説明

酸素ポンプ

【課題】従来の電解化学反応を利用した酸素ポンプは、常温下での酸素の吸引及び放出ができなかった。
【解決手段】多孔性の導電体から成る第一電極(正極)1及び第二電極(負極)2と、金属又は金属イオンの少なくとも一つを含有して成る電解液4と、前記電解液4に浸漬された多孔性の導電体から成る中間電極5と、セパレータ3とを有し、前記各電極1、2と前記中間電極5の間に前記電解液4と前記セパレータ3を挟み、前記第一電極1と前記中間電極5との間、及び前記中間電極5と前記第二電極2との間に電圧を印加することにより、第二電極2から酸素を吸引し、第一電極1から酸素を放出させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的に酸素と結合したり酸素を分解したりする反応を利用することで、一定空間から酸素を吸引し(脱酸素)、反対空間へ酸素を放出する(酸素富化)酸素ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気化学的に酸素を吸引したり、発生させたりするものとして、酸素イオン導電性基板を用いたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図3は、特許文献1に記載された従来の酸素イオン導電性基板を用いた酸素ポンプの断面を示すものである。図3に示すように、酸素イオン導電性基板21の両面にカソード電極22、アノード電極23が形成され、リード線24が電極から引き出されている。電極の一方は酸素の入口側であるカソード電極22であり、電極のもう一方は酸素の出口側であるアノード電極23である。ここに通電することによって、カソード電極22上で酸素がイオン化し、イオン化した酸素が酸素イオン導電性基板21を移動して、アノード電極23上で再び酸素イオンが酸素分子となる。これによって、カソード電極側の空間から酸素を吸引し、アノード電極側の空間に酸素を放出することになる。
【特許文献1】国際公開第96/28589号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、酸素イオン導電性基板を用いた酸素ポンプでは、動作させるために酸素イオン導電性基板を700℃〜1000℃まで加熱する必要があるため、熱歪みによる耐久性低下の問題、及び消費電力の問題があった。また、電気分解によって酸素を発生させる方法では、常温で酸素を発生させることができるものの同時に水素が発生してしまう問題があり、原料である水の供給が常に必要である。また酸素の吸引ができないという問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、常温で、酸素の吸引と酸素の放出が可能となる酸素ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来の課題を解決するために、多孔性の導電体から成る第一電極(正極)及び第二電極(負極)と、金属又は金属イオンの少なくとも一つを含有して成る電解液と、前記電解液に浸漬された多孔性の導電体から成る中間電極と、セパレータとを有し、前記各電極と前記中間電極の間に前記電解液と前記セパレータを挟み、前記第一電極と前記中間電極との間、及び前記中間電極と前記第二電極との間に電圧を印加することにより、第二電極から酸素を吸引し、第一電極から酸素を放出するものである。
【0007】
これによって、第一電極と中間電極との間の電圧の印加によって第一電極から酸素が放出され、中間電極と第二電極との間の電圧の印加によって第二電極へ酸素が吸引されることになり、常温下で酸素の吸引及び放出が可能となる酸素ポンプを実現することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の酸素ポンプは、多孔性の導電体から成る第一電極(正極)及び第二電極(負極)と、金属又は金属イオンの少なくとも一つを含有して成る電解液と、前記電解液に浸漬
された多孔性の導電体から成る中間電極と、セパレータとを有し、前記各電極と前記中間電極の間に前記電解液と前記セパレータを挟み、前記第一電極と前記中間電極との間、及び前記中間電極と前記第二電極との間に電圧を印加することにより、第二電極から酸素を吸引し、第一電極から酸素を放出することにより、常温下で動作可能な酸素ポンプを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
第1の発明は、多孔性の導電体から成る第一電極(正極)及び第二電極(負極)と、金属又は金属イオンの少なくとも一つを含有して成る電解液と、前記電解液に浸漬された多孔性の導電体から成る中間電極と、セパレータとを有し、前記各電極と前記中間電極の間に前記電解液と前記セパレータを挟み、前記第一電極と前記中間電極との間、及び前記中間電極と前記第二電極との間に電圧を印加することにより、第二電極から酸素を吸引し、第一電極から酸素を放出するものである。
【0010】
空孔のある第一電極と金属イオン等を含有している電解液に浸漬された中間電極に電圧を印加して通電することによって、第一電極から水又は水酸化物イオンから酸化された酸素が放出され、中間電極では金属イオンが還元されて価数が変化した金属イオン又は金属になる。また、空孔のある第二電極と金属等を含有している電解液に浸漬された中間電極に電圧を印加して通電することによって、第二電極から酸素が吸引された還元され、水又は水酸化物イオンが生成し、中間電極では金属が還元されて金属イオンになる。これらの反応は、常温で進行するため、常温下で酸素の吸引及び放出が可能となる酸素ポンプを実現することができる。
【0011】
第2の発明は、多孔性の導電体から成る第一電極(正極)及び第二電極(負極)と、金属又は金属イオンの少なくとも一つを含有して成る電解液と、前記電解液に浸漬された多孔性の導電体から成る中間電極と、セパレータとを有し、前記各電極と前記中間電極の間に前記電解液と前記セパレータを挟み、前記第一電極と前記中間電極との間、及び前記中間電極と前記第二電極との間に電圧を交互に印加することにより、第二電極から酸素を吸引し、第一電極から酸素を放出するものである。
【0012】
最初に空孔のある第一電極と金属イオン等を含有している電解液に浸漬された中間電極に電圧を印加して通電することによって、第一電極から水又は水酸化物イオンから酸化された酸素が放出され、中間電極では金属イオンが還元されて価数が変化した金属イオン又は金属になる。次に最初の電圧の印加を止め、空孔のある第二電極と金属等を含有している電解液に浸漬された中間電極に電圧を印加して通電することによって、第二電極から酸素が吸引された還元され、水又は水酸化物イオンが生成し、中間電極では金属が還元されて金属イオンになる。これにより金属の還元反応と酸素反応を別々に分けて行うことができるため、常温でかつ効率よく酸素の吸引及び放出が可能となる酸素ポンプを実現することができる。
【0013】
第3の発明は、特に、第1又は第2の発明の金属または金属イオンが、鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、コバルト、ニッケルまたは当該金属のイオンの少なくとも一つであることにより、これらは酸素による酸化、還元が比較的容易であり、重量当たりの酸素との結合量及び分解量が大きいため、酸素の吸引及び放出量が向上した酸素ポンプを実現できる。
【0014】
第4の発明は、特に、第1又は第2の発明の第一電極及び第二電極がカーボンペーパーから成ることにより、カーボンペーパーは通気性が良いだけでなく、導電性及び内容物の保持性能も良く、加工性も優れている。また水素過電圧が高く、水素が発生し難いものである。
【0015】
第5の発明は、特に、第1又は第2の発明の電解液に炭素材料の粉末が含まれていることにより、導電性を高めることができ、さらに水素の発生を抑えることができる。
【0016】
第6の発明は、特に、第5の発明の炭素材料の粉末がカーボンブラックとグラファイトの混合物から成ることにより、両者を混合することにより導電性がさらに高まり、グラファイトによって酸化劣化を抑えることができる。
【0017】
第7の発明は、特に、第1又は第2の発明の中間電極が金属製のメッシュから成ることにより、金属性を使用することで使用耐久性を高めることができ、安定した電力供給が可能となる。
【0018】
第8の発明は、特に、第7の発明の金属製のメッシュがニッケルから成ることにより、ニッケルは水素過電圧が高く、水素の発生を抑えることができ、ニッケル又は酸化された酸化ニッケル等の触媒作用によって酸素の吸引及び放出量が向上した酸素ポンプを実現できる。
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態による酸素ポンプの断面図である。
【0021】
酸素ポンプの基本構成は、第一電極(正極)1及び第二電極(負極)2の内側にそれぞれセパレータ3が配置され、第一電極1と第二電極2との間に、電解液4と中間電極5が封入された筐体6から成っており、各電極から端子7を介して、電源8、電源9に接続されている。
【0022】
第一電極1及び第二電極2は多孔性かつ導電性の材料で、カーボン又はグラファイトのシート状、クロス状(炭素繊維の編物)が使用でき、またステンレス等の金属メッシュも使用できる。本実施の形態では、炭素繊維を圧密した厚さ0.2mm、目付60g/m2のカーボンペーパーにある種の触媒を担持したものを使用した。
【0023】
中間電極5は多孔性かつ導電性の材料で、電解液の種類によって異なるが、カーボン又はグラファイトのシート状、クロス状(炭素繊維の編物)が使用でき、またステンレス等の金属メッシュも使用できる。本実施の形態では、線径0.05mm、目開き100メッシュのニッケルメッシュを3枚重ねたものを使用した。
【0024】
電解液4の中の活物質は、価数が変化する金属又は金属イオンと炭素材料の粉末とを混合させた水溶液である。本実施の形態では、金属イオンとして酸化亜鉛を使用し、0価の亜鉛との反応を利用したが、同種の反応を起こす金属であれば良く、その他に、3価の鉄イオンと金属鉄若しくは鉄イオンとの反応、3価のアルミニウムイオンと金属アルミニウム若しくはアルミニウムイオンとの反応、2価のマンガンイオンと金属マンガン若しくはマンガンイオンとの反応、2価のコバルトイオンと金属コバルト若しくはコバルトイオンとの反応、2価のニッケルイオンと金属ニッケル若しくはニッケルイオンとの反応を利用しても良い。なお、鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、コバルトまたはニッケルの少なくとも一つの金属単体を最初の活物質として使用してもよい。また、電解液4には1MのKOHの水溶液を混合させたが、イオン伝導性の電解液であれば良く、上記活物質の種類によって最適なものがあるが、KCl、KF、K2SO4、NH4Cl等の中性、酸性領域の水溶液でも良い。
【0025】
炭素材料としては、平均粒子径が数十nm、比表面積が数百m2/gのカーボンブラックと、平均粒子径が数十μm、比表面積が数m2/gのグラファイトを重量比で1対1で混合させたものを使用した。
【0026】
セパレータ3は、樹脂性の多孔性フィルムであり、孔径0.1μm、厚み20μmの微細孔のフッ素系樹脂フィルムに親水処理を施し、電解液がしみ込んだものを使用した。
【0027】
以上のような構成材料について、絶縁性の筐体6に設置された端子7と第一電極1、第二電極2、電解液4を含んだ中間電極5とが電気的に接続されている。第一電極1の端子は電源8の正極、中間電極5の端子は電源8の負極及び電源9の正極、第二電極2の端子は電源9の負極と接続されている。電解液4の厚み(容量)は、酸素の放出及び吸引能力に由来するもので、必要に応じて増減することができる。
【0028】
次に、酸素ポンプの動作及び評価法について説明する。
電源8、9をオンして第一電極1と中間電極5との間、中間電極5と第二電極2との間に電圧を印加する。電源8により、第一電極1では、水酸化物イオンが酸素と水に分解されて、酸素は空孔を通り外部に放出され、中間電極5では、酸化亜鉛と水が反応して亜鉛と水酸化物イオンが生成する。また、電源9により、中間電極5では、亜鉛と水酸化物イオンが反応して酸化亜鉛と水が生成され、第二電極では、外部から酸素が取り込まれて水と反応することにより、水酸化物イオンが生成する。これら一連の過程によって、第二電極2から酸素が取り込まれ、第一電極1から酸素が放出されることになる。
【0029】
動作の評価法では、定電流となるように電圧を印加し、第一電極1のガスの出口に微少流量を計測できる石鹸膜流量計(図示せず)を接続して石鹸膜の移動方向によって放出か吸引かを確認し、石鹸膜の移動速度によってガス流量を測定した。また、定期的に酸素濃度計(図示せず)によってガス種を確認した。
【0030】
最後に、動作の結果を説明する。
電流密度10mA/cm2となるように電圧を印加した。石鹸膜は放出方向に移動し、ガス流量は0.05ml/minを示した。また酸素濃度計によって、酸素濃度の上昇を確認できた。
【0031】
以上において、常温において酸素を発生させることができる酸素ポンプを確認できた。
【0032】
(実施の形態2)
図2は、本発明の第2の実施の形態による酸素ポンプの断面図である。
【0033】
酸素ポンプの基本構成、各部材の材質、組成等は、実施の形態1と同様である。異なっている点は、電源8と9との間に切換スイッチ10が配置されていることである。
【0034】
次に、酸素ポンプの動作及び評価法について説明する。
【0035】
第一過程では、切換スイッチ10によって電源8と接続される。これにより、第一電極1が正極、中間電極5が負極となる。第一電極1では、電解液4中の水酸化物イオンが酸素と水に分解されて、酸素は第一電極1の空孔を通り外部に放出され、中間電極5では、電解液4中の酸化亜鉛が亜鉛と水酸化物イオンに分解されて、亜鉛と水酸化物イオンとなる。この過程によって酸素が放出されることになる。
【0036】
第二過程では、切換スイッチ10によって電源9と接続される。これにより、中間電極5が正極、第二電極2が負極となる。中間電極5では、電解液4中の亜鉛と水酸化物イオ
ンが反応して酸化亜鉛と水が生成し、第二電極2では、外部の酸素が第二電極2の空孔を通り内部に取り込まれ、水と反応して水酸化物イオンが生成される。外部に放出され、中間電極5では、電解液4中の酸化亜鉛が亜鉛と水酸化物イオンに分解されて、亜鉛と水酸化物イオンとなる。この過程によって酸素が吸引されることになる。
【0037】
切換スイッチ10によって電圧を交互に印加することによって、これら第一過程と第二過程が交互に行われ、酸素の放出と吸引が交互に行われることになる。
【0038】
動作の評価法では、定電流となるように電圧を印加し、第一電極1のガスの出口に微少流量を計測できる石鹸膜流量計(図示せず)を接続して石鹸膜の移動方向によって放出か吸引かを確認し、石鹸膜の移動速度によってガス流量を測定した。また、定期的に酸素濃度計(図示せず)によってガス種を確認した。また、切換スイッチ10の切り換えのタイミングは、電解液4中の金属の総モル量によって異なるが、実施の形態2の評価では、電圧計の表示によって、電圧の定常値から上昇へ転じるタイミングを目視によって判断し、切り換えを手動で行った。
【0039】
最後に、動作の結果を説明する。電流密度20mA/cm2となるように電圧を印加した。石鹸膜は放出方向に移動し、ガス流量は0.15ml/minを示した。また酸素濃度計によって、酸素濃度の上昇を確認できた。
【0040】
以上により、常温において、酸素の発生能力を向上させた酸素ポンプを実現することができた。
【0041】
なお、上記のような酸素ポンプを冷蔵庫等の貯蔵室に採用することにより、食品の酸化を防止できるので鮮度を保ち長期の保存を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明による酸素ポンプは、空間へ高濃度の酸素を供給したり、空間を低濃度の酸素雰囲気にしたりする装置であり、前者としては、エアコン、空気清浄機、給湯器、家庭用若しくは医療用の酸素吸引器具等に利用でき、後者としては、冷蔵庫、保存庫、炊飯器、調理器等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態1による酸素ポンプの断面図
【図2】本発明の実施の形態2による酸素ポンプの断面図
【図3】従来の酸素ポンプの断面図
【符号の説明】
【0044】
1 第一電極(正極)
2 第二電極(負極)
3 セパレータ
4 電解液
5 中間電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性の導電体から成る第一電極(正極)及び第二電極(負極)と、金属又は金属イオンの少なくとも一つを含有して成る電解液と、前記電解液に浸漬された多孔性の導電体から成る中間電極と、セパレータとを有し、前記各電極と前記中間電極の間に前記電解液と前記セパレータを挟み、前記第一電極と前記中間電極との間、及び前記中間電極と前記第二電極との間に電圧を印加することにより、第二電極から酸素を吸引し、第一電極から酸素を放出する酸素ポンプ。
【請求項2】
多孔性の導電体から成る第一電極(正極)及び第二電極(負極)と、金属又は金属イオンの少なくとも一つを含有して成る電解液と、前記電解液に浸漬された多孔性の導電体から成る中間電極と、セパレータとを有し、前記各電極と前記中間電極の間に前記電解液と前記セパレータを挟み、前記第一電極と前記中間電極との間、及び前記中間電極と前記第二電極との間に電圧を交互に印加することにより、第二電極から酸素を吸引し、第一電極から酸素を放出する酸素ポンプ。
【請求項3】
金属または金属イオンが、鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、コバルト、ニッケルまたは当該金属のイオンの少なくとも一つから成る請求項1または2記載の酸素ポンプ。
【請求項4】
第一電極及び第二電極がカーボンペーパーから成る請求項1または2記載の酸素ポンプ。
【請求項5】
電解液に炭素材料の粉末が含有されて成る請求項1または2記載の酸素ポンプ。
【請求項6】
炭素材料の粉末がカーボンブラックとグラファイトの混合物から成る請求項5記載の酸素ポンプ。
【請求項7】
中間電極が金属製のメッシュから成る請求項1または2記載の酸素ポンプ。
【請求項8】
金属製のメッシュが金属ニッケルから成る請求項7記載の酸素ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−215997(P2010−215997A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67434(P2009−67434)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】