説明

酸素の電気化学的還元用の触媒

本発明は、化学的に侵食性の環境、例えば塩素含有塩酸(chlorinated hydrochloric acid)において特に安定な、酸素の電気化学的還元用の硫化物触媒に関する。本発明の触媒は、ゼロ価の金属と金属酸化物相を本質的に含有しない、金属前駆体塩とチオ前駆体をホウ水素化物もしくは他の強力な還元剤で還元することによって得られる、導電性炭素上に担持された貴金属硫化物単一結晶相を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は触媒に関し、特に、ガス拡散電極構造物中への組み込みに適した酸素還元用の電極触媒、及び前記電極触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貴金属硫化物は、電極触媒(作用)の分野においてよく知られている。特に、硫化ロジウムや硫化ルテニウムをベースとする電極触媒は現在、かなり侵食的な環境において、例えば塩酸の減極電気分解において酸素還元用の陰極として使用するために、ガス拡散電極構造物中に組み込まれている。
【0003】
先行技術の貴金属硫化物電極触媒は、例えば、対応する貴金属前駆体〔一般には塩化物;例えば米国特許第6,149,782号(該特許の全開示内容を参照により本明細書に含める)に、硫化ロジウム触媒に関して開示されている〕の水溶液中に硫化水素をスパージること(sparging)ことによって製造される。硫化水素を水溶液中にて使用する貴金属硫化物触媒の合成は、導電性キャリヤー(殆どの場合、炭素粒子からなる)の存在下において簡便に行なわれる。このように貴金属硫化物を炭素粒子の表面上に選択的に沈殿させ、こうして得られる生成物が炭素担持触媒である。炭素担持触媒は、貴金属の組み込み量を少なくした状態で高効率であることを特徴とし、ガス拡散電極構造物中に組み込むのに特に適している。この目的に対しては、表面積の大きいカーボンブラック、例えば米国キャボット社から市販のバルカン(Vulcan)XC−72が特に適している。
【0004】
炭素担持貴金属硫化物触媒を製造するための他の方法は、先ず貴金属前駆体塩、例えば貴金属塩化物の溶液で炭素キャリヤーを湿気含浸させること、次いで溶媒を蒸発除去し、希薄な硫化水素の雰囲気下にて周囲温度以上の温度で気相反応させること(これにより硫化物が安定相にて形成される)からなる。これについては、例えば、硫化ルテニウム触媒に関して米国特許出願第2004/0242412号に開示されている。
【0005】
さらに、貴金属硫化物触媒に対するより進んだ製造法が米国特許第6,967,185号(該特許の全開示内容を参照により本明細書に含める)に開示されており、該製造法は、貴金属前駆体とチオ化合物とを、硫化物イオンを含有しない水溶液中にて反応させることからなる。これにより、極めて危険で有害な反応物、例えば硫化水素を使用せずに、米国特許第6,149,782号の触媒と実質的に同等の触媒が得られる。
【0006】
上記の文献に開示されている触媒は、塩酸電解装置の製品化の成功にとって極めて重要であることがわかったけれども、これらの触媒はまだ、このような用途に特有であって相当量の溶解塩素と溶解酸素を含有する塩酸溶液からなる、かなり侵食的な環境に対する活性と安定性に関してある程度の制約を有する。
【0007】
活性に関して言えば、先行技術の方法によって沈殿される貴金属硫化物はいずれも、個別的な還元段階を施すことによって作製されており、従って種々の結合価と化学量論を有する異なった結晶相の混合物が得られ、その幾つかは、電気化学的活性が低いか、あるいは電気化学的活性が全くない。さらに、最も活性の高い配合物の幾つかは、米国特許第6,967,185号に記載の環境に優しい方法によって確実には製造できない三元化合物からなり;三元化合物、例えば、コストの点から見て極めて魅力的であるRuCoを得るための唯一の実行可能な方法は、米国特許出願第2004/0242412号に開示の方法、(この方法は依然として、反応物化学種として硫化水素に頼っている)である。
【0008】
安定性に関して言えば、先行技術の触媒に特有の、異なった結晶相で構成される上記混合価システムでは、ある程度は必然的に、より安定性の低い相(例えば、ゼロ価金属、金属酸化物、および非化学量論ペロブスカイト等)が形成される。硫化ロジウムと硫化ルテニウムは、塩酸電解の環境での先行技術の酸素還元に対する他のいかなる電極触媒よりはるかに安定であるけれども、特に、メンテナンスのためにセルを運転停止するときに、貴金属の幾らかの漏出がまだ検出されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,149,782号
【特許文献2】米国特許出願第2004/0242412号
【特許文献3】米国特許第6,967,185号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の1つの目的は、先行技術の限界を克服する、酸素の電気化学的還元用硫化物触媒の新規組成物を提供することである。さらに詳細に言えば、本発明の目的は、塩酸電解のプロセスにおける陰極酸素還元のための、より安定且つ高活性の触媒を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、減極塩酸電解のプロセスにおける陰極として有用な、硫化物触媒の新規組成物を組み込んだガス拡散電極を提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、酸素の電気化学的還元用硫化物触媒の新規製造方法を提供することである。これらの目的や他の目的は、下記の説明を参照することで明らかになるが、下記の説明を本発明の限定として見なすべきではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ規定される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様においては、本発明は、導電性炭素上に明確な単一結晶相として担持された貴金属硫化物を含む、酸素の電気化学的還元用触媒からなり、本発明の貴金属触媒は、二元または三元の硫化ロジウムもしくは硫化ルテニウムの単一結晶相であるのが好ましい。
【0014】
一般式Rhで示される二元硫化ロジウムの場合、先行技術の製造方法は必ず、少なくともRh、Rh1715、およびRhという化学種を含む混合原子価系〔幾らかの量の金属ロジウム(Rh)を含む〕をもたらす、ということを本発明者らは見出した。これら全ての化学種の中で、空間群(Pm−3m)に対応した結晶格子を特徴とするRh1715が最も活性が高く、次に活性の高いのが単斜晶系(C2/m)のRhである。残りの化学種は、活性が殆ど無いか又は全く無く、場合によっては安定性がより低い。Rhは塩酸電解条件において不安定であり、動作中のロジウム漏出が最も早いことの原因となっている。例えば、米国特許第6,149,782号や米国特許第6,967,185号に記載の方法によれば、Rh1715の代表的な量は、全硫化ロジウム化学種の70%よりやや多い。
【0015】
驚くべきことに、活性炭上の(Pm−3m)Rh1715の単一結晶相は、米国特許第6,967,185号に開示されている環境に優しい製造方法を適切に改良することによって作製できる、ということを本発明者らは見出した。単一結晶相という用語は、ここでは、純度が90%より高い結晶相を意味しており、本発明による(Pm−3m)Rh1715触媒の場合、得られる単一結晶相は、純度が約95%であってRhは検出されない。活性炭上の(Pm−3m)Rh1715の単一結晶相を製造する方法は、
−ロジウムの前駆体塩(例えばRhCl)とイオウ源(例えば、チオ硫酸塩化学種やチオン酸塩化学種)とを、強力な還元剤と導電性炭素粒子の存在下にて反応させる工程、これにより非晶質の硫化物化学種が炭素粒子上に沈殿する;
−スラリーを、好ましくは濾過によって回収する工程;及び、
−回収したスラリーを、不活性雰囲気にて500〜1250℃の温度で、(Pm−3m)のRh1715に対応する単一結晶相が得られるまで熱処理する工程;を含む。
【0016】
チオ硫酸塩やチオン酸塩のほかに、他のイオウ源を使用して、本発明の方法の特徴であるメタセシス工程を開始させることができる。テトラチオン酸塩、例えば、Na・2HOや他の類似のチオン酸塩化学種、例えば、ジチオン酸塩、トリチオン酸塩、ペンタチオン酸塩、及びヘプタチオン酸塩はいずれもこの目的に対して適しており、そしてさらにSOガスは、選定された担体上に非晶質のM成分を生成させるための、還元能力とイオウ利用可能性の両方を有する。
【0017】
担体炭素粒子は200〜300m/gの表面積を有するのが好ましく、炭素上に得られる硫化ロジウムの好ましい固有組み込み量は12〜18%である。
【0018】
反応物を加える順序は、所望する生成物を得る上で重要である。懸濁炭素粒子とロジウム前駆体塩を含有する溶液に選択されたイオウ源、例えば、チオ硫酸塩化学種またはチオン酸塩化学種を加え、これによりメタセシスプロセスが始まる。同時に又は直後に、個別の反応に応じて、強力な還元剤(0.14V/SHE以下の(below)還元電位を有する化学種であると定義する)を少量のアリコートにて加える。還元剤としてはホウ水素化ナトリウム(NaBH)が好ましいが、他の適切な反応物としては、LiAlH、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、金属アルミニウム、金属亜鉛、及び金属アンチモンなどがある。
【0019】
上記にて定義の還元剤は、S/S−2対の還元電位より低い還元電位を有する。このように、金属イオンとチオ硫酸塩部分とのメタセシスが瞬時に達成され、別々の還元状態の形成を妨げつつ(種々の硫化物成分の生成と相分布を制御する主要なファクターである)、炭素担体粒子上に非晶質の硫化ロジウムが直接形成される。
【0020】
本発明の方法は、貴金属硫化物の他の単一結晶相の製造にも適用することができ、単一金属の硫化物(二元硫化物)だけでなく、2種以上の金属の硫化物(三元硫化物など)を含む。本発明の方法は、硫化ルテニウムの場合に特に有用である(なぜなら、硫化ルテニウムの場合、本発明の方法は、最も活性が高くて最も安定な単一結晶相を生成するからである)ことがわかっている。
【0021】
本発明の方法を利用することにより、二元硫化ルテニウム(RuS)及び三元硫化ルテニウム(Ru)(Mは、好ましくはW、Co、Mo、Ir、Rh、Cu、Ag、及びHgから選択される遷移金属である)が単一結晶相にて沈殿し、このとき格子パラメーターはパイライト型の格子(Pa3空間群)に対応する。こうして得られる(Pa3)のRuS触媒またはRu触媒は、塩酸電解条件において、先行技術の混合価硫化ルテニウム系より活性が高く且つ安定であることが判明している。好ましい触媒特異的組み込み量と選択される炭素担体は、硫化ロジウムに対する場合と同じであり、そしてさらに製造方法も、熱処理に対する適切な温度が150℃から1250℃に変わるとしても実質的には同じである。
【0022】
本発明の方法の固有の反応経路は、金属とイオウ成分の還元電位に介入するという主要な利点を有しており、これにより別々の還元状態の形成が妨げられる。これらの還元電位は、上記の選定カルコゲニド成分の収量と適切な相組成を制御する主要なファクターである。本発明の方法は、金属イオンとイオウ部分との瞬時のメタセシスを促進する。例えば、ロジウム等の遷移金属の塩化物形(加水分解すると1〜1.5の範囲のpHを生じる)と、テトラチオン酸ナトリウム二水和物(Na・2HO)及びホウ水素化ナトリウム(NaBH)とを炭素の存在下にて反応させることによって、炭素担持非晶質Rhを直接合成することができる。反応は室温で行われ、pH試験とスポット試験によって追跡することができる。反応が終了したらスラリーを採集し、不活性雰囲気中にて充分な時間にわたって熱処理して、必要とする単一相の硫化ロジウム担持触媒を得る。同じ方法を使用して、固有の結晶相分布を有する、他の二元硫化物及び三元硫化物を得ることができる。場合によっては、反応速度と収率は、触媒量の金属(例えば、Al、Sn、Co、及び他の金属)を加えることによって向上させることができる。
【0023】
本明細書に開示の触媒は、当業界に公知の、導電性ウェブ上のガス拡散電極構造物中に組み込むのに適している。
【0024】
下記に実施例を挙げて、本発明による硫化ロジウム触媒と硫化ルテニウム触媒の製造を説明するが、これらの実施例によって本発明が限定されることはない。当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適切な変形や改良形を利用して、本発明の方法に依拠して、種々の貴金属や遷移金属の、他の炭素担持単一結晶相硫化物触媒を製造できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の方法に従って製造した硫化ロジウム触媒のX線回折図形を示す。
【実施例】
【0026】
実施例1
本実施例では、本発明の方法に従って炭素上に硫化ロジウム単一結晶相を沈殿させる方法について説明する。他の貴金属硫化物触媒(例えば、硫化ルテニウム、硫化白金、硫化パラジウム、又は硫化イリジウム等)の沈殿反応は、当業者であれば容易に導き出せるわずかな調整を必要とするだけである。
7.62gのRhCl・HOを1リットルの脱イオン水中に溶解し、本溶液を還流した。本溶液に7gのバルカンXC72−R(キャボット社から市販の高表面積カーボンブラック)を加え、混合物を40℃で1時間超音波処理した。8.64gの(NHを60mlの脱イオン水中に希釈し、pHは7.64であった(イオウ源)。4.14gのNaBHを60mlの脱イオン水中に希釈した(還元剤)。
【0027】
ロジウム/バルカン溶液を室温に保持し、pHをモニターしつつ激しく攪拌した。このケースでは、ロジウム/バルカン溶液に、イオウ源溶液と還元剤溶液を同時に滴下した。滴下中、溶液のpH、温度、及び色をモニターした。イオウ化合物がS元素に完全に解離するのを防ぐためには、pHを一定に制御することが必須である。
【0028】
反応速度はかなり高く、従って非晶質硫化物の全沈殿は、反応の開始から数分以内に起こる。必要に応じて反応混合物を冷却すれば、反応速度を下げることができる。反応の進行は、色の変化をチェックすることによってモニターした。ロジウム/バルカン溶液の最初の濃いピンク色/橙色が灰色/緑色に激変し(Rh+3化学種がRh+2化学種に還元された)、次いで反応が完了すると無色になり、従って生成物が全て炭素に吸収されたことを示している。この相に対しては、酢酸鉛紙を使用して種々の時間にてスポット試験も行った。イオウ化学種の解離がごくわずかであることから、観察されたHSの量は限られた量であった。沈殿物を完全に沈降させてから濾過した。濾液を1000mlの脱イオン水で洗浄して、過剰の試剤を除去し、次いで濾過ケークを採集して110℃で一晩空気乾燥した。
【0029】
最後に乾燥生成物を、アルゴン気流下にて650℃で2時間熱処理し、この結果、損失重量は22.15%となった。
【0030】
こうして得られた炭素担持触媒の塩酸電解環境での安定性を調べるために、炭素担持触媒を先ず、腐食試験にて特徴づけた。
【0031】
この目的のため、サンプルの一部を、米国特許第6,149,782号の実施例4に開示されているのと同じ条件で、塩素で飽和したHCl溶液中にて加熱沸騰した。得られた溶液は無色であり、先行技術の硫化ロジウムのより高い安定形に特徴的なトレースピンク(trace pink)すら示さなかった。
【0032】
硫化ロジウム触媒のX線回折図形(diffractogram)を図1に示す。沈殿によって通常得られるRhは、少なくとも3つのRh−S相〔すなわち、斜方晶系(Pbcn)Rh、単斜晶系(C2/m)Rh、及び単純立方晶系(Pm−3m)Rh1715〕のバランスのとれた相混合物であることを特徴とする。Rh相は、交互のRhSオクタヘドラ(octahedra)から作られている電子絶縁体である。Rh−Rhの平均結合距離が3.208Å(fcc Rh金属における2.69Åと比較して)であることから、Rh−Rh直接結合の可能性はない。これとは対照的に、Rh1715相は、室温において半導体特性を有する。Rh1715はさらに、2.59ÅのRh−Rh平均結合距離を有するRhオクタヘドラからなる。Rh相〔その金属Rhがオクタヘドラ・イーブ(octahedra eaves)である〕がO(H)吸着のための活性部位である。図面の左部分は、上側に回折図形と、下側に種々のRh−S相の特徴的なピークとを示している。これらを比較することにより、Rh1715相が極めて優勢(>95%)であることがわかる〔2θ=37.38°〜40.68°での4つのピークの特徴的セットは、(104)反射、(114)反射、(223)反射、及び(024)反射を示しており、47.64°と52.16°での高強度ピークは、(333)反射と(044)反射を示している〕。
【0033】
このことは、図面の右部分においてより一層明らかであり、Rh1715相の特徴的ピークが、XRDスペクトルに重ね合わさっている。
【0034】
実施例2
コバルトルテニウム三元硫化物(3:1)触媒を、実施例1の場合と類似の方法で作製した。ここでの違いは、イオウ試剤が金属イオン溶液の一部であるということであり、従ってメタセシス反応が、金属イオン部位上にてその場で起こる。
【0035】
7.62gのRuCl・xHOを1リットルの脱イオン水中に溶解し、本溶液を還流した。Ru含有溶液に2.46gのCoCl・xHOも加え、上記のように還流した。8gのバルカンXC72−R(キャボット社から市販の高表面積カーボンブラック)を溶液に加え、混合物を40℃で1時間超音波処理した。17.5gの(NHを100mlの脱イオン水中に希釈した後、pHは7.72であり、次いでこの溶液を触媒/バルカン溶液に加えた(イオウ源)。6.54gのNaBHを100mlの脱イオン水中に希釈した(還元剤)。
【0036】
ルテニウム、コバルト、及びバルカンカーボンブラックを含有するイオウ源溶液を室温に保持し、pHをモニターしつつ激しく攪拌した。還元剤溶液を作製した後、イオウ源溶液に滴下した。試剤の滴下中、溶液のpH、温度、及び色をモニターした。イオウ化合物がS元素に完全に解離するのを防ぐためには、pHを一定に制御することが必須である。
【0037】
実施例1の場合と同様に、この場合においても反応速度はかなり高く、従って非晶質硫化物の全沈殿は、反応の開始から数分以内に起こる。必要に応じて反応混合物を冷却すれば、反応速度を下げることができる。反応の進行は、色の変化をチェックすることによってモニターした。最初の溶液の濃い褐色/橙色が、反応が完了すると無色に激変した(このことは、生成物が全て炭素に吸収されたことを示している)。この相に対しては、酢酸鉛紙を使用して種々の時間にてスポット試験も行った。イオウ化学種の解離がごくわずかであることから、観察されたHSの量は限られた量であった。さらに、Co(金属)は観察されなかった。このような特定の金属に対するスポット試験は、Coの磁気的性質のために極めて容易である。沈殿物を完全に沈降させてから濾過した。濾液を1000mlの脱イオン水で洗浄して、過剰の試剤を除去し、次いで濾過ケークを採集して110℃で一晩空気乾燥した。
【0038】
最後に乾燥生成物を、窒素気流下にて500℃で2時間熱処理し、この結果、損失重量は32.5%となった。
【0039】
こうして得られた炭素担持触媒に対し、前記実施例に記載したのと同じ腐食試験及び電気化学的試験を施し、全く同じ結果が得られた。
【0040】
さらに、本発明の方法に従って作製され、そして当業界に公知の導電性ウェブ上のガス拡散構造物中に組み込まれる触媒の、塩酸電解における実際の性能をチェックした。
【0041】
実施例3
実施例1と2の触媒について異なったサンプルを作製し、PTFE分散液中に混合し、カーボンクロス上にて従来のフロースルー(flow-through)ガス拡散電極構造物中に組み込んだ。全ての電極を、米国特許第6,149,782号と第6,967,185号(サンプル0)の開示内容に従って、塩酸電解に関して最新技術の標準担持Rh電極と比較した。このような電極を、イソシアネートプラントからの副生物である塩酸水溶液を利用して、活性面積が50cmの実験用セルにおける、標準的な陽極に対する酸素消費陰極として試験した。全体としてのセル電圧を、2つの異なった電流密度(すなわち、3kA/mと6kA/m)にて記録し、対応する値を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
試験した電極サンプルの全てが優れた触媒活性を示し、その結果、先行技術の硫化ロジウム触媒(サンプル0)を使用して活性化される電極と比較して電圧がかなり低下した。
【0044】
これまでに作製されているトリチオン酸ナトリウム前駆体、テトラチオン酸ナトリウム前駆体、およびヘプタチオン酸ナトリウム前駆体を使用することにより、公知の方法に従って(わずかな調整は、当業者によって容易に導きだせる)同等の硫化ロジウム触媒を得た。これらの場合においても、類似の腐食結果と電気化学的結果が得られた。
【0045】
上記の説明によって本発明が限定されることはなく、本発明は、本発明の要旨を逸脱することなく種々の実施態様に従って実施することができ、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ規定される。
【0046】
本発明の説明及び特許請求の範囲において、“含む(comprise)”という用語とそのバリエーションである“含むこと(comprising)”及び“含む(comprises)”という用語は、他の要素又は追加成分の存在を除外することを意図していない。
【図1a】

【図1b】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性炭素上に担持された貴金属硫化物の単一結晶相を含む、酸素の電気化学的還元用の触媒。
【請求項2】
前記貴金属硫化物が硫化ロジウム又は硫化ルテニウムである、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記単一結晶相が(Pm−3m)Rh1715である、請求項2に記載の触媒。
【請求項4】
前記貴金属硫化物が、ルテニウムの硫化物及び必要に応じて追加の遷移金属Mの硫化物であり、前記単一結晶相が(Pa3)のRuS又はRuである、請求項2に記載の触媒。
【請求項5】
前記追加の遷移金属が、W、Co、Mo、Ir、Rh、Cu、Ag、及びHgからなる群から選択される、請求項4に記載の触媒。
【請求項6】
前記導電性炭素が200〜300m/gの表面積を有し、前記導電性炭素上への前記貴金属硫化物の特定の組み込み量が12〜18%である、請求項3〜5のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の触媒を導電性ウェブ上に含むガス拡散電極。
【請求項8】
貴金属の前駆体塩及び必要に応じて少なくとも1種の追加遷移金属の前駆体塩とイオウ源とを、水溶液中にて導電性炭素粒子の存在下で反応させる工程;
0.14V/SHE以下の還元電位を有する還元剤を前記水溶液に同時的又は逐次的に加えることによって、前記貴金属の硫化物を前記導電性炭素粒子上に沈殿させる工程;及び、
こうして得られるスラリーを不活性雰囲気中にて、単一結晶相が得られるまで回収及び熱処理する工程;
を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【請求項9】
前記イオウ源がチオ硫酸塩化学種又はチオン酸塩化学種である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記貴金属がロジウムである、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記貴金属がルテニウムであって、前記少なくとも1種の追加金属が、W、Co、Mo、Ir、Rh、Cu、Ag、及びHgからなる群から選択される、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記スラリーが濾過によって回収され、前記熱処理が150〜1250℃の温度で行われる、請求項8〜11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記還元剤がNaBHである、請求項8〜12のいずれか一項に記載の製造方法。

【公表番号】特表2010−519029(P2010−519029A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550703(P2009−550703)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052061
【国際公開番号】WO2008/101955
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(507128654)インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ (29)
【Fターム(参考)】