説明

酸味抑制剤、調理加工品又は調理加工用調味料の酸味抑制方法

【課題】様々な飲食品に汎用性高く使用できる酸味抑制剤、及び調理加工品又は調理加工用調味料の酸味抑制方法を提供すること。
【解決手段】鰹節から抽出して得られる鰹節抽出物を有効成分として含有する酸味抑制剤を、原料に鰹節抽出物を含まない、酸味を呈する調理加工品又は調理加工用調味料の原料配合時又は調理工程中に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鰹節抽出物を用いた酸味抑制剤、及び調理加工品又は調理加工用調味料の酸味抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸、乳酸、クエン酸等の有機酸は、制菌効果があるため、各種調味料や飲食品の賞味期限を延長させることを目的として、広く使用されている。しかしながら、有機酸を添加することで同時に強い酸味が付与されることから、これらの飲食時に不快感が生じる場合があり、酸味の苦手な消費者からは敬遠される傾向にあった。
【0003】
飲食品の酸味を低減するにあたり、蔗糖、果糖、オリゴ糖等の糖類や、アラニン、グリシン等のアミノ酸、モネリン、ソーマチン等の天然由来甘味料や、アスパルテーム等の合成ペプチド等を酸味抑制剤として添加することが従来より行われている。
【0004】
また、クルクリン(下記特許文献1参照)、ミラクリン(下記特許文献2参照)、リゾチーム(下記特許文献3参照)にも酸味抑制効果があることが報告されている。
【0005】
また、下記特許文献4には、豚肉の水抽出物を限外濾過分画処理し、分子量500〜1000の画分を採取することにより得られる特定のペプチドを含む酸味抑制剤が開示されている。
【特許文献1】特開平5−292900号公報
【特許文献2】特開平2−227043号公報
【特許文献3】特開平9−224602号公報
【特許文献4】特開2001−89500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
飲食品の酸味を抑制するにあたって従来から使用されている上記物質は、カロリーが高かったり、化学的に合成されたものであるため、安全性の面において心配があるものが多く健康志向の観点から問題があった。更には、酸味抑制効果が十分でないばかりか、飲食品に甘味等の風味も同時に付与してしまうことから、飲食品本来の風味を損なうおそれがあり、使用範囲が限定される傾向にあった。また、これまで鰹節抽出物による酸味抑制効果については知られていない。
【0007】
したがって、本発明の目的は、様々な飲食品に汎用性高く使用できる酸味抑制剤、及び調理加工品又は調理加工用調味料の酸味抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため鋭意研究した結果、鰹節抽出物を、従来これらを調味・呈味付与原料として使用することのなかった飲食品の調理・加工の原料配合時又は調理工程中において添加することにより当該飲食品の酸味を抑制し、それらの風味を良好に保つことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の酸味抑制剤は、鰹節から抽出して得られる鰹節抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0010】
本発明においては、前記鰹節抽出物が、抽出溶媒として水又はアルコール溶液を用いて得られる抽出物であることが好ましい。これによれば抽出が容易である。
【0011】
また、本発明においては、前記鰹節抽出物が、抽出溶媒としてアルコール濃度の異なる3種類以上のアルコール溶液を用いて鰹節からの抽出を行い、各濃度で抽出されたエキスを混合して得られる抽出物であることが好ましい。これによれば、アルコール溶液に対する溶解性の異なる酸味抑制成分を含有するので酸味抑制効果が高く、更には、アルコール溶液に対する溶解性の異なる香気成分及び呈味成分を含有するので呈味性に優れている。
【0012】
また、本発明においては、前記鰹節抽出物が、粉砕した鰹節をカラム又はタンクに充填し、該カラム又はタンクにアルコール濃度を連続的又は3段階以上の段階的に変化するように通液することにより得られた抽出物であることが好ましい。これによれば、アルコール溶液に対する溶解性の異なる酸味抑制成分、香気成分、呈味成分を含有する鰹節抽出物を効率よく得ることができる。
【0013】
また、本発明においては、前記鰹節抽出物が、下部にフィルターを備えた容器に粉砕した鰹節を充填し、該鰹節充填層の表面に抽出溶媒を滴下して、前記表面に前記抽出溶媒が液溜めされない状態で通液することにより得られた抽出物であることが好ましい。これによれば、前記容器に充填された鰹節に抽出溶媒を均一に分散させつつ通液させることができ、その抽出溶媒によって酸味抑制成分、香気成分及び呈味成分が抽出されるので、これらの成分を高濃度に含有する鰹節抽出物を得ることができ、尚且つ、その品質のばらつきを抑えることができる。
【0014】
本発明のもう一つは、原料に鰹節抽出物を含まない、酸味を呈する調理加工品又は調理加工用調味料の酸味抑制方法であって、上記酸味抑制剤を、前記調理加工品又は調理加工用調味料の原料配合時又は調理工程中に添加することを特徴とする調理加工品又は調理加工用調味料の酸味抑制方法を提供する。
【0015】
本発明の酸味抑制方法によれば、従来、鰹節抽出物を調味・呈味付与原料として使用することのなかった酸味を呈する調理加工品又は調理加工用調味料の調理・加工の原料配合時又は調理工程中において、本発明の酸味抑制剤を添加することにより、当該調理加工品又は調理加工用調味料の酸味を抑制し、かつ、それらの風味を良好に保つことができる。
【0016】
本発明においては、前記酸味抑制剤を、前記調理加工品又は調理加工用調味料の酸味成分100質量部に対し、鰹節抽出物を固形分換算で0.001〜40質量部添加することが好ましい。これによれば、調理加工品又は調理加工用調味料に、酸味抑制剤の風味を付与することなく、これらの酸味を抑制することができる。
【0017】
また、本発明においては、前記調理加工品又は調理加工用調味料が、乳酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、酢酸ナトリウム、フマル酸、フィチン酸、ビタミンCから選ばれる1種以上を酸味成分として含有することが好ましい。本発明の酸味抑制剤は、前記酸味成分に対し特に優れた酸味抑制効果を発揮することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の酸味抑制剤によれば、鰹節から抽出して得られる鰹節抽出物を有効成分として含有するので、食品の酸味を抑制して、風味を良好に保つことができる。そして、この酸味抑制剤を、従来、鰹節抽出物を調味・呈味付与原料として使用することのなかった調理加工品又は調理加工用調味料の調理・加工時に添加することにより、当該調理加工品又は調理加工用調味料の風味を損なうことなく酸味を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の酸味抑制剤は、鰹節から抽出して得られる鰹節抽出物を有効成分として含有する。
【0020】
鰹節から抽出物を得るための抽出方法としては、飲食品に使用できる手法、溶媒等を用いるものであれば特に制限されないが、従来知られている鰹だし、鰹エキス等の製造のための抽出方法を用いることができる。抽出溶媒としては、通常の調理・加工において用いられている水及び/又はエタノールを用いることが好ましい。抽出効率を上げるためには、抽出原料となる鰹節の粉砕大を、3メッシュ以上に揃えることが好ましく、8〜32メッシュに揃えることがより好ましい。
【0021】
また、以下に説明する多段抽出法、グラジエント抽出法、もしくはドリップ抽出法を用いることが好ましい。これらの手法により得られた抽出物は従来用いられている手法によって得られた抽出物は、より酸味抑制効果に優れ、風味の面においても優れている。
【0022】
以下には、鰹節抽出物を得るための抽出方法として好ましく用いることができる多段抽出法、グラジエント抽出法、もしくはドリップ抽出法について具体的に説明する。
【0023】
本発明において、多段抽出法又はグラジエント抽出法とは、粉砕した鰹節を原料とし、抽出溶媒としてアルコール濃度の異なるアルコール溶液を用いて抽出を行い、各濃度で抽出されたエキスを混合する抽出方法である。そのアルコール溶液のアルコール濃度は、3種類以上が好ましく、4種類以上がより好ましい。なお、アルコールの種類は、飲食品の製造に使用可能なエタノールが好ましい。
【0024】
上記多段抽出法又はグラジエント抽出法の好ましい態様においては、上記抽出原料をカラム又はタンクに充填し、アルコール溶液のアルコール濃度を変化させながら通液して溶媒抽出してエキスを得る。これによれば、1つのカラム又はタンクから抽出される鰹節抽出物が、異なるアルコール濃度のアルコール溶液で抽出されたものの混合物となるので、カラムやタンクの設置数が少なくてすみ、しかも効率よくエキスを得ることができる。
【0025】
また、上記抽出原料が充填されたカラム又はタンクに、異なるアルコール濃度のアルコール溶液を、アルコール濃度が連続的又は3段階以上の段階的に変化するように通液してエキスを得ることが好ましい。これによれば、アルコール溶液に対する溶解性の異なる成分を含有するエキスを効率よく得ることができる。
【0026】
カラム又はタンクを用いる場合には、高濃度のエキスを得られる点では、カラム式抽出法が好ましく用いられる。また、抽出原料として、カラムに充填した場合の圧力損失が大きなものを用いる場合はバッチ式抽出法が好ましく用いられる。また、抽出装置として抽出タンクを用いる場合は、抽出残渣を再度タンクに戻して異なるアルコール濃度のアルコール溶液で抽出してもよく、タンクの出口にメッシュ等を設置し、擬似カラム様に用いても良い。
【0027】
抽出原料を効率よく、かつ均一にカラム又はタンクに充填するため、適量(好ましくは抽出原料100質量部に対して10〜70質量部、より好ましくは20〜50質量部)の抽出溶媒に抽出原料を混合して充填することが好ましい。この時に用いる抽出溶媒のアルコール濃度は、後の抽出工程で用いる溶媒のアルコール濃度と同じものを用いることが好ましい。
【0028】
また、抽出効率をより向上させるために、抽出原料を充填したカラム又はタンクを後述する抽出温度で0.5〜1時間静置保温してから抽出を開始することが好ましい。抽出操作は、抽出溶媒をカラム又はタンクの上部若しくは下部より通液して行うことができる。
【0029】
抽出溶媒のカラム又はタンクへの通液量は、適宜設定することができるが、抽出原料100質量部に対して、カラム又はタンクからの抽出液量として20〜200質量部となるように設定することが好ましく、40〜150質量部となるように設定することがより好ましい。抽出溶媒の通液量が少な過ぎると充分な抽出効率を得ることができず、通液量が多過ぎると得られる抽出液の固形分濃度が低くなり、濃縮等に手間がかかるため好ましくない。
【0030】
また、抽出溶媒のカラム又はタンクへの通液速度は、SV=0.1〜2.5h−1が好ましく、SV=0.5〜1.5h−1がより好ましい。通液速度が上記範囲未満では抽出に時間がかかり、上記範囲を超えると抽出効率が悪く、抽出液の固形分濃度が低くなり、濃縮等に手間がかかるため好ましくない。
【0031】
また、抽出温度は20〜80℃が好ましく、20〜60℃がより好ましい。抽出温度が上記温度範囲より低い場合は、充分な抽出効率を得ることができず、上記温度範囲より高い場合には、風味の熱による劣化や、エグ味成分や脂肪等の品質の面で好ましくない成分も抽出されるため好ましくない。
【0032】
本発明において、上記に説明した多段抽出法又はグラジエント抽出法のうち、多段抽出法とは、上記アルコール濃度の異なるアルコール溶液を用いた抽出方法において、抽出溶媒のアルコール濃度が段階的に変化するように抽出原料に接触させてエキスを得る方法を意味し、グラジエント抽出とは、抽出溶媒のアルコール濃度が連続的に変化するように抽出原料に接触させてエキスを得る方法を意味する。
【0033】
本発明において、アルコール溶液のアルコール濃度を段階的に変化させて通液する場合には、複数濃度のアルコール溶液を用意しておき、通液するアルコール溶液を経時的に切り替える方法等が採用できる。なお、アルコール濃度を段階的に変化させる場合、3段階以上に変化させて通液することが好ましく、4段階以上に変化させることがより好ましい。
【0034】
以下には、グラジエント抽出法について更に具体的に説明する。グラジエント抽出法によれば、多段抽出法に比べ、水溶性成分及び脂溶性成分をより効率よく抽出でき、かつ、抽出工程がより簡便である。
【0035】
グラジエント抽出法において、抽出溶媒のアルコール濃度を低濃度から高濃度へ連続的に変化させる場合には、上記抽出溶媒のアルコール初濃度は、0(水)〜50%(v/v)が好ましく、0(水)〜20%(v/v)がより好ましい。また、抽出溶媒のアルコール終濃度は、50〜100%(v/v)が好ましく、80〜100%(v/v)がより好ましい。
【0036】
一方、抽出溶媒のアルコール濃度を高濃度から低濃度へ連続的に変化させる場合には、上記抽出溶媒のアルコール初濃度は、50〜100%(v/v)が好ましく、80〜100%(v/v)がより好ましい。また、抽出溶媒のアルコール終濃度は、0(水)〜50%(v/v)が好ましく、0(水)〜20%(v/v)がより好ましい。
【0037】
また、抽出効率をより向上させるために、抽出原料を充填したカラム又はタンクを後述する抽出温度で0.1〜5時間、好ましくは0.5〜1時間静置保温してから抽出を開始することが好ましい。抽出操作は、抽出溶媒をカラム又はタンクの上部若しくは下部より通液して行うことができる。
【0038】
抽出装置としてカラムを用い、アルコール溶液のアルコール濃度に連続的な変化をつけながら通液する場合、抽出溶媒のアルコール濃度に勾配をかける手段としては特に制限されず、公知の手段を採用することができる。例えば、異なるアルコール濃度を有する2種類のアルコール溶液A、B(どちらか一方はアルコール濃度0%(v/v)、すなわち水であってもよい)を用い、それぞれの溶液の流速を調整しながらカラムに通液する方法や、アルコール溶液Aをカラムに通液しながら、アルコール溶液Bをアルコール溶液Aに混合する方法等が挙げら、一定の流速で通液することができる点で後者の方法が好ましい。
【0039】
また、連続的にアルコール濃度を変化させる場合には、例えば、異なるアルコール濃度を有する2種類のアルコール溶液A、B(どちらか一方はアルコール濃度0%(v/v)、すなわち水であってもよい)を用い、一方を抽出タンク内に投入し、抽出原料とブレンドし、更に攪拌しながら、任意の流速で抽出液を排出・回収し、同時に同じもう一方のアルコール溶液を任意の流量で投入することにより可能となる。
【0040】
抽出時におけるアルコール濃度の勾配又はアルコール濃度の変化は、目的とする風味や呈味のバランス等に応じて適宜設定することができ、高濃度から低濃度へ変化させてもよく、低濃度から高濃度へ変化させてもよい。例えば、香気成分に重点を置いた場合、アルコール濃度を高濃度から低濃度へ変化させることにより、香気成分をより効率的に抽出することができる。具体的には、アルコールの初濃度を、好ましくは50〜100%(v/v)、より好ましくは80〜100%(v/v)とし、アルコールの終濃度を、好ましくは0(水)〜50%(v/v)、より好ましくは0(水)〜20%(v/v)とすればよい。
【0041】
なお、得られる抽出液のアルコール濃度が高すぎると、アルコール除去の手間が余計にかかるため、好ましくは抽出液のアルコール濃度が70%(v/v)以下となるように、抽出溶媒のアルコール濃度やカラム又はタンクへの通液量を設定することが好ましい。例えば、抽出溶媒のアルコール初濃度を99%(v/v)、終濃度を0%(v/v)に設定した場合、抽出原料100質量部に対して、50質量部の99%(v/v)アルコールを、該アルコールの通液速度と同じ流速で水を混合しながらカラム又はタンクへ通液して、抽出液100質量部全量を回収することにより、抽出原料100質量部に対してアルコール濃度50%(v/v)の抽出液100質量部を得ることができる。また、抽出原料100質量部に対して、20質量部の99%(v/v)アルコールを、該アルコールの通液速度と同じ流速で水を混合しながらカラム又はタンクへ通液して、抽出液100質量部全量を回収することにより、抽出原料100質量部に対してアルコール濃度20%(v/v)の抽出液100質量部を得ることができる。なお、この時、水の混合流速を任意に設定・変化させることにより、アルコール濃度の濃度変化を任意に設定することができる。
【0042】
以下には、更に、ドリップ抽出法について具体的に説明する。
【0043】
ドリップ抽出法においては、下部にフィルターを備えた容器に粉砕した鰹節を充填し、該鰹節充填層の表面に抽出溶媒を滴下して、前記表面に前記抽出溶媒が液溜めされない状態で通液する。ドリップ抽出法によれば、容器に充填された鰹節に抽出溶媒を均一に分散させつつ通液させることができるので、酸味抑制効果が高く、より品質の安定したエキスを得ることができる。
【0044】
上記ドリップ抽出法において、「抽出溶媒が液溜めされない状態で通液する」とは、滴下した抽出溶媒が粉砕した鰹節に浸透して、鰹節充填層の上部表面において液溜されない状態を保ちながら通液することを意味する。
【0045】
上記ドリップ抽出法においては、粉砕した鰹節が下部にフィルターを備えた容器に充填されて、一定の容積を有する鰹節充填層を形成する。
【0046】
上記鰹節充填層の上部表面において抽出溶媒が液溜されない状態を保つためには、抽出溶媒の滴下速度を鰹節充填層の断面積に対して410リットル/h・m以下で滴下することが好ましく、効率、作業性を考慮すると300〜410リットル/h・mで滴下することがより好ましい。
【0047】
上記抽出溶媒を滴下するにあたり、上記鰹節充填層の上方に備えられた複数のノズルを有するシャワーノズル、又はスプレイノズル等の抽出溶媒滴下口から、シャワー状、噴霧状、液滴状に滴下することが好ましい。また、ノズルを回転させながら滴下することが好ましい。これによれば、抽出溶媒を上記鰹節充填層の上部表面に均一に滴下することができる。
【0048】
上記容器としては、カラム又はタンク等を用いることができる。また、上記フィルターは、容器に充填される鰹節の流出を防ぐことができ、且つ、抽出エキスの通過を許容する特性を有するフィルターであればよい。具体的には、ろ紙、ろ布、セラミック、樹脂、ろ過助剤等が挙げられる。
【0049】
上記フィルターは、上記鰹節充填層の下部表面の全面に接するように容器の下部に配され、エキスの流出を許容する。したがって、鰹節充填層の下部表面においてエキスの流出が阻害されることによる抽出溶媒の移動の乱れを引き起こすことがない。
【0050】
また、充填する鰹節の粉砕大は、40メッシュ以上に粉砕したものが好ましく、3メッシュ〜32メッシュに粉砕したものがより好ましい。40メッシュ以上であると、通液しにくくなり、3メッシュ以下であると、抽出効率が悪くなる傾向にある。
【0051】
上記鰹節充填層の高さは、30cm〜60cmが好ましく、40cm〜60cmがより好ましい。60cm以上であると通液しにくくなる傾向にある。
【0052】
上記ドリップ抽出法においては、抽出溶媒として水又はアルコール溶液を用いることができる。アルコール溶液としては、1〜80質量%のアルコール含水を好ましく使用することができ、単一もしくは異なる濃度のアルコール溶液又は水を複数回に分けて使用してもよい。また、アルコール溶液を滴下後、続けて水を滴下させ所定量までエキスを回収してもよい。
【0053】
エキスは任意の濃度で抽出を終了することができるが、上記鰹節充填層を形成する粉砕した鰹節の質量に対し、50〜250%を回収することが好ましく、100〜200%を回収することがより好ましい。
【0054】
本発明においては、上記の方法等によって得られたエキスを、そのまま、又は、公知の方法により適宜濃縮、乾燥してアルコール除去及び/又は固形分調整し、飲食品の酸味抑制のための有効成分である鰹節抽出物として用いることができる。
【0055】
本発明の酸味抑制方法は、原料として鰹節抽出物を含まず、酸味を呈する調理加工品又は調理加工用調味料(以下、「酸性飲食品」と記す)に、上記酸味抑制剤を添加することを特徴としている。
【0056】
本発明が適用される酸性飲食品は、乳酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、酢酸ナトリウム、フマル酸、フィチン酸、ビタミンCから選ばれる1種以上を酸味成分として含有することが好ましい。
【0057】
このような酸性飲食品としては、例えば、穀物酢、梅酢、麦芽酢、ぶどう酢、よね酢、リンゴ酢等の食酢、かぼす、すだち等の果汁、ビタミンCを含む飲食品等が好ましく挙げられる。具体的には、果汁ジュース、野菜ジュース、フルーツソース、トマトソース、ヨーグルト、チーズ、ワイン、炭酸飲料、清涼飲料、豆腐、キャラメル、冷菓、パン、米飯、麺類などが挙げられる。
【0058】
これら飲食品への酸味抑制剤の添加方法としては、その用いられる食品や、使用方法により異なるので特定されるものではない。食材に直接まぶしたり、調味液に配合したり、加工飲食品の原料混合時に配合する等により行なえばよい。
【0059】
また、酸味抑制剤の添加量は、酸性飲食品の酸味成分100質量部に対し、鰹節抽出物を固形分換算で0.001〜40質量部添加することが好ましく、0.5〜30質量部添加することが好ましい。0.001質量部未満であると、酸味抑制効果が十分得られないことがあり、30質量部を超えると、鰹節抽出物による風味が付与される傾向にある。
【実施例】
【0060】
(調製例1)
鰹節(8mesh pass品)を、水100質量部に対し5質量部添加し、95〜100℃で攪拌抽出を行って、鰹節抽出物(5%鰹だし)を90質量部得た。
【0061】
(調製例2)
鰹節(8mesh pass品)を、水100質量部に対し、10質量部添加し、95〜100℃で攪拌抽出を行って、鰹節抽出物(10%鰹だし)を80質量部得た。
【0062】
(調製例3)
鰹節(8mesh pass品)を、直径4cmのカラムに320g充填した。そして、ジャケットに60℃の温水を流し、上部から流速6ml/minで温水をカラムに通液して、鰹節抽出物(熱水カラム抽出液)を320g得た。
【0063】
(調製例4)
鰹節(8mesh pass品)を、直径4cmのカラムに300g充填した。そしてカラムのジャケットに60℃の温水を流し、上部から流速14ml/minで50%アルコール溶液300mlを滴下し、続けて水を滴下してカラム下部から抽出液を回収し、回収液が600mlに達したところで抽出を終了して、アルコール分18.5%の鰹節抽出物(ドリップ抽出液)を得た。
【0064】
(調製例5)
鰹節(8mesh pass品)360gを、95%(v/v)エタノール90mlと混合して、カラム(容量550ml、Φ4cm×50cm)に充填して、55〜60℃で30分静置保温した。その後、エタノール初濃度95%(v/v)→エタノール終濃度0%(v/v)でグラジエント溶出するために、ビーカーに95%(v/v)エタノール180mlを入れて、該エタノールを攪拌しながら該ビーカーに空間速度がSV=0.8〜1.0h-1となるような流入速度で水を流入させつつ、更に該ビーカーから同じ速度で前記かつお荒節粗砕品を充填したカラムに通液を行なった。抽出液量が360mlになるまで通液を行い、エタノール濃度48.0%(v/v)の鰹節抽出物(グラジエント抽出物)を得た。
【0065】
(調製例6)
鰹節(8mesh pass品)を、水100質量部に対し5質量部添加し、95〜100℃で攪拌抽出を行って、抽出物を90質量部得た。この抽出物を、文献(日本家政学会誌,vol40,No.4,265−270(1989))に記載された方法に基づき、ポーラパックQを用いて脱臭処理を行い、鰹節抽出物(5%鰹だし脱臭品)を得た。
【0066】
(実施例1)
10%穀物酢溶液100質量部に対し、調整例1〜5の鰹節抽出液をそれぞれ5質量部加えて、サンプル1〜5を調製した。また水を5質量部加えたものをコントロール品とした。サンプル1〜5及びコントロール品の酸味の評価を5段階評価(酸味強い=5、弱い=1)で、コントロール品の酸味を3として評価した。結果を表1に記す。
【0067】
【表1】

【0068】
(実施例2)
1%乳酸溶液100質量部に対し、調整例1〜5の鰹節抽出液をそれぞれ3質量部加えて、サンプル6〜10を調製した。また水を3質量部加えたものをコントロール品とした。サンプル6〜10及びコントロール品の酸味の評価を5段階評価(酸味強い=5、弱い=1)で、コントロール品の酸味を3として評価した。結果を表2に記す。
【0069】
【表2】

【0070】
(実施例3)
オレンジジュース100質量部に対し、調整例1〜5の鰹節抽出液をそれぞれ0.1質量部加えて、サンプル11〜15を調製した。また水を0.1質量部加えたものをコントロール品とした。サンプル11〜15及びコントロール品の酸味の評価を5段階評価(酸味強い=5、弱い=1)で、コントロール品の酸味を3として評価した。結果を表3に記す。
【0071】
【表3】

【0072】
(実施例4)
10%穀物酢溶液100質量部に対し、調整例1、6の鰹節抽出液をそれぞれ5質量部加えて、サンプル16、17を調製した。また水を5質量部加えたものをコントロール品とした。サンプル16、17及びコントロール品の酸味の評価を5段階評価(酸味強い=5、弱い=1)で、コントロール品の酸味を3として評価した。結果を表4に記す。
【0073】
【表4】

【0074】
実施例1〜3の結果より、鰹節の抽出濃度が濃くなるにつれ、酸味が抑制された。また、調製例4、5の、ドリップ抽出液、グラジエント抽出液は、アルコール抽出を行い、主に香りを豊富に抽出した鰹節抽出物であるが、調製例1〜3の鰹節抽出物よりもさらに強い酸味の抑制効果が見られた。
【0075】
また、実施例4の結果より、脱臭処理を施していない調製例1の鰹節抽出物は、脱臭処理を施した調製例6の鰹節抽出物よりも酸味抑制効果があることがわかる。このことから、鰹節の呈味成分のみならず香気成分にも酸味抑制作用があることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鰹節から抽出して得られる鰹節抽出物を有効成分として含有することを特徴とする酸味抑制剤。
【請求項2】
前記鰹節抽出物が、抽出溶媒として水又はアルコール溶液を用いて得られる抽出物である請求項1に記載の酸味抑制剤。
【請求項3】
前記鰹節抽出物が、抽出溶媒としてアルコール濃度の異なる3種類以上のアルコール溶液を用いて鰹節からの抽出を行い、各濃度で抽出されたエキスを混合して得られる抽出物である請求項1に記載の酸味抑制剤。
【請求項4】
前記鰹節抽出物が、粉砕した鰹節をカラム又はタンクに充填し、該カラム又はタンクにアルコール濃度を連続的又は3段階以上の段階的に変化するように通液することにより得られた抽出物である請求項1に記載の酸味抑制剤。
【請求項5】
前記鰹節抽出物が、下部にフィルターを備えた容器に粉砕した鰹節を充填し、該鰹節充填層の表面に抽出溶媒を滴下して、前記表面に前記抽出溶媒が液溜めされない状態で通液することにより得られた抽出物である請求項1に記載の酸味抑制剤。
【請求項6】
原料に鰹節抽出物を含まない、酸味を呈する調理加工品又は調理加工用調味料の酸味抑制方法であって、
請求項1〜5のいずれか一つに記載の酸味抑制剤を、前記調理加工品又は調理加工用調味料の原料配合時又は調理工程中に添加することを特徴とする調理加工品又は調理加工用調味料の酸味抑制方法。
【請求項7】
前記酸味抑制剤を、前記調理加工品又は調理加工用調味料の酸味成分100質量部に対し、鰹節抽出物を固形分換算で0.001〜40質量部添加する請求項6に記載の調理加工品又は調理加工用調味料の酸味抑制方法。
【請求項8】
前記調理加工品又は調理加工用調味料が、乳酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、酢酸ナトリウム、フマル酸、フィチン酸、ビタミンCから選ばれる1種以上を酸味成分として含有する請求項6又は7に記載の調理加工品又は調理加工用調味料の酸味抑制方法。