説明

酸素吸収剤及び酸素吸収性樹脂組成物ならびに酸素吸収性フィルム

【課題】鉄粉を反応主剤とする酸素吸収剤と同等の酸素吸収能を有し、水分を包含する必要のない有機系酸素吸収剤及び酸素吸収性樹脂組成物ならびに酸素吸収性フィルムを提供する。
【解決手段】酸素吸収剤は、没食子酸と遷移金属化合物とを含む。さらに炭酸系アルカリ化合物を含んでいてもよい。この酸素吸収性剤は、安全性に優れ、鉄粉を反応主剤とする酸素吸収剤と同等の酸素吸収能を有し、且つ、酸素吸収剤中に水分を包含する必要もないので、適用範囲が広く、乾燥食品、薬剤、医薬品、化粧品、電子部品等にも用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品、薬剤、医薬品、化粧品、電子部品等に好適に用いられる酸素吸収剤及び酸素吸収性樹脂組成物ならびに酸素吸収性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、薬剤、医薬品、化粧品、電子部品等には、酸素吸収剤が包装体に封入されている。酸素吸収剤としては、鉄粉を反応主剤とする酸素吸収剤や有機系の物質を反応主剤とする酸素吸収剤が知られているが、コスト、酸素吸収能などの観点から、鉄粉を主剤とする酸素吸収剤が一般的に用いられている。しかし、鉄粉を主剤とする酸素吸収剤は、食品、薬剤、医薬品、化粧品、電子部品等の製造工程で異物検査のために用いる金属探知機に反応すること、また、これを同封した包装体を電子レンジで加熱すると発火の虞れがあること、などのため、使用できないというデメリットが指摘されている。
【0003】
有機系の物質を反応主剤とする酸素吸収剤としては、アスコルビン酸や没食子酸を反応主剤に用いるものが知られている。
【0004】
アスコルビン酸を主剤とする酸素吸収剤は、アスコルビン酸の酸化反応によるものであるが、鉄粉を主剤とする酸素吸収剤に比べ、酸素吸収能が低いうえ酸素吸収速度が遅いという問題がある。そこで、アスコルビン酸の酸素吸収速度を促進するため酸化促進剤として没食子酸及び金属塩を加え、さらに触媒としてポルフィリン金属錯体からなる組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
一方、没食子酸を主剤とする酸素吸収剤はアルカリ化合物と水分を成分として必要とする。これは、アルカリ化合物と水分の存在下で没食子酸の水酸基、カルボキシル基の水素が解離し、解離した没食子酸と酸素が反応するメカニズムよって起こるためである(特許文献2及び3参照)。このように、没食子酸を主剤とする酸素吸収剤は水分を成分として必要とすることから、乾燥食品や薬剤、医薬品、化粧品、電子部品への使用には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−57307号公報
【特許文献2】特開平8−24639号公報
【特許文献3】特開平10−15385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上述べたように、有機系の物質を反応主剤とする酸素吸収剤は、鉄粉を主剤とする酸素吸収剤に比べ、酸素吸収能が低いという問題を抱えている。没食子酸を主剤とする酸素吸収剤は、反応開始時に水を必要とするため、例えばサラミ、ビーフジャーキー等の畜産乾製品や煮干等の水産乾製品のような乾燥食品や薬剤、医薬品、化粧品、電子部品に適用することは実用的でない。また、この酸素吸収剤は、加水して樹脂に練り込むことになるため、充分にブレンドされた酸素吸収性樹脂組成物を作製することが困難であり、たとえ充分にブレンドできたとしても、長時間かかり効率的でないばかりか、酸素吸収剤の反応が進む結果、酸素吸収能が減少してしまう虞れがあった。また後者の酸素吸収剤は、当然、フィルム状、ブロック状、タブレット状に成形することもさらに困難であった。
【0008】
本発明は、鉄粉を反応主剤とする酸素吸収剤と同等の酸素吸収能を有し、金属探知機で反応せず、電子レンジの加熱に対して発火の生じる虞れが少なく、水分を包含する必要のない、有機系酸素吸収剤及び酸素吸収性樹脂組成物ならびに酸素吸収性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の酸素吸収剤は、没食子酸と遷移金属化合物とを含むものである。また、本発明の酸素吸収剤は、没食子酸及び遷移金属化合物に加え、さらに炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等の炭酸系アルカリ化合物を含んでいてもよい。
【0010】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、没食子酸及び遷移金属化合物を含む酸素吸収剤と熱可塑性樹脂とからなる。この酸素吸収性樹脂組成物は、さらに炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等の炭酸系アルカリ化合物を含んでいてもよい。
【0011】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、没食子酸と遷移金属化合物とを含む酸素吸収剤と熱可塑性樹脂と所望により添加される炭酸系アルカリ化合物を押出し成形、ブロー成形、射出成形などの汎用の成形方法により成形した酸素吸収性フィルムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の酸素吸収剤は、安全性に優れ、鉄粉を反応主剤とする酸素吸収剤と同等の酸素吸収能を有し、且つ、酸素吸収剤中に水分を包含する必要もない。従って、この酸素吸収剤は、乾燥食品や薬剤、医薬品、化粧品、電子部品等への使用も可能であるため適用範囲が広い。また、金属探知機で反応せず、電子レンジの加熱時に発火の虞れも少ない。
【0013】
さらに、本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、フィルム、ブロック、タブレットなどの任意の形状に成形でき、好ましい。フィルム状に成形した本発明の酸素吸収性フィルムは、包装フィルムと一体化して用いることができ、便利である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0015】
本発明の酸素吸収剤に用いる没食子酸は、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸(3,4,5-trihydroxybenzoic acid)である。
【0016】
本発明で用いる遷移金属化合物は、遷移金属イオンと無機酸又は有機酸との塩化合物、及び有機化合物との錯化合物であり、水和物(Hydrate)、無水和物のいずれをも用いることができる。遷移金属は、Fe、Cu、Mn、V、Cr、Co、Ni又はZn等の遷移金属であり、このうち、好ましくはFe、Cu又はMnである。遷移金属化合物は、単独の遷移金属化合物であってもよく、複数の遷移金属化合物の混合物であってもよい。具体的には、塩化鉄、硫酸鉄、クエン酸鉄、ステアリン酸鉄及びトリス(2,4−ペンタンジオナト)鉄、硫酸銅又は硫酸マンガン等から選ばれる1以上の化合物である。なお、安全性の観点からは鉄塩化合物が好ましい。
【0017】
遷移金属化合物の含有量は、質量比で没食子酸に対して0.001以上10以下の範囲であり、好ましくは0.01以上1以下である。0.001より少ないと均一に混合することが困難となり、酸素吸収能ムラが生じ好ましくない。遷移金属化合物の含有量が没食子酸に対して質量比で10を超えると、酸素吸収剤中の没食子酸の割合が少なくなり、酸素吸収能が低くなる。さらに、遷移金属化合物の種類によっては、ペースト状で高粘度液状になり、取扱いが困難となることに加え、容器、袋などに付着しロスも発生しやすく、好ましくない。
【0018】
本発明の酸素吸収剤の酸素吸収は、被酸化物(没食子酸)の酸素酸化反応を利用するものである。この酸素酸化反応は、触媒として用いる遷移金属化合物の酸化還元能によって促進される。被酸化物から遷移金属イオンへ1電子の移動がまず起こることによって酸化反応が進むと考えられる。このような1電子の移動は没食子酸と遷移金属化合物とが混合した粉体状態でも容易に起こる。したがって、本発明では、前述した従来の系とは全く異なり水を添加する必要がなく、没食子酸の酸化反応を開始進行させることができ、酸素吸収能を発揮することが可能となる。
【0019】
なお、本発明の酸素吸収剤は、没食子酸、遷移金属化合物に加え、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等の炭酸系アルカリ化合物を含むことが好ましい。炭酸系アルカリ化合物は、潮解性のないこと、低価格であることなどにより好ましい。また、炭酸系アルカリ化合物の含有量は、質量比で没食子酸に対して0.01以上10以下の範囲が好ましく、酸素吸収能の観点から、0.5以上1以下の範囲がさらに好ましい。
【0020】
本発明の酸素吸収剤は、例えばPET/アルミ箔/ポリプロピレンからなるラミネート袋に封入して使用できる。ラミネート袋に封入する前に、酸素透過性のある容器、包装に本発明の酸素吸収剤を封止して用いることができる。
【0021】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、没食子酸と、遷移金属化合物を含む酸素吸収剤と熱可塑性樹脂とからなり、炭酸系アルカリ化合物を含んでいてもよい。遷移金属化合物と炭酸系アルカリ化合物は上述したとおりである。
【0022】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂等の熱可塑性樹脂又はそれらの混合物である。
【0023】
酸素吸収剤の配合割合は、熱可塑性樹脂100質量部に対して没食子酸が通常1以上200以下の質量部の範囲で用いられるが、これに限定されるものではない。
【0024】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、フィルム状、ブロック状、タブレット状などの任意の形状に加工できる。例えば、粉末状の酸素吸収剤を、取扱い易いブロック状、タブレット状にして使用できる。また、共押出し等の方法により包装用フィルムと積層して複層フィルムとし、酸素吸収能を有する包装袋として用いることができ、便利である。このように複層フィルムとすると、包装袋内には、食品や薬剤、医薬品、化粧品、電子部品等のみが存在することになり、酸素吸収剤を包装袋に投入する手間が省けるとともに、酸素吸収剤を誤飲食する虞もなくなる。
【0025】
本発明の酸素吸収剤は、没食子酸、遷移金属化合物、炭酸系アルカリ化合物の他に、分散剤、着色剤、増量剤等の各種の添加剤を加えることができる。
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0027】
没食子酸5g(表1では、これを質量比で1.0と表記している。)に対し、表1に示す割合の遷移金属化合物と炭酸系アルカリ化合物をそれぞれ配合し、それぞれの粒子が細かく均一になるまで、手早く乳鉢で混合した。得られた試料をナイロン/アルミ箔/ポリエチレンの積層されたアルミニウムラミネート包装袋に、没食子酸量が0.05gとなるように小分けして投入した。酸素吸収剤の投入後、包装袋の容積(空気量)が106ミリリットル(mL)となるようにテトラパック型にヒートシールして密封した。常温で14日間保存後の、包装袋内の空気中の酸素濃度を測定し、酸素吸収剤の酸素吸収能を算出した(実施例1〜実施例18)。
【0028】
比較のため、遷移金属化合物を配合せずに没食子酸と炭酸系アルカリ化合物を含有する酸素吸収剤を実施例と同様に作製し、実施例と同様にアルミニウムラミネート包装袋に空気106mLとともに封入して、常温で14日間保存した。保存後の酸素濃度を測定し、酸素吸収剤の酸素吸収能を算出した(比較例1、2)。なお、このアルミニウムラミネート袋中には水は含まれていない。
【0029】
包装袋内の酸素濃度は、隔膜形ガルバニ電池式酸素センサーであるパックマスターRO−103(飯島電子工業(株))の測定針を袋内に刺して14日後の酸素濃度を測定した。没食子酸1g当たりの酸素吸収能(mL/g)を算出した。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

実施例1〜18から、本発明の酸素吸収剤は、アルミニウムラミネート袋中に水が存在していなくとも酸素を吸収していることがわかる。
遷移金属化合物の含有量は、鉄塩の場合、質量比で没食子酸に対して0.001以上10以下、好ましくは0.01以上1以下の範囲であればよいことがわかる。硫酸銅又は硫酸マンガンの場合は、0.05で十分に酸素を吸収することがわかる。
また、本発明の酸素吸収剤中に炭酸系アルカリ化合物、本実施例では炭酸カリウムが併存することにより酸素吸収量が増すことがわかる。炭酸カリウム量は、没食子酸との質量比で0.01以上10以下、好ましくは0.5以上1以下の範囲で良いことがわかる。
【0031】
(製膜適性の確認)
表2に示すように、酸素吸収剤と、フィルム形成用樹脂としてポリエチレン樹脂(日本ユニカー(株)製NUC粉末ポリエチレンPES−20)とをドライブレンドし、ラボプラストミル(東洋精機(株)製)のTダイを用いて170℃で製膜し、この膜の酸素吸収能を測定した。酸素吸収能の測定は、製膜したフィルムを小片に切断し、前記のアルミニウムラミネート包装袋に空気106mLとともに封入して常温で30日間保存した後の酸素濃度を測定し、酸素吸収フィルムの吸収能を算出した。なお、前述した没食子酸を水溶液状にする従来タイプの酸素吸収剤は、多量の水分を含み、製膜ができなかった。
【0032】
【表2】

【0033】
表2より、本発明の酸素吸収剤と熱可塑性樹脂とをブレンドして、製膜したフィルムとしても酸素吸収能があることが判った。酸素吸収能を計る単位としてmL/cmを用いている。発明者らにおいて、0.01mL/cm(30日)以上あれば、酸素吸収能があると、判断した。
また、酸素吸収能の測定はしていないが、製膜できるか否かの試験として、実施例4の酸素吸収剤とポリエチレン樹脂(日本ユニカー(株)製NUC粉末ポリエチレンPES−20)を質量比1:1でドライブレンドした。得られた樹脂混合物をラボプラストミル(東洋精機(株)製)のTダイを用いて摂氏170度で製膜することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
没食子酸と遷移金属化合物とを含む、酸素吸収剤。
【請求項2】
前記遷移金属化合物は前記没食子酸との質量比で0.001〜10の範囲で含まれる、請求項1記載の酸素吸収剤。
【請求項3】
前記遷移金属化合物は前記没食子酸との質量比で0.01〜1の範囲で含まれる、請求項1記載の酸素吸収剤。
【請求項4】
没食子酸と、遷移金属化合物と炭酸系アルカリ化合物とを含む酸素吸収剤。
【請求項5】
前記炭酸系アルカリ化合物は前記没食子酸との質量比0.01〜10の範囲で含まれる、請求項4記載の酸素吸収剤。
【請求項6】
前記炭酸系アルカリ化合物は前記没食子酸との質量比で0.5〜1の範囲で含まれる、請求項4記載の酸素吸収剤。
【請求項7】
前記遷移金属化合物が塩化鉄、硫酸鉄、クエン酸鉄、ステアリン酸鉄、トリス(2,4−ペンタンジオナト)鉄、硫酸銅及び硫酸マンガンから選ばれる1以上の化合物である、請求項1〜6いずれかに記載の酸素吸収剤。
【請求項8】
請求項1〜6項のいずれかに記載の酸素吸収剤と熱可塑性樹脂とを含む、酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜6項のいずれかに記載の酸素吸収剤と熱可塑性樹脂とを含む酸素吸収性樹脂組成物をフィルム状に形成してなる、酸素吸収性フィルム。

【公開番号】特開2011−92921(P2011−92921A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104386(P2010−104386)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】