説明

酸化防止剤分散体およびその製造方法

【課題】
粒子径等の異なる2種類以上の酸化防止剤を含有する酸化防止剤分散体において、貯蔵安定性と安定生産性に優れた製品を提供する。
【解決手段】
2種類以上の酸化防止剤、分散剤および水からなる酸化防止剤分散体において、酸化防止剤の平均粒径が1〜5μmであり、分散剤が不均化ロジン酸アルカリ金属塩を90〜100重量%含有してなる分散剤であることを特徴とする粘度が50〜200cPの酸化防止剤分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化防止剤分散体とその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、好適には粒子径等が異なる2種類以上の酸化防止剤を含有する酸化防止剤分散体において、貯蔵安定性と安定生産性に優れた酸化防止剤分散体とその製造方法を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
一般に、ジエン系ゴムを含有する重合体ラテックスから重合体を固体として回収する際には、酸による凝固(以下、酸析と呼ぶことがある。)、アルカリ中和、脱水および乾燥を行う。これらの各工程や、その後の成形時には熱が与えられるため、熱劣化による重合体の着色が起き易いことが指摘されており、その欠点を克服するため、種々の酸化防止剤が使用されている。また、その酸化防止剤の添加方法は様々であるが、一般的には粉末状の酸化防止剤と分散剤を水中に分散させた酸化防止剤分散体を用いる方法が採られている。
【0003】
具体的には、粉末の酸化防止剤、乳化剤、懸濁剤および水を混合した後、粉砕・分散することによる、酸化防止剤の99重量%以上が粒径50μm以下である保存安定性に優れた酸化防止剤の製造方法(特許文献1参照。)、粉末の酸化防止剤、シリコーン、懸濁剤および水からなり、酸化防止剤の99重量%以上が粒径50μm以下である保存安定性に優れた酸化防止剤分散液(特許文献2参照。)、および酸化防止剤、減粘剤とポリビニルアルコールとが水系媒体中に分散されてなる送液性に優れた酸化防止剤分散体(特許文献3参照。)などが、すでに知られている。
【0004】
また、酸化防止剤を酸析、アルカリ中和、脱水する際に、酸化防止剤の系外排出を防止するため、固体回収性を向上させた発明(特許文献4参照。)が提案されているが、粒子径が異なる数種類の酸化防止剤を安定に分散させる提案はなされておらず、貯蔵時に沈殿や水の分離を起こすという問題があった。
【特許文献1】特開昭60−186547号公報
【特許文献2】特開昭61−159483号公報
【特許文献3】特開平11−349940号公報
【特許文献4】特開2005−248055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0006】
本発明の目的は、粒子径等が異なる2種類以上の酸化防止剤を含有する酸化防止剤分散体において、貯蔵安定性と安定生産性に優れた製品(酸化防止剤分散体)を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、分散機吐出口の詰まりやポンプキャビテーションがなく生産性に優れていると共に、水との分離性に優れ固形分の沈殿が少ない酸化防止剤分散体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、2種類以上の酸化防止剤を含有する酸化防止剤分散体を製造する場合、酸化防止剤の種類、酸化防止剤の前処理、および酸化防止剤の分散時の温度等から安定生産することができる手法を開発するとともに、酸化防止剤分散体の貯蔵安定性を高めることに成功した。
【0009】
本発明の酸化防止剤分散体は、2種類以上の酸化防止剤、分散剤および水からなる酸化防止剤分散体において、前記分散剤が不均化ロジン酸アルカリ金属塩を90〜100重量%含有してなる酸化防止剤分散体である。
【0010】
本発明の酸化防止剤分散体の好ましい態様によれば、その酸化防止剤分散体は、酸化防止剤30〜60重量部、分散剤1〜7重量部および水33〜69重量部(ただし、酸化防止剤+分散剤+水の合計を100重量部とする。)を含有してなるものであり、その粘度が50〜200cPであることである。
【0011】
本発明の酸化防止剤分散体の好ましい態様によれば、前記の酸化防止剤の平均粒径は1〜5μmである。
【0012】
本発明の酸化防止剤分散体の好ましい態様によれば、前記の酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤50〜100重量%と、ホスファイト系酸化防止剤および/または硫黄系酸化防止剤0〜50重量%(ただし、酸化防止剤の合計を100重量%とする。)とからなるものである。
【0013】
本発明の酸化防止剤分散体の好ましい態様によれば、前記のヒンダードフェノール系酸化防止剤は、下記一般式(I)
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、nは整数を表す。)で示される化合物である。
【0016】
また、本発明の酸化防止剤分散体の製造方法は、少なくとも1種類の酸化防止剤と分散剤と水を混合して第1の分散体を製造する第一工程と、第一工程で用いた酸化防止剤とは別種類の酸化防止剤と分散剤と水とを、第一工程で得られた第1の分散体と混合し、酸化防止剤の融点以下で酸化防止剤分散体とする第二工程からなる酸化防止剤分散体の製造方法である。
【0017】
また、本発明の酸化防止剤分散体の製造方法は、少なくとも1種類の酸化防止剤と分散剤と水を混合して第1の分散体を製造する第一工程と、第一工程で用いた酸化防止剤とは別種類の酸化防止剤と分散剤と水を混合して第2の分散体を製造する第二工程と、第一工程と第二工程で得られた第1の分散体と第2の分散体を、酸化防止剤の融点以下で混合し酸化防止剤分散体とする第三工程からなる酸化防止剤分散体の製造方法である。
【0018】
上記の酸化防止剤分散体の製造方法においては、分散剤として不均化ロジン酸アルカリ金属塩が用いられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、2種類以上の酸化防止剤を含有する酸化防止剤分散体において、生産と貯蔵の安定性が高い酸化防止剤分散体が得られる。
【0020】
本発明の酸化防止剤分散体は、貯蔵安定性に優れると共に、酸析、アルカリ中和後の脱水時に系外に排出される酸化防止剤量を抑制することができ、コスト低減が可能であるため、ジエン系ゴムを含有する重合体ラテックス、例えば、ABS樹脂ラテックスから重合体を固体として回収する際の添加剤として適用することにより、顕著な効果を発揮する。
【0021】
また、本発明の酸化防止剤分散体の製造方法は、分散機吐出口の詰まりやポンプキャビテーションがなく生産性に優れていると共に、水との分離性に優れ固形分の沈殿が少ない酸化防止剤分散体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の酸化防止剤分散体とその製造方法について詳細に説明する。
【0023】
本発明の酸化防止剤分散体は、2種類以上の酸化防止剤、分散剤および水を基本成分として含有してなるものである。ここでいう2種類以上の酸化防止剤とは異なる種類の酸化防止剤を複数使用することを意味し、異なる種類の酸化防止剤とは、化学的な違いを意味する構造式は勿論のこと、同じ構造式の酸化防止剤であっても、形状や粒子径などの物理的に異なる場合も異なる種類の酸化防止剤とする。
【0024】
本発明で用いられる酸化防止剤は、酸化防止能を有するもので、酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、および硫黄系酸化防止剤などが挙げられるが、好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤の混合物、およびヒンダードフェノール系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤の混合物が用いられる。特に好ましくは、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、およびヒンダードフェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤の混合物が用いられる。
【0025】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、下記一般式(I)
【0026】
【化2】

【0027】
(式中、nは整数を表す。)で示されるp−クレゾールとジシクロペンタジエンとの縮合物をブチル化した化合物、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4‘−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジーt−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ハイドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、およびトリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。
【0028】
これらの中でも、酸化防止能が優れている点でp−クレゾールとジシクロペンタジエンとの縮合物をブチル化した化合物、および4,4‘−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)が好ましく、また、低コストで製造できるという点でp−クレゾールとジシクロペンタジエンとの縮合物をブチル化した化合物が好ましく用いられる。
【0029】
ホスファイト系酸化防止剤の具体例としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(n−オクタデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、およびテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]―4,4’−ジイルビスホスフォナイトなどが挙げられる。これらの中でも、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトが、耐加水分解性に優れており好ましく用いられる。
【0030】
硫黄系酸化防止剤の具体例としては、ジラウリル・チオジプロピオネート、ジステアリル・チオジプロピオネート、および2−メルカプトベンズイミダゾールなどが挙げられる。
【0031】
これら酸化防止剤の好ましい使用割合は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤50〜100重量%、ホスファイト系酸化防止剤および/または硫黄系酸化防止剤0〜50重量%(ただし、酸化防止剤の合計を100重量%とする)である。酸化防止効率を向上させるために、さらに好ましい酸化防止剤の使用割合は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤60〜90重量%、ホスファイト系および/または硫黄系酸化防止剤10〜40重量%である。
【0032】
本発明の酸化防止剤分散体に使用される成分の総量を100重量部としたときに占める酸化防止剤の割合は、保存安定性および送液性が優れる点で、30〜60重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは40〜50重量部の範囲である。
【0033】
本発明で用いられる分散剤は、酸析時に凝固する乳化剤であり、不均化ロジン酸アルカリ金属塩を90〜100重量%含有ものである。不均化ロジン酸アルカリ金属塩の含有量は、多いほど好ましく、不均化ロジン酸アルカリ金属塩の含有量を上記の範囲とすることにより、取り扱い時に泡立ちにくく、送液ポンプのキャビテーションを軽減することができ、また、分散体が安定コロイドとなりやすく、貯蔵安定性が向上するとともに、酸析、アルカリ中和後に得られる粒子が大きくなる。不均化ロジン酸アルカリ金属塩は、1種またはアルカリ金属塩が異なる複数の不均化ロジン酸を併用することができる。
【0034】
また、分散剤には、10重量%未満の範囲で不均化ロジン酸アルカリ金属塩以外のその他の分散剤を配合することができる。その他の分散剤としては、脂肪酸などのアルカリ金属塩を使用することができる。脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、ラウリル酸、パルミチン酸およびステアリン酸などが挙げられる。
【0035】
本発明において、酸化防止剤分散体に使用される成分の総量を100重量部としたときに占める分散剤の割合は、保存安定性および酸析後の排水汚濁が少ない点で、1〜7重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは2〜5重量部の範囲である。
【0036】
本発明で用いられる水としては、脱イオン水や蒸留水が好ましく用いられる。
【0037】
本発明において、酸化防止剤分散体に使用される成分の総量を100重量部としたときに占める水の割合は、33〜69重量部の範囲が好ましく、より好ましくは45〜58重量部の範囲である。
【0038】
本発明の酸化防止剤分散体には、本発明の効果を妨げない範囲でその他の成分を配合させることができる。
【0039】
次に、本発明の酸化防止剤分散体の製造方法について説明する。
【0040】
本発明の酸化防止剤分散体は、少なくとも1種類の酸化防止剤と分散剤と水を混合して第1の分散体を製造する第一工程と、第一工程で用いた酸化防止剤とは別種類の酸化防止剤と分散剤と水とを、第一工程で得られた第1の分散体と混合し、好適には混合液を分散機の中を通過させる際に、酸化防止剤の融点以下となるようにする第二工程からなる製造方法により得ることができる。
【0041】
本発明のように2種類以上の酸化防止剤を含有する分散体を製造する場合の好適な態様としては、第一工程として、1種類の酸化防止剤全量と分散剤と水を混合して第1の分散体を製造する工程と、第二工程として、第一工程で得られた第1の分散体と、別種類の酸化防止剤と分散剤と水とを混合し、混合液を分散機の中を通過させる際に、酸化防止剤の融点以下となるようにし分散、微細化する第二工程からなる。
【0042】
第一工程では、1種類の酸化防止剤全量と分散剤と水を混合し、第1の分散体を製造することが望ましい。第一工程では、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、および硫黄系酸化防止剤などの酸化防止剤を使用することができるが、好ましくは2種類以上の酸化防止剤のうち、第一工程で使用する酸化防止剤は、生産性の観点から、大粒径側の酸化防止剤分散体を製造することが好ましい。第一工程で大粒径の酸化防止剤を事前に微分化し、分散体を製造することにより、第二工程で分散体を製造する際に、大粒子が分散機の噴射口や吐出口の詰まりを解消し、目的とする分散体粒径を容易に得ることができるからである。
【0043】
第一工程の微分化処理は、第二工程後に本発明の酸化防止剤分散体の機能を発現するため、大粒子径の酸化防止剤を第一工程と称して、事前に微細化することであり、次工程の分散機の噴射口や吐出口の詰まりなどの問題点を解消するために実施することが好ましい。微分化処理は、数種類の酸化防止剤の内、大粒子の酸化防止剤を小粒径の酸化防止剤の大きさまで、微細化するときに好適に用いられる。
【0044】
第一工程における酸化防止剤の微分化処理の方法として、湿式と乾式どちらの方法を用いても良く、ボールミル、チューブミル、コニカルミル、振動ボールミル、ハイスイングボールミル、ジェットミル、ホモジナイザー、コロイドミル、ラインミキサー、および砥石方式の粉砕機などにより、微分化する方法が挙げられる。湿式の場合、上記の分散剤を事前に投入することも可能である。
【0045】
第一工程で第1の分散体を製造するに際し、1回から数回の循環式の分散処理を実施することができ、目的とする酸化防止剤の粒子径が得られるまで微分化を実施することが望ましい。第二工程で粒子径が異なる数種類の酸化防止剤を含有する分散体を製造する場合、大粒子が存在すると、大粒子が分散機の噴射口や吐出口の詰まりを発生させる可能性があるとともに、目的とする分散体粒径を得られないことがあり、また、分散剤中に取り込まれる酸化防止剤の量が変化するため、酸化防止剤としての機能が不十分となることがある。
【0046】
第一工程で添加使用される分散剤の量は、目的とする分散体に使用される分散剤のうち、10〜100重量部が好ましく、より好ましくは20〜60重量部である。
【0047】
第一工程で添加使用される水の量は、目的とする酸化防止剤分散体に使用される分散剤のうち、10〜90重量部が好ましく、より好ましくは、20〜80重量部である。
【0048】
第二工程では、第一工程で得られた第1の分散体と、別種類の酸化防止剤と分散剤と水とを混合し、混合液を分散機内を通過させて、酸化防止剤の融点以下となるようにして、分散体を製造する。具体的には、混合液の温度を予め調整したり、分散機の設定圧力を低く抑えるなどして、分散機内の温度が、酸化防止剤の融点以下となるようにする。分散機の条件を第二工程で新しく添加される酸化防止剤は、酸化防止能を有するもので、好適な酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、および硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。好ましくは2種類以上の酸化防止剤のうち、第一工程で大粒径の酸化防止剤を事前に微分化し、分散体を製造しているため、第二工程では小粒径側の酸化防止剤を用いることが好ましい。
【0049】
本発明の酸化防止剤分散体中の酸化防止剤の平均粒子径は、保存安定性の点で1〜5μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは1.5〜3μmの範囲である。
【0050】
第二工程の微分化処理は、本発明の酸化防止剤分散体の機能を発現するため、第一工程である程度微細化され、粒子径が均一化された酸化防止剤と別の酸化防止剤を混合し、分散機に通すことにより、本発明の特徴である平均粒径が1〜5μmとなる酸化防止剤分散体を製造するための好ましい処理である。
【0051】
第二工程における微分化処理の方法として、本発明の酸化防止剤分散体中の酸化防止剤について好ましい平均粒子径を得るために、通常は湿式での微分散処理が行われる。具体的な微分散処理方法としては、ボールミル、ホモジナイザー、コロイドミル、ラインミキサーおよび砥石方式の粉砕機などにより、微分散化する方法が挙げられる。通常、微分散化は高周波や高圧を用いるため、分散体の温度が上昇しやすい。第二工程における分散体の製造条件として、分散体の温度を使用する酸化防止剤の融点以下にすることが重要である。酸化防止剤の融点以上の条件で分散処理すると、酸化防止剤が融着し、分散機の噴射口や吐出口の詰まりを発生させる可能性がある。
【0052】
第二工程で添加される分散剤の量は、目的とする酸化防止剤分散体に使用される分散剤のうち、0〜90重量部が好ましく、より好ましくは40〜80重量部である。第一工程と第二工程で添加される分散剤の総量の割合は、酸化防止剤分散体に使用される成分の総量を100重量部としたときに、好ましくは1〜7重量部であり、より好ましくは2〜5重量部である。
【0053】
第二工程で添加使用される分散剤の量は、使用される分散体のうち、10〜90重量部が好ましく、より好ましくは20〜60重量部である。
【0054】
第二工程で添加される水の量は、目的とする酸化防止剤分散体に使用される水の割合のうち、10〜90重量部が好ましく、より好ましくは、20〜80重量部である。第一工程と第二工程で添加する水の総量の割合は、酸化防止剤分散体に使用される成分の総量を100重量部としたときに、好ましくは33〜69であり、より好ましくは45〜58重量部である。
【0055】
本発明の酸化防止剤分散体はまた、少なくとも1種類の酸化防止剤と分散剤と水を混合して第1の分散体を製造する第一工程と、第一工程で用いた酸化防止剤とは別種類の酸化防止剤と分散剤と水を混合して第2の分散体を製造する第二工程と、第一工程と第二工程で得られた第1の分散体と第2の分散体を、酸化防止剤の融点以下で混合し酸化防止剤分散体とする第三工程からなる製造方法によっても得ることができるが、工程が増えるという課題がある。
【0056】
上記の酸化防止剤分散体の製造方法の第一工程と第二工程においても、分散剤として不均化ロジン酸アルカリ金属塩を用いることができる。
【0057】
本発明の酸化防止剤分散体の粘度は、保存時の水の分離や沈殿しない点および流動性が優れる点で、50〜200cPの範囲であることが好ましく、より好ましくは60〜150cPの範囲である。また、本発明の酸化防止剤分散体には粘度調節のため、ポリビニルアルコールなどの増粘剤を加えることができる。
【0058】
本発明の酸化防止剤分散体は、酸析後、アルカリ中和した際に得られる粒子の平均粒径が250μm以上で、かつ150μm以上の粒子が80重量%以上含まれていることが好ましく、平均粒径が300μmで、かつ150μm以上の粒子が90重量%以上含まれていることがより好ましく、脱水時に水と共に酸化防止剤を系外に排出させない粒子径となっている。
【0059】
本発明の酸化防止剤分散体は、ジエン系ゴムを含有する重合体ラテックス、例えば、ABS樹脂ラテックスから重合体を固体として回収する際に好適に適用することができる。
【0060】
本発明は2種類以上の酸化防止剤分散体を製造する場合、酸化防止剤分散体の安定生産と酸化防止剤分散体の貯蔵安定性を高める点に顕著な効果がある。また、分散機吐出口の詰まりやポンプキャビテーションがなく生産性に優れており、水との分離性に優れ固形分の沈殿が少ない酸化防止剤分散体を製造することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明の構成と効果をさらに具体的に説明する。下記の実施例および比較例中、特にことわりのない限り「部」および「%」で表示したものは、すべて「重量部」および「重量%」を表わしたものである。
【0062】
下記の実施例および比較例においては、各特性を下記の測定方法で評価した。
【0063】
(1)酸化防止剤の平均粒子径
酸化防止剤分散体中における酸化防止剤の平均粒子径を、ベックマンコールター社製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置“LS230”で測定し、3回の測定回数の平均をとった。
【0064】
(2)酸化防止剤分散体の粘度
(株)東京計器製作所製のB型動的粘度計で測定し、3回の測定回数の平均をとった。
【0065】
(3)酸析後、アルカリ中和した際に得られる酸化防止剤分散体の平均粒子径
酸化防止剤分散体100重量部に対して、硫酸2重量部を加えて凝固し、水酸化ナトリウム2重量部を添加して中和した。中和液について、その平均粒子径をベックマンコールター社製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置“LS230”で測定し、3回の測定回数の平均をとった。
【0066】
(4)生産性
酸化防止剤分散体の製造において、24時間1週間の連続運転に問題がない場合を○とし、生産時に問題が発生した場合はその原因を記載した。問題とは、分散機吐出口の詰まりやポンプキャビテーションなどの連続生産性に欠けるトラブルの発生を意味する。
【0067】
(5)保存安定性
酸化防止剤分散体を容器に取り、静置状態で7日間保存した。このとき、液面上部が透明になっている部分を水の分離部分として観察した。また、固形分の沈殿についても目視観察した。観察結果を以下のとおり判断した。
・水の分離:分離した水の液面/全体の液面≦5% …○
:分離した水の液面/全体の液面≦10% …△
:分離した水の液面/全体の液面>10% …×
・固形分の沈殿:沈殿なし…○
:沈殿あり…×。
【0068】
[参考例1]ヒンダードフェノール系酸化防止剤
p−クレゾールとジシクロペンタジエンとの縮合物をブチル化した化合物(ELI
OKEM社製、商品名:Wingstay−L、粒子径20μm、融点115℃)を使用した。
【0069】
[参考例2]ホスファイト系酸化防止剤
トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(チバ・スペシャリティ
・ケミカルズ社製、商品名:IR−168、粒子径500μm、融点185℃)を使用した。
【0070】
[参考例3]脂肪酸アルカリ金属塩
牛脂脂肪酸のカリウム塩を使用した。
【0071】
[参考例4]不均化ロジン酸アルカリ金属塩
不均化ロジン酸のカリウム塩(東邦化学社製、商品名EFDKL)を使用した。
【0072】
[実施例1]
第一工程で、IR−168 15部と不均化ロジン酸のカリウム塩1.5部と脱イオン水26部を混合し、ホモジナイザーにより第1の分散体を製造した。その後、第二工程として、第一工程で得られた第1の分散体42.5部と、Wingstay−L 30部と不均化ロジン酸のカリウム塩1.5部と脱イオン水26部を混合し、混合液をホモジナイザー分散機によりWingstay−Lの融点以下である80℃の温度、50MPaの高圧条件化で分散、微細化することにより、本発明の酸化防止剤分散体を得た。
【0073】
[実施例2]
第二工程で、不均化ロジン酸のカリウム塩1.5部に代えて、不均化ロジン酸のカリウム塩1.2部と脂肪酸アルカリ金属塩0.3部を添加したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸化防止剤分散体を得た。
【0074】
[比較例1]
第一工程で不均化ロジン酸のカリウム塩1部、第二工程で不均化ロジン酸のカリウム塩1.5部に代えて、脂肪酸アルカリ金属塩2部を添加したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸化防止剤分散体を得た。
【0075】
[比較例2]
第一工程で不均化ロジン酸のカリウム塩2部、第二工程で不均化ロジン酸のカリウム塩1.5部に代えて、脂肪酸アルカリ金属塩1部と添加した以外は、実施例1と同様の方法で酸化防止剤分散体を得た。
【0076】
[比較例3]
第一工程を省略し、第二工程でIR−168 15部とWingstay−L 30部と不均化ロジン酸のカリウム塩1部と脂肪酸アルカリ金属塩2部と脱イオン水52部を混合し、混合液をホモジナイザー分散機によりWingstay−Lの融点以下である80℃の温度、50MPaの高圧条件化で分散、微細化することにより、酸化防止剤分散体を得た。
【0077】
[比較例4]
第二工程の分散温度をWingstay−Lの融点以上である120℃の温度で実施したこと以外は、比較例1と同様の方法で酸化防止剤分散体を得た。
【0078】
[比較例5]
第一工程を省略し、第二工程でIR−168 15部、とWingstay−L 30部、不均化ロジン酸のカリウム塩3部と脱イオン水52部を混合し、混合液をホモジナイザー分散機によりWingstay−Lの融点以下である80℃の温度、50MPaの高圧条件化で分散、微細化することにより、酸化防止剤分散体を得た。
【0079】
[比較例6]
第一工程で、IR−168 15部と、不均化ロジン酸のカリウム塩1.5部と脱イオン水26部を混合し、ホモジナイザーにより第1の分散体を製造した。その後、第二工程として、第一工程で得られた第1の分散体42.5部とWingstay−L 30部と不均化ロジン酸のカリウム塩1.5部と脱イオン水26部を混合し、ホモジナイザーによりWingstay−Lの融点以上である120℃の温度で分散、微細化することにより、酸化防止剤分散体を得た。比較例6は、製造方法の発明についての比較例である。
【0080】
上記の実施例1〜2と比較例1〜6の第一工程と第二工程の内容を表1に、また、得られた酸化防止剤分散体の各種物性と生産性と貯蔵安定性結果を表2に示した。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
表2の実施例1、2および比較例1〜6から、下記のことが明らかである。
【0084】
実施例1、2と比較例1、2との比較から、生産時の不具合が発生し、酸化防止剤を酸析後、アルカリ中和して得られた粒子の粒径が小さいことが分かる。実施例1、2と比較例3、5との比較から、第一工程を省略することで、生産不良や貯蔵安定性が劣ることが分かる。さらに、実施例1、2と比較例4、6との比較から、酸化防止剤の融点以上で微分散化することで生産不良と水の分離が発生していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の酸化防止剤分散体は、貯蔵安定性に優れると共に、酸析、アルカリ中和後の脱水時に系外に排出される酸化防止剤量を抑制することができ、コスト低減が可能であるため、ジエン系ゴムを含有する重合体ラテックス、例えば、ABS樹脂ラテックスから重合体を固体として回収する際の添加剤として適用することにより、顕著な効果を発揮する。
【0086】
また、分散機吐出口の詰まりやポンプキャビテーションがなく生産性に優れており、水との分離性に優れ固形分の沈殿が少ない酸化防止剤分散体を製造することができ、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の酸化防止剤、分散剤および水からなる酸化防止剤分散体において、前記分散剤が不均化ロジン酸アルカリ金属塩を90〜100重量%含有してなる分散剤であることを特徴とする酸化防止剤分散体。
【請求項2】
酸化防止剤の平均粒径が1〜5μmであり、酸化防止剤分散体の粘度が50〜200cPであることを特徴とする請求項1記載の酸化防止剤分散体。
【請求項3】
酸化防止剤が、ヒンダードフェノール系酸化防止剤50〜100重量%と、ホスファイト系酸化防止剤および/または硫黄系酸化防止剤0〜50重量%(ただし、酸化防止剤の合計を100重量%とする。)とからなることを特徴とする請求項1または2記載の酸化防止剤分散体。
【請求項4】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤が、下記一般式(I)で示される化合物であることを特徴とする請求項3記載の酸化防止剤分散体。
【化1】

(式中、nは整数を表す。)
【請求項5】
酸化防止剤30〜60重量部、分散剤1〜7重量部および水33〜69重量部(ただし、酸化防止剤+分散剤+水の合計を100重量部とする。)を含有してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酸化防止剤分散体。
【請求項6】
少なくとも1種類の酸化防止剤と分散剤と水を混合して第1の分散体を製造する第一工程と、第一工程で用いた酸化防止剤とは別種類の酸化防止剤と分散剤と水とを、第一工程で得られた第1の分散体と混合し、酸化防止剤の融点以下で酸化防止剤分散体とする第二工程からなることを特徴とする酸化防止剤分散体の製造方法。
【請求項7】
少なくとも1種類の酸化防止剤と分散剤と水を混合して第1の分散体を製造する第一工程と、第一工程で用いた酸化防止剤とは別種類の酸化防止剤と分散剤と水を混合して第2の分散体を製造する第二工程と、第一工程と第二工程で得られた第1の分散体と第2の分散体を、酸化防止剤の融点以下で混合し酸化防止剤分散体とする第三工程からなることを特徴とする酸化防止剤分散体の製造方法。
【請求項8】
分散剤が不均化ロジン酸アルカリ金属塩であることを特徴とする請求項6または7記載の酸化防止剤分散体の製造方法。

【公開番号】特開2008−174685(P2008−174685A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11540(P2007−11540)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】