酸化グラフェン構造体、その製造方法、およびそれらによる電界効果トランジスタ作成工程
【課題】電気絶縁部と伝導部の作り分けが必要なトランジスタの作成において、制御された領域で酸化グラフェンをグラフェンに還元できる方法を提供する。
【解決手段】波形と電界強度が調整されたフェムト秒レーザー光の照射により酸素原子をグラフェンから遠ざかる方向に高い運動エネルギーを集中して与えて酸素原子をグラフェン表面より脱離させ、酸化グラフェン4を還元する。また、時間依存第一原理計算の結果から最適化されたフェムト秒レーザーの波形と電界の最大瞬間強度を予測しておき、実験を行う際にその条件を利用することで効率よく酸素原子をグラフェンから抜き出すことを実現する。
【解決手段】波形と電界強度が調整されたフェムト秒レーザー光の照射により酸素原子をグラフェンから遠ざかる方向に高い運動エネルギーを集中して与えて酸素原子をグラフェン表面より脱離させ、酸化グラフェン4を還元する。また、時間依存第一原理計算の結果から最適化されたフェムト秒レーザーの波形と電界の最大瞬間強度を予測しておき、実験を行う際にその条件を利用することで効率よく酸素原子をグラフェンから抜き出すことを実現する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化グラフェン構造体、その製造方法、およびそれらによる電界効果トランジスタ作成工程に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新規低次元材料としてグラフェンが注目されている。
高い電子移動度、フレキシブルな材質、透明性と電気伝導性の両立など、電子材料としての可能性には推挙にいとまがない。
グラフェンによる電界効果トランジスタは、電子の移動度の高さから既存SiによるCMOSに変わる次世代トランジスタになると期待される。
【0003】
しかし、グラフェンのバンドギャップが小さいことがオン・オフ比を下げ動作中の電力消費量を上げるという欠点を持つ。
そのことを解消するために、グラフェンを短冊状にしたグラフェンリボンによるチャンネル構造が提案されているが、バンドギャップを得るために幅を数ナノのオーダーにしなくてはならず、作成は容易ではない。
【0004】
以上の困難な状況の中で、化学的工程によるグラフェン作成方法が注目を浴びている。
活性剤と溶液を利用し、溶液中グラファイトを超音波で分解し、グラフェンナノリボンを作成する方法(非特許文献3)が発表され、バンドギャップを作ることに成功した。
しかし、活性剤の残存によるトランジスタ性能劣化、すなわちキャリアー移動度の低下が生じる問題点がある。
【0005】
界面活性剤を使用する代わりに、グラファイトを酸化させ酸化グラフェンを得てからそれを剥離する方法(非特許文献4、特許文献1)がある。
酸化グラフェンでは図1の下段のように酸素がエポキシ構造(酸素原子が2個の炭素原子と結合した構造)、あるいは水酸基OHの酸素原子部位が炭素原子と結合した構造をつくり、水溶液中で一枚一枚のグラファイト層(グラフェン)がはがれやすくなる。
しかし、グラフェンに酸素原子が吸着したままでは電気抵抗が高く応用は不可能であり、還元反応で酸素を取り除く必要がある。(酸素を還元できれば、図1上段のグラフェンを得る。)
【0006】
還元方法としてはヒドラジン(N2H2)を利用した化学反応を使う方法(非特許文献5、特許文献2) が有名であるが、ミクロな解析(非特許文献6)によるとヒドラジンから解離した水素原子によりOH基が生成されそれが残留する問題や、還元効率が高温にしないと上がらないなどの問題がある。
【0007】
また、化学的工程を利用するプロセスでは空間的に選択的な還元を達成することは難しい。
しかし酸化グラフェンにおいて空間的に選択的な還元を実行できれば、一枚のグラフェン層において酸化グラフェンとグラフェンの作り分けが可能になり、電気絶縁部と伝導部の作り分けができてトランジスタの作成も期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−275186
【特許文献2】特開2010−248066
【特許文献3】特開2011−33476
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A.Renia,X.Jia,J.Ho,D.Nezich,H.Son,V.Bulovic,M.S.Dresselhaus,and J.Kong,Nano Lett.Vol.9,p30,2009
【非特許文献2】:Y.Lee,S.Bae,H.Jang,S.Jang,S.−E.Zhu,S.H.Sim,Y.I.Song,B.H.Hong,and J.−H.Ahn,Nano Lett.Vol.10,p490,2010
【非特許文献3】X.Li,X.Wang,L.Zhang,S.Lee,H.Dai,Science Vol.319,p1229,2008
【非特許文献4】D.Li,M.B.Muller,S.Gilje,R.B.Kaner,and G.G.Wallace,Nature Nanotechnol,Vol.3,p101,2008
【非特許文献5】V.C.Tung,M.J.Allen,Y.Yang,and R.B.Kaner,Nature Nanotech.Vol.4,p25,2009
【非特許文献6】M.C.Kim,G.S.Hwang,and R.S.Ruoff,J.Chem.Phys.Vol.131,p064704,2009
【非特許文献7】Y.Miyamoto and H.Zhang,Phys.Rev.B Vol.77,p165123,2008
【非特許文献8】Y.Miyamoto,O.Sugino,and Y.Mochizuki,Appl.Phys.Lett.,Vol.75,p2915,1999
【非特許文献9】Ch.Spielmann,N.H.Burnett,S.Sartania,R.Koppitsch,M.Schnurer,C.Kan,M.Lenzner,P.Wobrauschek and F.Krausz,Science Vol.278,p661,1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した様に一枚のグラフェン層において化学反応では、図2に示した膜全面が酸素吸着した酸化グラフェン構造が実現可能である。
これに化学的手法で酸化グラフェンの還元を実施しようとすると、一様または均一そうでなければランダムになりがちな化学的還元手法では領域の制御が困難で、図2のようにハッチされた限定的な場所での還元は不可能である。
すなわち一枚のグラフェン層において酸化グラフェンとグラフェンとの作り分けが必要とされる場合は、制御された領域で酸化グラフェンをグラフェンに還元できる方法を実現する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、グラファイトを酸化することによって得られた酸化グラフェンの構造体と、グラフェンデバイスに応用する技術に関する発明である。
図2のように空間的に仕切られた領域で酸化グラフェンとグラフェンが一層の中に共存する構造が本発明の酸化グラフェンの特徴である。
【0012】
本発明は、これを実現するために次のような方法を提供する。
酸化グラフェン還元方法であって、少なくとも酸化グラフェン一層からなるシート状材料とフェムト秒レーザー光を照射し得るレーザー装置とを準備するステップと、フェムト秒レーザー光の波形の形成と電界強度の調整をおこなうステップと、前記調整されたフェムト秒レーザー光を前記酸化グラフェンシート状材料の制御された領域に照射して前記酸化グラフェンをグラフェンに還元するステップと、からなることを特徴とする酸化グラフェン還元方法を提供する。
【0013】
また、前記フェムト秒レーザー光の波形の形成と電界強度の調整をおこなうステップは、前記フェムト秒レーザー光の半値幅は2fsであって、前記フェムト秒レーザー光の波長は800nmであって、前記フェムト秒レーザー光の全値幅4fsにおける平均電界強度を前記フェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に負値に調整するステップである、または、前記フェムト秒レーザー光の半値幅は2fsであって、前記フェムト秒レーザー光の波長は800nmであって、前記フェムト秒レーザー光の全値幅4fsにおける平均電界強度を前記フェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面の方向に正値に調整するステップである、ことを特徴とする前述の酸化グラフェン還元方法を提供する。
ここで、フェムト秒レーザー光による電界はその強度と正負の方向が時間に依存して変化しているので、平均電界強度とは電界の時間平均を指す。
そして、フェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面の上方に電場ベクトルが向くのを正、下方に向くのを負と呼称している。
【0014】
また、前記負値に調整するステップは、正の第1閾値と前記第1閾値の5倍の値を負とする負の第2閾値を調整するサブステップ(S301)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の1値幅0fsから1fsにおいて、電界強度を0より漸次第1閾値に増加するサブステップ(S302)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の2値幅1fsから2fsにおいて、電界強度を第1閾値より漸次第2閾値に減少するサブステップ(S303)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の3値幅2fsから3fsにおいて、電界強度を第2閾値より漸次第1閾値に増加するサブステップ(S304)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の4値幅3fsから4fsにおいて、電界強度を第1閾値より漸次0に減少するサブステップ(S305)とからなり、前記正値に調整するステップは、負の第3閾値と前記第3閾値の絶対値の5倍の値を正とする正の第4閾値を調整するサブステップ(S311)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の1値幅0fsから1fsにおいて、電界強度を0より漸次第3閾値に減少するサブステップ(S312)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の2値幅1fsから2fsにおいて、電界強度を第3閾値より漸次第4閾値に増加するサブステップ(S313)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の3値幅2fsから3fsにおいて、電界強度を第4閾値より漸次第3閾値に減少するサブステップ(S314)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の4値幅3fsから4fsにおいて、電界強度を第3閾値より漸次0に増加するサブステップ(S315)とからなる、ことを特徴とする前述の酸化グラフェン還元方法を提供する。
【0015】
次に、前記フェムト秒レーザー光の波形において該レーザー光の作る電場の最大値を10V/Åから20V/Åの間に調整するステップ、をさらに有することを特徴とする前述の酸化グラフェン還元方法を提供し、さらに、前記フェムト秒レーザー光を照射する際に前記酸化グラフェンシート状材料を窒素ガス雰囲気または水素ガス雰囲気にしておくステップ、をさらに有することを特徴とする前述の酸化グラフェン還元方法を提供する。
【0016】
本発明は、フェムト秒レーザーを照射することにより酸素原子だけをグラフェン表面より脱離させる方法であり、フェムト秒レーザーの波形と電界強度の設定に本発明の独自性を有する。
また、時間依存第一原理計算の結果から最適化されたフェムト秒レーザーの波形と電界の最大瞬間強度を予測しておき、実験を行う際にその条件を利用することで、効率よく酸素原子をグラフェンから抜き出すことを実現する。
【0017】
これにより、フェムト秒レーザーを照射する領域と照射しない領域とを分けることが可能なので、空間的に限定された場所で還元反応を起こし図2の構造を達成する。
図2の中央部にハッチされた部分では、酸化グラフェンは還元されて挿入図にあるようなグラフェンに特徴的な炭素原子が蜂の巣上に並んで結合した構造が実現している。
一方、ハッチのない部分では酸化グラフェンの構造が実現し、挿入図にあるように酸素原子の吸着によるエポキシ構造が出現している。
【0018】
よって本発明は、酸化グラフェンとグラフェンとの構造体であって、前記酸化グラフェンと前記グラフェンが同一平面内に化学結合しており、前記平面は前記酸化グラフェンの領域と前記グラフェンの領域とで分割されている、ことを特徴とするシート状材料を提供できる。
【0019】
また本発明は、前述の酸化グラフェン還元方法を用い、前記酸化グラフェンシート状材料においてフェムト秒レーザー光を照射する領域を制御された方法で選択して、酸化グラフェンとグラフェンとが同一平面内に存在するパターンを形成する方法を提供する。
領域が制御された方法の一例として図7に酸化グラフェン膜の中央部に電気伝導部として楕円形領域を画して形成されたパターンを示した。
さらに本発明は、上述した波形の形成と電界強度が調整されたフェムト秒レーザー光をグラフェンの表と裏の両面を水素で終端されたグラフェインのいずれか一方の面に照射して、グラフェインのいずれか一方の面からだけ選択的に水素原子を脱離させる方法を提供する。
またこのようにして得られたいずれか一方の面から水素原子が脱離したグラフェン構造体において、水素原子で終端されていない側の面に選択的にハロゲン原子を吸着させて、一方の面は水素終端、もう一方の面はハロゲン終端されたグラフェン構造体を得る方法を提供する。
同時に上述のハロゲン原子が塩素原子またはフッ素原子であることを特徴とするグラフェン構造体を得る方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は酸化グラフェン中の酸素原子をフェムト秒レーザー光の照射により酸素原子だけをグラフェン表面より脱離させる方法であるため、グラフェン領域の設計に柔軟性がある。
さらに、その波形と平均電界強度を調整することにより当該領域において酸素残存量を制御して伝導特性を設計することができるので幅広い応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は酸化グラフェン(下図)およびグラフェン(上図)の各原子結合模式図である。
【図2】図2は酸化グラフェンとグラフェンの構造体を表している。
【図3(a)】図3(a)はフェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に平均電界強度を負値に調整するステップの詳細フローチャートである。
【図3(b)】図3(b)はフェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に平均電界強度を正値に調整するステップの詳細フローチャートである。
【図4】図4(a)はフェムト秒レーザー光4fs時間幅での4種類の電界強度の波形を表した表で、図4(b)は4種類の電界強度の波形を有するフェムト秒レーザー光による酸素原子へ与える運動エネルギーの大きさの時間変化を表した表である。
【図5】図5はフェムト秒レーザー光が酸素原子へ与える運動エネルギー量と最大電界強度との関連性を示す表である。
【図6】図6はフェムト秒レーザー光照射による酸素原子脱離を示す酸化グラフェン還元工程の模式図である。
【図7】図7は酸化グラフェン膜の中央部に電気伝導部として楕円形領域を画して形成されたパターンを表している。
【図8】図8はグラフェンシートの両面が水素原子で終端されたグラフェインである。
【図9】図9は、図8のグラフェインにおいて上面の水素原子が脱離して下面の水素原子が残存してできたグラフェン構造体である。
【図10】図10は一の面が塩素原子で終端されて、もう一方の面が水素原子で終端されたグラフェン構造体である。
【図11】図11は第一原理計算により図10の構造を有する新しい層状グラフェン構造体の終端間電圧を評価するために周期あたり2層を水素終端面と水素終端面とが互いに向き合うように配置した図である。
【図12】図12は第一原理計算により図10の構造を有する新しい層状グラフェン構造体の終端間電圧を評価するために周期あたり2層を水素終端面と塩素終端面とが互いに向き合うように配置した図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0022】
上述した酸化グラフェンの還元方法を利用すると酸化グラフェン一層からなるシート状材料の狙った領域にグラフェン領域を設計できる。
具体的には、グラファイトを酸化させてから得られる一層の酸化グラフェンのシート状材料の狙った領域に、所定の方法で形成された波形と調整された正または負の平均電界強度を有するフェムト秒レーザー光を酸化グラフェン面上の酸素原子の吸着面が表面か裏面かに留意し適宜照射して該領域を還元する。
【0023】
また所定の方法で調整をした正および負の平均電界強度を有するフェムト秒レーザー光を該領域に正と負それぞれ1回ずつ適宜照射して該領域を還元すれば、その領域にある酸化グラフェンの酸素原子の整列の向きに留意せずに狙った通りのグラフェン領域を設計できる。
よって酸化グラフェン一層からなるシート状材料の同一平面内にグラフェン領域が設計された酸化グラフェンとグラフェンとの構造体が提供される。
【実施例2】
【0024】
本発明で利用するレーザー装置から照射されるフェムト秒レーザー光の波形は図4(a)の(i)から(iv)のように、光学セットアップを変えることにより様々な位相を実現できる。
いずれも、フェムト秒レーザー光のパルスは半値幅2fs、波長800nmであるが、本発明では特に、グラフェン層に垂直な分極方向をしているものを利用する。
またフェムト秒レーザー光は、特に断りがない限り、各図において上方から下方に向って照射される。
また酸化グラフェンの酸素原子の結合方向は、特に断りがない限り、図1において示したようにグラフェンの表面(図の上方向)とする。
【0025】
図4(a)の(i)から(iv)は、波形の位相をさまざまに変化させて得られたものであり、電界の最大瞬間強度は10V/Åに設定されている。
酸化グラフェンの還元方法は、まず酸化グラフェン一層からなるシート状材料とフェムト秒レーザー光を照射し得るレーザー装置とを準備し、次にフェムト秒レーザー光の波形の形成と電界強度を調整し、そして調整されたフェムト秒レーザー光を酸化グラフェンシート状材料の制御された領域に照射して酸化グラフェンをグラフェンに還元することによる。
【0026】
具体的には、図1に示される酸化グラフェンの還元は、フェムト秒レーザー光の全値幅4fsにおける平均電界強度をフェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に負値に調整してから該レーザー光を照射して行う。
また酸化グラフェンの酸素原子の結合方向が、図1とは反対にグラフェンの裏面(図の下方向)の場合は平均電界強度をフェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面の方向に正値に調整してから該レーザー光を照射して酸化グラフェンを還元する。
【0027】
より具体的に説明するため、図3(a)にフェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に平均電界強度を負値に調整するステップの詳細フローチャートと、図3(b)にフェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に平均電界強度を正値に調整するステップの詳細フローチャートを示す。
図3(a)と図3(b)各々のフローチャートの右側には各サブステップにより連続的に形成される波形に対応して、図3(a)には図4(a)の(iv)を、図3(b)には図4(a)の(ii)を模式図として示した。
【0028】
図3(a)詳細フローチャートにフェムト秒レーザー光の平均電界強度を負値に調整する波形の形成の処理とあわせてその模式図を示した。
具体的に、フェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に平均電界強度を負値に調整するステップは、正の第1閾値と前記第1閾値の5倍の値を負とする負の第2閾値を調整するサブステップ(S301)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の1値幅0fsから1fsにおいて、電界強度を0より漸次第1閾値に増加するサブステップ(S302)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の2値幅1fsから2fsにおいて、電界強度を第1閾値より漸次第2閾値に減少するサブステップ(S303)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の3値幅2fsから3fsにおいて、電界強度を第2閾値より漸次第1閾値に増加するサブステップ(S304)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の4値幅3fsから4fsにおいて、電界強度を第1閾値より漸次0に減少するサブステップ(S305)とから構成される。
【0029】
また図3(b)フローチャートにフェムト秒レーザー光の平均電界強度を正値に調整する波形の形成の処理とあわせてその模式図を示した。
具体的に、フェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に平均電界強度を正値に調整するステップは、負の第3閾値と前記第3閾値の絶対値の5倍の値を正とする正の第4閾値を調整するサブステップ(S311)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の1値幅0fsから1fsにおいて、電界強度を0より漸次第3閾値に減少するサブステップ(S312)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の2値幅1fsから2fsにおいて、電界強度を第3閾値より漸次第4閾値に増加するサブステップ(S313)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の3値幅2fsから3fsにおいて、電界強度を第4閾値より漸次第3閾値に減少するサブステップ(S314)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の4値幅3fsから4fsにおいて、電界強度を第3閾値より漸次0に増加するサブステップ(S315)とから構成される。
【0030】
時間依存第一原理計算(特許文献3、非特許文献7)の結果、これらのパルスは、高い運動エネルギーを酸素原子に集中して与えることができることが分かった。(図4(b)参照)
この運動の方向はグラフェンから遠ざかる方向である。
【0031】
その運動エネルギーの大きさは、フェムト秒レーザーによる電界強度の波形(図4(a)の(i)から(iv)に示されている。)に依存することが分かった。
図1に示すように酸化グラフェンの酸素原子の結合方向がグラフェンの表面(図の上方向)でありフェムト秒レーザー光を上方から下方に向って照射する時は、図4(a)の(iv)の位相の場合にもっとも大きな運動エネルギー(0.035eV)が得られているので、図4(a)の(iv)の波形のパルスが最も効率よく酸素原子に運動エネルギーを与えることができることが判明した。
【0032】
言い換えると、パルスにおいて、パルス電界の強度、および符号が時間に依存して変化している。
このパルス電界の強度と符号を、時間に対して平均をとった場合に、平均された電界の符号が負になる場合には、図1において電子雲がグラフェンから上方に向けた力を受け、平均された電界の符号が正になる場合には、電子雲がグラフェンから下方に向けた力を受ける。
【0033】
従ってグラフェンの上方の面に吸着した酸素原子を効率よく脱離させるには平均された電界の符号が負になるパルスが、グラフェンの下方の面に吸着した酸素原子を効率よく脱離させるには、平均された電界の符号が正になるパルスがもっとも効率が良いことがわかる。
【0034】
レーザー光の最大瞬間電界強度を12V/Åに上げて、図4(a)の(iv)の波形のパルスを照射させるシミュレーションをもう一度行うと酸素原子への運動エネルギーが0.08eVへと増大する。
レーザー光のエネルギー密度は電界強度の2乗に比例するが、今回の時間依存第一原理計算によるシミュレーションによると酸素原子へ与える運動エネルギー量の最大電界強度依存性はそれ以上の割合で増大している。
これは、電界が著しく大きい領域でのフェムト秒レーザー光照射が、酸化グラフェンの中で酸素原子にのみ極端に大きな運動エネルギーを与える傾向があることを示し、効率よく酸素原子を引き剥がすことができる可能性を示唆している。
【0035】
更に、レーザー光の最大瞬間電界強度を15V/Å、20V/Å、22V/Åにしたシミュレーションも行い、レーザー光の最大瞬間電界強度と、酸素原子に与える運動エネルギーの関係を図5に示した。
実際に、電子励起後の酸素原子が脱離の際に超えることが必要なエネルギー障壁は0.8eVから1.0eVと見積もられる。
【0036】
これは、電子の励起状態において解離エネルギーは電子の基底状態の際の解離エネルギーのおよそ5分の1になるという経験則(非特許文献8、図2)からの演繹である。
【0037】
図5に示した時間依存第一原理計算によるシミュレーションの結果、この運度エネルギーを酸素原子に与えるのに必要なフェムト秒レーザーの最大瞬間電界強度は20V/Åから22V/Åの範囲であることが分かった。(この結果得られた酸素脱離の詳細は後に記載の図6に示す。)
また、22V/Å以上に大きな電界強度はグラフェン部分の破壊につながるので推奨されない。
【0038】
フェムト秒レーザーのエネルギー密度は1/2ε0cE2(ε0は真空の誘電率、cは光速度、Eは電界強度)の式で与えられるので、電界強度10V/Åを達成する場合には、1.327×1015W/cm2のレーザーパワーが必要で、20V/Åを達成するにはその4倍のパワーが必要である。
このように大きなエネルギー密度を実現するレーザーパワーはすでに実験的に達成されていて、4×1015W/cm2が報告されている(非特許文献9)。
時間依存第一原理計算によるシミュレーションの結果、図6のように、最大瞬間電界強度20V/Åの場合には70fsの間に酸素原子はグラフェン表面から3Åに遠ざかり完全脱離することがわかった。
【0039】
以上の結果より、短いパルス幅のフェムト秒レーザー光を用いた、酸化グラフェンの還元方法が可能である。
またこの酸化グラフェンの還元方法を利用すると、グラファイトを酸化することによって得られた一層の酸化グラフェンの構造体に適宜フェムト秒レーザー光を照射して、酸化グラフェンの領域とグラフェンの領域とで任意に分割されたシート状材料を作成できることが明らかになった。
なお、この工程において酸素原子に残っている運動エネルギーは0.1eVであり、また炭素原子一個当たりの平均運動エネルギーはおよそその10分の1である。
したがって、フェムト秒レーザー光の照射による酸化グラフェンの還元において加熱が生じていないことが、本発明の特徴である。
【0040】
ここで、本発明の実施例の根拠となる第一原理計算によるシミュレーションは量子力学に立脚した原理に基づいた高精度数値計算なので、自然界で起こる現象を予測するのに有効であることを述べておく。
【0041】
図6に示した還元工程において放出された酸素原子は活性を有しているので再びグラフェン膜と化学反応を起こす可能性がある。
その確率を著しく減らすには、この還元工程を窒素ガス、あるいは水素ガス雰囲気中にて行うことが好ましい。
こうすると放出された酸素原子が雰囲気中のガスと反応して水、あるいは酸化窒素分子を構成するのでグラフェン膜と反応する確率が著しく下がる。
【実施例3】
【0042】
フェムト秒レーザー光を選択的な領域に照射することによる酸化グラフェン膜の部分的還元反応で、電気伝導領域のパターンニングができる。
領域が制御された方法の一例として図7に酸化グラフェン膜の中央部に電気伝導部として楕円形領域を画して形成されたパターンを示した。
【実施例4】
【0043】
実施例1の酸化グラフェンの還元方法で調整されたフェムト秒レーザー光は、他のグラフェン構造体に応用して新しいグラフェン構造体を得ることができる。
実施例4では、図9を用いて、図8に示したようなシート状グラフェンの両面が水素で終端されたグラフェィン(graphane)構造体(非特許文献7に記載)に実施例1の酸化グラフェン還元方法で波形の形成と電界強度が調整されたフェムト秒レーザー光をいずれか一方の面に照射して、選択的に片面の水素原子だけを脱離して片面が水素原子で終端されたグラフェン構造体を得る方法を示す。
【0044】
具体的には、フェムト秒レーザー装置を用いて図8の上方より、図3のレーザー光調整方法に示したパルス光のうち、光の電界強度の時間平均をとった場合に極性が負の方向になるフェムト秒レーザー光を照射すると、第一原理計算の結果、図9に示すように上面の水素原子だけが脱離させることができた。
【0045】
図9のような片側からだけの水素脱離を達成するには図3に示したレーザー電界強度の最大値を20V/Åに上げる必要がある。
また、図3に示したレーザー電界の極性を反転させた場合には、図9において下側の水素原子が脱離し上側の水素原子が残存するという結果になる。
【0046】
確認的に、フェムト秒レーザー光照射による照射部位近傍の温度上昇が残存する水素原子に与える影響について次のように検証した。
図9において脱離する水素原子を除く残りの原子に分布する平均運動エネルギーは、時間依存第一原理計算による数値データによれば約0.113eVである。
1eVが11600Kの温度に相当すること、Maxwell Boltzmann分布に従えば、3次元方向のエネルギー等分配法則は「(平均運動エネルギー)=3/2×(絶対温度)」の関係式を与えるので、この0.113eVは温度換算して0.113×11600×2/3=873Kと計算されて、すなわち600℃の温度上昇が生じることが見込まれる。
この温度では残存する水素に影響はなくグラフェン構造も容易に保持される。
【実施例5】
【0047】
さらに実施例5では、実施例4で得られたグラフェン構造体から、離脱した水素原子に代わって選択的にハロゲン原子を吸着させて片面がハロゲン原子、片面が水素原子からなる新しいグラフェン構造体を得る方法を示す。
図10のように、上側に水素が欠乏した状態で化学結合の価数が水素と同じ1であるハロゲンの吸着が可能である。
図10は塩素吸着の例を示した。
塩素吸着の場合には塩素分子の導入が考えられる。
図9における状態でサンプル表面温度が600℃の場合、塩素分子の解離吸着により図10の構造に至れば、最終的には発熱反応となり反応が進行することがわかっている。
しかしながら発熱エネルギーは塩素原子あたり0.78eVと少ない(通常の化学吸着では数eVの吸着エネルギーとされる)。
この理由は塩素原子の有効半径のためであり、吸着に伴う格子膨張(グラフェンの時の110%の格子定数になる)による格子ひずみエネルギーの蓄積が相殺してこのような小さな吸着エネルギーの値になっている。
【0048】
しかしながら、先に述べた図9の構造を得る際に達する表面温度の助けにより塩素原子の上側への吸着は可能である。
いくつかの塩素原子は下側に回り込んで水素終端された面にて水素との置換反応をするか、あるいは水素吸着していない面にて水素と同じ側に並んで吸着することが考えられる。
しかしながら、水素原子のいない側の化学活性が高いためと水素のある側への吸着における立体障害のため、この水素終端された面への吸着確率は10%以下であると見積もられる。
【0049】
このようにして得られた図10の構造体は、電子材料の観点から好都合な極性を持つ薄膜の性質を示すことを次に説明する。
極性を持つ層を、層に垂直な方向の周期あたり2層配置した周期境界条件のもとでの第一原理計算を行うため、図11に示すように、極性の同じ面が向き合うように2層を配置した。
層間の電位の数値計算は、塩素終端側は水素終端側より2.1V電位が高い特徴を持っている。
また、図12に示すように、図10の構造による層状物質が2層、水素終端面と塩素終端面が向き合うように並んだ場合には、0.0762V/Åの強度の電界が発生することが分かった。
【0050】
図10の構造において、塩素原子の代わりにフッ素原子で終端する構造も安定である。
この場合、フッ素分子の解離によるフッ素原子一個当たりの吸着エネルギーは4.1eVと高い。
塩素分子よりフッ素分子を解離する方がエネルギーを要するが、それでも塩素原子あたりと比較してフッ素原子あたりの吸着エネルギーが著しく高いのは吸着による格子ひずみが少ないからである。(フッ素吸着の場合に伴う格子膨張は、グラフェンの格子定数の103%の格子定数ですむ。)
【0051】
図10の構造にて塩素原子の代わりにフッ素原子が吸着した場合、フッ素終端側は水素終端側より電位が5.2Vも高くなることが第一原理計算により示された。
塩素よりもフッ素の方が層の表と裏の電荷移動が大きいことを示唆している。
また、この層状物質が2層、水素終端面とフッ素終端面が向き合うように並んだ場合には、0.29V/Åの強度の電界が発生することが分かった。
これは塩素終端の場合に発生する電界強度の約3.8倍である。
【0052】
以上より図10のように、片方の面を水素終端、もう片方の面をハロゲン(塩素、フッ素)終端する構造において、電位の差を層の両面にて発生することができる。
したがって、図10の構造を有する層状物質をもう一層近づけると、一層の水素終端面ともう一層のハロゲン終端面が向き合う場合にクーロン引力が働くことが予想される。
残念ながら周期境界条件を課する第一原理計算では、2層の物質が周期的に並んだモデルを計算することになる。
層に平行方向にも周期境界があり層の面積は無限大なので、平行平板によるクーロン力が平板間の距離に依存せず一定であることと、その平板が周期的に並んでいることによるクーロン力釣り合いの原理により、この引力を直接数値計算することはできない。
しかし、先に述べた電界強度の計算値より周期境界条件のない場合の層間の引力を見積もることが可能である。
ハロゲンが塩素の場合の電界強度は0.076V/Å、フッ素の場合が0.29V/Åだった。
しかし、この値は周期境界条件の基での算出なので、層の水素終端面とハロゲン終端面の両方の電荷の影響を受けている。
したがって、周期性のない孤立した2枚の層状物質において水素終端面とハロゲン終端面が向かい合った場合の電界強度は、計算された値の半分と見積もられる。
それぞれの場合において層間距離を15Åから4Åに11Å分だけ縮める場合を想定する。
この距離の間において電界強度は一定という仮定を取れば各層状物質あたりの層間引力は電界強度×11Åと見積もられ、塩素と水素終端の場合の引力は0.5×0.076×11=0.42eV、フッ素と水素終端の場合の引力は0.5×0.29×11=1.6eVの結合エネルギーで2枚の層が引き合うことが概算された。
これは、典型的なファンデアワールス引力より2桁以上大きな値である。
【0053】
一方で、極性が同じ面同士が向かい合った場合、すなわち水素終端面同士、ハロゲン終端面同士が向かい合った場合には引力を生じない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
その他、酸化グラフェンを太陽電池セル表面にコーティングしたのち。レーザー光で還元して導電性を持たせれば、透明電極の作成が可能である。
電極グラフェン中の酸素残余量を、レーザー光照射時間、強度などで調整することにより、電極における相反するパラメータである透明度と伝導度の全体最適化が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 炭素原子
2 酸素原子
3 グラフェン
4 酸化グラフェン
5 酸化グラフェン構造体
6 酸化グラフェン膜
7 レーザー照射による還元領域
8 グラフェン面の上側に吸着した水素原子
9 グラフェン面の下側に吸着した水素原子
10 離脱する水素原子
11 残存する水素原子
12 塩素原子
13 水素原子
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化グラフェン構造体、その製造方法、およびそれらによる電界効果トランジスタ作成工程に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新規低次元材料としてグラフェンが注目されている。
高い電子移動度、フレキシブルな材質、透明性と電気伝導性の両立など、電子材料としての可能性には推挙にいとまがない。
グラフェンによる電界効果トランジスタは、電子の移動度の高さから既存SiによるCMOSに変わる次世代トランジスタになると期待される。
【0003】
しかし、グラフェンのバンドギャップが小さいことがオン・オフ比を下げ動作中の電力消費量を上げるという欠点を持つ。
そのことを解消するために、グラフェンを短冊状にしたグラフェンリボンによるチャンネル構造が提案されているが、バンドギャップを得るために幅を数ナノのオーダーにしなくてはならず、作成は容易ではない。
【0004】
以上の困難な状況の中で、化学的工程によるグラフェン作成方法が注目を浴びている。
活性剤と溶液を利用し、溶液中グラファイトを超音波で分解し、グラフェンナノリボンを作成する方法(非特許文献3)が発表され、バンドギャップを作ることに成功した。
しかし、活性剤の残存によるトランジスタ性能劣化、すなわちキャリアー移動度の低下が生じる問題点がある。
【0005】
界面活性剤を使用する代わりに、グラファイトを酸化させ酸化グラフェンを得てからそれを剥離する方法(非特許文献4、特許文献1)がある。
酸化グラフェンでは図1の下段のように酸素がエポキシ構造(酸素原子が2個の炭素原子と結合した構造)、あるいは水酸基OHの酸素原子部位が炭素原子と結合した構造をつくり、水溶液中で一枚一枚のグラファイト層(グラフェン)がはがれやすくなる。
しかし、グラフェンに酸素原子が吸着したままでは電気抵抗が高く応用は不可能であり、還元反応で酸素を取り除く必要がある。(酸素を還元できれば、図1上段のグラフェンを得る。)
【0006】
還元方法としてはヒドラジン(N2H2)を利用した化学反応を使う方法(非特許文献5、特許文献2) が有名であるが、ミクロな解析(非特許文献6)によるとヒドラジンから解離した水素原子によりOH基が生成されそれが残留する問題や、還元効率が高温にしないと上がらないなどの問題がある。
【0007】
また、化学的工程を利用するプロセスでは空間的に選択的な還元を達成することは難しい。
しかし酸化グラフェンにおいて空間的に選択的な還元を実行できれば、一枚のグラフェン層において酸化グラフェンとグラフェンの作り分けが可能になり、電気絶縁部と伝導部の作り分けができてトランジスタの作成も期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−275186
【特許文献2】特開2010−248066
【特許文献3】特開2011−33476
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A.Renia,X.Jia,J.Ho,D.Nezich,H.Son,V.Bulovic,M.S.Dresselhaus,and J.Kong,Nano Lett.Vol.9,p30,2009
【非特許文献2】:Y.Lee,S.Bae,H.Jang,S.Jang,S.−E.Zhu,S.H.Sim,Y.I.Song,B.H.Hong,and J.−H.Ahn,Nano Lett.Vol.10,p490,2010
【非特許文献3】X.Li,X.Wang,L.Zhang,S.Lee,H.Dai,Science Vol.319,p1229,2008
【非特許文献4】D.Li,M.B.Muller,S.Gilje,R.B.Kaner,and G.G.Wallace,Nature Nanotechnol,Vol.3,p101,2008
【非特許文献5】V.C.Tung,M.J.Allen,Y.Yang,and R.B.Kaner,Nature Nanotech.Vol.4,p25,2009
【非特許文献6】M.C.Kim,G.S.Hwang,and R.S.Ruoff,J.Chem.Phys.Vol.131,p064704,2009
【非特許文献7】Y.Miyamoto and H.Zhang,Phys.Rev.B Vol.77,p165123,2008
【非特許文献8】Y.Miyamoto,O.Sugino,and Y.Mochizuki,Appl.Phys.Lett.,Vol.75,p2915,1999
【非特許文献9】Ch.Spielmann,N.H.Burnett,S.Sartania,R.Koppitsch,M.Schnurer,C.Kan,M.Lenzner,P.Wobrauschek and F.Krausz,Science Vol.278,p661,1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した様に一枚のグラフェン層において化学反応では、図2に示した膜全面が酸素吸着した酸化グラフェン構造が実現可能である。
これに化学的手法で酸化グラフェンの還元を実施しようとすると、一様または均一そうでなければランダムになりがちな化学的還元手法では領域の制御が困難で、図2のようにハッチされた限定的な場所での還元は不可能である。
すなわち一枚のグラフェン層において酸化グラフェンとグラフェンとの作り分けが必要とされる場合は、制御された領域で酸化グラフェンをグラフェンに還元できる方法を実現する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、グラファイトを酸化することによって得られた酸化グラフェンの構造体と、グラフェンデバイスに応用する技術に関する発明である。
図2のように空間的に仕切られた領域で酸化グラフェンとグラフェンが一層の中に共存する構造が本発明の酸化グラフェンの特徴である。
【0012】
本発明は、これを実現するために次のような方法を提供する。
酸化グラフェン還元方法であって、少なくとも酸化グラフェン一層からなるシート状材料とフェムト秒レーザー光を照射し得るレーザー装置とを準備するステップと、フェムト秒レーザー光の波形の形成と電界強度の調整をおこなうステップと、前記調整されたフェムト秒レーザー光を前記酸化グラフェンシート状材料の制御された領域に照射して前記酸化グラフェンをグラフェンに還元するステップと、からなることを特徴とする酸化グラフェン還元方法を提供する。
【0013】
また、前記フェムト秒レーザー光の波形の形成と電界強度の調整をおこなうステップは、前記フェムト秒レーザー光の半値幅は2fsであって、前記フェムト秒レーザー光の波長は800nmであって、前記フェムト秒レーザー光の全値幅4fsにおける平均電界強度を前記フェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に負値に調整するステップである、または、前記フェムト秒レーザー光の半値幅は2fsであって、前記フェムト秒レーザー光の波長は800nmであって、前記フェムト秒レーザー光の全値幅4fsにおける平均電界強度を前記フェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面の方向に正値に調整するステップである、ことを特徴とする前述の酸化グラフェン還元方法を提供する。
ここで、フェムト秒レーザー光による電界はその強度と正負の方向が時間に依存して変化しているので、平均電界強度とは電界の時間平均を指す。
そして、フェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面の上方に電場ベクトルが向くのを正、下方に向くのを負と呼称している。
【0014】
また、前記負値に調整するステップは、正の第1閾値と前記第1閾値の5倍の値を負とする負の第2閾値を調整するサブステップ(S301)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の1値幅0fsから1fsにおいて、電界強度を0より漸次第1閾値に増加するサブステップ(S302)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の2値幅1fsから2fsにおいて、電界強度を第1閾値より漸次第2閾値に減少するサブステップ(S303)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の3値幅2fsから3fsにおいて、電界強度を第2閾値より漸次第1閾値に増加するサブステップ(S304)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の4値幅3fsから4fsにおいて、電界強度を第1閾値より漸次0に減少するサブステップ(S305)とからなり、前記正値に調整するステップは、負の第3閾値と前記第3閾値の絶対値の5倍の値を正とする正の第4閾値を調整するサブステップ(S311)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の1値幅0fsから1fsにおいて、電界強度を0より漸次第3閾値に減少するサブステップ(S312)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の2値幅1fsから2fsにおいて、電界強度を第3閾値より漸次第4閾値に増加するサブステップ(S313)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の3値幅2fsから3fsにおいて、電界強度を第4閾値より漸次第3閾値に減少するサブステップ(S314)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の4値幅3fsから4fsにおいて、電界強度を第3閾値より漸次0に増加するサブステップ(S315)とからなる、ことを特徴とする前述の酸化グラフェン還元方法を提供する。
【0015】
次に、前記フェムト秒レーザー光の波形において該レーザー光の作る電場の最大値を10V/Åから20V/Åの間に調整するステップ、をさらに有することを特徴とする前述の酸化グラフェン還元方法を提供し、さらに、前記フェムト秒レーザー光を照射する際に前記酸化グラフェンシート状材料を窒素ガス雰囲気または水素ガス雰囲気にしておくステップ、をさらに有することを特徴とする前述の酸化グラフェン還元方法を提供する。
【0016】
本発明は、フェムト秒レーザーを照射することにより酸素原子だけをグラフェン表面より脱離させる方法であり、フェムト秒レーザーの波形と電界強度の設定に本発明の独自性を有する。
また、時間依存第一原理計算の結果から最適化されたフェムト秒レーザーの波形と電界の最大瞬間強度を予測しておき、実験を行う際にその条件を利用することで、効率よく酸素原子をグラフェンから抜き出すことを実現する。
【0017】
これにより、フェムト秒レーザーを照射する領域と照射しない領域とを分けることが可能なので、空間的に限定された場所で還元反応を起こし図2の構造を達成する。
図2の中央部にハッチされた部分では、酸化グラフェンは還元されて挿入図にあるようなグラフェンに特徴的な炭素原子が蜂の巣上に並んで結合した構造が実現している。
一方、ハッチのない部分では酸化グラフェンの構造が実現し、挿入図にあるように酸素原子の吸着によるエポキシ構造が出現している。
【0018】
よって本発明は、酸化グラフェンとグラフェンとの構造体であって、前記酸化グラフェンと前記グラフェンが同一平面内に化学結合しており、前記平面は前記酸化グラフェンの領域と前記グラフェンの領域とで分割されている、ことを特徴とするシート状材料を提供できる。
【0019】
また本発明は、前述の酸化グラフェン還元方法を用い、前記酸化グラフェンシート状材料においてフェムト秒レーザー光を照射する領域を制御された方法で選択して、酸化グラフェンとグラフェンとが同一平面内に存在するパターンを形成する方法を提供する。
領域が制御された方法の一例として図7に酸化グラフェン膜の中央部に電気伝導部として楕円形領域を画して形成されたパターンを示した。
さらに本発明は、上述した波形の形成と電界強度が調整されたフェムト秒レーザー光をグラフェンの表と裏の両面を水素で終端されたグラフェインのいずれか一方の面に照射して、グラフェインのいずれか一方の面からだけ選択的に水素原子を脱離させる方法を提供する。
またこのようにして得られたいずれか一方の面から水素原子が脱離したグラフェン構造体において、水素原子で終端されていない側の面に選択的にハロゲン原子を吸着させて、一方の面は水素終端、もう一方の面はハロゲン終端されたグラフェン構造体を得る方法を提供する。
同時に上述のハロゲン原子が塩素原子またはフッ素原子であることを特徴とするグラフェン構造体を得る方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は酸化グラフェン中の酸素原子をフェムト秒レーザー光の照射により酸素原子だけをグラフェン表面より脱離させる方法であるため、グラフェン領域の設計に柔軟性がある。
さらに、その波形と平均電界強度を調整することにより当該領域において酸素残存量を制御して伝導特性を設計することができるので幅広い応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は酸化グラフェン(下図)およびグラフェン(上図)の各原子結合模式図である。
【図2】図2は酸化グラフェンとグラフェンの構造体を表している。
【図3(a)】図3(a)はフェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に平均電界強度を負値に調整するステップの詳細フローチャートである。
【図3(b)】図3(b)はフェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に平均電界強度を正値に調整するステップの詳細フローチャートである。
【図4】図4(a)はフェムト秒レーザー光4fs時間幅での4種類の電界強度の波形を表した表で、図4(b)は4種類の電界強度の波形を有するフェムト秒レーザー光による酸素原子へ与える運動エネルギーの大きさの時間変化を表した表である。
【図5】図5はフェムト秒レーザー光が酸素原子へ与える運動エネルギー量と最大電界強度との関連性を示す表である。
【図6】図6はフェムト秒レーザー光照射による酸素原子脱離を示す酸化グラフェン還元工程の模式図である。
【図7】図7は酸化グラフェン膜の中央部に電気伝導部として楕円形領域を画して形成されたパターンを表している。
【図8】図8はグラフェンシートの両面が水素原子で終端されたグラフェインである。
【図9】図9は、図8のグラフェインにおいて上面の水素原子が脱離して下面の水素原子が残存してできたグラフェン構造体である。
【図10】図10は一の面が塩素原子で終端されて、もう一方の面が水素原子で終端されたグラフェン構造体である。
【図11】図11は第一原理計算により図10の構造を有する新しい層状グラフェン構造体の終端間電圧を評価するために周期あたり2層を水素終端面と水素終端面とが互いに向き合うように配置した図である。
【図12】図12は第一原理計算により図10の構造を有する新しい層状グラフェン構造体の終端間電圧を評価するために周期あたり2層を水素終端面と塩素終端面とが互いに向き合うように配置した図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0022】
上述した酸化グラフェンの還元方法を利用すると酸化グラフェン一層からなるシート状材料の狙った領域にグラフェン領域を設計できる。
具体的には、グラファイトを酸化させてから得られる一層の酸化グラフェンのシート状材料の狙った領域に、所定の方法で形成された波形と調整された正または負の平均電界強度を有するフェムト秒レーザー光を酸化グラフェン面上の酸素原子の吸着面が表面か裏面かに留意し適宜照射して該領域を還元する。
【0023】
また所定の方法で調整をした正および負の平均電界強度を有するフェムト秒レーザー光を該領域に正と負それぞれ1回ずつ適宜照射して該領域を還元すれば、その領域にある酸化グラフェンの酸素原子の整列の向きに留意せずに狙った通りのグラフェン領域を設計できる。
よって酸化グラフェン一層からなるシート状材料の同一平面内にグラフェン領域が設計された酸化グラフェンとグラフェンとの構造体が提供される。
【実施例2】
【0024】
本発明で利用するレーザー装置から照射されるフェムト秒レーザー光の波形は図4(a)の(i)から(iv)のように、光学セットアップを変えることにより様々な位相を実現できる。
いずれも、フェムト秒レーザー光のパルスは半値幅2fs、波長800nmであるが、本発明では特に、グラフェン層に垂直な分極方向をしているものを利用する。
またフェムト秒レーザー光は、特に断りがない限り、各図において上方から下方に向って照射される。
また酸化グラフェンの酸素原子の結合方向は、特に断りがない限り、図1において示したようにグラフェンの表面(図の上方向)とする。
【0025】
図4(a)の(i)から(iv)は、波形の位相をさまざまに変化させて得られたものであり、電界の最大瞬間強度は10V/Åに設定されている。
酸化グラフェンの還元方法は、まず酸化グラフェン一層からなるシート状材料とフェムト秒レーザー光を照射し得るレーザー装置とを準備し、次にフェムト秒レーザー光の波形の形成と電界強度を調整し、そして調整されたフェムト秒レーザー光を酸化グラフェンシート状材料の制御された領域に照射して酸化グラフェンをグラフェンに還元することによる。
【0026】
具体的には、図1に示される酸化グラフェンの還元は、フェムト秒レーザー光の全値幅4fsにおける平均電界強度をフェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に負値に調整してから該レーザー光を照射して行う。
また酸化グラフェンの酸素原子の結合方向が、図1とは反対にグラフェンの裏面(図の下方向)の場合は平均電界強度をフェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面の方向に正値に調整してから該レーザー光を照射して酸化グラフェンを還元する。
【0027】
より具体的に説明するため、図3(a)にフェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に平均電界強度を負値に調整するステップの詳細フローチャートと、図3(b)にフェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に平均電界強度を正値に調整するステップの詳細フローチャートを示す。
図3(a)と図3(b)各々のフローチャートの右側には各サブステップにより連続的に形成される波形に対応して、図3(a)には図4(a)の(iv)を、図3(b)には図4(a)の(ii)を模式図として示した。
【0028】
図3(a)詳細フローチャートにフェムト秒レーザー光の平均電界強度を負値に調整する波形の形成の処理とあわせてその模式図を示した。
具体的に、フェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に平均電界強度を負値に調整するステップは、正の第1閾値と前記第1閾値の5倍の値を負とする負の第2閾値を調整するサブステップ(S301)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の1値幅0fsから1fsにおいて、電界強度を0より漸次第1閾値に増加するサブステップ(S302)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の2値幅1fsから2fsにおいて、電界強度を第1閾値より漸次第2閾値に減少するサブステップ(S303)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の3値幅2fsから3fsにおいて、電界強度を第2閾値より漸次第1閾値に増加するサブステップ(S304)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の4値幅3fsから4fsにおいて、電界強度を第1閾値より漸次0に減少するサブステップ(S305)とから構成される。
【0029】
また図3(b)フローチャートにフェムト秒レーザー光の平均電界強度を正値に調整する波形の形成の処理とあわせてその模式図を示した。
具体的に、フェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に平均電界強度を正値に調整するステップは、負の第3閾値と前記第3閾値の絶対値の5倍の値を正とする正の第4閾値を調整するサブステップ(S311)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の1値幅0fsから1fsにおいて、電界強度を0より漸次第3閾値に減少するサブステップ(S312)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の2値幅1fsから2fsにおいて、電界強度を第3閾値より漸次第4閾値に増加するサブステップ(S313)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の3値幅2fsから3fsにおいて、電界強度を第4閾値より漸次第3閾値に減少するサブステップ(S314)と、前記フェムト秒レーザー光の4分の4値幅3fsから4fsにおいて、電界強度を第3閾値より漸次0に増加するサブステップ(S315)とから構成される。
【0030】
時間依存第一原理計算(特許文献3、非特許文献7)の結果、これらのパルスは、高い運動エネルギーを酸素原子に集中して与えることができることが分かった。(図4(b)参照)
この運動の方向はグラフェンから遠ざかる方向である。
【0031】
その運動エネルギーの大きさは、フェムト秒レーザーによる電界強度の波形(図4(a)の(i)から(iv)に示されている。)に依存することが分かった。
図1に示すように酸化グラフェンの酸素原子の結合方向がグラフェンの表面(図の上方向)でありフェムト秒レーザー光を上方から下方に向って照射する時は、図4(a)の(iv)の位相の場合にもっとも大きな運動エネルギー(0.035eV)が得られているので、図4(a)の(iv)の波形のパルスが最も効率よく酸素原子に運動エネルギーを与えることができることが判明した。
【0032】
言い換えると、パルスにおいて、パルス電界の強度、および符号が時間に依存して変化している。
このパルス電界の強度と符号を、時間に対して平均をとった場合に、平均された電界の符号が負になる場合には、図1において電子雲がグラフェンから上方に向けた力を受け、平均された電界の符号が正になる場合には、電子雲がグラフェンから下方に向けた力を受ける。
【0033】
従ってグラフェンの上方の面に吸着した酸素原子を効率よく脱離させるには平均された電界の符号が負になるパルスが、グラフェンの下方の面に吸着した酸素原子を効率よく脱離させるには、平均された電界の符号が正になるパルスがもっとも効率が良いことがわかる。
【0034】
レーザー光の最大瞬間電界強度を12V/Åに上げて、図4(a)の(iv)の波形のパルスを照射させるシミュレーションをもう一度行うと酸素原子への運動エネルギーが0.08eVへと増大する。
レーザー光のエネルギー密度は電界強度の2乗に比例するが、今回の時間依存第一原理計算によるシミュレーションによると酸素原子へ与える運動エネルギー量の最大電界強度依存性はそれ以上の割合で増大している。
これは、電界が著しく大きい領域でのフェムト秒レーザー光照射が、酸化グラフェンの中で酸素原子にのみ極端に大きな運動エネルギーを与える傾向があることを示し、効率よく酸素原子を引き剥がすことができる可能性を示唆している。
【0035】
更に、レーザー光の最大瞬間電界強度を15V/Å、20V/Å、22V/Åにしたシミュレーションも行い、レーザー光の最大瞬間電界強度と、酸素原子に与える運動エネルギーの関係を図5に示した。
実際に、電子励起後の酸素原子が脱離の際に超えることが必要なエネルギー障壁は0.8eVから1.0eVと見積もられる。
【0036】
これは、電子の励起状態において解離エネルギーは電子の基底状態の際の解離エネルギーのおよそ5分の1になるという経験則(非特許文献8、図2)からの演繹である。
【0037】
図5に示した時間依存第一原理計算によるシミュレーションの結果、この運度エネルギーを酸素原子に与えるのに必要なフェムト秒レーザーの最大瞬間電界強度は20V/Åから22V/Åの範囲であることが分かった。(この結果得られた酸素脱離の詳細は後に記載の図6に示す。)
また、22V/Å以上に大きな電界強度はグラフェン部分の破壊につながるので推奨されない。
【0038】
フェムト秒レーザーのエネルギー密度は1/2ε0cE2(ε0は真空の誘電率、cは光速度、Eは電界強度)の式で与えられるので、電界強度10V/Åを達成する場合には、1.327×1015W/cm2のレーザーパワーが必要で、20V/Åを達成するにはその4倍のパワーが必要である。
このように大きなエネルギー密度を実現するレーザーパワーはすでに実験的に達成されていて、4×1015W/cm2が報告されている(非特許文献9)。
時間依存第一原理計算によるシミュレーションの結果、図6のように、最大瞬間電界強度20V/Åの場合には70fsの間に酸素原子はグラフェン表面から3Åに遠ざかり完全脱離することがわかった。
【0039】
以上の結果より、短いパルス幅のフェムト秒レーザー光を用いた、酸化グラフェンの還元方法が可能である。
またこの酸化グラフェンの還元方法を利用すると、グラファイトを酸化することによって得られた一層の酸化グラフェンの構造体に適宜フェムト秒レーザー光を照射して、酸化グラフェンの領域とグラフェンの領域とで任意に分割されたシート状材料を作成できることが明らかになった。
なお、この工程において酸素原子に残っている運動エネルギーは0.1eVであり、また炭素原子一個当たりの平均運動エネルギーはおよそその10分の1である。
したがって、フェムト秒レーザー光の照射による酸化グラフェンの還元において加熱が生じていないことが、本発明の特徴である。
【0040】
ここで、本発明の実施例の根拠となる第一原理計算によるシミュレーションは量子力学に立脚した原理に基づいた高精度数値計算なので、自然界で起こる現象を予測するのに有効であることを述べておく。
【0041】
図6に示した還元工程において放出された酸素原子は活性を有しているので再びグラフェン膜と化学反応を起こす可能性がある。
その確率を著しく減らすには、この還元工程を窒素ガス、あるいは水素ガス雰囲気中にて行うことが好ましい。
こうすると放出された酸素原子が雰囲気中のガスと反応して水、あるいは酸化窒素分子を構成するのでグラフェン膜と反応する確率が著しく下がる。
【実施例3】
【0042】
フェムト秒レーザー光を選択的な領域に照射することによる酸化グラフェン膜の部分的還元反応で、電気伝導領域のパターンニングができる。
領域が制御された方法の一例として図7に酸化グラフェン膜の中央部に電気伝導部として楕円形領域を画して形成されたパターンを示した。
【実施例4】
【0043】
実施例1の酸化グラフェンの還元方法で調整されたフェムト秒レーザー光は、他のグラフェン構造体に応用して新しいグラフェン構造体を得ることができる。
実施例4では、図9を用いて、図8に示したようなシート状グラフェンの両面が水素で終端されたグラフェィン(graphane)構造体(非特許文献7に記載)に実施例1の酸化グラフェン還元方法で波形の形成と電界強度が調整されたフェムト秒レーザー光をいずれか一方の面に照射して、選択的に片面の水素原子だけを脱離して片面が水素原子で終端されたグラフェン構造体を得る方法を示す。
【0044】
具体的には、フェムト秒レーザー装置を用いて図8の上方より、図3のレーザー光調整方法に示したパルス光のうち、光の電界強度の時間平均をとった場合に極性が負の方向になるフェムト秒レーザー光を照射すると、第一原理計算の結果、図9に示すように上面の水素原子だけが脱離させることができた。
【0045】
図9のような片側からだけの水素脱離を達成するには図3に示したレーザー電界強度の最大値を20V/Åに上げる必要がある。
また、図3に示したレーザー電界の極性を反転させた場合には、図9において下側の水素原子が脱離し上側の水素原子が残存するという結果になる。
【0046】
確認的に、フェムト秒レーザー光照射による照射部位近傍の温度上昇が残存する水素原子に与える影響について次のように検証した。
図9において脱離する水素原子を除く残りの原子に分布する平均運動エネルギーは、時間依存第一原理計算による数値データによれば約0.113eVである。
1eVが11600Kの温度に相当すること、Maxwell Boltzmann分布に従えば、3次元方向のエネルギー等分配法則は「(平均運動エネルギー)=3/2×(絶対温度)」の関係式を与えるので、この0.113eVは温度換算して0.113×11600×2/3=873Kと計算されて、すなわち600℃の温度上昇が生じることが見込まれる。
この温度では残存する水素に影響はなくグラフェン構造も容易に保持される。
【実施例5】
【0047】
さらに実施例5では、実施例4で得られたグラフェン構造体から、離脱した水素原子に代わって選択的にハロゲン原子を吸着させて片面がハロゲン原子、片面が水素原子からなる新しいグラフェン構造体を得る方法を示す。
図10のように、上側に水素が欠乏した状態で化学結合の価数が水素と同じ1であるハロゲンの吸着が可能である。
図10は塩素吸着の例を示した。
塩素吸着の場合には塩素分子の導入が考えられる。
図9における状態でサンプル表面温度が600℃の場合、塩素分子の解離吸着により図10の構造に至れば、最終的には発熱反応となり反応が進行することがわかっている。
しかしながら発熱エネルギーは塩素原子あたり0.78eVと少ない(通常の化学吸着では数eVの吸着エネルギーとされる)。
この理由は塩素原子の有効半径のためであり、吸着に伴う格子膨張(グラフェンの時の110%の格子定数になる)による格子ひずみエネルギーの蓄積が相殺してこのような小さな吸着エネルギーの値になっている。
【0048】
しかしながら、先に述べた図9の構造を得る際に達する表面温度の助けにより塩素原子の上側への吸着は可能である。
いくつかの塩素原子は下側に回り込んで水素終端された面にて水素との置換反応をするか、あるいは水素吸着していない面にて水素と同じ側に並んで吸着することが考えられる。
しかしながら、水素原子のいない側の化学活性が高いためと水素のある側への吸着における立体障害のため、この水素終端された面への吸着確率は10%以下であると見積もられる。
【0049】
このようにして得られた図10の構造体は、電子材料の観点から好都合な極性を持つ薄膜の性質を示すことを次に説明する。
極性を持つ層を、層に垂直な方向の周期あたり2層配置した周期境界条件のもとでの第一原理計算を行うため、図11に示すように、極性の同じ面が向き合うように2層を配置した。
層間の電位の数値計算は、塩素終端側は水素終端側より2.1V電位が高い特徴を持っている。
また、図12に示すように、図10の構造による層状物質が2層、水素終端面と塩素終端面が向き合うように並んだ場合には、0.0762V/Åの強度の電界が発生することが分かった。
【0050】
図10の構造において、塩素原子の代わりにフッ素原子で終端する構造も安定である。
この場合、フッ素分子の解離によるフッ素原子一個当たりの吸着エネルギーは4.1eVと高い。
塩素分子よりフッ素分子を解離する方がエネルギーを要するが、それでも塩素原子あたりと比較してフッ素原子あたりの吸着エネルギーが著しく高いのは吸着による格子ひずみが少ないからである。(フッ素吸着の場合に伴う格子膨張は、グラフェンの格子定数の103%の格子定数ですむ。)
【0051】
図10の構造にて塩素原子の代わりにフッ素原子が吸着した場合、フッ素終端側は水素終端側より電位が5.2Vも高くなることが第一原理計算により示された。
塩素よりもフッ素の方が層の表と裏の電荷移動が大きいことを示唆している。
また、この層状物質が2層、水素終端面とフッ素終端面が向き合うように並んだ場合には、0.29V/Åの強度の電界が発生することが分かった。
これは塩素終端の場合に発生する電界強度の約3.8倍である。
【0052】
以上より図10のように、片方の面を水素終端、もう片方の面をハロゲン(塩素、フッ素)終端する構造において、電位の差を層の両面にて発生することができる。
したがって、図10の構造を有する層状物質をもう一層近づけると、一層の水素終端面ともう一層のハロゲン終端面が向き合う場合にクーロン引力が働くことが予想される。
残念ながら周期境界条件を課する第一原理計算では、2層の物質が周期的に並んだモデルを計算することになる。
層に平行方向にも周期境界があり層の面積は無限大なので、平行平板によるクーロン力が平板間の距離に依存せず一定であることと、その平板が周期的に並んでいることによるクーロン力釣り合いの原理により、この引力を直接数値計算することはできない。
しかし、先に述べた電界強度の計算値より周期境界条件のない場合の層間の引力を見積もることが可能である。
ハロゲンが塩素の場合の電界強度は0.076V/Å、フッ素の場合が0.29V/Åだった。
しかし、この値は周期境界条件の基での算出なので、層の水素終端面とハロゲン終端面の両方の電荷の影響を受けている。
したがって、周期性のない孤立した2枚の層状物質において水素終端面とハロゲン終端面が向かい合った場合の電界強度は、計算された値の半分と見積もられる。
それぞれの場合において層間距離を15Åから4Åに11Å分だけ縮める場合を想定する。
この距離の間において電界強度は一定という仮定を取れば各層状物質あたりの層間引力は電界強度×11Åと見積もられ、塩素と水素終端の場合の引力は0.5×0.076×11=0.42eV、フッ素と水素終端の場合の引力は0.5×0.29×11=1.6eVの結合エネルギーで2枚の層が引き合うことが概算された。
これは、典型的なファンデアワールス引力より2桁以上大きな値である。
【0053】
一方で、極性が同じ面同士が向かい合った場合、すなわち水素終端面同士、ハロゲン終端面同士が向かい合った場合には引力を生じない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
その他、酸化グラフェンを太陽電池セル表面にコーティングしたのち。レーザー光で還元して導電性を持たせれば、透明電極の作成が可能である。
電極グラフェン中の酸素残余量を、レーザー光照射時間、強度などで調整することにより、電極における相反するパラメータである透明度と伝導度の全体最適化が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 炭素原子
2 酸素原子
3 グラフェン
4 酸化グラフェン
5 酸化グラフェン構造体
6 酸化グラフェン膜
7 レーザー照射による還元領域
8 グラフェン面の上側に吸着した水素原子
9 グラフェン面の下側に吸着した水素原子
10 離脱する水素原子
11 残存する水素原子
12 塩素原子
13 水素原子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化グラフェンとグラフェンとの構造体であって、
前記酸化グラフェンと前記グラフェンとが同一平面上に化学結合をして形成され、
前記平面は前記酸化グラフェンの領域と前記グラフェンの領域とで分割されている、
ことを特徴とするシート状材料。
【請求項2】
酸化グラフェン還元方法であって、
少なくとも酸化グラフェン一層からなるシート状材料とフェムト秒レーザー光を照射し得るレーザー装置とを準備するステップと、
前記フェムト秒レーザー光の波形の形成と電界強度を調整するステップと、
前記調整されたフェムト秒レーザー光を前記酸化グラフェンシート状材料の制御された領域に照射して前記酸化グラフェンをグラフェンに還元するステップと、
からなることを特徴とする酸化グラフェン還元方法。
【請求項3】
前記フェムト秒レーザー光の波形の形成と電界強度を調整するステップは、
前記フェムト秒レーザー光の半値幅は2fsであって、
前記フェムト秒レーザー光の波長は800nmであって、
前記フェムト秒レーザー光の全値幅4fsにおける平均電界強度を前記フェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に負値に調整するステップである、
または、
前記フェムト秒レーザー光の半値幅は2fsであって、
前記フェムト秒レーザー光の波長は800nmであって、
前記フェムト秒レーザー光の全値幅4fsにおける平均電界強度を前記フェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面の方向に正値に調整するステップである、
ことを特徴とする請求項2に記載の酸化グラフェン還元方法。
【請求項4】
前記負値に調整するステップは、
正の第1閾値と前記第1閾値の5倍の値を負とする負の第2閾値を調整するサブステップと、
前記フェムト秒レーザー光の4分の1値幅0fsから1fsにおいて、電界強度を0より漸次第1閾値に増加するサブステップと、
前記フェムト秒レーザー光の4分の2値幅1fsから2fsにおいて、電界強度を第1閾値より漸次第2閾値に減少するサブステップと、
前記フェムト秒レーザー光の4分の3値幅2fsから3fsにおいて、電界強度を第2閾値より漸次第1閾値に増加するサブステップと、
前記フェムト秒レーザー光の4分の4値幅3fsから4fsにおいて、電界強度を第1閾値より漸次0に減少するサブステップとからなり、
前記正値に調整するステップは、
負の第3閾値と前記第3閾値の絶対値の5倍の値を正とする正の第4閾値を調整するサブステップと、
前記フェムト秒レーザー光の4分の1値幅0fsから1fsにおいて、電界強度を0より漸次第3閾値に減少するサブステップと、
前記フェムト秒レーザー光の4分の2値幅1fsから2fsにおいて、電界強度を第3閾値より漸次第4閾値に増加するサブステップと、
前記フェムト秒レーザー光の4分の3値幅2fsから3fsにおいて、電界強度を第4閾値より漸次第3閾値に減少するサブステップと、
前記フェムト秒レーザー光の4分の4値幅3fsから4fsにおいて、電界強度を第3閾値より漸次0に増加するサブステップとからなる、
ことを特徴とする請求項4に記載の酸化グラフェン還元方法。
【請求項5】
前記フェムト秒レーザー光の波形において該レーザー光の作る電場の最大値を10V/Åから20V/Åの間に調整するステップ、
をさらに有することを特徴とする請求項2乃至請求項4に記載の酸化グラフェン還元方法。
【請求項6】
前記フェムト秒レーザー光を照射する際に前記酸化グラフェンシート状材料を窒素ガス雰囲気または水素ガス雰囲気にしておくステップ、
をさらに有することを特徴とする請求項2乃至請求項5に記載の酸化グラフェン還元方法。
【請求項7】
請求項2乃至請求項6に記載のいずれかひとつの酸化グラフェン還元方法を用い、
前記酸化グラフェンシート状材料においてフェムト秒レーザー光を照射する領域を制御された方法で選択して、
酸化グラフェンとグラフェンとが同一平面内に存在するパターンを形成する方法。
【請求項8】
請求項3、或いは請求項4に記載された波形の形成と電界強度が調整されたフェムト秒レーザー光をグラフェンの表と裏の両面を水素で終端されたグラフェインのいずれか一方の面に照射して、前記グラフェインのいずれか一方の面からだけ選択的に水素原子を脱離させる方法。
【請求項9】
請求項8にて得られたいずれか一方の面から水素原子が脱離したグラフェン構造体において、水素原子で終端されていない側の面に選択的にハロゲン原子を吸着させて、一方の面は水素終端、もう一方の面はハロゲン終端されたグラフェン構造体を得る方法。
【請求項10】
前記ハロゲン原子が塩素原子またはフッ素原子であることを特徴とする請求項9に記載のグラフェン構造体を得る方法。
【請求項1】
酸化グラフェンとグラフェンとの構造体であって、
前記酸化グラフェンと前記グラフェンとが同一平面上に化学結合をして形成され、
前記平面は前記酸化グラフェンの領域と前記グラフェンの領域とで分割されている、
ことを特徴とするシート状材料。
【請求項2】
酸化グラフェン還元方法であって、
少なくとも酸化グラフェン一層からなるシート状材料とフェムト秒レーザー光を照射し得るレーザー装置とを準備するステップと、
前記フェムト秒レーザー光の波形の形成と電界強度を調整するステップと、
前記調整されたフェムト秒レーザー光を前記酸化グラフェンシート状材料の制御された領域に照射して前記酸化グラフェンをグラフェンに還元するステップと、
からなることを特徴とする酸化グラフェン還元方法。
【請求項3】
前記フェムト秒レーザー光の波形の形成と電界強度を調整するステップは、
前記フェムト秒レーザー光の半値幅は2fsであって、
前記フェムト秒レーザー光の波長は800nmであって、
前記フェムト秒レーザー光の全値幅4fsにおける平均電界強度を前記フェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面方向に負値に調整するステップである、
または、
前記フェムト秒レーザー光の半値幅は2fsであって、
前記フェムト秒レーザー光の波長は800nmであって、
前記フェムト秒レーザー光の全値幅4fsにおける平均電界強度を前記フェムト秒レーザー光が照射されるグラフェン面の方向に正値に調整するステップである、
ことを特徴とする請求項2に記載の酸化グラフェン還元方法。
【請求項4】
前記負値に調整するステップは、
正の第1閾値と前記第1閾値の5倍の値を負とする負の第2閾値を調整するサブステップと、
前記フェムト秒レーザー光の4分の1値幅0fsから1fsにおいて、電界強度を0より漸次第1閾値に増加するサブステップと、
前記フェムト秒レーザー光の4分の2値幅1fsから2fsにおいて、電界強度を第1閾値より漸次第2閾値に減少するサブステップと、
前記フェムト秒レーザー光の4分の3値幅2fsから3fsにおいて、電界強度を第2閾値より漸次第1閾値に増加するサブステップと、
前記フェムト秒レーザー光の4分の4値幅3fsから4fsにおいて、電界強度を第1閾値より漸次0に減少するサブステップとからなり、
前記正値に調整するステップは、
負の第3閾値と前記第3閾値の絶対値の5倍の値を正とする正の第4閾値を調整するサブステップと、
前記フェムト秒レーザー光の4分の1値幅0fsから1fsにおいて、電界強度を0より漸次第3閾値に減少するサブステップと、
前記フェムト秒レーザー光の4分の2値幅1fsから2fsにおいて、電界強度を第3閾値より漸次第4閾値に増加するサブステップと、
前記フェムト秒レーザー光の4分の3値幅2fsから3fsにおいて、電界強度を第4閾値より漸次第3閾値に減少するサブステップと、
前記フェムト秒レーザー光の4分の4値幅3fsから4fsにおいて、電界強度を第3閾値より漸次0に増加するサブステップとからなる、
ことを特徴とする請求項4に記載の酸化グラフェン還元方法。
【請求項5】
前記フェムト秒レーザー光の波形において該レーザー光の作る電場の最大値を10V/Åから20V/Åの間に調整するステップ、
をさらに有することを特徴とする請求項2乃至請求項4に記載の酸化グラフェン還元方法。
【請求項6】
前記フェムト秒レーザー光を照射する際に前記酸化グラフェンシート状材料を窒素ガス雰囲気または水素ガス雰囲気にしておくステップ、
をさらに有することを特徴とする請求項2乃至請求項5に記載の酸化グラフェン還元方法。
【請求項7】
請求項2乃至請求項6に記載のいずれかひとつの酸化グラフェン還元方法を用い、
前記酸化グラフェンシート状材料においてフェムト秒レーザー光を照射する領域を制御された方法で選択して、
酸化グラフェンとグラフェンとが同一平面内に存在するパターンを形成する方法。
【請求項8】
請求項3、或いは請求項4に記載された波形の形成と電界強度が調整されたフェムト秒レーザー光をグラフェンの表と裏の両面を水素で終端されたグラフェインのいずれか一方の面に照射して、前記グラフェインのいずれか一方の面からだけ選択的に水素原子を脱離させる方法。
【請求項9】
請求項8にて得られたいずれか一方の面から水素原子が脱離したグラフェン構造体において、水素原子で終端されていない側の面に選択的にハロゲン原子を吸着させて、一方の面は水素終端、もう一方の面はハロゲン終端されたグラフェン構造体を得る方法。
【請求項10】
前記ハロゲン原子が塩素原子またはフッ素原子であることを特徴とする請求項9に記載のグラフェン構造体を得る方法。
【図1】
【図2】
【図3(a)】
【図3(b)】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3(a)】
【図3(b)】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−35739(P2013−35739A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212270(P2011−212270)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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