説明

醤油標準色及び醤油標準色の製造方法

【目的】 濃口醤油から淡口醤油の領域に亘って1種類の標準色を用いて精度よく色度を測定する。
【構成】 濃口醤油或いは淡口醤油等の複数種の醤油の分光透過率を測定し、これら各醤油の分光透過率の所定の波長におけるY値が一致するように計算して統一標準色モデルを作成し、次いで所定の色素を用い、例えばシンプレックス法で統一標準色モデルに近似する色素液を調製し、この色素液をそのまま或いは希釈して標準色とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は醸造醤油の標準色(色番を決める色素液)とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の醤油標準色は、C.I.E.表示法(国際照明委員会)に基づいて、分光測定法により同一仕込みによる新古順位をなす一連の醤油について各液毎に色調鮮度xy及び明度Yを測定し、その数値によって色度を決定し、その色度を連ねて標準色度変化線を求め、次にエヒトロート、エヒトブラウンの各溶液の混合ニグロシン溶液の配合によって標準色度変化線上におけるいくつかの特定の色度の数値に該当する着色液を作製し、得られた各着色液を混合して標準色としている。(特公昭34−398号)
【0003】しかしながら、上述の標準色では現在市販されている多種の醤油の色調調整には充分に対処することができず、また分光測定に用いる光源によって標準色と実際の醤油との測定結果が大きくズレてしまう。
【0004】そこで、本出願人は特公昭55−10861号として、使用光源に左右されずに醤油と色が一致して観測される標準色を提案している。この標準色は、Acid Yellow 44, Mordant Orange 6, Acid Red 88, Acid Blue 83, Direct Blue 78及びAcid Blue 127のうちの4〜6種の色素をトルエン飽和水に溶解して各種醤油の分光特性に近似した分光特性を持つようにしたものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述した特公昭55−10861号に開示される標準色は、該特許公報に引用された分光透過率の醤油に対してはかなり一致した色を再現できるが、他の種類の醤油に対しては適用することができない場合がある。即ち、該公報の特許請求の範囲に記載した4〜6種類の色素のうち、黄色味を示すアシド・イエロー44は必ずしも使用しなくともよいとなっているが、種々の醤油の標準色を調製する際には黄色味を必要とすることが多く、色素の選択が引用された醤油の分光透過率に偏っていたことが考えられる。このことから、該特許が目的としている醤油分光透過率に近似することができなくなる場合(多くは濃口から淡口領域)が生じる。つまり、醤油を大きく分けると濃口醤油、淡口醤油及び白醤油に分けられるが、特公昭55−10861号では濃口醤油、淡口醤油及び白醤油についてそれぞれの標準色原液を作製しなければならず、最近では濃口醤油や淡口醤油のうちでも多種類の醤油が出回り、対応できなくなってきている。その主な理由としては、使用する色素が4〜6種類と少ないことから、特定の波長領域(580nm付近)において醤油の分光透過率への近似が低下してしまい、それを調節できる色素が欠落しているためと考えられる。このような場合には、近似の悪い波長領域を改善できる色素を選択(そのものの分光透過率から経験的に判断)し、補正用色素として新たに加えることが必要となるが、必ずしも経験的補正が成功するとは限らない。多種類の醤油に共通的に使用できる色素からなり、しかも補正が少なく、且つ色素の製造ロットの変動にも強い新たな標準色の調製法の確率が望まれている。
【0006】また、標準色を用いず簡便な光学装置としての醤油色度計によって醤油の色度を測定する方法が特開平2−216020号として提案されているが、従来の標準色ではそのような光学装置による測色結果との一致度については全く考慮がなされていなかった。しかも醤油色度計の較正には醤油の分光透過率に精度よく近似した標準色の開発が求められている。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決すべく本願の第1発明に係る醤油標準色は必須の色素として、Suminol Fast Blue R.(AB 117)、 Nigrosine NB Conc.(ABla 2)、Suminol Fast Yellow G.(AY 61)、Nippon Orange GG Conc.(DO6)、Benzopurpurine 4B.(DR 2)、Nippon Bordeaux GSA.(DR 13)Sumilight Red F3B.(DR 80)、 Chrome Fast Orange GR 200%(MO6)及びSunchromine Fast Yellow 5G.(MY 23)の色素全てを、また任意の色素として、Brilliant Indocyanine 6Bh/c(AB 83)、パラチン ブラック WAN.(ABla 52)、チューガシット ルビノール 3GA 200%(AR57)、Sumiacryl Red NGRL.(BO 33)、AIZEN CATHILON Red 6BH.(BV 7)、ソロフニール ブルー BL(DB 106)、Sumilight Supra Brown 3RL(DR 84)、Suminol Milling Green G.(G)及びSuminol Milling Brilliant Green 5G.(5G)のうちの0又は1種以上の色素を溶媒液に溶解せしめて作製した。
【0008】また、本願の第2発明に係る醤油標準色の製造方法は、濃口醤油或いは淡口醤油等の複数種の醤油の分光透過率を測定し、これら各醤油の分光透過率の所定の波長における透過率から求めたY値が一致するように計算して得た分光透過率より、それらを代表し得る分光透過率として統一標準色モデルを作成し、次いで、上記に記載の色素を用い、例えばシンプレックス法により色素配合計算を行い、統一標準色モデルに近似する色素液を調製し、この色素液をそのまま或いは希釈して標準色とするようにした。
【0009】
【作用】同一条件で濃口醤油或いは淡口醤油の分光透過率を測定した場合には、各醤油の分光透過率曲線は異なることから、従来は醤油の種類ごとに標準色を調製することが一般的であったが、例えば淡口醤油の分光透過率を測定する際の光路長を調整(濃口醤油の場合より長くする)する等の手段によって各醤油の分光透過率の所定の波長におけるY値を一致せしめると、各醤油の分光透過率を代表して扱える1つの統一標準色モデルが作製できた。
【0010】
【実施例】以下に本発明の実施例を述べる。先ず合計191の醤油サンプルを用意した。これらサンプル中には濃口火入■、濃口火入■、濃口液汁、濃口生、淡口火入、淡口生及び白の各醤油が含まれていた。
【0011】上記の合計191の醤油サンプルごとに400nm〜700nmの範囲において10nm間隔で光路長2mmのキュベットを用いて測色し、各醤油サンプルごとに分光透過率を測定した。次いで、各醤油サンプルの分光透過率を上記7種類の各醤油ごとに纏め、平均値を計算した。その結果を図1のグラフに示す。
【0012】上記7種類の各醤油ごとに纏めた平均分光透過率を示す曲線全てが一定のY値(0.1065)となるように光路長の補正計算をした。Y値を一定にする計算処理は、各醤油の測定時の光路長を計算上調節(淡口醤油の場合は光路長を濃口醤油の場合より長く設定)することで行なった。また計算処理した結果を図2のグラフに示す。
【0013】図2のグラフからは濃口火入■の平均分光透過率が白醤油を除く他の醤油の平均分光透過率のほぼ中央に位置していることが分った。そこで、濃口火入■の平均分光透過率を本実施例では統一標準色モデルとして選定した。
【0014】次いで、上記統一標準色モデルの平均分光透過率に近似する色素液を調製する。色素の配合例を決定するにあたっては、先ず耐候性、化学的安定性を確認した色素を選択しておく。そして、各色素ごとに濃度の異なる色素液を調製(45%エタノールあるいはトルエン飽和液に溶解)し、光路長2mmのキャベットにて分光透過率を測定する。次に、図3に示すフローチャートにしたがって色素配合を行った。色素配合計算では、各色素ごとに初期値を決め、その濃度に近い分光透過率を用いて計算を始める。計算の経過に従い、色素の配合濃度が変化するが、得られた配合濃度と計算に使用している色素濃度が離れる場合には逐次計算に使用する分光透過率を入れ替える。フローチャート中のシンプレックス法の計算基準は、統一標準色モデルの平均分光透過率に対する全波長誤差を最小とし、混色の計算はBeerの法則を用いた。このようにして得られた色素の配合の一例を(表1)に示す。尚、(表1)において、標準色原液■はY値を0.1065に一致させた場合のもの、標準色原液■はY値を0.6522に一致させた場合のものである。
【0015】
【表1】


【0016】上記の色素のうち、Suminol Fast Blue R.(AB 117)、Nigrosine NB Conc.(ABla 2)、Suminol Fast Yellow G.(AY 61)、Nippon Orange GG Conc.(DO 6)、Benzopurpurine 4B.(DR 2)、Nippon BordeauxGSA.(DR 13)、Sumilight Red F3B.(DR 80)、Chrome Fast OrangeGR 200%(MO 6)、Sunchromine Fast Yellow 5G.(MY 23)については必須の色素であるが、Brilliant Indocyanine 6Bh/c(AB 83)、パラチン ブラック WAN.(ABla 52)、チューガシット ルビノール 3GA 200%(AR 57)、Sumiacryl Red NGRL.(BO 33)、AIZEN CATHILON Red 6BH.(BV 7)、ソロフニール ブルー BL(DB 106)、Sumilight Supra Brown 3RL(DR 84)、Suminol Milling Green G.(G)、Suminol Milling Brilliant Green 5G.(5G)については必ずしも全て配合しなくとも充分に統一標準色モデルの平均分光透過率に近い平均分光透過率を有する色素液を調製することができる。
【0017】図4は上記によって得られた色素液■の分光透過率と、色素液を希釈した液■の分光透過率を示すグラフであり、色素液■の分光透過率は前記濃口火入■の平均分光透過率によく一致し、希釈した液■の分光透過率は前記淡口生の平均分光透過率によく一致することが分る。したがって、上記によって得られた色素液を希釈することで、濃口醤油から淡口醤油の領域に亘って1種類の色素液(標準色)を用いることができる。
【0018】また、上記によって得られた醤油標準色を用いて試料(醤油)の色度を測定するには、例えば図5に示すように、3本のキュベット1,2,3のうちの中央のキュベット2に試料を入れ、両脇のキュベット1,3には濃淡異なる標準色を入れ、光源箱4内に収めた白色光源5によって照明される白紙6を背景にして比色を行う。
【0019】
【発明の効果】以下の(表2)は統一標準色モデル、この統一標準色モデルを基準として作製した標準色及び実際の濃口醤油及び淡口醤油の分光透過率の測定結果を示すものである。尚、(表2)において標準色原液■は(表1)の場合と同様である。
【0020】
【表2】


【0021】(表2)からも明らかなように、濃口醤油から淡口醤油の領域に亘って1種類の標準色を用意すれば足り、標準色の管理及び使用が極めて簡単になる。しかも、(表1)に示す色素は種々の醤油に対応できるように選ばれていることから、従来の方法では多くの労力と時間を必要とした補正作業が殆どいらなくなった。尚、(表2)からは濃口醤油から淡口醤油にかけての領域には標準色原液■を、淡口醤油から白醤油にかけての領域には標準色原液■を用いることが好ましいと言えるが、従来の標準色と比較した場合にはカバーできる領域が大幅に広がっている。また、分光特性を測定する際の光源がC光源でなくとも安定した測定結果が得られ、更に醤油色度計等を使用する場合にはこれらの機器の較正に本発明に係る標準色を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】各種醤油の分光透過率を表すグラフ
【図2】各種醤油の分光透過率から計算して得られた統一標準色モデルを示すグラフ
【図3】統一標準色モデルから標準色を作製するフローチャート
【図4】標準色を希釈した液の分光透過率を表すグラフ
【図5】本発明に係る標準色の使用例を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】 必須の色素として以下のA群の色素全てを、任意の色素として以下のB群のうちの0又は1種以上の色素を溶媒液に溶解せしめてなる醤油標準色。
(A群;カッコ内は色素記号)
Suminol Fast Blue R.(AB 117)
Nigrosine NB Conc.(ABla 2)
Suminol Fast Yellow G.(AY 61)
Nippon Orange GG Conc.(DO 6)
Benzopurpurine 4B.(DR 2)
Nippon Bordeaux GSA.(DR 13)
Sumilight Red F3B.(DR 80)
Chrome Fast Orange GR 200%(MO 6)
Sunchromine Fast Yellow 5G.(MY 23)
(B群;カッコ内は色素記号)
Brilliant Indocyanine 6Bh/c(AB 83)
パラチン ブラック WAN.(ABla 52)
チューガシット ルビノール 3GA 200%(AR 57)
Sumiacryl Red NGRL.(BO 33)
AIZEN CATHILON Red 6BH.(BV 7)
ソロフニール ブルー BL(DB 106)
Sumilight Supra Brown 3RL(DR 84)
Suminol Milling Green G.(G)
Suminol Milling Brilliant Green 5G.(5G)
【請求項2】 複数種の醤油の分光透過率を測定し、これら各醤油の分光透過率の所定の波長における透過率から求めたY値が一致するように計算して得た分光透過率より、それらを代表し得る分光透過率として統一標準色モデルを作成し、次いで、請求項1に記載の色素を用いて統一標準色モデルに近似する色素液を調製し、この色素液をそのまま或いは希釈して標準色とするようにした醤油標準色の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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