説明

酸化還元物質の検出における感度増感方法及びそのための装置

【課題】触媒試薬を全く使用せずに、酸亜還元物質の検出を高感度化することが可能な検出方法及びそのための装置を提供する。
【解決手段】酸化還元物質を電気化学的に検出する方法において、従来の酸化剤又は還元剤などの触媒試薬の代わりに、光を検出対象物質を溶解した溶液に照射することで、溶液中に元々存在している溶媒分子からラジカルを発生させ、これを触媒として用いて酸化還元物質のレドックスサイクリングを繰り返すことにより、電気化学検出信号の増幅を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化還元物質の検出における感度増感方法及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料溶液中の酸化還元物質の電気化学検出において、電流値など検出信号を増幅させる方法として、酸化剤、還元剤、酵素、および抗体などの触媒を用いた電気化学検出増幅法がある。(特許文献1、2、非特許文献1〜4)。
この方法は、試料溶液中に触媒を存在させることで、電極上で電気化学的に酸化又は還元された化学物質を触媒により再び還元又は酸化し、さらにこれを電極上で再び酸化又は還元を行う、といった一連のレドックスサイクリングを繰り返すことにより、電極上での電子授受量を増幅させて溶液中の化学物質検出の高感度化を図っている。例えば、特許文献1では、反応剤を提供して検出対象物質に共有結合した電気化学活性分子を電極付近で酸化した後、この電気化学活性分子を還元剤によって還元し、これらの酸化還元反応を繰り返して増幅電気化学信号を発生させて検出対象物質の存在を決定する方法が記載されている。また、特許文献2では、油水界面を形成して流れる流体の一方の相付近に電極を設置し、電極によって検出対象物質が酸化または還元して得られる生成物を、他方の相中の還元剤または酸化剤によって元の物質へと戻すことを繰り返し、電気化学的増幅検出を行なう方法が記載されている。
【0003】
また、試料溶液中の酸化還元物質を、電極電位印加や吸着剤などにより電極上に一度濃縮した後に電気化学的酸化又は還元を行うストリッピングボルタンメトリーにおいても、上記の触媒によるレドックスサイクリングによって増幅する接触ストリッピングボルタンメトリーがある(非特許文献5)。
【0004】
さらに、分子、イオン、または固体などの光触媒を存在させた試料溶液に光を照射して、光触媒の電子励起状態からの電荷移動反応により起こる光電気化学反応による増幅方法もある。この分子、イオンの光触媒には、ルテニウムビピリジン錯体等の遷移金属錯体や、チオニン等の有機色素が用いられ、固体光触媒には、酸化チタンや半導体が用いられる。また、植物の光合成反応経路の一部を利用又は模した光触媒もある。これら光触媒は、試料溶液中に溶存させる場合と電極材料として用いる場合がある(特許文献3、非特許文献6、7)。例えば、特許文献3では金属イオン水溶液中の酸化チタンなどの無機半導体に光を照射して、無機半導体上に金属を析出させる方法が記載されている。
【0005】
他方、触媒を用いない増幅方法として、微少空間内に隣接した2組の電極を用いて片側の電極に電位を印加して検出対象の酸化還元物質を酸化または還元を行い、もう一方の電極で異なる電位を印加して再還元または再酸化を行うといったレドックスサイクリングを用いる感度増幅方法がある(特許文献4〜6、非特許文献8〜10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−508351号公報
【特許文献2】特開2004−077257号公報
【特許文献3】特開昭61−050633号公報
【特許文献4】特開平2−140655号公報
【特許文献5】特開平5−322832号公報
【特許文献6】特開平5−2007号公報
【特許文献7】特開2006−87988号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R. S. Nicholson, I.Shain, Analytcal Chemistry, 1964, 36, 706-723
【非特許文献2】C.P. Andrieux, J.M. Dumas-Bouchiat, J.M. Saveant, Journal of Electroanalytical Chemistry, 1978, 87, 39-53
【非特許文献3】T.J. Moore, M J. Joseph, B. W. Allen, and L. A. Coury, Analytcal Chemistry, 1995, 67, 1896-1902
【非特許文献4】Y Sohrin, K. Isshiki, E. Nakayama, S. Kihara And M. Matsui, Analytica Chimica Acta, 1989, 218, 25-35
【非特許文献5】H. Obata, C.M.G. van den Berg, Anal. Chem., 2001, 73, 2522-2528
【非特許文献6】Z. Jiang, X. Liu, M. Zhao, W. Mo, Analytica Chimica Acta, 1997, 354, 359-363
【非特許文献7】A. Fujisjima, M. Aizawa, T. Inoue, Denki kagaku sokutei hou (Ge)、Gihoudo Publishing Co., 1984, 361-371
【非特許文献8】R. J. Fenn, S. Siggia, D. J. Curran, Analytical Chemistry, 1978, 50, 1067-1073
【非特許文献9】S. G. Weber, W. C. Purdy, Analytical Chemistry, 1982, 54, 1757-1764
【非特許文献10】K. Aoki, M. Morita, O. Niwa and H. Tabei, Journal of Electroanalytical Chemistry, 1988, 256, 269-282
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の触媒を用いた増幅電気化学検出法は、過酸化マンガン塩、酵素、金属錯体、有機色素、酸化チタンなどの、有害、危険、或いは高価な試薬類が必要となる。また、高感度検出のためには、pHや共存イオンの種類、さらに酸化剤および還元剤試薬の場合は、高濃度の触媒条件など厳密な試料溶液条件を必要とする。さらに、光触媒などの不均一触媒は、触媒反応を効率良く行うために比表面積を増加させる多孔質構造や触媒の電極表面への被覆など高度な加工を行う必要がある。
さらにまた、検出時においても電極電位条件によっては溶存触媒の酸化還元反応由来のバックグランド信号の増大などにより、測定安定性や検出性能が損なわれる可能性がある。この触媒の酸化還元反応は電極上に脂質膜など触媒を排除する材料で被覆することである程度防ぐことができるが、電極加工技術の複雑さはさらに増加し、被覆膜が脱離などして電極安定性も不十分な場合が多い。また、酸化剤および還元剤触媒を用いる場合は、溶液内に大量の触媒反応の生成物が残存するため、沈殿や凝集などによる検出対象物質の共沈や電極吸着による測定妨害が生じる可能性がある。また、試料溶液に溶解する均一触媒の場合は、測定後回収が困難であり、繰り返し使用が不可能である。固体の不均一触媒についても、試料中の共存物質が触媒表面へ吸着するため触媒反応が抑制される可能性がある。これらの問題は触媒試薬を用いた接触ストリッピングボルタンメトリーにおいても生じる。
【0009】
世界的課題である水資源確保や水環境保全のためには、環境水取水場、水処理施設、工場排水処理プラントなどの実際の環境現場で長期間、低負担、安全、および低コストに実行できる化学物質の高感度測定が求められている。また、工業製品や食品などの工場製造ラインで使用する薬液の品質管理においても、上記の条件を満たすライン現場対応の測定法が必要とされている。しかし、この触媒を用いる方法は、検出感度を増幅することができるが、触媒に起因する有害性、危険性、触媒または触媒電極の製造加工の困難さ、高コスト性、測定不安定性、および試料溶液調製の困難さを有する。また、この方法は試料溶液や触媒条件を厳密に整えた清浄な実験室環境における測定は可能であるが、実際の環境水や工場排水の現場では、触媒試薬の補給や固体の不均一触媒の再コンディショニングなどメンテナンス負担が極めて大きいため、化学物質の連続監視測定は困難であった。
【0010】
一方、触媒を使用しない検出感度増幅法として2組の作用電極を用いたレドックスサイクリングによる感度増幅方法は、高価なポテンシオスタットが2台必要であり、各電極の電位を精密に制御する必要がある。
また、2組の作用電極の電極間隔を数十μmレベル以下に絶縁状態で設置し、各電極で酸化および還元反応を繰り返し行う必要があるため、極めて高度な微細加工技術が必要となる。
さらに、検出対象物質の酸化還元反応は電極および試料溶液条件で規定される電位窓範囲内で行うため、検出物質の適用範囲が限定される。さらにまた、検出対象物質や共存物質の吸着などにより二組の電極の絶縁状態を安定維持できず、繰り返し測定が困難である。
以上のような制限があるため、2組の作用電極を用いたレドックスサイクリングによる感度増幅方法も、上述の実際の環境および工場背増ラインなどの現場ニーズに対応した測定は実現できなかった。
【0011】
本発明は、こうした従来技術における課題に鑑みてなされたものであって、触媒試薬を全く使用せずに、また、二組の作用電極およびポテンシオスタットを使用したレドックスサイクルを行わずに、酸化還元物質の検出を高感度化することが可能な電気化学検出方法及びそのための装置を提供することを目的とするものである。また、本発明は、実際の環境水や工場排水現場で使用できる水質モニタリング装置や、工場製造ラインで使用する薬液の品質管理装置にも、長期間、低負担、安全、簡便、および低コストに化学物質の高感度測定法及びその装置を提供することを、もう1つの目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、従来の酸化剤又は還元剤などの触媒試薬の代わりに、光を検出対象物質を溶解した溶液に照射することで、溶液中に元々存在している溶媒分子からラジカルを発生させ、これを触媒として用いて酸化還元物質のレドックスサイクリングを繰り返すことにより電気化学検出信号の増幅を図ることができることを見いだした。
また、本発明者らは、本発明の電気化学検出方法に用いる光照射手段として、特許文献7に記載されたような、内部に電極が貫通したものを用いることが有効であることを見いだした。
【0013】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]酸化還元物質を電気化学的に検出する方法において、検出対象物質を溶解した溶液に光を照射することで溶媒分子からラジカルを発生させ、これを用いて該溶液中に存在する検出対象物質の酸化又は還元反応を起こした後に、この酸化又は還元された物質を電極上で再還元又は再酸化を行い、さらにこの再還元又は再酸化された物質を上記光反応によって再々酸化又は再々還元を行い、さらに続けて上記の電極反応を起こす一連のレドックスサイクリングを繰り返し行うことにより、電極上での電子授受量を増幅させることを特徴とする電気化学検出方法。
[2]前記試料溶液中に存在する検出対象物質を、電気化学反応、化学反応、又は物理吸着により前記電極上に濃縮することを特徴とする上記[1]の電気化学検出方法。
[3]上記[1]又は[2]の電気化学検出方法において、前記電極上での電子授受量を測定し、得られた電子授受量から前記溶媒分子から発生したラジカル量を測定することを特徴とする電気化学検出方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの電気化学検出方法に用いるための装置であって、少なくとも、光反応により酸化又は還元反応を起こす検出対象物質を溶解した試料溶液を収納した検出セル、該セル内の溶液中に挿入された電極、及び該検出セル内の溶液への光照射手段を備えたことを特徴とする電気化学検出装置。
[5]前記検出セルが、前記光照射手段を貫通するように配置されていることを特徴とする上記[4]の電気化学検出装置。
[6]前記電極が、筒状又は棒状であることを特徴とする上記[4]又は[5]の電気化学検出装置。
[7]前記電極が、微小な間隔のくし形部分を有する電極であることを特徴とする上記[4]〜[6]のいずれかの電気化学検出装置。
[8]前記電極が、微小な間隔を有するらせん状電極であることを特徴とする上記[4]又は[5]の電気化学検出装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明による感度増幅法は、触媒を用いずに溶媒分子光反応により発生するラジカルを用いるため、既存の触媒による感度増幅法では必要であった触媒反応のための厳密な試料溶液条件や、固体の不均一触媒および電極への触媒被覆の高度な加工は不要である。
また、触媒による電極劣化や検出時の触媒の酸化還元反応由来の電気化学検出のバックグランド信号の増大がないため、測定安定性や検出性能が損なわれずに測定できる。その結果、この触媒の酸化還元反応を防ぐ電極化学修飾など高度な加工も必要とせず、電極安定性も損なわれることはない。
さらに、本発明による感度増幅法は、溶媒分子から発生するラジカルを用いるため、既存の酸化剤および還元剤触媒のように増幅後に大量の触媒反応の生成物が残存せず、副反応、沈殿、凝集などによる検出対象物質の共沈や電極吸着による測定妨害が生じない。
さらに、本発明の場合、感度増幅に用いるラジカルは試料溶液に必ずそして大量に存在する溶媒分子から生成し続けることが可能のため、既存の均一触媒の測定後回収が不要であり連続測定が可能である。また、本発明の場合、固体の不均一触媒も不要であるため、試料中の共存物質の触媒表面へ吸着による感度増幅が抑制されることも生じない。また、環境水や工場排水などのように共存物質が存在していても、本発明では触媒を用いず元々試料溶液に大量に含まれる溶媒分子を使用しているため、触媒由来の副反応や触媒の劣化など測定妨害が生じず、安定した検出増幅効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1(a)】本発明の、溶媒分子光反応利用レドックスサイクリングによる電気化学検出増幅法を示す概念図。
【図1(b)】本発明の電気化学検出増幅法のための装置の一例を模式的に示す概略図。
【図2(a)】図1(b)の装置を用いた、サイクリックボルタンメトリーの測定例を示す図。
【図2(b)】図1(b)の装置を用いた、クロノアンペロメトリーの測定例を示す図。
【図3】図1(b)の装置において、検出セルを光源ランプに貫通するように設置した例を模式的に示す概略図。
【図4】図1(b)の装置において、作用電極を、光透過型くし形微小電極としたものであり、(a)は、上面図、(b)は、断面図、(c)は、下面図。
【図5】図3の装置において、作用電極を、くし形・筒状電極としたものであって、右図は、その作用電極の拡大図。
【図6】図5の装置において、作用電極を、らせん状電極としたときの、作用電極の拡大図。
【図7】電極上に検出対象とする酸化還元物質を電極上に析出濃縮後に、溶媒分子光反応によるレドックスサイクリングによる感度増幅を行った例を示す概念図。(a)は析出濃縮段階、(b)は感度増幅段階。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の電気化学検出方法の特徴は、検出対象物質を溶解した溶液に光を照射することで溶媒分子からラジカルを発生させ、これを用いて該溶液中に存在する検出対象物質の酸化又は還元反応を起こした後に、この酸化又は還元された物質を電極上で再還元又は再酸化を行い、さらにこの再還元又は再酸化された物質を上記光反応によって再々酸化又は再々還元を行い、さらに続けて上記の電極反応を起こす一連のレドックスサイクリングを繰り返し行うことにより、電極上での電子授受量を増幅させることにある。
【0017】
すなわち、本発明は、酸化剤又は還元剤などの触媒試薬の代わりに、試料溶液に光を照射することで、試料溶液中に元々存在している溶媒分子からラジカルを発生させ、これを用いて酸化還元物質のレドックスサイクリングを繰り返すことにより電気化学検出信号の増幅を図るものであるから、酸化還元反応のレドックスサイクリングの起点が光照射による溶媒分子のラジカル発生である点で、本発明は、特許文献1および2に記載された方法とは異なるものである。
【0018】
以下、図面を用いて、本発明の電気化学検出増感法とそれに用いる装置について説明する。
【0019】
図1(a)は、本発明の、溶媒分子光反応利用レドックスサイクリングによる電気化学検出増幅法を示す概念図である。
図1(a)では、溶媒分子光反応によって検出物質の酸化反応を行い、電極上で還元反応を行う場合である。光を、検出対象物質を溶解した溶液に照射することで溶媒分子からラジカルを発生させ、これを用いて溶液中に存在する酸化還元物質の酸化反応を起こした後に、この酸化後の化学物質を電極上で再還元を行い、さらにこの再還元された化学物質を上記光反応によって再々酸化を行い、さらに続けて上記の電極反応を起こすレドックスサイクリングを繰り返し行うことにより、電極上での電子授受量を増幅させて酸化還元物質の検出の感度増幅を図る。検出増幅が得ることができれば、溶媒分子光反応および電極反応は酸化および還元反応、または還元および酸化反応の各々の組み合わせであってよい。検出方法は検出対象物質の電子授受量が量れればよく、ボルタンメトリー、アンペロメトリー、クーロメトリー、ポテンシオメトリーなど各種電気化学分析法を用いることができ、検出値は電流値、抵抗値、電圧値など電子授受量を反映する量であればよい。また、検出方法は発光または蛍光であってもよい。具体的には、本法の光反応によって溶媒から発生するラジカルを起点にしたレドックスサイクルから発せられる電子を授受した検出対象物質が発生する化学発光および蛍光や生物発光および蛍光などを用いる。これらの発光および蛍光は検出対象物質自身から発生するものだけでなく、検出対象物質が別の発光また蛍光を発する反応系に電子伝達することで検出しても良い。また、本法の光反応によって溶媒から発生するラジカルを起点にしたレドックスサイクルと、その発生する電子を授受および伝達する機構を有する化学反応および生物反応系と組み合わせることで、本法は化学発光および蛍光や生物発光および蛍光を増幅する手段としてもことも可能である。
【0020】
本発明の電気化学検出増幅法に用いる装置は、少なくとも、その内部が試料溶液で満たされるとともに、その内部に作用電極が収納された検出セルと、該検出セル中の試料溶液に光を照射する光照射手段とを備えている。
【0021】
図1(b)は、本発明の装置の一例を模式的に示す概略図であって、図中、1は、ポテンシオスタット、2は、作用電極、3は、参照電極、4は、対電極、5は、ランプ、6は、検出セル、7は、閉栓、8は、試料セル、9は、試料溶液、である。
ポテンシオスタットに、参照電極、及び対電極を接続する。作用電極は、検出セル内に設置する。参照電極及び対電極は試料溶液が入ったビーカーに設置する。検出セルには、ビーカーの試料溶液を一部吸い上げて閉栓して静置する。この検出セルにランプ光を照射することで溶媒分子よりラジカルなど酸化または還元作用物質を発生させ、これを用いて検出対象物質を酸化または還元し、生成した酸化物または還元物を電極に電位を印加して電気化学的還元または酸化し、再び溶媒光反応で再酸化または再還元を行う一連のレドックスサイクリングを起こして検出増幅を行う。
【0022】
以下、本発明について、水溶液試料中の鉄イオンの検出感度の増幅方法の例を用いて説明する。
2価の鉄イオン(Fe2+)が存在する水溶液試料に、1台のポテンシオスタットに接続した作用電極、対電極、および参照電極を挿入し、200nm以下の真空紫外光を試料溶液に照射する。この光照射により、溶媒である水分子から強力な酸化剤であるヒドロキシラジカルが生成されるため、試料中のFe2+が直ちにFe3+へ酸化される。これを作用電極上でFe3+の還元電位以下の電位を印加すると直ちに還元されるため、電極より電子供給が行われて電流が発生する。この還元されたFe2+は、上記のヒドロキシルラジカルによりFe3+に再酸化され、これを再び電極上でFe2+に再還元することで電流が発生する。ヒドロキシルラジカルは、水溶液中に最も高濃度に存在する溶媒の水分子から連続的に発生し、また、その強力な酸化力により迅速な酸化反応を起こすことが可能であるため、電極近傍にはFe3+が供給し続けられる。Fe3+の電極還元反応は迅速であることから、この溶媒分子光酸化反応および電極還元反応のレドックスサイクリングを繰り返すことが可能となり、触媒試薬を全く用いずに電極上の還元検出電流値は増大し高感度検出が可能となる。
【0023】
この水溶液中の鉄イオンの検出の場合は、水分子から発生するヒドロキシルラジカルを酸化剤として用いているが、他のラジカル、例えばハイドロジェンラジカルといった還元剤として働くものを使用してもよい。溶媒は水やメタノールなど光を照射することで酸化または還元作用のラジカルを発生するものであれば種類は問わない。また、これらの溶媒ラジカルを起点に生成する原子、分子、イオンが検出対象物質に対して酸化または還元作用を有していれば、これらの物質を用いてもよい。照射する光についても、溶媒分子から酸化剤又は還元剤として働く物質を発生するものであれば種類、波長、および強度は問わず、具体的には、水銀ランプ、キセノンランプ、臭化アルゴンランプ、レーザーなどの紫外光及び真空紫外光を発生するものが好ましく用いられる。
また、検出方法は、前述の鉄の検出例では分析法としてボルタンメトリーを用いているが、検出対象物質の電子授受量を測定できれば種類は問わない。アンペロメトリー、クーロメトリー、ポテンシオメトリーなど他の各種電気化学分析法を用いてもよい。また、検出値は電流値、抵抗値、電圧値など電子授受量を反映する量であれば種類は問わない。
【0024】
また、本発明の装置において、作用電極、対電極、参照電極について、検出対象物質が電気化学的に酸化又は還元反応が起こるものであれば材質、形状、電極配置、および大きさは問わない。例えば、材質は金、銀、白金などの貴金属、炭素、水銀、ホウ化物、金属酸化物、有機物質などがあり、形状は、平板、棒状、および球状などがある。
さらに、検出セルは、光源からの光を溶液に照射することができるものであって、且つ前記作用電極が収納できるものであれば、その材質、大きさ、および形状等は問わない。例えば、材質はガラス、金属、有機物質などがある。
【0025】
本発明の増幅方法は、触媒試薬を使用しない2組の作用電極を用いたレドックスサイクリングによる検出感度増幅方法と比較しても、各電極電位の精密制御や複数のポテンシオスタットは不要であり、検出物質の酸化または還元反応が起こる電極電位に設定するだけで良いため、検出物質の適用範囲はより広くなる。また、作用電極は1組しか使用しないため、微少空間に絶縁した2組の電極を設置する高度な微細加工技術は必要としない。
【0026】
以上のように、本発明の溶媒分子光反応利用レドックスサイクリングによる酸化還元物質の検出の感度増幅方法は、触媒試薬、電極修飾、精密な試料溶液条件、および二組の作用電極を必要とせずに、溶媒分子に光を照射するだけで酸化還元物質の検出感度の増幅が図ることができる。
【0027】
また、本発明の溶媒分子光反応利用レドックスサイクリングによる検出増幅法に用いる装置としては、検出対象物質の電極反応を起こす作用電極を挿入した試料溶液の容器を、光源ランプに貫通する位置に設置し、ランプ光を試料溶液に照射するようにしたものが好ましく用いられる。このような装置を用いることにより、ランプ光の試料溶液への照射効率が高まるため光反応効率が増加し、更なる感度増幅率の向上を行うことができる。
【0028】
さらに、溶媒分子光反応利用レドックスサイクリングによる検出増幅の原理を用いて、検出対象物質の電極反応が行われる電極が、微小な間隔のくし形部分を有するものである電気化学検出装置であってもよい。電極間の微少空間でランプ光照射による溶媒分子光反応利用レドックスサイクリングによる検出感度が増幅に加えて、電極微少化による球面拡散によって電極の単位面積および単位時間当たりに電極表面に供給される物質量が増加し、また充填電流の寄与が小さいためバックグランド電流値が低下するため、更なる検出感度やS/N比向上が得られる。これらの効果に加えて、従来の2組のくし形電極に異なる電位を印加したレドックスサイクリングを用いる感度増幅方法と比較して、一組のくし形電極しか必要がないため、より狭い電極間および電極幅を有するくし形電極を設置することができることから、検出対象物質の拡散による検出信号の低下が抑制され、より高感度な検出ができる。
【0029】
さらにまた、溶媒分子光反応利用レドックスサイクリングによる検出増幅の原理を用いて、検出対象物質の電極反応が行われる電極が微小な間隔のくし形部分を有するものであって、その電極を挿入した検出セルが光源ランプを貫通する位置に設置された電気化学検出装置であってもよい。電極微少化、電極くし形化およびランプ光照射の高効率化によって、更なる感度増幅およびS/N比改善ができる。
この電極はくし形だけでなく微少な間隔を有するらせん状の電極であってもよい。微少な電極間隔のため、くし形電極と同様な感度増幅およびS/N比改善ができる。らせん状電極の一例としては、中空型らせん状電極およびロッド内包型らせん状電極がある。中空型の場合、くし形電極と同じ効果の検出感度増幅およびS/N比の向上が得られるのに加えて、光源に対して電極の表側面だけでなく裏側面も、溶媒分子光反応による検出増幅効果を利用することができるため、さらなる検出感度増幅が起こる。また、ロッド内包型らせん状電極の場合、ロッドは、ガラスやポリマーなどの絶縁体であると良い。
【0030】
また、溶媒分子光反応利用レドックスサイクリングによる検出増幅の原理を、検出対象物質を電極電位印加や吸着剤などにより一度電極上に濃縮した後に電気化学的還元または酸化するストリッピングボルタンメトリーに適用して検出増幅を行っても良い。電極上で予め検出物質の濃縮を行うため、更なる高感度検出が可能となる。検出装置には上記のランプ貫通型装置やくし形およびらせん状電極装置、およびこれらの組み合わせた装置も使用できる。さらに、溶媒分子光反応利用レドックスサイクリングによる検出増幅の原理を他の既知の検出感度増幅方法、例えば拡散による検出感度低下を解消する回転電極法およびラジアルフロー式電極法などと組み合わせても良い。
【0031】
本発明の方法は、光照射を止めれば直ちに検出増幅は停止することができるため、検出装置の制御や操作安全性の確保も容易である。これらの利点は接触ストリッピングボルタンメトリーにおいても得られる。
また、前述のとおり、本発明による感度増幅法は、一組の作用電極と一台のポテンシオスタットで実現できるため、既存の多重作用電極法のように二組の作用電極と高価なポテンシオスタットが2台も必要がなく、また、各電極の電位の精密制御も不要である。また、2組の作用電極の電極間隔を数十μmレベル以下に絶縁状態に設置する高度な微細加工技術が必要とせず、二組の作用電極および試料溶液条件で規定される電位窓範囲内で検出対象物質の酸化還元反応を行う必要がなく、より広範囲の電位窓範囲で酸化還元反応を行うことが可能であるため、検出物質の適用範囲を広げることができる。
さらにまた、一組の作用電極のみ使用するため、検出対象物質や共存物質の吸着によって電極の絶縁状態を損なわないため、繰り返し測定が可能である。
【0032】
このように本発明は、試料溶液に光を照射するだけで感度増幅を図ることができるため、既存の触媒法及び多重作用電極法が抱える触媒試薬や電極加工由来の有害性、危険性および高コスト性の問題を解消し、検出物質範囲および測定安定性の改善、試料溶液調製および操作の簡便化に寄与することができる。
また、本発明による触媒や多重作用電極を用いない化学物質検出の増幅法は、既存法で必要であった触媒試薬補給、不均一触媒の再コンディショニング、多重作用電極の交換といったメンテナンスおよびコスト負担を大幅に軽減できる。
また、本発明の感度増幅効果により、微量化学物質の高感度測定も行うことが可能となる。さらに、この増幅効果を利用して、得られた総電子授受量から光照射条件下での溶液中で発生するラジカル量を測定も可能である。従来のラジカル測定には2,4,6−Tri−tert−butylnitrosobenzeneなどのラジカル捕捉剤を用いたESR測定などがあるが、高価な試薬および分析装置が必要であった。一方、本発明の方法は、鉄など安価な試薬および電気化学測定装置で測定可能である。また、装置も小型でありオンライン化も可能であるため、水質管理や水処理現場で水質指標や処理剤として用いられるヒドロキシラジカルやスーパーオキシドなど各種ラジカルをモニタリングも可能である。さらにまた、照射光に真空紫外光を用いれば、電極反応の妨害となる試料溶液中の溶存有機物や電極劣化の原因となる吸着有機物を分解除去できる効果も得られる。
【実施例】
【0033】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0034】
図1(b)の装置を用いて、水溶液試料中の鉄イオンの検出感度の増幅を行った例を示す。
作用電極に、直径0.2mmの金線、対電極に、0.2mmの白金線、参照電極に、Ag/AgCl電極を、それぞれ用いた。ランプは、6Wのペン型水銀ランプで、照射窓は合成石英製とした。検出セルに、内径1mmの合成石英管を用い、試料セルに、10mlのポリプロピレン製のビーカーを用いた。試料は、0.1mMの塩化鉄を含む0.1Mの硫酸を用いた。なお、ここで用いた硫酸は、支持電解質である。
水銀ランプより発せられる185nmの真空紫外光により試料溶液中の水分子よりヒドロキシルラジカルを発生させ、これを鉄イオン(Fe2+)の酸化剤として用いた。
【0035】
図2(a)は、図1(b)の装置を用いたサイクリックボルタンメトリー測定を行った例である。
作用電極の電位掃引範囲は+0.2〜+0.8V(vs. Ag/AgCl)であった。光照射しない場合は、電位掃引により電極上でFe2+/Fe3+の可逆的酸化還元反応が行われ、酸化及び還元反応に応じた同強度の電流値変化が観測されているのに対して、光照射すると還元電位+0.4V付近の電流が負の方向に増幅し、シグモイド型のボルタモグラムに変化した。
これは電極上で電気化学的還元されたFe2+が水銀ランプ照射による水分子から生成したヒドロキシルラジカルによりFe3+に迅速に再酸化され、これが直ちに電極上でFe2+に再々還元するといったレドックスサイクリングが繰り返し行われ増幅したためである。
【0036】
図2(b)は、図1(b)の装置を用いたクロノアンペロメトリーの測定例である。
Fe3+イオンの還元電位付近の+0.4Vに固定して行った。光照射せずに電位印加を開始すると、開始数秒間は電極近傍のFe3+の還元電流及び充電電流のため負の電流が流れるが、直ちにこれらに起因する電流は枯渇してほぼ一定の低値となった。これを初期状態として光照射すると還元電流値は負方向に増大し一定となった。また、照射を停止すると元の低値まで減衰した。これはランプ照射により電極近傍のFe3+量が増加することで、電極上でのFe2+への還元量が増加し還元電流値が増大したことを示している。
【0037】
本実験条件では、鉄の検出感度は約8倍に増幅した。これらの実験では一例であって、電極など装置各部品、試料溶液および検出対象物質は上記の溶媒分子光反応および電極反応のレドックスサイクリングが行われるものであれば仕様および種類は問わない。
【0038】
図3は、図1(b)の装置を基にしてランプ光の試料溶液への照射効率を向上させて、溶媒分子光反応効率を増加させることでレドックスサイクリングによる検出増幅効果を向上させた電気化学検出装置である。
装置構成部品は、図1(b)の装置とほぼ同じであるが、検出セルを、光源ランプ11に貫通するように設置した。このためにランプ内で発せられるほとんど全ての光を試料溶液へ照射することが可能となり、溶媒分子の光反応効率が向上して電気化学的検出感度の増幅率が向上する。また、ランプの外側を、アルミホイルなどランプ光を反射する材料で覆うことでランプ内の光をさらに効率良く照射する方法を加えても良い。さらにまた、閉栓を三方コネクタに代えて液体クロマトグラフなど流れ分析用のフロー式検出器としてもよい。液体クロマトグラフの出口を検出セル入口に接続し、検出セル出口の三方コネクタの一方から検出後の試料溶液を排出する機構にし、クロノアンペロメトリー測定などにより液体クロマトグラフにより分離された検出対象物質を高感度に検出することができる。液体クロマトグラフなどの化学物質を分離した後に検出する場合は、分離度を損なわないために検出セル断面積を流れを妨げない範囲で小さくするとよい。
【0039】
図4は、図1(b)の装置を基にして作用電極を光透過型くし形微少電極に変更し、レドックスサイクリングによる検出増幅効果を向上させた電気化学検出装置であり、(a)は上面図、(b)は断面図、(c)は下面図である。図中、12は、くし形作用電極、13は、石英ガラス板、14は、試料導入口、15は、試料排出口、16は、ポリマーシート、17は、台座、18は、ボルト及びナット、である。
【0040】
光透過型くし形電極12は、合成石英ガラス基板上にリソグラフィー技術を用いて金をくし形にコーティングしたものを用いた。電極幅は10μm、電極間幅は5μmである。基板の材質は、所望する光反応を起こすのに必要な波長の光を透過させて、かつ電極と絶縁状態となる材質であれば種類は問わない。対電極は白金方形電極を用いた。50μmのポリマーシートを挟んだPEEK製台座を用いて流路を作成し、光透過型くし形微小電極と対電極が相対するように配置した。測定は、試料を試料導入口から導入し、参照電極がある試料排出口まで満たして行った。各電極の材質は所望する電極反応が得られれば種類は問わない。
【0041】
本例では、電極微小化による球面拡散を利用する電極反応が可能であるため、単位電極面積及び単位時間当たりの電極近傍物質量が増加し、また、非ファラデー電流減少によるバックランド電流値が低下する。この条件に加えて、ランプ光源より極めて近い距離に電極を位置させることで高い照射量も得ることが可能であり、また、検出セル体積が小さいため試料量を減少させることで、光反応効率を向上させることによりレドックスサイクリングによる増感効果が増大する。この二つの効果により、感度増幅やS/N非が向上するため、図1(b)の装置と比較して、更なる高感度検出及び低い検出限界が得られる。
また、本装置は試料導入排出が容易であるため、水質モニタリング装置や液体クロマトグラフィの検出器などのフロー式検出器としても使用可能である。
【0042】
図5は、図3の装置において、作用電極を、くし形・円筒電極とし、図3及び図4で説明した検出増幅の効果を同時に得られるようにした電気化学検出装置であり、右図は、その作用電極の拡大図である。
図中の符号は、19がくし形・円筒電極を示す以外は、図1(b)と同じである。
電極19は、直径0.2mmの円筒状の非導電性材料に金を縞状にコーティングしたものを用いた。非導電性材料の材質はポリプロピレンなどの高分子や石英ガラスなど電極と絶縁状態を保たれる材料でその種類は問わない。また電極19の作成方法は、金コーティングの代わりに金線に非導電性材料にコーティングしてもよい。ランプ貫通型検出セルを用いてランプ光の照射効率を増加させて溶媒分子光反応効率を向上させるとともに、微小くし形電極による球面拡散と電極微小化を利用して更に検出感度増幅及びS/N比の向上が得られる。
くし形電極の他に微少な間隔を有するらせん状電極を使用しても良い。くし形電極と同じく微少な間隔を有するため、同類の検出感度増幅およびS/N比の向上が得られる。らせん状電極の一例として、中空型らせん状電極およびロッド内包型らせん状電極の模式図を図6の電極20および21に示す。
【0043】
電極20は、0.2mm金線を棒に微少な間隔を空けてらせん状に巻き付けた後、棒を取り除いて作製した。
また、電極21は、0.2mm金線を石英ガラス棒に微少な間隔を空けてらせん状に巻き付けて作製した。石英ガラスに金をコーティングして作製してもよい。棒の材質は電極と絶縁状態とであれば種類は問わない。
中空型らせん状電極の場合、くし形電極と同じ効果の検出感度増幅およびS/N比の向上が得られるのに加えて、光源に対して電極の表側面だけでなく裏側面も溶媒分子光反応による検出増幅効果を利用することができるため、さらなる検出感度増幅が起こる。
【0044】
図7は、電極上に検出対象とする酸化還元物質を電極上に濃縮した後に、溶媒分子光反応によるレドックスサイクリングによる感度増幅を行った例である。
検出対象物質の電極上濃縮は、既存のストリッピングボルタンメトリーで用いられる前濃縮操作を利用する。
一例として、アノーディックストリッピングボルタンメトリーの場合について述べる。最初に、検出対象とする酸化還元物質の酸化体(Ox)が還元体(Red)に還元できる電位E1を電極に印加して検出対象物質を電極上に析出濃縮させた(Redelectrode)。この析出濃縮段階の概念図を図7(a)に示す。次に、このRedelectrodeをOxに酸化できる電位E2を電極に印加し電気化学的酸化を行ったところ、電極より離脱し電極近傍に拡散した(Oxdif)。ここで、請求項[1]で説明した溶媒分子光反応によって生成される還元作用を有するラジカルBにより再還元を行い、さらに上記の電極上酸化を行うレドックスサイクリングを繰り返し行うことにより、電極上での電子授受量を増幅させて酸化還元物質の検出の感度増幅を図る。この感度増幅段階の概念図を図7(b)に示す。この方法は前濃縮後、電位E2を印加して検出物質を電極より離脱させることを起点しているが、電位E1を印加後に光照射して検出物質を電極より離脱させることを起点としてもよい。
説明した溶媒分子光還元とアノーディックストリッピングボルタンメトリーの組み合わせは一例であり、各種の溶媒分子光反応および各種ストリッピングボルタンメトリー、例えば、溶媒分子光酸化反応およびカソーディックストリッピングボルタンメトリーといった組み合わせでも良い。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明により、これまで実現できなかった実際の環境水取水場、水処理施設、工場製造ラインなどの現場で長期間、低負担、安全、簡便、および低コストに環境水および工場排水現場での化学物質の連続および長期的監視が可能となる。この水質モニタリング法により綿密な化学物質管理および水質管理を行うことができ、世界的課題である水資源確保や水環境保全に有益である。また、工場製造ラインで使用する薬液の品質管理にも、従来法で問題となっていた薬液中の共存物質による触媒劣化、およびそれに伴う感度増幅性能の低下が原理的に生じないため、低負担で長期間安定に化学物質の高感度測定が可能であり、製造品質の向上および製造管理の効率化に多大に貢献する。
【符号の説明】
【0046】
1:ポテンシオスタット
2:作用電極
3:参照電極
4:対電極
5:ランプ
6:検出セル
7:閉栓
8:試料セル
9:試料溶液
10:ランプ電極
11:ランプ電源
12:くし形作用電極
13:石英ガラス板
14:試料導入口
15:試料排出口
16:ポリマーシート
17:台座
18:ボルト及びナット
19:くし形・円筒型作用電極
20:中空型らせん状電極
21:ロッド内包型らせん状電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元物質を電気化学的に検出する方法において、検出対象物質を溶解した試料溶液に光を照射することで溶媒分子からラジカルを発生させ、これを用いて該溶液中に存在する検出対象物質の酸化又は還元反応を起こした後に、この酸化又は還元された物質を電極上で再還元又は再酸化を行い、さらにこの再還元又は再酸化された物質を上記光反応によって再々酸化又は再々還元を行い、さらに続けて上記の電極反応を起こす一連のレドックスサイクリングを繰り返し行うことにより、電極上での電子授受量を増幅させることを特徴とする電気化学検出方法。
【請求項2】
前記試料溶液中に存在する検出対象物質を、電気化学反応、化学反応、又は物理吸着により前記電極上に濃縮することを特徴とする請求項1に記載の電気化学検出方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電気化学検出方法において、前記電極上での電子授受量を測定し、得られた電子授受量から前記溶媒分子から発生したラジカル量を測定することを特徴とする電気化学検出方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気化学検出方法に用いるための装置であって、少なくとも、光反応により酸化又は還元反応を起こす検出対象物質を溶解した試料溶液を収納した検出セル、該セル内の溶液中に挿入された電極、及び該検出セル内の溶液への光照射手段を備えたことを特徴とする電気化学検出装置。
【請求項5】
前記検出セルが、前記光照射手段を貫通するように配置されていることを特徴とする請求項4に記載の電気化学検出装置。
【請求項6】
前記電極が、筒状又は棒状であることを特徴とする請求項4又は5に記載の電気化学検出装置。
【請求項7】
前記電極が、微小な間隔のくし形部分を有する電極であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の電気化学検出装置。
【請求項8】
前記電極が、微小な間隔を有するらせん状電極であることを特徴とする請求項4又は5に記載の電気化学検出装置。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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