説明

酸洗槽

【課題】槽内面の酸液不透過性を付与した酸洗槽を提供する。
【解決手段】酸洗処理設備に用いる酸洗槽であって、槽本体をなす金属製の缶体の少なくとも一部の内面に、ゴムライニング層7と、モルタル9を目地材としたレンガ張り層6と、樹脂層5とを順次積層した内張り構造を有し、前記樹脂層5は、プライマー塗布層10と、樹脂にガラス粒子の混ざったフレーク材塗布層11と、好ましくは更にFRP層12と、トップコート層13とを順次積層してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸洗槽に関し、詳しくは鋼板等の酸洗処理に用いられる酸洗槽に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板表面に付着した酸化スケールを除去する方法として、酸洗処理が一般に行われている。酸洗処理は、前記酸化スケールを溶解除去しうる酸性薬液(塩酸、硫酸、硝酸等の強酸の1種又は2種以上の混合液を水で希釈した溶液)である酸液を貯めた酸洗槽に鋼帯(帯状鋼板)を連続的に浸漬通板する処理である。酸洗処理に用いる酸洗槽は、酸液に対する保護対策として、一般に、鉄鋼材料製の槽本体である缶体の内壁をなす鉄皮の内面を耐酸性のゴムでライニングし、その上にレンガを積層してなる内張り構造が採用されている。又、特許文献1では、酸洗槽の上位概念である化学処理槽において、図4に示すような軽量ブロックレンガ本体22表面に樹脂被覆層23を形成してなる軽量ブロック20を、図3に示すように化学処理槽本体である缶体8の内張りに使用することが提案されている。尚、図3において21はメンブラン、9は目地材としてのモルタルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−132781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、酸液は所要の酸化スケール除去能力を得るために80〜90℃程度の高温で使用されることから、上記背景技術においては、樹脂が無い場合、レンガと目地材間に隙間が生じて酸液が浸透し、樹脂付き軽量ブロックの場合、樹脂の酸液不透過性が不十分で、酸液が樹脂を通過して軽量ブロックレンガ本体に浸透し、何れの場合も、該浸透した酸液によって下層のゴム(或いはメンブラン)が劣化して亀裂が発生し、そこから酸液が鉄皮に達してこれを腐食し、遂には鉄皮に穴があいて酸液が槽本体の外部へ漏洩するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)酸洗処理設備に用いる酸洗槽であって、槽本体をなす金属製の缶体の少なくとも一部の内面に、ゴムライニング層と、モルタルを目地材としたレンガ張り層と、樹脂層とを順次積層した内張り構造を有し、前記樹脂層は、プライマー塗布層と、樹脂にガラス粒子の混ざったフレーク材塗布層とを順次積層してなることを特徴とする酸洗槽。
(2)前記樹脂層は、前記フレーク材塗布層の上に、樹脂をガラスマット或いはサーフェイスマットに塗布してなるFRP層を1層又は2層以上積層してなることを特徴とする上記(1)に記載の酸洗槽。
(3)前記樹脂層は、前記FRP層の上に、トップコート層を積層してなることを特徴とする上記(2)に記載の酸洗槽。
(4)前記酸洗処理設備が連続酸洗処理設備であり、前記内張り構造を有する缶体の内面が、酸洗槽の側溝部における缶体の内面であることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れかに記載の酸洗槽。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、槽内面の酸液接触部に十分な酸液不透過性を付与することができ、レンガ張り層への酸液侵入を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す断面模式図である。
【図2】実施例における発明例(1)を示す断面模式図である。
【図3】従来技術の一例を示す断面模式図である。
【図4】軽量ブロックを示す立体模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は本発明の実施形態の一例を示す断面模式図である。この例は、最良の実施形態を示すものである。酸洗槽1は鋼板等を酸洗処理する設備の主要部である。槽内は酸液3で満たされる。槽本体は金属製の缶体8であり、缶体8の少なくとも一部(保護対象とした部位)の内面に、ゴムライニング層7、モルタル9を目地材としたレンガ張り層6、樹脂層5を、この順に積層した内張り構造を有する。基本形態では、樹脂層5は、プライマー塗布層10、樹脂にガラス粒子の混ざったフレーク材塗布層11をこの順に積層してなる。好適形態では、基本形態に加え、フレーク材塗布層11の上に、樹脂をガラスマット或いはサーフェイスマットに塗布してなるFRP層12を1層又は2層以上積層した。最良の形態では、好適形態に加え、FRP層12の上に、トップコート層13を積層した。
【0009】
基本形態によれば、フレーク材塗布層を有することで槽内面に酸液不透過性を付与できて、下層のレンガ張り層への酸液浸透を有効に防止できる。好適形態によれば、FRP層を有することで槽内面の酸液不透過性がより向上する。最良の形態によれば、トップコート層を有することで槽内面の酸液不透過性が更に一段と向上するとともに、槽内面に微小な傷、ひび等の損傷が発見された場合にトップコート用樹脂をもう一度塗ることにより部分的な補修が容易にできる。
【0010】
図1に示した内張り層構造を形成する好ましい施工方法を以下に述べる。
1) まず、高温の酸液に対する耐酸性及び耐熱性を有するゴムを缶体8内面にライニングしてゴムライニング層7を形成し、その上に、耐酸性及び耐熱性を有するレンガ6Aを、モルタル9を目地材として積層してレンガ張り層6を形成する。
2) 次に、レンガ張り層6のレンガ6A乃至目地の露出表面の下地処理を行う。下地処理ではサンダーなどで表面の凹凸を1mm以下とし、上層との密着性を高める。次に、前記下地処理した表面にフレーク材を接着するためのプライマーを塗布してプライマー塗布層10を形成する。このプライマーは樹脂を含んだものが好ましい。
3) 次に、プライマー塗布層10上に、樹脂に細かいガラス粒子を混ぜたフレーク材を塗布してフレーク材塗布層11を形成する。フレーク材は細かいガラス粒子により酸液の侵入を防ぐ効果を有し、又、レンガ6Aとモルタル9の凹凸を埋め、表面を平坦な状態にすることができる。フレーク材塗布層11の厚みは特に限定されないが、凹凸を埋め、酸液不透過性を高める効果を確保するために、凹凸高さ+2mm以上、とするのが好ましく、又、厚すぎると施工時の乾燥に時間がかかりすぎるため、凹凸高さ+4mm以下、とすることが好ましい。
4) 次に、好適形態として、フレーク材塗布層11上に、ガラスマット或いはサーフェイスマットに樹脂を塗布したFRPシートを積層してFRP層12を形成する。ガラスマット及びサーフェイスマットは共にガラス繊維を素材としたシートであり、目の粗さ、厚みはガラスマットの方が大きい。FRP層12はその内部のガラス繊維によって、単に樹脂のみを塗布する場合と比較して酸液3の浸透を妨げる効果が大きい。FRP層12は、ガラスマット基の層とサーフェイスマット基の層とを含む、2層以上の多層構造とし、該多層構造全体の厚さを2〜4mmにすることが好ましい。これにより、比較的短めの乾燥時間で十分な酸液不透過性が得られ、又、基本形態に比べて樹脂層5に高い機械的強度を付与できる。
5) 最後に、最良の形態として、FRP層12を保護するために、その上にトップコート材相当の樹脂をコーティング(塗布)してトップコート層13を形成する。トップコート層13の厚みは特に限定されないが、確実にFRP層をコーティングするためには重ね塗りを行って0.4〜0.8mm程度の厚みとするのが好ましい。
【0011】
これらの施工に用いうる樹脂としては、ビニルエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ビス系樹脂が挙げられるが、中でも、高温の酸液への耐性に優れるノボラック系ビニルエステル樹脂、ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂が好ましい。
【実施例】
【0012】
図2は、実施例における発明例(1)を示す断面模式図である。この実施例では鋼帯4の連続酸洗処理設備に用いられる酸洗槽1の酸洗実行部で使用された酸液3の排出先である側溝部2の内面に本発明に係る内張り構造をもたせた。酸洗槽1の本体は鋼製の缶体8である。酸液3は、85℃程度とされた塩酸である。
発明例(1)では、缶体8内面の保護対象部に耐熱性、耐酸性を有するゴムをライニングしてゴムライニング層7を形成し、その上に、モルタル9を目地材として耐酸性、耐熱性を有するレンガ6Aを積層してレンガ張り層6を形成した。次いで、レンガ張り層6の表面をサンダーで下地処理し、その上に接着剤としてビニルエステル樹脂プライマーを塗布してプライマー塗布層14を形成し、その上に、ノボラック系ビニルエステル樹脂にガラス粒子を混ぜたノボラック系ビニルエステル樹脂フレーク材を塗布して、厚み2.0〜3.0mmのフレーク材塗布層15を形成した。次に、その上にガラスマットを敷いた上からノボラック系ビニルエステル樹脂を塗布し、これを繰り返して全3層の合計厚み2.0〜3.0mmのFRP層16を形成し、更にその上にサーフェイスマットを敷いた上からサーフェイスマットにノボラック系ビニルエステル樹脂を塗布して全1層の厚み0.3〜0.5mmのFRP層17を形成した。最後に、FRP層17上に、コート材としてノボラック系ビニルエステル樹脂を塗布して厚み0.3mmのトップコート層18を形成した。即ち発明例(1)では、樹脂層5は下から順にプライマー塗布層14、フレーク材塗布層15、FRP層16,17、トップコート層18を積層した多層構造を有する。これは前述の最良の形態に対応する。
【0013】
発明例(2)は、発明例(1)においてトップコート層18の形成が省略され、その樹脂層5は、下から順にプライマー塗布層14、フレーク材塗布層15、FRP層17,18を積層した多層構造を有し、前述の好適形態に対応する。
発明例(3)は、発明例(2)においてFRP層17,18の形成が省略され、その樹脂層5は、下から順にプライマー塗布層14、フレーク材塗布層15を積層した多層構造を有し、前述の基本形態に対応する。
【0014】
又、比較例として、発明例(3)におけるプライマー塗布層14、フレーク材塗布層15の形成を無くし、その代わりに、レンガ張り層6上に直接、トップコート材としてノボラック系ビニルエステル樹脂を塗布して厚み0.3mmの層を形成した。
発明例と比較例の耐酸性を評価した結果を表1に示す。この耐酸性評価は次の要領で行った。図2のタンク底の部分に、表1に示す本発明例(1)から(3)及び比較例で施工し、塩酸、濃度8〜10%、温度80〜90°で鋼帯の酸洗を1年間実施した。その後、酸を抜いて、タンクの底のゴムライニング層までの各層の状態を目視観察した。◎はゴムライニング層からトップコート層まで全ての層に全く損傷がなく、○は他の層にはごくわずかに亀裂が発生したが、ゴムライニング層には全く亀裂が発生せず、×はゴムライニング層まで亀裂が多数発生した場合を示す。
【0015】
表1より、本発明例は何れも比較例に比べて耐酸性が高く、中でも最良の形態に対応する発明例(1)は耐酸性が最も高いことが分る。
【0016】
【表1】

【符号の説明】
【0017】
1 酸洗槽
2 側溝部
3 酸液
4 鋼帯
5 樹脂層
6 レンガ張り層
6A レンガ
7 ゴムライニング層
8 缶体
9 モルタル
10 プライマー塗布層
11 フレーク材塗布層
12 FRP層
13 トップコート層
14 プライマー塗布層(ビニルエステル樹脂プライマー)
15 フレーク材塗布層(ノボラック系ビニルエステル樹脂フレーク材)
16 FRP層(ガラスマット+ノボラック系ビニルエステル樹脂;全3層)
17 FRP層(サーフェイスマット+ノボラック系ビニルエステル樹脂;全1層)
18 トップコート層(ノボラック系ビニルエステル樹脂)
19 溶液
20 軽量ブロック
21 メンブラン
22 軽量ブロックレンガ本体
23 樹脂被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸洗処理設備に用いる酸洗槽であって、槽本体をなす金属製の缶体の少なくとも一部の内面に、ゴムライニング層と、モルタルを目地材としたレンガ張り層と、樹脂層とを順次積層した内張り構造を有し、前記樹脂層は、プライマー塗布層と、樹脂にガラス粒子の混ざったフレーク材塗布層とを順次積層してなることを特徴とする酸洗槽。
【請求項2】
前記樹脂層は、前記フレーク材塗布層の上に、樹脂をガラスマット或いはサーフェイスマットに塗布してなるFRP層を1層又は2層以上積層してなることを特徴とする請求項1に記載の酸洗槽。
【請求項3】
前記樹脂層は、前記FRP層の上に、トップコート層を積層してなることを特徴とする請求項2に記載の酸洗槽。
【請求項4】
前記酸洗処理設備が連続酸洗処理設備であり、前記内張り構造を有する缶体の内面が、酸洗槽の側溝部における缶体の内面であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の酸洗槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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