説明

酸化被膜形成装置、これを用いた酸化被膜形成方法及び熱交換器

【課題】被膜形成対象物又は陰極板若しくはそれら双方から生じる気泡が、被膜形成対象物に再付着することを防止できるようにする。
【解決手段】本発明は、電解液Wを貯留した処理槽30と、その電解液W内に互いに対向させて配置したワークP及び陰極板10とを有し、それらワークPと陰極板10との間に電圧を印加することにより、そのワークPに酸化被膜を形成するものであり、上記ワークP又は陰極板10若しくはそれら双方から生じる気泡を電解液Wとともに吸引する気泡吸引ユニットU1を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器等の被膜形成対象物の表面に酸化皮膜を形成する酸化被膜形成装置、これを用いた酸化被膜形成方法及び熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、陽極酸化方法とした名称において特許文献1に開示されたものがある。
特許文献1に開示されている陽極酸化方法は、陽極酸化の対象となる半導体層の主表面とは反対側の電極を陽極として、電解液中で半導体層の主表面側に対向配置される陰極との間に通電することにより、多数のナノメータオーダの半導体微結晶を生成するものであり、通電中に半導体層の主表面に付着した気泡を通電中に脱離させることを内容としたものである。
【0003】
半導体層の主表面に付着した気泡を通電中に脱離させるために、その半導体層を振動させたり,当該半導体層に向けて電解液を噴射することにより特性のばらつきを低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003‐328190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、被膜形成対象物として、例えばラジエータやオイルクーラ等のフィンを有する熱交換器は、肉薄にして形成されているフィンの表面に均一な酸化膜を形成することが重要であるが、フィンどうしの距離が微小であるため、フィンとフィンの間に侵入した気泡は、上記した振動や噴流の供給だけでは除去することが難しい。
【0006】
そのため、付着した気泡により陽極酸化が阻害された部分は酸化膜の厚さが薄くなったり、逆に冷却が不十分となり、電気化学反応が加速されて酸化膜の厚さが厚くなるなど、均一な酸化膜を形成することが困難である。
また、上記の熱交換器は、この外形状から陽極酸化加工を行なう際には起立させた姿勢にして、電解液層の床面積をできるだけ低減させたいという要請がある。
【0007】
しかしながら、上記熱交換器を起立姿勢にすると、振動や噴流により熱交換器から一端離脱した気泡が、その上部に再付着するという問題点がある。
さらに、従来では熱交換器にいったん付着してしまった気泡を除去しているために、わずかな時間であっても、付着した気泡が原因の酸化皮膜の不均一性を回避することが難しい。
【0008】
そこで本発明は、被膜形成対象物又は陰極板若しくはそれら双方から生じる気泡が、被膜形成対象物に再付着することを防止できる酸化被膜形成装置、これを用いた酸化被膜形成方法及び熱交換器の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る酸化被膜形成装置は、電解液を貯留した処理槽と、その電解液内に互いに対向させて配置した被膜形成対象物と陰極板とを有し、これら被膜形成対象物と陰極板との間に電圧を印加することにより、その被膜形成対象物に酸化被膜を形成する酸化被膜形成装置において、上記被膜形成対象物又は陰極板若しくはそれら双方から生じる気泡を電解液とともに吸引する気泡吸引器を有している。
同上の課題を解決するための本発明に係る酸化被膜形成方法は、上記酸化被膜形成装置を用いたものであり、気泡吸引ユニットにより、被膜形成対象物又は陰極板若しくはそれら双方から生じる気泡を電解液とともに吸引することを内容としている。
同上の課題を解決するための本発明に係る熱交換器は、上記酸化被膜形成方法によって酸化被膜を形成されたものである。
【0010】
上記の構成においては、被膜形成対象物又は陰極板若しくはそれら双方から生じる気泡を電解液とともに吸引しているので、その生じた気泡が、被膜形成対象物に再付着することを防止できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被膜形成対象物又は陰極板若しくはそれら双方から生じる気泡が、被膜形成対象物に再付着することを防止して、均一な酸化皮膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る酸化皮膜形成装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】本発明の第二の実施形態に係る酸化皮膜形成装置の概略構成を示す説明図である。
【図3】本発明の第三の実施形態に係る酸化皮膜形成装置の概略構成を示す説明図である。
【図4】本発明の第四の実施形態に係る酸化皮膜形成装置の概略構成を示す説明図である。
【図5】本発明の第五の実施形態に係る酸化皮膜形成装置の概略構成を示す説明図である。
【図6】本発明の第六の実施形態に係る酸化皮膜形成装置の概略構成を示す説明図である。
【図7】特許文献1に開示されている酸化皮膜形成方法により、熱交換器のフィンに酸化皮膜を形成した例を示す説明図である。
【図8】従来の酸化皮膜形成方法と、上記図4に示す酸化皮膜形成装置により形成した酸化皮膜の厚みを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の第一の実施形態に係る酸化皮膜形成装置の概略構成を示す説明図である。
本発明の第一の実施形態に係る酸化皮膜形成装置A1は、被膜形成対象物(以下、「ワーク」という。)Pの表面に酸化被膜を形成するものであり、そのワークP、陰極板10及び気泡吸引器20を処理槽30内に、また、その処理槽30外にポンプ40、電源ユニット50及びコントローラCを配して構成されている。
【0014】
処理槽30は、ワークP、陰極板10及び気泡吸引器20を収容できる容積にして形成されており、これには、電解液Wが貯留されている。
本実施形態において示すワークPは、フィンを有する熱交換器であり、所定の厚みを有する直方体形のものである。以下、「ワークP」を「熱交換器P」という。
【0015】
陰極板10は例えばカーボン製のものであり、上記熱交換器Pと同等の対向面積にした横長方形に形成されているとともに、これの全域に熱交換器Pから生じる気泡を通過させられる大きさの通気孔(図示しない)が多数形成されている。
【0016】
気泡吸引器20は、上記熱交換器P又は陰極板10若しくはそれら双方から生じる気泡を電解液とともに吸引するためのものであり、熱交換器Pと同等の対向面積にして形成された直方体形のものであり、これには、気泡を電解液とともに吸引するためのポンプ40が連結されている。
【0017】
ポンプ40は、気泡吸引器20を介して、陰極板10若しくはそれら双方から生じる気泡を電解液とともに吸引するものであり、下記のコントローラCの出力側に接続されて適宜駆動されるようになっている。
本実施形態においては、気泡吸引器20とポンプ10により気泡吸引ユニットU1を構成している。
【0018】
上記した熱交換器P、陰極板10及び気泡吸引器20の互いの配置関係は、陰極板10の一側方に、これと所要の間隔をおいて熱交換器Pを対向させ、かつ、その陰極板10の他側方に、これと所要の間隔をおいて気泡吸引器20を対向させて配置している。
【0019】
電源ユニット50は、処理槽30内に配置した熱交換器Pと陰極板10との間に電圧を印加するものであり、後記するコントローラCの出力側に接続されている。
コントローラCは、CPU(Central Processing Unit)やインターフェース回路等からなるものであり、所要のプログラムの実行により、本装置の各部を制御する機能を有している。
【0020】
上記の構成における酸化膜形成処理は、まず、ポンプ40を駆動して、熱交換器P又は陰極板10若しくはそれら双方から生じる気泡を陰極板10の通気孔を通じて、直ちに吸引できるような電解液Wの流れを形成しておく。
その後、酸化膜の形成処理を開始すると、熱交換器P又は陰極板10若しくはそれら双方から生じる気泡は、その陰極板10の通気孔を通じ、電解液Wとともに気泡吸引ユニットU1によって吸引される。
【0021】
次に、本発明の第二の実施形態に係る酸化皮膜形成装置について説明する。図2は、本発明の第二の実施形態に係る酸化皮膜形成装置の概略構成を示す説明図である。なお、上述した実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0022】
本発明の第二の実施形態に係る酸化皮膜形成装置A2は、気泡吸引器20の配置状態が異なっている。
すなわち、陰極板10の一側方には、これと所要の間隔をおいて熱交換器Pを対向させ、かつ、その陰極板10の他側方には、気泡吸引器20を密着して対向させたものである。
気泡吸引器20を陰極板10を密着して対向させたことにより、熱交換器Pで生じた気泡をさらに効率よく吸引することができる。
【0023】
次に、本発明の第三の実施形態に係る酸化皮膜形成装置について説明する。図3は、本発明の第三の実施形態に係る酸化皮膜形成装置の概略構成を示す説明図である。なお、上述した実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0024】
本発明の第三の実施形態に係る酸化皮膜形成装置A3は、陰極板10の一側方には、これと所要の間隔をおいて熱交換器Pを対向させ、かつ、その陰極板10の他側方には、気泡吸引器20を対向させて配設しているとともに、ワークPと陰極板10との間の空間を囲繞区画する囲繞板21を配設した構成のものである。
包囲板21を設けたことにより、陰極板10の通気孔を通過した電解液Wだけを吸引できるようになり、熱交換器Pで生じた気泡をさらに効率よく吸引することができる。
【0025】
次に、本発明の第四の実施形態に係る酸化皮膜形成装置について説明する。図4は、本発明の第四の実施形態に係る酸化皮膜形成装置の構成を示す説明図である。なお、上述した実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0026】
本発明の第四の実施形態に係る酸化皮膜形成装置A4は、電解液噴出器60を追設した構成のものであり、具体的には、次のようになっている。
すなわち、陰極板10の一側方には、これと所要の間隔をおいて熱交換器Pを対向させ、かつ、その陰極板10の他側方には、これと所要の間隔をおいて気泡吸引器20を対向させて配設している。
【0027】
電解液噴出器60は、上記熱交換器Pの一側方に、これと所要の間隔をおいて配置されている。
この電解液噴出器60は、熱交換器Pとほぼ同等の対向面積にして形成した直方体形のものであり、熱交換器Pに対して電解液Wを噴出するようになっており、これにはポンプ41が連結されている。
また、ポンプ41は、コントローラCの出力側に接続されて適宜駆動されるようになっている。
上記の構成からなる酸化皮膜形成装置A4によれば、電解液噴出器60から熱交換器Pに向けて噴出された電解液Wは、その熱交換器Pのフィンの間を通じ、陰極板10に向けて流れる。
また、ワークP又は陰極板10若しくはそれら双方から生じる気泡は、その陰極板10の通気孔(図示しない)を通じ、電解液Wとともに気泡吸引ユニットU1によって吸引される。
すなわち、電解液噴出器60からの電解液Wの噴流によって吸引の効果をさらに増大させることができる。
なお、この電解液噴出器60は、上記図2,3に示す構成からなる酸化皮膜形成装置A2,A3に適用することができる。
本実施形態においては、上記電解液噴出器60とポンプ41とにより、陰極板10の通気孔を通じ、熱交換器Pに向けて電解液Wを噴出する電解液噴出ユニットU2を構成している。
【0028】
次に、本発明の第五の実施形態に係る酸化皮膜形成装置について説明する。図5は、本発明の第五の実施形態に係る酸化皮膜形成装置の概略構成を示す説明図である。なお、上述した実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0029】
本発明の第五の実施形態に係る酸化皮膜形成装置A5は、熱交換器Pの両側方に、これと所要の間隔をもって陰極板10,10を配置しているとともに、それら陰極板10,10の外側方に、それぞれ気泡吸引器20,20を配した構成のものである。
【0030】
この構成によれば、熱交換器Pの両側面と陰極板10,10との距離差を低減し、熱交換器Pの両側面から気泡を吸引することにより、その熱交換器Pの酸化膜厚さの均一性をさらに向上することができる。
なお、本実施形態においても、図2,3に示す酸化皮膜形成装置A2,A3と同様に、気泡吸引器20を陰極板10に密着させ、また、熱交換器Pと陰極板10との間に囲繞板21を配設してもよい。
【0031】
次に、本発明の第六の実施形態に係る酸化皮膜形成装置について説明する。図6は、本発明の第六の実施形態に係る酸化皮膜形成装置の概略構成を示す説明図である。なお、上述した実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0032】
本発明の第六の実施形態に係る酸化皮膜形成装置A6は、熱交換器Pの両側方に、これと所要の間隔をもって陰極板10,10を配置しているとともに、それら一方の陰極板10の外側方に気泡吸引器20を、また、他方の陰極板10の外側方に電解液噴出器60を配した構成のものである。
【0033】
本実施形態に示す気泡吸引器20と電解液噴出器60とは、これらに接続されているポンプ40,41を逆回転駆動させることにより、気泡吸引器20が電解液噴出器60として機能し、また、電解液噴出器60が気泡吸引器20として機能する。
【0034】
そこで、本実施形態に示すコントローラCは、次の機能を有している。
・熱交換器Pの両側方に配置した二つの陰極板10のうち、いずれか一側方のもののみに通電するとともに、その一側方の通電した陰極板10側を気泡吸引器20とし、かつ、他側方を電解液噴出器60として機能させる。この機能を「機能切替え手段C1」という。
【0035】
上記の構成における酸化膜形成処理は、まず、ポンプ40,41を駆動して、一側方の電解液噴出器60から、通電されていない一側方の陰極板10の通気孔を通じて熱交換器Pに向けて電解液Wを噴出する。
同時に、熱交換器P又は通電されている他側方の陰極板10若しくはそれら双方から生じる気泡を、その陰極板10の通気孔を通じて直ちに吸引できるような電解液Wの流れを形成しておく。
その後、酸化膜の形成処理を開始すると、熱交換器P又は他側方の陰極板10若しくはそれら双方から生じる気泡は、その他側方の陰極板10の通気孔を通じ、電解液Wとともに気泡吸引ユニットU1によって吸引される。
上記した構成からなる酸化被膜形成装置A1〜A6を用いた酸化被膜形成方法は、気泡吸引ユニットU1により、熱交換器P又は陰極板10若しくはそれら双方から生じる気泡を電解液Wとともに吸引することを内容としている。
【0036】
上記した各実施形態に係る酸化被膜形成装置A1〜A6及びこれらを用いた酸化被膜形成方法によれば、次の効果を得ることができる。
・第一〜第六の実施形態に係る酸化皮膜形成装置A1〜A6によれば、主に陰極板10から発生する水素の気泡や電解液Wを、陰極板10の通気孔を通して吸引することにより、発生する気泡がワークPに付着しにくくするとともに、ワークPに付着した気泡も陰極板10の通気孔を通して吸引できる。
すなわち、ワークPの表面への気泡の付着を防止して、そのワークPの表面に均一な酸化皮膜を形成することができる。
【0037】
ワークPが熱交換器のときには、フィンの表面に付着する気泡を低減若しくは防止することができ、さらに熱交換器の表面から離脱した気泡が再度付着しにくくできるため、フィンの表面に均一な陽極酸化皮膜を形成することができる。これにより、熱交換器の放射率を向上させることもできる。
【0038】
また、熱交換器の加工においては、フィンの間に付着した気泡の除去、及びフィンの間における電解液の流れを維持できるため、加工部位の温度上昇を防止することができ、いわゆる陽極酸化における「焼け」を防止することができる。
【0039】
第二,第三の実施形態に係る酸化皮膜形成装置A2,A3によれば、ワークPの表面に付着する気泡をさらに効率良く低減若しくは防止することができる。ワークPが熱交換器のときには、フィンの表面に付着する気泡をさらに効率良く低減することができ、フィン表面に均一な陽極酸化皮膜を形成することができる。
【0040】
第四の実施形態に係る酸化皮膜形成装置A4によれば、熱交換器Pの表面及びフィンの表面に付着する気泡をより低減することができるとともに、熱交換器Pの表面から離脱した気泡の再付着をしにくくできるため、フィンの表面に均一な陽極酸化皮膜を形成することができる。
【0041】
第五の実施形態に係る酸化皮膜形成装置A5によれば、熱交換器Pの両側方に陰極板を配しているので、フィンの表面における気泡の除去量及び陽極酸化の加工量を均一にすることができ、フィン表面に均一な陽極酸化皮膜を形成することができる。
【0042】
また、主に陰極板で発生する気泡を熱交換器Pに付着する以前に吸引により除去することができるため、わずかな時間でも熱交換器Pに付着する気泡を防止することができ、酸化膜の均一性を従来例に比べ大幅に向上することができる。
【0043】
さらに、熱交換器Pのフィンの厚さは一般に80〜120μm程度であるため、酸化皮膜の厚さはフィン中心部にアルミを残すためには10〜30μm程度に制御する必要があり、従来例のような厚みのある熱交換器Pの加工と比較して酸化皮膜の厚さ制御は非常に重要である。従って、フィン部の加工においては、従来例のように付着した気泡を除去するのではなく、本発明のように気泡が付着しないようにすることが必要となる。
【0044】
第六の実施形態に係る酸化皮膜形成装置A6によれば、フィンの表面に均一な陽極酸化皮膜を形成することができるとともに、熱交換器Pを使用する際に、フィンに流れる気体の方向に合わせフィン表面に形成する陽極酸化皮膜の厚さをフィンの左右で制御することもできる。
なお、本実施形態においても、図2,3に示す酸化皮膜形成装置A2,A3と同様に、気泡吸引器20を陰極板10に密着させ、また、熱交換器Pと陰極板10との間に囲繞板21を配設してもよい。
【0045】
上記した酸化被膜形成方法によれば、気泡吸引ユニットU1により、熱交換器P又は陰極板10若しくはそれら双方から生じる気泡を電解液とともに吸引しているので、上記と同様の効果を得ることができる。
また、熱交換器を上記の酸化被膜形成方法により酸化被膜を形成したことにより、フィン表面に均一な陽極酸化皮膜を形成することができる。
【実施例】
【0046】
図7は、特許文献1に開示されている酸化皮膜形成方法により、熱交換器のフィンに酸化皮膜を形成した例を示す説明図である。
特許文献1に開示した酸化皮膜形成方法により、熱交換器のフィンを加工した場合、フィンへの気泡の付着とそれに伴う電解液の流量不足により、(ア)で示す「焼け」が発生した状況が明らかである。
【0047】
図8は、従来の酸化皮膜形成方法と、上記図4に示す酸化皮膜形成装置により形成した酸化皮膜の厚みを比較した図である。
本発明においては、酸化皮膜の厚みを15μmとした加工をしているが、特許文献1に開示されている酸化皮膜形成方法では、酸化皮膜の厚みが5〜35μmの間でばらつくのに対し、図4に示す酸化皮膜形成A4に相当するものによる組み合わせる酸化皮膜の厚みは、10〜20μmの範囲に収めることができ、ばらつきを約1/3に低減できた。
【0048】
陽極酸化加工は、熱交換器の組立,ロー付け後の完成形状に実施するため、熱交換器全体に陽極酸化皮膜を形成することができ、表面全体の熱交換性能を向上できる特徴がある。
従って、フィン部だけでなく他の部分にも均一な酸化皮膜を形成することが重要であり、本発明により酸化膜厚さの均一性を向上できる。
【0049】
なお、本発明は上述した実施形態に限るものではなく、次のような変形実施が可能である。
上記した実施形態においては、被膜形成対象物として熱交換器を例として示したが、これに限るものではなく、フィン形状を持った従来公知のもの、例えばラジエータ,ヒータ,コンデンサ,エバポレータ,オイルクーラ,インタークーラ等に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 陰極板
20 気泡吸引器
30 処理槽
A1〜A6 酸化被膜形成装置
P 被膜形成対象物(熱交換器)
R 電解液
U1 気泡吸引ユニット
U2 電解液噴出ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液を貯留した処理槽と、その電解液内に互いに対向させて配置した被膜形成対象物及び陰極板とを有し、これら被膜形成対象物と陰極板との間に電圧を印加することにより、その被膜形成対象物に酸化被膜を形成する酸化被膜形成装置において、
上記被膜形成対象物又は陰極板若しくはそれら双方から生じる気泡を電解液とともに吸引する気泡吸引ユニットを有していることを特徴とする酸化被膜形成装置。
【請求項2】
陰極板に、気泡を通過させるための通気孔が形成されており、
陰極板を挟む一側方に被膜形成対象物を、当該他方に気泡吸引器をそれぞれ配設した請求項1に記載の酸化被膜形成装置。
【請求項3】
陰極板に、気泡を通過させるための通気孔が形成されており、
陰極板の一側方には、これと所要の間隔をおいて被膜形成対象物を対向させ、かつ、その陰極板の他側方には、これに密着させて気泡吸引器を対向させて配設した請求項1に記載の酸化被膜形成装置。
【請求項4】
被膜形成対象物と陰極板との間の空間を囲繞区画する囲繞板を設けた請求項1又は2に記載の酸化被膜形成装置。
【請求項5】
被膜形成対象物に、気泡を通過させるための通気孔が形成されており、
陰極板の通気孔を通じ、被膜形成対象物に向けて電解液を噴出する電解液噴出ユニットを設けた請求項2〜4のいずれか1項に記載の酸化被膜形成装置。
【請求項6】
被膜形成対象物の両側方に、これと所要の間隔をもって陰極板をそれぞれ配置しているとともに、それら陰極板の外側方に、それぞれ気泡吸引器を配した請求項2〜5のいずれか1項に記載の酸化被膜形成装置。
【請求項7】
被膜形成対象物を挟む両側方に陰極板をそれぞれ配設するとともに、一方の陰極板の外方に電解液噴出器を、また、他方の陰極の外方に気泡吸引器を配設した請求項2〜6のいずれか1項に記載の酸化被膜形成装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の酸化被膜形成装置を用いた酸化被膜形成方法において、
気泡吸引ユニットにより、被膜形成対象物又は陰極板若しくはそれら双方から生じる気泡を電解液とともに吸引することを特徴とする酸化被膜形成方法。
【請求項9】
請求項8に記載した酸化被膜形成方法によって酸化被膜を形成されたことを特徴とする熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−229473(P2012−229473A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98940(P2011−98940)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)