説明

酸化ストレス防御酵素EC−SODの測定法

【課題】酸化ストレス防御酵素EC-SODを高感度に測定する手段を提供すること
【解決手段】以下のステップ(1)〜(6)、即ち、(1)固相化された抗EC-SOD抗体を用意するステップ;(2)検体を作用させるステップ;(3)一次抗体として抗EC-SODモノクローナル抗体を作用させるステップ;(4)ビオチン標識二次抗体を作用させるステップ;(5)ストレプトアビジン又はアビジンとビオチン標識酵素との複合体を反応させるステップ;(6)前記酵素の基質を反応させ、発色を検出するステップによって、検体中のEC-SODを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化ストレス防御酵素として知られるEC-SOD(Extracellular-superoxide dismutase)の測定法に関する。詳しくは、EC-SODの高感度測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
人は活性酸素の産生と活性酸素の消去のバランスを保つことで健康な状態を維持している。このバランスが崩れることは代謝性疾患、炎症、虚血性疾患など、様々な病態の発症に繋がる。糖尿病並びにその合併症(糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症など)においては、酸化ストレスや小胞体ストレスが病態の発症や増悪に関係していることも報告されている。
【0003】
生体において活性酸素の消去に重要な役割を果たしているのがSOD(superoxide dismutase)である。SODには3種類のアイソザイムが存在している。EC-SODは細胞外に局在する唯一のアイソザイムである。血管系においてEC-SODは、血流に対峙する内皮細胞表面に局在してゾーンディフェンスラインを形成することによって、細胞外に放出された活性酸素から内皮細胞を防御している。このようにEC-SODは血管系に広く存在し、主な酸化ストレス防御酵素として機能している。従って、EC-SODを測定することは活性酸素の消去能を把握する手段として有用且つ重要である。特に高感度でEC-SODを測定できれば、酸化ストレスが原因となる各種疾患の診断や治療に対し有用な情報が得られる。また、例えばin vitro培養細胞病態モデルを用いて高感度でEC-SODを測定することは、体内の抗酸化能を高める物質(医薬品や機能性食品など)の探索研究・応用開発に向けての有用な評価系となる。
【0004】
EC-SOD測定法として、抗EC-SODポリクローナル抗体を固相化したプレートと一次抗体(抗EC-SODモノクローナル抗体)にて抗原(測定するEC-SOD)をサンドウィッチした後、アルカリフォスファターゼ標識二次抗体を反応させEC-SODを定量する方法、並びに抗EC-SODモノクローナル抗体を固相化したプレートとアルカリフォスファターゼ標識抗EC-SODモノクローナル抗体にて抗原(測定するEC-SOD)をサンドウィッチして定量する方法が知られている(非特許文献1)。また、固相化抗体とビオチン標識した抗体で抗原をサンドイッチした後、ストレプトアビジンで標識したホースラディッシュペルオキシダーゼ(酵素)を作用させ、そして酵素活性を基質の発色に基づき定量する方法(Human Superoxide Dismutase 3 ELISA,Abfrontier社)も開発されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Clinica Chimica Acta, 212(1992)89-102
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の測定法は免疫学的手法を応用したものであり、特異性の高い測定が可能である。また、比較的高い感度でEC-SODを測定できる。しかしながら、診断や治療を初めとした各種用途の今後の発展を考えると、更なる測定感度の向上が望まれる。一方、高感度にEC-SODを検出できれば、微量分析が可能になることはもとより、EC-SODの新たな有用性が見出される可能性があり、即ち、EC-SODの新たな用途の創出を期待できる。そこで本発明の課題は、EC-SODの高感度測定法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み鋭意検討した結果、固相化した抗EC-SOD抗体(好ましくはポリクローナル抗体)に結合させたEC-SODに一次抗体(抗EC-SODモノクローナル抗体)を反応させた後、ビオチン標識二次抗体、次いでビオチンに結合性を有するストレプトアビジン又はアビジンとビオチン標識酵素(例えばアルカリフォスファターゼ)との複合体を順に反応させることによって、EC-SODを測定(定量)する方法を見出した。本願発明は以下の通りである。
[1]以下のステップ(1)〜(6)を含む、EC-SOD測定法、
(1)固相化された抗EC-SOD抗体を用意するステップ、
(2)検体を作用させるステップ、
(3)一次抗体として抗EC-SODモノクローナル抗体を作用させるステップ、
(4)ビオチン標識二次抗体を作用させるステップ、
(5)ストレプトアビジン又はアビジンとビオチン標識酵素との複合体を反応させるステップ、
(6)前記酵素の基質を反応させ、発色を検出するステップ。
[2]ステップ(1)が以下のステップ(1a)〜(1d)を含む、[1]に記載のEC-SOD測定法、
(1a)不溶性支持体に抗EC-SOD抗体を作用させるステップ、
(1b)洗浄するステップ、
(1c)ブロッキングするステップ、
(1d)ブロッキング液を除去するステップ。
[3]固相化された抗EC-SOD抗体がポリクローナル抗体である、[1]又は[2]に記載のEC-SOD測定法。
[4]前記複合体がストレプトアビジンとビオチン標識酵素との複合体である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のEC-SOD測定法。
[5]前記酵素がアルカリフォスファターゼである、[1]〜[4]のいずれか一項に記載のEC-SOD測定法。
[6]前記検体が唾液である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載のEC-SOD測定法。
[7]固相化された抗EC-SOD抗体と、一次抗体としての抗EC-SODモノクローナル抗体と、ビオチン標識二次抗体と、ストレプトアビジン又はアビジンとビオチン標識酵素との複合体と、を含む、EC-SOD測定キット。
[8]捕捉用抗EC-SOD抗体と、一次抗体としての抗EC-SODモノクローナル抗体と、ビオチン標識二次抗体と、ストレプトアビジン又はアビジンとビオチン標識酵素との複合体と、を含む、EC-SOD測定キット。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】新規測定法による検量線と従来法による検量線の比較。
【図2】EC-SOD高発現細胞の培養上清をサンプルとした測定結果。
【図3】EC-SOD低発現細胞の培養上清をサンプルとした測定結果。
【図4】ヒト唾液中EC-SODの測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の局面はEC-SODの測定法に関する。EC-SOD(EC 1.15.1.1)は細胞外に局在するSODアイソザイムである。様々な研究グループによってEC-SODの研究が行われ、その分子量(J. Clin. Invest. 74, 1398-1403(1984))、アミノ酸配列及び遺伝子配列(Proc. Nadl. Acad. Sci. USA Vol. 84, pp. 6340-6344(1987))、並びにその機能(Proc. Nati. Acad. Sci. USA Vol. 84, pp. 6634-6638(1987))などが報告されている。本発明はこのように注目を集めるEC-SODを高感度に定量可能な手段を提供する。本発明の測定法によれば、微量の検体(サンプル)を用いた高感度な検出が可能である。本発明の測定法はいわゆるサンドイッチELISA法(Enzyme-linked Immunosorbent Assay)に分類される方法であり、EC-SOD特異的な二種類の抗体で標的(EC-SOD)を挟むように捕捉し、酵素反応量を指標として検体中の標的を検出・測定する。尚、ELISA法の原理、操作方法、条件等については数多くの成書や論文に記載されており適宜それらを参照するとよい。
【0010】
本発明の測定法では以下のステップ(1)〜(6)を行う。
(1)固相化された抗EC-SOD抗体を用意するステップ
(2)検体を作用させるステップ
(3)一次抗体として抗EC-SODモノクローナル抗体を作用させるステップ
(4)ビオチン標識二次抗体を作用させるステップ
(5)ストレプトアビジン又はアビジンとビオチン標識酵素との複合体を反応させるステップ
(6)前記酵素の基質を反応させ、発色を検出するステップ
【0011】
ステップ(1)では、固相化された抗EC-SOD抗体(捕捉用抗体)を用意する。固相化に用いる不溶性支持体としては、例えばポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂、ナイロン樹脂等の樹脂や、ガラス等の水に不溶性の物質が用いられ、特にその材質は限定されない。この不溶性支持体への抗EC-SOD抗体の担持は物理吸着又は化学吸着によって行われる。例えば、以下の手順(1a)〜(1d)に従い、固相化された抗EC-SOD抗体を用意する。
(1a)不溶性支持体に抗EC-SOD抗体を作用させるステップ
(1b)洗浄するステップ
(1c)ブロッキングするステップ
(1d)ブロッキング液を除去するステップ
【0012】
(1a)に使用する不溶性支持体として例えば、96ウェルイムノプレートや384ウェルイムノプレートなどが用いられる。抗EC-SOD抗体は例えば20μg/ml〜50μg/mlの濃度に調整した後、各ウェルに添加される。添加後、所定時間(例えば2時間〜一晩)放置する。その際の温度条件は、変性を防止するため、好ましくは低温(例えば4℃前後)とする。
【0013】
(1b)の洗浄には、常法に従い、塩(例えばNaCl)、界面活性剤(例えばTween20、Triton)、防腐剤(例えばNaN3)等を含有した溶液が使用される。洗浄操作は好ましくは複数回行う。例えば2〜5回程度繰り返す。(1c)のブロッキングは非特異的結合を低減ないし排除するために行うものであり、ウシ血清アルブミンやスキムミルク等の他、塩(例えばNaCl)、界面活性剤(例えばTween20、Triton)、防腐剤(例えばNaN3)等を含有した溶液を使用する。ブロッキング液を添加した状態で使用時まで保存しておくことにしてもよい。保存温度は、変性を防止するため、好ましくは低温(例えば4℃前後)とする。ブロッキング液を除去した後は、原則、速やかに次のステップ(ステップ(2))を行う。
【0014】
抗EC-SOD抗体として好ましくはポリクローナル抗体を用いる。ポリクローナル抗体は捕捉能力に優れる。従って、抗EC-SODポリクローナル抗体の使用は、EC-SODの存在量が微量の検体を使用する際に特に有効な条件といえる。
【0015】
抗EC-SOD抗体は免疫学的手法、ファージディスプレイ法、リボソームディスプレイ法などを利用して調製することができる。免疫学的手法によるポリクローナル抗体の調製は次の手順で行うことができる。抗原(EC-SOD又はその一部)を調製し、これを用いてウサギ等の動物に免疫を施す。抗原としては、ヒトEC-SODの他、その一部を用いることができる。これらのEC-SODは、生体試料を精製することにより得ることができる。また、組換えEC-SODを用いることもできる。組換えヒトEC-SODは例えば、EC-SODをコードする遺伝子(遺伝子の一部であってもよい)を、ベクターを用いて適当な宿主に導入し、得られた組換え細胞内で発現させることにより調製される。
【0016】
免疫惹起作用を増強するために、キャリアタンパク質を結合させた抗原を用いてもよい。キャリアタンパク質としてはKLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)、BSA(Bovine Serum Albumin)、OVA(Ovalbumin)などが使用される。キャリアタンパク質の結合にはカルボジイミド法、グルタールアルデヒド法、ジアゾ縮合法、MBS(マレイミドベンゾイルオキシコハク酸イミド)法などを使用できる。一方、EC-SOD(又はその一部)を、GST、βガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク、又はヒスチジン(His)タグ等との融合タンパク質として発現させた抗原を用いることもできる。このような融合タンパク質は、汎用的な方法により簡便に精製することができる。
【0017】
必要に応じて免疫を繰り返し、十分に抗体価が上昇した時点で採血し、遠心処理などによって血清を得る。得られた抗血清をアフィニティー精製し、ポリクローナル抗体とする。
【0018】
一方、モノクローナル抗体については次の手順で調製することができる。まず、上記と同様の手順で免疫操作を実施する。必要に応じて免疫を繰り返し、十分に抗体価が上昇した時点で免疫動物から抗体産生細胞を摘出する。次に、得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合してハイブリドーマを得る。続いて、このハイブリドーマをモノクローナル化した後、抗原に対して高い特異性を有する抗体を産生するクローンを選択する。選択されたクローンの培養液を精製することによって目的の抗体が得られる。一方、ハイブリドーマを所望数以上に増殖させた後、これを動物(例えばマウス)の腹腔内に移植し、腹腔内で増殖させて腹水から精製することにより目的の抗体を取得することもできる。上記培養液の精製又は腹水の精製には、プロテインG、プロテインA等を用いたアフィニティークロマトグラフィーが好適に用いられる。また、抗原を固相化したアフィニティークロマトグラフィーを用いることもできる。更には、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、硫安分画、及び遠心分離等の方法を用いることもできる。これらの方法は単独ないし任意に組み合わされて用いられる。尚、抗EC-SODモノクローナル抗体の調製法の一例はClinica Chimica Acta, 212(1992)89-102に示されており、具体的な条件の設定などについては当該文献を参照するとよい。
【0019】
ステップ(1)に続くステップ(2)では、用意した固相化抗EC-SOD抗体に検体を作用させる。様々な検体を用いることができる。例えば、血清、血漿、硝子体液、尿、汗、唾液、髄液、腹水、胸水、組織抽出液、細胞培養上清、菌体培養上清、細胞抽出液、細胞溶解液などを検体として採用することができる。これらの検体は常法に従い調製すればよい。本発明によれば極めて高感度にEC-SODを検出可能であることから、EC-SODが微量でしか存在しない検体は本発明に特に適したものといえる。この観点より、例えば唾液、EC-SOD産生量が少ない細胞の抽出液、溶解液、培養上清などは、好適な検体である。
【0020】
予めブロッキング液で希釈した検体を固相化抗EC-SOD抗体に作用させるとよい。非特異的な結合を低減させるためである。作用時間は特に限定されないが、例えば30分〜一晩とする。温度条件も特に限定されず、低温(例えば4℃前後)乃至室温(例えば15℃〜25℃)で放置すればよい。
【0021】
検体を除去した後、原則として数回(例えば3〜5回)の洗浄操作を行い、続いて一次抗体である抗EC-SODモノクローナル抗体を作用させる(ステップ3)。洗浄操作には、これに限定されるものではないが、ステップ(1b)で使用する洗浄液と同じものを使用すればよい。
【0022】
上記の通り、EC-SODを特異的に認識するモノクローナル抗体は常法に従って調製可能であるが、好ましくは、上掲の文献(Clinica Chimica Acta, 212(1992)89-102)に記載の方法、即ち、50μgの組換えEC-SODを2週間の間隔で4回BALB/cマウスに免疫した後、50%ポリエチレングリコール4000を使用して脾臓細胞をマウスミエローマ細胞と融合する方法を採用するとよい。
【0023】
一次抗体を作用させる際の条件は特に限定されないが、例えば、室温で所定時間(例えば1〜10時間)とする。
【0024】
次に、一次抗体を除去した後、原則として数回(例えば3〜5回)の洗浄操作を行い、続いてビオチン標識二次抗体を作用させる(ステップ4)。洗浄操作には、これに限定されるものではないが、ステップ(1b)で使用する洗浄液と同じものを使用すればよい。
【0025】
ビオチン標識二次抗体は、一次抗体(抗EC-SOD抗体)を認識する抗体をビオチンで標識したものである。一次抗体がマウスIgGクラスの抗体であれば、ビオチン標識二次抗体として、ビオチンで標識した抗マウスIgG抗体を使用する。このような標識化抗体は市販もされており(例えばベクターラボラトリー社、カタログ番号BA−2000)、容易に入手し、利用することができる。
【0026】
ビオチン標識二次抗体を作用させる際の条件は特に限定されないが、例えば、室温で所定時間(例えば1〜10時間)とする。
【0027】
続いて、ビオチン標識二次抗体を除去した後、原則として数回(例えば3〜5回)の洗浄操作を行った後、ストレプトアビジン又はアビジンとビオチン標識酵素との複合体(本明細書では「酵素複合体」ともいう)を作用させる(ステップ5)。洗浄操作には、これに限定されるものではないが、ステップ(1b)で使用する洗浄液と同じものを使用すればよい。
【0028】
本発明では、ストレプトアビジン又はアビジンとビオチン標識酵素との複合体(酵素複合体)を使用する。当該酵素複合体を作用させると、ビオチンとストレプトアビジン(又はアビジン)との結合を介して、酵素複合体が二次抗体(ビオチン標識二次抗体)に結合するとともに、酵素複合体同士の結合が生じる。その結果、固相化抗EC-SOD抗体と一次抗体でサンドイッチされた抗原(EC-SOD)が二次抗体を介して大量の酵素で標識されることになり、高感度の検出が可能になる。
【0029】
酵素にはアルカリフォスファターゼやホースラディッシュペルオキシダーゼなど、汎用的なものを用いることができる。
【0030】
好ましくは、非特異的結合が少なくなるという理由から、ストレプトアビジンとビオチン標識酵素との複合体を使用する。
【0031】
酵素複合体を作用させる際の条件は、使用する酵素の種類や酵素複合体の特性等を考慮して設定すればよい。アルカリフォスファターゼを採用した場合にあっては例えば室温で10分〜1時間、好ましくは室温で20分〜40分とする。
【0032】
酵素複合体を除去した後、原則として数回(例えば3〜5回)の洗浄操作を行い、続いて酵素の基質を反応させる。所定時間(例えば5分〜20分)が経過した後に発色を検出するが、通常は、検出に先立って酵素反応を停止させる。例えば、酵素としてアルカリフォスファターゼを採用した場合には、所定濃度のNaOHを添加して酵素反応を停止すればよい。発色の検出には、酵素としてアルカリフォスファターゼを、その基質としてp-ニトロフェニルリン酸を採用した場合には、例えば415nmの吸光度を測定すればよい。尚、洗浄操作には、これに限定されるものではないが、ステップ(1b)で使用する洗浄液と同じものを使用すればよい。
【0033】
標準試料(所定の濃度のEC-SOD)を用いて検量線を作成しておけば、吸光度の測定値に基づき検体中のEC-SOD量を求めることができる。後述の実施例に示す通り、本発明の測定法によれば、5pg/mlという最小測定感度を実現可能であり、EC-SODが微量しか存在しない検体を用いた場合であっても、高い精度でEC-SODを定量することができる。
【0034】
尚、各ステップを実施する際の最適な条件の例は、以下の実施例の欄に示される。また、当業者であれば、以下の実施例の欄に示した実験の内容に基づき、予備実験などを通して、最適な条件を設定することが可能である。
【0035】
本発明の第2の局面は、本発明のEC-SOD測定法に使用されるキット(EC-SOD測定キット)に関する。本発明のキットの一態様では、必須の構成要素として、固相化された抗EC-SOD抗体と、一次抗体としての抗EC-SODモノクローナル抗体と、ビオチン標識二次抗体と、ストレプトアビジン又はアビジンとビオチン標識酵素との複合体と、を含む。別の態様では、捕捉用抗体として使用される、固相化された抗EC-SOD抗体の代わりに、固相化されていない抗EC-SOD抗体がキットに含まれる。このキットの場合は、使用の際、最初に抗EC-SOD抗体の固相化を行うことになる。各操作や反応に必要な試薬及び/又は装置ないし器具をキットに含めてもよい。具体的には、洗浄用バッファー、反応用バッファー、検体希釈用バッファー、基質又は基質溶液、反応停止液、標準物質(EC-SOD)、マイクロプレート等をキットに含めることができる。尚、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。
【実施例】
【0036】
酸化ストレス防御酵素であるEC-SODの超高感度微量測定法の創出を目指して検討を重ね、以下に示す測定法を開発した。
【0037】
1.抗体・試薬
(1)抗EC-SODポリクローナル抗体:常法に従い、ウサギに300μgのヒトEC-SODを2週間の間隔で5回、免疫した。十分な抗体価が得られたことを確認した後、採血し、イオン交換カラムクラマトグラフィーで精製した後、抗EC-SODポリクローナル抗体とした。
(2)抗EC-SODモノクローナル抗体:上掲の文献(Clinica Chimica Acta, 212(1992)89-102)に記載の方法、即ち、50μgの組換えヒトEC-SODを2週間の間隔で4回BALB/cマウスに免疫した後、50%ポリエチレングリコール4000を使用して脾臓細胞をマウスミエローマ細胞と融合する方法によって、抗EC-SODモノクローナル抗体を得た。
(3)ビオチン標識抗マウスIgG抗体:市販のビオチン標識抗マウスIgG抗体(例えばベクターラボラトリー社、カタログ番号BA−2000)を使用した。
(4)ストレプトアビジン/ビオチン標識アルカリフォスファターゼ複合体:市販のストレプトアビジン/ビオチン標識アルカリフォスファターゼ複合体(例えばベクターラボラトリー社、カタログ番号AK−5000)
(5)洗浄液:0.15 M NaCl,0.05% Tween 20,0.05% NaN3を含むリン酸緩衝生理食塩水
(6)ブロッキング液:1% ウシ血清アルブミン,0.15 M NaCl,0.05% Tween 20,0.05% NaN3を含むリン酸緩衝生理食塩水
(7)アルカリフォスファターゼ活性測定用基質溶液:0.5 mM MgCl2, 0.02% NaN3を含む0.1 Mジエタノールアミン緩衝液(pH 9.8)に使用直前にp-ニトロフェニルリン酸を3 mMになるように溶解した。
【0038】
2.操作法
(1)96ウェルイムノプレートの各ウェルに20μg/mLの濃度の抗EC-SODポリクローナル抗体を80μLずつ添加し、4℃にて一晩放置する。次の日にプレートを洗浄液にて3回洗浄した後、ブロッキング液を300μLずつ添加し、使用時まで4℃にて保管する。
(2)EC-SOD標準液と検体は予めブロッキング液にて適宜希釈する。イムノプレートのブロッキング液を除去した後、希釈したEC-SOD標準液、検体を70μLずつウェルに添加し、室温にて3時間(または4℃にて一晩)反応させる。
(3)プレートを洗浄液にて5回洗浄した後、抗EC-SODモノクローナル抗体を80μLずつ添加し、室温にて3時間反応させる。
(4)プレートを洗浄液にて5回洗浄した後、ビオチン標識抗マウスIgG抗体を80μLずつ添加し、室温にて3時間反応させる。
(5)プレートを洗浄液にて5回洗浄した後、ストレプトアビジン/ビオチン標識アルカリフォスファターゼ複合体を80μLずつ添加し、室温にて30分反応させる。
(6)プレートを洗浄液にて5回洗浄した後、アルカリフォスファターゼ活性測定用基質溶液を150μLずつ添加し、室温にて10分反応させた後、5N NaOH溶液を50μLずつ添加し酵素反応を停止させ、415 nmの吸光度を測定する。
【0039】
3.測定及びその結果
上記測定法の有効性を検証した。
(1)検量線の作成
検量線を作成し、比較した結果、従来法(図1の白丸)では50 pg/mLの最小測定感度であったのに対し、新規測定法(図1の黒丸)は5 pg/mLの最小測定感度であり、10倍高感度であることを確認した。
【0040】
(2)EC-SOD高発現細胞の培養上清希釈曲線
ミドリザル腎尿細管上皮細胞COS7はEC-SODを高濃度に発現している細胞である。本細胞の培養上清を希釈して測定した結果、その希釈曲線(図2の黒ダイヤ)は検量線(図2の白丸)とほとんど重なっていた。この結果より、新規測定法は、細胞の培養上清を正確に測定できることが判明した。
【0041】
(3)EC-SOD低発現細胞の培養上清測定結果
ヒト単球細胞U937はEC-SOD発現量が少ない細胞である。本細胞をシグナル経路活性化試薬Aにて24時間或いは48時間処理した後、その培養上清を回収し、新規測定法によって測定した結果、図3に示すように、EC-SODの発現が試薬Aにより低下していることが明らかとなった。また、このEC-SOD濃度は、従来法では検出できない低濃度である。
【0042】
(4)ヒト唾液中EC-SODの測定結果
生体成分には夾雑物が多量に含まれるため、特定の成分を測定する場合、サンプルの希釈あるいは目的物質の分離が必要となる。従来法では生体成分を20倍希釈してEC-SODを測定している。生体成分のうち、血清、尿、硝子体などのEC-SOD含量は比較的高く、従来法でも測定可能であった(図4)。しかし、より非侵襲的であり、随時、簡便に採取できる唾液を検体として測定する場合、従来法では検出が困難な低濃度であった。これに対して新規測定法では、図4に示す通り、20倍希釈した唾液中のEC-SODを測定することが可能であった。
【0043】
4.結論
新規測定法は従来法より格段に高感度であることが示された。新規測定法によれば、EC-SODの発現が非常に低い細胞を用いなければならない実験においてもEC-SOD発現量を正確に測定することが可能であり、疾病予防に向けた有用化合物探索研究におけるスクリーニング法として有用性が高い。また、生体成分のうち、より非侵襲的に随時、簡便に入手できる半面、低濃度である唾液等を検体として測定する場合、高感度の測定が可能な新規測定法によりはじめて定量が可能である。従って、新規測定法は唾液等を用いる診断にも適応可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、血管系に広く存在する主な酸化ストレス防御酵素であるEC-SODの高感度測定法を提供する。本発明によれば、EC-SODを極めて高感度に定量可能となる。例えば、体内の抗酸化能を高める物質(医薬品や機能性食品など)の探索研究・応用開発の場において、in vitro培養細胞病態モデル実験での抗酸化能評価法として本発明が利用されることが想定される。また、酸化ストレスの程度(度合)を評価するための手段としても、本発明を利用可能である。従って、酸化ストレスに起因する各種疾病(代謝性疾患、炎症、虚血性疾患、糖尿病、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症)の罹患リスクや健康状態の把握を目的として本発明の測定法を実施することも可能である。更には、酸化ストレスに起因する各種疾病の予防やストレス軽減等を目的とした各種処置(例えばマッサージ、アロマテラピー)の効果確認のための手段としても、本発明を適用可能である。
【0045】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ(1)〜(6)を含む、EC-SOD測定法、
(1)固相化された抗EC-SOD抗体を用意するステップ、
(2)検体を作用させるステップ、
(3)一次抗体として抗EC-SODモノクローナル抗体を作用させるステップ、
(4)ビオチン標識二次抗体を作用させるステップ、
(5)ストレプトアビジン又はアビジンとビオチン標識酵素との複合体を反応させるステップ、
(6)前記酵素の基質を反応させ、発色を検出するステップ。
【請求項2】
ステップ(1)が以下のステップ(1a)〜(1d)を含む、請求項1に記載のEC-SOD測定法、
(1a)不溶性支持体に抗EC-SOD抗体を作用させるステップ、
(1b)洗浄するステップ、
(1c)ブロッキングするステップ、
(1d)ブロッキング液を除去するステップ。
【請求項3】
固相化された抗EC-SOD抗体がポリクローナル抗体である、請求項1又は2に記載のEC-SOD測定法。
【請求項4】
前記複合体がストレプトアビジンとビオチン標識酵素との複合体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のEC-SOD測定法。
【請求項5】
前記酵素がアルカリフォスファターゼである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のEC-SOD測定法。
【請求項6】
前記検体が唾液である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のEC-SOD測定法。
【請求項7】
固相化された抗EC-SOD抗体と、一次抗体としての抗EC-SODモノクローナル抗体と、ビオチン標識二次抗体と、ストレプトアビジン又はアビジンとビオチン標識酵素との複合体と、を含む、EC-SOD測定キット。
【請求項8】
捕捉用抗EC-SOD抗体と、一次抗体としての抗EC-SODモノクローナル抗体と、ビオチン標識二次抗体と、ストレプトアビジン又はアビジンとビオチン標識酵素との複合体と、を含む、EC-SOD測定キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−194019(P2012−194019A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57517(P2011−57517)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(591060289)岐阜市 (15)