説明

酸素発生剤及びその製造方法

【課題】 極めて安価に製造可能で且つ持続的な酸素の供給が可能である、水域の貧酸素水域の改善などに好適な酸素発生剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 金属の製錬または精錬で発生したスラグを過酸化処理して得た酸素発生剤により上記課題は解決される。また、該酸素発生剤は、金属の製錬または精錬で発生したスラグを冷却して固化するとともに粒状化し、該スラグを過酸化処理することにより製造することができる。かくして得られる酸素発生剤は副産物の製錬スラグ或いは精錬スラグを利用しているので、極めて安価に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の製錬或いは精錬により発生するスラグを過酸化処理して得られる、貧酸素水域の改善に好適な酸素発生剤及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
湖沼及び海域などの水域では、生活廃水などの流入によって有機性物質が堆積し、生態系のバランスが崩れて環境汚染を引き起こしている。この環境汚染の1つに貧酸素水域の発生がある。
【0003】
貧酸素水域は、堆積した有機物を分解する微生物による酸素の奪い合いが起こり、その領域の酸素が消費されて、結果として酸素が極めて少ない或いは酸素の無い、いわゆる貧酸素状態の領域が形成されることにより発生するといわれている。貧酸素状態になると、酸素を使わずに有機物を分解することのできる微生物による有機物の腐敗が進行し、悪臭物質を放出するのみならず、水域生物に毒性を示す硫化水素をも発生し、魚をはじめとする生物が生育できない環境となる。
【0004】
そのために、貧酸素水域を改善する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、水域表層部の水に酸素含有ガスを気泡の形で混合し、このガス気泡を混合した水を水域の底から30cm以上離れた位置に乱流状態で供給し、水域底層部の酸素濃度を上昇させる方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、消石灰を主成分とする粉粒体と、含水することにより体積が膨張する崩壊剤と、含水することにより酸素を発生する酸素発生剤とを、水底到達後に崩壊するように混合配合して造粒した底質改善用造粒体が開示されている。酸素発生剤としては、過酸化カルシウム、過酸化マグネシウム、過炭酸ソーダ、酸化鉄が最適であるとしている。酸素発生剤から発生する酸素により、貧酸素状態が解消されるとしている。
【特許文献1】特開平3−143600号公報
【特許文献2】特開平2−218488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来技術には以下の問題点がある。即ち、特許文献1に提案された、酸素ガスを利用して水の溶存酸素を高める方法では、酸素ガスの水への溶解効率が低いことから溶解効率を高めるためには、ガス気泡をマイクロレベルまで小さくしたり、圧力を高めたりするなどの工夫が必要で、これらはエネルギーコストが高く、貧酸素水域の改善コストが嵩むという問題点がある。
【0007】
また、特許文献2に提案された、過酸化カルシウムなどの過酸化物の発生する酸素を利用する方法では、造粒体が崩壊してしまうことから効果が短期的であり、しかも、過酸化物の製造及び造粒体の製造にコストを費やし、貧酸素水域の改善コストが嵩むという問題点がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、極めて安価に製造可能で且つ持続的な酸素の供給が可能である、水域の貧酸素水域の改善などに好適な酸素発生剤及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための第1の発明に係る酸素発生剤は、金属の製錬または精錬で発生したスラグを過酸化処理して得たものであることを特徴とする。
【0010】
第2の発明に係る酸素発生剤の製造方法は、金属の製錬または精錬で発生したスラグを冷却して固化するとともに粒状化し、該スラグを過酸化処理することを特徴とする。
【0011】
第3の発明に係る酸素発生剤の製造方法は、第2の発明において、前記過酸化処理が、スラグを酸素ガスの存在下で加熱する処理であることを特徴とする。
【0012】
第4の発明に係る酸素発生剤の製造方法は、第2の発明において、前記過酸化処理が、過酸化水素中でスラグと過酸化水素とを反応させる処理であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製鉄工程などで副産物として発生するスラグを酸素発生剤の原料として利用するので、極めて安価に酸素発生剤を製造することができる。また、過酸化処理により過酸化物となるのは、酸化カルシウムや酸化マグネシウム及び酸化ナトリウムなどのアルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物であるので、過酸化物はスラグ中に分散して形成され、しかもスラグは水中で崩壊しないので、スラグが水中に埋没しても過酸化物と水とが直接接触することは少なく、過酸化物の分解は長期間にわたり、持続して酸素を供給することができる。
【0014】
この酸素発生剤を貧酸素水域の改善目的で使用すれば、持続的な酸素の供給が行われ、底質改善を図ることが可能となる。また、原料であるスラグは密度が3000kg/m3 以上あり、水域底部に安定して存在することが可能である。更に、大きさは最大で直径80mm程度まで調製可能であり、様々な条件の水域に対応可能である。酸素発生剤自体が安価であることから、環境浄化に適した方法といえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0016】
本発明においては、金属の製錬または精錬で発生するスラグを酸素発生剤の原料として使用する。過酸化処理により過酸化物となり酸素発生剤として機能する物質は、酸化カルシウムや酸化マグネシウム及び酸化ナトリウムなどのアルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物であるので、これらを含有するスラグであるならば、製鉄工程で発生する高炉スラグや転炉スラグに限らず、Fe−MnやFe−Crなどの合金鉄の製錬で発生するスラグや銅の乾式製錬で発生するスラグなど、種々のスラグを使用することができる。金属の製錬または精錬で発生するスラグには、通常、スラグの塩基度を調整するために酸化カルシウム或いは酸化マグネシウムが配合されている。但し、スラグ中の酸化カルシウム及び酸化マグネシウムの含有量が少ない場合には、過酸化物の生成量が少なくなるので、酸化カルシウム及び酸化マグネシウムを合計で10質量%以上含有するスラグであることが好ましい。
【0017】
これらの条件を満足するスラグとしては、製鉄工程で発生する高炉スラグ及び転炉スラグが適しており、スラグの塩基度などから特に高炉スラグが最適である。ここでいう高炉スラグとは、溶鉱炉から溶銑とともに排出されるスラグであり、転炉スラグとは、転炉における溶銑の脱炭精錬時に発生するスラグである。
【0018】
このスラグを冷却・固化させ、更に、破砕処理や水砕処理などの適宜の方法によって粒状化し、酸素発生剤の原料として使用する。粒状化したスラグのサイズは、特に限定する必要はないが、過酸化処理における過酸化効率並びに過酸化物からの酸素の放出は、ともにスラグの比表面積が大きいほど効率がよいことから、細かい粒度ほど好ましい。具体的には直径25mm以下程度が好ましい。
【0019】
但し、最大で直径80mm程度までならば、酸素発生剤の原料として何ら問題なく使用することができる。尚、ここでいう直径は篩分器の目開き寸法に該当し、例えば直径80mmとは、目開き寸法が80mmの篩分器を通過するという意味であり、目開き寸法が80mmの篩分器を通過する限り、長径が80mmを超える紡錘形であっても構わないという意味である。
【0020】
この粒状スラグに過酸化処理を施して、スラグに含まれる酸化カルシウムや酸化マグネシウム或いは酸化ナトリウムなどのアルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物を、酸素供給源となる過酸化化合物に改質する。
【0021】
この過酸化処理としては、(1)酸素ガスの存在下のもとで粒状スラグを加熱する方法と、(2)過酸化水素中で粒状スラグと過酸化水素とを反応させる方法の2つの方法を用いることができる。
【0022】
(1)の方法は、酸素ガスの存在下のもとで粒状スラグを所定温度に加熱し、その温度で所定時間保持する方法である。具体的には、例えば大気中で粒状スラグを500℃以上に加熱し、この温度で2時間程度保持するなどすればよい。このようにすることで、大気中の酸素ガスとスラグ中の酸化カルシウムや酸化マグネシウムとが反応し、過酸化化合物(CaO2 やMgO2 )がスラグ中に形成される。この場合、雰囲気の圧力が高いほど、また酸素ガス分圧が高いほど過酸化化合物の生成が促進されるので、例えば純酸素ガス雰囲気で、10気圧の圧力チャンバーのなかで加熱するなどとすることが好ましい。但し、粒状スラグのサイズによって過酸化化合物の生成速度が異なるので、適宜最適な方法を採用するものとする。粒状スラグを所定温度で所定時間保持した後は常温まで冷却する。かくして、本発明に係る酸素発生剤が製造される。
【0023】
(2)の方法は、過酸化水素中に粒状スラグを所定時間浸漬させる方法である。浸漬時間はスラグのサイズによっても変化するが、およそ2時間浸漬させればよい。下記の(1)式に、過酸化水素(H22 )とスラグ中の酸化カルシウム(CaO)とが反応して過酸化カルシウム(CaO2)が生成する反応式を示す。過酸化水素中に粒状スラグを所定時間浸漬させたなら、粒状スラグを引き上げ乾燥させる。かくして、本発明に係る酸素発生剤が製造される。
【0024】
【数1】

【0025】
このように、本発明に係る酸素発生剤は、副産物である金属の製錬スラグまたは精錬スラグを原料としているので、極めて安価に製造することができる。
【0026】
本発明に係る酸素発生剤の用途としては、特に、湖沼及び海域などの貧酸素水域の改善剤として使用することが好適である。つまり、本発明に係る酸素発生剤を貧酸素水域に所定量の厚みになるように敷設する或いは散布するなどすることで、スラグ中の過酸化化合物から発生する酸素が水に溶け出し、溶存酸素濃度が上昇して貧酸素状態を解消することができる。これは、本発明に係る酸素発生剤では、酸素供給源である過酸化化合物がスラグの内部にも形成されており、その周囲にはシリケートなどの非過酸化化合物が存在し、該酸素発生剤を水中に埋没させた場合、スラグは崩壊せず、過酸化化合物の大半は水と直接接触することがなく、その結果、過酸化化合物の分解が長期間にわたって持続するので、水中に持続して酸素を供給することができるからである。
【0027】
つまり、本発明に係る酸素発生剤を貧酸素水域の改善目的で使用すれば、持続的な酸素の供給が行われ、底質改善を図ることが可能となる。また、原料であるスラグは密度が3000kg/m3 以上あり、水域底部に安定して存在することが可能である。更に、大きさは最大で直径80mm程度まで調製可能であり、様々な条件の水域に対応可能である。酸素発生剤自体が安価であることから、環境浄化に適した方法といえる。
【0028】
また更に、金属の製錬または精錬で発生するスラグには、微生物を始めとして生物に有用な成分が含まれていることから生物体を増殖させる機能があり、酸素を供給し終えた後も環境に有用な作用・効果を発揮し、環境に悪影響を与えることは全くない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の製錬または精錬で発生したスラグを過酸化処理して得たものであることを特徴とする酸素発生剤。
【請求項2】
金属の製錬または精錬で発生したスラグを冷却して固化するとともに粒状化し、該スラグを過酸化処理することを特徴とする、酸素発生剤の製造方法。
【請求項3】
前記過酸化処理が、スラグを酸素ガスの存在下で加熱する処理であることを特徴とする、請求項2に記載の酸素発生剤の製造方法。
【請求項4】
前記過酸化処理が、過酸化水素中でスラグと過酸化水素とを反応させる処理であることを特徴とする、請求項2に記載の酸素発生剤の製造方法。

【公開番号】特開2007−238356(P2007−238356A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60629(P2006−60629)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】