説明

酸性水中油型乳化組成物

【課題】高濃度のDAGを含有するにもかかわらず、低温での保存安定性に優れ、かつ外観や風味も良好で、ダイエット用食品や脂質代謝改善食品として有用な酸性水中油型乳化組成物の提供。
【解決手段】ジアシルグリセロール20重量%以上及び結晶抑制剤0.5〜5.0重量%を含む油相、並びにリン脂質を含有し、全リン脂質に対するリゾリン脂質の比率が15%以上である酸性水中油型乳化組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷蔵庫内等の低温条件下でも乳化安定性に優れ、かつ外観、風味も良好であり、ダイエット用食品や脂質代謝改善食品として有用なマヨネーズ・ドレッシング等の酸性水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ジアシルグリセロール(以下「DAG」という)が、肥満防止作用、体重増加抑制作用等を有することが明らかにされるに至り(例えば、特許文献1)、これを各種食品に配合する試みがなされている(例えば、特許文献2)。
【0003】
しかし、特に、マヨネーズ、ドレッシング等、酸性水中油型乳化組成物の場合、冷蔵庫内条件下(−5〜5℃)においては、原料油中のDAGの一部が結晶化して乳化破壊(オイルオフ)を生じ、特にマヨネーズの場合には亀裂が発生するなど、低温耐性が不充分であった。
【0004】
【特許文献1】特開平4-300828号公報
【特許文献2】特許第2848849号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明は、高濃度のDAGを含有するにもかかわらず、低温での保存安定性に優れるとともに、外観や風味も良好で、ダイエット用食品や脂質代謝改善食品として有用な酸性水中油型乳化組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、DAGを含む油相中に特定量の結晶抑制剤を含有させることにより、上記要求を満たす酸性水中油型乳化組成物が得られることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、ジアシルグリセロール20重量%以上及び結晶抑制剤0.5〜5.0重量%を含む油相、並びにリン脂質を含有し、全リン脂質に対するリゾリン脂質の比率が15%以上である酸性水中油型乳化組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の酸性水中油型乳化組成物は、DAGを高濃度に含有するにもかかわらず、冷蔵庫内での低温保存中に亀裂が発生することがないなど低温での保存安定性に優れ、かつ外観及び風味も良好であり、ダイエット用食品や脂質代謝改善食品として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用するDAGは、グリセリンの1位と2位又は1位と3位の水酸基が脂肪酸でエステル化されたものである。脂肪酸残基の炭素数に特に制限はないが、8〜24、特に16〜22が好ましい。また不飽和脂肪酸残基の量が、全脂肪酸残基の55%以上であることが好ましく、更には70%以上、特に90%以上が好ましい。DAGは、植物油、動物油等とグリセリンとのエステル交換反応、又は上記油脂由来の脂肪酸組成物とグリセリンとのエステル化反応等、任意の方法により得られる。反応方法は、アルカリ触媒等を用いた化学反応法、リパーゼ等の油脂加水分解酵素を用いた生化学反応法のいずれでもよい。DAGは1種以上を使用でき、油相中の含有量は、ダイエット用食品としての有効性及び経済性の観点から、20重量%以上であることが必要であり、35重量%以上が好ましい。油相は、DAG以外に、トリアシルグリセロール、モノアシルグリセロール、遊離脂肪酸等を含有していてもよい。
【0010】
本発明で使用する結晶抑制剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルから選ばれるものが好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンの平均重合度が2〜12、構成脂肪酸の炭素数12〜22、エステル化率70%以上のものが好ましく、更にHLBが4.5未満、特に3.5未満のものが好ましい。ショ糖脂肪酸エステルとしては、炭素数12〜22の脂肪酸によるエステル化率が50%以上であり、かつ、当該脂肪酸によりエステル化されていない水酸基がアセチル化されているものが好ましく、更にHLBが3未満、特に2未満のものが好ましい。ソルビタン脂肪酸エステルとしては、構成脂肪酸の炭素数12〜22、HLBが3未満、特に2.5未満のものが好ましい。結晶抑制剤は1種以上を使用でき、油相中の含有量は、低温での十分な結晶抑制効果及び食品としての風味の観点から0.5〜5.0重量%であることが必要であり、0.6〜3.0重量%が好ましい。
【0011】
本発明の酸性水中油型乳化組成物の水相には、水;酢;食塩;グルタミン酸ナトリウム等の調味料;砂糖、水飴等の糖類;酒、みりん等の呈味量;各種ビタミン;有機酸;香辛料;各種野菜又は果実;キサンタンガム等の増粘剤;牛乳等の乳製品;各種果汁類;大豆タンパク質等のタンパク質類;各種リン酸塩等を含有させることができる。
【0012】
本発明の酸性水中油型乳化組成物における油相と水相の配合比(重量比)は、10:90〜80:20、特に50:50〜75:25が好ましい。
【0013】
本発明の酸性水中油型乳化組成物には、乳化性付与と風味向上のため、卵黄を使用することができる。卵黄は、生、凍結、粉末、加塩、加糖等、任意の形態で使用することができ、また卵白を含んだ全卵の形態で使用してもよい。本発明の酸性水中油型乳化組成物中の卵黄の含有量は、風味向上の観点から、液状卵黄換算で5〜20重量%が好ましく、更には7〜17重量%、特に8〜15重量%が好ましい。
【0014】
本発明の酸性水中油型乳化組成物は、保存安定性、外観、風味の観点から、含有する全リン脂質に対するリゾリン脂質の比率(以下、「リゾ比率」という)が15%以上であることが好ましく、更には25%以上、特に29〜60%であることが好ましい。リゾリン脂質は、その一部又は全部が卵黄や大豆由来であることが好ましく、卵黄由来であることが特に好ましい。また、リゾリン脂質の一部又は全部が酵素処理卵黄であることが好ましい。卵黄の酵素処理に用いる酵素としては、エステラーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼが好ましく、リパーゼ、ホスホリパーゼがより好ましく、ホスホリパーゼが特に好ましい。ホスホリパーゼの中でも、ホスホリパーゼA、すなわちホスホリパーゼA1及びA2が最も好ましい。
【0015】
本発明の酸性水中油乳化組成物の製品形態としては、例えば日本農林規格(JAS)で定義されるドレッシング、半固体状ドレッシング、乳化液状ドレッシング、マヨネーズ、サラダドレッシング、フレンチドレッシング等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではなく、広くマヨネーズ類、ドレッシング類といわれるものが該当する。
【0016】
本発明の酸性水中油型乳化組成物は、例えば以下の方法により製造することができる。まず、DAG、結晶抑制剤等の油性成分を混合して油相を調製する。また、卵黄、その他水溶性原料を混合して水相を調製する。該水相に該油相を添加し、必要により予備乳化を行い、均質化することにより、酸性水中油型乳化組成物を得ることができる。均質機としては、例えばマウンテンゴウリン、マイクロフルイダイザー等の高圧ホモジナイザー、超音波式乳化機、コロイドミル、アジホモミキサー、マイルダー等が挙げられる。
【0017】
本発明の酸性水中油型乳化組成物は、通常のマヨネーズ、ドレッシング等と同様に使用することができる。
【実施例】
【0018】
以下において、結晶抑制剤のHLBは、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステルについてはGriffinの経験式、ショ糖脂肪酸エステルについては乳化法により算出した。
【0019】
参考例1 油脂組成物1の調製
ナタネ油脂肪酸650重量部とグリセリン107重量部の混合物に、リポザイムIM(ノボ・ノルディスクインダストリー社製)を加え、40℃、5時間、7hPaでエステル化反応を行った後、分子蒸留(235℃,0.07hPa)を行った。次いで脱色、水洗し、235℃で2時間脱臭し、表1に示す組成の油脂組成物1を得た。
【0020】
参考例2 油脂組成物2の調製
ウィンタリングして飽和脂肪酸含量を少なくしたダイズ油脂肪酸650重量部、グリセリン107重量部及び水酸化カルシウム2重量部の混合物を、窒素ガス雰囲気下で230℃で0.5時間反応を行った後、12時間静置し、グリセリン相を除去してから、油相(油脂組成物)100重量部に対して2重量部の50重量%クエン酸水溶液で水洗し、遠心分離法で油脂組成物を取り出した。次いで分子蒸留(235℃,0.07hPa)し、脱色、水洗し、235℃で2時間脱臭し、表1に示す組成の油脂組成物2を得た。
【0021】
【表1】

【0022】
参考例3 酵素処理卵黄の調製1
食塩濃度10重量%の卵黄液750g及び水250gを混合し、50℃で10分予熱した後、卵黄液に対して100ppmのホスホリパーゼA2(酵素活性10,000IU/ml)を添加し、3〜5時間反応を行い酵素分解卵黄液を得た。なお、リゾ比率は以下の方法により算出した。
【0023】
まず反応物をクロロホルム:メタノールの混合溶媒(3:1)により繰り返し抽出を行い、脂質混合物を得た。得られた脂質混合物を、薄層クロマトグラフィーに供し、一次元:クロロホルム−メタノール−水(65:25:49)、二次元:ブタノール−酢酸−水(60:20:20)による二次元薄層クロマトグラフィーにより、各種のリン脂質を分取した。分取した各種のリン脂質量は、市販測定キット(過マンガン酸塩灰化法,リン脂質−テストワコー;和光純薬工業株式会社)を用いて測定を行い、リゾ化リン脂質、全リン脂質含量を算出した。リゾ比率(%)は、『(リゾ化リン脂質画分リン合計量/全リン脂質画分リン合計量)×100』により算出した。
【0024】
参考例4 酵素処理卵黄の調製2
参考例3で得られた酵素分解卵黄液に、2倍容の水を加え攪拌後、入口空気温度170℃、出口空気温度70℃にて噴霧乾燥を行い、酵素処理卵黄粉末を得た。
【0025】
試験例1(実施例1〜8及び比較例1〜3)
常法に従い表2に示す組成の油相及び水相を調製した。水相を攪拌しながら油相を添加し、予備乳化した後、コロイドミル(5000rpm,クリアランス0.35mm)で均質化し、平均乳化粒子径2.5〜3.5μmのマヨネーズを製造し、100gマヨネーズチューブに充填した。
【0026】
得られた各マヨネーズを、−5〜5℃で1カ月保存した後、約3時間室温に放置し、その外観及び物性を、6名のパネラーにより、以下の評価基準に従って評価した。この評価の平均値を表2に示す。
【0027】
◇評価基準
(1)外観・・・チューブ入りマヨネーズの外観を目視評価した。
3:良好
2:一部分離が認められる
1:著しい分離が認められる
【0028】
(2)物性・・・チューブから絞り出したマヨネーズを目視評価した。
3:良好
2:一部肌荒れ、離水等が認められる
1:著しい肌荒れ、離水等が認められる
【0029】
【表2】

【0030】
*1:キサンタンガム(大日本製薬社製)
*2:平均重合度:10,エステル化率:80%以上,構成脂肪酸:C18:1及びC16,HLB=2.0
*3:構成脂肪酸:C18,HLB=2.1
*4:構成脂肪酸:C18及びC2,C18エステル化率:60%以上,アセチル化率:35%以上,HLB=0
【0031】
比較例1及び2は、結晶抑制剤を配合していないマヨネーズであり、それぞれ−5℃及び0℃1ヶ月間の保存で乳化破壊(オイルオフ)し、分離や肌荒れ、離水が発生した。比較例3は、油相中にポリグリセリン脂肪酸エステルを0.4重量%使用したものであり、充分な低温乳化安定性が得られなかった。
【0032】
これに対し、結晶抑制剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステル(実施例1〜3、6〜8)、ソルビタン脂肪酸エステル(実施例4)又はショ糖脂肪酸エステル(実施例5)を適正量使用した場合、−5〜5℃で1ヶ月間の保存でも乳化破壊は発生せず、外観、物性ともに良好なものであった。
【0033】
試験例2(実施例9〜11)
表3に示す割合でフレンチドレッシング(実施例9)、サウザンドアイランドドレッシング(実施例10)及びごまドレッシング(実施例11)を製造した。すなわち、油相原料を水相に攪拌下滴下し、予備乳化を行った。これをホモミキサーにより均質化し、平均乳化粒子径4〜12μmの各ドレッシングを得た。各ドレッシングについて、試験例1と同様に6名のパネラーにより評価を行った結果、表3に示すように、いずれも−5〜5℃で1ヶ月間の保存後も、外観、物性ともに良好であった。
【0034】
【表3】

【0035】
*1:キサンタンガム(大日本製薬社製)
*2:平均重合度:10,エステル化率:80%以上,構成脂肪酸:C18:1及びC16

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアシルグリセロール20重量%以上及び結晶抑制剤0.5〜5.0重量%を含む油相、並びにリン脂質を含有し、全リン脂質に対するリゾリン脂質の比率が15%以上である酸性水中油型乳化組成物。
【請求項2】
結晶抑制剤が、ショ糖脂肪酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステルから選ばれるものである請求項1記載の酸性水中油型乳化組成物。
【請求項3】
卵黄を含有し、リゾリン脂質の一部又は全部が酵素処理卵黄由来のものである請求項1又は2記載の酸性水中油型乳化組成物。
【請求項4】
ショ糖脂肪酸エステルが、炭素数12〜22の脂肪酸によるエステル化率が50%以上であり、かつ、当該脂肪酸によりエステル化されていない水酸基がアセチル化されているものである請求項2記載の酸性水中油型乳化組成物。
【請求項5】
ソルビタン脂肪酸エステルが、構成脂肪酸の炭素数12〜22、HLB3未満のものである請求項2記載の酸性水中油型乳化組成物。

【公開番号】特開2007−195564(P2007−195564A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113274(P2007−113274)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【分割の表示】特願2000−381596(P2000−381596)の分割
【原出願日】平成12年12月15日(2000.12.15)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】