説明

酸素吸収性樹脂組成物

【課題】酸化に伴い生成する臭気性有機成分の発生を十分に抑制し、かつ酸素を除去する速度が速い酸素吸収性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】易酸化性熱可塑性樹脂および遷移金属触媒を含む酸素吸収性樹脂組成物中に臭気吸収剤が分散された酸素吸収性樹脂組成物であって、臭気吸収剤がヒドラジン誘導体を含むことを特徴とする酸素吸収性樹脂組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸素吸収性の樹脂組成物に関する。本発明の酸素吸収性の樹脂組成物は、脱酸素剤または酸素吸収性容器の全体もしくは一部に使用することができる。
【0002】
なお、本明細書において「脱酸素」とは密閉された環境中の酸素濃度が0.1vol%以下となることを意味し、「脱酸素剤」とは脱酸素状態を実現させることを目的として使用される薬剤、材料等の物を意味する。また、「脱酸素性」とは「脱酸素剤としての機能を有する」と同義である。さらに、「酸素吸収」とは到達酸素濃度に関わらず、薬剤、材料等が環境中の酸素を取り込むことを意味する。
【背景技術】
【0003】
食品、飲料、医薬品、医療品、化粧品、金属製品、電子製品に代表される、酸素の影響を受けて変質あるいは劣化し易い各種物品の酸素酸化を防止し長期に保存する目的で、これらを収納した包装容器や包装袋内の酸素除去を行う脱酸素剤が使用されている。この脱酸素剤として初期に開発され現在も多く使用されている形態は、粉状または粒状の鉄粉やアスコルビン酸などからなる脱酸素剤を通気性の小袋に詰めたものである。
【0004】
近年は、より取扱いが容易で適用範囲が広く誤食の可能性が極めて小さいフィルム状の脱酸素剤も利用されるようになってきた。フィルム状の脱酸素剤に関して、その酸素吸収性組成物およびフィルム構成について多くの提案がなされている。樹脂に鉄粉やアスコルビン酸などの脱酸素剤を配合してフィルムやシート等に成形し、一方の側に熱融着性を有する隔離層を積層し、他方の側にガスバリヤー層を積層した基本的な脱酸素性多層体が知られている(特許文献1)。また、酸化可能な有機成分又は樹脂成分と遷移金属触媒からなる層を含む包装用フィルムも知られている(特許文献2、3)。さらに、有機物からなる脱酸素剤が酸化に伴い発生する臭気を抑制するために、ゼオライトなどの吸着剤を酸素吸収性組成物に含有させることや、吸着剤を含む層を積層した脱酸素性多層フィルムとすること、あるいは中和剤としての塩基を含む層を積層した脱酸素性多層フィルムとすることが提案されている(特許文献4〜6)。
【0005】
また、異臭の原因となるアルデヒド系ガスの除去剤としては、主に煙草臭の消臭、シックハウス症候群対策を目的として、アミン化合物やヒドラジド化合物、ヒドラジン誘導体を無機物に担持させたものが知られている(特許文献7、8)。
【0006】
このように、酸化可能な有機成分又は樹脂成分と金属触媒からなる酸素吸収層を含む脱酸素性多層フィルムは、脱酸素する過程で、有機成分又は樹脂成分の酸化により臭気性の有機成分を発生する問題を有している。特に食品の包装に脱酸素性多層フィルムを用いた場合には、僅かな臭気の発生であっても食品の香りが悪化し、その食品の価値が低下する重大な問題が生じる。
【0007】
この問題の解決手段として、臭気吸収剤を含む層を酸素吸収層と隔離層の間に積層した場合には、酸素吸収層から発生する臭気性有機成分の包装容器内への移行を抑制することが可能となるが、臭気吸収剤を含む層が酸素透過の抵抗となるため、包装容器内の酸素を除去する速度が低下する。また、臭気吸収剤を含む層を酸素吸収層とガスバリヤー層の間に積層した場合には、包装容器内の酸素を除去する速度は影響を受けないものの、酸素吸収層から発生する臭気性有機成分が隔離層を通して包装容器内に拡散するのを十分に抑制できない。さらに、酸素吸収性樹脂組成物に無機塩基やアミノ化合物を臭気吸収剤として含有させると、酸素を除去する速度が著しく低下する。このように、実用上充分な臭気吸収機能と酸素吸収能を両立させた脱酸素性フィルムはこれまでに見出されておらず、その両立が大きな課題となっていた。
【0008】
【特許文献1】特開昭55−90535号公報
【特許文献2】特許第2991437号公報
【特許文献3】特許第3183704号公報
【特許文献4】特開平05−247276号公報
【特許文献5】特開平06−100042号公報
【特許文献6】特許第3306071号公報
【特許文献7】特許第2837057号公報
【特許文献8】特開2007−204892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、酸化に伴い生成する臭気性成分の発生を抑制し、かつ実用上、充分な速度で酸素吸収が可能な酸素吸収性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、酸素吸収性樹脂組成物について研究を進めた結果、ヒドラジン誘導体を含む臭気抑制剤を酸素吸収性樹脂組成物中に分散させることにより、酸化に伴い生成する臭気性有機成分の発生を抑制し、かつ実用上、充分な速度で酸素吸収が可能な樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、易酸化性熱可塑性樹脂、遷移金属触媒及び臭気吸収剤を含む酸素吸収性樹脂組成物であって、臭気吸収剤がヒドラジン誘導体を含むことを特徴とする酸素吸収性樹脂組成物である。
【0012】
本発明で用いられるヒドラジン誘導体としては、アミノグアニジン誘導体又はヒドラジン複塩が好ましい。
【0013】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物はさらに光増感剤を含有することができる。
【0014】
また本発明は、上記の酸素吸収性樹脂組成物からなる脱酸素性のシートまたはフィルムを提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、易酸化性熱可塑性樹脂及び遷移金属触媒を含む樹脂組成物において、脱酸素する過程において発生する臭気の問題が解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物に用いられる易酸化性熱可塑性樹脂には、炭素と炭素が二重結合で結合した部分を有する有機高分子化合物、第3級炭素原子に結合した水素原子を有する有機高分子化合物、ベンジル基を有する有機高分子化合物を用いることができる。炭素と炭素が二重結合で結合した部分を有する有機高分子化合物における炭素−炭素二重結合は高分子の主鎖にあっても良いし、側鎖にあっても良い。代表例として1,4−ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエン、1,4−ポリイソプレン、3,4−ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/アクリル酸シクロヘキセニルメチル共重合体等が挙げられる。また、第3級炭素原子に結合した水素原子を有する有機高分子化合物として、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。ベンジル基を有する有機高分子化合物として水添スチレンブタジエンゴム、水添スチレンイソプレンゴム等が挙げられる。これらのうち好ましくは、炭素と炭素が二重結合で結合した部分を有する有機高分子化合物、より好ましくは、1,2−ポリブタジエンである。
【0017】
遷移金属触媒は遷移元素金属の塩や酸化物等の金属化合物である。マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅が好適であり、マンガン、鉄、コバルトが優れた触媒作用を示すため特に好適である。遷移元素金属の金属塩としては、遷移元素金属の鉱酸塩及び脂肪酸塩が含まれ、例えば、遷移元素金属の塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩又は高級脂肪酸塩である。代表例としてオクチル酸コバルト、オクチル酸マンガン、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸鉄、ステアリン酸コバルト等があげられる。
【0018】
扱い易さの点から好ましい遷移金属触媒は、遷移元素金属の塩を担体に担持した担持触媒である。担体の種類は、特に限定されないが、ゼオライト、珪藻土、ケイ酸カルシウム類などを用いることができる。特に、触媒調製時および調製後の大きさが0.1〜200μmの凝集体が、取扱い性が良いため好ましい。特に、樹脂中に分散した際に10〜100nmである担体が、樹脂に配合した際に透明な樹脂組成物を与えるため好ましい。このような担体として、合成ケイ酸カルシウムが例示される。遷移金属触媒の配合割合は、酸素吸収性能と物理強度と経済性から、酸素吸収性樹脂組成物中の金属原子重量として0.001〜10wt%が好ましく、0.01〜1wt%が特に好ましい。
【0019】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、所望により光増感剤を加えて酸素吸収を活性化させることができる。光増感剤は光増感により酸素吸収反応を起こす物質である。本発明においては、光照射により励起した光増感剤分子が樹脂から水素を引き抜いて活性なラジカルとし、酸化反応を開始させる。光増感剤の代表例としてベンゾフェノンとその誘導体、およびチアジン染料、金属ポルフィリン誘導体、アントラキノン誘導体等があげられる。好ましくは、ベンゾフェノン骨格構造を含むベンゾフェノン誘導体である。光増感剤の配合割合は、酸素吸収性樹脂組成物中、0.001〜10wt%が好ましく、0.01〜1wt%が特に好ましい。
【0020】
臭気吸収剤は、易酸化性熱可塑性樹脂から発生する臭気性成分を化学的または物理的に固定する化合物である。本発明において用いられる臭気吸収剤は、ヒドラジン誘導体を必須成分とし、好ましくはヒドラジン誘導体を担体に担持させて用いられる。担体の種類は、特に限定されないが、ゼオライト、珪藻土、ケイ酸カルシウム類などを用いることができる。担体に担持させるヒドラジン誘導体の量は、0.001〜30mmol/g−担体が好ましく、0.01〜10mmol/g−担体が特に好ましい。
臭気吸収剤の配合割合は、易酸化性熱可塑性樹脂に対して、0.01〜50wt%が好ましく、0.1〜10wt%が特に好ましい。
【0021】
ヒドラジン誘導体とは、ヒドラジン、またはフェニルヒドラジンとそれらの誘導体、セミカルバジド、ヒドラジドとその誘導体などのN−NH基を有する有機物である。具体的には、ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硫酸アルミニウムヒドラジン複塩、カルバジン酸、ホルモヒドラジド、1,5−ジフェニルカルボノヒドラジド、イソプロピルヒドラジン硫酸塩、tert−ブチルヒドラジン塩酸塩、1−アミノピロリジン、硫酸アミノグアニジン、塩酸アミノグアニジン、重炭酸アミノグアニジン、ジアミノグアニジン塩酸塩、硝酸トリアミノグアニジン、グアニジン、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、メラミン、アセトヒドラジド、ベンゾヒドラジド、ペンタノヒドラジド、シクロヘキサンカルボヒドラジド、ベンゼンスルホノヒドラジド、チオベンゾヒドラジド、ペンタンイミドヒドラジド、ベンゾヒドラゾノヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド、ベンゾフェノンヒドラゾン、アミノポリアクリルアミド、4,4−ジメチル−1−フェニルセミカルバジド、4−アミノ−1,2,4−トリアゾールが好ましい例として挙げられ、これらの中でも硫酸アルミニウムヒドラジン複塩、硫酸アミノグアニジン、塩酸アミノグアニジンが特に好ましい。
【0022】
アミノグアニジン誘導体とはグアニジン構造を有する下記構造式(1)で示されるヒドラジン誘導体またはその塩であり、硫酸アミノグアニジン、塩酸アミノグアニジンなどが、その例として挙げられる。
【0023】
【化1】

なお、式中のR乃至Rは任意の元素を意味する。
【0024】
本発明のヒドラジン複塩とは、酸性の金属塩とヒドラジンが化学結合し、複塩を形成したものである。酸性の金属塩の金属としては、マグネシウム、アルミニウム、クロムが例示でき、塩としては、硫酸塩、塩酸塩、燐酸塩の何れか1種またはそれらの混合物が例示できる。例えば、水中で硫酸アルミニウムとヒドラジンを混合するとヒドラジン複塩が調製されるが、これは硫酸アルミニウムヒドラジン複塩と称される。
【0025】
化合物としてのヒドラジン(N)は臭気吸収能を有するが、沸点が113℃と低く、また容易に分解するため、樹脂と混練して本発明の酸素吸収性樹脂組成物を得ることは容易ではない。しかし、ヒドラジン複塩を調製することで、ヒドラジンが本来有する臭気吸収能を維持しながら、これらの欠点を克服することができるため、ヒドラジン複塩を含む臭気吸収剤を作製することは、本発明の好ましい態様である。
【0026】
本発明の臭気吸収剤は、アルデヒド類の吸収に関して、特に顕著な効果を有する。
【0027】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、易酸化性熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物、遷移金属触媒を含む樹脂組成物、及び、ヒドラジン誘導体を含む臭気吸収剤を配合した易酸化性熱可塑性樹脂を溶融状態で混合することによって、製造できる。あるいは、易酸化性熱可塑性樹脂および遷移金属触媒を含む樹脂組成物と、ヒドラジン誘導体を含む臭気吸収剤を配合した易酸化性熱可塑性樹脂を溶融状態で混合することによって、製造できる。
【0028】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、樹脂用の押出成形機等を用いた溶融混練によりペレット状あるいはフィルム状やシート状の酸素吸収剤とすることができる。また、他の熱可塑性樹脂を加えて溶融混練することにより酸素吸収性樹脂組成物が他の熱可塑性樹脂中に分散した樹脂組成物にすることもできる。
【0029】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物の使用形態は、ペレット状あるいはフィルム状その他の小片状に加工した脱酸素剤、または、これを通気性小袋に入れた形態の脱酸素剤包装体として用いることができる。また、前記小片をラベル、カード、パッキングなどの形態に成形して、脱酸素体として用いることができる。
【0030】
さらに、本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、そのまま又は適当な包装材料と積層することにより、脱酸素性の包装材料として包装袋や包装容器の一部または全部に用いることができる。例えば、本発明の酸素吸収性樹脂組成物を脱酸素層とし、一方の側に酸素透過性が高く、かつ熱融着性を兼ね備えた熱可塑性樹脂を、包装される内容物との隔離層として積層し、他方の側に酸素透過性が低い樹脂、金属又は金属酸化物をガスバリヤー層として積層して、フィルム状もしくはシート状の脱酸素性多層体とすることができる。脱酸素性多層体に含まれる脱酸素層の厚みは、300μm以下が好ましく、10〜200μmがより好ましい。
【0031】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、透明にすることができる。したがって、透視性を有する包装材料として、好適である。特に、ポリオレフィン層/本発明の酸素吸収性樹脂組成物層/透明ガスバリヤー性樹脂層を基本構成とする脱酸素性多層体は、透明な脱酸素性包装材料として使用できる。透明ガスバリヤー性樹脂層としては、シリカもしくはアルミナを蒸着したポリエステルもしくはポリアミド、ナイロンMXD6、エチレン−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニリデンからなる層を例示することができる。
【0032】
また、上記の酸素吸収性組成物は、乾燥剤、吸着剤、抗菌剤、着色剤から選んだ一種以上と混合することにより、酸素吸収機能と乾燥機能などの他の機能を併せ持つ組成物にすることができる。また、酸素吸収性組成物の層と、乾燥剤、吸着剤、抗菌剤、着色剤から選んだ一種以上を含有する層を含む多層体とすることもできる。
【0033】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物の用途に制限はなく、食品、飲料、医薬品、医療品、化粧品、金属製品、電子製品などの保存および品質保持の分野において実用性の高い脱酸素性能を発揮する。
【実施例】
【0034】
以下に実施例と比較例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
オクチル酸コバルト(商品名「ニッカオクチックスコバルト」、日本化学産業(株)製、コバルト含有量8重量%)を合成ケイ酸カルシウム(商品名「マイクロセルE」、セライト(株)製)に含浸し、減圧乾燥して得た遷移金属触媒と、光増感剤の4−フェニルベンゾフェノンを混合し、これらを低密度ポリエチレンと2軸混練押出機を用いて160℃で溶融混練することにより、コバルト原子含量が1.2wt%、合成ケイ酸カルシウム(平均粒子径2μm)が7.5wt%、フェニルベンゾフェノン含量が2.1wt%の樹脂組成物からなる触媒マスターバッチを作製した。
【0036】
硫酸アミノグアニジン水溶液を合成ケイ酸カルシウム(商品名「マイクロセルE」、セライト(株)製)に含浸させ、乾燥することにより得た臭気吸収剤(硫酸アミノグアニジン添着量 0.6mmol/g−担体)と前記の触媒マスターバッチを易酸化性熱可塑性樹脂であるシンジオタクチック1,2-ポリブタジエン(商品名「RB820」、JSR(株)製)と重量比6対10対90(硫酸アミノグアニジン 0.03mmol/g)で混合し、2軸混練押出機を用いて140℃で溶融混練し、酸素吸収性樹脂組成物を作製した。また、作製した酸素吸収性樹脂組成物を加熱プレスにより厚み80μmの単層フィルムとした。
【0037】
上記の単層フィルムの酸素吸収性能を評価した。100×100mmの大きさに切り出した前記の単層フィルムに1kW高圧水銀灯を光源とする照度6.2mW/cmの紫外光を90秒間(照射量560mJ/cm)照射した後、シリカ蒸着PETからなる酸素バリヤー性の袋に酸素5vol%と窒素95vol%の混合ガス240mLと共に封入し、25℃、60%RHの条件下に放置したところ、42時間経過後に酸素濃度0.1%に到達した。以下、袋内酸素濃度が0.1%に低下するまでに要する時間を脱酸素時間と称する。
【0038】
上記の単層フィルムの臭気性有機物放出量を評価した。上記の酸素吸収性能試験において、脱酸素後の袋内のアルデヒド類濃度をアセトアルデヒド用気体検知管(アセトアルデヒド92L(低濃度用)、ガステック(株)製)により測定し、単層フィルムの重量当りのアルデヒド類放出量を求めた結果、1.9μL/gであった。また、脱酸素後の袋内に異臭は認められなかった。
【0039】
(実施例2)
塩酸アミノグアニジン水溶液を合成ケイ酸カルシウム(商品名「マイクロセルE」、セライト(株)製)に含浸させ、乾燥することにより得た臭気吸収剤(塩酸アミノグアニジン添着量 0.6mmol/g−担体)と実施例1の触媒マスターバッチを実施例1の易酸化性の熱可塑性樹脂と重量比6対10対90(塩酸アミノグアニジン 0.03mmol/g)で混合し、実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物からなる単層フィルムを作製した。この単層フィルムの酸素吸収性能、臭気性有機物放出量を実施例1と同様に評価したところ、脱酸素時間47h、アルデヒド類の放出量は1.6μL/gであり、異臭は認められなかった。
【0040】
(実施例3)
1,3−ジアミノグアニジン塩酸塩水溶液を合成ケイ酸カルシウム(商品名「マイクロセルE」、セライト(株)製)に含浸させ、乾燥することにより得た臭気吸収剤(ジアミノグアニジン添着量 0.6mmol/g−担体)と実施例1の触媒マスターバッチを実施例1の易酸化性の熱可塑性樹脂と重量比6対10対90(1,3−ジアミノグアニジン塩酸塩 0.03mmol/g)で混合し、実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物からなる単層フィルムを作製した。この単層フィルムの酸素吸収性能、臭気性有機物放出量を実施例1と同様に評価したところ、脱酸素時間43h、アルデヒド類の放出量は2.1μL/gであり、異臭は認められなかった。
【0041】
(実施例4)
ヒドラジン水和物、硫酸アルミニウムを溶解させた水溶液(モル比;ヒドラジン:硫酸アルミニウム=2:1)を合成ケイ酸カルシウム(商品名「マイクロセルE」、セライト(株)製)に含浸させ、乾燥することにより得た、硫酸アルミニウムヒドラジン複塩を担持した臭気吸収剤(ヒドラジンの添着量 3.1mmol/g−担体)と実施例1の触媒マスターバッチを実施例1の易酸化性の熱可塑性樹脂と重量比5対10対90(ヒドラジン 0.15mmol/g)で混合し、実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物からなる単層フィルムを作製した。この単層フィルムの酸素吸収性能、臭気性有機物放出量を実施例1と同様に評価したところ、脱酸素時間48h、アルデヒド類の放出量は2.1μL/gであり、異臭は認められなかった。
【0042】
(比較例1)
実施例1において、臭気吸収剤を使用せず、触媒マスターバッチおよび易酸化性の熱可塑性樹脂を重量比10対90で混合した以外は同様にして単層フィルムを作製し、この単層フィルムの酸素吸収性能、臭気性有機物放出量を実施例1と同様に評価したところ、脱酸素時間46h、アルデヒド類の放出量は13μL/gであり、強い異臭が認められた。なお、アルデヒド類の放出量は、脱酸素後の袋内のアルデヒド類濃度をアセトアルデヒド用気体検知管(アセトアルデヒド92M(中濃度用)、ガステック(株)製)により測定して決定した。以下の比較例においても、アルデヒド類の放出量を決定する際は、同様の検知管を使用した。
【0043】
(比較例2)
ポリアリルアミン水溶液を合成ケイ酸カルシウム(商品名「マイクロセルE」、セライト(株)製)に含浸させ、乾燥することにより得た臭気吸収剤(ポリアリルアミン添着量 21wt%)と実施例1の触媒マスターバッチを実施例1の易酸化性の熱可塑性樹脂と重量比1.5対10対90で混合し、実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物からなる単層フィルムを作製した。この単層フィルムの酸素吸収性能を実施例1と同様に評価したところ、脱酸素時間340h、アルデヒド類の放出量5.5μL/gであり、酸素吸収性能は著しく低下し異臭が認められた。
【0044】
(比較例3)
尿素水溶液を合成ケイ酸カルシウム(商品名「マイクロセルE」、セライト(株)製)に含浸させ、乾燥することにより得た臭気吸収剤(尿素の添着量 8.2mmol/g−担体)と実施例1の触媒マスターバッチを実施例1の易酸化性の熱可塑性樹脂と重量比3対10対90(尿素 0.24mmol/g)で混合し、実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物からなる単層フィルムを作製した。この単層フィルムの酸素吸収性能を実施例1と同様に評価したところ、脱酸素時間110h、アルデヒド類の放出量8.0μL/gであり、酸素吸収性能は著しく低下し強い異臭が認められた。
【0045】
(比較例4)
2−アミノベンズアミド水溶液を合成ケイ酸カルシウム(商品名「マイクロセルE」、セライト(株)製)に含浸させ、乾燥することにより得た臭気吸収剤(2−アミノベンズアミドの添着量 1.7mmol/g−担体)と実施例1の触媒マスターバッチを実施例1の易酸化性の熱可塑性樹脂と重量比6対10対90(2−アミノベンズアミド 0.10mmol/g)で混合し、実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物からなる単層フィルムを作製した。この単層フィルムの酸素吸収性能を実施例1と同様に評価したところ、脱酸素時間200h、アルデヒド類の放出量11μL/gであり、酸素吸収性能は著しく低下し強い異臭が認められた。
【0046】
(比較例5)
ニコチン酸アミド水溶液を合成ケイ酸カルシウム(商品名「マイクロセルE」、セライト(株)製)に含浸させ、乾燥することにより得た臭気吸収剤(ニコチン酸アミドの添着量 1.7mmol/g−担体)と実施例1の触媒マスターバッチを実施例1の易酸化性の熱可塑性樹脂と重量比3対10対90(ニコチン酸アミド 0.05mmol/g)で混合し、実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物からなる単層フィルムを作製した。この単層フィルムの酸素吸収性能を実施例1と同様に評価したところ、脱酸素時間230h、アルデヒド類の放出量11μL/gであり、酸素吸収性能は著しく低下し強い異臭が認められた。
【0047】
(比較例6)
イソニコチン酸アミド水溶液を合成ケイ酸カルシウム(商品名「マイクロセルE」、セライト(株)製)に含浸させ、乾燥することにより得た臭気吸収剤(イソニコチン酸アミドの添着量 1.7mmol/g−担体)と実施例1の触媒マスターバッチを実施例1の易酸化性の熱可塑性樹脂と重量比3対10対90(イソニコチン酸アミド 0.05mmol/g)で混合し、実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物からなる単層フィルムを作製した。この単層フィルムの酸素吸収性能を実施例1と同様に評価したところ、測定開始から300h以上経っても脱酸素せず、酸素吸収性能は著しく低下した。
【0048】
(比較例7)
メラミン水溶液を合成ケイ酸カルシウム(商品名「マイクロセルE」、セライト(株)製)に含浸させ、乾燥することにより得た臭気吸収剤(メラミンの添着量 1.7mmol/g−担体)と実施例1の触媒マスターバッチを実施例1の易酸化性の熱可塑性樹脂と重量比3対10対90(メラミン 0.05mmol/g)で混合し、実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物からなる単層フィルムを作製した。この単層フィルムの酸素吸収性能を実施例1と同様に評価したところ、脱酸素時間210h、アルデヒド類の放出量11μL/gであり、酸素吸収性能は著しく低下し強い異臭が認められた。
【0049】
(比較例8)
市販のアルデヒド吸収剤 FC13Pファイン(五大産業株式会社)と実施例1の触媒マスターバッチを実施例1の易酸化性の熱可塑性樹脂と重量比3対10対90で混合し、実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物からなる単層フィルムを作製した。この単層フィルムの酸素吸収性能を実施例1と同様に評価したところ、脱酸素時間240h、アルデヒド類の放出量9.2μL/gであり、酸素吸収性能は著しく低下し強い異臭が認められた。
【0050】
(比較例9)
市販のアミン系アルデヒド吸収剤 K-FRESH ZA(テイカ株式会社)と実施例1の触媒マスターバッチを実施例1の易酸化性の熱可塑性樹脂と重量比3対10対90で混合し、実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物からなる単層フィルムを作製した。この単層フィルムの酸素吸収性能、臭気性有機物放出量を実施例1と同様に評価したところ、脱酸素時間62h、アルデヒド類の放出量は13μL/gであり、強い異臭が認められた。
【0051】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
易酸化性熱可塑性樹脂、遷移金属触媒及び臭気吸収剤を含む酸素吸収性樹脂組成物であって、臭気吸収剤がヒドラジン誘導体を含むことを特徴とする酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項2】
該ヒドラジン誘導体がアミノグアニジン誘導体、ヒドラジン複塩から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の酸素吸収性組成物。
【請求項3】
酸素吸収性樹脂組成物がさらに光増感剤を含有する請求項1または2記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の酸素吸収性樹脂組成物からなる脱酸素性のシートまたはフィルム。

【公開番号】特開2009−215440(P2009−215440A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61068(P2008−61068)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】