説明

酸化スズ系超微粒子含有コーティング剤

【課題】密着性や印刷性等の他の物性を低下させることなく、コロナ放電処理等の物理的表面処理が施されていないフィルムやシートに対しても優れた塗工性を発現する酸化スズ系超微粒子含有コーティング剤を提供する。
【解決手段】水分散性高分子、酸化スズ系超微粒子、親水性有機溶剤、水を含有し、水分散性高分子100質量部にする酸化スズ系超微粒子の含有量が100〜10000質量部であり、かつ、固形分濃度が0.1〜8質量%であり、かつ、親水性有機溶剤の含有量が30質量%以上のコーティング剤であって、温度20℃、剪断速度20.40s−1での粘度が50〜500mPa・sであることを特徴とするコーティング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密着性や耐水性等を損なうことなく、良好な塗膜形成および仕上がり外観を得る酸化スズ系超微粒子含有コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂のフィルムやシートは単体で使われることは少なく、用途に応じて表面改質処理が施される。例えば、電子材料等の包装として使用するためには、一般に表面に帯電防止性能が付与される。帯電防止処理の手法として、酸化スズ系超微粒子含有コーティング剤を塗工する方法が挙げられる(特許文献1、2)。
【0003】
一般的に酸化スズ系微粒子を含有するコーティング剤は水系であるが、フィルムやシートの表面は疎水性が高いため塗工性が悪い。そのため水系のコーティング剤を塗工する場合、表面にコロナ放電処理などの動的表面処理を施して表面を親水化し、塗工性を向上させた基材が用いられる(特許文献1、2参照)。コロナ放電処理は、基材の性質を損なうことなく表面を改質できるため非常に有効な方法であるが、コロナ放電処理を施すという工程の煩わしさに加え、基材によっては長期間保存中にコロナ放電処理の効果が徐々に消失し、塗工性が悪化するといったトラブルが発生する問題がある。
【0004】
そのほかの塗工性改善方法としてはコーティング剤中の有機溶剤の含有量を高くする方法や界面活性剤を添加する方法、増粘剤を添加する方法が考えられる。しかしながら、水中で分散安定化されている酸化スズ系超微粒子を用いる系において、溶剤含有量を増やすと凝集物が発生する場合があり、凝集物が発生しない場合でも溶剤含有量を増やすことで固形分濃度が低下するうえに、コーティング剤が過度にぬれ広がることで適度な塗工厚みを得ることができず、乾燥ムラや塗工ムラができて外観や表面状態が悪くなる場合がある。また界面活性剤を加えると、特許文献1にも記載されているように(発明の実施の形態の項)、一般に塗膜の密着性が劣化するという問題や界面活性剤がブリードアウトするという問題が発生する。同様に増粘剤を加える場合も、密着性が劣化するという問題が生じる。
【0005】
【特許文献1】特開2002−80775号公報
【特許文献2】特開2002−226775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、密着性や印刷性等の性能を低下させることなく、コロナ放電処理等の物理的表面処理が施されていないフィルムやシートに対しても優れた塗工性を発現する酸化スズ系超微粒子含有コーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、水分散性高分子100質量部に対して、酸化スズ系超微粒子を100〜10000質量部含有し、かつ、コーティング剤の固形分濃度を8質量%以下とし、かつ、30質量%以上の親水性有機溶剤を含有させ、かつ適度な粘度を付与することで、コロナ放電処理などの物理的表面処理が施されていない基材に対しても、密着性や印刷性等の物性を低下させることなく、充分な塗工性を付与できると共に良好な仕上がり外観を得ることができることを見出し、この知見に基づいて本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明の要旨は下記の通りである。
(1)水分散性高分子、酸化スズ系超微粒子、親水性有機溶剤、水を含有し、水分散性高分子100質量部にする酸化スズ系超微粒子の含有量が100〜10000質量部であり、かつ、固形分濃度が0.1〜8質量%であり、かつ、親水性有機溶剤の含有量が30質量%以上のコーティング剤であって、温度20℃、剪断速度20.40s−1での粘度が50〜500mPa・sであることを特徴とするコーティング剤。
(2)温度20℃、剪断速度1.02s−1での粘度が1000〜7000mPa・sであることを特徴とする(1)記載のコーティング剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコーティング剤によれば、コロナ放電処理などの物理的表面処理が施されていない基材表面にも密着性、印刷性、外観に優れた帯電防止塗膜を形成することができ、この塗膜を形成したフィルム等は電子材料などの梱包に良好に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明におけるコーティング剤の粘度は仕上り外観性だけでなく、その他の塗膜性能及び作業性能等にも関係する。このため、コーティング剤の粘度(見掛け粘度)は、高剪断速度(20.40s-1)下では20℃において、50〜500mPa・sであることが必要で、より好ましくは100〜400mPa・sであり、さらに好ましくは150〜300mPa・sである。粘度が500mPa・sを超えると、塗膜に凸凹が生じて仕上り外観性が低下する傾向となる。一方、高剪断速度下での粘度が低いことは好ましいことではあるが、50mPa・s未満であると、過度にぬれ広がるため、適度な塗工厚みを得るのが困難になる。
【0012】
本発明におけるコーティング剤の粘度は、上述の高剪断速度における粘度に加えて、低剪断速度(1.02s-1)下において、1000〜7000mPa・sの粘度を有していることが好ましく、2000〜6000mPa・sであることがさらに好ましい。高剪断速度における粘度と低剪断速度における粘度がともに規定の範囲にあれば、結果的に、本発明のコーティング剤はチキソ性(チキソトロピー)を有することとなる。コーティング剤にチキソ性を与えることにより、低剪断速度下(静止時)での粘度を増大させて過度のぬれ広がりを抑制する一方、高剪断速度下での粘度を低く維持できる。これにより、コロナ放電処理などの物理的表面処理が施されていない基材に対しても、密着性や耐水性等の物性を低下させることなく、充分な塗工性を付与できるとともに、良好な仕上がり外観を得ることができる。低剪断速度下での粘度については、7000mPa・sを超えると、取り扱いが困難になり作業性が低下する。一方、1000mPa・s未満であると、耐ぬれ広がり性が低下し、例えば、厚膜の塗膜を得るのが困難になる。
【0013】
本発明のコーティング剤の粘度の調整は、主として親水性有機溶剤の含有量によって行われ、さらに固形分濃度の調節によっても行うことができる。たとえば、固形分濃度を下げると粘度は低下する傾向となるし、親水性有機溶剤の含有量を増せば粘度は低下する傾向になる。
【0014】
上述のように、本発明のコーティング剤には親水性有機溶剤が含まれていることが必須である。親水性有機溶剤としては、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上のものが好ましく、その具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられ、液の安定性や価格の点からメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが特に好ましい。
【0015】
親水性有機溶剤の量は、30質量%以上含まれていることが必要である。固形分濃度によりその添加量は調整されるが、30〜90質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましく、50〜70質量%がさらに好ましい。親水性有機溶剤の量が30質量%未満では、十分な塗工性が発現しない場合があり、90質量%を超えると酸化スズ系超微粒子が凝集する場合がある。
【0016】
また、本発明のコーティング剤の固形分濃度は0.1〜8質量%であることが必要である。親水性有機溶剤含有量によりその添加量は調整されるが、1〜7質量%がより好ましく、2〜6質量%がさらに好ましい。固形分濃度が0.1質量%以下では、適度な粘度にコントロールすることが困難になるうえ、基材に塗布する際に十分な厚さの被膜を形成しにくくなる傾向がある。一方、8質量%を超えると凝集し、安定な液が得られない場合がある。
【0017】
本発明におけるコーティング剤は、例えば、酸化スズ系超微粒子の水性分散体と水分散性高分子の水性分散体、親水性有機溶剤とを混合することによって調製される。混合順序は任意であるが、安定なコーティング剤を調製するためには、酸化スズ系超微粒子の水性分散体に親水性有機溶剤を添加・攪拌した後に、水分散性高分子の水性分散体を加えて混合する方法が好ましい。
【0018】
上記コーティング剤を調製する際に、酸化スズ系超微粒子の水性分散体と水分散性高分子の水性分散体、親水性有機溶剤とを混合する際の撹拌装置としては、公知の装置を使用することが可能であり、混合液の分散性が良好であるため、極めて短時間かつ簡単な混合操作でよい。
【0019】
上述のように、水分散性高分子の微粒子は、あらかじめ水中もしくは水を主成分とする溶媒中に分散した水性分散体として用いられる。水分散性高分子の水性分散体を得る方法は特に限定されず、市販されているものを使用してもよく、樹脂を入手してそれを分散する方法やモノマーを水性媒体中で重合して得ることができる。水分散性高分子の水性分散体は一般に、自己分散型水性分散体と強制分散型水性分散体に分類することができる。本発明で用いられる水分散性高分子の水性分散体は、水分散性高分子に含まれる陰イオン性基が塩基性化合物で中和されていることによってなされている自己分散型水性分散体であることが好ましい。強制分散型水性分散体のように界面活性剤(カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤)や保護コロイド化合物などにより分散安定化されているものは、その分散安定化剤により、塗膜にした際に塗膜性能を低下させてしまうおそれがある。
【0020】
水性分散体中における水分散性高分子の数平均粒子系は200nm以下が好ましく、より好ましくは150nm以下、さらに好ましくは100nm以下のものが好ましい。体積平均粒子径は500nm以下であるものが好ましく、300nm以下であるものがより好ましく、200nm以下であるものがさらに好ましい。水分散性高分子の数平均粒子径が200nmを超えたり、体積平均粒子径が500nmを超えると、チキソ性を発現させることが困難になるばかりでなく、塗膜の透明性が低下や基材との密着性が低下することがある。
【0021】
上記した、水分散性高分子や後述する酸化スズ系超微粒子の数平均粒子径および体積平均粒子径は、動的光散乱法によって測定される。
【0022】
本発明に使用する水分散性高分子としては、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、これらを混合して用いてもよい。水分散性高分子は、後述する熱可塑性樹脂基材と同種類の樹脂を主成分とすることが密着性の点から好ましい。例えば、基材がポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂の場合にはポリオレフィン樹脂を用い、基材がポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂の場合にはポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
【0023】
水分散性高分子は市販のものを使用することもできる。例えば、ポリオレフィン樹脂水分散体としてはユニチカ社製アローベースシリーズ、三井化学社製ケミパールシリーズ、東邦化学社製ハイテックシリーズ、住友精化社製ザイクセンシリーズなど、ポリエステル樹脂水分散体としてはユニチカ社製エリーテルシリーズ、東洋紡社製バイロナールシリーズなど、ポリウレタン樹脂水分散体としては旭電化社製アデカボンタイターシリーズや三井化学社製タケラックシリーズなど、アクリル樹脂水分散としては楠本化成社製NeoCrylシリーズなどがぞれぞれ挙げられる。
【0024】
本発明における酸化スズ系超微粒子とは、酸化スズ系化合物、あるいはその溶媒和物や配位化合物の超微粒子のことをいい、その平均粒径は200nm以下でシャープな粒径分布を持つものである。その具体例としては、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、インジウムドープ酸化スズ、酸化スズドープインジウム、アルミニウムドープ酸化スズ、タングステンドープ酸化スズ、酸化チタン−酸化セリウム−酸化スズの複合体、酸化チタン−酸化スズの複合体などが挙げられ、それらの溶媒和物や配位化合物の超微粒子も用いることができる。塗膜の透明性や価格の点から酸化スズ超微粒子が特に好ましい。
【0025】
上記の酸化スズ系超微粒子の製造方法は特に限定されないが、例えば、金属スズやスズ化合物を加水分解または熱加水分解する方法、スズイオンを含む酸性溶液をアルカリ加水分解する方法、スズイオンを含む溶液をイオン交換膜やイオン交換樹脂によりイオン交換する方法など、何れの方法も用いることができる。
【0026】
本発明のコーティング剤において、上記の高分子とともに使用される酸化スズ系超微粒子は、あらかじめ水中もしくは水を主成分とする溶媒中に分散したゾルとして使用される。
【0027】
なお、本発明におけるゾルとは、1〜100nm程度の大きさの固体分散質が液体分散媒中に分散した流動性のある系で、固体分散質が活発なブラウン運動をしており、速やかに濾紙を通過する程度まで分散しているものまたはその状態を指す。酸化スズ系超微粒子ゾルの製造方法は特に限定されないが、一般的に塩基性化合物によって分散安定化されているものが多く、塩基性化合物により分散安定化されている水分散性高分子の水性分散体との混合安定性が向上することからもそのようなものが好ましい。
【0028】
ゾル中における酸化スズ系超微粒子の数平均粒子径は、50nm以下が好ましく、より好ましくは30nm以下、特に好ましくは20nm以下のものである。体積平均粒子径は200nm以下であるものが好ましく、50nm以下であるものがより好ましく、20nm以下であるものが特に好ましい。酸化スズ系化合物の数平均粒子径が50nmを超えたり、体積平均粒子径が200nmを超えると、薄い塗膜を均一に形成することが困難になるばかりでなく、塗膜の透明性が低下や基材との密着性が低下することがある。
【0029】
酸化スズ系超微粒子のゾルは市販のものを使用することもできる。例えば、酸化スズ水分散体としては山中化学工業社製EPS−6、アンチモンドープ酸化スズ系水分散体としては石原産業社製SN100D、酸化スズドープインジウムとしてはシーアイ化成社製ITOなどがある。
【0030】
酸化スズ系超微粒子の量は、高分子100質量部に対して、100〜10000質量部である必要があり、400〜9000質量部が好ましく、800〜8000質量部がより好ましく、1200〜7000質量部がさらに好ましい。酸化スズ系超微粒子の量が100質量部未満では、帯電防止性能等が低下する傾向にあり、10000質量部を超えると基材との密着性が低下する傾向がある。
【0031】
水分散性高分子の水性分散体や酸化スズ系ゾルに含まれる塩基性化合物としては、塗膜形成時に揮発するアンモニアまたは有機アミン化合物が塗膜の耐水性の面から好ましく、中でも沸点が30〜250℃の有機アミン化合物が好ましく、さらに好ましくは50〜200℃の有機アミン化合物である。沸点が30℃未満の場合は、取り扱いが困難になる。沸点が250℃を超えると樹脂塗膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、塗膜の耐水性が悪化する場合がある。
【0032】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。
【0033】
本発明のコーティング剤には、本発明の効果が損なわれない範囲で、架橋剤、滑剤、顔料あるいは染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、分散剤などを添加することができる。
【0034】
架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができ、このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。また、これらの架橋剤を組み合わせて使用しても良い。中でも、比較的、低温で塗膜性能を向上できる点から、イソシアネート化合物、オキサゾリン基含有化合物が好ましく、オキサゾリン基含有化合物がより好ましい。添加量は、水分散性高分子100質量部に対して100質量部以下であれば適当である。
【0035】
また、滑剤としては、ワックス、シリコーン系化合物、脂肪酸アミド化合物、脂肪酸金属塩化合物等が挙げられる。ワックスとしては、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ろうなどの植物ワックス、セラックワックス、ラノリンワックスなどの動物ワックス、モンタンワックス、オゾケライトなどの鉱物ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等を例示することができる。シリコーン系化合物としては、分子内にケイ素−酸素結合(シロキサン結合)を有し、ケイ素原子の側鎖に有機基が結合した化合物であり、例えばアルキルメトキシシラン化合物、アルキルエトキシシラン化合物等が挙げられる。脂肪酸アミド化合物としては、ステアリン酸アミド、ビスステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等が挙げられ、脂肪酸金属塩化合物としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0036】
基材との密着性の点から、コーティング剤中の界面活性剤(カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤)や保護コロイド化合物などの不揮発性化合物の含有量は水分散性高分子100質量部あたり5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下がより好ましく、1質量部以下がさらに好ましく、添加しないことが最も好ましい。このような化合物は乾燥後も塗膜中に残存し、経時的に塗膜性能を低下させてしまう恐れがあるからである。
【0037】
コーティング剤の塗工方法としては、例えば、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等が挙げられ、各種基材フィルム等の表面に均一にコーティングした後、必要に応じて室温付近でセッティングし、乾燥処理に供することにより、均一な樹脂塗膜を各種基材フィルム等の表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間としては、被コーティング物である基材フィルム等の特性により適宜選択されるものであるが、経済性を考慮した場合、加熱温度としては、10℃〜(フィルム等の樹脂の融点)の範囲が好ましい。また、加熱時間は、通常1秒〜20分の範囲で行われる。
【0038】
塗膜の塗工量は0.1〜1g/mであることが好ましく、0.2〜0.8g/mがより好ましく、0.3〜0.5g/mがさらに好ましい。積層量が1g/mを超えると塗膜の透明性、基材密着性が低下する。積層量が0.1g/m未満では帯電防止性能が悪化する。帯電防止性能は表面固有抵抗値で評価することができ、塵やほこり等の付着を抑える点から、この値が1011Ω/□未満であれば実用上好ましい。
【0039】
コーティング剤を塗工する基材としては、熱可塑性樹脂が好ましく、これからなる成形体、フィルム、シート、合成紙などが挙げられる。塗膜性能を十分に発揮させる点から、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリオレフィン樹脂や環状ポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)、アモルファスPET(A−PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂またはそれらの混合物が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂のフィルムまたはシート(以下、フィルム等)を用いることが好ましく、基材のヘイズは10%以下が好ましく、より好ましくは5%以下が好ましい。また、フィルム等としては、前記樹脂からなるフィルム等単体またはフィルム等の積層体が挙げられる。本発明の帯電防止コート剤はぬれ性に優れているので、基材に物理的表面処理が施されている必要はないが、施されていてもよい。ここで、物理的表面処理とは、光、電子線、イオンビーム、プラズマ等を用いた表面処理を意味する。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、基材としては、PPシート(厚み300μm、出光ユニテック社製スーパーピュアレイ)(以下、SP)、A−PETシート(三菱化学社製、厚み200μm)(以下、AP)、延伸ポリプロピレンフィルム(東セロ社製、OP U−1、厚み20μm)(以下、PP)または2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12、厚み12μm)を用いた。なお、各種評価は塗工フィルム等を温度23℃、湿度65%雰囲気下で1日放置後に実施した。
【0041】
(1)帯電防止特性
JIS−K6911に基づいて、株式会社アドバンテスト製デジタル超高抵抗/微少電流計、R8340を用いて、塗工フィルム等(積層体)の塗膜の表面固有抵抗値を温度23℃、湿度65%雰囲気下で測定した。
【0042】
(2)粘度および剪断速度
BROOKFIELD ENGINEERING LABORATORIES,INC.製B型粘時計SYNCHRO-LECTRIC VISCOMETER Model LVT(Spindle 31)を用いて温度20℃にて測定した。低剪断速度の条件として3rpm、高剪断速度の条件として60rpmのロータ回転数でそれぞれ測定した。剪断速度は、ロータ回転数に0.34を掛けて換算した。
【0043】
(3)塗膜量(塗工量)
あらかじめ面積と質量を計測した基材に本発明の塗工液を所定量、塗工し、60℃で30秒間、乾燥した。得られた積層体の質量を測定し、塗工前の基材の質量を差し引くことで塗膜量を求めた。塗工量と塗工面積から単位面積当りの塗膜量(g/m)を計算した。
【0044】
(4)ヘイズ
JIS−K7361−1に基づいて、濁度計(日本電色工業株式会社製、NDH2000)を用いて、フィルム等(積層体)のヘイズ測定を行った。ただし、この評価値は、各実施例で用いた基材フィルム等の濁度(SP:3.1%、AP:0.7%、PP:2.4%、PET:2.8%)を含んでいる。
【0045】
(5)外観
塗工フィルムの表面外観を目視で判定した。
○:ムラなし、×:ムラあり
【0046】
(6)密着性
シートとフィルムに分類して評価した。
(6)−1 シート(SP、AP)の密着性
基材フィルムと塗膜との密着性をJIS K5400記載のクロスカット法によるテープ剥離(碁盤目試験)により評価した。クロスカットにより、塗布層を100区間にカットし、テープ剥離後残留した塗布層の区間数で、以下の基準により評価した。
○:100区間残留、△:90〜99区間残留、×:0〜89区間残留
(6)−2 フィルム(PP、PET)の密着性
コートフィルムの塗膜面に粘着テープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付けた後、勢いよくテープを剥離した。塗膜面の状態を目視で観察して、以下のように評価した。
○:全く剥がれがなかった、△:一部に剥がれが生じた、×:全て剥がれた。
【0047】
(7)粒子径
バインダー樹脂および酸化スズ系化合物の数平均粒子径、体積平均粒子径はそれぞれ日機装社製マイクロトラック粒度分布計UPA150(Model No.9340)を用いて、動的光散乱法によって測定した。
【0048】
(8)印刷性(インキの濡れ性)
水性インキ(東洋インキ製造株式会社製、アクアエコール JW 224)を塗工フィルムにグラビア印刷した際のインキの濡れ性(はじきの程度)を評価した。
○:インキのはじき無し
×:インキのはじき有り
【0049】
《高分子水性分散体》
【0050】
(ポリオレフィン樹脂水性分散体)
ポリオレフィン樹脂水性分散体は市販の分散体O−1(ユニチカ社製、アローベース SB−1200、固形分濃度:25.2質量%、イソプロパノール:20質量%)を使用した。数平均粒子径、体積平均粒子径共に100nm以下であった。
【0051】
(ポリエステル樹脂水性分散体)
ポリエステル樹脂水性分散体は市販の分散体P−1(ユニチカ社製、エリーテル KZA−3556、固形分濃度:30質量%、イソプロパノール:22質量%)を使用した。数平均粒子径、体積平均粒子径共に100nm以下であった。
【0052】
(ポリウレタン樹脂水性分散体)
ポリウレタン樹脂水性分散体は市販の分散体U−1(旭電化工業社製、アデカボンタイターHUX−232、固形分濃度:30質量%、N−メチルピロリドン:10質量%)を使用した。数平均粒子径、体積平均粒子径共に100nm以下であった。
【0053】
《酸化スズ系ゾルの調製》
【0054】
(酸化スズゾルの調製)
塩化第二スズ五水和物35g(0.1モル)を200mlの水に溶解して0.5Mの水溶液とし、撹拌しながら28%のアンモニア水を添加することでpH1.5の白色酸化スズ超微粒子含有スラリーを得た。得られた酸化スズ超微粒子含有スラリーを70℃まで加熱した後、50℃前後まで自然冷却したうえで純水を加え1Lの酸化スズ超微粒子含有スラリーとし、遠心分離器を用いて固液分離を行った。この含水固形分に800mlの純水を加えて、ホモジナイザーにより撹拌・分散を行った後、遠心分離器を用いて固液分離を行うことで洗浄を行った。洗浄後の含水固形分に純水を75ml加えて酸化スズ超微粒子含有スラリーを調製した。
【0055】
得られた酸化スズ超微粒子含有スラリーにトリエチルアミン3.0mlを加え撹拌し、透明感が出てきたところで70℃まで昇温した後、加温をやめ自然冷却することで固形分濃度11.5質量%の有機アミンを分散安定剤とする酸化スズゾルZ−1を得た。数平均粒子径、体積平均粒子径はそれぞれ8.5nm、9.8nmであった。
【0056】
実施例1
酸化スズゾルZ−1(35g)に水(7g)を加えた後、n−プロパノールを64g(コーティング剤に含まれる溶剤総量が60質量%になる量)加え、ゾルを得た。ここにポリオレフィン樹脂水性分散体O−1を1g(ポリオレフィン樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ超微粒子1600質量部相当)混合してコーティング剤を調製した。粘度を測定したところ、剪断速度20.40s−1での粘度が224mPa・s、剪断速度1.02s−1での粘度が2500mPa・sであり、チキソ性を有していた。各種基材に調製したコーティング剤を乾燥後の塗膜量(塗工量)が0.2g/mになるように塗工後、60℃で30秒間乾燥して塗工フィルムを得た。
【0057】
実施例2
酸化スズゾルZ−1(35g)に水(5.7g)を加えた後、n−プロパノールを61g(コーティング剤に含まれる溶剤総量が60質量%になる量)加え、ゾルを得た。ここにポリオレフィン樹脂水性分散体O−1を0.25g(ポリオレフィン樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ超微粒子6400質量部相当)混合してコーティング剤を調製した。粘度を測定したところ、剪断速度20.40s−1での粘度が279mPa・s、剪断速度1.02s−1での粘度が5200mPa・sであり、チキソ性を有していた。各種基材に調製したコーティング剤を乾燥後の塗膜量(塗工量)が0.2g/mになるように塗工後、60℃で30秒間乾燥して塗工フィルムを得た。
【0058】
実施例3
酸化スズゾルZ−1(35g)に水(12g)を加えた後、n−プロパノールを74.7g(コーティング剤に含まれる溶剤総量が60質量%になる量)加え、ゾルを得た。ここにポリオレフィン樹脂水性分散体O−1を4g(ポリオレフィン樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ超微粒子400質量部相当)混合してコーティング剤を調製した。粘度を測定したところ、剪断速度20.40s−1での粘度が200mPa・s、剪断速度1.02s−1での粘度が1500mPa・sであり、チキソ性を有していた。各種基材に調製したコーティング剤を乾燥後の塗膜量(塗工量)が0.2g/mになるように塗工後、60℃で30秒間乾燥して塗工フィルムを得た。
【0059】
実施例4
酸化スズゾルZ−1(35g)に水(7g)を加えた後、n−プロパノールを64g(コーティング剤に含まれる溶剤総量が60質量%になる量)加え、ゾルを得た。ここにポリエステル樹脂水性分散体P−1を0.8g(ポリエステル樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ超微粒子1600質量部相当)混合してコーティング剤を調製した。粘度を測定したところ、剪断速度20.40s−1での粘度が224mPa・s、剪断速度1.02s−1での粘度が2500mPa・sであり、チキソ性を有していた。各種基材に調製したコーティング剤を乾燥後の塗膜量(塗工量)が0.2g/mになるように塗工後、60℃で30秒間乾燥して塗工フィルムを得た。
【0060】
実施例5
酸化スズゾルZ−1(35g)に水(7g)を加えた後、n−プロパノールを64g(コーティング剤に含まれる溶剤総量が60質量%になる量)加え、ゾルを得た。ここにポリウレタン樹脂水性分散体U−1を0.8g(ポリウレタン樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ超微粒子1600質量部相当)混合してコーティング剤を調製した。粘度を測定したところ、剪断速度20.40s−1での粘度が204mPa・s、剪断速度1.02s−1での粘度が2300mPa・sであり、チキソ性を有していた。各種基材に調製したコーティング剤を乾燥後の塗膜量(塗工量)が0.2g/mになるように塗工後、60℃で30秒間乾燥して塗工フィルムを得た。
【0061】
比較例1
酸化スズゾルZ−1(35g)に水(60.4g)を加えた後、n−プロパノールを10.5g(コーティング剤に含まれる溶剤総量が10質量%になる量)を加えた。ここにポリオレフィン樹脂水性分散体O−1を1g(ポリオレフィン樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ超微粒子1600質量部相当)混合して固形分濃度4質量%のコーティング剤を調製した。粘度を測定したところ、剪断速度20.40s−1での粘度が5mPa・sであり、剪断速度1.02s−1での粘度が5mPa・sであった。各種基材に調製したコーティング剤を乾燥後の塗膜量(塗工量)が0.2g/mになるように塗工しようとしたが顕著なハジキが発生し、塗工できなかった。
【0062】
比較例2
酸化スズゾルZ−1(35g)に、n−プロパノールを15g(コーティング剤に含まれる溶剤総量が30質量%になる量)加えた。ここにポリオレフィン樹脂水性分散体O−1を1g(ポリオレフィン樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ超微粒子1600質量部相当)混合して固形分濃度8.5質量%のコーティング剤を調製したところ凝集し、剪断力を加えても分散化しなかったので評価できなかった。
【0063】
比較例3
酸化スズゾルZ−1(35g)に水(17.7g)を加えた後、n−プロパノールを53.3g(コーティング剤に含まれる溶剤総量が50質量%になる量)を加えた。ここにポリオレフィン樹脂水性分散体O−1を1g(ポリオレフィン樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ超微粒子1600質量部相当)混合して固形分濃度4質量%のコーティング剤を調製した。粘度を測定したところ、剪断速度20.40s−1での粘度が5mPa・sであり、剪断速度1.02s−1での粘度が5mPa・sであった。各種基材に調製したコーティング剤を乾燥後の塗膜量(塗工量)が0.2g/mになるように塗工しようとしたが著しくぬれ広がった。乾燥後の塗工量を測定したところ0.07g/mであった。
【0064】
比較例4
酸化スズゾルZ−1(35g)に、ポリビニルアルコール4g(日本酢ビ・ポバール株式会社製 JC−25)を水(66g)に溶解した溶液70gを加えた後、ポリオレフィン樹脂水性分散体O−1を1g(ポリオレフィン樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ超微粒子1600質量部相当)を混合して固形分濃度7.8質量%のコーティング剤を調製した。粘度を測定したところ、剪断速度20.40s−1での粘度が30mPa・sであり、剪断速度1.02s−1での粘度が50mPa・sであった。各種基材に調製したコーティング剤を乾燥後の塗膜量(塗工量)が0.2g/mになるように塗工しようとしたが顕著なハジキが発生し、塗工できなかった。
【0065】
比較例5
酸化スズゾルZ−1(35g)に、ポリビニルアルコール6g(日本酢ビ・ポバール株式会社製 JC−25)を水(65g)に溶解した溶液71gを加えた後、ポリオレフィン樹脂水性分散体O−1を1g(ポリオレフィン樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ超微粒子1600質量部相当)を混合して固形分濃度8.7質量%のコーティング剤を調製した。粘度を測定したところ、剪断速度20.40s−1での粘度が300mPa・sであり、剪断速度1.02s−1での粘度が350mPa・sであった。各種基材に調製したコーティング剤を乾燥後の塗膜量(塗工量)が0.2g/mになるように塗工後、60℃で30秒間乾燥して塗工フィルムを得た。
【0066】
実施例1〜5、比較例1〜5の結果をまとめて表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
実施例1〜5に示すように、本発明のコーティング剤は表面処理のされていないフィルムに塗工することが可能で、塗膜は帯電防止性、密着性、透明性、外観、印刷性に優れていた。水分散性高分子の種類にかかわらず優れた性能を示すコーティング剤が調製できることが認められた(実施例1、4、5)。酸化スズ系化合物の比率が増すと帯電防止性は向上することが認められた(実施例1〜3)。基材に依らず性能が発現することが確認できた(実施例1〜5)。一方、粘度が本発明の範囲を外れると、安定した塗剤または塗工量が得られず帯電防止性が悪化し、外観も満足できるものではなかった(比較例1〜3)。増粘剤を加えることで本発明の範囲の粘度を有する塗剤を調製するには大量の増粘剤が必要であり(比較例4)、本発明の範囲の粘度を有する場合、総固形分に占める酸化スズ系化合物の比率が低下するため帯電防止性が低下するうえ、密着性に劣るものになった(比較例5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散性高分子、酸化スズ系超微粒子、親水性有機溶剤および水を含有し、水分散性高分子100質量部にする酸化スズ系超微粒子の含有量が100〜10000質量部であり、かつ、固形分濃度が0.1〜8質量%であり、かつ、親水性有機溶剤の含有量が30質量%以上のコーティング剤であって、温度20℃、剪断速度20.40s−1における粘度が50〜500mPa・sであることを特徴とするコーティング剤。
【請求項2】
温度20℃、剪断速度1.02s−1における粘度が1000〜7000mPa・sであることを特徴とする請求項1記載のコーティング剤。