説明

酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤およびその製造法

【課題】従来のアルキッド樹脂乾燥剤として用いられる高級脂肪酸金属塩では、水に対して親和性がないため水性アルキッド塗料との混和性に劣るか、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩のような水可溶性のものであっても、塩析を起こすという問題があった。
【解決手段】本発明のオキシ−ジまたはトリカルボン酸コバルト(II)にアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを加えて得られた水溶液は、水性アルキッド塗料乾燥剤に良好な混和性を示し、塩析を起こさず、しかも優れた樹脂乾燥効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシ−ジまたはトリカルボン酸コバルト(II)のスラリーにアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを加えて得られる水溶液を含む酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化重合型アルキッド樹脂には、硬化による造膜形成を促進する目的で通常乾燥剤が配合される。この乾燥剤は、アルキッド樹脂に残存する不飽和基が空気中の酸素により酸化されて重合し、硬化する反応を促進する触媒としての効果を有している。
従来この種の乾燥剤としては、高級脂肪酸のコバルト塩、マンガン塩、バリウム塩、カルシウム塩、鉛塩、亜鉛塩、錫塩、カリウム塩、ジルコニウム塩等の金属塩が知られており、なかでもオクチル酸やナフテン酸のコバルト塩、マンガン塩に、表面の乾きや表面の皺の生成を抑える目的で鉛塩、バリウム塩等が組み合わせてよく用いられる(非特許文献1)。
【0003】
近年アルキッド塗料の塗装によって大気中に大量に放散される有機溶媒を環境保全のために規制しようとする動きがある。その対策として溶媒を水および水の一部をアルコールに置き換えた水性エマルションまたはコロイダルアルキッド塗料が開発され、その使用量が増えている(非特許文献1)。
水性アルキッド塗料に用いられるアルキッド樹脂は、例えばマレイン酸との付加重合によって、あるいはフタル酸やトリメリット酸のような多塩基酸を酸成分として用いることによって、遊離カルボン酸を導入し、これをアンモニウムまたは有機アミン塩として樹脂の水に対する親和性を増大させている。またアルコール性水酸基やポリエーテル結合を樹脂中に導入することによっても、樹脂の水に対する親和性は増大する(非特許文献2)。
【非特許文献1】高分子刊行会「塗料配合便覧」第48〜52頁(1986)
【非特許文献2】日本塗料新聞社「水性塗料の技術動向」第15〜16頁(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし従来の乾燥剤として用いられる高級脂肪酸金属塩では、水に対して親和性がないため水性アルキッド樹脂との混和性に劣り、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩のような水可溶性のものであっても、水性アルキッド樹脂の塩析を起こすという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者等は、オキシージまたはトリカルボン酸コバルト(II)のスラリーに、アンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを含む水溶液を液が澄明になるまで加え、得られた液が水性アルキッド樹脂と良好な混和性を有し、塩析を起こさず、かつ樹脂に対する優れた乾燥効果を有することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1)一般式(I)で示されるオキシ−ジまたはトリカルボン酸

(ただしR1は水素または−CH2COOHを、R2は水素または−OHを表す。)
のコバルト(II)塩のスラリーにアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを加えて得られる水溶液を含有する酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤、
(2)一般式(I)で示されるオキシージまたはトリカルボン酸コバルト(II)がリンゴ酸コバルト(II)、酒石酸コバルト(II)またはクエン酸コバルト(II)のいずれか1種または2種以上である(1)記載の酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤、
(3)一般式(I)で示されるオキシ−ジまたはトリカルボン酸コバルト(II)1モルに対してアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンが0.1〜3.0モルを加えられた(1)記載の酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤、
(4)一般式(I)で示されるオキシ−ジまたはトリカルボン酸

(ただしR1は水素または−CH2COOHを、R2は水素または−OHを表す。)
と水酸化コバルト(II)を水中で反応させて、オキシ−ジまたはトリカルボン酸の塩となし、得られたスラリーにアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを加えて溶解させる酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤の製造方法、
(5)一般式(I)で示されるオキシ−ジまたはトリカルボン酸コバルト(II)1モルに対してアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを0.1〜3.0モル加える(4)記載の酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤の製造法、および
(6)一般式(I)で示されるオキシ−ジまたはトリカルボン酸と水酸化コバルト(II)を水中で反応させて、オキシ−ジまたはトリカルボン酸の塩となし、得られたスラリーにアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを加えて溶解させ、さらに水または親水性溶媒を加えてコバルト(II)の含量が3〜7重量%の水溶液となす(4)記載の酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤の製造方法、
である。
【0006】
本発明においては、一般式(I)で示されるリンゴ酸、酒石酸のようなオキシ二塩基酸、クエン酸のようなオキシ三塩基酸と水酸化コバルト(II)を水中20〜90℃、望ましくは40〜80℃、30分〜4時間、好ましくは1〜3時間反応させるとスラリーが得られる。このスラリーは多塩基酸のコバルト塩のスラリーである。次いで得られたスラリーに好ましくは攪拌下、アンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを液が透明に成るまで加える。炭素数が1〜9の有機アミンとしては、例えばモノメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンのような有機アミン化合物が挙げられる。得られた水溶液は、オキシージまたはトリカルボン酸コバルト(II)とアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンの複合塩の水溶液と考えられる。この水溶液を必要により水又は親水性溶媒、例えばイソプロピルアルコールの様なアルコール類、ブチルセロソルブの様なポリエーテルアルコール類で一定の濃度に調整し、例えば溶質濃度が3〜7重量%のような水溶液とする。
アンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンの添加量はオキシージまたはトリカルボン酸コバルト(II)1モルに対して0.1〜3.0モル、好ましくは0.5〜2.5モルである。0.1モルより少なければ塩の可溶化効果が不十分となり、3.0モルを超えると樹脂の乾燥性を損なう。
【0007】
このオキシ−ジまたはトリカルボン酸コバルト(II)にアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを加えて得られる水溶液は、例えばコバルト含量が5重量%の水溶液である場合、水性アルキッド樹脂(不揮発分30〜50%)に0.5〜10重量%、好ましくは、1〜5重量%配合される。このオキシージまたはトリカルボン酸コバルト(II)にアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを加えて得られた水溶液は、水性アルキッド樹脂への混和性が良く、また樹脂の塩析も起こさない。
【0008】
本発明のオキシ−ジまたはトリカルボン酸コバルト(II)にアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを加えて得られた水溶液は、従来の有機溶剤系アルキッド樹脂で用いられてきたオルソフェナントロリン、ジピリジルのような乾燥剤助剤と組み合わせて用いてもよい。
【0009】
本発明の酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤が好適に用いられる水性アルキッド樹脂は、アルキッド樹脂中に不飽和脂肪酸残基を有し、空気酸化によって硬化する性質の酸化重合型樹脂であり、かつアルキッド樹脂中にアルコール性親水基、ポリエーテル基遊離カルボン酸、スルホン酸またはカルボン酸アンモニウム、炭素数が1〜6の有機アミン塩を有し、一般に水またはイソプロパノールのようなアルコール、ブチルセロソルブのようなポリエーテルアルコールを溶媒としているものである。
また、アルキッド樹脂は、長油、中油のものか、あるいはフェノール、アクリル、ウレタン、メラミン等で変性されているものであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のオキシジまたはトリカルボン酸コバルト(II)にアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを加えた水溶液は、酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤として優れた効果を有するうえに、従来の高級脂肪酸金属塩系乾燥剤に見られたような水性アルキッド樹脂との混和性の不適、塩析がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に実施例を示して、本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0012】
クエン酸コバルト(II)にアンモニアを加えた水溶液の調製
クエン酸1水和物42.0g(0.2モル)を水252.0gに溶解させ、水酸化コバルト(II)27.9g(0.3モル)を加えて75℃で2時間加熱攪拌して暗赤色の沈殿物を含んだスラリーを得た。スラリーを室温まで冷却後、28%アンモニア水18.2g(0.26モル)を加えてpH約9とし、コバルト含量約5%のクエン酸コバルト(II)―アンモニア(1:1.3)水溶液340gを調製した。
【実施例2】
【0013】
酒石酸コバルト(II)にアンモニアを添加した水溶液の調製
酒石酸30.0g(0.2モル)を水154gに溶解させ、水酸化コバルト(II)18.6g(0.2モル)を加えて70℃で2時間加熱攪拌して暗赤色の沈殿物を含んだスラリーを得た。スラリーを室温まで冷却後、28%アンモニア水24.3g(0.40モル)を加えて溶解し、pH約9、コバルト含量約5%の酒石酸コバルト(II)―アンモニア(1:2)水溶液227gを調製した。
【実施例3】
【0014】
リンゴ酸コバルト(II)にアンモニアを添加した水溶液の調製
DL−リンゴ酸26.8g(0.2モル)を水157.3gに溶解させ、水酸化コバルト(II)18.6g(0.2モル)を加えて70℃で2時間加熱攪拌して暗赤色の沈殿物を含んだスラリーを得た。
スラリーを室温まで冷却後、28%アンモニア水24.3g(0.40モル)を加えて溶解し、pH約9、コバルト(II)含量約5%のリンゴ酸コバルト(II)−アンモニア(1:2)水溶液227gを調製した。
【実施例4】
【0015】
クエン酸コバルト(II)にトリエチルアミンを添加した水溶液の調製
クエン酸1水和物42.0g(.0.2モル)を水200gに溶解し、水酸化コバルト(II)27.9g(0.3モル)を加えて75℃で2時間加熱攪拌して暗赤色の沈殿物を含んだスラリーを得た。スラリーを室温まで冷却後、トリエチルアミン30.4g(0.3モル)と水41.2gを加えて溶解し、pH約9、コバルト(II)含量約5%のクエン酸コバルト(II)−トリエチルアミン(1:1.5)水溶液342gを調製した。
【実施例5】
【0016】
クエン酸コバルト(II)にトリエタノールアミンを添加した水溶液の調製
クエン酸1水和物42.0g(.0.2モル)を水200gに溶解し、水酸化コバルト(II)27.9g(0.3モル)を加えて75℃で2時間加熱攪拌して暗赤色の沈殿物を含んだスラリーを得た。スラリーを室温まで冷却後、トリエタノールアミン44.8g(0.3モル)と水26.8gを加えて溶解し、pH約8、コバルト(II)含量約5%のクエン酸コバルト(II)−トリエタノールアミン(1:1.5)水溶液342gを調製した。
〔試験例1〕
【0017】
性能評価試験
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4および実施例5で得られた5種の水溶性乾燥剤、即ち3種のオキシ−ジまたはトリカルボン酸コバルト(II)にアンモニアまたは有機アミンを加えて得られた5種のコバルト5%含有水溶液について、下記市販AおよびBの2種の酸化重合型水性アルキッド樹脂を用い、乾燥効果、混和性、塩析の有無、経時安定性を試験した。
各水性アルキッド樹脂液100重量部に対して、上記各水溶性乾燥剤を2重量部添加し、試験に供した。試験に用いた酸化重合型水性アルキッド樹脂は以下の市販品である。
水性アルキッド樹脂A 水分散型:アクリセットARL585(日本触媒株式会社製) 不揮発分44%、水溶媒
水性アルキッド樹脂B 水分散型ビニル変性:ウォーターゾール BCD-3040(大日本インキ化学工業株式会社製) 不揮発分38%、水―ブチルセロソルブ共溶媒
また乾燥効果、混和性、塩析の有無、経時安定性の試験方法と評価基準を以下に記す。
乾燥効果:ドライングレコーダーを24時間セットし、無添加(ブランク)とともに乾燥時間を測定した。
乾燥条件:温度 23℃、湿度 50%。
混和性:樹脂と乾燥剤を混合して攪拌し、6時間後も粘度が上昇せず、引き続き攪拌が容易なものを良好とした。
塩析の有無:樹脂と乾燥剤を混合、攪拌した後凝集物の有無を検査して、凝集物のないものを良好とした。
経時安定性:樹脂と乾燥剤を混合後金属缶に入れて密閉し、室温で7日間放置して目視により状態を検査し、混合時と比べて変化のないものを良好とした。
第1表に試験結果を示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1の試験結果が示すとおり、オキシ−ジまたはトリカルボン酸コバルト(II)にアンモニアまたは有機アミンを加えて得られた水溶液は、酸化重合型水性アルキッド樹脂に対して優れた乾燥効果と混和性を有し、かつ塩析を起こさなかった。
【実施例6】
【0020】
上記の水性アルキッド樹脂Aおよび実施例1の水溶性乾燥剤を用い、下記配合処方の酸化重合型水性アルキッド塗料1kgを調製した。本塗料を金属缶に容れて密封し3ヶ月貯蔵したものは粘度上昇が認められず、塗装性に問題がなかった。
水性アルキッド樹脂 A 100重量部
水溶性乾燥剤 実施例1 2重量部
チタン白ペースト(堺化学工業製) 80重量部
ビニルピロリドン系水性分散剤 4重量部
脱イオン水 残部
計 200重量部
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のオキシージまたはトリカルボン酸コバルト(II)にアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを加えて得られた水溶液は、酸化重合型水性アルキッド樹脂用に対して優れた乾燥効果を有するうえに、樹脂との混和性がよく、また塩析を起こさないので、酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤として利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で示されるオキシ−ジまたはトリカルボン酸

(ただしR1は水素または−CH2COOHを、R2は水素または−OHを表す。)
のコバルト(II)塩のスラリーにアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを加えて得られる水溶液を含有する酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤。
【請求項2】
一般式(I)で示されるオキシージまたはトリカルボン酸コバルト(II)がリンゴ酸コバルト(II)、酒石酸コバルト(II)またはクエン酸コバルト(II)のいずれか1種または2種以上である請求項1記載の酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤。
【請求項3】
一般式(I)で示されるオキシ−ジまたはトリカルボン酸コバルト(II)1モルに対してアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンが0.1〜3.0モルを加えられた請求項1記載の酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤。
【請求項4】
一般式(I)で示されるオキシ−ジまたはトリカルボン酸

(ただしR1は水素または−CH2COOHを、R2は水素または−OHを表す。)
と水酸化コバルト(II)を水中で反応させて、オキシ−ジまたはトリカルボン酸の塩となし、得られたスラリーにアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを加えて溶解させる酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤の製造方法。
【請求項5】
一般式(I)で示されるオキシ−ジまたはトリカルボン酸コバルト(II)1モルに対してアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを0.1〜3.0モル加える請求項4記載の酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤の製造法。
【請求項6】
一般式(I)で示されるオキシ−ジまたはトリカルボン酸と水酸化コバルト(II)を水中で反応させて、オキシ−ジまたはトリカルボン酸の塩となし、得られたスラリーにアンモニアまたは炭素数が1〜9の有機アミンを加えて溶解させ、さらに水または親水性溶媒を加えてコバルト(II)の含量が3〜7重量%の水溶液となす請求項4記載の酸化重合型水性アルキッド樹脂用乾燥剤の製造方法。

【公開番号】特開2007−77315(P2007−77315A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268279(P2005−268279)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(392003306)株式会社鉛市 (1)
【出願人】(502361991)ハルケン産業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】