説明

酸化鉄粒子

【課題】オリビン型リン酸鉄リチウムの製造原料として有用な酸化鉄粒子を提供すること。
【解決手段】本発明の酸化鉄粒子は、スピネル構造を有し、累積体積50容量%における体積累積粒径D50が5〜100nmであり、粒子表面のFeO存在率が70%以上である。また、この酸化鉄粒子は、結晶子径が7〜50nmであることが好ましい。累積体積90容量%における体積累積粒径D90と、累積体積50容量%における体積累積粒径D50との比D90/D50が1.30以下であることも好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化鉄粒子に関する。本発明の酸化鉄粒子は、オリビン型リン酸鉄リチウムを製造するための原料として用いられる。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池などの非水電解液二次電池に用いられる正極の活物質としては、LiCoO2及びLiNiO2などの層状岩塩構造を有する化合物や、LiMn24などのスピネル型構造を有する化合物を始めとしたリチウム遷移金属複合酸化物が知られている。また、これらの複合酸化物における遷移金属の一部を、他の金属で置換した化合物も提案されている。
【0003】
しかし、前記のCo、Ni及びMnは、国家備蓄の対象となっている希少金属であり、資源的な制約があることから、これらの正極活物質の代替材料が求められている。そのような材料の一つとして、レアメタルフリーの正極活物質であるオリビン型リン酸鉄リチウムが注目されている。オリビン型リン酸鉄リチウムは、豊富な資源系から製造でき、また廃棄時の環境負荷も小さいことから魅力ある材料である。
【0004】
オリビン型リン酸鉄リチウムは、例えばシュウ酸鉄や酢酸鉄などの鉄源、リチウム源及びリン源を混合して焼成することで製造される。しかし、シュウ酸鉄等は高価であることから、これを原料とすることは経済的に有利ではない。そこで、特許文献1においては、鉄源として特定の粒径を有する酸化鉄粒子を鉄源として用いてオリビン型リン酸鉄リチウムを製造することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/93551号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これまで提案されてきたオリビン型リン酸鉄リチウム用の鉄源を用いると、得られるオリビン型リン酸鉄リチウムの電気抵抗が高くなる傾向にあり、また嵩が高くなるか、又は嵩密度が低くなり、単位体積当たりの容量を高めることが容易でなかった。
【0007】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得るオリビン型リン酸鉄リチウムの製造用の鉄源を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、オリビン型リン酸鉄リチウムを製造するための原料として用いられる酸化鉄粒子であって、スピネル構造を有し、一次粒子径が5〜100nmであり、以下の式(1)で表される粒子表面のFeO存在率が70%以上である酸化鉄粒子を提供するものである。
【0009】
【数1】

【発明の効果】
【0010】
本発明の酸化鉄粒子は、オリビン型リン酸鉄リチウムの製造原料として有用なものであり、それによって得られたオリビン型リン酸鉄リチウムは、電気抵抗が低くなり、かつ嵩密度が高くなる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の酸化鉄粒子は、オリビン型リン酸鉄リチウムを製造するための原料として有用なものである。本発明の酸化鉄粒子は、その粒径と、表面におけるFeOの存在率によって特徴づけられる。粒径に関しては、本発明の酸化鉄粒子は、累積体積50容量%における体積累積粒径D50が5〜100nm、好ましくは10〜80nmという微粒のものである。微粒であることによって、この酸化鉄を原料としてオリビン型リン酸鉄リチウムを製造すると、LiやPの拡散が十分に起こり、オリビン構造を有するリン酸鉄リチウムを容易に得ることができる。粒径が100nmを超えると、LiやPの拡散が十分でなく、所期の特性を有するオリビン型リン酸鉄リチウムを得ることができない。酸化鉄粒子の粒径は小さければ小さいほど好ましいが、5nm程度にまで微粒になれば、オリビン型リン酸鉄リチウムの製造においてLiやPの拡散が十分なものになる。
【0012】
酸化鉄粒子の粒径は、走査型電子顕微鏡を用いて粒子を拡大(例えば倍率20000倍)観察し、200個の粒子についてフェレ径の測定を行い、その平均値を求めた。
【0013】
本発明の酸化鉄粒子のFeOの存在率に関しては、前記の式(1)で表される粒子表面のFeO存在率が70%以上であることが必要である。一般に、酸化鉄粒子の表面に存在する鉄は、粒子の内部に存在する鉄に比べ、表面酸化の影響によって、二価のものよりも三価のものの方が、割合が高くなっている。本発明において、粒子表面のFeO存在率が70%以上であることの技術的意義は、酸化鉄粒子の表面における二価の鉄の割合と、粒子の内部における二価の鉄の割合との間に極力差が生じないようにするという点にある。こうすることによって、酸化鉄粒子を微粒にすることと同様の有利な効果であるオリビン型リン酸鉄リチウム製造時におけるLiやPの十分な拡散効果が奏される。この観点から、粒子表面のFeO存在率は高ければ高いほど好ましく、具体的には75%以上であることが好ましい。
【0014】
粒子表面のFeO存在率は次のようにして測定される。まず、粒子表面に存在するFeOの量は、次の手順で測定される。3.8リットルの脱イオン水に、酸化鉄粒子25gを加える。ウォーターバスで40℃に保ちながら、撹拌速度200rpmで撹拌する。このスラリー中に、特級塩酸試薬(濃度35重量%)424mLを脱イオン水に溶解して得た塩酸水溶液1250mLを加える。これによって酸化鉄粒子の溶解を開始する。酸化鉄粒子の溶解開始から該粒子がすべて溶解してスラリーが透明になるまでの間、10分毎に50mLの液をサンプリングする。サンプリングした液を0.1μmメンブランフィルターで濾過して、濾液を採取する。採取した濾液のうち25mLを用い、プラズマ発光分析(ICP)によって鉄元素の定量を行う。そして、鉄元素溶解率(重量%)を以下の式から算出する。
【0015】
【数2】

【0016】
FeOの量は、前記の濾液のうちの残りの25mLを用いて測定する。この25mLの液に脱イオン水約75mLを加えて試料を調製する。試料に指示薬としてジフェニルアミンスルホン酸ナトリウムを加える。そして試料を0.1N重クロム酸カリウムを用いて酸化還元滴定する。試料が青紫色に着色したところを終点として滴定量を求め、滴定量からFeOの濃度(mg/L)を計算する。そして、上述の方法で求めた鉄元素溶解率が20重量%までのサンプルに含まれていたFeOの全量を算出し、その値を粒子表面に存在するFeOの量とする。
【0017】
一方、粒子全体に存在するFeOの量は、酸化鉄粒子を硫酸によって溶解し、その溶液を、過マンガン酸カリウム標準溶液を用いて酸化還元滴定することで測定する。
【0018】
以上のとおりの微粒で、粒子表面におけるFeOの存在率が高い酸化鉄粒子を得るためには、例えば後述する製造方法を採用すればよい。
【0019】
オリビン型リン酸鉄リチウムの製造において、LiやPの拡散を十分なものにするためには、酸化鉄粒子の結晶子径が小さいことも有利である。この観点から、本発明の酸化鉄粒子は、その結晶子径が50nm以下であることが好ましく、30nm以下であることが更に好ましい。結晶子径の下限値に特に制限はないが、20nm程度に結晶子径が小さければ、LiやPの拡散は十分なものとなる。結晶子径は、例えば理学電機株式会社製のX線回折装置Multiflexによって測定される。本発明の酸化鉄粒子の結晶子径を上述の値以下とするためには、例えば後述する製造方法において、仕込みの鉄の全量に対する三価の鉄の割合が10〜60モル%にすればよい。
【0020】
本発明の酸化鉄粒子は、上述のとおり微粒のものである。粒子は一般に微粒になるほど表面活性が高くなり粒子どうしの凝集が起こりやすくなる。本発明の酸化鉄粒子に過度の凝集が生じると、オリビン型リン酸鉄リチウムの製造において、LiやPの十分な拡散が起こりにくくなる傾向にある。そこで、本発明の酸化鉄粒子は、微粒でありながらも凝集の程度が低いことが望ましい。粒子の凝集の程度は一般に、該粒子のBET比表面積の、真球換算した表面積に対する比率を尺度として表すことができる。この比率をAとすると、A=(酸化鉄粒子のBET比表面積/真球換算した表面積)×100(%)で表される。本発明の酸化鉄粒子は、このAの値が110〜200%、特に120〜200%であることが好ましい。酸化鉄粒子のBET比表面積は、例えば島津−マイクロメリティックス製2200型BET計を用いて測定される。また、真球換算した表面積は、SEMのフェレ径と酸化鉄粒子との比重(密度)によって求められる。比率Aを上述の範囲に設定するためには、例えば後述する製造方法において、鉄塩の水溶液と塩基性物質との混合液のpHを約6〜約8に保ち、かつその混合液に吹き込む酸化性ガスの通気量を20L/min以下とすればよい。
【0021】
本発明の酸化鉄粒子は、微粒であることに加え、粗大粒子の含有量が少ないことも好ましい。粗大粒子の存在は、LiやPの十分な拡散を阻害しやすく、目的とするオリビン型リン酸鉄リチウムが首尾良く形成されにくくなるからである。この観点から、粗大粒子の存在の尺度となるD90/D50の値、すなわち累積体積90容量%における体積累積粒径D90と、累積体積50容量%における体積累積粒径D50との比が、1.30以下、特に1.25以下であることが好ましい。D90及びD50の値は、例えば例えば日機装社製のマイクロトラックUPA9340−UPAを用いた粒度分布から測定される。本発明の酸化鉄粒子において、粗大粒子の存在を低減させるには、例えば後述する製造方法において、鉄塩の水溶液における二価の鉄及び三価の鉄の濃度をそれぞれ0.1〜0.9mol/Lにすればよい。
【0022】
オリビン型リン酸鉄リチウムの製造時にLiやPの拡散を十分なものにするためには、本発明の酸化鉄粒子と、リチウム源と、リン源とを混合するときの混合性が良好であることが有利である。この観点から、本発明の酸化鉄粒子は、粉体混合に関連する物性値である吸油量の値が10〜30ml/100g、特に15〜30ml/100gであることが好ましい。酸化鉄粒子の吸油量をこの範囲に設定することで、オリビン型リン酸鉄リチウムの製造時における各原料の混合が良好に行われ、均一な混合物を得ることができる。本発明の酸化鉄粒子において、その吸油量を上述の範囲に設定するためには、例えば後述する製造方法において、仕込みの二価の鉄と三価の鉄との全量に対する三価の鉄の割合を10〜60モル%とし、鉄塩の水溶液における二価の鉄及び三価の鉄の濃度をそれぞれ0.1〜0.9mol/Lとし、かつ鉄水溶液と塩基性物質の混合液に吹き込む酸化性ガスの通気量を、該混合液100Lに対して20L/min以下にすればよい。
【0023】
本発明の酸化鉄粒子は、マグネタイトであるか、マグヘマイトであるか、又はそれらの混合物であり得る。本発明の酸化鉄粒子がこれらの物質のいずれであっても、上述した粒径と表面FeO存在率を満たしているのであれば、目的とするオリビン型リン酸鉄リチウムを首尾良く得ることができる。また、本発明の酸化鉄粒子は、鉄と酸素を構成元素とするものであり、それら以外の異種元素を実質的に含んでいないことが好ましい。実質的に含んでいないとは、当該異種元素を意図的に含有させることを排除する趣旨であり、したがって当該異種元素が意図せずに不可避的に微量混入することや、完全に除去しきれず不可避的に微量残留することは許容される。
【0024】
次に、本発明の酸化鉄粒子の好適な製造方法について説明する。本製造方法においては、(i)微粒の酸化鉄粒子を生成させることと、(ii)酸化鉄粒子の表面の酸化を抑制すること、の2点が重要である。(i)の点に関しては、反応に用いる鉄を含む水溶液として、二価の鉄と三価の鉄の双方を含むものを用い、かつそれらの比率を特定の範囲に設定している。(ii)の点に関しては、湿式酸化による酸化鉄の生成過程において、生成の終期において酸化性ガスの吹き込みを停止し、それに代えて窒素ガスの吹き込みを行うことで、酸化鉄の表面の結晶性を向上させている。以下、これらについて詳細に説明する。
【0025】
まず鉄を含む水溶液を準備する。鉄源としては、水溶性の第一鉄塩や水溶性の第二鉄塩を用いることができる。例えば硫酸第一鉄や硫酸第二鉄を用いることができる。これらを純水に溶解して鉄水溶液を得る。この鉄水溶液においては、二価の鉄と三価の鉄の割合が重要である。具体的には二価の鉄と三価の鉄の全量に対する三価の鉄の割合を好ましくは10〜60モル%、更に好ましくは10〜50モル%に設定する。二価の鉄と三価の鉄との割合がこの範囲内であることによって、微粒の酸化鉄粒子を首尾良く生成させることができる。これに対して例えば二価の鉄のみを含む鉄水溶液を用いた場合には、酸化鉄は生成するが、その粒径を本発明で規定している程度に小さくすることは容易ではない。鉄水溶液における二価の鉄及び三価の鉄の濃度は、これらの鉄の割合が前記の範囲内であることを条件として、いずれも0.1〜0.9mol/L、特に0.2〜0.8mol/Lであることが好ましい。
【0026】
次に、前記の鉄溶液を塩基性物質(アルカリ)と混合する。この混合によって鉄の水酸化物コロイド液が得られる。塩基性物質としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物を用いることができる。またアンモニアを用いることもできる。塩基性物質として例えば水酸化ナトリウムを用いる場合には、混合後の液のpHが約6〜約8となるような量の水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。水酸化ナトリウムは、その水溶液の状態で前記の鉄溶液と混合することが好ましい。
【0027】
鉄溶液と塩基性物質とを混合したら、混合液を好ましくは70〜95℃に加熱し、その状態下に酸化性ガスを吹き込む。酸化性ガスとしては、例えば酸素ガスを用いることができ、簡便には大気を用いることができる。酸化性ガスの吹き込みによって液中に酸化鉄粒子が生成する。これとともに液のpHが変化する。液のpH変動を抑え、pHを好ましくは約6〜約8に維持するために、適宜水酸化ナトリウム等を液に添加することが好ましい。
【0028】
酸化性ガスを吹き込んでいる間、液中に存在するFe(OH)2の濃度を監視しておき、Fe(OH)2の残存率が2モル%以下になった時点で、酸化性ガスの吹き込みを停止する。そして、酸化性ガスの吹き込みに代えて、窒素ガスを液中に吹き込む。窒素ガスの吹き込みは、液中に溶存する酸素をパージして、酸化鉄粒子の表面の酸化が進行することを防止し、かつ酸化鉄の結晶性を高めることを目的としている。
【0029】
前記のFe(OH)2の残存率は、仕込みの鉄のモル数(仕込みの二価の鉄と三価の鉄の合計のモル数)に対する、液中のFe(OH)2のモル数で定義される。
【0030】
窒素ガスの吹き込みの間、液の温度を85〜95℃に維持しておくことが好ましい。また、窒素ガスの吹き込み量は、液100リットル当たり、5〜10L/minとすることが好ましい。この範囲の吹き込み量を条件として、窒素ガスの吹き込み時間は、0.5〜2時間とすることが好ましい。
【0031】
このようにして目的とする酸化鉄粒子が得られる。その後は、通常の方法に従い、濾過及び水洗を行い、次いで乾燥及び解砕を行って、オリビン型リン酸鉄リチウムの製造原料としての酸化鉄粒子とする。
【0032】
このようにして得られた酸化鉄粒子は、これをリチウム源及びリン源と混合し、焼成することで、オリビン型リン酸鉄リチウムが得られる。リチウム源としては、例えば炭酸リチウム、水酸化リチウム及びリン酸鉄リチウム等を用いることができる。リン源としては、例えばオルトリン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等を用いることができる。またリン酸二水素リチウムやリン酸リチウムを用いることで、1種の化合物をリチウム源及びリン源として用いることができる。
【0033】
前記の各原料の混合には、公知の混合装置を用いることができる。そのような装置として、例えばヘンシェルミキサーやハイスピードミキサー等を用いることができる。また、混合は乾式で行ってもよく、あるいは湿式で行ってもよい。各原料は、オリビン型リン酸鉄リチウムの一般式LixFeyPO4において、0.9≦x、y≦1.1、特に0.95≦x、y≦1.05となるような比率で混合するのが好ましい。
【0034】
混合によって得られた混合物を仮焼成工程に付す。仮焼成ではオリビン型リン酸鉄リチウムの前駆体を生成させる。この仮焼成を行うことで、放電容量低下の要因となる不純物が本焼成において生成することを抑制できる。仮焼成は一般に不活性ガス雰囲気又は還元性雰囲気下で行う。不活性ガス雰囲気としては、窒素雰囲気や希ガス雰囲気を用いることができる。還元性雰囲気としては、水素雰囲気、水素含有窒素雰囲気、水素含有希ガス雰囲気、アセチレン雰囲気を用いることができる。仮焼成温度は一般に250〜400℃とすることができる。仮焼成時間は、仮焼成温度が前記の範囲であることを条件として1〜20時間とすることができる。
【0035】
仮焼成によって得られた前駆体は、炭素源となる添加物と混合される。この混合の目的は、焼成工程によって生成するオリビン型リン酸鉄リチウムに含まれる鉄イオンの価数を還元して完全に二価にするためである。また、オリビン型リン酸鉄リチウム粒子の表面に、電気抵抗を低減させるための炭素成分を被覆するためである。炭素源は焼成時に還元性を有し、かつ焼成後にオリビン型リン酸鉄リチウム粒子表面に炭素成分が残存する炭化水素化合物であれば良く、例えば、ショ糖、セルロース、グルコース、デンプン、パラフィンなどが挙げられる。また、炭素源となる添加物の混合比率は、前駆体の重量に対して好ましくは1〜10重量%、更に好ましくは1〜5重量%にすることが良い。
【0036】
得られた前駆体と添加物の混合物を焼成工程に付す。焼成工程は、仮焼成工程の後、前駆体を一旦室温まで冷却してから行うことができる。焼成は一般に、不活性ガス雰囲気又は還元性雰囲気下で行う。不活性ガス雰囲気としては、窒素雰囲気や希ガス雰囲気を用いることができる。還元性雰囲気としては、水素雰囲気、水素含有窒素雰囲気、水素含有希ガス雰囲気、アセチレン雰囲気を用いることができる。焼成温度は、オリビン型リン酸鉄リチウムの単一相を生成させることができれば良く、仮焼成温度よりも高いことを条件として、一般に好ましくは500〜700℃、更に好ましくは550〜650℃にするのが良い。焼成時間は、焼成温度が前記の範囲であることを条件として1〜30時間とすることができる。
【0037】
このようにして得られたオリビン型リン酸鉄リチウムは、他の鉄源を原料として得られたものに比べて粒径が小さいことによって特徴づけられる。また電気抵抗の値が低いものであることによっても特徴づけられる。更に、嵩密度が高いことによっても特徴づけられる。プレス密度が高いことは、単位体積当たりの電池の容量を高くできる点で有利である。したがって、このオリビン型リン酸鉄リチウムを正極活物質とする非水電解液二次電池(リチウムイオン二次電池)は、同体積で比較した場合、他の鉄源を原料として得られたオリビン型リン酸鉄リチウムを正極活物質とする電池よりも、充放電容量が高いものとなる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」及び「部」はそれぞれ「重量%」及び「重量部」を意味する。
【0039】
〔実施例1〕
Fe35モルを含む硫酸第一鉄と、Fe36モル含む硫酸第二鉄とを含む鉄水溶液50リットルを調製した。これとは別に、水酸化ナトリウム7.2kgを含む水溶液50Lを調製した。鉄水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを混合して、全量を100リットルとした。液のpHを7.0、温度を90℃に維持しながら10リットル/分の吹き込み速度で空気を吹き込み、湿式酸化を行った。湿式酸化を行っている間、液中のFe(OH)2の濃度を監視した。湿式酸化の進行によって酸化鉄が生成し、液中のFe(OH)2の濃度が1.0g/L(仕込みの鉄に対して2モル%)以下になった時点で、空気の吹き込みを止め、それに代えて窒素ガスを5L/minで60分間液中に吹き込んだ。このときの液の温度は90℃に維持しておいた。窒素の吹き込みの停止後、得られたスラリーを濾過及び洗浄し、乾燥及び解砕して酸化鉄粒子を得た。得られた酸化鉄粒子をXRD測定したところ、マグネタイトの回折ピークが確認された。
【0040】
〔実施例2及び3並びに比較例1及び2〕
表1に示す条件を採用する以外は実施例1と同様にして酸化鉄粒子を得た。得られた酸化鉄粒子をXRD測定したところ、いずれもマグネタイトの回折ピークが確認された。
【0041】
【表1】

【0042】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた酸化鉄粒子について、先に述べた方法で、累積体積50容量%における体積累積粒径D50及び累積体積90容量%における体積累積粒径D90を測定した。また、粒子表面におけるFeO存在率を測定した。更に結晶子径、BET比表面積、吸油量を測定した。それらの結果を以下の表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
〔実施例4〜6及び比較例3〜5〕
実施例1〜3で得られた酸化鉄粒子、比較例1及び2で得られた酸化鉄粒子並びにシュウ酸鉄を原料として用い、以下に述べる方法でオリビン型リン酸鉄リチウムを製造した。すなわち、鉄源として酸化鉄粒子を用いる場合には、酸化鉄粒子15.01g、炭酸リチウム31.35g、リン酸二水素アンモニウム53.65gをポリエチレン製の500mlポットに入れ、更にエタノールを100g添加し、ボールミルで20時間湿式混合を行って混合粉末を得た。得られた混合粉末を、Arガス流通下、280℃で12時間仮焼成した。その後、得られた仮焼成粉末をメノウ乳鉢で粉砕した後、ポリエチレン製の500mlポットに入れ、D(+)−グルコースを混合粉末の重量に対して5添加し、ボールミルで20時間乾式混合を行った。得られた仮焼成混合粉末を、Arガス流通下、550〜700℃で24時間本焼成した。生成物をX線回折測定して生成相を同定し、鉄オリビンの単一相が得られる条件にて本焼成を行い、オリビン型リン酸鉄リチウムの単一相粉末を得た。
【0045】
鉄源としてシュウ酸鉄を用いる場合には、シュウ酸鉄二水和物68.5g、炭酸リチウム18.45g、りん酸二水素アンモニウム18.72gをポリエチレン製の500mlポットに入れ、更にエタノールを100g添加し、ボールミルで20時間湿式混合を行って混合粉末を得た。得られた混合粉末を、Arガス流通下、400℃で12時間仮焼成を行った。その後、得られた仮焼成粉末をメノウ乳鉢で粉砕し、ポリエチレン製の500mlポットに入れ、更にD(+)−グルコースを混合粉末の重量に対して1%添加し、ボールミルで20時間乾式混合を行った。得られた仮焼成混合粉末を、Arガス流通下、550〜700℃で24時間本焼成した。生成物をX線回折測定して生成相を同定し、鉄オリビンの単一相が得られる条件にて本焼成を行い、オリビン型リン酸鉄リチウムの単一相粉末を得た。
【0046】
得られたオリビン型リン酸鉄リチウムの単一相粉末について、粒子特性として、累積体積50容量%における体積累積粒径D50及び累積体積90容量%における体積累積粒径D90を測定した。粒径の測定は酸化鉄粒子の粒径の測定と同様に行った。また、以下の方法で粉体の電気抵抗及びプレス密度を測定した。更に電池特性として、以下の方法で初回放電容量、放電のレート特性及び100サイクル後の容量維持率を測定した。それらの結果を以下の表3に示す。
【0047】
〔電気抵抗の測定〕
粉体抵抗測定装置(三菱化学アナリテック製、ロレスタ−GP)を用いた。各オリビン型リン酸鉄リチウム粉末約0.5gを、φ20mmの測定用金型に充填し、63.7MPaの圧力下で成形した。得られた成形体に通電することで電気抵抗を測定した。
【0048】
〔プレス密度の測定〕
粉末をφ10mmの金型に充填し、一軸加圧成形により50、100及び200MPaの圧力で成形体を作製し、得られた成形体の寸法と重さを測定して求めた。
【0049】
〔電池特性の評価〕
実施例4〜6及び比較例3〜5で得られたオリビン型リン酸鉄リチウムを正極活物質として用い、コインセル型のリチウム二次電池を以下の方法で製造した。すなわち、オリビン型リン酸鉄リチウム活物質を86%、導電剤としてアセチレンブラックを7%、及び結着剤としてポリフッ化ビニリデンを7%混合して正極合剤を作製した。正極合剤は、集電体となるアルミニウム箔上に塗布した後、これをφ13mmのポンチにて打ち抜いて正極電極板とし、これを用いてコインセル型リチウム二次電池を作製した。
【0050】
作製したコインセル型リチウム二次電池は、正極合剤がコインケースの外側になるように、正極電極板が正極側コインケースにスポット熔接されている。また電解液を含浸した微孔性のポリプロピレン樹脂製のセパレータが、正極合剤の上に配置されている。負極側コインケースの開口部には、下方に金属リチウムからなる負極を接合した封口板が、ポリプロピレン製のガスケットを挟んで配置されており、これにより電池は密封されている。封口板は、負極端子を兼ね、正極コインケースと同様にSUS316製である。電池の直径は20mm、電池総高3.2mmである。電解液には、エチレンカーボネートと1,3−ジメトキシエタンを等体積混合したものを溶媒とし、これに溶質として六フッ化リン酸リチウムを1mol/lリットル溶解させたものを用いた。
【0051】
充放電する環境温度を25℃となるようにセットした環境試験機内にコインセル型リチウム二次電池を入れて充放電できるように準備し、以下に示す条件により、100サイクルまでの充放電試験を行った。表3には、初回放電容量(1サイクル時)、放電のレート特性(0.1Cは5サイクル時、0.5Cは20サイクル時及び1Cは23サイクル時)、及び100サイクル後の放電容量維持率の結果を示す。
【0052】
〔コイン型リチウム二次電池の充放電試験条件〕
(1)カットオフ電圧
充電:4.3V
放電:2.0V
(2)充放電電流密度
1〜5サイクル:0.15mA/cm2(0.1C相当)
6〜20サイクル:0.75mA/cm2(0.5C相当)
21〜23サイクル:1.5mA/cm2(1C相当)
24〜100サイクル:0.75mA/cm2(0.5C相当)
【0053】
【表3】

【0054】
表3に示す結果から明らかなように、各実施例で得られた酸化鉄粒子を原料として製造されたオリビン型リン酸鉄リチウムは、各比較例で得られた酸化鉄粒子を原料として製造されたオリビン型リン酸鉄リチウムに比べて、単一相が得られる生成焼成温度を低くすることができる。また得られた粒子の電気抵抗が低く、かつプレス密度が高いものであることが判る。
また、同表に示す初回放電容量は、実施例4〜6では約140mAh/g程度であり、比較例3及び4の約120mAh/gと比較して大きな容量を得ることができる。この理由は、実施例1〜3で得られた酸化鉄粒子を用いて得られたオリビン型リン酸鉄リチウム活物質粉末は、その体積累積粒径D50及びD90が小さいことに起因して、Liイオンの脱吸蔵能力が大きくなるからである。またレート特性についても、実施例1〜3で得られた鉄源を用いることによって、炭素が均一に被覆されて電気抵抗が低いオリビン型リン酸鉄リチウム活物質粉末が得られるので、レートを大きくしても、オリビン型リン酸鉄リチウム活物質粉末からのLiイオンの脱吸蔵能力が低減するのを抑制することができる。
なお、実施例1〜3の電池特性を比較例5と比較すると、これらの実施例は、比較例5よりもやや劣っている。この理由は、比較例5で得られたオリビン型リン酸鉄リチウム活物質粉末は、その体積累積粒径D50及びD90が実施例1〜3よりも小さいことに起因して、そのLiイオン脱吸蔵能力が大きくなっているからである。しかし、同表で示したように、比較例5のプレス密度は実施例1〜3よりも低いので、比較例5のオリビン型リン酸鉄リチウム活物質粉末は、実施例1〜3のオリビン型リン酸鉄リチウム活物質粉末よりも嵩高さが大きくなる。したがって、実施例1〜3の方がオリビン型リン酸鉄リチウム活物質粉末の嵩高さを抑えることができるので、以下に示す式で表される正極合剤密度では、比較例5よりも実施例1〜3の方が大きくなる。その結果、実電池の放電容量としては実施例1〜3の方が比較例5よりも大きくなる。
正極合剤密度[g/cm3]=(オリビン型リン酸鉄リチウム活物質粉末重量)/(正極合剤体積)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリビン型リン酸鉄リチウムを製造するための原料として用いられる酸化鉄粒子であって、スピネル構造を有し、累積体積50容量%における体積累積粒径D50が5〜100nmであり、以下の式(1)で表される粒子表面のFeO存在率が70%以上である酸化鉄粒子。
【数1】

【請求項2】
結晶子径が7〜50nmである請求項1に記載の酸化鉄粒子。
【請求項3】
BET比表面積が、真球換算した表面積に対して110〜200%である請求項1又は2に記載の酸化鉄粒子。
【請求項4】
累積体積90容量%における体積累積粒径D90と、累積体積50容量%における体積累積粒径D50との比D90/D50が1.30以下である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の酸化鉄粒子。
【請求項5】
JIS K5010−13−1に準じて測定された吸油量が10〜30である請求項1ないし4のいずれか一項に記載の酸化鉄粒子。
【請求項6】
請求項1に記載の酸化鉄粒子の製造方法であって、
二価の鉄及び三価の鉄を含み、かつ鉄の全量に対する三価の鉄の割合が10〜60モル%である水溶液と塩基性物質とを混合し、次いで酸化性ガスを吹き込む湿式酸化によって酸化鉄粒子を生成させる工程を含み、
前記湿式酸化において、液中のFe(OH)2の残存率が仕込みの鉄に対して2モル%以下に低下した時点で液中への酸化性ガスの吹き込みを停止するとともに、液中に窒素ガスを吹き込む酸化鉄粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の酸化鉄粒子と、リチウム源と、リン源とを混合し、焼成する工程を有するオリビン型リン酸鉄リチウムの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法によって製造されたオリビン型リン酸鉄リチウムを正極活物質とする非水電解液二次電池。