説明

酸性土壌の処理方法

【課題】地下の酸性化した土壌について直上の地表面の使用状況に関わらず原位置にて簡易かつ安価に中和することが可能な酸性土壌の処理方法を提案する。
【解決手段】酸性化した土壌を含む地下の改良対象領域1に到達するように、かつ、先端側5aが後端側5bよりも低くなるように形成されたボーリング孔5に、粒径が180μm以下で、ふるいの通過重量百分率が72%以上の石灰粉末の懸濁液6を流し込むことでこの懸濁液6を改良対象領域1に浸透させて、酸性化した土壌を中和する酸性土壌の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性土壌の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
掘削ずり等が、最終処分場に埋設された後、酸性化する場合がある。このような酸性化した土壌(以下、単に「酸性土壌」という場合がある)は、周辺環境や跡地の有効利用に悪影響を及ぼす場合があるため、中和することで無害化処理する必要がある。
【0003】
従来、酸性土壌の中和改良は、アルカリ資材(例えば、酸化カルシウム、生石灰(酸化カルシウム)、消石灰(水酸化カルシウム)、苦土石灰(炭酸マグネシウム)等)を各種配合し、対象土壌と混合する方法により行うのが一般的である。例えば、特許文献1には、酸性土壌を中和する改良剤として、高炉スラグ、転炉スラグ、石炭灰等の産業廃棄物と、アルカリ資材(消石灰、生石灰、石灰石等)を複数種混合して使用する改良方法が開示されている。
また、酸性土壌の改良や鉱山廃水の中和を目的として、石灰石の砂利を単独で使用する場合もある。
【0004】
また、酸性土壌の改良方法として、粉末状のアルカリ資材を対象土壌と機械的に撹拌混合する方法が一般的に行われている。
さらに、特許文献2には、有害物質汚染土壌の改良方法として、改良剤をスラリー化したものを、地盤内に圧入する方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−282034号公報
【特許文献2】特開2006−272286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に記載された改良方法における各材料の配合の決定は、対象土壌の状態に応じて行う必要があるため、煩雑であった。また、スラグ等の利用は、重金属を含む場合があるため、使用には十分注意する必要があった。
また、アルカリ資材として消石灰を使用する場合は、消石灰が水に溶けやすく中和に必要な水酸イオンを供給しやすいため、即効性が期待できる長所を有しているものの、配合量が多すぎる場合や、撹拌が適切に行われない場合には、局所的なアルカリ汚染の原因となるため、適切な品質管理が要求されていた。
【0007】
また、砂利状の石灰石を使用する改良方法は、石灰石の比表面積が小さいため、中和効果を得るためには大量の石灰石が必要となる。そのため、中和するための設備が大規模となり、用地の確保が困難となる場合があることや、費用が嵩むという問題点を有していた。また、比表面積が小さい砂利状の石灰石単独での使用は、中和効果が発現するまでに時間がかかる。さらに、石灰石は水に対してほとんど溶解しないため、石灰石中を水が通過した場合に作成される飽和石灰水を土壌改良に使用したとしても、中和に必要な炭酸が少なく、対象土壌の酸性土壌の量が多い場合には、その量に応じた多量の飽和石灰水が必要となる。また、改良の対象領域の上部に大量の石灰石を敷設し、雨水に溶かして地盤内に浸透させようとしても、石灰石が水に溶けにくいため、中和に必要な炭酸が行き届かず、深さ1cm程度しか中和効果を得ることができなかった。
【0008】
また、アルカリ資材と対象土壌とを機械的に撹拌混合する方法は、改良対象となる汚染土壌の土量が多量な場合、中和に必要な量の石灰石と汚染土壌とを混合することは困難であった。また、地上に公園が形成されて供用中の地盤について、改良剤を撹拌混合することは実質的に不可能であった。
【0009】
また、特許文献2に記載のスラリー化した改良材を圧入する改良方法は、地盤注入する場合の配合調整や効率的な注入方法が確立されていない。さらに、高圧噴射による注入は、資機材にコストが嵩むという問題点を有していた。
【0010】
本発明は、前記の問題点を解決することを目的とするものであり、地下の酸性化した土壌について直上の地表面の使用状況に関わらず原位置にて簡易かつ安価かつ安全に中和することが可能な酸性土壌の処理方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、本発明の酸性土壌の処理方法は、酸性土壌を含む改良対象領域に形成された流入孔に、石灰粉末の懸濁液を流し込むことで該懸濁液を前記改良対象領域に浸透させることを特徴としている。
【0012】
かかる酸性土壌の処理方法によれば、中和剤としての石灰粉末の懸濁液を酸性土壌に浸透させることで、土粒子の間隙中に石灰粉末が残留し、中和剤と酸性土壌とを撹拌混合しして土壌内に中和剤を均等に分散させた場合と同様の状態となる。そして、この石灰粉末と酸性土壌とが直接接触することで、酸性土壌を中和させることが可能となる。
また、懸濁液の酸性土壌への供給は、流入孔に懸濁液を流し込むだけでよいので、撹拌混合に要する装置や手間を省略することが可能となり、簡易に中和処理を行うことができるとともに、経済的である。
【0013】
また、流入孔を利用して酸性土壌への石灰粉末の懸濁液の供給を行うため、改良対象領域の直上の地上部分が供用中である場合等、作業スペースの確保が困難な場合であっても原位置で中和を行うことが可能である。
また、粉末状の石灰石を使用することで、石灰石の比表面積が大きく、少量の石灰石により優れた改良効果を発揮することができ、経済的である。
【0014】
また、懸濁液を流し込むことにより石灰粉末を土壌内に均等に供給するため、酸性土壌の中和を効果的に行うことが可能となる。つまり、石灰石は、水に難溶解性であるため、石灰粉末を大量に施用した場合、水に溶けない固体としての石灰石が水中に大量に浮遊し,水と共に移動することができる。そのため、適正量の石灰粉末を含有する懸濁水を、土壌内に供給することで、対象領域に石灰石が均等に供給され、経済的かつ効果的に中和を行うことが可能となるため、好適である。
【0015】
また、中和剤として石灰粉末を使用することで、大量供給した場合や不均質な供給により濃集が生じた場合であっても、pHは9台にしか上昇しないため、新たな汚染源が生じることがなく、安全性に優れている。一方、従来から使用されている消石灰等は、pHが13程度なため、大量供給した場合や濃集等が生じた場合には、アルカリ汚染が発生するおそれがあった。
【0016】
さらに、強制的に撹拌混合する従来の処理方法と比較して、撹拌装置等に要する費用等を削減することができるため、安価であるとともに、大掛かりな撹拌装置を操作する必要がないため、作業時の安全性にも優れている。
【0017】
ここで、懸濁液とは、水に溶けない固体の粒子(懸濁物質)が分散した液体をいう。なお、工場排水試験法(JIS K 0102)によれば、ろ紙またはその他のろ過器で水と分離できるものと定義されている(ろ紙の目開きは0.1μm)。また、広義には、分散する粒子が0.1μm以下のコロイド粒子からなる場合も懸濁液に含まれる。(化学大辞典、東京化学同人、1989)。
【0018】
前記酸性土壌の処理方法において、前記流入孔が、孔底が孔口よりも低くなるように形成することで、石灰粉末の懸濁液の地盤内への浸透を、自然流下を利用して行う構成としてもよい。
【0019】
また、前記酸性土壌の処理方法において、前記石灰粉末が180μm以下で、ふるいの通過重量百分率が72%以上であること、好ましくは石灰粉末のサイズはできるだけ小さければ、中和剤(石灰粉末)の比表面積が大きく、少ない量で優れた効果を得ることが可能である。そのため、経済的であるとともに、作業性にも優れている。また、石灰粉末の粒径が小さければ、水中に浮遊している時間が長くなり、懸濁液として水と一緒に移動する時間も長くなる。そのため、土壌内での移動距離が長くなり、浸透距離や改良範囲が広がるため、石灰粉末を均等に分布させることが容易になる。
ここで、重力場における球の沈降は、式1に示すように、理論上、低レイノルズ数(Re数)では終末速度Vが粒子径Dに比例する。したがって、粒子径が小さいほど終末速度は小さく、粒子の浮遊時間が長くなる。なお、式1において、gは重力、Dは粒子径、ρは粒子の密度、ρは流体の密度、μは流体の粘性係数を示している。
=gD(ρ−ρ)/18μ ・・・(式1)
【0020】
さらに、前記酸性土壌の処理方法において、前記懸濁液の流し込みと、地盤内のpH確認とを定期的に行えば、石灰粉末の懸濁液による中和効果を確認しながら懸濁液の流し込みを行うことが可能となり、必要最小限の手間と投入量により中和処理を行うことが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の酸性土壌の処理方法によれば、地下の酸性化した土壌について原位置にて簡便かつ安価に中和を行うことが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
本実施形態では、図1に示すように、最終処分場において埋設処分されて酸性化した残土2について、中和処理を行う場合について説明する。
【0023】
本実施形態にかかる酸性土壌の処理方法は、掘削残土が埋設処分された最終処分場であって、図1に示すように、残土(酸性土壌)2の表面に覆土3を行い、公園等として供用している土地において、酸性化した残土2を含む改良対象領域1に、法面4から横方向にボーリング孔(流入孔)5を形成し、このボーリング孔5に石灰粉末の懸濁液6を流し込むことにより行う。
【0024】
ボーリング孔5は、懸濁液6の流し込みを容易に行えるように、先端側(孔底)5aが後端側(孔口)5bよりも低くなるように斜めに形成されている。また、本実施形態では、各法面4にボーリング孔5を形成する。
なお、ボーリング孔5の先端側5aは、改良対象領域1である残土2内に配置されていてもよいし、ボーリング孔5が改良対象領域1を貫通して、先端側5aが地山Gに到達していてもよい。
【0025】
ボーリング孔5は、ボーリングにより削孔とともに多孔管5cを配置することにより形成されている。なお、ボーリング孔5を形成する多孔管5cの材質や内径や孔の数および孔のピッチ等は限定されるものではなく、改良対象領域1の範囲や残土2の土質等に応じて適宜設定すればよい。
また、ボーリング孔5の配置も限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。
【0026】
ボーリング孔5に流し込む石灰粉末の懸濁液6は、粒径が180μm以下でふるいの通過重量百分率が72%以上の石灰石の微粉末(石灰粉末6a)を水Wと混合することにより生成する。
なお、石灰粉末6aの粒径はこれに限定されるものではなく、水Wと混合撹拌することにより懸濁液6を生成することが可能な粒径からなる微粉末であればよい。また、石灰粉末6aの粒径が180μm以下でふるいの通過重量百分率で72%以上であれば、式2に示すように、石灰粉末6aが残土2内に支配的(50%以上)に浸透し、土粒子2aとの高い付着効果を得ることが可能なため、好適である(図2参照)。
【0027】
70%(残土2が含有する粒径180μm以上のずりの量)
×72%以上(石灰粉末の量)>50%・・・(式2)
【0028】
ここで、掘削ずりの粒径は、掘削機械や掘削方法の種類によってばらつきがある。例えば、掘削ずりが大量に発生する代表的なトンネル掘削工法である発破、TBM(トンネルボーリングマシン)、自由断面掘削機、削岩機等では、掘削ずりの粒径が最大1mから0.1mm程度である(福井勝則,陳文莉,大久保誠介,皿田滋;トンネル掘削におけるずりの粒度分布、資源と素材,Vol.119,NO.10,11,pp.640-646,2003)。一方、回転さく孔、振動さく孔による掘削ずりの発生量は、局所的なボーリング孔などの掘削であるため、前記の代表的な工法に比較して非常に少ない。また、振動さく孔による穿孔では、粒径が0.1mm以下と小さく、掘削ずりのほとんどはフラッシング(ずり排出)用の水とともに流れてしまうので、最終処分場に埋設される量はほとんど無いのが実態である。
なお、大量に発生する掘削ずりの最小粒径は、さく岩機の場合で粒径0.18mm(180μm)以下の掘削ずりが約30%(%はふるいの通過質量百分率)存在することが知見として得られている(福井勝則,陳文莉,大久保誠介,皿田滋;トンネル掘削におけるずりの粒度分布、資源と素材,Vol.119,NO.10,11,p643右段2行目)。つまり、最終処分場に埋設される掘削ずりの最小粒径は0.18mm(180μm)で約30%(%はふるいの通過質量百分率)である。そのため、掘削ずり(酸性土壌)に浸透しやすい石灰粉末の粒径は、掘削ずりの粒径より小さい方が好ましく、支配的な粒径の最大値(180μm)を考慮して、180μm以下でふるいの通過重量百分率が72%以上の石灰石の微粉末(石灰粉末6a)を使用することで酸性土壌を中性化する効率を高めることができる。
【0029】
本実施形態では、懸濁液槽7において石灰粉末6aと水Wとを混合撹拌することにより懸濁液6を生成した後、送水ポンプ8を利用してボーリング孔5の孔口5bに送水する。ボーリング孔5の孔口5bまで送水された懸濁液6は、ボーリング孔5の傾斜によりボーリング孔5の先端側5aに流下するとともに、多孔管5cの孔から残土2内へと浸透する。
なお、本実施形態では、送水ポンプ8を利用して、懸濁液槽7からボーリング孔5までの懸濁液6の送水を行うものとしたが、例えば、懸濁液槽7がボーリング孔5の孔口5aよりも高い位置に配置されているなど、自然流下による懸濁液6の送水が可能な場合は、送水ポンプ8の省略が可能である。
【0030】
懸濁液6が、残土2内に浸透すると、図2に示すように、懸濁液6(石灰粉末6a)が土粒子2aの間隙を通過する。このとき、石灰粉末6aが土粒子2aに付着することで土粒子2aの間隙に残留し、酸性化した残土2(土粒子2a)を中和する。
【0031】
本実施形態ではボーリング孔5への懸濁液6の流し込みと、改良対象領域1内のpH確認と、を定期的に行うものとする。石灰粉末6aによる酸性土壌の中和は、その効果を得るために一定の時間がかかるため、改良対象範囲1に全体的に懸濁液6が行き渡った状態で、懸濁液6の流し込みを中止し、中和を進行させる。そして、所定時間が経過した後、改良対象領域のpH確認することにより、懸濁液6の中和効果を確認する。これにより、必要以上に懸濁液6を改良対象領域1に流し込むことを防止することが可能となる。
【0032】
以上、本実施形態の酸性土壌の処理方法によれば、自然流下により、石灰粉末の懸濁液6を残土2内に浸透させるのみで、改良対象領域1内に石灰粉末6aを均等に分散させ、中和処理を行うため、pH調整剤(石灰石等)を残土2と機械的に撹拌する従来の処理方法と比較して、手間を大幅に削減することができる。つまり、石灰粉末6aが水に浮かんだ状態で浸透するため、水が流れるところには石灰粉末6aが水と一緒に移動するため、中和に必要な量の石灰粉末6aが自動的に残土2と混合された状態となる。また、pH調整剤の撹拌に必要は機械や作業スペース等を省略することが可能なため、経済的にも優れている。
【0033】
また、石灰粉末6aとして、粒径が180μm以下で比表面積が大きい微粉末を使用するため、比表面積が小さい砂利状の石灰石と比較して、少ない量で同等の処理能力を発揮する。そのため、材料費、施用労力が少なくて済む。
【0034】
石灰粉末6aを単独でpH調整剤として使用するため、高分子材料の混合やその他のアルカリ材の配合を行うことなく、酸性化した土壌(残土2)を中和することが可能である。そのため、材料費の削減が可能であるとともに、配合に要する手間を省略することが可能である。
石灰粉末6aは、浮遊物質として、水Wにより運ばれて残土2内に浸透するとともに、土粒子(岩石)に付着して、水Wにより作られた石灰と硫酸との反応の場において、式3に示すように、近傍の硫酸と反応することで、水素イオンを水に中和する。
2H+SO2−+CaCO→Ca2++SO2−+HO+CO・・・(式3)
【0035】
また、本実施形態では、pH確認を定期的に行うことで、石灰粉末の懸濁液6による中和効果を確認しながら懸濁液6の流し込みを行うため、最小限の労力と材料費により、効果的な酸性土壌(残土2)の中和処理を行うことが可能である。また、必要以上に懸濁液6を流し込むことがないため、地盤の強度や地下水の流域等に悪影響を及ぼすことを防止することが可能である。
【0036】
また、本実施形態では、法面4からボーリング孔5を形成して、懸濁液6の流し込みを行うため、改良対象領域1の直上の地表面が、公園などの施設が建設されていることにより供用中であっても、地下の酸性土壌(残土2)の中和処理を行うことができる。
【0037】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。
例えば、ボーリング孔は、石灰粉末の懸濁液を流し込むことが可能であれば、必ずしも斜めに形成されている必要はない。
【0038】
また、前記実施形態では、盛土の法面を利用して、横方向のボーリング孔を形成するものとしたが、ボーリング孔の形成方法は限定されるものではない。例えば、地表面から鉛直ボーリングを形成することにより行ってもいいし、地表面から斜め方向にボーリング孔を形成してもよい。
また、前記実施形態では、多孔管を利用して、ボーリング孔を形成するものとしたが、改良対象領域への懸濁液の浸透が可能であれば、必ずしも多孔管を使用しなくてもよい。
【0039】
また、前記実施形態では、石灰粉末の懸濁液を流し込む流入孔として、ボーリング孔を利用するものとしたが、流入孔はボーリング孔に限定されるものではない。
また、石灰粉末の懸濁液を改良対象領域に浸透させるための流入孔は、ボーリング等の残土を埋設した後に形成された掘削孔に限定されるものではなく、残土を処分するとともに多孔管等を埋設しておくなどして予め形成された流入孔や、処分場に埋設されたガス抜き管等を使用してもよい。
【0040】
また、前記実施形態では、公園等が建設されていることにより、直上の地表面が供用中の場合について説明したが、地表面の使用状況は限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
次に、本発明に係る酸性土壌の処理方法による実証実験結果について説明する。
【0042】
(1)粒度と中和効果の関係
まず、石灰石の粒度の違いによる中和効果の変化について測定した実証実験結果について説明する。
【0043】
本実証実験は、試験槽に所定量の酸性土壌を投入し、この酸性土壌の上面に、試験毎に粒度の異なる石灰石を敷均した状態で、上方から蒸留水を投入し、試験槽の下部の採水口から排出された水のpH値を測定することにより行った。表1に、試験毎の土量や石灰石の粒度等を示す。本実証実験では、表1に示すように、粒径が6μm以下の粉末状の石灰石と、粒径が425〜850μmの砂状の石灰石と、粒径が9.5〜19mmの礫状の石灰石と、について行った。また、本実証実験では、比較例として、石灰石を配置せずに、蒸留水を投入した場合についてもpH値の測定を行った。
なお、蒸留水の投入速度は毎分500ml程度とし、蒸留水投入後は3日間放置することにより行う。
【0044】
【表1】

【0045】
図3に本実証実験の結果を示す。
図3に示すように、粉末状の石灰石を使用した試験1は、pH値が7付近で中和された状態が維持される結果となった。一方、砂状の石灰石を使用した試験2および礫状の石灰石を使用した試験3は、試験開始後数日でpH値が下がる結果となった。特に、試験3では、石灰石を使用しない比較例1と同等のpH値となり、その効果がほとんど見られない結果となった。
【0046】
したがって、中和剤として使用する石灰石は、粒径が小さいほど効果的であって、粉末状の石灰石(石灰粉末)を使用すれば、より優れた中和効果を得られることが実証された。
【0047】
(2)石灰粉末の懸濁液による中和効果の優位性
次に、石灰粉末の懸濁液による中和効果の優位性の実証実験結果について説明する。
【0048】
本実証実験では、試験Aとして石灰粉末の懸濁液、試験Bとして石灰岩層内を通過させて得られた炭酸カルシウム水溶液を使用した場合について、それぞれ酸性土壌の中和効果について測定し、比較を行う。
【0049】
試験Aは、酸性土壌が充填された試験槽の上方から、石灰粉末の懸濁液を投入した後、この試験槽の下端の採水口から得た採水のpH値を測定する。同様に、試験Bでは、炭酸カルシウム水溶液を、酸性土壌が充填された試験槽に投入した場合の採水のpH値を測定する。さらに、比較例2として、蒸留水を試験槽に投入して得た採水のpHを測定した。
表2に本実証実験の結果を示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示すように、石灰粉末の懸濁液を使用した試験Aは、採水のpH値が4.62となり、中和効果が得られた。一方、炭酸カルシウム水溶液を使用した試験Bは、採水のpH値が2.81となり、蒸留水を使用した比較例2のpH値(2.54)とほとんど変わらず、中和効果がほとんど得られていない結果となった。
【0052】
つまり、石灰岩は、水に対してほとんど溶解しないため、石灰岩層中を通過させて得られた炭酸カルシウム水溶液を中和剤として使用しても、ほとんど中和効果を得ることはできない。一方、石灰粉末の懸濁液を使用すれば、石灰粉末そのものを懸濁液が多量に含んでいるため、強酸性物質に対しても、中和効果が得られることが実証された。
【0053】
(3)懸濁液による中和効果の持続性
次に、石灰粉末の懸濁液による中和効果の持続性について行った実証実験結果について説明する。
【0054】
本実証実験の試験方法は、まず、酸性土壌が充填された試験槽に、上方から石灰粉末の懸濁液300mlを投入し、試験槽の下部の採水口から取得した採水のpH値を測定する。約1日放置した後、上方から蒸留水を300ml投入し、採水のpH値を測定する。同様に約1日放置した後、蒸留水300mlの投入、採水のpH値測定を繰り返し行う。なお、懸濁液の石灰粉末の濃度は約20%であった。また、蒸留水の投入速度は、降水量に換算すると3mm/min程度となるように行った。
【0055】
図4に、本実証実験の結果を示す。
図4に示すように、石灰粉末の懸濁液が投入された酸性土壌から採取された採水は、75日が経過した後もpH値が5.5以上を示している。そのため、石灰粉末の懸濁液による中和効果が、長期間に中和効果を維持し続ける持続性を有していることが実証された。
【0056】
(4)石灰粉末による中和効果の優位性
次に、石灰粉末による中和効果の優位性について行った実証実験結果について説明する。
【0057】
本実証実験では、試験槽に投入された酸性土壌の上面に、中和剤としての石灰粉末60g(試験a)または消石灰222g(試験b)を敷均した状態で、上方から蒸留水を投入した後、試験槽の下部の採水口から排出された採水のpH値を測定した。さらに、比較例3として、中和剤を配置せずに蒸留水を試験槽に投入した場合についての採水のpH値の測定を行った(表3参照)。
なお、蒸留水の投入速度は毎分500ml程度とし、蒸留水投入後は3日間放置することにより行う。
【0058】
【表3】

【0059】
図5に本実証実験結果を示す。
図5に示すように、消石灰を中和剤として使用した試験bでは、pH値が高くなりすぎる結果となった。一方、石灰粉末を使用した試験aは、pH値が7程度を維持し、中性域を保っている。なお、比較例3では、中和効果が得られず、採水のpH値は3程度を示す結果となった。
したがって、他の中和剤(消石灰)と比較して、石灰粉末による中和効果が優位であることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の好適な実施の形態に係る酸性土壌の処理方法の概略を示す断面図である。
【図2】図1に示す酸性土壌の処理方法の作用を示す拡大図である。
【図3】石灰石の粒度の違いによる中和効果の実証実験結果を示すグラフである。
【図4】石灰粉末の懸濁液による中和効果の持続性の実証実験結果を示すグラフである。
【図5】石灰粉末による中和効果の優位性の実証実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0061】
1 改良対象領域
2 残土(酸性土壌)
5 ボーリング孔(流入孔)
5a 先端側(孔底)
5b 後端側(孔口)
6 懸濁液
6a 石灰粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性土壌を含む改良対象領域に形成された流入孔に、石灰粉末の懸濁液を流し込むことで該懸濁液を前記改良対象領域に浸透させることを特徴とする、酸性土壌の処理方法。
【請求項2】
前記流入孔が、孔底が孔口よりも低くなるように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の酸性土壌の処理方法。
【請求項3】
前記石灰粉末の粒径が、180μm以下で、ふるいの通過重量百分率が72%以上であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の酸性土壌の処理方法。
【請求項4】
前記流入孔への懸濁液の流し込みと、地盤内のpH確認とを定期的に行うことを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の酸性土壌の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−112969(P2009−112969A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290365(P2007−290365)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】