説明

重力鋳造方法

【課題】歩留まり性の改善が可能であり、安価で且つ従来と同等品質の鋳造製品を作ることが可能な重力鋳造方法を提供する。
【解決手段】この重力鋳造方法は、キャビティ14の上方に該キャビティ14に連通する押湯部16を備える成形型1を水平の状態にして、該キャビティ14に連通する湯道12から溶湯3を注湯する工程と、前記注湯中に前記湯道12に湯が満たされた段階から、前記成形型1を所定角度に傾斜させた状態にして、溶湯を注湯しながら前記キャビティ14および押湯部16内に行き渡らせる工程と、注湯が完了した後に、前記成形型1を水平の状態に戻して、溶湯を凝固させる工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重力鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用ナックル等に例示される部品は、一般に鋳鉄やアルミニウムあるいはアルミニウム合金を基材として、重力鋳造方法によって鋳造されている。重力鋳造方法は、成形型の湯道からキャビティに溶湯を流し込んで鋳造する際に、押湯部に充填された溶湯の重量(重力)を利用してキャビティ全体に溶湯を充填させるようにする鋳造方法である。
従来の重力鋳造方法として、成形型を水平状態に保持して鋳造を行う定置鋳造法や、溶湯を注湯した後に成形型を所定角度回転させた状態に保持して凝固させる反転鋳造法、あるいは、成形型を傾動させたり、振動させたりする鋳造方法が知られている(特許文献1参照)。しかし、特許文献1に記載されるように、キャビティ等に注湯された溶湯を冷却し、凝固させる工程を、成形型を傾動させつつ、振動させて行うこととすると、成形型が水平の状態になっていないため、特に、押湯部内の溶湯(押湯)の重力作用によりキャビティ内の全ての先端部に溶湯を行き渡らせるという効果が発揮され難い課題が生じ得る。加えて、鋳造装置に加振機構を設けなければならないこととなると、装置コストの上昇が避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−193262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先ず、従来の実施形態に係る重力鋳造方法について説明する。例えば、図7に示す定置鋳造法では、成形型101を水平状態に保持し、湯道112から注湯した溶湯(溶融金属)103を、押湯部116に充填される溶湯の重力によってキャビティ114内の先端にまで行き渡るように充填した後、充填した溶湯を冷却して凝固させることにより、製品が鋳造される。この際に、鋳造製品には、湯道112の流路等に充填された溶湯が冷却されて形成された金属塊(以下、「非製品部」という)が付着している。
かかる非製品部は、鋳造製品から切り落とすことが必要となる部分であって、当該非製品部が大きい程、歩留まり性が悪化するため、可及的に小さくすることが要求されている。
【0005】
ここで、従来の定置鋳造法において、上記非製品部を小さくして歩留まり性の改善を図ろうとすると、次の二つの方法が考えられる。第一の方法として、図8に示すように、単純に湯道112の長さを短縮して、非製品部を小さくする方法である。しかし、同図から明らかなように、単純に湯道112の長さを短縮すると、注湯口110の高さが押湯部116の上端部の高さよりも低くなって当該押湯部116まで溶湯が充填されないため、キャビティ114の先端にまで行き渡らせるのに必要となる押湯量を確保できない問題が生じ得る。第二の方法として、図9に示すように、湯道112の傾斜角度γを通常の角度βよりも急峻にする(γ>β)ことによって、押湯部116の上端部まで溶湯が充填されるために必要な注湯口110の高さを確保しつつ、湯道112の長さを短縮する方法である。これによれば、押湯部116の上端部まで溶湯が充填されるため必要となる押湯量を確保できる。しかし、湯道112の傾斜角度が急峻になると、キャビティ114内に溶湯が流れ込む際に乱流が生じて、製品部分(特に、同図中の破線円部)にブローや酸化物が発生する問題が生じ得る。
【0006】
一方、図10に示す反転鋳造法では、同図のように押湯部116とキャビティ114との間に湯道112を設けることで、押湯部116およびキャビティ114に溶湯103が充填された段階で、成形型101を所定角度(ここでは90°)回転させ、その状態に保持して、充填した溶湯を冷却して凝固させることにより、製品が鋳造される。この場合、押湯部116とキャビティ114との間に湯道112を設けることで、単純形状の製品によっては、非製品部を小さくすることも可能である。しかし、成形品の形状が例えば自動車用ナックル等のように、アームが放射状に伸びる複雑な形状の場合、アーム毎に押湯部を設けなければならない問題が生じ得る。その結果、歩留まり性が悪化することとなり得る。
【0007】
上記の通り、重力鋳造方法において、特に、前記自動車用ナックルのような成形品の形状が放射状に伸びて形成される製品を鋳造しようとすると、その先端にまで溶湯を行き渡らせなければならない。しかし、定置鋳造法の場合には、押湯部を必要以上に大きく形成したり、もしくは湯道を必要以上に長く形成したりしなければ、成形型の先端にまで溶湯を行き渡らせることが可能な押湯量を確保できなかった。そのため、歩留まり性が悪いという課題があった。ここで、湯道を短く、角度を急角度にすると、歩留まり性は改善される反面、溶湯に乱流が生じて製品部分にブローや酸化物が発生するおそれがあった。
一方、反転鋳造法の場合には、成形品の形状によっては、押湯部を複数個所設ける必要が生じる等、歩留まり性が悪いという課題があった。
また、特許文献1のように、成形型を傾斜した状態から徐々に水平にしながら溶湯を注湯する鋳造方法の場合には、成形品の形状によっては、溶湯を成形型の先端にまで行き渡らせることが難しいという課題があった。
【0008】
上記事情に鑑み、歩留まり性の改善が可能であり、安価で且つ従来と同等品質の鋳造製品を作ることが可能な重力鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態として、以下に開示するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0010】
開示の重力鋳造方法は、キャビティの上方に該キャビティに連通する押湯部を備える成形型を水平の状態にして、該キャビティに連通する湯道から溶湯を注湯する工程と、前記注湯中に前記湯道に湯が満たされた段階から、前記成形型を所定角度に傾斜させた状態にして、溶湯を注湯しながら前記キャビティおよび押湯部内に行き渡らせる工程と、注湯が完了した後に、前記成形型を水平の状態に戻して、溶湯を凝固させる工程と、を備えることを特徴とする。
これによれば、成形品が放射状の片を有した複雑な形状であっても、溶湯をキャビティ内に行き渡らせることができ、湯回り不良や引け巣を低減し、成形品の品質を維持できる。また、必要以上に押湯部を大きくしたり、必要以上に湯道を長くしたり湯道を傾斜させる必要がなく、ブローや酸化物の発生を抑え、また、歩留まり性が悪くならない。
【0011】
また、前記成形型を水平の状態に戻す工程を、前記湯道の湯が流動しない程度に凝固する所定時間の経過後に行うことを特徴とする。
これによれば、時間の管理で成形型を水平状態に戻す動作(以下、「ターンバック」という)を行うので、成形品の品質をより維持することができる。
【0012】
また、前記成形型を水平の状態に戻す工程を、前記成形型の温度を測定して、該温度が所定温度まで低下した後に行うことを特徴とする。
これによれば、成形型の温度の管理でターンバックを行うので、成形品の品質をより維持することができる。
このとき、前記成形型の温度として、前記成形型の前記湯道の温度を測定し、当該温度を監視することで、より成形品の品質を向上することができる。
あるいは、前記成形型の温度として、前記成形型の前記押湯部の温度を測定し、当該温度を監視することで、より成形品の品質を向上することができる。
【0013】
また、前記成形型を水平の状態に戻す工程を、前記成形型における前記湯道の温度と前記押湯部の温度との温度差が所定値以上となった後に行うことを特徴とする。
これによれば、成形型の温度の管理でターンバックを行うので、成形品の品質をより維持することができる。また、当該温度差を監視することで、より成形品の品質を向上することができる。
【0014】
また、前記成形型を水平の状態に戻す工程を、前記成形型内の溶湯の温度を測定して、該温度が所定温度まで低下した後に行うことを特徴とする。
これによれば、溶湯の温度の管理でターンバックを行うので、成形品の品質をより維持することができる。
【0015】
また、前記湯道の流路は、途中の一部分が他の部分よりも狭く形成されていることを特徴とする。
これによれば、ターンバック時に溶湯が注湯口側に戻りにくくなり、湯周り不良や引け巣を低減することができる。
【0016】
また、注湯が完了した後に、前記成形型を水平の状態に戻す工程を行う前に、前記湯道の注湯口側を冷却する工程を備えることを特徴とする。
これによれば、注湯口側の成形型を冷やすことでターンバック時に溶湯が注湯口側に戻りにくくなり、湯周り不良や引け巣を低減することができる。
【0017】
また、注湯が完了した後に、前記成形型を水平の状態に戻す工程を行う前に、前記湯道内の注湯口側の溶湯を冷却する工程を備えることを特徴とする。
これによれば、注湯口側の溶湯を冷やすことでターンバック時に溶湯が注湯口側に戻りにくくなり、湯周り不良や引け巣を低減することができる。
【0018】
また、注湯が完了した後に、前記成形型を水平の状態に戻す工程を行う前に、前記湯道の注湯口を閉塞する工程を備えることを特徴とする。
これによれば、注湯口を塞ぐことでターンバック時に溶湯が注湯口側に戻りにくくなり、湯周り不良や引け巣を低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
開示の重力鋳造方法によれば、歩留まり性の改善が可能となり、安価で且つ従来と同等品質の鋳造製品を作ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る重力鋳造方法の例を説明するための説明図である。
【図2】本発明の第二の実施形態に係る重力鋳造方法に用いられる成形型の例を示す概略図である。
【図3】本発明の第三の実施形態に係る重力鋳造方法に用いられる成形型の例を示す概略図である。
【図4】本発明の第四の実施形態に係る重力鋳造方法の例を説明するための説明図である。
【図5】本発明の第五の実施形態に係る重力鋳造方法の例を説明するための説明図である。
【図6】本発明の第六の実施形態に係る重力鋳造方法の例を説明するための説明図である。
【図7】従来の実施形態に係る重力鋳造方法を説明するための説明図である。
【図8】従来の実施形態に係る重力鋳造方法を説明するための説明図である。
【図9】従来の実施形態に係る重力鋳造方法を説明するための説明図である。
【図10】従来の実施形態に係る重力鋳造方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の第一の実施形態に係る重力鋳造方法について説明する。
先ず、図1(a)に示す様に、成形型1における湯道12の注湯口10から、ラドル2の溶湯3を注湯する。注湯した溶湯は、湯道12の溶湯流路を通過して、当該湯道12に連通するキャビティ14に充填される。このとき、同図1(a)に示す様に、湯道12が溶湯で充填されるまで注湯する。なお、本実施形態においては、溶湯(溶融金属)として、アルミニウム合金を用いる場合を例に挙げて説明する。
【0022】
ここで、本実施形態に係る重力鋳造方法において用いる成形型1は、従来の定置鋳造法で必要な湯道と比較して傾斜角度を変更することなく長さが短縮された形状の湯道12を有している。これによれば、製品鋳造完了後に湯道12部分に金属塊として形成される非製品部を可及的に小さくすることが可能となり、歩留まり性を改善することが可能となる。しかしながら、注湯口10の高さが押湯部16の上端部の高さよりも低い形状となっており、湯道12が溶湯で充填された段階では、キャビティ14に連通する押湯部16まで溶湯が充填されず、本来必要な押湯量が確保できない(図1(a)参照)。
【0023】
そこで、本実施形態に係る重力鋳造方法においては、湯道12が溶湯で充填されるまで注湯した後、図1(b)に示す様に、成形型1を所定角度αに傾斜させた状態とする。当該角度αは、湯道12の注湯口10の位置が、押湯部16の上端部の位置以上に高い位置となるように設定する。またこの際、成形型1を水平状態から所定角度αの傾斜状態となるまで傾動させながら注湯を行う。この状態で、湯道12が溶湯で充填されるまで注湯する。
【0024】
次に、押湯によってキャビティ14内の全ての先端部に溶湯を行き渡らせる効果を発揮させるために、注湯が完了した後に、押湯部16内と湯道12内の溶湯の状態の最適のタイミングで、成形型1のターンバックを行う。すなわち、図1(c)に示す様に、成形型1を水平状態に戻して溶湯を凝固させる工程を行う。
【0025】
本実施形態に係る重力鋳造方法においては、以下に示す特徴的な工程を備える。具体的には、湯道12内の溶湯が冷却されて、当該溶湯が流動しない程度の凝固状態(固体状として取り扱うことのできる半凝固状態を含む)となったときに、図1(c)に示す様に、ターンバックを行う。これにより、前記逆流出の課題解決が可能となり、成形型1を水平状態に戻しても溶湯が注湯口10から溢れないようにすることができる。
なお、固体状で取り扱うことのできる半凝固状態とは、固液共存状態であって、流動性を殆ど呈しない固体状として取り扱うことのできる状態をいう。すなわち、半凝固状態は、液体状態と固体状態との中間領域をいうが、液状に近い流動性を呈する半凝固状態から流動性を殆ど呈しない固体に近い半凝固状態とが存在する。したがって、本実施形態においては、かかる半凝固状態のうち、流動性を殆ど呈しない固体状で取り扱うことのできる半凝固状態を含む趣旨である。一例として、溶湯として規格がAC4CH(JIS規格)のアルミニウム合金を用いる場合には、固体状で取り扱うことのできる半凝固状態は、温度が約570〜600℃の領域である。
【0026】
ターンバックを行う工程の第一例として、湯道12内の溶湯の温度を測定して、溶湯の温度が凝固状態となる所定温度まで低下した段階でターンバックを行う方法が考えられる。これによれば、溶湯の温度管理によってターンバックが可能となるため、成形品を高品質に維持することが可能となる。
なお、変形例として、予めテスト鋳造の実施等によって、湯道12内の溶湯の温度とキャビティ14内の溶湯の温度との相間関係を求めておけば、キャビティ14内の溶湯の温度を測定することによっても、湯道12内の溶湯の温度が凝固状態となる所定温度まで低下した段階を判定できる。
【0027】
ターンバックを行う工程の第二例として、湯道12の湯が流動しない程度に凝固する所定時間を、予めテスト鋳造の実施等によって求めておき、溶湯の注湯完了からの当該所定時間が経過した後に、ターンバックを行う方法が考えられる。これによれば、時間管理によってターンバックが可能となるため、成形品の均質化が図られ、高品質に維持することが可能となる。
【0028】
ターンバックを行う工程の第三例として、湯道12の湯が流動しない程度に凝固するときの成形型1の温度を、予めテスト鋳造の実施等によって求めておき、成形型1の温度が当該所定温度まで低下した後に、ターンバックを行う方法が考えられる。
この場合、成形型1の温度として、湯道12部分の温度を測定する方法や、押湯部16部分の温度を測定する方法等が考えられる。溶湯の温度を直接測定することが難しい場合に、有効な方法である。
【0029】
ターンバックを行う工程の第四例として、湯道12の湯が流動しない程度に凝固するときの成形型1における湯道12の温度と押湯部16の温度との温度差を、予めテスト鋳造の実施等によって求めておき、当該温度差が当該所定値以上となった後に、ターンバックを行う方法が考えられる。
ちなみに、通常は、上記温度差は時間の経過と共に拡大していく傾向を示し、換言すれば、湯道12内の溶湯が先に凝固することとなる。
【0030】
以上のように、溶湯の注湯が終了した後、上記ターンバックを行う工程が実施されて、成形型1が水平となった状態でキャビティ14等に注湯された溶湯を冷却し、凝固させる工程が実施される。これによれば、成形品が自動車用ナックル等のように放射状の片を有する複雑な形状の場合であっても、押湯部16内の溶湯(押湯)によってキャビティ内の全ての先端部に溶湯を行き渡らせる効果が発揮される。したがって、湯回り不良や引け巣を低減することができ、成形品の品質を従来の定置鋳造法による重力鋳造方法によって鋳造された製品と同等品質に維持することが可能となる。また、キャビティ14の溶湯の冷却の際に、特に溶湯(溶融金属)がアルミニウム合金等の場合には当該溶湯の体積が収縮して隙間が形成されるが、その隙間に押湯部16内の溶湯(押湯)が流入して補充されるため、鋳造される製品に湯回り不良や引け巣等の不良が発生することを防止できるという効果が発揮される。
【0031】
続いて、本発明の第二の実施形態に係る重力鋳造方法について説明する。
本実施形態に係る重力鋳造方法は、図2に示すように、湯道12近傍に熱電対18を有する成形型1を用いて、前述の第一の実施形態に係る重力鋳造方法で説明した工程を実施する。
これによれば、湯道12近傍の温度を監視することで、湯道12内の溶湯の温度が凝固状態となる所定温度まで低下した段階を判定できるため、当該温度管理によってターンバックが可能となり、成形品を高品質に維持することが可能となる。
【0032】
続いて、本発明の第三の実施形態に係る重力鋳造方法について説明する。
本実施形態に係る重力鋳造方法は、図3(a)、3(b)に示すように、湯道12の流路において、途中の一部分が他の部分よりも狭く形成されている絞込み部Aを有する成形型1を用いて、前述の第一の実施形態に係る重力鋳造方法で説明した工程を実施する。ここで、図3(b)は、図3(a)中の破線円部の拡大図である。
これによれば、当該絞込み部A内の溶湯は、流路の他の部分内の溶湯よりも単位長さ当りの容積が小さいため、凝固が促進される。絞込み部A内で凝固した溶湯は、ターンバック時の逆流防止栓として作用する。すなわち、湯道12内の溶湯が流動しない程度の凝固状態となった段階で行われるターンバック工程を早期に開始することが可能となる。その結果、水平状態で得られる押湯部の押湯効果を早期に発揮させることができ、湯回り不良や引け巣等の製品不良を低減することが可能となる。また、タクトタイムを短縮できるため、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0033】
続いて、本発明の第四の実施形態に係る重力鋳造方法について説明する。
本実施形態に係る重力鋳造方法は、前述の第一の実施形態に係る重力鋳造方法で説明した工程を備えるが、さらに、注湯が完了した後に、成形型1を水平の状態に戻す工程を行う前に、湯道12内の注湯口10側の溶湯を冷却する工程を備えることを特徴とする。
これによれば、注湯口10側の溶湯の凝固が促進される。湯道12内で凝固した溶湯は、ターンバック時の逆流防止栓として作用する。すなわち、湯道12内の溶湯が流動しない程度の凝固状態となった段階で行われるターンバック工程を早期に開始することが可能となる。その結果、水平状態で得られる押湯部16の押湯効果を早期に発揮させることができ、湯回り不良や引け巣等の製品不良を低減することが可能となる。また、前述の第三の実施形態に係る重力鋳造方法と比較して、より一層タクトタイムを短縮できるため、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0034】
湯道12内の注湯口10側の溶湯を冷却する工程の第一例として、注湯口10内の溶湯に向けて送風を行い、溶湯を直接的に冷却して、凝固させる方法が考えられる。
【0035】
湯道12内の注湯口10側の溶湯を冷却する工程の第二例として、湯道12の注湯口10側を冷却することによって、溶湯を間接的に冷却して、凝固させる方法が考えられる。
具体的には、図4に示すように、成形型の湯道12の注湯口10近傍に冷却孔20を設け水もしくは空気を通流させることによって、当該注湯口10近傍を冷却し、内部の溶湯から熱を奪う方法が考えられる。
【0036】
続いて、本発明の第五の実施形態に係る重力鋳造方法について説明する。
本実施形態に係る重力鋳造方法は、前述の第一の実施形態に係る重力鋳造方法で説明した工程を備えるが、さらに、注湯が完了した後に、成形型1を水平の状態に戻す工程を行う前に、成形型1の湯道12の注湯口10近傍に鉄等の材料からなる冷やし金5を当接させる工程を備えることを特徴とする(図5参照)。
これによれば、冷やし金5によって、注湯口10近傍が冷却され、内部の溶湯から熱が奪われるため、注湯口10側の溶湯の凝固が促進される。したがって、前記第四の実施形態と同様に、ターンバック工程を早期に開始することが可能となる効果が得られる。
【0037】
続いて、本発明の第六の実施形態に係る重力鋳造方法について説明する。
本実施形態に係る重力鋳造方法は、前述の第一の実施形態に係る重力鋳造方法で説明した工程を備えるが、さらに、注湯が完了した後に、成形型1を水平の状態に戻す工程を行う前に、湯道12の注湯口10を閉塞する工程を備えることを特徴とする。
【0038】
より具体的には、所定角度α(前述)で傾斜させた状態の成形型1にラドル2から溶湯3を注湯し(図6(a)参照)、注湯が完了した後に、溶湯が逆流出する隙間が生じないように注湯口10を蓋部材4によって閉塞し(図6(b)参照)、その直後に、湯道12内の溶湯の凝固とは関係なく、前述のターンバック工程を行う(図6(c)参照)。
【0039】
これによれば、湯道12内の溶湯の凝固を待つことなく、注湯が完了した後に、即座にターンバック工程を開始することが可能となる。その結果、水平状態で得られる押湯部16の押湯効果を早期に発揮させることができ、湯回り不良や引け巣等の製品不良を低減することが可能となる。また、前述の第四、第五の実施形態に係る重力鋳造方法と比較して、より一層タクトタイムを短縮できるため、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0040】
以上説明した通り、開示の重力鋳造方法によれば、従来の定置鋳造法で必要な湯道と比較して、傾斜角度βを急角度に変更することなく長さが短縮された形状の湯道を有する成形型であっても、押湯部内の全体に溶湯を充填させることが可能となり、キャビティの先端にまで溶湯を行き渡らせるのに必要となる押湯量を確保できる。
また、押湯の重力によって、キャビティの先端にまで溶湯を行き渡らせる作用を効果的に発揮することができ、湯回り不良や引け巣等の製品不良を低減することが可能となるため、歩留まり性の改善が可能となる。
また、成形品が自動車用ナックル等のように放射状の片を有する複雑な形状の場合であっても、成形品の品質を従来の定置鋳造法による重力鋳造方法によって鋳造された製品と同等品質に維持することが可能となり、コストも安価に抑えることが可能となる。
【0041】
なお、本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。特に、溶湯(溶融金属)として、アルミニウム合金を用いる場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0042】
1 成形型
2 ラドル
3 溶湯
4 蓋部材
5 冷やし金
10 注湯口
12 湯道
14 キャビティ
16 押湯部
18 熱電対
20 冷却孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティの上方に該キャビティに連通する押湯部を備える成形型を水平の状態にして、該キャビティに連通する湯道から溶湯を注湯する工程と、
前記注湯中に前記湯道に湯が満たされた段階から、前記成形型を所定角度に傾斜させた状態にして、溶湯を注湯しながら前記キャビティおよび押湯部内に行き渡らせる工程と、
注湯が完了した後に、前記成形型を水平の状態に戻して、溶湯を凝固させる工程と、を備えることを特徴とする重力鋳造方法。
【請求項2】
請求項1記載の重力鋳造方法において、
前記成形型を水平の状態に戻す工程を、前記湯道の湯が流動しない程度に凝固する所定時間の経過後に行うことを特徴とする重力鋳造方法。
【請求項3】
請求項1記載の重力鋳造方法において、
前記成形型を水平の状態に戻す工程を、前記成形型の温度を測定して、該温度が所定温度まで低下した後に行うことを特徴とする重力鋳造方法。
【請求項4】
請求項3記載の重力鋳造方法において、
前記成形型の温度として、前記成形型の前記湯道の温度を測定することを特徴とする重力鋳造方法。
【請求項5】
請求項3記載の重力鋳造方法において、
前記成形型の温度として、前記成形型の前記押湯部の温度を測定することを特徴とする重力鋳造方法。
【請求項6】
請求項1記載の重力鋳造方法において、
前記成形型を水平の状態に戻す工程を、前記成形型における前記湯道の温度と前記押湯部の温度との温度差が所定値以上となった後に行うことを特徴とする重力鋳造方法。
【請求項7】
請求項1記載の重力鋳造方法において、
前記成形型を水平の状態に戻す工程を、前記成形型内の溶湯の温度を測定して、該温度が所定温度まで低下した後に行うことを特徴とする重力鋳造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の重力鋳造方法において、
前記湯道の流路は、途中の一部分が他の部分よりも狭く形成されていることを特徴とする重力鋳造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の重力鋳造方法において、
注湯が完了した後に、前記成形型を水平の状態に戻す工程を行う前に、前記湯道の注湯口側を冷却する工程を備えることを特徴とする重力鋳造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の重力鋳造方法において、
注湯が完了した後に、前記成形型を水平の状態に戻す工程を行う前に、前記湯道内の注湯口側の溶湯を冷却する工程を備えることを特徴とする重力鋳造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の重力鋳造方法において、
注湯が完了した後に、前記成形型を水平の状態に戻す工程を行う前に、前記湯道の注湯口を閉塞する工程を備えることを特徴とする重力鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−104613(P2011−104613A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261432(P2009−261432)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)