説明

酸化ほう素の製造装置及びその製造方法

【課題】 熱効率が高く、水分を実質的に含有しない高純度の酸化ほう素を連続的に製造することができ、かつ、長期間安定して使用に耐える酸化ほう素製造装置及びそれによる酸化ほう素の製造方法を提供する。
【解決手段】 上部にほう酸供給部を、下部に溶融酸化ほう素排出部を備えた加熱室本体内に蓄熱式交互燃焼型ラジアントチューブを設置してなり、前記ほう酸供給部から前記加熱室本体内に供給されたほう酸を前記蓄熱式交互燃焼型ラジアントチューブにより加熱することにより脱水・溶融反応により溶融酸化ほう素となし、該脱水・溶融反応により生成した溶融酸化ほう素を前記溶融酸化ほう素排出部から連続的に排出せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ほう素(化学式:B)の製造装置及びその製造方法に係り、特にほう酸を加熱して脱水・溶融するプロセスにより高純度酸化ほう素を製造する装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ほう素はガラス添加用、鉄鋼の合金剤、アモルファス合金、磁性材料の製造原料として広く利用されている。一般的に不純物が少なく、かつ安価に供給できることが要望されているが、用途によってその不純物等の許容範囲が異なる。その代表的な製造手段として、非特許文献1には、精製された粒状のほう酸をオイル焚き又はガス焚きのガラス炉で加熱溶融することにより高純度(99%B)の酸化ほう素を製造することが記載されている。
【0003】
一方、特許文献1には、約85〜92%のBを含有する酸化ほう素製品の製造方法において、ほう酸を脱水させて、約85〜92%のBを含有する溶融ガラスを形成するために充分な期間、約220〜275℃の範囲内の温度においてほう酸を加熱し、前記溶融ガラスを冷却して、固体ガラス生成物を形成し、前記固体ガラスを粉砕する一連の工程からなり、約85〜92%のBを含有し、ナトリウムを本質的に含まない粒状非晶質酸化ほう素の製造方法が開示されている。
【0004】
この特許文献1に記載の方法は、前記非特許文献1に記載の方法の有する次の欠点を解決することを目的としている。
(1)溶融炉で700〜950℃に加熱して得た溶融ガラスを急冷粉砕するので、製品が高品質であるが、溶融炉を高温度に維持するためのエネルギー費用がかかること
(2)製品が微粉砕によって吸水性になること
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、加熱温度が低いために酸化ほう素の純度が約85〜92%と低く、水分を多量に残している。そのため、使用者側で脱水のためのエネルギーを負担しなければならないという問題があり、さらに使用時に分解・発生する水分のため発泡する等の問題がある。
【0006】
そのため、高純度(99%B)の酸化ほう素は、一般に非特許文献1に記載の方法により、ガラス溶融炉を用いて製造される。しかしながら、このガラス溶融炉は、原料であるほう酸に加熱のための燃焼ガスを直接接触させる形式のいわゆる直接加熱設備であるので、その操業に際して燃焼排ガスとほう酸の分解生成物である水蒸気が同一の排気口から混合排ガスとして排出される。この排ガスは高温であるので、上記混合排ガスの排熱を熱交換により熱源として再利用することが望ましいが、この排ガスは、ほう酸のダスト及び蒸気を含み、これが熱交換器の伝熱面にスケーリングするので、混合排ガスが高温であるにも拘らず熱源としての再利用が不可能であり、熱効率が著しく低くなる原因となっていた。
【0007】
この対策として、特許出願人は、図6に示すように、断熱材80で囲われた加熱室本体81の下方に燃焼バーナ82を設置し、その上方に僅かの傾斜を付けた耐熱金属製の円筒のレトルト83を配置し、この円筒レトルト83の上方の装入口84から原料ほう酸の粉体及び/又は粒状体を供給して、原料ほう酸を高温燃焼ガスに接触させることなく間接加熱によって加熱して、その溶融を連続的に行う酸化ほう素製造装置を実用化している。この装置では、レトルト83の加熱用のガス、いい換えれば原料加熱用の燃焼ガスとほう酸の熱分解により生成したガスが完全に分離されているので、レトルト加熱用の燃焼ガスを熱交換器85に通して熱エネルギーを回収することができ、また、レトルトから発生するガスを排ガス処理装置86により処理してほう酸を回収することができる。
【0008】
【特許文献1】特開平7-257921号公報
【非特許文献1】Encyc1opedia of Chemical Technology第4版第4巻370頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記出願人の提案による酸化ほう素製造装置は、熱効率が高く、高純度の酸化ほう素を経済的・効率的に製造できるものであるが、耐熱金属製のレトルトが割れ易く、レトルトの寿命が比較的短いという問題があった。
【0010】
本発明は、上記従来技術の有する問題を解決し、熱効率が高く、水分を実質的に含有しない高純度の酸化ほう素を連続的に製造することができ、かつ、長期間安定して使用に耐える酸化ほう素製造装置及びそれによる酸化ほう素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、蓄熱式交互燃焼型ラジアントチューブ(以下単に「ラジアントチューブ」という)の表面温度が著しく均一であり、これに原料ほう酸を直接接触させ、さらにはその放射熱により加熱することにより、ほう酸を脱水させ、さらに溶融させて極めて効率的に酸化ほう素を製造し得ることに着目し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明に係る酸化ほう素製造装置は、上部にほう酸供給部を、下部に溶融酸化ほう素排出部を備えた加熱室本体内に蓄熱式交互燃焼型ラジアントチューブを設置してなり、前記ほう酸供給部から前記加熱室本体内に供給されたほう酸を前記蓄熱式交互燃焼型ラジアントチューブにより加熱することにより溶融無水酸化ほう素となし、該溶融酸化ほう素を溶融酸化ほう素排出部から連続的に排出せしめるものである。
【0013】
上記酸化ほう素製造装置において、加熱室本体を筐体又は筒体によって構成し、かつ該加熱室本体の底部を水平面に対して1〜5°傾斜した傾斜炉床となし、該傾斜炉床の端部に溶融酸化ほう素排出部を設けてなるものとすることができる。
【0014】
また、上記酸化ほう素製造装置において、加熱室本体には、ほう酸の脱水反応によって生成した排ガスを排出・処理する排ガス処理設備を備えることができる。
【0015】
さらに、上記酸化ほう素製造装置は、溶融酸化ほう素排出部には、溶融酸化ほう素の冷却・固化装置を備えているものとすることができる。
【0016】
上記酸化ほう素製造装置は、ラジアントチューブが、加熱室本体の傾斜炉床に沿って設置されており、かつ溶融酸化ほう素排出部が加熱室の傾斜炉床の末端部に設けられているものとすることができる。
【0017】
また、上記酸化ほう素製造装置を、加熱室本体が円筒体又は多角筒体によって構成されたものとなすとともに、ラジアントチューブが該加熱室本体の側壁に沿って複数個設置されているものとすることができる。
【0018】
上記いずれかの発明に記載した酸化ほう素製造装置を用い、該酸化ほう素製造装置の本体内に連続的に原料ほう酸を供給するとともに、該酸化ほう素製造装置の本体内に設置された蓄熱式交互燃焼型ラジアントチューブによって原料ほう酸を加熱して溶融酸化ほう素となし、生成した溶融酸化ほう素を前記溶融酸化ほう素排出部から連続的に流動排出せしめることことによって酸化ほう素を連続的に製造することが可能になる。
【0019】
なお、上記各発明において、ラジアントチューブとは、例えば、工業加熱Vol.42,No.5第12頁左欄第10〜18行に開示されている形式のチューブの両端に蓄熱体を内蔵したバーナが設置され、30秒程度の短い周期で燃焼と蓄熱を交互に繰り返すラジアントチューブをいい、交番燃焼によるチューブ温度の均一化と高効率の熱交換による省エネルギー効果が得られるという特性がある。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、水分を実質的に含有しない高純度の酸化ほう素を、エネルギー効率よく、しかも長期間安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を主な2つの実施形態に基づいて説明する。
【0022】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る酸化ほう素製造装置を模式的に示した断面図であり、図2は、そのA−A矢視断面図である。図1、図2に示すように、本発明の第1実施形態に係る酸化ほう素製造装置は、加熱室本体10、ほう酸供給部30、溶融酸化ほう素排出部15及びラジアントチューブ20から構成されている。
【0023】
図1に示す第1実施形態では、加熱室本体10は、周囲が断熱材11で囲まれ、内部がたとえば、ステンレス鋼等のほう酸やその脱水生成物に冒されない材料でライニングされた筐体により構成されており、その上部には、原料ほう酸の装入口14及び反応副生物である水蒸気をダストとともに導く蒸気口16が開口している。また、その底部12は、生成した溶融酸化ほう素を連続的に排出せしめる溶融酸化ほう素排出部15に続いている。
【0024】
上記加熱室本体10の上部(天井側)の原料ほう酸装入口14には、これに接続してホッバー31とスクリューフィーダ32を有する原料ほう酸の供給装置30が取り付けられており、この原料ほう酸の供給装置30によりほう酸装入口14を通して加熱反応室13内に連続的に原料であるほう酸を供給できるようになっている。
【0025】
また、加熱室本体10の底面12は、水平面に対して僅かに傾斜しており、その最下端部が溶融酸化ほう素排出部15となっており、その末端は堰17により仕切られている。底面12の水平面に対する傾斜は、生成した溶融生成物が自然流下して溶融酸化ほう素排出部15から流出することを可能にするためであるので、その角度は水平面に対して1〜5°とするのがよい。
【0026】
このように構成された原料ほう酸装入口及び溶融酸化ほう素排出部15を有する加熱室本体10の内部には、その底部12にほぼ平行に、底部12から距離aだけ離間してU字型のラジアントチューブ20の加熱部24が位置するようになっている。上記ラジアントチューブの加熱部24の最下端部と底部12との離間距離aは、ラジアントチューブの加熱部24による加熱により脱水・溶融した溶融状態の酸化ほう素が底部12上を流下するに足る距離とする。この距離が大きすぎると、底部12に接している生成した酸化ほう素がラジアントチューブ20の加熱部24によって十分加熱されず、溶融・流動状態を維持できない場合が生じ、生成した酸化ほう素が底部12上に滞留し、スムースに系外に排出され難くなる。一般には、上記離間距離aは、ラジアントチューブの直径の0.5〜3倍程度とするのがよい。
【0027】
さらに、図1に示す第1実施形態では、上記溶融酸化ほう素排出部15に続いて、溶融酸化ほう素の冷却固化破砕装置40が設けられている。この冷却固化破砕装置40は、溶融酸化ほう素を連続的に受ける水冷のWロール42と鬼歯ダブルロールクラッシャ44を有し、Wロール42と鬼歯ダブルロールクラッシャ44は垂直空冷ダクト43で連結されており、鬼歯ダブルロールクラッシャ44の下部は、蓋付き金属容器45が取付け・取外し自在に構成されている。なお、この実施形態では、溶融酸化ほう素排出部15からWロール42の上部周辺にカバー41を設置し、このカバー41には集じん管46を設け、発生する塵埃を吸引除去可能にしている。
【0028】
上記加熱室本体10の上部(天井側)の原料ほう酸装入口14から離れた位置に蒸気口16が設けられており、この蒸気口16は、排ガス導管51を介して排ガス処理手段50に接続されている。この排ガス処理手段50は、加熱室本体10から排出される水蒸気、ほう酸の蒸気及び粉じんを水洗してほう酸分をほう酸水として分離回収するとともに、清浄化された排ガスを排ガス放出管52から大気中に放出する機能を有する。なお、分離回収されたほう酸水は蒸発晶析缶(図示しない)に導かれるようになっている。
【0029】
上記装置の操業は以下のとおりであり、それにより原料ほう酸から酸化ほう素を製造することができる。まず、準備段階として、ラジアントチューブ20の加熱部24が覆われるように原料ほう酸を充填し、ラジアントチューブ20の表面温度が設定値である800〜950℃になるように加熱状態におくとともに、加熱室反応室13内を十分に加熱状態におき、生成される酸化ほう素が溶融状態となって排出部15から流出できるようにする。ここにラジアントチューブ20の加熱部24とは、ラジアントチューブを構成するU字管のうち基部の蓄熱体収容部を除いた高温に加熱され、本発明において原料ほう酸や生成酸化ほう素を伝熱、又は放射熱により加熱する部分をいう。
【0030】
上記の予熱作業が完了したことを確認した後、原料ほう酸の供給装置30を稼動し、原料ほう酸装入口14から原料ほう酸を加熱室本体10内に連続的に供給する。それにより原料ほう酸は、ラジアントチューブ20の加熱部24に直接接し、あるいは、一旦底面12に堆積後、ラジアントチューブ20の加熱部24からの加熱により250〜400℃に加熱されて、反応式
2HBO(s)→B(l)+3HO(g)−211kJ/molB
にしたがって脱水し、更に700℃以上に昇温することによって生成物が溶融するに至る。
【0031】
昇温・溶融の進行に従い生成した水(HO)は水蒸気として酸化ほう素から完全に分離して、溶融物は高純度な酸化ほう素となり、溶融酸化ほう素排出部15から溶融酸化ほう素の冷却固化破砕装置40に連続的に導かれ、冷却固化破砕装置40の水冷Wロール42によってシート状のガラスとされ、空冷垂直ダクト43で冷却された後、鬼歯ダブルロールクラッシャ44により破砕され、直接蓋付き金属容器45に収容され、それにより外気との接触が遮断され製造された酸化ほう素を微粉砕されたものであっても吸湿することが避けられる。
【0032】
一方、上記脱水反応によって生成した水蒸気、原料ほう酸が加熱されることによって発生するほう酸蒸気及びほう酸を装入するとき不可避的に発生するほう酸粉じんは、ともに蒸気口16から排ガス導管51を介して排ガス処理手段50に導かれ、ここで水洗されてほう酸分はほう酸水として分離回収され、残りの清浄化された排ガスは排ガス放出管52から大気中に放出される。
【0033】
上記操業において、原料であるほう酸は、図3に示すように、装入された当初は粉体又は粒状体であるが、加熱されて脱水分解反応が開始すると同時に焼結状態の大塊となり、その後さらに加熱されて、400℃に達して分解反応が終了し、さらに生成した水分が水蒸気として揮散し、流動状態となると推定される。そのため、本発明の酸化ほう素製造装置内での装入物の状態は、ラジアントチューブと接触しながら順調に溶融・下降することが理想であるが、ときとして定常的ではなく、ラジアントチューブ直上で棚吊現象を起こし、それが崩れて生じた焼結物が落下して底部炉床で溶融状態となるなど様々な非定常状態を取ることもありえる。
【0034】
このような非定常状態は、被処理物(原料ほう酸及びその脱水生成物)が、粉体(粒状体)から焼結状態、さらには溶融・流動状態とその状態が変化する過程で生じた焼結物が一時的に滞留して流れを阻害するために起こるものと推定されるが、このような非定常状態は極力回避し、定常状態に近づけることが好ましい。そのため、原料であるほう酸の装入速度を調整して、ほう酸が加熱、脱水、溶融する速度とのバランスが保たれるようにすることが重要である。たとえば、一時的にほう酸の装入速度がラジアントチューブからの加熱による脱水・溶融速度を上回ると、加熱反応室の上面にほう酸棚ができ、ラジアントチューブとの間に空洞ができることがあるが、そのような場合には、供給速度を一時的に減じて加熱を継続して、放射熱によりほう酸棚を次第に溶融させ、ほう酸棚を解消して正常な操業状態に戻すことなどの措置を講ずることが必要である。
【0035】
そのような操業制御を行うためには、ラジアントチューブの表面温度を測定し、原料ほう酸に必要な入熱が与えられるように制御すべきである。このような制御は、ラジアントチューブの表面温度と炉の状態との関係を解析し、それによって得た経験に基づいて行うことができる。このような入熱の制御は、ラジアントチューブの供給するガス燃料の流量、燃焼時間、又はこれらの組合せによって行うことができる。
【0036】
なお、上記制御を行うに際し、ラジアントチューブの温度は、その最高使用温度、たとえば950℃以下に制御しなければならない。そのため、本発明においては、工業加熱Vol.42,No.5第12頁左欄第10〜18行等に示されている形式のチューブの両端に蓄熱体を内蔵したバーナが設置され、30秒程度の短い周期で燃焼と蓄熱を交互に繰り返すラジアントチューブをもちい、交番燃焼の周期をたとえば30S程度に短く取ってチューブ温度の均一化と高効率の熱交換による省エネルギー効果が得られるようにするのが好ましい。このような形式のラジアントチューブを利用すれば、その表面温度が極めて均一になるので、上記制御において、ラジアントチューブの表面温度の測定は1ヶ所行えば十分である。
【0037】
本発明の第1実施形態は、上記のとおりであるが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、種々の変形例によって実施することができる。たとえば、溶融酸化ほう素の冷却固化破砕装置40を省略して、溶融酸化ほう素を受け容器に直接受けた後、そのまま冷却し、その後、別途の手段で破砕すること、ほう酸供給装置30のスクリューフィーダをバイブレーションフィーダに変更すること、溶融酸化ほう素排出部15から堰17を除くことなどが可能である。また、本例では、ラジアントチューブ20をU字形の加熱部24を有するものとし、そのU字形の加熱部24が箱型の加熱室本体10の反応加熱室13内にあり、蓄熱体を内蔵する両端部が加熱体本体10の外部にあるものとしているが、これを加熱室本体10内に位置せしめるようにすることもできる。
【0038】
また、上記実施形態では、底部12を水平に対して傾斜させているが、これを水平とすることも可能である。この場合においても、溶融・流動状態の酸化ほう素は、底部12に一定量滞留するが、堰17をオーバーフローさせて系外に排出することができる。また、堰17も必ずしも必要ではないが、その存在は、底部12の傾斜の有無にかかわらず、底部12上に溶融・流動状態の酸化ほう素を一定量堆積させ、操業を安定させる効果をもたらす。なお、この堰17は、たとえば、操業末期には取り除き、底部12上に滞留している酸化ほう素を極力排出することが好ましい。
【0039】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係る酸化ほう素製造装置を模式的に示した断面図であり、図5は、そのB−B矢視断面図である。図4、図5に示すように、本発明の第2実施形態に係る酸化ほう素製造装置は、加熱室本体10、ほう酸供給部30、溶融酸化ほう素排出部15及び複数のラジアントチューブ20(20A〜20D)から構成されている。
【0040】
この第2実施形態においては、加熱室本体10は、周囲が断熱材11で囲まれ、内部がステンレス鋼等のほう酸やその脱水生成物に冒されない材料でライニングされた円筒体又は多角筒体によって構成されており、複数のラジアントチューブ20A〜20Dが加熱室本体10の側壁18に沿って配置されている。上記筒体により構成された加熱室本体10の上部には、原料ほう酸の装入口14が開口しており、また反応副生物である水蒸気、ほう酸蒸気及びほう酸ダストとともに導く蒸気口16が開口している。また、その底部12は、本装置による脱水・溶融反応により生成した溶融酸化ほう素を連続的に排出せしめる溶融酸化ほう素排出部15に続いている。
【0041】
上記加熱室本体10の上部(天井側)の原料ほう酸装入口14には、これに接続して原料ほう酸の供給装置30が取り付けられていることは、第1実施形態の場合と同様であり、それにより、ほう酸装入口14を通して加熱反応室13内に連続的に原料であるほう酸を供給できるようになっている。また、加熱室本体10の底面12が、水平面に対して僅かに傾斜していること、その最下端部が溶融酸化ほう素排出部15となっていることも第1実施形態の場合と同様である。
【0042】
さらに、図4、5に示す第2実施形態においても、図示を省略したが、溶融酸化ほう素排出部15に続いて、第1実施形態に示したのと同様の構造の溶融酸化ほう素の冷却固化破砕装置が設けられ、また、加熱室本体10の上部に第1実施形態と同様の構成を有する排ガス処理装置が設けられる。これらの機能も第1実施形態の場合と変わるところがない。
【0043】
第2実施形態と第1実施形態の相違点は、加熱室本体10内におけるラジアントチューブ20の配置の仕方にある。第2実施形態の場合には、筒状体(円筒体及び多角筒体を含む)である加熱室本体10の側壁18にそってラジアントチューブ20が複数個設置される。すなわち、図4、図5に示すように、筒状体である加熱室本体10の側壁18に沿ってほぼ平行に、側壁18から所定距離bだけ離間してU字型のラジアントチューブ20の加熱部24が設置される。
【0044】
このラジアントチューブ20の加熱部24の外側面と加熱室本体10の側壁18との離間距離bは、装入された原料ほう酸が、ラジアントチューブ20A〜20Dにより囲まれた空間の内側と外側に等量に分かれて降下するように配置するのが好ましい。それにより、ラジアントチューブ20から原料ほう酸に与えられる熱量が一方に偏ることなく、均等に配分され、側壁18の近傍での棚吊や、内部空間での加熱不足部を生ずることなく、一様で効率的な加熱ができることになる。具体的には、図5に示す断面図において、ラジアントチューブ20A〜20Dの内側の面積とその外側の面積がほぼ等しくなるように設計すればよい。
【0045】
また、隣り合うラジアントチューブ間の距離、たとえば、ラジアントチューブ20Aと20Dとの間の距離cも設計上考慮しなければならない。図4に示すように、第2実施形態においては、原料ほう酸は、ラジアントチューブ20A〜20Dにより囲まれた空間の内側中心部から装入される。したがって、装入された原料ほう酸がラジアントチューブ間の間隙を通って、側壁18側にスムースに抜けるようにすることが重要になる。この間隔cが小さすぎるときには、上記ラジアントチューブの間隙間に生じた焼結物のために被処理物の上記移動が妨げられることになる。一方、上記間隔cが広すぎるときは、設備直径がいたずらに大きくなり、経済的でない。
【0046】
一般には、上記離間距離bは、ラジアントチューブ20の直径の0.5〜3倍程度、ラジアントチューブ20の相互間の間隔cは、ラジアントチューブ20の直径の1.5〜3.5倍程度するのがよい。なお、ラジアントチューブ20の配置数は、酸化ほう素の製造能力等に依存して決めればよい。
【0047】
なお、加熱室本体10の上部空間には、ラジアントチューブ20の蓄熱体の設置部である
非加熱部25が位置するようにする。これにより、加熱室本体10内で発生する生成ガス(反応生成物である水蒸気、ほう酸蒸気及び原料装入時に発塵するほう酸粉塵の混合ガス)の温度を加熱室本体内において低下させることができ、排ガス処理設備にかかる負荷を軽減させることができる。
【0048】
上記第2実施形態に係る装置の操業過程は以下のとおりであり、それにより原料ほう酸から酸化ほう素を製造することができる。まず、準備段階として、ラジアントチューブ20A〜20Dの加熱部24を覆うように原料ほう酸を装入する。次いで、ラジアントチューブ20A〜20Dの加熱部24の表面温度が設定値(800〜950℃)になるように加熱状態におき、加熱室本体10内を十分に昇温し、生成した酸化ほう素が流出できる状態とする。
【0049】
上記の予熱作業が完了したことを確認した後、原料ほう酸の供給装置30を連続稼動状態とし、原料ほう酸装入口14から原料ほう酸を連続的に供給する。それにより、原料ほう酸はラジアントチューブ20の加熱部24によって加熱され、その近傍から粉体(粒状体)から焼結状態、さらには脱水・溶融状態となって加熱・昇温が進行し、終には溶融酸化ほう素となって底部12に滴下し、溶融酸化ほう素排出部15から流出するに至る。溶融酸化ほう素排出部15から流出後の処理については、すでに第1実施形態において説明したのと同様である。また、反応生成ガス等の処理についても第1実施形態において説明したのと同様である。
【0050】
上記第2実施形態においても、酸化ほう素製造装置内での装入物の状態は、ラジアントチューブ及び加熱室本体の側壁に接触しながら順調に溶融・下降するが、ときとして定常的ではなく、加熱室本体内で棚吊現象を起こし、それが崩れて生じた焼結物が落下して底部炉床で溶融状態となるなど様々な状態をとることがある。このような非定常状態は、被処理物が順調に降下する限り操業上の支障にはならない。しかしながら、非定常状態が進んで、棚吊状態となったときには、一時的にほう酸原料の供給を停止し、ラジアントチューブからの加熱のみを継続し、それによって棚吊を解消することが好ましい。これらの措置については、第1実施形態の場合と同様である。また、操業制御を行うためには、ラジアントチューブの表面温度を測定し、原料ほう酸に必要な入熱が与えられるように制御することも第1実施形態と同様に行い得る。
【0051】
本発明の第2実施形態は、上記のとおりであるが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、種々の変形を行うことができる。たとえば、ラジアントチューブの配置数は、上記例では4本であるが、必要能力を考慮して、6〜8本にすることができる。また、第1実施形態について述べたように、溶融酸化ほう素の冷却固化破砕装置を省略して、溶融酸化ほう素を直接受け容器に収容して冷却後、別途破砕すること、原料装入手段をバイブレーションフィーダに変更すること、あるいは、溶融酸化ほう素排出部に堰を加えるなどの変更を行うことも可能である。さらに、加熱室本体10は、第1実施形態と同様に、周囲が断熱材11で囲まれ、内部がたとえば、ステンレス鋼等のほう酸やその脱水生成物に冒されない材料でライニングされた筐体により構成することもできるが、これに代えて内面も断熱材料とすることもできる。
【0052】
上記第2実施形態においては、ラジアントチューブが加熱室本体内に竪型に配置されるので、複数個の大型のラジアントチューブを、吊り下げ方式によって加熱室本体内に設置することができる。このことにより、第1実施形態に示したほぼ水平にラジアントチューブを設置する形式では、ラジアントチューブのサイズが大きくなると、それを支えるために加熱室本体内に支柱を設けなければならならず、そのため大型化が困難であるとの問題が解決され、生産性の大きな設備の建設が容易になるなどの効果が生ずる。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
図1、図2に示す基本構造を有し、表1に示す諸元を有する酸化ほう素の製造装置を用いて酸化ほう素の製造を行った。その結果、原料ほう酸を22.4kg/hの割合で連続的に装入し製品酸化ほう素を12.1kg/hの割合で生産することができた。この操業における熱効率は65%であった。また、分解発生水量は9.6kg/hであり、排ガス処理装置として利用したベンチュリスクラバからほう酸を質量比で2%含有する排水を回収することができた。なお、操業過程において、ラジアントチューブの表面温度管理を行った結果、その温度は700〜850℃に維持された。
【0054】
この操業ではプロパンを1.76kg/hの割合で燃焼させ、下記式に従う熱効率ηは65%であった。
η=(有効熱×100)/(プロパン消費量×真発熱量)
ここに、有効熱=原料の昇温熱+反応吸熱+生成酸化ほう素の加熱熱量
【0055】
【表1】

【0056】
(実施例2)
図4、図5に示す基本構造を有し、表2に示す諸元を有する酸化ほう素の製造装置を用いて酸化ほう素の製造を行なう。本設備により原料ほう酸を666kg/hの割合で連続的に装入し、製品酸化ほうを360kg/hの割合で生産することができる。また、分解発生水量は285kg/hであり、排ガス処理装置として利用したベンチュリスクラバからほう酸を質量比で2%含有する排水を回収することができる。また、操業過程において、ラジアントチューブの表面温度管理を行うことにより、その表面温度をは700〜850℃に維持できる。この場合において、プロパンの燃焼割合は52・4kg/hであり、熱効率ηは65%である。熱効率の計算方法は実施例1と同様である。
【0057】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施形態に係る酸化ほう素製造装置を模式的に示した断面図である。
【図2】図1に示した本発明の第1実施形態に係る酸化ほう素製造装置A−A矢視断面図である。
【図3】本発明による原料ほう酸の状態変化を模式的に示した図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る酸化ほう素製造装置を模式的に示した断面図である。
【図5】図4に示した本発明の第2実施形態に係る酸化ほう素製造装置B−B矢視断面図である。
【図6】出願人が実用化している酸化ほう素製造装置の概念図である。
【符号の説明】
【0059】
10:加熱室本体
11:断熱材
12:底部
13:反応加熱室
14:原料ほう酸装入口
15:溶融酸化ほう素排出部
16:蒸気口
18:側壁
20:ラジアントチューブ
24:加熱部
25:非加熱部
30:ほう酸供給装置
31:ホッパー
32:スクリューフィーダ
40:(溶融酸化ほう素の)冷却固化破砕装置
41:カバー
42:水冷Wロール
43:垂直空冷ダクト
44:鬼歯ダブルロールクラッシャ
45:蓋付金属容器
50:排ガス処理装置
51:排ガス導管
52:放散管
80:断熱材
81:加熱室本体
82:燃焼バーナ
83:円筒レトルト
84:装入口
85:熱交換器
86:排ガス処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部にほう酸供給部を、下部に溶融酸化ほう素排出部を備えた加熱室本体内に蓄熱式交互燃焼型ラジアントチューブを設置してなり、前記ほう酸供給部から前記加熱室本体内に供給されたほう酸を前記蓄熱式交互燃焼型ラジアントチューブにより加熱することにより溶融無水酸化ほう素となし、該溶融酸化ほう素を溶融酸化ほう素排出部から連続的に排出せしめることを特徴とする酸化ほう素製造装置。
【請求項2】
加熱室本体は筐体又は筒体によって構成されており、該加熱室本体の底部は、水平面に対して1〜5°傾斜した傾斜炉床であり、該傾斜炉床の端部に溶融酸化ほう素排出部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の酸化ほう素製造装置。
【請求項3】
加熱室本体には、ほう酸の脱水反応によって生成した排ガスを排出・処理する排ガス処理設備が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の酸化ほう素製造装置。
【請求項4】
溶融酸化ほう素排出部には、溶融酸化ほう素の冷却・固化装置が設けられていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の酸化ほう素製造装置。
【請求項5】
蓄熱式交互燃焼型ラジアントチューブが、加熱室本体の傾斜炉床にそって設置されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の酸化ほう素製造装置。
【請求項6】
加熱室本体が円筒体又は多角筒体によって構成されており、蓄熱式交互燃焼型ラジアントチューブが該加熱室本体の側壁に沿って複数個設置されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の酸化ほう素製造装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の酸化ほう素製造装置を用い、該酸化ほう素製造装置の本体内に連続的に原料ほう酸を供給するとともに、該酸化ほう素製造装置の本体内に設置された蓄熱式交互燃焼型ラジアントチューブによって原料ほう酸を加熱して溶融酸化ほう素となし、生成した溶融酸化ほう素を前記溶融酸化ほう素排出部から連続的に流動排出せしめることを特徴とする酸化ほう素製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−238371(P2007−238371A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62600(P2006−62600)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(391021765)日本電工株式会社 (21)