説明

酸素供給装置

【課題】汚染土壌等の浄化対象物内で、微生物が有害物質浄化のために活動するのに必要な酸素を、連続的に供給するための酸素供給装置を提供する。
【解決手段】浄化対象物A内に設置される吸引材2と、この吸引材2と吸引手段(ポンプ)3を接続する吸引管4とを備える。吸引材2は、少なくとも一部には空気通路となる空間を形成したドレーン材7を被覆材8内に密閉し、この被覆材8の少なくとも一部にドレーン材7の空間を介して吸引材2の内外の空気流通を可能とする空気流通部10を形成してなる。吸引手段3によって吸引材2を介して浄化対象物A内の空気が吸引される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の有害物質を含む土や灰等の媒体を微生物による無害化あるいは分解処理するための、浄化対象物内の微生物への酸素供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
土等に含まれる各種の有害物質、例えば、油、農薬、揮発性有機化合物(VOCs:トルエン、キシレン等)、ダイオキシン、ポリ塩化ビフェニル(PCB),環境ホルモン等)を微生物を利用して無害化あるいは分解処理する方法がある。このような方法による浄化を実施する場合、浄化対象となる土や灰等の浄化対象物内に存在する微生物に対し、如何にして十分な酸素を供給するかが大きな課題となる。そのような酸素供給手段としては、一般的には次のようなものが考えられる。
【0003】
(1)媒体内への強制通気による空気供給
(2)媒体を吸引することで媒体内に空気を送るようにする空気供給
(3)媒体を切り返すことによる酸素供給
【特許文献1】特開平9−225451号公報
【特許文献2】特開2001−347255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した(1)の方法は、空気吹き出し口を有する塩化ビニル管などを浄化対象物内に挿入し、塩化ビニル管を介して圧縮空気を供給する方法であるので、空気供給は限られた部分にしか及ばない。ところが、浄化対象物には透気性の悪いものが多いため、通常、かなりの高圧力で空気を供給しなければならない。このような場合、浄化対象物中に所定の空気通路が形成されて、常に一定の部位のみに酸素が送られるようになる。その結果、浄化媒体中の酸素濃度にムラができるといった問題がある。
【0005】
(2)の方法は、(1)の方法に比べて上記のような空気通路は形成されにくいが、空気吸入には(1)と同様、空気供給口を設えた塩化ビニル管等を使用することになる。そのため、浄化対象物内に酸素濃度のムラが生じることになる。
【0006】
微生物による有害物質の無害化や分解効率は、酸素が十分に供給されていなければ当然低下するので、上記(1)(2)の方法では、浄化対象物中に酸素濃度のムラができることに起因して、無害化ないしは浄化速度が低下してしまう問題がある。
【0007】
一方、(3)の方法は、ショベル等によって媒体を切り返した直後は、浄化対象物内の酸素濃度は、均一に十分な量が確保できるが、バッチ処理のために、連続的に浄化媒体対象物内の酸素濃度を高い状態に維持することはできない。よって、はやり、有害物質の無害化ないしは分解処理の効率が低下するこは避けられない。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてされたものであり、汚染土壌等の浄化媒体物内で、微生物が有害物質浄化のために活動するのに必要な酸素を、連続的に供給するための酸素供給装置を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述の技術的課題を解決すべく以下のような構成とされている。
すなわち、浄化対象物内に設置される吸引材と、この吸引材と吸引手段を接続する吸引
管とを備え、
前記吸引材は、少なくとも一部には空気通路となる空間を形成したドレーン材を被覆材内に密閉し、この被覆材の少なくとも一部に前記ドレーン材の前記空間を介して吸引材の内外の空気流通を可能とする空気流通部を形成してなり、前記吸引ポンプによって前記吸引材を介して浄化対象物内の空気が吸引されることを特徴とする。
本発明の装置を土等の浄化対象物内に設置し、吸引手段を作動させると吸引材内の空気が外部に排出され低圧となる。したがって、前記空気流通部から浄化対象物内の気体(空気やその他のガス)が吸引材内に取り込まれ、ドレーン材の空間を通過し、吸引管を経由して外部に排出される。その結果、浄化対象物内が低圧となるので、その外部の空気が状態対象物に取り込まれる。
【0010】
前記ドレーン材の構成は、ガスが通過する空間が形成され、ガスが誘導され、ガスの所定の流れが生じる構造であれば特に限定されるものではない。例えば、多数の空間部が網の目状に形成されるように所定間隔をおいて縦横方向に長尺材を組合わせてなるものを使用することができる。
または、線状体が絡み合ったようなもの、多数のガス通路が形成されたポーラスなものであってもよい。要するにガスが通過可能な空間が多く存在し、必要な強度が保持できるものが好適である。その材質は、合成樹脂、金属等が使用できる。
【0011】
前記被覆材の前記空気流通部は、所定量以上の空気が通過可能であれば特に限定されるものではない。この空気流通部を形成する材料としては、例えば不織布を使用することができる。この場合、不織布は、土や灰等の粒子が通過することなく、気体のみが通過できる程度の極小の隙間が多数形成されるように繊維同士が結合したものであればよい。
【0012】
前記前記吸引材は所定の大きさの板状に形成され、浄化対象物内に複数並設することができる。吸引材の大きさや形状は、自由に設計することができるが、浄化対象物の量により、これを複数枚、浄化対象物の下部等の適当な位置に設置することができる。また、板状に設計した場合には、面において浄化対象物中のガスを吸入できるので効率が良い。
【0013】
本発明によれば、浄化対象物内の酸素濃度のムラをなくし、かつ、吸引力を調整することで、酸素濃度を大気と同様の状態に連続的に維持することも可能となる。その結果、浄化対象物内の微生物に十分な酸素を供給してその活動を活発化させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸素供給装置を浄化対象物内に容易に設置することができ、微生物が有害物質浄化のために活動するのに必要な酸素を連続的にムラなく浄化対象物に供給することができるので、短時間に確実に、微生物による有害物質の無害化ないし分解をすることができる。よって、従来に比べて処理時間の短縮と、浄化コストの削減を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る酸素供給装置の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、酸素供給装置1を浄化対象物である汚染土壌A内に設置した状態を示している。この汚染土壌Aには有害物質である重油が含まれているが、この重油を汚染土壌A内に存在する微生物が分解するので、その結果、汚染土壌Aが浄化されるものである。
【0016】
すなわち、この実施の形態での重油類の浄化は、重油類を含む汚染土壌Aを浄化するものであり、重油類汚染土壌を白色腐朽菌およびその培養物、または白色腐朽菌の産生するリグニン分解酵素を用いて浄化するものである。この白色腐朽菌の産生するリグニン分解酵素はマンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼおよびリグニンペルオキシダーゼである。
【0017】
なお、重油類としては、A重油を対象とした。また、土壌中には、微生物の培養基材として、木質系材料の木粉(ブナ脱脂木粉)を堆肥化させることなしに使用し、白色腐朽菌(キノコ菌)を培養させた、白色腐朽菌は、YK−624やカワラタケを用いた。
【0018】
このような汚染土壌A、すなわち浄化対象物内には、図1において示される酸素供給装置1が設置される。この酸素供給装置1では、5個の吸収材2が、水平方向に並設されている。この吸収材2には、この吸引材2の各々と吸引ポンプ3とを接続する1本の吸引管4が配置されている。吸引管4には、5つの分岐部4aが設けられ、この分岐部4aのそれぞれが、各吸引材2に接続されている。また、吸引管4は塩化ビニルのパイプであり、その他端、すなわち浄化対象物外にまで延出した端部には気液セパレータ5が接続され、この気液セパレータ5を介して、吸引ポンプ3が接続している。
【0019】
前記吸引材2は、図2に示されるようなパネル状に形成されている。図2(a)は、その側面図であり、図2(b)は裏面図、図2(c)は正面図である。吸引材2の内部には図3に示されるドレーン材7が密閉状態で内包されている。吸引材2の全体はビニールシート8で覆われており、所定の大きさの板状に形成されているが、その正面には、不織布からなる空気流通部10が設けられている。この空気流通部10は、内包されている板状のドレーン材7の一側面に対応する位置に形成される。また、吸引材2の端部には吸引管4の接続口9が設けられ、吸引管の分岐部4aが接続している。
吸引材2の大きさは自由に設定できるが、例えば1.2×2.6mの空気流通部10を有する大きさを基本単位とすることができる。これは浄化対象である汚染土壌等の量によって決定され、運搬、設置等の取扱い性がよい大きさとし、それに応じた枚数を汚染土壌Aの下部に設置する。吸引材2の形状はパネル状であるので、汚染土壌Aとの接触面積が大きく、汚染土壌A内のガスを効率的に吸入できる。そのため、汚染土壌A内の酸素濃度をムラなく、かつ、酸素濃度を大気と同様の状態に維持することも可能である。
【0020】
空気流通部10は不織布からなるが、この不織布は、汚染土壌Aの土の粒子が通過することがない隙間が形成され、気体のみが通過できるように繊維同士が結合している。この空気流通部10は、ドレーン材7を覆うビニールシート8の正面に四角形の孔部を設け、この部分を塞ぐようにビニールシート8に溶着等の方法で一体となるように形成される。
このようにして形成された吸収材2の各々は、空気流通部10を介して気体のみその内外と流通し、汚染土壌Aの土の粒子を通過させることはない。
【0021】
次に、ドレーン7について説明する。このドレーン7は、図3に示すように、縦横方向に多数の板状の長尺材が交差するように組合わせてなり、全体が網状になっている。ここでは、縦材11が垂直に立設され、これに対して横材12が水平方向に並べられて、これら縦材11と横材12が90度方向が異なる状態で、互いに組合わされている。このような構造であるので、ドレーン7全体として、孔部13が多数形成される上に、縦材11と横材12の間に空間(孔13)が生じ、水平及び垂直方向に連続するガスの通路が確保されるようになっている。
【0022】
このように、本発明の装置では、前記吸引材は、空気通路となる空間を形成したドレーン材7を吸引材2内に密閉し、ドレーン材7の前記空間を介して吸引材の内外の空気流通を可能とする空気流通部を備えるので、前記吸引ポンプ3を可動させると、先ず、吸引材内の空気が外部に排出され低圧となる。したがって、前記空気流通部から汚染土壌の気体(空気やその他のガス)が吸引材2内に吸入される。その気体は、ドレーン材7に形成された空間(孔13や縦材11,横材12の間隙)を通過し、吸引管4を経由して気液セパレータ5に到達し、気体と液体が分離されて外部に排出される。その結果、汚染土壌A内部が低圧となるので、その外部の空気が汚染土壌A内にに取り込まれる。外部の空気が汚
染土壌A内に入ることで、その内部の酸素濃度が上昇する。すると上述した微生物の活動に必要な酸素が土壌内に供給される結果となり、有害物質(ここではA重油)が浄化される。
【0023】
(試験例1)
本発明の装置を使用した空気供給と、その他の強制通気用パイプ、強制通気用ドレーン材及び吸引パイプによる空気供給とを比較する試験を行った。
【0024】
[試験方法]
高さ1.2m、直径0.3mの円筒形カラムに土壌を投入し、24時間放置した後、(1)強制通気用パイプ、(2)強制通気用ドレーン材、(3)吸引パイプによる酸素供給とした。すなわち、(1)は、パイプを汚染土壌の底部付近に貫通させ、圧縮空気を送るものである。(2)は、ドレーン材を用いた空気供給体を汚染土壌の底部付近に貫通させ、圧縮空気を送るものである。(3)は、パイプを汚染土壌の底部付近に貫通させ、土壌内の空気を吸引するものである。(4)は、本発明の吸引用ドレーンを用いて酸素供給処理とした。
【0025】
また、最初の一日間は酸素供給を全く行わず放置し、酸素供給は一日経過後に開始した。酸素供給の期間はいずれも5日間とした。
【0026】
[結果]
図4(a)(b)(c)及び(d)に、前記(1)から(4)の酸素供給試験の結果を示す。図中、盛り土状になった汚染土壌の上面からの深度が、上面を0cmとしたとき、−90cm、−50cm、−30cm及び−10cmの4つの位置に区分して、それぞれの位置において酸素濃度を計測した。
また、いずれの場合にも、横軸を経過時間(日)、縦軸を空気中の酸素濃度(%)を表す。
【0027】
(1)では、パイプに近い深度(−90cm)付近では、酸素供給をせず放置すると、ほとんど酸素がない状態となるが、酸素供給開始に伴い酸素濃度が徐々に上昇するが、濃度は7%程度に留まる。他の深度では、酸素供給を開始しても酸素濃度に変化はない。したがって、酸素を供給するパイプに近い部分のみしか酸素が供給されないことがわかる。
【0028】
(2)では、酸素供給開始後、ドレーン材を用いた空気供給体の近くでは、酸素濃度が大幅に上昇するが、他では大きな変化がない。
【0029】
(3)では、吸引によると全ての深度で酸素濃度が上昇するが、深度によって酸素濃度が異なることがわかる。
【0030】
(4)の本発明の装置を用いた場合は、空気の供給開始直後、全ての深度において、酸素濃度が20.9%に上昇し、これが維持された(この結果を示す図では、各深度別の線が20.9%の位置で重なるので、一部の線を省略して表している)。
【0031】
図5には、土壌中のA重油分解速度を、本発明による酸素供給を行った場合と、他の方法による場合とを比較して示す図である。
本発明の装置(吸引用ドレーン材)によれば、上述したような他の強制通気用パイプ等を使用する方法と比較して、A重油の分解速度が速い。よって、本発明の酸素供給装置は、A重油に汚染された土壌に対して優れた浄化作用を発揮することがわかる。
【0032】
これらの試験結果によれば、本発明の装置による酸素供給を実施すると、微生物による
有害物質の無害化ないし分解を効率よく行えることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】汚染土壌中に本発明の酸素供給装置を配置した状態を示す図である。
【図2】吸引材の概要を示す図であり、(a)はその側面図、(b)は裏面図、(c)は正面図である。
【図3】ドレーン材の一例を示す斜視図である。
【図4】土壌中の酸素濃度について、本発明の酸素供給装置を使用した場合と、他の酸素供給手段による場合を比較し試験結果を示す図である。
【図5】土壌中のA重油分解速度を、本発明による酸素供給を使用した場合と、他の酸素供給手段による場合とを比較して示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 酸素供給装置
2 吸引材
3 吸引ポンプ
4 吸引管
7 ドレーン材
10 空気流通部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄化対象物内に設置される吸引材と、この吸引材と吸引手段を接続する吸引管とを備え、
前記吸引材は、少なくとも一部には空気通路となる空間を形成したドレーン材を被覆材内に密閉し、この被覆材の少なくとも一部に前記ドレーン材の前記空間を介して吸引材の内外の空気流通を可能とする空気流通部を形成してなり、前記吸引手段によって前記吸引材を介して浄化対象物内の空気が吸引されることを特徴とする酸素供給装置。
【請求項2】
前記ドレーン材は、多数の空間部が網の目状に形成されるように所定間隔をおいて縦横方向に長尺材を組合わせてなることを特徴とする請求項1に記載の酸素供給装置。
【請求項3】
前記空気流通部は、不織布からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸素供給装置。
【請求項4】
前記吸引材は所定の大きさの板状に形成され、浄化対象物内に複数並設されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の酸素供給装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−110427(P2006−110427A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298730(P2004−298730)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(503027687)
【出願人】(503027698)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(000201490)前田工繊株式会社 (118)
【Fターム(参考)】