説明

酸性原油による腐食に対する有機ポリスルフィドの使用

ナフテン酸による精製装置金属壁の腐食を抑制する本発明の方法は、2から5個の炭素原子を含むアルキルポリスルフィド基を使用することからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製所における酸性原油の処理の分野に関する。本発明は、特に、特定のポリスルフィド化合物の使用を含む、酸性原油を処理する精製装置における腐食を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製所は、酸性原油として知られるある種の原油を処理する必要があるときに、重大な腐食問題に直面することがある。これらの酸性原油は、この腐食現象の原因であるナフテン酸から本質的になる。この腐食現象は、電流の不導体である液体媒体中で起こるのできわめて特別な現象である。これらのナフテン酸は、1個以上のカルボキシル基を含む飽和環状炭化水素に相当する。原油(petroleum crude)の酸性度は、ASTM規格D 664−01によって規格化された測定値によって記述される。この酸性度は、石油1gを中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表され、TAN(全酸価)と称される。TANが0.2を超える原油は酸性とみなされ、精製所の装置に損傷をもたらし得ることがこの技術分野では知られている。
【0003】
この腐食反応は、例えば、当該装置の壁の温度及び金属的性質、炭化水素の空間速度、気体/液体界面の有無などの局所的条件に大きく左右される。したがって、この問題について主要な研究がなされた後でも、精製業者は、腐食反応の程度及びその場所を予測する際に大きな困難に遭遇する。
【0004】
この腐食問題に対する工業的解決策の1つは、ステンレススチール、すなわち、鉄と特にクロム及びモリブデンとのアロイで製造された装置を使用することである。しかし、この解決策は、巨額の設備投資がかかるためにほとんど使用されていない。さらに、この選択肢は、精製所の設計中に好ましくは考慮する必要がある。というのは、ステンレススチールは、通常使用される炭素鋼よりも機械的性質が劣り、適切な構造基盤を必要とするからである。
【0005】
したがって、酸性原油を処理する際のこれらの技術的難題が存在することは、一般に、これらの原油が標準原油よりも安価に精製業者に販売されることを意味する。
【0006】
精製業者によって実際に使用されている、酸性原油処理問題に対する別の解決策は、平均酸性度が、例えば0.2 TANのしきい値よりも低くなるように別の非酸性原油で酸性原油を希釈することである。この場合、ナフテン酸は、許容される腐食速度にするのに十分な低濃度となる。しかし、この解決策は適用範囲が限られている。その理由は、ある種の酸性原油は2を超えるTANを有し、精製装置に流入する原油の総容積の10%以下にその使用が抑えられるからである。さらに、ある種の原油混合は、希釈後でも、所望の効果が逆転する、すなわち、ナフテン酸による腐食反応が加速されることがある。
【0007】
この腐食問題を解決する別の手法は、当該装置の金属壁の攻撃を抑制又は防止する化学添加剤を、処理すべき酸性原油に導入することである。この方法は、特別なスチール又はアロイを使用する上記方法よりもきわめて経済的であることが多い。
【0008】
Turnbull(corrosion − November 1998 in Corrosion, volume 54, No.11, page 922)の研究などの実験室での研究によれば、ナフテン酸による腐食を抑制するために硫化水素の少量(0−1%)を原油に添加することが想定される。しかし、この解決策を精製所で使用することはできない。というのは、周囲温度でガス状である硫化水素は毒性がきわめて高く、そのためどんな漏洩でもきわめて重大な結果を招き、その使用が制限されているからである。さらに、高温では硫化水素自体がきわめて腐食性になり、製油所の他の箇所でも全般的な腐食(generalized corrosion)が悪化する。
【0009】
米国特許第5182013号は、この腐食問題を解決するために、他の硫黄化合物、すなわち6から30個の炭素原子を含むアルキル基を有するポリスルフィドの使用を記載している。
【0010】
欧州特許第742277号は、リン酸トリアルキルと有機ポリスルフィドの組み合わせの抑制活性を記載している。米国特許第5552085号は、有機チオホスファート、チオホスファイトなどのチオリン(thiophosphorus)化合物の使用を推奨している。豪州特許第693975号は、リン酸トリアルキルと石灰で中和された硫化フェノールのリン酸エステルとの混合物を抑制剤として開示している。
【0011】
しかし、有機リン化合物は、その毒性が高いので取り扱いに注意を要する。また、有機リン化合物は、常圧及び減圧蒸留から得られた炭化水素留分を精製するのに設置された水素処理触媒に有毒である。少なくともこれら2つの理由のために、精製分野で有機リン化合物を使用することは望ましくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
驚くべきことに、有機ポリスルフィドの特定のクラス、すなわち各アルキル基の炭素数が2から5であるポリアルキルスルフィドを使用することによって、ナフテン酸によって生じる腐食が、これまで知られている有機ポリスルフィドを用いるよりも効果的に抑制され、リン抑制剤を導入する必要もないことが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、精製装置によって処理される炭化水素ストリームに1種類以上の次式の炭化水素化合物の有効量を添加することを含むことを特徴とする、該装置の金属壁にナフテン酸によって生じる腐食を抑制する方法を提供する。
【0014】
【化2】

式中、
− nは2から15の整数であり、
− 記号R及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々2から5個の炭素原子を含有する線状若しくは分枝アルキル基であって、酸素、硫黄などの1個以上のヘテロ原子を場合によっては含有していてもよく、又は
− R及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々3から5個の炭素原子を含有するシクロアルキル基であって、酸素、硫黄などの1個以上のヘテロ原子を場合によっては含有していてもよい。
【0015】
式(I)のポリスルフィドは、米国特許第2708199号、同3022351号及び同3038013号に記載の方法などそれ自体公知の方法によって調製される。その一部は市販品である。
【0016】
好ましくは、R及びRは線状又は分枝アルキル基であり、nは2から6である。
【0017】
別の好ましい態様(version)によれば、R基とR基は、対応する式(I)の化合物の安定性を改善するために同一である。
【0018】
さらにより好ましい態様によれば、ポリ(ジ−tert−ブチルスルフィド)は式(I)の化合物の混合物として使用される。工業由来のこれらの製品は、例えば、硫黄とtert−ブチルメルカプタンとの反応によって得られる。反応条件によって、数平均値が2から6個である3から10個の硫黄原子を含むポリスルフィドの混合物で構成された工業製品を調製することができる。
【0019】
精製装置によって処理される炭化水素ストリームに添加する式(I)の化合物の量は、一般に、炭化水素ストリーム重量に対する前記化合物の硫黄当量で表して1から5000ppm、好ましくは5から500ppmの濃度に相当する。この濃度範囲内で、本発明による方法の開始時に高含有量に設定し、次いでこの含有量を削減し、続いて維持レベルにすることができる。
【0020】
本発明による方法によって、炭化水素ストリーム、特に、TANが0.2を超える、好ましくは1を超える原油を有利に処理することができる。
【0021】
本発明による方法を使用する温度は、ナフテン酸による腐食反応が起こる温度に対応し、一般に200から450℃、特に250から350℃である。
【0022】
炭化水素ストリームへの式(I)の化合物の添加は、腐食反応が起こる近傍又は、より低温では、前記装置のプロセス上流で実施することができる。この添加は、炭化水素中への添加剤の注入速度及び有効分散を確実に制御する当業者に公知の任意の手段によって、例えばノズル又は混合機によって実施することができる。
【0023】
本発明による方法によって腐食を防止することができる精製装置の金属壁は、処理される酸性炭化水素の流れに接触しやすい壁である。したがって、関係する壁は、200から450℃の局所温度になる限り、等しく、常圧及び減圧蒸留塔などの装置固有の(proper of)内壁、又は板、パッキンなどのその内部部品の表面、又はその排出路、流入路、ポンプ、予熱炉、熱交換器などのその周辺部品とすることができる。
【0024】
本発明による方法によって処理される炭化水素ストリームの非限定的な例としては、原油、常圧蒸留残渣、常圧及び減圧蒸留から得られた軽油留分並びに減圧蒸留から得られた減圧残渣及び留出物が挙げられる。
【0025】
以下の実施例は、本発明を単に説明するものであって、その範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0026】
これらの実施例においては、以下に諸条件を示す腐食試験を実施する。
【0027】
腐食試験の説明:
この試験は、金属表面をシミュレートする鉄粉と、酸性原油ストリームをシミュレートする、ナフテン酸混合物が溶解した鉱油とを使用する。これらの反応物の諸特性は以下のとおりである。
【0028】
− 密度0.838の白色鉱油
− サイズ−40+70メッシュ(すなわち約212から425μm)の球状鉄粒子粉末
− 10から18個の炭素原子、270から324℃の沸点及び244g/mo1の平均モル質量を有するナフテン酸混合物
【0029】
以下の成分を、滴下漏斗と水凝縮器とを備え、撹拌システムと温度測定システムとが取り付けられた150mlガラス反応器に導入する。
【0030】
− 鉱油70m1(又は58.8g)
− 鉄粉2g
− ナフテン酸混合物2.8g
反応混合物の初期TANは10である。
【0031】
これらの反応物を、酸化反応を回避するために乾燥窒素雰囲気下で温度250℃で2時間接触させる。
【0032】
試験の最後に、媒体に溶解した鉄の濃度を、試料を無機化(mineralization)し、酸性水に残渣を収集(taking−up)し、エレクトロントーチ(electron torch)を用いて分析する従来法によって測定する。
【0033】
この(ppm単位で表される)溶解鉄濃度は、鉱油中のナフテン酸混合物によって生じる、鉄粉の腐食速度に直接比例する。
【実施例1】
【0034】
抑制剤の非存在下における参考試験
上記試験を、式(I)の化合物を添加せずに2回行う。結果を表Iに示す。
【0035】
【表1】

【実施例2】
【0036】
ポリアルキルスルフィドの存在下における試験
鉱油中のさまざまなタイプのポリアルキルスルフィドを反応器の充填中に添加して実施例1を繰り返す。これらの誘導体の添加量は、反応器中の鉱油中の濃度が硫黄当量で表して500ppmになるように計算する。
【0037】
下記表IIに照合した結果が得られる。
【0038】
同様に、ナフテン酸混合物によってもたらされる腐食の抑制度をこの表に示す。この抑制度は%単位で表され、以下の式で定義される。
【0039】
【数1】

式中、[鉄]は、抑制剤の存在下又は非存在下で測定した溶解鉄濃度であり、抑制剤非存在下での鉄濃度は実施例1より203.5ppmである。
【0040】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製装置によって処理される炭化水素ストリームに1種類以上の次式の炭化水素化合物の有効量を添加することを含むことを特徴とする、精製装置の金属壁にナフテン酸によって生じる腐食を抑制する方法。
【化1】

(式中、
− nは2から15の整数であり、
− 記号R及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々2から5個の炭素原子を含有する線状若しくは分枝アルキル基であって、酸素、硫黄などの1個以上のヘテロ原子を場合によっては含有していてもよく、又は
− R及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々3から5個の炭素原子を含有するシクロアルキル基であって、酸素、硫黄などの1個以上のヘテロ原子を場合によっては含有していてもよい。)
【請求項2】
及びRが線状又は分枝アルキル基であり、nが2から6である式(I)の化合物が使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基とR基が同一である式(I)の化合物が使用されることを特徴とする、請求項1及び2のどちらかに記載の方法。
【請求項4】
硫黄原子数の平均値が2から6であるポリ(ジ−tert−ブチルスルフィド)の混合物が使用されることを特徴とする、請求項1から3の一項に記載の方法。
【請求項5】
式(I)の化合物の量が、炭化水素ストリーム重量に対する硫黄の当量で表して1から5000ppm、好ましくは5から500ppmの濃度に相当することを特徴とする、請求項1から4の一項に記載の方法。
【請求項6】
処理すべき炭化水素ストリームが、0.2を超えるTAN、好ましくは1を超えるTANを有することを特徴とする、請求項1から5の一項に記載の方法。
【請求項7】
200から450℃、特に250から350℃の温度で実施されることを特徴とする、請求項1から6の一項に記載の方法。
【請求項8】
処理すべき炭化水素ストリームが、原油、常圧蒸留残渣、常圧及び減圧蒸留から得られた軽油留分並びに減圧蒸留から得られた減圧残渣及び留出物から選択されることを特徴とする、請求項1から7の一項に記載の方法。

【公表番号】特表2007−532745(P2007−532745A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−507813(P2007−507813)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【国際出願番号】PCT/FR2005/000861
【国際公開番号】WO2005/103208
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)