説明

酵素反応のホットスタートを実施する方法

本発明は、金属イオン依存性酵素によって触媒される酵素反応の開始を調節するための方法を提供する。必要とされる金属イオンは、金属原子または金属イオンを有する金属化合物を酸化還元剤と共に加熱することによって開始される酸化還元反応によって産生される。酵素反応の開始を調節するキットも提供される。本発明の方法及びキットは、PCRの特異性及び効率を改善するために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素反応の開始を調節するための方法及びキットを提供する。金属イオン依存性酵素は、酸化還元反応によって産生される必要とされる金属イオンと共に酵素反応を触媒する。本発明の方法は、PCRの特異性及び効率を改善するために有用である。
【背景技術】
【0002】
本発明は、金属イオン依存性酵素(例えば、制限エンドヌクレアーゼ、DNAリガーゼ、逆転写酵素、またはDNA依存性DNAポリメラーゼ)によって触媒される酵素反応を実施するための方法を提供する。
【0003】
生体分子プロセスでは、酵素活性を調節することが多くの場合で重要である。これは、特にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に使用されるDNAポリメラーゼ酵素を使用する場合である。PCR反応は、DNAを増幅する複数の変化する加熱及び冷却工程を使用する複数サイクルの方法における、二価金属イオン依存性の耐熱性DNAポリメラーゼ酵素(例えば、Taq DNAポリメラーゼ)の使用を多くの場合において含む(米国特許第4,683,202号及び第4,683,195号)。はじめに、二本鎖の標的DNAを2つの一本鎖に変性するのに十分な温度まで反応混合物を加熱する。次いで、前記反応混合物の温度を減少させて、特異的なオリゴヌクレオチドプライマーをそれぞれの相補的な一本鎖の標的DNAにアニーリングさせる。アニーリング工程に続いて、使用されるDNAポリメラーゼの最適温度まで温度を上昇させて、アニーリングされたオリゴヌクレオチドプライマーの3'末端における相補的なヌクレオチドの取り込みを可能にして二本鎖の標的DNAを再構築する。熱安定性のDNAポリメラーゼを使用して、変性、アニーリング、及び伸長のサイクルを、各熱変性後にポリメラーゼを添加すること無く、所望の生産物を産生するために必要な回数繰り返して良い。20または30の複製サイクルが、標的DNA配列の百万倍の増幅まで産生させる("Current Protocols in Molecular Biology," F.M. Ausubel et al. (Eds.), John Wiley and Sons, Inc., 1998)。
【0004】
PCR技術は医学生物学研究及び遺伝子識別分析に対する強い衝撃を有していたが、標的でないオリゴヌクレオチドの増幅、並びに標的でないバックグラウンドのDNA、RNA、及び/またはプライマー自体に対するミスプライミングが重大な問題として依然として存在する。これは、標的DNAが非常に低いレベルの比率で存在する複雑な遺伝子バックグラウンドの環境で実施される診断的応用において特に典型的である(Chou et al., Nucleic Acid Res., 20 : 1717-1723 (1992))。
【0005】
主な問題は、Taq DNAポリメラーゼ活性の最適温度が典型的に62℃から72℃であるにもかかわらず、かなりの活性が20℃から37℃でも生じ得ることである(W.M. Barnes, et al, 米国特許第6,403,341号)。結果として、DNA配列に相補的であるプライマーの3'末端における幾つかの塩基対のみが安定な伸長を開始する複合体を生じさせることができるため、環境温度における標準のPCRの準備の間に、プライマーが非特異的な配列で伸長を開始する可能性がある。結果として、競争的または阻害的な生産物が、所望の生産物を犠牲にして生産され得る。かくして、例えば、プライマーからのみ構成される構成物は、「プライマーダイマー」とも称され、互いに不適当に対になったプライマーに対するTaq DNAポリメラーゼ活性によって形成され得る。
【0006】
望ましくないプライマー-プライマー相互作用の蓋然率も、反応、特に多重PCRの場合におけるプライマー対の数と共に増加する。鋳型DNAのミスプライミングは、阻害的な生産物または各種の長さを有する「不適切なバンド(wrong band)」の生産も生じさせる。PCRサイクルの間に、所望されない生産物の非特異的な増幅が、dNTPのような必要な因子及び伸長要素に関して、所望の標的DNAの増幅と競合し、アッセイの誤った解釈を導き得る。Taq DNAポリメラーゼの感受性、及び任意の開始から比較的大量のDNAを徐々に増幅する傾向を考慮すると、特にPCR反応の準備をする際に、関連のない、汚染するDNA増幅産物の生産を妨げるために、Taq DNAポリメラーゼ活性を調節することが重要である。
【0007】
望ましくないPCR副反応は、環境温度でPCRの準備の間に典型的に生じる。これらの副反応を最小にする1つの方法は、全反応成分が高温(例えば、DNA変性)に加熱されるまで反応から少なくとも1つの必須の試薬(dNTP、Mg2+、DNAポリメラーゼ、またはプライマー)を除く工程を含む;その着想は、互いのまたは望まれない標的配列に対するプライマーの結合を妨げることである(Erlich, et al, Science 252, 1643-1651, 1991; D'Aquila, et al, Nucleic Acids Res. 19, 3749, 1991)。これは、所望の反応温度を達成するまで必須の成分を物理的に抑制する「物理的な」PCRホットスタート方法の一例である。
【0008】
他のホットスタート方法では、PCRの開始前の期間にDNAポリメラーゼ活性が抑制されることを確実にするために、お互いから反応成分を物理的に分離することが記載されている。この方法では、ホットスタートの物理的な分離はワックスの障壁によって達成され得る。例えば、米国特許第5,599,660号及び第5,411,876号に開示されている方法である。Hevert et al., Mol. Cell Probes, 7:249-252 (1993) ; Horton et al., Biotechniques, 16:42-43 (1994)も参照。
【0009】
他のホットスタート方法では、熱に対して可逆的に活性化可能な修飾DNAポリメラーゼ(例えば、AMPLITAQ GOLD(登録商標) DNA POLYMERASE、PE Applied Biosystems)、または環境温度でTaq DNAポリメラーゼに結合する前記ポリメラーゼに対するモノクローナルの不活性化抗体を利用する「化学的/生物化学的ホットスタート」方法の使用が記載されている(Scalice et al., J. Immun. Methods, 172: 147-163, 1994; Sharkey et al., Bio/Technology, 12:506-509, 1994; Kellogg et al., Biotechniques, 16:1134-1137, 1994)。
【0010】
前述の異なるPCRホットスタート方法は多数の欠点を有する。物理的なホットスタート方法は、汚染の問題、ピペットのチップをワックス若しくはグリースで塞ぐ工程、及び加熱時間の増大に悩まされている。化学的/生物化学的ホットスタート方法は鋳型DNAを損傷する可能性があり、阻害的に過剰量の高価な抗Amplitaq(登録商標)抗体を必要とする可能性がある。
【特許文献1】米国特許第4,683,202号
【特許文献2】米国特許第4,683,195号
【特許文献3】米国特許第6,403,341号
【特許文献4】米国特許第5,599,660号
【特許文献5】米国特許第5,411,876号
【非特許文献1】"Current Protocols in Molecular Biology," F.M. Ausubel et al. (Eds.), John Wiley and Sons, Inc., 1998
【非特許文献2】Chou et al., Nucleic Acid Res., 20 : 1717-1723 (1992)
【非特許文献3】Erlich, et al, Science 252, 1643-1651, 1991
【非特許文献4】D'Aquila, et al, Nucleic Acids Res. 19, 3749, 1991
【非特許文献5】Hevert et al., Mol. Cell Probes, 7:249-252 (1993)
【非特許文献6】Horton et al., Biotechniques, 16:42-43 (1994)
【非特許文献7】Scalice et al., J. Immun. Methods, 172: 147-163, 1994
【非特許文献8】Sharkey et al., Bio/Technology, 12:506-509, 1994
【非特許文献9】Kellogg et al., Biotechniques, 16:1134-1137, 1994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、当該技術分野において、従来技術の方法に関連する多数の問題または欠点を最小にするまたは除外する新規のPCRホットスタート方法が必要である。より一般的には、活性の調節が望まれる、金属イオン依存性酵素を調節するための新規の方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、金属イオン依存性酵素によって触媒される酵素反応を開始するための方法及び反応キットを提供する。
【0013】
本発明の方法は、以下の工程を含む:
a)以下を含む反応混合物を提供する工程
i)第1の酸化状態である金属原子または金属イオンを有する金属化合物;
ii)酸化還元剤;及び
iii)金属イオン依存性酵素;
b)工程a)の混合物を加熱して、酸化還元反応において金属化合物を酸化還元剤と反応させ、それによって金属原子または金属イオンを第2の酸化状態に変換する工程;
そこで、前記金属イオン依存性酵素は第2の酸化状態である金属原子または金属イオンによって活性化される。
【0014】
本発明の1つの実施態様では、前記金属化合物中の金属原子及び金属イオンの第1の酸化状態は酸化された状態であって良い。前記金属原子または金属イオンの第2の酸化状態は、還元された状態であって良い。前記酸化還元剤は還元剤である。
【0015】
代替的な実施態様では、前記金属化合物中の金属原子または金属イオンの第1の酸化状態は還元された状態であって良い。前記金属原子または金属イオンの第2の酸化状態は酸化された状態であって良い。前記酸化還元剤は酸化剤である。
【0016】
第2の酸化状態である金属原子または金属イオンを産生する酸化還元反応は、物理的な条件に依存する調節された方法で実施されて良い。これらの条件は温度及びインキュベーション時間を含む。好ましくは、反応混合物は50℃より高い温度に加熱される。効果的には、前記酸化還元反応は必須の金属イオンの調節された産生、及び結果として金属イオン依存性酵素によって触媒される酵素プロセスの調節された開始を提供することができる。
【0017】
第2の酸化状態である金属原子または金属イオンは、コバルト、マンガン、カドミウム、銅、鉄、モリブデン、ニッケル、またはクロムの1つに由来する一価、二価、または多価の金属イオンを含んで良い。好ましくは、第2の酸化状態である金属原子または金属イオンは二価イオンである。より好ましくは、第2の酸化状態である金属イオンはCo2+である。
【0018】
第2の酸化状態である金属イオンを産生する反応は酸化還元反応、例えば、コバルト(III)からコバルト(II)への還元、または類似の反応、例えば、鉄(III)から鉄(II)への、クロム(VI)若しくはクロム(III)からクロム(II)への、マンガン(VII)若しくはマンガン(IV)からマンガン(II)への還元であって良い。
【0019】
本発明の1つの実施態様では、前記金属イオン依存性酵素は、ポリメラーゼ、リガーゼ、エンドヌクレアーゼ、キナーゼ、プロテアーゼ、またはそれらの組み合わせより選択されて良い。好ましくは、前記酵素は熱安定性酵素、例えば、DNAリガーゼまたはDNAポリメラーゼである。前記酵素がDNAポリメラーゼである場合には、前記酵素は好ましくはTaqポリメラーゼまたはその変異体である。
【0020】
本発明に係る酵素反応はPCRプロセスを含んで良い。
【0021】
本発明の更なる実施態様は、上記の方法における使用のためのキットに関する。本発明に係るキットは金属イオン依存性酵素の活性化及び本発明の酵素プロセスの開始に必要な、第2の酸化状態である金属原子または金属イオンを産生するために必要とされる多数の成分を含んで良い。前記キットはPCR反応における使用のために適切なものであって良い。前記反応成分は、酸化還元反応の望まれない開始を避けるために別々に保存されて良い。
【0022】
本発明の他の特徴、態様、及び利点は、以下の図面及び詳細な記述を調べることで当業者に明らかであろう。本明細書における記載に含まれるあらゆる付加的なシステム、特徴、態様、及び利点が本発明の範囲内であり、特許請求の範囲によって保護されることが意図される。
【0023】
本発明のこれら及び他の特徴、態様、及び利点は以下の記述、特許請求の範囲、及び添付の図面に関してより良く理解されるであろう。
【0024】
図1は、Mg2+(レーン1)またはCo2+(レーン2)を含有する通常のPCR-バッファーを使用する従来のPCRを使用して、あるいはCo2+(レーン3)の調節された産生と共にPCRを使用して得られたPCR産物の電気泳動分析を示す。レーン4はマーカーである。
【0025】
図2は、実施例3に記載のTaq Iを使用するpBR322の制限エンドヌクレアーゼ消化に続いて得られたDNAフラグメントの電気泳動分析を示す。前記酵素反応は、Co2+の産生の熱による開始で(レーン2)、及び熱による開始無しで(レーン1)実施した。レーン3は、Co2+の存在下におけるエンドヌクレアーゼ消化のポジティブコントロールである(従来のエンドヌクレアーゼ消化)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
明細書及び特許請求の範囲の明確で着実な理解を提供するために、以下の規定を提供する。
【0027】
本願明細書において「金属原子または金属イオン」は、酸化還元反応の結果として酸化状態において変化し、それによって金属イオン依存性酵素を活性化するために必要な金属イオンを産生する金属原子または金属イオンを意味して使用される。前記金属原子または金属イオンは、コバルト、マンガン、カドミウム、銅、鉄、モリブデン、ニッケル、またはクロムの原子及びイオンより選択されて良い。前記金属イオンは、一価、二価、または多価の金属イオンを含んで良い。
【0028】
本願明細書において「熱安定性(Thermostable)」、「熱的に安定(thermally stable)」、及び「熱に安定(heat-stable)」は、非可逆的に変性すること無く、数分間少なくとも95℃までの温度に耐えられる酵素を意味して互換的に使用される。典型的には、その様な酵素は、45℃より高い、好ましくは50℃から75℃の間の最適温度を有する。
【0029】
「ホットスタート」は、反応の成分を加熱することによって酵素反応を開始する方法を意味する。前記反応成分は、特異的な温度または温度の範囲まで加熱されて良い。
【0030】
用語「酸化還元」は、当業者によく知られた用語である還元-酸化を意味し、還元は電子の獲得であり、酸化は電子の損失である。
【0031】
「金属化合物」は、他の要素または化合物と組み合わせた、例えば金属塩化物または金属硫酸塩を与える塩素または硫酸と組み合わせた金属原子またはイオンを意味する。前記金属化合物の形成は化学反応を含む。他の原子または配位子が中心の金属イオンに結合している金属錯体または配位化合物もこの規定に含まれる。前記配位子は負に荷電して良く、または強い極性基であって良い。
【0032】
第1の酸化状態である金属原子は、化合物中の、全体の電荷が0である(すなわち、電子の数がプロトンの数に等しい)金属原子を意味する。第2の酸化状態である金属原子は、第1の酸化状態において有される電子数と異なる電子数を有する金属原子を意味する(すなわち、第2の酸化状態である金属原子は金属イオンである)。
【0033】
第1の酸化状態である金属イオンは、化合物中の、還元または酸化された状態である金属イオンを意味する。第2の酸化状態である金属イオンは、第1の酸化状態において有される電子数と異なる電子数を有する金属イオンを意味する。
【0034】
酸化還元反応は、第1の酸化状態である金属原子または金属イオンから第2の酸化状態への、あるいは第1の酸化状態である金属原子または金属イオンへの電子の移動を意味する。第1の酸化状態が還元された状態である際には、第2の酸化状態は酸化された状態であろう。第1の酸化状態が酸化された状態である際には、第2の酸化状態は還元された状態であろう。
【0035】
本発明は、必要とされる金属イオンが非酵素的な酸化還元反応の結果として生じる、金属イオン依存性の酵素反応を実施するための方法を提供する。酸化還元反応による金属イオンの産生は、反応の物理的な条件、例えば、温度及びインキュベーション時間によって決定される。かくして、前記酸化還元反応は必須の金属イオンの調節された産生を提供することができる。前記金属イオンの産生を調節することによって、本発明は、酵素プロセスの開始を含むがそれに限らない酵素プロセスを調節するための手段を提供する。
【0036】
前記酸化還元反応は、金属イオン、例えばCo2+の調節された生産を提供して良い。好ましくは、前記酸化還元反応はコバルト(III)からコバルト(II)への還元である。他の金属イオン、例えばFe2+、Cr2+、またはMn2+の調節された生産に関して、同様の反応が使用されて良い(例えば、鉄(III)から鉄(II)への、クロム(VI)若しくはクロム(III)からクロム(II)への、マンガン(VII)若しくはマンガン(IV)からマンガン(II)への、及び他の還元反応)。これらの反応における還元剤として、アスコルビン酸が使用されて良く、あるいはヨウ化カリウム若しくはヨウ化ナトリウム、チオ硫酸カリウム若しくはチオ硫酸ナトリウム、または他の反応物が使用されて良い。
【0037】
コバルト依存性酵素と共に使用するための金属イオンとしてのCo2+の産生のための好ましい化学反応は、コバルト(III)からコバルト(II)への還元反応を含むが、それらに限らない(例えば、[Co(NH3)6]3+ + e- → Co2+ + 6NH3)。
【0038】
マンガン依存性酵素と共に使用するための金属イオンとしてのMn2+の産生のための好ましい化学反応は、マンガン(VII)若しくはマンガン(IV)からマンガン(II)への還元反応を含むが、それらに限らない(例えば、MnO4- + 4H2O + 5e- → Mn2+ + 8OH-)。
【0039】
クロム依存性酵素と共に使用するための金属イオンとしてのCr2+の産生のための好ましい化学反応は、クロム(IV)若しくはクロム(III)からクロム(II)への還元反応を含むが、それらに限らない(例えば、CrO42- 4H2O + 4e- → Cr2+ + 8OH-, またはCr3+ + e- → Cr2+)。
【0040】
クロム依存性酵素と共に使用するための金属イオンとしてのCr3+の産生のための好ましい化学反応は、クロム(IV)からクロム(III)への還元反応若しくはクロム(II)からクロム(III)への酸化反応を含むが、それらに限らない(例えば、CrO42- 4H2O + 3e- → Cr3+ + 8OH-, 及びCr2+ − e- → Cr3+)。
【0041】
鉄依存性酵素と共に使用するための金属イオンとしてのFe2+の産生のための好ましい化学反応は、鉄(III)から鉄(II)への還元反応を含むが、それらに限らない(例えば、Fe3+ + e- → Fe2+)。
【0042】
鉄依存性酵素と共に使用するための金属イオンとしてのFe3+の産生のための好ましい化学反応は、鉄(II)から鉄(III)への酸化反応を含むが、それらに限らない(例えば、Fe2+ − e- → Fe3+)。
【0043】
銅依存性酵素と共に使用するための金属イオンとしてのCu2+の産生のための好ましい化学反応は、銅(I)から銅(II)への酸化反応を含むが、それらに限らない(例えば、Cu+ − e- → Cu2+)。
【0044】
銅依存性酵素と共に使用するための金属イオンとしてのCu+の産生のための好ましい化学反応は、銅(II)から銅(I)への還元反応を含むが、それらに限らない(例えば、Cu2+ + e- → Cu+)。
【0045】
ニッケル依存性酵素と共に使用するための金属イオンとしてのNi2+の産生のための好ましい化学反応は、ニッケル(III)からニッケル(II)への還元反応を含むが、それらに限らない(例えば、Ni3+ + e- → Ni2+, またはNi2O3 + 3H2O + 2e- → 2Ni2+ + 6OH-)。
【0046】
Co2+産生の酸化還元反応における使用のためのコバルト(III)の好ましい金属化合物は、コバルト(III)錯体化合物、例えば、[Co(NH3)6]Cl3、Na3[Co(CN)6]、及び他のものを含むがそれらに限らない。
【0047】
Mn2+産生の酸化還元反応における使用のためのマンガン(VII)及びマンガン(IV)の好ましい金属化合物は、KMnO4、NaMnO4、MnO2、MnO(OH)2、及び他のもののような化合物を含むがそれらに限らない。
【0048】
Cr2+産生の酸化還元反応における使用のためのクロム(VI)及びクロム(III)の好ましい金属化合物は、K2CrO4、(NH4)2CrO4、Cr2(SO4)3、CrCl3、Cr(OH)3、Cr(NO3)3、及び他のもののような化合物を含むがそれらに限らない。
【0049】
Cr3+産生の酸化還元反応における使用のためのクロム(VI)及びクロム(II)の好ましい金属化合物は、K2CrO4、(NH4)2CrO4、CrCl2、及び他のもののような化合物を含むがそれらに限らない。
【0050】
Fe2+産生の酸化還元反応における使用のための鉄(III)の好ましい金属化合物は、NH4Fe(SO4)2、FeCl3、Fe(NO3)3、Fe2(SO4)3、及び他のもののような化合物を含むがそれらに限らない。
【0051】
Fe3+産生の酸化還元反応における使用のための鉄(II)の好ましい金属化合物は、(NH4)2Fe(SO4)2、FeCl2、FeSO4、及び他のもののような化合物を含むがそれらに限らない。
【0052】
Cu2+産生の酸化還元反応における使用のための銅(I)の好ましい金属化合物は、CuCl、CuI、CuSCN、及び他のもののような化合物を含むがそれらに限らない。
【0053】
Cu+産生の酸化還元反応における使用のための銅(II)の好ましい金属化合物は、CuCl2、CuBr2、CuSO4、及び他のもののような化合物を含むがそれらに限らない。
【0054】
Ni2+産生の酸化還元反応における使用のためのニッケル(III)の好ましい金属化合物は、CuCl2、CuBr2、CuSO4、及び他のもののような化合物を含むがそれらに限らない。
【0055】
必須の金属イオンの産生、及び結果として金属イオン依存性の酵素反応の開始を提供する上述の酸化還元反応は、50℃を超える温度まで反応混合物を加熱することによって開始されて良い。かくして、前記金属イオン依存性の酵素プロセスは、反応混合物の加熱後の調節された方法において開始されて良く、それによって前記酵素プロセスのホットスタートを提供する。
【0056】
本発明の方法が適用されて、DNA-及びRNA-依存性DNAポリメラーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、DNA-及びRNA-リガーゼ、キナーゼ、プロテイナーゼ、及び他の金属イオン依存性酵素によって触媒される金属イオン依存性酵素反応を開始またはホットスタートして良い。特に本発明が使用されてPCRプロセスが開始されて良い。
【0057】
本発明の方法は、低い温度における熱安定性DNAポリメラーゼ(例えば、Taq DNAポリメラーゼ)の活性化を妨げることによってPCR反応の特異性を増大する一方で、二価の金属イオンの温度依存性の産生(60-98℃におけるCo2+またはMn2+の産生)、及びDNAポリメラーゼに触媒される伸長のための特異的に結合されたプライマーの選択を促進することができる。
【0058】
前記PCRプロセスは、熱安定性DNAポリメラーゼ酵素を使用する。これらの酵素(例えば、Taq、Tth、またはPfu DNAポリメラーゼ)は二価の金属イオン依存性酵素である。これらのポリメラーゼは、活性化のための金属イオンコファクターとしてMg2+、Co2+、またはMn2+の存在を必要とする。本発明の方法によるホットスタートPCRを実施するために、コバルト(III)からコバルト(II)への還元反応によってCo2+を産生する反応が使用されて良い。
【0059】
Co2+を産生する酸化還元反応においてコバルト(III)からコバルト(II)に還元するための好ましい化学的な還元剤は、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、ヨウ化水素酸、ヨウ化水素酸塩、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、若しくはヨウ化アンモニウム、チオ硫酸カリウム、並びにチオ硫酸ナトリウムを含むが、それらに限らない。
【0060】
ホットスタートPCRを実施するために、ヘキサアミンコバルト(III)とアスコルビン酸との間の酸化還元反応が使用されて良い。PCRの条件下で、この酸化還元反応は50℃を超える温度でのみCo2+を産生する。かくして、前記酵素プロセス(PCR)は、50℃より高い温度まで反応混合物を加熱した後にのみ酸化還元反応によって開始される。結果として、PCRの特異性が促進される。
【0061】
同様に、過マンガン酸カリウム(KMnO4)とアスコルビン酸(C6H8O6)との間の還元-酸化反応が、PCRプロセスを実施するために使用されて良い。PCRの条件下で、この還元-酸化反応はMn2+イオンを産生する。
【0062】
本発明によって調節されて良い金属イオン依存性酵素は、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素、DNAリガーゼ、エンドヌクレアーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、キナーゼ、及びプロテアーゼを含む複数の属の酵素の種類によって規定される各種の酵素の員または種を含む。金属イオン依存性酵素は、広範な動物、バクテリア、またはウイルスの起源に由来して良く、天然の遺伝子構成物、または例えば突然変異生成によって遺伝的に修飾されている、若しくは融合タンパク質、キャリングマルチプル(carrying multiple)、異なる機能ドメインを発現するように遺伝的に修飾されている変異体の遺伝子構成物より合成されても良い。
【0063】
金属イオン依存性酵素の更なる例は、DNAポリメラーゼ、例えば、クレノーフラグメント及びDNA pol I;逆転写酵素(RT)、例えばAMV RT及びMMLV RT;大多数の制限エンドヌクレアーゼ;リボヌクレアーゼ、例えばRNアーゼH;及びトポイソメラーゼ、例えばトポイソメラーゼIを含む。
【0064】
多数の酵素が少数の異なる金属イオンを代替的に使用する可能性がある。例えば、RNAポリメラーゼ、例えばRNAポリメラーゼIまたはT7-、SP6-、及びT4 RNAポリメラーゼは、Mg2+またはMn2+を使用することができる。DNアーゼIは、Mg2+、Mn2+、Ca2+、Co2+、またはZn2+を含む各種の異なる金属イオンを利用することができる。
【0065】
本発明における使用のための酵素は、高い温度及び/または各種のpH条件(高い/低いなど)を含む、イオン性酵素反応物の生産に必要とされる反応条件の範囲で酵素の安定性を維持することに基づいて、好ましく選択または改変されて良い。特に好ましい酵素は、熱安定性及び/またはpH耐性酵素を含む。
【0066】
熱安定性酵素は好熱性バクテリア起源(例えば、好熱性属のThermus)より単離されて良く、またはそれらは組換えによって単離及び調製されて良い。Thermus属の代表的な種は、T. aquaticus、T. thermophilus、T. rubber、T. filiformis、T. brockianus、及びT. scotoductusを含む。本発明における使用のための熱安定性酵素は、広範な酵素のタイプに由来するものであって良い。
【0067】
本発明における使用のための熱安定性酵素の例は、例えば、米国特許第4,889,818号, 第5,079,352号, 第5,192,674号, 第5,374,553号, 第5,413,926号, 第5,436, 149号, 第5,455,170号, 第5,545,552号, 第5,466,591号, 第5,500,363号, 第5,614,402号, 第5,616,494号, 第5,736,373号, 第5,744,312号, 第6,008,025号, 第6,027,918号, 第6,033,859号, 第6,130,045号, 第6,214,557号に開示されている熱安定性DNAポリメラーゼ;例えば、米国特許第5,998,195号及び U.S. 2002/0090618に開示されている熱安定性逆転写酵素;例えば、米国特許第5,633,138号, 第5,665,551号, 第5,939,257号に開示されている熱安定性ホスファターゼ;例えば、米国特許第5,494,810号, 第5,506,137号, 第6,054,564号, 及び 第6,576,453号に開示されている熱安定性リガーゼ;例えば、米国特許第5,215,907号, 第5,346,820号, 第5,346,821号, 第5,643,777号, 第5,705,379号, 第6,143,517号, 第6,294,367号, 第6,358,726号, 第6,465,236号に開示されている熱安定性プロテアーゼ;例えば、米国特許第5,427,928号 及び 第5,656,463号に開示されている熱安定性トポイソメラーゼ;例えば、米国特許第5,459,055号 及び 第5,500,370号に開示されている熱安定性リボヌクレアーゼ;例えば、米国特許第5,432,078号 及び 第5,744,345号に開示されている熱安定性βガラクトシダーゼ;例えば、Ace III, Acs I/Apo I, Acy I, Bco I, BsaBI/BsiBI, BsaMI, BsaJI, BsaOI, BsaWI, BscBI, BscCI, BscFI, BseAI, BsiC1, BsiE1, BSi HKAJ, BsiLI, BsiMI, BsiQI, BsiWI, BsiXI, BsiZI, Bsi I, Bsm I, BsmAI, BsmBI, Bss, T11, Bsr1, BsrD1, Bsi711, BsiB1, BsiN1, BsiU1, BsiY1, BsiZ1, Dsa 1, Mae 11, Mae 111, Mwo 1, Ssp B1, Taq I, Taq II, Taq52 I, Tfi I, Tru91, TspE1, TspRI, Tsp45 I, Tsp4C I, Tsp509 I, Tth111 IIを含む熱安定性制限エンドヌクレアーゼ;米国特許第6,251,649に開示されているFlapエンドヌクレアーゼ;並びにFLPe、変異体、Flpの熱安定性リコンビナーゼ(Bucholz et al., Nature Biotechnology, Vol. 16, pp. 657-662, 1998)を含むが、それらに限らない。
【0068】
好ましい金属イオン依存性酵素は熱的に安定な酵素を含むが、それらに限らない。熱安定性金属イオン依存性酵素は、上述の酵素を含むがそれらに限らない熱安定性DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素、DNAリガーゼ、エンドヌクレアーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、キナーゼ、及びプロテアーゼを含んで良い。熱安定性酵素は好熱性バクテリア起源より単離されて良く、またはそれらは組換え方法によって単離及び調製されて良い。
【0069】
PCRへの適用における使用のための好ましいDNAポリメラーゼは、熱的に安定なDNAポリメラーゼ及び/またはそれらの組み合わせを含む。熱的に安定なDNAポリメラーゼは、DNAポリメラーゼのStoffelフラグメント、Klentaq-235、及び Klentaq-278; Thermus thermophilus DNAポリメラーゼを含む、Thermus aquaticus DNAポリメラーゼ及びその変異体、例えば、TaqポリメラーゼのN末端欠失体; Bacillus caldotenax DNAポリメラーゼ; Thermus flavus DNAポリメラーゼ; Bacillus stearothermophilus DNAポリメラーゼ; 並びに古細菌DNAポリメラーゼ、例えば、Thermococcus litoralis DNAポリメラーゼ (VentR(登録商標)とも称される)、Pfu、Pfx、Pwo、及び DeepVentR(登録商標)、またはそれらの混合物を含む。他の市販されているDNAポリメラーゼは、TaqLAまたはExpand High FidelityPlus Enzyme Blend (Roche);KlenTaqLA, KlenTaq1, TthLA (Perkin-Elmer)、ExTaq(登録商標) (Takara Shuzo);Elongase(登録商標) (Life Technologies);Taquenase(登録商標) (Amersham)、TthXL (Perkin Elmer);Advantage(登録商標) KlenTaq、及びAdvantage(登録商標) Tth (Clontech);TaqPlus(登録商標)及びTaqExtender(登録商標) (Stratagene);またはそれらの混合物を含むが、それらに限らない。
【0070】
更なる実施態様では、本発明はPCRの特異性を増大するための方法を含む。好ましくは、本発明は、ホットスタートPCRを実施するための方法及びキットを提供する。前記方法及びキットは金属イオンを産生する工程を利用して、酸化還元反応による金属イオンの産生が可能になるまで反応媒質の温度を上昇させる際に、DNAポリメラーゼ酵素を活性化する。ホットスタートPCRを実施することによって、競争的または阻害的な生産物を最小にまたは無くして、標的DNA分子の増幅特異性を増大する。
【0071】
更なる実施態様では、本発明の方法における使用のためのキットが提供される。好ましくは、前記キットは、反応バッファー、金属化合物、酸化還元剤(例えば、還元剤)、及びその活性が第2の酸化状態である金属イオンに依存する熱安定性酵素を含む。前記熱安定性酵素がDNAリガーゼである場合には、前記キットはATP及び/または1つ以上の合成オリゴヌクレオチドを更に含んで良い。前記熱安定性酵素がDNAポリメラーゼである場合には、前記キットはdNTP及び/または1つ以上の合成オリゴヌクレオチドを更に含んで良い。好ましくは、前記キットは、多重PCR反応における使用のための一対以上の合成オリゴヌクレオチドを含む。前記反応バッファーは金属化合物を含んでも良い。
【0072】
PCRの各サイクルの間のPCR産物の検出を助けるために、リアルタイム(Real-Time)PCRとして当該技術分野で既知の技術が使用されて良い。この技術は、生産されているPCR産物の量に直接的に比例して程度が増大する蛍光レポーターからのシグナルの検出及び定量によるものである。
【0073】
そのため、本発明のキットは、二本鎖DNAに結合するSYBR Green(登録商標)のような蛍光色素を更に含んで良い。しかしながら、このレポーターは反応中の任意の二本鎖DNA、例えばプライマーダイマーに結合するため、生産物の量の過剰評価が生じる可能性がある。代替的に、前記キットは、蛍光色素と消光色素とを含有するレポータープローブ(例えば、TaqMan(登録商標))を更に含んで良い。これらのプローブは、PCR産物の内部領域にハイブリダイズし、PCRの間、レポータープローブが結合している鋳型を前記ポリメラーゼ酵素が複製する際に、ポリメラーゼの5'エキソヌクレアーゼ活性がプローブを開裂させる。このことが蛍光色素と消光色素とを分離させ、蛍光シグナルを生じさせる。蛍光色素と消光色素とを含有する分子標識も、TaqManプローブと同様の原理で働く。
【0074】
本発明の方法の早期の開始を妨げるために、金属化合物が酸化還元剤と別々に保存されて良い。その様な保存は、PCRまたはリガーゼ連鎖反応(LCR)における使用のための試薬の保存に適当な条件下で別々のバイアルによって為されて良い。
【0075】
本発明の反応組成物が、実施例に記載のPCRプロセスに適用されて良い。
【0076】
金属イオン依存性DNAポリメラーゼ活性を調節するための本願明細書に記載の原理、方法論、及び実施例は、各種のタイプの上記の金属イオン依存性酵素を調節する類似の様式において応用されて良い。
【0077】
以下の実施例は本発明の態様を説明する。
【実施例】
【0078】
(実施例1)
反応温度の変化によるCo2+イオンの化学的な産生の調節
【0079】
Co2+イオンの産生は、塩化ヘキサアミンコバルト(III)とアスコルビン酸との間の還元-酸化反応によって実施した。前記反応の結果として、コバルト(III)がコバルト(II)に還元され、Co2+イオンが生産された。
【0080】
2 [Co(NH3) 6]3+ + C6H8O6 → 2Co2+ + 2NH4+ + 10NH3 + C6H6O6
【0081】
[Co(NH3) 6]3+イオンからのCo2+イオンの産生は、黄色から桃色への溶液の色の変化を伴う。その色の変化が、反応プロセス及びCo2+の産生のモニターを可能にする。
【0082】
反応混合物は、10mM 塩化ヘキサアミンコバルト(III) ([Co(NH3) 6]Cl3);20mMアスコルビン酸(C6H8O6);100mM Tris-HCl、25℃でpH 9.0を含有した。反応混合物のサンプル(500μl)を25℃、40℃、55℃、70℃、及び85℃でインキュベートした。反応混合物の黄色がインキュベーション後:85℃で1.5分;70℃で9分;及び55℃で80分に桃色に変化した。8時間の25℃及び40℃におけるインキュベーションでは、サンプルの色の変化を生じなかった。かくして、Co2+の産生の反応は、反応混合物を加熱することによって調節される様式で起こり得る。
【0083】
(実施例2)
従来の条件下(二価イオンの存在下)で実施されるPCRとの比較におけるCo2+の調節された産生を使用するPCRの特異性の増大。
【0084】
A)Mg2+の存在下における従来のPCR
614bpのDNAフラグメントを、30サイクル:95℃-30秒;58℃-30秒;72℃-30秒で50ngのGallus domesticusゲノムDNAより増幅した。反応混合物(50μl)は、1.5mM MgCl2、20mM Tris-HCl (25℃でpH9.0)、50mM NH4Cl、0.1% Triton X-100、0.2mM 各dNTP、25pmol プライマー Pr1 (5'-attactcgagatcctggacaccagc)、25pmolプライマー Pr2 (5'-attaggatcctgccctctcccca)、及び5U Taq DNAポリメラーゼを含有した。
【0085】
B)Co2+の存在下における従来のPCR
614bpのDNAフラグメントを、30サイクル:95℃-30秒;58℃-30秒;72℃-30秒で50ngのGallus domesticusゲノムDNAより増幅した。反応混合物(50μl)は、1mM CoCl2、20mM Tris-HCl (25℃でpH9.0)、50mM NH4Cl、0.1% Triton X-100、0.2mM 各dNTP、25pmol プライマー Pr1 (5'-attactcgagatcctggacaccagc)、25pmolプライマー Pr2 (5'-attaggatcctgccctctcccca)、及び5U Taq DNAポリメラーゼを含有した。
【0086】
C)Co2+の調節された産生を使用するPCR
614bpのDNAフラグメントを、30サイクル:95℃-30秒;58℃-30秒;72℃-30秒で50ngのGallus domesticusゲノムDNAより増幅した。反応混合物(50μl)は、1mM 塩化ヘキサアミンコバルト(III) ([Co(NH3)6]Cl3)、2mMアスコルビン酸(C6H8O6)、20mM Tris-HCl (25℃でpH9.0)、50mM NH4Cl、0.1% Triton X-100、0.2mM 各dNTP、25pmol プライマー Pr1 (5'-attactcgagatcctggacaccagc)、25pmolプライマー Pr2 (5'-attaggatcctgccctctcccca)、及び5U Taq DNAポリメラーゼを含有した。
【0087】
(実施例3)
制限エンドヌクレアーゼ消化の調節
【0088】
A)Co2+の産生による制限エンドヌクレアーゼ消化の調節
100μlの制限酵素消化混合物(100mM NaCl;20mM Tris-HCl (25℃でpH8.5);2μg DNA pBR322;5U Taq I制限エンドヌクレアーゼ;5mM塩化ヘキサアミンコバルト(III) ([Co(NH3)6]Cl3)、7mM アスコルビン酸(C6H8O6))を調製した。50μlのサンプルを移して、2つの反応チューブに入れた。第1のチューブは75分間47℃でインキュベートした。第2のチューブは10分間70℃まで加熱し(Co2+の産生の熱による開始のため)、次いで75分間47℃でインキュベートした。
【0089】
B)Co2+の存在下における従来の制限エンドヌクレアーゼ消化(エンドヌクレアーゼ消化のポジティブコントロール)
100μlの制限酵素消化混合物(100mM NaCl;20mM Tris-HCl (25℃でpH8.5);2μg DNA pBR322;5U Taq I制限エンドヌクレアーゼ;及び5mM CoCl2)を75分間47℃でインキュベートした。
【0090】
上述の方法は本発明の原理を説明する単なる代表的な実施態様であり、本発明の方法における他の変形例が本発明の精神及び範囲を逸脱すること無く当業者によって考案されることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、614bpのDNAフラグメントが、30サイクルの間に50ngのGallus domesticusゲノムDNAより増幅される際に得られる増幅産物の電気泳動分析を示す。PCRはMg2+(レーン1)またはCo2+(レーン2)を含有する通常のPCRバッファーを使用する従来の条件で実施した。レーン3−PCRはCo2+の調節された産生を使用して実施された。レーン4−DNAマーカー。これらの反応条件では、二価イオンの調節された産生のみが検出可能な量の所望の生産物を提供した(レーン3)。Mg2+(レーン1)またはCo2+(レーン2)を使用する従来のPCR方法と比較すると、Co2+の調節された産生を使用する際に、より少ない非特異的な増幅産物が得られた(レーン1と比較すると、レーン3には非特異的な増幅産物が無い)。
【図2】図2は、実施例3に記載される、Taq Iを使用するpBR322の制限エンドヌクレアーゼ消化後に得られるDNAフラグメントの電気泳動分析であり、制限エンドヌクレアーゼ活性の調節された活性化が、二価イオンの調節された産生によって達成され得ることを示す。Co2+の産生の熱による開始を使用して(レーン2)及び使用せずに(レーン1)、前記酵素反応を実施した。レーン3−Co2+の存在下におけるエンドヌクレアーゼ消化のポジティブコントロール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)i)第1の酸化状態である金属原子または金属イオンを有する金属化合物;
ii)酸化還元剤;及び
iii) 第2の酸化状態である金属原子または金属イオンによって活性化される金属イオン依存性酵素;
を含む反応混合物を提供する工程;
b)工程a)の混合物を加熱して、酸化還元反応において前記金属化合物を前記酸化還元剤と反応させ、それによって前記金属原子または金属イオンを第2の酸化状態に変換する工程;
を含む、金属イオン依存性酵素によって触媒される酵素反応を開始する方法。
【請求項2】
前記金属化合物が、マンガン、カドミウム、コバルト、銅、鉄、モリブデン、ニッケル、及びクロムの原子及びイオンより選択される金属原子または金属イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属原子または金属イオンの第1の酸化状態が酸化された状態であり、前記酸化還元剤が還元剤であり、前記第2の酸化状態が還元された状態である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属原子または金属イオンの第1の酸化状態が還元された状態であり、前記酸化還元剤が酸化剤であり、前記第2の酸化状態が酸化された状態である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の酸化状態である金属原子または金属イオンが二価の金属イオンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記二価の金属イオンがCo2+である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化還元反応が、
コバルト(III)からコバルト(II)への還元、
マンガン(VII)からマンガン(II)への還元、
マンガン(IV)からマンガン(II)への還元、
マンガン(III)からマンガン(II)への還元、
クロム(VI)からクロム(II)への還元、
クロム(III)からクロム(II)への還元、
鉄(III)から鉄(II)への還元、
銅(II)から銅(I)への還元、
ニッケル(III)からニッケル(II)への還元、
モリブデン(III)からモリブデン(II)への還元、
モリブデン(VI)からモリブデン(II)への還元、
モリブデン(VI)からモリブデン(III)への還元、
クロム(II)からクロム(III)への酸化、
鉄(II)から鉄(III)への酸化、
銅(I)から銅(II)への酸化、
ニッケル(II)からニッケル(III)への酸化、及び
カドミウム(I)からカドミウム(II)への酸化
より選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化還元剤が、アスコルビン酸、ヨウ化水素酸、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化アンモニウム、チオ硫酸カリウム、及びチオ硫酸ナトリウムより選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記酸化還元反応が、コバルト(III)の化合物とアスコルビン酸との間の反応を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記酸化還元反応が、コバルト(III)の化合物とヨウ化水素酸との間の反応を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記酸化還元反応が、塩化ヘキサアミンコバルト(III)と、アスコルビン酸、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、またはヨウ化アンモニウムの1つとの間の反応を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記酸化還元反応が、塩化ヘキサアミンコバルト(III)とアスコルビン酸との間の反応を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
工程(b)において、前記反応混合物が50℃より高い温度に加熱される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記金属イオン依存性酵素が、ポリメラーゼ、リガーゼ、エンドヌクレアーゼ、キナーゼ、プロテアーゼ、またはそれらの組み合わせである、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記酵素が熱安定性酵素である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記酵素が熱安定性DNAリガーゼである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記酵素が熱安定性DNAポリメラーゼである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記酵素がTaqポリメラーゼまたはその変異体である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記酵素反応がPCRプロセスまたはその一部である、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
反応バッファー、第1の酸化状態である金属原子またはイオンを有する金属化合物、酸化還元剤、及び熱安定性酵素を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法における使用のためのキット。
【請求項21】
前記金属イオンの第1の酸化状態が酸化された状態であり、前記酸化還元剤が還元剤である、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
ATPを更に含み、前記熱安定性酵素がDNAリガーゼである、請求項20または21に記載のキット。
【請求項23】
dNTPを更に含み、前記熱安定性酵素がDNAポリメラーゼである、請求項20または21に記載のキット。
【請求項24】
リアルタイムPCRにおける使用に適切な蛍光レポーターを更に含む、請求項23に記載のキット。
【請求項25】
1つ以上の合成オリゴヌクレオチドを更に含む、請求項20から24のいずれか一項に記載のキット。
【請求項26】
前記酸化還元剤と前記金属化合物とが別々に保存される、請求項20から25のいずれか一項に記載のキット。
【請求項27】
前記酸化還元剤と前記熱安定性酵素とが別々に保存される、請求項20から25のいずれか一項に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−506412(P2008−506412A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−522009(P2007−522009)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【国際出願番号】PCT/GB2005/002774
【国際公開番号】WO2006/008479
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(507017196)バイオライン・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】