説明

酸化物被覆銅微粒子の製造方法

【課題】顔料用金属微粒子として、優れた耐酸化性を有する一方、金属光沢等の銅の意匠性を発現させる酸化物被覆銅微粒子を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】下記の工程(A)〜(C)を含むことを特徴とする。
工程(A):銅微粒子を含む水性懸濁液中に、アルミニウム塩と尿素とを含む水溶液を供給して、アルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層(c)を有する銅微粒子を、下記の要件を満足する被覆量で形成する。
上記被覆量は、前記酸化物被覆銅微粒子中の銅の含有量に対するアルミニウムの含有量の組成割合を、芯粒子の比表面積で除した値が、0.2〜1.2[質量%/(m・g−1)]であるように制御される。
工程(B):被覆層(c)を有する銅微粒子を固液分離し、乾燥処理に付す。
工程(C):乾燥処理後の銅微粒子を還元雰囲気下に180〜330℃の温度で加熱処理に付し、被覆層(c)を熱分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物被覆銅微粒子の製造方法に関し、さらに詳しくは、顔料用金属微粒子として、優れた耐酸化性を有する一方、金属光沢等の銅の意匠性を発現させることができる酸化物被覆銅微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、メタリック塗料やメタリックインキは、その独特の意匠から自動車の外装をはじめとして様々な分野で使用されている。ここで用いられるメタリック塗料においては、主に塗料中に含まれる鱗片状の金属顔料が入射光を反射することにより、独特の輝く意匠性が発現されるものである。前記メタリック塗料用の金属顔料としては、表面に形成される自然酸化保護膜による高い耐酸化性や優れた金属光沢から、主としてアルミニウムが広く用いられている。一方、最近の動向としてアルミニウムにはない有色の金属光沢を示す金属顔料として、銅が注目されている。しかしながら、銅においては、アルミニウムのような自然酸化保護膜を形成しないことから、金属の意匠性を維持しつつ耐酸化性を獲得することが求められていた。
【0003】
このための手段として、酸化物被覆の金属微粒子が考えられる。例えば、熱プラズマに原料混合物を供給し、様々な金属微粒子上に様々な酸化物が被覆された酸化物被覆金属微粒子を得る方法として、平均厚みが1〜10nmの酸化物被覆層が、堅固に、かつ好ましくは全表面に完全に被覆された酸化物被覆金属微粒子が得られることが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この方法では、耐酸化性、金属光沢等についての記述がないため、金属微粒子本来の特性がどの程度維持されているか明らかではない。しかも、TEM像によると、粒子の凝集により、被覆層同士が一体化しており、粒度分布の制御が難しい。さらには、装置が高価であり、かつ、装置内壁への酸化物付着量が多いため、低コストで製造するのは困難であるという問題がある。
【0004】
また、銅粉に対して無機酸化物を被覆する技術としては、例えば、水系においてアルミニウム化合物とホウ素化合物又はリン化合物ゲルを銅粉表面に析出させる技術が示されている(例えば、特許文献2参照。)。この方法によれば、耐酸化性や設備面の問題を解決できる可能性がある。しかし、基材表面にゲル状の被覆を施すことにより、顔料としての意匠性が損なわれてしまう可能性があり、意匠を維持できるレベルで十分な耐酸化性を付与できるかが不明である。
【0005】
以上の状況から、有色の金属光沢を持ちかつ耐酸化性に優れた金属顔料を簡易なプロセスで製造する技術が求められている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−219901号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】特開2005−68508号公報(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、顔料用金属微粒子として、優れた耐酸化性を有する一方、金属光沢等の銅の意匠性を発現させることができる酸化物被覆銅微粒子を効率的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために、酸化物被覆銅微粒子について、鋭意研究を重ねた結果、特定の条件によりアルミニウム水酸化物からなる被覆層を有する銅微粒子を形成する工程(A)、前記被覆層を有する銅微粒子を固液分離して、乾燥処理を行う工程(B)、及び特定の条件でアルミニウム水酸化物を熱分解する工程(C)、を含む方法を用いたところ、金属顔料として用いた場合に、優れた耐酸化性を有する一方、金属光沢等の銅の意匠性を発現させることができる酸化物被覆銅微粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、銅微粒子からなる芯粒子(a)と、芯粒子(a)の表面上に形成されたアルミニウムを主成分として含む酸化物からなる被覆層(b)とから構成される酸化物被覆銅微粒子の製造方法であって、
下記の工程(A)〜(C)を含むことを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法が提供される。
工程(A):銅微粒子を含む水性懸濁液中に、アルミニウム塩と尿素とを含む水溶液を供給して、アルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層(c)を有する銅微粒子を、下記の要件を満足する被覆量で形成する。
上記被覆量は、質量%の単位で表した前記酸化物被覆銅微粒子中の銅の含有量に対するアルミニウムの含有量の組成割合を、[m・g−1]の単位で表した芯粒子(a)の比表面積で除した値が、0.2〜1.2[質量%/(m・g−1)]であるように制御される。
工程(B):前記工程(A)で形成した被覆層(c)を有する銅微粒子を固液分離した後、乾燥処理に付す。
工程(C):前記工程(B)で得た乾燥処理後の銅微粒子を還元雰囲気下に180〜330℃の温度で加熱処理に付し、前記被覆層(c)を熱分解する。
【0010】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記アルミニウム塩と尿素とを含む水溶液を、銅微粒子を含む水性懸濁液中に供給する前に、30〜100℃の温度で加熱処理に付すことを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記アルミニウム塩は、硫酸アルミニウム又は硝酸アルミニウムであることを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3いずれかのの発明において、前記水性懸濁液中に、ヘキサメタリン酸ナトリウムを添加することを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、顔料用金属微粒子として、優れた耐酸化性を有する一方、金属光沢等の銅の意匠性を発現させることができる酸化物被覆銅微粒子を効率的に製造することができる。さらに、本発明の製造方法によって得られる酸化物被覆銅微粒子は、その金属光沢などの意匠性を維持し、かつ、酸化による変色が緩和されており、金属顔料として好適であり、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の酸化物被覆銅微粒子の製造方法を詳細に説明する。
本発明の酸化物被覆銅微粒子の製造方法は、銅微粒子からなる芯粒子(a)と、芯粒子(a)の表面上に形成されたアルミニウムを主成分として含む酸化物からなる被覆層(b)とから構成される酸化物被覆銅微粒子の製造方法であって、下記の工程(A)〜(C)を含むことを特徴とする。
工程(A):銅微粒子を含む水性懸濁液中に、アルミニウム塩と尿素とを含む水溶液を供給して、アルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層(c)を有する銅微粒子を、下記の要件を満足する被覆量で形成する。
上記被覆量は、質量%の単位で表した前記酸化物被覆銅微粒子中の銅の含有量に対するアルミニウムの含有量の組成割合を、[m・g−1]の単位で表した芯粒子(a)の比表面積で除した値が、0.2〜1.2[質量%/(m・g−1)]であるように制御される。
工程(B):前記工程(A)で形成した被覆層(c)を有する銅微粒子を固液分離した後、乾燥処理に付す。
工程(C):前記工程(B)で得た乾燥処理後の銅微粒子を還元雰囲気下に180〜330℃の温度で加熱処理に付し、前記被覆層(c)を熱分解する。
これによって、顔料用金属微粒子として、優れた耐酸化性を有する一方、金属光沢等の銅の意匠性を発現させることができる酸化物被覆銅微粒子を効率的に製造することができる。
【0015】
本発明の製造方法において、工程(A)において銅微粒子を含む水性懸濁液中にアルミニウム塩と尿素とを含む水溶液を供給する際に、最終的に得られる酸化物被覆銅微粒子中の銅の含有量に対するアルミニウムの含有量の組成割合を芯粒子(a)の比表面積で除した値が所定値になるように、得られる被覆層(c)を有する銅微粒子の被覆量を制御して形成されることが、特に重要である。
【0016】
すなわち、上記製造方法の工程(A)は、銅微粒子を含む水性懸濁液中に、アルミニウム塩と尿素とを含む水溶液を供給して、アルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層(c)を有する銅微粒子を、下記の要件を満足する被覆量で形成する。
上記被覆量は、質量%の単位で表した前記酸化物被覆銅微粒子中の銅の含有量に対するアルミニウムの含有量の組成割合を、[m・g−1]の単位で表した芯粒子(a)の比表面積で除した値(以下、Al含有定数と呼称する場合がある。)が、0.2〜1.2[質量%/(m・g−1)]、好ましくは0.6〜1.0[質量%/(m・g−1)]であるように制御される。なお、前記質量%の単位で表した組成割合としては、最終的に生成される酸化物被覆銅微粒子のアルミニウム品位と銅品位から、(アルミニウム品位/銅品位)×100なる算出式で求められる。
【0017】
これにより、芯粒子(a)の表面積に応じて、被覆するアルミニウム量を変化させて、芯粒子(a)の比表面積あたりの被覆量を所定値に調整して、被覆層の厚さを所望の状態に制御することができる。
すなわち、Al含有定数が1.2[質量%/(m・g−1)]を超えると、被覆層が厚すぎるので、芯粒子(a)の意匠性が損なわれる。一方、Al含有定数が0.2[質量%/(m・g−1)]未満では、被覆粒子に十分な耐酸化性を付与することができない。
【0018】
上記工程(A)において、まず、所定のコート液を準備する。前記コート液としては、最終的に得られる酸化物被覆銅微粒子中のAl含有定数が0.2〜1.2[質量%/(m・g−1)]となるに十分な量のアルミニウム塩と尿素とを含む水溶液を用いる。
【0019】
ここで、アルミニウム塩は水酸化物となり被覆剤として用いられ、また、尿素は、塩基として用いられるので、アルミニウム塩を水酸化するための十分な量が用いられる。このとき、銅微粒子上への被覆量としては、被覆に際しての反応条件により影響される。例えば、アルミニウムに関しては、銅微粒子の比表面積等の形状要因、尿素の含有量、コート液の供給条件等の反応条件により反応速度が影響されるため、未反応等によって被覆層(c)中、すなわち被覆層(b)中のアルミニウム量がコート液中のアルミニウム量より少なくなる場合があるので、コート液中のアルミニウム量を、上記被覆に際しての反応条件に対して事前に求めておいた、通常は目標とするAl含有定数より求められる値よりも過剰量である添加量にすることにより、Al含有定数を所定値に制御することが好ましい。なお、後続の工程(B)、(C)では、アルミニウムの損失量は実質的に無視できるので、被覆層(c)中に含まれるアルミニウムは、そのまま被覆層(b)中に含有される。
【0020】
また、必要に応じて、コート液を調製する際に、前記コート液を、銅微粒子を含む水性懸濁液中に供給する前に、30〜100℃の温度で加熱処理に付すことができる。これにより、コート液中のアルミニウム塩の水酸化を進めることができ、銅微粒子を含む水性懸濁液中に供給したときに被覆層を効率よく形成させることができる。なお、加熱後のコート液は透明であり、微粒子の晶出は認められない。ここで、コート液中のアルミニウム塩と尿素の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、それぞれ、0.007〜0.14mol/L、0.09〜18g/Lが好ましい。
【0021】
次いで、コート液を懸濁液中に供給すると、銅微粒子上にアルミニウム水酸化物を主成分として含む水酸化物の被覆層を形成する。なお、アルミニウム水酸化物を形成するための水酸基は水から供給される。この際、銅微粒子と水の重量比としては、特に限定されるものではないが、水酸基を供給するのに十分な水が必要である。
【0022】
また、上記方法では、被覆の速度が緩やかであるため、銅微粒子同士の接触部の被覆層による連結も緩やかに進む。したがって、芯粒子(a)の分散を十分に行い、かつ、懸濁液の攪拌を十分に行うことにより、連結が破壊され、芯粒子(a)と同程度の粒度分布を持った被覆粒子を得ることができる。しかしながら、上記コート液の供給速度が速すぎる場合には、連結が顕著になるとともに均一な被覆が妨げられる場合がある。コート供給速度は、できるだけ遅くすることが好ましいが、生産性を考慮すると、芯粒子(a)の表面積あたりのアルミニウム供給量を0.00005〜0.001g/分とすることが好ましく、0.00005〜0.0005g/分とすることがより好ましい。
【0023】
上記工程(A)で用いる銅微粒子としては、一般的に得られる銅粒子であればその形状は問われないが、メタリック塗料用の金属顔料として用いる場合には、広い平滑面を有した板状の形状が好ましい。
【0024】
上記工程(A)で用いるアルミニウム塩としては、特に限定されるものではないが、安価で入手が容易な硫酸アルミニウム又は硝酸アルミニウムが好ましい。
【0025】
上記工程(A)において、銅微粒子を含む水性懸濁液中の粒子の分散性を向上させるために、特に限定されるものではないが、ヘキサメタリン酸ナトリウムを添加することが好ましい。これにより、ビーカー等の反応容器内壁へのアルミニウム水酸化物の付着も減少するので操作上も好ましい。なお。ヘキサメタリン酸ナトリウムの添加量としては、水に対して0.01〜0.2重量%が好ましく、特に、0.01〜0.1重量%が好ましい。 すなわち、0.01重量%未満では、粒子の分散性の向上効果が不十分であり、一方、0.2重量%を超えると、それ以上の効果の向上がみられず、芯粒子(a)へのアルミニウムの吸着を阻害する場合がある。
【0026】
上記製造方法の工程(B)は、前記工程(A)で形成した被覆層(c)を有する銅微粒子を固液分離した後、乾燥処理に付す工程である。ここで、固液分離の方法としては、特に限定されるものではなく、通常のろ過方法が用いられる。また、乾燥処理の方法としては、特に限定されるものではないが、特に金属光沢が必要とされる場合、通常の真空乾燥機等により非酸化状態において100℃以下の温度で水分を除去する方法を用いることが好ましい。
【0027】
上記製造方法の工程(C)は、前記工程(B)で得た乾燥処理後の銅微粒子を還元雰囲気下に180〜330℃の温度で加熱処理に付し、前記被覆層(c)を熱分解する工程である。これにより、銅微粒子からなる芯粒子(a)と、該芯粒子を被覆するアルミニウムを主成分として含む酸化物からなる被覆層(b)とから構成される酸化物被覆銅微粒子が得られる。
【0028】
ここで、加熱処理は還元雰囲気下で行う必要がある。すなわち、大気又は不活性ガス雰囲気下で加熱処理すると、大気中の酸素及びアルミニウム水酸化物から発生する水蒸気中の酸素により銅が酸化され意匠低下の原因となる。また、加熱処理の温度としては、180〜330℃の範囲であり、特に200〜300℃であることが好ましい。すなわち、温度が180℃未満では、アルミニウム水酸化物の分解及び脱水反応が不十分であり、顔料として用いる際に酸化による意匠の変化が大きくなる可能性がある。一方、温度が330℃を超えると、被覆層水酸化物の分解時に膜の連続性が損なわれる場合があり、耐酸化性に劣る粒子となる。
【0029】
以上の製造方法により、層厚が均一な連続膜からなるアルミニウムを主成分として含む酸化物からなる被覆層と銅微粒子からなる酸化物被覆銅微粒子が得られる。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた芯粒子(a)の比表面積、Al、Cuの分析、Al含有定数ならびに耐酸化性の評価方法は、以下の通りである。
(1)芯粒子(a)の比表面積の測定:BET多点法により測定した。
(2)Al、Cuの分析:ICP発光分析法で酸化物被覆銅微粒子中のAl、Cuの含有量を求めた。
(3)酸化物被覆銅微粒子のAl含有定数の算出:得られた酸化物被覆銅微粒子中のAl、Cuの含有量から求めたCuに対するAlの組成割合(質量%)と芯粒子(a)の比表面積(m・g−1)より、Al含有定数[質量%/(m・g−1)]を算出した。
(4)酸化物被覆銅微粒子の耐酸化性(重量増加率、TG測定前後の意匠性)の評価:TG測定を大気気流中で160℃、30分保持の条件で行い、最小重量と最大重量の差の初期重量に対する割合(以下、この値を重量増加率と称する。)を求めた。なお、この値が少ないほど顔料として使用した場合の意匠変化が少ないことを意味する。一般に、1質量%を超える場合には意匠の変化が著しく、0.5質量%未満の場合には意匠の変化はわずかとなる。また、0.1質量%未満の場合には、目視では意匠の変化がほとんど確認できない。
【0031】
(実施例1)
工程(A)、(B)
まず、Al(SO濃度0.07mol/L、及び尿素濃度18g/Lの水溶液からなるコート液を作製し、0.1μmのメンブレンフィルターで吸引濾過しゴミを取り除いた。次に、比表面積3.13m/gの板状の銅微粒子5.00gと、純水700mLと、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.14gとからなる水性懸濁液を作製した。
次いで、前記水性懸濁液に対して、タービン型ペラを用いた攪拌機で200rpmで攪拌しながら、前記コート液30mLを0.6mL/分の速度で供給した。このとき、銅微粒子に対するコート液中のアルミニウムの添加割合(単位:質量%)を、銅微粒子の比表面積(単位:m・g−1)で除した値は、0.73[質量%/(m・g−1)]であった。その後、1時間保持した後、吸引ろ過し、得られた水酸化物被覆銅微粒子を真空乾燥機により60℃で乾燥した。
【0032】
工程(C)
乾燥後の水酸化物被覆銅微粒子を、水素0.2L/分、及び窒素9.8L/分の混合ガス気流中で、10℃/分の速度で200℃まで昇温し、1時間加熱処理した後、60℃まで炉内で冷却して、酸化物被覆銅微粒子を得た。
【0033】
その後、得られた酸化物被覆銅微粒子のAl、Cuの分析と耐酸化性の評価を行った。結果を表1に示す。その結果、Al含有定数は0.61[質量%/(m・g−1)]であり、重量増加率は0.60質量%であった。また、TG測定後のサンプルは、測定前と同様に金属光沢などの意匠性を維持しており、意匠変化もわずかであった。
【0034】
(実施例2)
比表面積1.57m/gの銅微粒子16gと、純水3360mLと、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.67gとからなる懸濁液を用いたこと、前記コート液65mLを2mL/分の速度で供給したこと以外は実施例1と同様にして酸化物被覆銅微粒子を得た。このとき、銅微粒子に対するコート液中のアルミニウムの添加割合(単位:質量%)を、銅微粒子の比表面積(単位:m・g−1)で除した値は、0.96[質量%/(m・g−1)]であった。その後、得られた酸化物被覆銅微粒子のAl、Cuの分析と耐酸化性の評価を行った。結果を表1に示す。その結果、Al含有定数は0.96[質量%/(m・g−1)]であり、重量増加率は0.03質量%であった。また、TG測定後のサンプルは、測定前と同様に金属光沢などの意匠性を維持しており、意匠変化は確認できなかった。
【0035】
(実施例3)
前記コート液を水性懸濁液に供給する前にオーブンを用いて50℃で2時間保持し、直後に室温まで急冷したこと、比表面積1.57m/gの板状の銅微粒子18.0gと、純水1730mLと、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.346gとからなる水性懸濁液を用いたこと、及び前記コート液74mLを3.0mL/分の速度で供給したこと以外は実施例1と同様にして酸化物被覆銅微粒子を得た。このとき、銅微粒子に対するコート液中のアルミニウムの添加割合(単位:質量%)を、銅微粒子の比表面積(単位:m・g−1)で除した値は、0.96[質量%/(m・g−1)]であった。その後、得られた酸化物被覆銅微粒子のAl、Cuの分析と耐酸化性の評価を行った。結果を表1に示す。その結果、Al含有定数は0.83[質量%/(m・g−1)]であり、重量増加率は0.07質量%であった。また、TG測定後のサンプルは、測定前と同様に金属光沢などの意匠性を維持しており、意匠変化は確認できなかった。
【0036】
(比較例1)
前記コート液の添加量を60mLとしたこと以外は実施例1と同様にして酸化物被覆銅微粒子を得た。その後、得られた酸化物被覆銅微粒子のAl、Cuの分析と耐酸化性の評価を行った。結果を表1に示すその結果、Al含有定数は1.4[質量%/(m・g−1)]であり、重量増加率は0.04質量%であった。しかしながら、得られた粒子は金属光沢に乏しく、意匠性が劣るものとなった。
【0037】
(比較例2)
工程(C)の加熱処理の温度を350℃としたこと以外は実施例1と同様にして酸化物被覆銅微粒子を得た。その後、得られた酸化物被覆銅微粒子のAl、Cuの分析と耐酸化性の評価を行った。結果を表1に示す。その結果、Al含有定数は0.61[質量%/(m・g−1)]であったが、重量増加率が1.03質量%となった。また、得られた酸化物被覆銅微粒子は、金属光沢を有していたが、TG測定後のサンプルに意匠の変化が見られた。
【0038】
(比較例3)
工程(C)の加熱処理の温度を600℃としたこと以外は実施例1と同様にして酸化物被覆銅微粒子を得た。その後、得られた酸化物被覆銅微粒子のAl、Cuの分析と耐酸化性の評価を行った。結果を表1に示す。その結果、Al含有定数は0.61[質量%/(m・g−1)]であったが、重量増加率が1.90質量%となった。また、この酸化物被覆銅微粒子は、金属光沢を有していたが、TG測定後のサンプルに意匠の変化が見られた。
【0039】
【表1】

【0040】
表1より、実施例1〜3では、酸化物被覆銅微粒子中の銅の含有量に対するアルミニウムの含有量の組成割合を芯粒子(a)の比表面積で除した値で表したAl含有定数、加熱処理の温度等において本発明の条件にしたがって行われたので、得られた酸化物被覆銅微粒子は、金属光沢を有して意匠性に富んだものであり、加熱による変化もほとんど見られないことが分かる。一方、比較例1では、Al含有定数が本発明の条件より大きいので、金属光沢に乏しく意匠性が劣るものとなっていることが分かる。また、比較例2又は3は、加熱処理の温度が本発明の範囲より高いので、得られた直後は金属光沢を有しているが、加熱による重量増加が大きく変色も生じていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上より明らかなように、本発明の酸化物被覆銅微粒子の製造方法は、金属顔料として優れた特性を示す金属粒子の製造方法として適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅微粒子からなる芯粒子(a)と、芯粒子(a)の表面上に形成されたアルミニウムを主成分として含む酸化物からなる被覆層(b)とから構成される酸化物被覆銅微粒子の製造方法であって、
下記の工程(A)〜(C)を含むことを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法。
工程(A):銅微粒子を含む水性懸濁液中に、アルミニウム塩と尿素とを含む水溶液を供給して、アルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層(c)を有する銅微粒子を、下記の要件を満足する被覆量で形成する。
上記被覆量は、質量%の単位で表した前記酸化物被覆銅微粒子中の銅の含有量に対するアルミニウムの含有量の組成割合を、[m・g−1]の単位で表した芯粒子(a)の比表面積で除した値が、0.2〜1.2[質量%/(m・g−1)]であるように制御される。
工程(B):前記工程(A)で形成した被覆層(c)を有する銅微粒子を固液分離した後、乾燥処理に付す。
工程(C):前記工程(B)で得た乾燥処理後の銅微粒子を還元雰囲気下に180〜330℃の温度で加熱処理に付し、前記被覆層(c)を熱分解する。
【請求項2】
前記アルミニウム塩と尿素とを含む水溶液を、銅微粒子を含む水性懸濁液中に供給する前に、30〜100℃の温度で加熱処理に付すことを特徴とする請求項1に記載の酸化物被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム塩は、硫酸アルミニウム又は硝酸アルミニウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記水性懸濁液中に、ヘキサメタリン酸ナトリウムを添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物被覆銅微粒子の製造方法。

【公開番号】特開2009−108353(P2009−108353A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280012(P2007−280012)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】