酸化物層状発光体と酸化物ナノシート発光体
【課題】発光輝度を良好にするとともに、安定した使用が可能な発光体の提供。
【解決手段】結晶構造中に発光中心(Ln)がドープされた下記一般式(式1)又は(式2)で示される層状酸化物結晶体からなる酸化物層状発光体であって、(式2)の酸化物ナノシート発光体は、(式1)の層状酸化物結晶体を単層化したナノシートからなることを特徴とする。(式1)AyLn1−xM2O7(式2)Ln1−xM2O7(A:アルカリ金属または水素、0≦y≦2、Ln:発光中心となる希土類元素。M:タンタルまたはニオブ、O:酸素、0≦x<1)
【解決手段】結晶構造中に発光中心(Ln)がドープされた下記一般式(式1)又は(式2)で示される層状酸化物結晶体からなる酸化物層状発光体であって、(式2)の酸化物ナノシート発光体は、(式1)の層状酸化物結晶体を単層化したナノシートからなることを特徴とする。(式1)AyLn1−xM2O7(式2)Ln1−xM2O7(A:アルカリ金属または水素、0≦y≦2、Ln:発光中心となる希土類元素。M:タンタルまたはニオブ、O:酸素、0≦x<1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光中心が面状に配置された発光体に関し、より詳しくは、外部からの励起源により、発光を示す希土類元素を発光中心とする発光体に関する。
【背景技術】
【0002】
この種、発光体としては、発光現象に指向性を持たせ、光を所望の方向に向けることが可能であるが、下記非特許文献に示されるように、ナノシートとナノシートの間に発光中心や他の発光材料を挟み込んだ構造を有するものが従来より周知であった。
このような構成の物は、従来知られた粒状の発光体に比べ発光輝度が低いという問題があった。
さらに非特許文献1に示すものでは、ナノシートとナノシートの間に挟まれている水が発光機構に関与しているので、発光特性が温度や湿度に対して不安定となる欠点があった。
【0003】
【非特許文献1】The Journal of Physical Chemistry B、Vol.109p12748、2005、Matsumoto etal.
【非特許文献2】Chemistry of Materials、Vol.9p664、1997、Kudo
【非特許文献3】European Journal of Inorganic Chemistry、Vol.2005p4031、2005、Wan etal.
【非特許文献4】Journal of Physics and Chemistry of Solids、Vol.59p1187、1998、Honma etal.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような問題を解決して、発光輝度を良好にするとともに、安定した使用が可能な発光体を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明1の酸化物層状発光体は、下記一般式(式1)で示される結晶構造中に発光中心(Ln)がドープされた層状酸化物結晶体からなることを特徴とする。
(式1)
AyLn1−xM2O7
(A:アルカリ金属または水素、0≦y≦2、Ln:発光中心となる希土類元素。M:タンタルまたはニオブ、O:酸素、0≦x<1)
【0006】
発明2の酸化物ナノシート発光体は、発明1の層状酸化物結晶体を単層化した以下の一般式(式2)のナノシートからなることを特徴とする。
(式2)
Ln1−xM2O7
(Ln:発光中心となる希土類元素。M:タンタルまたはニオブ、O:酸素、0≦x<1)
【発明の効果】
【0007】
本発明者等は、ナノシートとナノシートの間に発光中心や他の発光物質を挟み込むのではなく、希土類発光中心をナノシート結晶構造内に取り込み、ナノシートと発光中心間への他の物質の存在を排除することによって、ナノシートホストから発光中心への励起エネルギーの直接遷移を効率化するとの知見に基づき、上記発明を行ったものである。(図1)
【0008】
本発明での希土類イオンを発光中心として結晶構造内に含む酸化物結晶では、発光中心を結晶構造内に取り込むことによって発光中心への励起エネルギーの遷移がナノシートで発光中心等を挟み込んだものよりも効率的に行われるようになった。
また、発光中心が結晶中に存在するのであるから、層外の水などの影響を受けることなく温度や湿度に対して安定した発光特性が得られる。
さらに、希土類イオンを発光中心として用いることによって、そのf−f遷移特有の安定した発光波長が得られるのみならず、高い輝度が期待できる。
【0009】
そして、ナノシート化することにより、発光中心の体積辺りの表面積を非常に大きくすることが出来るので、表面欠損でのエネルギートラップ現象を活用して発光寿命の制御が可能となる。
これによって残像の少ないハイリスポンスな画像処理の出来るディスプレーなどへの応用が可能となる。
また、図7に示すように異なった希土類イオンを含む異なった発光色を有する発光ナノシートを交互積層することによって、原子レベルでの微細な発光色調の制御が可能となる。図9に示すようにバルク発光材料では発光輝度を高めるために発光中心濃度を増加すると、隣接する発光中心数が増えそれらの隣接した発光中心同士でのエネルギーの相互吸収等によって逆に発光輝度が低下してするが、ナノシート発光体においては発光中心濃度を励起または発光方向に対して垂直な方向に配列することによって隣接する発光中心を少なく最適化でき、高濃度な発光中心をドープした場合においてもそれらの相互エネルギー吸収を極力抑えた高輝度な発光を得ることが出来る。非特許文献4に示されているように2次元的に発光中心を取り込むことが出来る物質では、50%近く発光中心をドープすることによって高輝度発光が得られる。よって発光中心を50%程度ドープした2次元のナノシートにおいても高輝度な発光が得られた。さらにこれらのナノシートは原子質量の大きなタンタルの酸化物をホストとして用いることによって、格子振動による励起エネルギーの消費を抑えられる。
【0010】
例えば、図6に示すように、Eu3+発光中心の直接励起より、ナノシートホストの励起による発光の方がこのEu3+を発光中心として結晶構造内に取り込んだ本発明のナノシートにおいてはるかに効率が高いことが確認された。ナノシートは表面積が大きいので効率の高いナノシートホスト励起による発光が得られることによって高い発光強度が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
非特許文献2のFigure2に記載のある様々な希土類イオンを含んだ様々なバルク層状酸化物の発光特性から、希土類イオンを発光中心として結晶構造内に含んだ酸化物ナノシートにおいても希土類イオンの種類を変えることによって様々な発光色が得られることは容易に類推できる。例えば:Er3+(赤外発光)、Gd3+(紫外発光)、Tb3+(緑発光)、Tm3+(青発光)、Eu2+(青発光)等。
例えば、図6にあるように結晶構造内に希土類発光中心を含んだ酸化物ナノシートにおける効率の良いナノシートホストから発光中心への励起エネルギーの遷移による発光は他のナノシートの結晶構造内に希土類イオンを発光中心として取り入れた材料においても同様に得られることは容易に類推できる。
ナノシートホストと発光中心の相関が発光中心をナノシート結晶構造内に取り込んだものの方が、従来のナノシートで発光中心を挟み込んだものより強いので、ホストであるナノシートから発光中心への励起エネルギーの遷移がこのナノシート発光材料の方が既存のナノシートとナノシートの間に発光中心等を挟み込んだものよりも効率的であると予測できる。
ホストであるナノシートから発光中心への励起エネルギーの遷移に水などの媒介を必要としないので温度や湿度に対して安定した発光特性が予測できる。希土類イオンを発光中心として用いることによって、そのf−f遷移特有の安定した発光波長が得られるのみならず、高い輝度が予測できる。下記文献3のFigure5に記載のある他の物質の表面積の増加による発光寿命の減少傾向から、体積辺りの表面積が非常に大きいこのナノシートにおいて表面欠損でのエネルギートラップ現象を活用しての発光寿命の減少が可能となると予測できる。これによって残像の少ないハイリスポンスな画像処理の出来るディスプレーなどへの応用が可能できる。
また、図7にあるように異なった希土類イオンを含む異なった発光色を有する発光ナノシートを交互積層することによって、微細な発光色調の制御が可能になる。非特許文献4のFigure4にある蛍光物質の発光強度の発光中心濃度依存傾向より、二次元平面的に発光中心を取り込むことの出来る物質においてはその理想的な発光中心濃度が50%程度と高いため、他の希土類発光中心においてもその濃度がこの理想値に近い類似した二次元ナノシート物質においてもその輝度が高いことは容易に類推できる。
原子質量の大きなタンタルやニオブの酸化物をホストとして用いることによって、その重い元素の効果による励起エネルギーの格子振動による消費を抑えられることが容易に予想される。
図8にあるようにシート形状を活かしてこのような発光ナノシートを積層することによってEL等のデバイスの作製が容易に出来る。
下記実施例ではEuを希土類元素としたが、その他の希土類元素、例えば、Er3+(赤外発光)、Gd3+(紫外発光)、Tb3+(緑発光)、Tm3+(青発光)、Eu2+(青発光)等でも他の発光色の発光材料が得られることが非特許文献2での様々な希土類をドープした発光材料での傾向から用意に推測できる。
【実施例】
【0012】
<合成>
図2にあるように、3つのステップによって希土類発光中心を結晶構造内に含んだタンタル酸化物発光ナノシートEu0.56Ta2O7は合成される。まず、第一前駆体となる層状タンタル酸化物(ペロブスカイト型)(請求項1)Li2Eu0.56Ta2O7は原材料であるA2CO3(A=アルカリ金属または水素、例えばLi)、Eu2O3、そしてTa2O5の粉末体を2. 2:2/3:2の比率で混合した後、白金坩堝に入れ摂氏1600度で空気中で反応させることによって得られる。
この第一前駆体を2M程度の硝酸と3日間室温で反応させることによって、第一前駆体中のアルカリ金属または水素をHにイオン交換して酸性固体である第二前駆体H2Eu0.56Ta2O7に変化させる。
最後にこの第二前駆体と体積の大きなアルカリ性分子であるテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH)の水溶液を1週間室温で攪拌反応させ層状酸化物前駆体の一層一層を剥離することによって希土類発光中心を結晶構造内に含んだタンタル酸化物発光ナノシート(請求項2)であるEu0.56Ta2O7は得られる。
またニオブ酸化物発光ナノシートは同様に、第一前駆体である層状二オブ酸化物(ペロブスカイト型)(請求項1)K2La0.90Eu0.05Nb2O7は原料であるA2CO3(A=アルカリ金属、例えばK),La2O3、Eu2O3,そしてNb2O5の粉末体を1.15:0.90:0.05:2の比率で混合した後、アルミナボートにのせ摂氏1150度で空気中で反応させることによって得られる。
この第一前駆体を10M程度の硝酸と3日間室温で反応させることによって、第一前駆体中のアルカリ金属または水素をHにイオン交換して酸性固体である第二前駆体K1−xHxLa0.90Eu0.05Nb2O7に変化させる。
そしてこの第二前駆体と体積の大きなアルカリ性分子であるテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH)の水溶液を1週間室温で攪拌反応させ層状酸化物前駆体の一層一層を剥離することによって希土類発光中心を結晶構造内に含んだ二オブ酸化物発光ナノシート(請求項2)であるLa0.90Eu0.05Nb2O7は得られる。
【0013】
<評価>
前駆体中の元素組成をEPMAによって評価した結果Eu:Taの元素組成比は第一前駆体、第二前駆体ともに0.56:2であることから、得られたナノシートの組成はEu0.56Ta2O7となる。透過型電子顕微鏡を用いたナノシートの形状観察では、均一の厚さを持ったナノシートが形成されていることが確認された。また、制限視野電子線回折の結果、得られたナノシートは前駆体のペロブスカイト構造を維持していることが確認された(図3)。更に放射光X線を用いた面内X線回折によっても、このナノシートが前駆体のペロブスカイト構造を維持していることが確認された(図4)。さらに、原子間力顕微鏡での形状観察によりこのナノシートが2nmの均一の厚さであることが確認された(図5)。Eu0.56Ta2O7ナノシートの蛍光特性(図6)では616nm近傍でのEu3+発光中心特有の赤色発光を示す。また、最大発光強度が得られる波長はEu3+の5D0から7F2という比較的高波長側遷移によるものであることから、そのオレンジ成分の少ない赤色発光は応用に適している。このナノシートの重要な特徴はその励起スペクトルに観られ、Eu3+発光中心の直接励起より276nm付近でのナノシートホストの励起による発光の方がこのEu3+を発光中心として結晶構造内に取り込んだEu0.56Ta2O7ナノシートにおいてはるかに効率が高いことが確認された。また、このナノシートでは肉眼で確認できるほどの光度の赤色発光が得られる。
もう一方の前駆体ALa0.90Eu0.05Nb2O7(A:KまたはH)においても元素組成をICPによって評価した結果La:Eu:Nbの元素組成比は第一前駆体、第二前駆体ともに0.9:0.05:2であることから、得られたナノシートの組成はLa0.90Eu0.05Nb2O7となる。放射光X線を用いた面内X線回折によって、このナノシートが前駆体のペロブスカイト構造を維持していることが確認された(図10)。さらに、原子間力顕微鏡での形状観察によりこのナノシートが2nmの均一の厚さであることが確認された(図11)。La0.90Eu0.05Nb2O7ナノシートの蛍光特性(図12)では616nm近傍でのEu3+発光中心特有の赤色発光を示す。このナノシートにおいても、Eu3+発光中心の直接励起より353nm付近でのナノシートホストの励起による発光の方がこのEu3+を発光中心として結晶構造内に取り込んだLa0.90Eu0.05Nb2O7ナノシートにおいてはるかに効率が高いことが確認された。また、非特許文献4にもある理論どおり希土類発光中心の濃度が理論的な理想値である50%に近いEu0.56Ta2O7ナノシートの方が希土類発光中心濃度がその値からかけ離れたLa0.90Eu0.05Nb2O7ナノシートよりも発光輝度が高いことが図13からわかる。
【0014】
<デバイス1>
シート形状を活かしてこのような発光ナノシートを積層することによって発光デバイスの作製が出来ると予想される。特にELデバイスに関しては図8に示すようにその多くが透明電極上に絶縁膜、発光材料膜、絶縁/誘電膜、そして背面電極を積層して作製されているので、透明基板上に絶縁/誘電ナノシートと本発明の発光ナノシートを交互積層し、背面電極を付けることによっても作製できることが容易に予想できこれによって省電力化や発光色の原子レベルでの微細調整が可能となる。このデバイスでの発光は透明電極を通して得られる。また、ここでは絶縁/誘電ナノシートは発光に寄与しない漏れ電流を防止するとともに、発光輝度を高めるために電圧を高めた場合での絶縁耐圧を確保するために必要となる。これには酸化チタンナノシート等の薄くて誘電率の高い材料を用いることが出来る。発光に必要な電圧は背面電極と透明電極の距離に比例する。よって、絶縁・誘電ナノシートと発光ナノシートの積層によって薄型ELデバイスを構築することによってその省電力化が実現できる。
<デバイス2>
また、赤、緑、青の発光色のナノシートをその2次元形状を活かして平面に配列することによって、それらの発光色の混合によるディスプレーへの応用が可能と予想される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図中左側は既存のナノシートを用いた発光材料を示す模式図、右側は本発明でのナノシート発光材料を示した模式図。
【図2】希土類発光中心を結晶構造内に含んだ発光ナノシートの合成概要図。
【図3】Eu0.56Ta2O7ナノシートのTEM像と制限視野電子線回折パターン
【図4】Eu0.56Ta2O7ナノシートの放射線X線を用いた面内回折パターンを示すグラフ。
【図5】原子間力顕微鏡での観察したEu0.56Ta2O7ナノシートの形状を示す写真。
【図6】Eu0.56Ta2O7ナノシートの(a)励起スペクトル(616nmでの蛍光で計測)と(b)蛍光スペクトル(276nmで励起)で励起および紫外光を照射した時の赤色発光写真。
【図7】異なった希土類発光中心を含んだ異なった発光色のナノシートの交互積層による発光色の原子レベルでの微細調整を可能とする現象を示す模式図。
【図8】本発明を用いたデバイスの構成例を示す模式図。これによって省電力化や発光色の原子レベルでの微細調整が可能となることを示す模式図。
【図9】ナノシート発光材料を用いた場合の発光中心の2次元配列による発光中心同士の相互エネルギー吸収を極力抑えた高輝度発光の実現モデルを示す模式図。
【図10】La0.90Eu0.05Nb2O7ナノシートの放射線X線を用いた面内回折パターンを示すグラフ。
【図11】原子間力顕微鏡での観察したLa0.90Eu0.05Nb2O7ナノシートの形状を示す写真。
【図12】La0.90Eu0.05Nb2O7ナノシートの(a)励起スペクトル(616nmでの蛍光で計測)と(b)蛍光スペクトル(353nmで励起)において616nm近傍でのEu3+発光中心特有の赤色発光を示し、Eu3+発光中心の直接励起より353nm付近でのナノシートホストの励起による発光の方がこのナノシートにおいてはるかに発光効率が高いことが示されている。
【図13】Eu0.56Ta2O7ナノシート(276nmで励起)とLa0.90Eu0.05Nb2O7ナノシート(353nmで励起)の発光強度の比較を示すグラフ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光中心が面状に配置された発光体に関し、より詳しくは、外部からの励起源により、発光を示す希土類元素を発光中心とする発光体に関する。
【背景技術】
【0002】
この種、発光体としては、発光現象に指向性を持たせ、光を所望の方向に向けることが可能であるが、下記非特許文献に示されるように、ナノシートとナノシートの間に発光中心や他の発光材料を挟み込んだ構造を有するものが従来より周知であった。
このような構成の物は、従来知られた粒状の発光体に比べ発光輝度が低いという問題があった。
さらに非特許文献1に示すものでは、ナノシートとナノシートの間に挟まれている水が発光機構に関与しているので、発光特性が温度や湿度に対して不安定となる欠点があった。
【0003】
【非特許文献1】The Journal of Physical Chemistry B、Vol.109p12748、2005、Matsumoto etal.
【非特許文献2】Chemistry of Materials、Vol.9p664、1997、Kudo
【非特許文献3】European Journal of Inorganic Chemistry、Vol.2005p4031、2005、Wan etal.
【非特許文献4】Journal of Physics and Chemistry of Solids、Vol.59p1187、1998、Honma etal.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような問題を解決して、発光輝度を良好にするとともに、安定した使用が可能な発光体を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明1の酸化物層状発光体は、下記一般式(式1)で示される結晶構造中に発光中心(Ln)がドープされた層状酸化物結晶体からなることを特徴とする。
(式1)
AyLn1−xM2O7
(A:アルカリ金属または水素、0≦y≦2、Ln:発光中心となる希土類元素。M:タンタルまたはニオブ、O:酸素、0≦x<1)
【0006】
発明2の酸化物ナノシート発光体は、発明1の層状酸化物結晶体を単層化した以下の一般式(式2)のナノシートからなることを特徴とする。
(式2)
Ln1−xM2O7
(Ln:発光中心となる希土類元素。M:タンタルまたはニオブ、O:酸素、0≦x<1)
【発明の効果】
【0007】
本発明者等は、ナノシートとナノシートの間に発光中心や他の発光物質を挟み込むのではなく、希土類発光中心をナノシート結晶構造内に取り込み、ナノシートと発光中心間への他の物質の存在を排除することによって、ナノシートホストから発光中心への励起エネルギーの直接遷移を効率化するとの知見に基づき、上記発明を行ったものである。(図1)
【0008】
本発明での希土類イオンを発光中心として結晶構造内に含む酸化物結晶では、発光中心を結晶構造内に取り込むことによって発光中心への励起エネルギーの遷移がナノシートで発光中心等を挟み込んだものよりも効率的に行われるようになった。
また、発光中心が結晶中に存在するのであるから、層外の水などの影響を受けることなく温度や湿度に対して安定した発光特性が得られる。
さらに、希土類イオンを発光中心として用いることによって、そのf−f遷移特有の安定した発光波長が得られるのみならず、高い輝度が期待できる。
【0009】
そして、ナノシート化することにより、発光中心の体積辺りの表面積を非常に大きくすることが出来るので、表面欠損でのエネルギートラップ現象を活用して発光寿命の制御が可能となる。
これによって残像の少ないハイリスポンスな画像処理の出来るディスプレーなどへの応用が可能となる。
また、図7に示すように異なった希土類イオンを含む異なった発光色を有する発光ナノシートを交互積層することによって、原子レベルでの微細な発光色調の制御が可能となる。図9に示すようにバルク発光材料では発光輝度を高めるために発光中心濃度を増加すると、隣接する発光中心数が増えそれらの隣接した発光中心同士でのエネルギーの相互吸収等によって逆に発光輝度が低下してするが、ナノシート発光体においては発光中心濃度を励起または発光方向に対して垂直な方向に配列することによって隣接する発光中心を少なく最適化でき、高濃度な発光中心をドープした場合においてもそれらの相互エネルギー吸収を極力抑えた高輝度な発光を得ることが出来る。非特許文献4に示されているように2次元的に発光中心を取り込むことが出来る物質では、50%近く発光中心をドープすることによって高輝度発光が得られる。よって発光中心を50%程度ドープした2次元のナノシートにおいても高輝度な発光が得られた。さらにこれらのナノシートは原子質量の大きなタンタルの酸化物をホストとして用いることによって、格子振動による励起エネルギーの消費を抑えられる。
【0010】
例えば、図6に示すように、Eu3+発光中心の直接励起より、ナノシートホストの励起による発光の方がこのEu3+を発光中心として結晶構造内に取り込んだ本発明のナノシートにおいてはるかに効率が高いことが確認された。ナノシートは表面積が大きいので効率の高いナノシートホスト励起による発光が得られることによって高い発光強度が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
非特許文献2のFigure2に記載のある様々な希土類イオンを含んだ様々なバルク層状酸化物の発光特性から、希土類イオンを発光中心として結晶構造内に含んだ酸化物ナノシートにおいても希土類イオンの種類を変えることによって様々な発光色が得られることは容易に類推できる。例えば:Er3+(赤外発光)、Gd3+(紫外発光)、Tb3+(緑発光)、Tm3+(青発光)、Eu2+(青発光)等。
例えば、図6にあるように結晶構造内に希土類発光中心を含んだ酸化物ナノシートにおける効率の良いナノシートホストから発光中心への励起エネルギーの遷移による発光は他のナノシートの結晶構造内に希土類イオンを発光中心として取り入れた材料においても同様に得られることは容易に類推できる。
ナノシートホストと発光中心の相関が発光中心をナノシート結晶構造内に取り込んだものの方が、従来のナノシートで発光中心を挟み込んだものより強いので、ホストであるナノシートから発光中心への励起エネルギーの遷移がこのナノシート発光材料の方が既存のナノシートとナノシートの間に発光中心等を挟み込んだものよりも効率的であると予測できる。
ホストであるナノシートから発光中心への励起エネルギーの遷移に水などの媒介を必要としないので温度や湿度に対して安定した発光特性が予測できる。希土類イオンを発光中心として用いることによって、そのf−f遷移特有の安定した発光波長が得られるのみならず、高い輝度が予測できる。下記文献3のFigure5に記載のある他の物質の表面積の増加による発光寿命の減少傾向から、体積辺りの表面積が非常に大きいこのナノシートにおいて表面欠損でのエネルギートラップ現象を活用しての発光寿命の減少が可能となると予測できる。これによって残像の少ないハイリスポンスな画像処理の出来るディスプレーなどへの応用が可能できる。
また、図7にあるように異なった希土類イオンを含む異なった発光色を有する発光ナノシートを交互積層することによって、微細な発光色調の制御が可能になる。非特許文献4のFigure4にある蛍光物質の発光強度の発光中心濃度依存傾向より、二次元平面的に発光中心を取り込むことの出来る物質においてはその理想的な発光中心濃度が50%程度と高いため、他の希土類発光中心においてもその濃度がこの理想値に近い類似した二次元ナノシート物質においてもその輝度が高いことは容易に類推できる。
原子質量の大きなタンタルやニオブの酸化物をホストとして用いることによって、その重い元素の効果による励起エネルギーの格子振動による消費を抑えられることが容易に予想される。
図8にあるようにシート形状を活かしてこのような発光ナノシートを積層することによってEL等のデバイスの作製が容易に出来る。
下記実施例ではEuを希土類元素としたが、その他の希土類元素、例えば、Er3+(赤外発光)、Gd3+(紫外発光)、Tb3+(緑発光)、Tm3+(青発光)、Eu2+(青発光)等でも他の発光色の発光材料が得られることが非特許文献2での様々な希土類をドープした発光材料での傾向から用意に推測できる。
【実施例】
【0012】
<合成>
図2にあるように、3つのステップによって希土類発光中心を結晶構造内に含んだタンタル酸化物発光ナノシートEu0.56Ta2O7は合成される。まず、第一前駆体となる層状タンタル酸化物(ペロブスカイト型)(請求項1)Li2Eu0.56Ta2O7は原材料であるA2CO3(A=アルカリ金属または水素、例えばLi)、Eu2O3、そしてTa2O5の粉末体を2. 2:2/3:2の比率で混合した後、白金坩堝に入れ摂氏1600度で空気中で反応させることによって得られる。
この第一前駆体を2M程度の硝酸と3日間室温で反応させることによって、第一前駆体中のアルカリ金属または水素をHにイオン交換して酸性固体である第二前駆体H2Eu0.56Ta2O7に変化させる。
最後にこの第二前駆体と体積の大きなアルカリ性分子であるテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH)の水溶液を1週間室温で攪拌反応させ層状酸化物前駆体の一層一層を剥離することによって希土類発光中心を結晶構造内に含んだタンタル酸化物発光ナノシート(請求項2)であるEu0.56Ta2O7は得られる。
またニオブ酸化物発光ナノシートは同様に、第一前駆体である層状二オブ酸化物(ペロブスカイト型)(請求項1)K2La0.90Eu0.05Nb2O7は原料であるA2CO3(A=アルカリ金属、例えばK),La2O3、Eu2O3,そしてNb2O5の粉末体を1.15:0.90:0.05:2の比率で混合した後、アルミナボートにのせ摂氏1150度で空気中で反応させることによって得られる。
この第一前駆体を10M程度の硝酸と3日間室温で反応させることによって、第一前駆体中のアルカリ金属または水素をHにイオン交換して酸性固体である第二前駆体K1−xHxLa0.90Eu0.05Nb2O7に変化させる。
そしてこの第二前駆体と体積の大きなアルカリ性分子であるテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH)の水溶液を1週間室温で攪拌反応させ層状酸化物前駆体の一層一層を剥離することによって希土類発光中心を結晶構造内に含んだ二オブ酸化物発光ナノシート(請求項2)であるLa0.90Eu0.05Nb2O7は得られる。
【0013】
<評価>
前駆体中の元素組成をEPMAによって評価した結果Eu:Taの元素組成比は第一前駆体、第二前駆体ともに0.56:2であることから、得られたナノシートの組成はEu0.56Ta2O7となる。透過型電子顕微鏡を用いたナノシートの形状観察では、均一の厚さを持ったナノシートが形成されていることが確認された。また、制限視野電子線回折の結果、得られたナノシートは前駆体のペロブスカイト構造を維持していることが確認された(図3)。更に放射光X線を用いた面内X線回折によっても、このナノシートが前駆体のペロブスカイト構造を維持していることが確認された(図4)。さらに、原子間力顕微鏡での形状観察によりこのナノシートが2nmの均一の厚さであることが確認された(図5)。Eu0.56Ta2O7ナノシートの蛍光特性(図6)では616nm近傍でのEu3+発光中心特有の赤色発光を示す。また、最大発光強度が得られる波長はEu3+の5D0から7F2という比較的高波長側遷移によるものであることから、そのオレンジ成分の少ない赤色発光は応用に適している。このナノシートの重要な特徴はその励起スペクトルに観られ、Eu3+発光中心の直接励起より276nm付近でのナノシートホストの励起による発光の方がこのEu3+を発光中心として結晶構造内に取り込んだEu0.56Ta2O7ナノシートにおいてはるかに効率が高いことが確認された。また、このナノシートでは肉眼で確認できるほどの光度の赤色発光が得られる。
もう一方の前駆体ALa0.90Eu0.05Nb2O7(A:KまたはH)においても元素組成をICPによって評価した結果La:Eu:Nbの元素組成比は第一前駆体、第二前駆体ともに0.9:0.05:2であることから、得られたナノシートの組成はLa0.90Eu0.05Nb2O7となる。放射光X線を用いた面内X線回折によって、このナノシートが前駆体のペロブスカイト構造を維持していることが確認された(図10)。さらに、原子間力顕微鏡での形状観察によりこのナノシートが2nmの均一の厚さであることが確認された(図11)。La0.90Eu0.05Nb2O7ナノシートの蛍光特性(図12)では616nm近傍でのEu3+発光中心特有の赤色発光を示す。このナノシートにおいても、Eu3+発光中心の直接励起より353nm付近でのナノシートホストの励起による発光の方がこのEu3+を発光中心として結晶構造内に取り込んだLa0.90Eu0.05Nb2O7ナノシートにおいてはるかに効率が高いことが確認された。また、非特許文献4にもある理論どおり希土類発光中心の濃度が理論的な理想値である50%に近いEu0.56Ta2O7ナノシートの方が希土類発光中心濃度がその値からかけ離れたLa0.90Eu0.05Nb2O7ナノシートよりも発光輝度が高いことが図13からわかる。
【0014】
<デバイス1>
シート形状を活かしてこのような発光ナノシートを積層することによって発光デバイスの作製が出来ると予想される。特にELデバイスに関しては図8に示すようにその多くが透明電極上に絶縁膜、発光材料膜、絶縁/誘電膜、そして背面電極を積層して作製されているので、透明基板上に絶縁/誘電ナノシートと本発明の発光ナノシートを交互積層し、背面電極を付けることによっても作製できることが容易に予想できこれによって省電力化や発光色の原子レベルでの微細調整が可能となる。このデバイスでの発光は透明電極を通して得られる。また、ここでは絶縁/誘電ナノシートは発光に寄与しない漏れ電流を防止するとともに、発光輝度を高めるために電圧を高めた場合での絶縁耐圧を確保するために必要となる。これには酸化チタンナノシート等の薄くて誘電率の高い材料を用いることが出来る。発光に必要な電圧は背面電極と透明電極の距離に比例する。よって、絶縁・誘電ナノシートと発光ナノシートの積層によって薄型ELデバイスを構築することによってその省電力化が実現できる。
<デバイス2>
また、赤、緑、青の発光色のナノシートをその2次元形状を活かして平面に配列することによって、それらの発光色の混合によるディスプレーへの応用が可能と予想される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図中左側は既存のナノシートを用いた発光材料を示す模式図、右側は本発明でのナノシート発光材料を示した模式図。
【図2】希土類発光中心を結晶構造内に含んだ発光ナノシートの合成概要図。
【図3】Eu0.56Ta2O7ナノシートのTEM像と制限視野電子線回折パターン
【図4】Eu0.56Ta2O7ナノシートの放射線X線を用いた面内回折パターンを示すグラフ。
【図5】原子間力顕微鏡での観察したEu0.56Ta2O7ナノシートの形状を示す写真。
【図6】Eu0.56Ta2O7ナノシートの(a)励起スペクトル(616nmでの蛍光で計測)と(b)蛍光スペクトル(276nmで励起)で励起および紫外光を照射した時の赤色発光写真。
【図7】異なった希土類発光中心を含んだ異なった発光色のナノシートの交互積層による発光色の原子レベルでの微細調整を可能とする現象を示す模式図。
【図8】本発明を用いたデバイスの構成例を示す模式図。これによって省電力化や発光色の原子レベルでの微細調整が可能となることを示す模式図。
【図9】ナノシート発光材料を用いた場合の発光中心の2次元配列による発光中心同士の相互エネルギー吸収を極力抑えた高輝度発光の実現モデルを示す模式図。
【図10】La0.90Eu0.05Nb2O7ナノシートの放射線X線を用いた面内回折パターンを示すグラフ。
【図11】原子間力顕微鏡での観察したLa0.90Eu0.05Nb2O7ナノシートの形状を示す写真。
【図12】La0.90Eu0.05Nb2O7ナノシートの(a)励起スペクトル(616nmでの蛍光で計測)と(b)蛍光スペクトル(353nmで励起)において616nm近傍でのEu3+発光中心特有の赤色発光を示し、Eu3+発光中心の直接励起より353nm付近でのナノシートホストの励起による発光の方がこのナノシートにおいてはるかに発光効率が高いことが示されている。
【図13】Eu0.56Ta2O7ナノシート(276nmで励起)とLa0.90Eu0.05Nb2O7ナノシート(353nmで励起)の発光強度の比較を示すグラフ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光中心が面状に配置された発光体であって、下記一般式(式1)で示される結晶構造中に発光中心(Ln)がドープされた層状酸化物結晶体からなることを特徴とする。
(式1)
AyLn1−xM2O7
(A:アルカリ金属または水素、0≦y≦2、Ln:発光中心となる希土類元素。M:タンタルまたはニオブ、O:酸素、0≦x<1)
【請求項2】
発光中心が面状に配置された発光体であって、請求項1に記載の層状酸化物結晶体を単層化した以下の一般式(式2)のナノシートからなることを特徴とする。
(式2)
Ln1−xM2O7
(Ln:発光中心となる希土類元素。M:タンタルまたはニオブ、O:酸素、0≦x<1)
【請求項1】
発光中心が面状に配置された発光体であって、下記一般式(式1)で示される結晶構造中に発光中心(Ln)がドープされた層状酸化物結晶体からなることを特徴とする。
(式1)
AyLn1−xM2O7
(A:アルカリ金属または水素、0≦y≦2、Ln:発光中心となる希土類元素。M:タンタルまたはニオブ、O:酸素、0≦x<1)
【請求項2】
発光中心が面状に配置された発光体であって、請求項1に記載の層状酸化物結晶体を単層化した以下の一般式(式2)のナノシートからなることを特徴とする。
(式2)
Ln1−xM2O7
(Ln:発光中心となる希土類元素。M:タンタルまたはニオブ、O:酸素、0≦x<1)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−173785(P2009−173785A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14606(P2008−14606)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年11月27日 インターネットアドレス「http://pubs.acs.org/journals/cmatex/index.html」「http://pubs.acs.org/cgi−bin/article.cgi/cmatex/2007/19/i26/pdf/cm702552p.pdf」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年1月16日 インターネットアドレス「http://pubs3.acs.org/acs/journals/toc.page?incoden=jpccck&indecade=0&involume=0&inissue=0」「http://pubs.acs.org/cgi−bin/asap.cgi/jpccck/asap/pdf/jp711699c.pdf」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年11月27日 インターネットアドレス「http://pubs.acs.org/journals/cmatex/index.html」「http://pubs.acs.org/cgi−bin/article.cgi/cmatex/2007/19/i26/pdf/cm702552p.pdf」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年1月16日 インターネットアドレス「http://pubs3.acs.org/acs/journals/toc.page?incoden=jpccck&indecade=0&involume=0&inissue=0」「http://pubs.acs.org/cgi−bin/asap.cgi/jpccck/asap/pdf/jp711699c.pdf」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
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