説明

酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムを主要な構成成分としてなるセラミック複合材料

本発明は、セラミックマトリックスとして酸化アルミニウムおよび該マトリックス中に分散された酸化ジルコニウムからなる複合材料、その製造方法ならびにその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックマトリックスとしての酸化アルミニウムおよび該マトリックス中に分散された酸化ジルコニウムからなる複合材料、その製造方法ならびにその使用に関する。
【0002】
金属合金およびセラミック材料の分子構造は、本質的に区別される。金属結合では、電子は無秩序に、かつ比較的小さい結合力で原子核の周りを回っている。この「緩い」構造から、例えば体環境においてイオンが常に離れるため、多様な化学反応が可能である。
【0003】
セラミック分子では、セラミック結合中の電子は正確に規定の軌道、いわゆる方向性のある電子軌道を進む。その結合力は非常に高く、分子は極めて安定している。したがってイオンは形成されず、化学反応は事実上排除されている。
【0004】
この極めて安定したセラミック結合は、材料の塑性変形をほぼ排除する。これは、一方では所望の極めて高い硬度をもたらすが、他方では比較的高い脆性を引き起こす。しかし、正しい材料設計によって高硬度および高靭性を同時に達成することができる。
【0005】
材料科学は、破壊強度および破壊靭性を区別している。破壊強度は、材料が破壊されずに持ちこたえる最大の機械的応力を表す。破壊靭性または亀裂進展抵抗性(Risszaehigkeit)は、発生している亀裂の進展に対する材料の抵抗を表す。医療技術においてはすでに現在、非常に高い破壊強度を有するセラミック材料が使用されている。これらのセラミック材料のいくつかは、その上極めて高い破壊靭性を備えている。このような材料は、他のセラミックよりも発生している亀裂に対してはるかに優れた抵抗性を有し、亀裂の進展を妨げることができる。
【0006】
この特性は、2つの強化機構に基づいている。第1の強化機構は、埋め込まれた正方晶の酸化ジルコニウムナノ粒子によるものである。これらの粒子は、安定した酸化アルミニウムマトリックス中に個別に分布している。該粒子は、亀裂の範囲において局所的な圧力ピークを生じ、それによって亀裂の進展を阻止する。
【0007】
第2の強化機構は、酸化物混合物中で同じく散在して生じる板状結晶によって達せられる。これらの「小片」は、起こり得る亀裂を他方に向け、亀裂エネルギーを分散させて消散させる。これら2つの機能によって、以前はセラミックによって達成することができなかった要素形状も設計できるようになる。
【0008】
本発明の基礎をなす課題は、公知のセラミック材料の特性を更に改良することにある。
【0009】
本発明は、主要な構成成分である酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウム、ならびに複合材料の特性に影響を及ぼしうる1種または複数種の無機添加剤からなるセラミック複合材料に関する。この場合、酸化アルミニウムは体積含有率が65%超を、好ましくは85〜90%を有する主成分を形成し、酸化ジルコニウムは体積含有率が10〜35%を有する副成分を形成する。酸化アルミニウムも酸化ジルコニウムも更に可溶性成分を含有することができる。可溶性成分として、以下の元素の1種または複数種が存在していてよい:Cr、Fe、Mg、Ti、Y、Ce、Ca、ランタニドおよび/またはV。酸化ジルコニウムは、初期状態において、酸化ジルコニウムの総含有率に対して大部分が、好ましくは80〜99%が、特に好ましくは90〜99%が正方晶の相として存在する。酸化ジルコニウムの正方晶から単斜晶への公知の相転移は、本発明による複合材料では破壊靭性および強度に有利に影響を与えるための強化機構として利用される。
【0010】
酸化ジルコニウムの正方晶の相の安定化は、本発明による複合材料において大部分は驚くべきことに化学的にではなく、機械的に行われる。したがって、無機化学系安定剤の含有率は、酸化ジルコニウムと比べて明らかに先行技術において通常使用される含有率を下回る値に限定されている。先行技術において一般に好ましく使用される化学安定剤は、Y23である。更なる公知の安定剤は、CeO2、CaOおよびMgOである。
【0011】
セラミック複合材料のための公知の組成例:
【表1】

【0012】
本発明による複合材料においては、先行技術において使用される含有率よりも明らかに少ない安定剤含有率が使用される。これは本発明によれば、酸化ジルコニウムがマトリックス中に埋め込まれることによって準安定正方晶の相中で安定するように(機械的安定化)、本発明による複合材料において酸化ジルコニウムが酸化アルミニウムマトリックスに埋め込まれることによって可能になる。
【0013】
機械的安定化のための前提条件は、酸化アルミニウムが少なくとも65体積%、好ましくは65〜90体積%の割合であり、酸化ジルコニウムが10〜35体積%の割合であることである。本発明により驚くべきことに達成可能な機械的安定化にとって特に重要であるのは、本発明による複合材料における酸化ジルコニウム粒子の粒径である。酸化ジルコニウム粒子の粒径は、平均して0.5μmを上回るべきではない(ラインインターセプト法に従って測定)。本発明による機械的に安定した複合材料にとって好ましいのは、酸化ジルコニウム粒子の粒径が平均して0.1μm〜0.2μm、0.2μm〜0.3μm、0.3μm〜0.4μmまたは0.4μm〜0.5μm、好ましくは0.1μm〜0.3μm、特に好ましくは0.15μm〜0.25μmであることである。
【0014】
本発明による複合材料における化学安定剤の割合(それぞれ酸化ジルコニウム含有率に対する割合)は、Y23の場合は1.5モル%以下、好ましくは1.3モル%以下、CeO2の場合は3モル%以下、MgOの場合は3モル%以下およびCaOの場合は3モル%以下である。安定剤の総含有率は、0.2モル%未満であるのが特に好ましい。本発明によって殊に好ましいのは、化学安定剤を含まない機械的に安定した複合材料である。
【0015】
化学安定剤の使用によって安定している材料、特にY23によって安定している材料に、熱水老化の傾向があることは公知である。これらの材料では、自然発生的な相転移が、水分子の存在下において高められた温度で、例えばすでに体温で生じる。高められた温度でのこの感水性の原因は、水酸化物イオンによって占められうる酸化ジルコニウム格子中に酸素空孔が形成することである。この現象は、「熱水老化」と呼ばれる。
【0016】
本発明による複合材料は、化学安定剤の使用によって、特にY23の使用によって安定している材料よりも熱水老化が明らかに比較的低い傾向がある。
【0017】
化学安定剤の含有率の低下によって、本発明による複合材料中の酸化ジルコニウム格子は比例してより少ない酸素空孔を含有している。したがって、本発明による複合材料は、先行技術から公知の材料の場合よりも、高められた温度での水の存在に対する感度がはるかに低い。すなわち、本発明による複合材料は、熱水老化の傾向がはるかに低い。
【0018】
本発明による複合材料の製造は、元来公知の、慣用のセラミック技術を用いて行われる。主要の方法工程は、例えば:
a)規定の組成による粉末混合物を水に加える、場合により沈降防止のため液化手段を使用する。
b)ディゾルバー(高速撹拌機)内で均質化する。
c)撹拌ボールミル内で粉にする、この場合粉末混合物の比表面積が高まる(=粉砕)。
d)場合により無機結合剤を添加する。
e)噴霧乾燥を行う、この場合定義された特性を有する流動性のある造粒物が生じる。
f)前記造粒物を水で湿らせる。
g)一軸プレスまたは静水圧プレスする。
h)切削によるグリーンマシニング加工、この場合焼結収縮を考慮して十分に最終輪郭がかたどられる。
i)予備焼成、この場合理論密度の約98%に収縮。残留気孔は外側に向かって閉じている。
j)高温および高ガス圧下での熱間静水圧プレス、それにより実質上完全な最終圧縮。
k)いわゆる「クリーンバーン(Weissbrand)」、それによりセラミック中の酸素イオンの熱間静水圧プレス時に生じた不均衡が調整される。
l)研削および研磨によって高硬度加工する。
m)アニーリングする。
【0019】
本発明による複合材料は、例えば焼結成形体の製造に、医療技術における動的荷重時のエネルギー吸収能力を有する部品の製造に、矯正器および内部人工機能補完装具の製造に、例えば股関節インプラントまたは膝関節インプラントのため、ドリル、例えば医学的な適用のため、トライボロジー応力、化学的応力および/または熱応力が加えられる機械製造部品に使用することができる。
【0020】
したがって、本発明は、セラミックマトリックスとして酸化アルミニウム、該マトリックス中に分散された酸化ジルコニウム、および場合により更なる添加剤からなる複合材料に関し、その際、
・前記複合材料は、第1の相として酸化アルミニウムが少なくとも65体積%の割合で、かつ第2の相として酸化ジルコニウムが10〜35体積%の割合であり、場合により1種または複数種の無機添加剤を含有し、その際酸化ジルコニウムは、酸化ジルコニウムの総含有率に対して大部分が、好ましくは80〜99%が、特に好ましくは90〜99%が正方晶の相として存在し、その際酸化ジルコニウムの正方晶の相の安定化は、大部分は化学的ではなく、機械的に行われる。
【0021】
特に好ましくは、本発明による複合材料は、
・酸化ジルコニウム粒子が、平均して0.1〜0.5μm、好ましくは平均して0.15μm〜0.25μmの粒径を有する;
・酸化ジルコニウムに対する化学安定剤の含有率が、先行技術においてそれぞれ使用される化学安定剤のための値を明らかに下回る値に限定されている;
・本発明による複合材料中の化学安定剤の割合(それぞれ酸化ジルコニウム含有率に対する割合)が、Y23の場合は1.5モル%以下、好ましくは1.3モル%以下、CeO2の場合は3モル%以下、MgOの場合は3モル%以下およびCaOの場合は3モル%以下である;
・化学安定剤の総含有率が、0.2モル%未満である;
・前記複合材料は、化学安定剤を含まない;
・酸化アルミニウムおよび/または酸化ジルコニウムが、可溶性成分を含有する;
・可溶性成分として、酸化アルミニウム中および/または酸化ジルコニウム中に、以下の1種または複数種の成分が存在する:Cr、Fe、Mg、Ti、Y、Ce、Ca、ランタニドおよび/またはV。
【0022】
更に本発明は、
・焼結成形体の製造のために;
・動的荷重時のエネルギー吸収能力を有する部品の製造のために;
・医療技術において;
・医療技術における人工補装具の製造、例えば矯正器および内部人工機能補完装具の製造のために;
・股関節インプラントおよび膝関節インプラントの製造のために、
本発明による複合材料を用いる使用に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックマトリックスとして酸化アルミニウム、該マトリックス中に分散された酸化ジルコニウム、および場合により更なる添加剤からなる複合材料であって、該複合材料が、第1の相として酸化アルミニウムを少なくとも65体積%の割合で、かつ第2の相として酸化ジルコニウムを10〜35体積%の割合で、場合により1種または複数種の無機添加剤を含有し、その際酸化ジルコニウムは、酸化ジルコニウム総含有率に対して大部分が、好ましくは80〜99%が、特に好ましくは90〜99%が正方晶の相として存在し、その際酸化ジルコニウムの正方晶の相の安定化は、大部分は化学的にではなく、機械的に行われることを特徴とする前記複合材料。
【請求項2】
酸化ジルコニウム粒子が、平均して0.1〜0.5μm、好ましくは平均して0.15〜0.25μmの粒径を有することを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
化学安定剤の含有率が、酸化ジルコニウムに対して先行技術においてそれぞれ使用される化学安定剤のための値を明らかに下回る値に限定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
本発明による複合材料中の化学安定剤の割合(それぞれ酸化ジルコニウム含有率に対する割合)が、Y23の場合は1.5モル%以下、好ましくは1.3モル%以下、CeO2の場合は3モル%以下、MgOの場合は3モル%以下およびCaOの場合は3モル%以下であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項5】
化学安定剤の総含有率が、0.2モル%未満であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記複合材料が、化学安定剤を含有していないことを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項7】
酸化アルミニウムおよび/または酸化ジルコニウムが、可溶性成分を含有していることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項8】
可溶性成分として酸化アルミニウム中および/または酸化ジルコニウム中に、以下の元素:Cr、Fe、Mg、Ti、Y、Ce、Ca、ランタニドおよび/またはVの1種または複数種が存在することを特徴とする請求項1から7までのいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の複合材料を、焼結成形体の製造のために用いる使用。
【請求項10】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の複合材料を、動的荷重時のエネルギー吸収能力を有する部品の製造のために用いる使用。
【請求項11】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の複合材料を、医療技術において用いる使用。
【請求項12】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の複合材料を、医療技術における人工補装具の製造のために、例えば矯正器および内部人工機能補完装具の製造のために用いる使用。
【請求項13】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の複合材料を、股関節インプラントおよび膝関節インプラントの製造のために用いる使用。

【公表番号】特表2013−514104(P2013−514104A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543771(P2012−543771)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069991
【国際公開番号】WO2011/083022
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(511004645)セラムテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (16)
【氏名又は名称原語表記】CeramTec GmbH
【住所又は居所原語表記】CeramTec−Platz 1−9, D−73207 Plochingen, Germany
【Fターム(参考)】