説明

酵素反応試薬、酵素反応試薬キット及び酵素反応用の液の保存方法

【課題】酵素の保存安定性に優れ、作業を簡略化でき、試薬のロスや原材料費を低減できる酵素反応試薬、該試薬を備える酵素反応試薬キット、及び酵素反応用の液の保存方法の提供。
【解決手段】複数の構成液に分割された酵素反応用の液を凍結して備える酵素反応試薬であって、前記構成液の少なくとも一つは酵素を含有し、全ての前記構成液が、一つの容器中に個別に凍結され、収容されていることを特徴とする酵素反応試薬、該試薬を備える酵素反応試薬キット、及び複数の構成液に分割された、酵素反応用の液の保存方法であって、前記構成液の少なくとも一つは酵素を含有し、全ての前記構成液を、一つの容器中に順次個別に凍結して収容し、該容器を凍結保存することを特徴とする酵素反応用の液の保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素反応試薬、該試薬を備える酵素反応試薬キット、及び酵素反応用の液の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素とは主としてタンパク質により構成される触媒であり、生体内で生命活動のための酸化、転移、加水分解、各種合成あるいは異性化等の化学反応を触媒する。これら酵素反応は、主に非酵素反応と比較して、温度やpH等の条件が穏やかでも反応が進行するため、医療診断や物質生産等で有用であり、多く用いられている。
【0003】
現在市販されている酵素は、粉末、水溶液、グリセロール溶液等、種々の形態で供給されている。これら市販酵素の多くは、該酵素を用いた反応時の利便性を考慮し、分割された複数の試薬からなる酵素反応試薬キットとして供給されている。例えば、酵素反応試薬キットに含有される試薬としては、一種以上の酵素、緩衝液、還元剤、リン酸源、阻害剤等があり、キットとしては、牛海綿状脳症診断用酵素抗体キット、制限酵素キット、逆転写酵素キット、タンパク質合成キット等がある。
【0004】
しかしながら、酵素反応試薬キットに含有される複数の試薬の全てを予め混合し、一つの容器に収容した場合、混合中又は保存中に、目的とする酵素反応や、目的外の酵素反応が進行してしまうという問題点や、目的の酵素反応における酵素活性が低下してしまうという問題点がある。これは、−80℃等の低温で凍結保存している場合でも同様である。このため、複数の試薬からなる酵素反応試薬キットは主に、試薬単位、又は上記の問題点を回避可能な程度に各試薬が混合された構成液単位で、複数の容器に収容され供給されている。たとえば特開平10−327895においては、液状試薬を第一試薬と第二試薬の2つに分割したキットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−327895
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これら酵素反応試薬キットは、酵素反応開始前に、複数の液の解凍、分注又は混合等の作業や、数〜数十μL程度の微量な液体に対するピペット操作を必要とする。したがって、作業が複雑で手間を要するという問題点がある。また、作業者の習熟度の違いにより、酵素反応のばらつきが発生し得るという問題点がある。
【0007】
また、酵素を含む液は、粘度が高い場合が多い。このため、上記ピペット操作時に、酵素を含む液が容器の内壁に付着して残留し、容器内の液の全量を使い切ることができず、液をロスするという問題点がある。また、複数の容器を使用するため、原材料費が上昇するという問題点がある。さらに、酵素や生体成分の保存方法として凍結乾燥も知られているが、製作に手間がかかること、利用時の作業が煩雑となること、凍結乾燥に耐えられる酵素および生体成分は少なく、その多くは活性の大幅な低下や消失を起こしてしまうなどの問題点がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、酵素の保存安定性に優れ、作業を簡略化でき、試薬のロスや原材料費を低減できる酵素反応試薬、及び該試薬を備える酵素反応試薬キット、並びに酵素反応用の液の保存方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、酵素と、前記酵素と反応し得る成分及び/又は前記酵素の酵素活性を低下させ得る成分との接触を減じた状態で一つの容器中に保存することで、目的の酵素活性を安定して保持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の特徴を有する酵素反応試薬、酵素反応試薬キット、及び酵素反応用の液の保存方法を提供するものである。
(1)複数の構成液に分割された酵素反応用の液を凍結して備える酵素反応試薬であって、
前記構成液の少なくとも一つは酵素を含有し、全ての前記構成液が、一つの容器中に個別に凍結され、収容されていることを特徴とする酵素反応試薬。
(2)前記酵素と反応し得る第一の成分が、前記酵素を含有しない構成液に含有されていることを特徴とする前記(1)の酵素反応試薬。
(3)前記第一の成分とは異なり且つ前記酵素の活性を低下させ得る第二の成分が、前記酵素を含有しない構成液に含有されていることを特徴とする前記(2)の酵素反応試薬。
(4)前記(1)〜(3)いずれかの酵素反応試薬を備えることを特徴とする酵素反応試薬キット。
(5)タンパク質合成用であることを特徴とする前記(4)の酵素反応試薬キット。
(6)複数の構成液に分割された、酵素反応用の液の保存方法であって、
前記構成液の少なくとも一つは酵素を含有し、全ての前記構成液を、一つの容器中に順次個別に凍結して収容し、該容器を凍結保存することを特徴とする酵素反応用の液の保存方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数の構成液が個別に凍結されているので、酵素を安定して保存できる。また、容器中の構成液を解凍すれば直ちに酵素反応を行うことができ、作業を大幅に簡略化できる。さらに作業の簡略化により、作業者の習熟度によらず、酵素反応を安定して迅速に行うことができる。また、必要な容器数が一つだけなので、試薬のロスや原材料費を低減できる。さらに、凍結乾燥が不要であるため、多くの種類の酵素及び生体成分を安定して保存でき、汎用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1〜5、及び比較例1における酵素反応試薬の保存期間ごとのCATの定量値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
《酵素反応試薬》
本発明の酵素反応試薬において、構成液とは、複数の単位に分割された、酵素反応を行うために必要な成分を含有する液である。一つの構成液には、少なくとも前記成分が含有され、さらに好ましくは溶媒が含有される。ここで、溶媒の種類は特に限定されないが、通常は水であり、必要に応じてその他の溶媒を含有していても良い。
全ての構成液を混合することで、目的とする酵素反応を行うための酵素含有液が得られる。
【0014】
本発明の酵素反応試薬において、酵素は特に限定されず、天然由来のものでも良く、人工的に改変又は合成されたものでも良い。具体的には、例えば、合成酵素、分解酵素、酸化酵素、還元酵素、転移酵素、異性化酵素等の中から、目的に応じて適宜選択できる。好ましい酵素としては、DNA、RNA、タンパク質等の生体高分子や、該生体高分子以外の生体に由来する生体分子を合成又は分解する酵素;前記生体高分子及び生体分子以外の非天然由来の分子を合成又は分解する酵素が例示でき、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ等のポリメラーゼ、アミノアシルtRNA合成酵素が好ましく、なかでもアミノアシルtRNA合成酵素が特に好ましい。
【0015】
構成液の少なくとも一つは酵素を含有し、それぞれの構成液に含有させる成分は、酵素反応の種類に応じて適宜調整できる。ただし、前記酵素と反応し得る第一の成分は、前記酵素を含有しない構成液に含有されていることが好ましい。ここで第一の成分としては、前記酵素の基質、及び前記酵素とその基質との反応の必須成分が例示できる。さらに該必須成分としては、DNA又はRNAを合成する時の鋳型核酸、タンパク質を合成する時の20種類アミノ酸、tRNA等が例示できる。
第一の成分は、全ての構成液を混合しない限り、前記酵素との反応は抑制されるが、上記のように、前記酵素とは別々に構成液に含有させることで、酵素の保存安定性を一層向上させることができる。
【0016】
さらに、第一の成分とは異なり且つ前記酵素の活性を低下させ得る第二の成分は、前記酵素を含有しない構成液に含有されていることが好ましい。ここで第二の成分としては、第一の成分以外で前記酵素と相互作用する成分が例示でき、相互作用により酵素を変質させる成分や、酵素を変質させないが酵素と安定して複合体を形成する成分が例示できる。より具体的には、酵素と共存させて所定温度で4週間保存後に、目的とする酵素反応を行った場合の酵素活性が、前記酵素と別々に保存した場合の酵素活性よりも、4割以上低くなるような成分が例示できる。
【0017】
前記酵素、第一の成分及び第二の成分は、いずれも一種でも良く、二種以上でも良い。二種以上である場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0018】
各構成液には、酵素反応を行うのに必要な成分が少なくとも含有される。また、本発明の効果を妨げない範囲で、その他の成分が含有されていても良い。その他の成分としては、酸化防止剤等、構成液の安定性を向上させる成分が例示できる。
【0019】
構成液中の成分は、有機化合物、無機化合物、イオン等いずれでも良く、特に限定されない。例えば、酵素を含有させる代わりに、目的とする酵素を含有する微生物、細胞又はこれらの抽出液が含有されていても良い。
【0020】
各構成液中に含有される成分の濃度は特に限定されず、任意に調整できる。
構成液の液量も、目的に応じて任意に調整すれば良い。例えば、タンパク質合成等に適用する場合には、1mL以下等の極微量でも良い。
構成液の数は、複数であれば特に限定されず、酵素反応の種類に応じて適宜調整すれば良い。
【0021】
容器中における凍結された各構成液の収容位置は、特に限定されず、任意に調節できる。例えば、複数の構成液が互いに接触して凍結されていても良いし、各構成液が層状に積層されて凍結されていても良く、全ての構成液が互いに接触することなく独立して凍結されていても良い。収容位置は、構成液の容器中への添加位置で調節できる。
本発明においては、凍結された構成液同士が互いに接触していても、これら構成液中の成分は安定して保存される。
【0022】
構成液を凍結収容する容器は特に限定されず、ガラス類、樹脂類等、公知の材質からなるものを使用できる。
【0023】
本発明の酵素反応試薬は、タンパク質合成用試薬として特に好適である。
【0024】
本発明の酵素反応試薬は、全ての前記構成液を、一つの容器中に順次個別に凍結して収容することで製造できる。例えば、構成液の数がn個(nは2以上の整数である)である場合には、一個目の構成液を容器中に添加して凍結させ、次いで二個目の構成液を容器中に添加して凍結させ、この操作をn個目の構成液まで繰り返し、すべての構成液を凍結させて収容すれば良い。また、含有される成分を安定して保存できれば、複数の構成液を混合したものも、一つの構成液として取り扱って良い。
【0025】
構成液を容器中に添加して凍結する場合には、すでに容器内に収容済みの凍結された構成液が解凍されないようにする。そして、凍結されている構成液と、後から添加した凍結前の構成液との接触時間は、短いほど好ましく、後から添加された構成液を瞬時に凍結することが特に好ましい。このようにすることで、酵素等、構成液に含有される成分を一層安定して保存できる。そのためには、構成液を凍結できる温度に容器を冷却しながら、構成液を添加することが好ましい。
【0026】
構成液を凍結する温度は、構成液の種類に応じて適宜調整すれば良いが、液体窒素、ドライアイス等の冷却媒体を使用すれば、これら媒体は入手も容易であり、冷却効果にも優れるので特に好適である。
【0027】
酵素反応試薬の製造時において、構成液凍結時の冷却温度は、一定でも良いし、構成液が解凍されない範囲で適宜変更されても良い。例えば、容器を冷却しながら構成液を添加する場合には、添加量が微量であると、添加に使用する器具の吐出口で構成液が凍結することがあるので、構成液添加時に冷却温度を上昇させる等の温度調節をすると良い。
【0028】
全ての前記構成液を凍結して容器中に収容することにより、本発明の酵素反応試薬が得られる。該酵素反応試薬を、各構成液が解凍しない温度で凍結保存することにより、酵素をはじめとする構成液中の各成分を安定して保存できる。そして、該酵素反応試薬使用時には、構成液を解凍するだけで、酵素反応に必要な成分を混合でき、酵素含有液が得られる。得られた酵素含有液には、さらに別途、酵素反応に必要な成分を含有させても良い。
【0029】
本発明の酵素反応試薬は、備えられている構成液のみで目的とする酵素反応を完結できるものでも良いし、完結できないものでも良い。例えば、本発明を利用した無細胞タンパク質合成試薬であれば、目的の酵素反応生成物をコードする鋳型核酸を、予め試薬内に備えていても良いし、試薬に汎用性を持たせる等の目的により、鋳型核酸を試薬内に備えていなくても良い。
【0030】
酵素反応試薬の凍結保存温度は、構成液の種類に応じて適宜調整すれば良いが、含有される成分の保存推奨温度の中の最低温度よりも低い温度であることが好ましく、通常は−90〜−70℃程度であれば十分である。
【0031】
《酵素反応試薬キット》
本発明において、酵素反応試薬キットは、上記酵素反応試薬を備えるものである。また、上記酵素反応試薬以外に、任意の試薬を備えていてもよい。
【実施例】
【0032】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
酵素反応試薬の製造方法の違いによる、酵素反応生成物の収量の違いについて調べた。
具体的には、無細胞タンパク質合成法により、定量法が一般的且つ簡便であるクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)の合成を行った。
無細胞タンパク質合成法で用いる構成液の成分を表1に示す。各構成液は、いずれも水を主溶媒とする液体である。
なお、T7RNAポリメラーゼに対する第一の成分としては、ATP、GTP、CTP、UTPが例示でき、大腸菌抽出液に対する第一の成分としては、20種類アミノ酸混合物が例示でき、クレアチンキナーゼ水溶液に対する第一の成分としては、リン酸クレアチン、ATPが例示できる。
【0034】
【表1】

【0035】
[実施例1]
ポリプロピレン製1.5mL容器に構成液(1)13.2μLをピペッタで添加し、容器をふたで密閉後、液体窒素に接触させて添加した構成液を凍結させた。液体窒素から該容器を取り出した後、ドライアイスバス上に容器を置き、ふたを開け、構成液(2)238μLを添加し、直ちにふたで密閉し、液体窒素に接触させて添加した構成液を凍結させた。再び液体窒素から容器を取り出した後、ドライアイスバス上に容器を置き、ふたを開け、構成液(3)66μLを添加し、直ちにふたで密閉し、液体窒素に接触させて添加した構成液を凍結させた。同様に、(4)74μL、(5)79μL、(6)451μLを該容器中に順次個別に添加し、液体窒素に接触させて添加した構成液を凍結させ、酵素反応試薬を作製した。そして、該試薬を液体窒素から取り出し、−80℃の冷凍庫にて所定期間保存した。
次いで、冷凍庫から容器を取り出し、氷上にて構成液を解凍して混合し、タンパク質合成酵素溶液とした。
該タンパク質合成酵素溶液に、鋳型DNAとしてpUC−CAT79μLを添加し、攪拌後、37℃で1時間加温し、CATを合成した。
【0036】
[実施例2]
ポリプロピレン製1.5mL容器に構成液(1)13.2μL、及び(2)238μLをピペッタで添加し、容器をふたで密閉後、液体窒素に接触させて添加した構成液を凍結させた。液体窒素から該容器を取り出した後、ドライアイスバス上に容器を置き、ふたを開け、構成液(3)66μLを添加し、直ちにふたで密閉し、液体窒素に接触させて添加した構成液を凍結させた。同様に、(4)74μL、(5)79μL、(6)451μLを該容器中に順次個別に添加し、液体窒素に接触させて添加した構成液を凍結させ、酵素反応試薬を作製した。そして、該試薬を液体窒素から取り出し、−80℃の冷凍庫にて所定期間保存した。
次いで、冷凍庫から容器を取り出し、氷上にて構成液を解凍して混合し、タンパク質合成酵素溶液とした。
該タンパク質合成酵素溶液に、鋳型DNAとしてpUC−CAT79μLを添加し、攪拌後、37℃で1時間加温し、CATを合成した。
【0037】
[実施例3]
ポリプロピレン製1.5mL容器に構成液(1)13.2μL、(2)238μL、及び(3)66μLをピペッタで添加し、容器をふたで密閉後、液体窒素に接触させて添加した構成液を凍結させた。液体窒素から該容器を取り出した後、ドライアイスバス上に容器を置き、ふたを開け、構成液(4)74μLを添加し、直ちにふたで密閉し、液体窒素に接触させて添加した構成液を凍結させた。同様に、(5)79μL、(6)451μLを該容器中に順次個別に添加し、液体窒素に接触させて添加した構成液を凍結させ、酵素反応試薬を作製した。そして、該試薬を液体窒素から取り出し、−80℃の冷凍庫にて所定期間保存した。
次いで、冷凍庫から容器を取り出し、氷上にて構成液を解凍して混合し、タンパク質合成酵素溶液とした。
該タンパク質合成酵素溶液に、鋳型DNAとしてpUC−CAT79μLを添加し、攪拌後、37℃で1時間加温し、CATを合成した。
【0038】
[実施例4]
ポリプロピレン製1.5mL容器に構成液(1)13.2μL、(2)238μL、及び(3)66μLをピペッタで添加し、容器をふたで密閉後、液体窒素に接触させて添加した構成液を凍結させた。液体窒素から該容器を取り出した後、ドライアイスバス上に容器を置き、ふたを開け、構成液(4)74μL、及び(5)79μLを添加し、直ちにふたで密閉し、液体窒素に接触させて添加した構成液を凍結させた。同様に、(6)451μLを該容器中に添加し、液体窒素に接触させて添加した構成液を凍結させ、酵素反応試薬を作製した。そして、該試薬を液体窒素から取り出し、−80℃の冷凍庫にて所定期間保存した。
次いで、冷凍庫から容器を取り出し、氷上にて構成液を解凍して混合し、タンパク質合成酵素溶液とした。
該タンパク質合成酵素溶液に、鋳型DNAとしてpUC−CAT79μLを添加し、攪拌後、37℃で1時間加温し、CATを合成した。
【0039】
[実施例5]
ポリプロピレン製1.5mL容器に構成液(1)13.2μL、(2)238μL、及び(3)66μLをピペッタで添加し、容器をふたで密閉後、液体窒素に接触させて添加した構成液を凍結させた。液体窒素から該容器を取り出した後、ドライアイスバス上に容器を置き、ふたを開け、構成液(4)74μL、(5)79μL、及び(6)451μLを添加し、直ちにふたで密閉し、液体窒素に接触させて添加した構成液を凍結させ、酵素反応試薬を作製した。そして、該試薬を液体窒素から取り出し、−80℃の冷凍庫にて所定期間保存した。
次いで、冷凍庫から容器を取り出し、氷上にて構成液を解凍して混合し、タンパク質合成酵素溶液とした。
該タンパク質合成酵素溶液に、鋳型DNAとしてpUC−CAT79μLを添加し、攪拌後、37℃で1時間加温し、CATを合成した。
【0040】
[比較例1]
ポリプロピレン製1.5mL容器に構成液(1)13.2μL、(2)238μL、(3)66μL、(4)74μL、(5)79μL、及び(6)451μLをピペッタで添加し、タンパク質合成酵素溶液とした。容器をふたで密閉後、液体窒素に接触させて添加した構成液を凍結させ、酵素反応試薬を作製した。そして、該試薬を液体窒素から取り出し、−80℃の冷凍庫にて所定期間保存した。
該タンパク質合成酵素溶液に、鋳型DNAとしてpUC−CAT79μLを添加し、攪拌後、37℃で1時間加温し、CATを合成した。
【0041】
[比較例2]
ポリプロピレン製0.6mL容器に構成液(1)0.4μL、(2)7.2μL、(3)2μL、(4)2.3μL、(5)2.4μL、及び(6)13.6μLをピペッタで添加し、タンパク質合成酵素溶液とした。容器をふたで密閉後、凍結は行わず、直ちに該溶液を用いて酵素反応を行った。
該タンパク質合成酵素溶液に、鋳型DNAとしてpUC−CAT2.4μLを添加し、攪拌後、37℃で1時間加温し、CATを合成した。
【0042】
表2に、上記実施例1〜5、及び比較例1〜2における、各構成液の同時添加の有無を示す。表2中、線で区切られた構成液は互いに同時に添加されていないことを示す。表2中の構成液(1)〜(6)は表1と同様である。
【0043】
【表2】

【0044】
CATの定量は、以下の方法で行った。
アセチルCoA8μL、クロラムフェニコール352μL、及びDTNB(5,5’−チオビス−2−ニトロ安息香酸)40μLを混合した液に、上記実施例1〜5、及び比較例1〜2で調製された反応液のいずれか一つを3μL添加し、37℃で30分間加温後、紫外吸光分光光度計(412nm)にて吸光度を測定し、換算式によりCATを定量した。
【0045】
表3及び図1は、上記実施例1〜5、及び比較例1〜2における酵素反応試薬の保存期間ごとのCATの定量値(μg/mL)である。なお、図1においては、酵素反応試薬を保存せずに直ちに酵素反応を行っている比較例2については、図示を省略してある。
【0046】
【表3】

【0047】
この結果、実施例1〜5では、保存期間1〜4週間の全てにおいて、比較例2のタンパク質合成酵素溶液とほぼ同等のタンパク質合成能を有していた。
一方、構成液を全て混合してから凍結保存した比較例1では、保存期間が長くなるに従って、タンパク質合成能が顕著に低下した。これは、構成液に含有される酵素と、酵素と反応し得る第一の成分が共存した状態であったためと推察される。
また、実施例1〜5では、構成液をロスすることなく、迅速に反応を行うことができた。
以上の結果から、本発明の酵素反応試薬は、必要とされる作業が簡便で、しかもタンパク質合成能に優れることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、医療診断や物質生産の分野で、好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の構成液に分割された酵素反応用の液を凍結して備える酵素反応試薬であって、
前記構成液の少なくとも一つは酵素を含有し、全ての前記構成液が、一つの容器中に個別に凍結され、収容されていることを特徴とする酵素反応試薬。
【請求項2】
前記酵素と反応し得る第一の成分が、前記酵素を含有しない構成液に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の酵素反応試薬。
【請求項3】
前記第一の成分とは異なり且つ前記酵素の活性を低下させ得る第二の成分が、前記酵素を含有しない構成液に含有されていることを特徴とする請求項2に記載の酵素反応試薬。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の酵素反応試薬を備えることを特徴とする酵素反応試薬キット。
【請求項5】
タンパク質合成用であることを特徴とする請求項4記載の酵素反応試薬キット。
【請求項6】
複数の構成液に分割された、酵素反応用の液の保存方法であって、
前記構成液の少なくとも一つは酵素を含有し、全ての前記構成液を、一つの容器中に順次個別に凍結して収容し、該容器を凍結保存することを特徴とする酵素反応用の液の保存方法。



【図1】
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【公開番号】特開2010−183893(P2010−183893A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31876(P2009−31876)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】