【0061】
5-7. 保存
シャーレを23℃培養室の蛍光灯下に静置し、観察を続けた。コントロールとして野生株も同様の操作を行った。約1ヵ月後、判定を行った。
【0062】
5-8. 判定
コントロール(0μM)又はカドミウム含有(250μM)培地でのタバコカルス細胞の生育状態を野生株のそれと比較観察し、耐性の有無を判定した。シャーレのカルス細胞のフレッシュ重量を測定した。
【0063】
[結果]
形質転換株のうち、Y39及びY43において、野生型よりも有意に高いカドミウム(Cd)含有化合物に対する耐性が認められた。カドミウム存在下における形質転換株Y39及びY43の生育判定結果を表2に示す。表2において、◎は良好、○は普通、×は不良であることを示す。表3には、形質転換株Y39及びY43のフレッシュ重量を示す。
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【配列表フリーテキスト】
【0066】
配列番号1はYcf1の核酸配列である。
配列番号2はYCF1のアミノ酸配列である。
配列番号3はプライマーである。
配列番号4はプライマーである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I) 配列番号1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド、並びに、
(II) 配列番号1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、酵母カドミウムファクター1(YCF1)活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
から選択される少なくとも1種のポリヌクレオチドで形質転換された、カドミウム耐性植物。
【請求項2】
(i) 配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、並びに、
(ii) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ酸が欠失、付加又は置換されているアミノ酸配列を有するポリペプチドであって、酵母カドミウムファクター1(YCF1)活性を有するポリペプチド、
から選択される少なくとも1種のポリペプチドを発現し得る、カドミウム耐性植物。
【請求項3】
植物がナス科、アブラナ科、アオイ科、アカザ科、マメ科、ヒユ科、キク科、イネ科、ヤナギ科、モクレン科、ツゲ科、ミカン科又はユキノシタ科に属する植物である、請求項1又は2に記載の植物。
【請求項4】
(1) 請求項1〜3のいずれかに記載の植物をカドミウム汚染土壌で栽培する工程、及び、
(2) 工程(1)で栽培した植物の全体又は一部を回収する工程、
を包含する、カドミウム汚染土壌からカドミウムを除去する土壌の浄化方法。

【公開番号】特開2006−204209(P2006−204209A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21488(P2005−21488)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】