説明

重合すると低減された極性を有する接着剤組成物

本発明は、重合させると、極性の著しい低下を示す接着剤組成物に関する。さらに具体的には、本発明は、1ステップで歯硬物質に適用することができ、かつ硬化させると極性のこの低下を示す、硬化性セルフエッチング歯科用接着剤組成物に関する。この点から、リン原子上に1つのエチレン性不飽和部分を有する置換基を保持するリン酸エステルと、リン原子上に2つ以上のエチレン性不飽和部分を有する置換基を保持するリン酸エステルを合わせて、配合物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合すると極性の著しい低下を示す接着剤組成物に関する。さらに具体的には、それは、1ステップで歯硬物質に適用することができ、かつ硬化すると極性の低下を示す硬化性セルフエッチング歯科用接着剤組成物に関する。
【0002】
リン原子上に1つのエチレン性不飽和部分を有する置換基を保持するリン酸エステルと、リン原子上に2つ以上のエチレン性不飽和部分を有する置換基を保持するリン酸エステルを合わせた配合物によって、これを達成することができる。
【0003】
本発明は、親水性基材上での向上した皮膜形成性を有する疎水性接着剤組成物にも関する。さらに具体的には、それは、歯硬組織上での向上した皮膜形成性を有する、1ステップで適用することができる硬化性セルフエッチング疎水性歯科用接着剤組成物に関する。
【0004】
配合物に疎水性の性質を付与することなく、これは、任意に重合性モノマー、ポリマーおよび/またはプレポリマーを添加することによって達成することができる。
【背景技術】
【0005】
エチレン性不飽和リン酸誘導体を含有する歯科用組成物が多くの文献に開示されている。
【0006】
(特許文献1)には、リン基を有するモノマー、カルボン酸含有モノマー、および主成分としての水を含有する歯科用プライマー前処理用組成物が開示されている。リン酸基含有モノマーの例として、リン酸モノエステル、ジエステルおよびピロリン酸エステル誘導体が挙げられる。
【0007】
(特許文献2)には、エチレン性不飽和リン酸化化合物、カルボン酸官能性ポリマー、および重合開始剤、任意に粒状金属充填剤を含有する接着剤組成物が開示されている。
【0008】
(特許文献3)には、メタクリロキシに関して一官能性であるP原子に直接結合する1つの基、またはメタクリロキシに関して二官能性であるP原子に直接結合する1つの基のいずれかを有するリン酸誘導体を含有する接着剤組成物が開示されている。一官能性誘導体に関しては、メタクリロキシ残基は、少なくとも5つの炭素原子を有するアルキレン基を介してリン原子に連結されている。
【0009】
(特許文献4)には、酸基を有する重合性化合物と、水溶性皮膜形成剤(例えば、HEMA)と、水と、硬化剤との混合物を含有する、歯科用途のための結合(bonding)組成物が開示されている。
【0010】
(特許文献5)には、水と、ヒドロキシル基および重合性基(例えば、HEMA)を有する化合物と、酸性基および重合性不飽和基を有する化合物(例えば、ビス[2−(メタ)アクリロキシエチル]リン酸が挙げられるが、無水物残基を有するチオリン酸誘導体および化合物も挙げられる)と、を含むプライマー組成物が開示されている。
【0011】
(特許文献6)には、カチオン開始剤系としてエチレン性不飽和リン酸エステルが開示されている接着剤組成物であって、エチレン性不飽和リン酸誘導体などの化合物を含む、一方、メタクリロキシに関して一官能性であるリン原子に直接結合する基を有する誘導体を含む、一方、メタクリロキシに関して二官能性であるリン原子に直接結合する基を有する誘導体を含む、接着剤組成物が開示されている。
【0012】
(特許文献7)には、複合充填材料に付着させるために、歯の表面を処理するためのプライマーであって、特に、エチレン性不飽和リン酸誘導体の混合物を含むプライマーが開示されている。しかしながら、1つのエチレン性不飽和基を有するリン原子に直接結合する基を有する化合物のみが開示されている。
【0013】
(特許文献8)(3M社)には、少なくとも5重量%まで水に可溶性である、酸可溶性または水溶性皮膜形成剤を含有する歯科用プライマー組成物が開示されている。
【0014】
(特許文献9)には、少なくとも5重量%まで水分散性である、ポリマーを含有する皮膜形成剤を含む歯科用プライマー組成物が開示されている。そのポリマーは好ましくは、β−ジカルボニル基およびカルボン酸基などの、硬組織に対する親和性を有する官能基を含有する。
【0015】
(特許文献10)には、少なくとも5重量%まで水溶性である皮膜形成剤を含有する、歯科用の結合組成物が開示されている。
【0016】
(特許文献11)には、ウレタン部分を介して重合性基に連結することができるポリエーテル鎖を有する重合性界面活性剤が開示されている。
【0017】
(特許文献10)には、歯の構造に接着する方法および組成物が開示されており、その組成物は、ビニルウレタンまたはウレタンアクリレートプレポリマーを含有する。
【0018】
(特許文献12)には、(メタ)アクリレート単位を有するポリマーのエマルジョンと、そのエマルジョンを含有する接着剤組成物が開示されている。そのポリマーは、a)(メタ)アクリレートから誘導される反復単位と、b)スルホネート部分を有するビニル化合物から誘導される反復単位とを含む。
【0019】
現況技術のセルフエッチング歯科用接着剤は通常、接着促進剤として少なくとも単一で、または反復してエチレン性不飽和リン酸エステルを含有する。合成手順および出発原料のために、これらの接着促進剤の一部はどちらかと言えば親水性であり、したがって、歯硬組織を湿潤し、かつエッチングするのに適している。一方、それらは、極性の低いモノマーを含有する配合物よりも、口腔環境において加水分解および水吸収に影響を受けやすい。通常、これらの化合物は、リン原子上に1つのエチレン性不飽和部分を有する置換基を保持する。
【0020】
2つ以上のエチレン性不飽和部分を有する置換基を保持する他の接着促進剤は、上述のものよりも極性が低く、高い官能価を示す。しかしながら、エッチング能力が十分ではない場合が多い。
【0021】
公知のセルフエッチング1ステップ歯科用接着剤(「第六世代の接着剤」)は主に、歯硬組織を湿潤し、かつエッチングするのに適している、やや親水性のエチレン性不飽和リン酸エステルからなる。極性の低いセルフエッチング1ステップ歯科用接着剤を配合しようと試みた場合、場合によっては、ディウェッティング(dewetting)現象が認められ、それによって、結合剤の均一なフィルムではなく、小さな液滴が形成する。
【0022】
【特許文献1】欧州特許第0 712 622 B1号明細書
【特許文献2】米国特許第5,256,447号明細書
【特許文献3】欧州特許第0 074 708 B1号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1 051 961 A1号明細書
【特許文献5】米国特許第5,264,513 A号明細書
【特許文献6】国際公開第01/10388 A1号パンフレット
【特許文献7】欧州特許出願公開第0 842 651 A1号明細書
【特許文献8】米国特許第4,719,149号明細書
【特許文献9】米国特許第5,525,648号明細書
【特許文献10】米国特許第6,191,190 B1号明細書
【特許文献11】米国特許第6,387,982 B1号明細書
【特許文献12】米国特許第5,554,669号明細書
【特許文献13】米国特許第6,187,833号明細書
【特許文献14】米国特許第6,025,406号明細書
【特許文献15】米国特許第6,043,295号明細書
【特許文献16】米国特許第5,998,495号明細書
【特許文献17】米国特許第6,084,004号明細書
【特許文献18】米国特許出願第10/050218号明細書
【特許文献19】欧州特許出願公開第0 323 120 A1号明細書
【特許文献20】国際公開第01/44338 A1号パンフレット
【特許文献21】米国特許第4,695,251号明細書
【特許文献22】米国特許第4,503,169号明細書
【特許文献23】米国特許第6,444,725号明細書
【特許文献24】国際公開第01/30305 A1号パンフレット
【特許文献25】国際公開第01/30306 A1号パンフレット
【特許文献26】国際公開第01/30307 A1号パンフレット
【特許文献27】米国特許第6,254,828号明細書
【特許文献28】米国特許第6,084,004号明細書
【特許文献29】国際公開第01/51540 A1号パンフレット
【特許文献30】国際公開第02/66535 A1号パンフレット
【特許文献31】国際公開第98/47046 A1号パンフレット
【特許文献32】国際公開第98/47047 A1号パンフレット
【特許文献33】欧州特許第0 895 943 B1号明細書
【特許文献34】国際公開第02/38468 A1号パンフレット
【特許文献35】国際公開第01/58869 A1号パンフレット
【特許文献36】米国特許第6,245,872号明細書
【特許文献37】国際公開第01/10388号パンフレット
【非特許文献1】J.−P.ファシエ(Fouassier),Photoinitiation,Photopolymerization,and Photocuring,Hanser Publishers,Munich,Vienna,New York,1995
【非特許文献2】J.−P.ファシエ(Fouassier),J.F.Rabek(eds.),Radiation Curing in Polymer Science and Technology,Vol.II,Elsevier Applied Science,London,New York,1993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
このように、本発明の目的は、上記の問題のうち1つまたは複数を防ぐことである。
【0024】
その他の目的は、向上した特性を有する歯科用組成物、特に十分なエッチング性および低減された親水性を有し、1ステップで適用できる歯科用組成物を提供することである。
【0025】
他の目的は、親水性基材上での皮膜形成性が向上した歯科用組成物を提供することである。
【0026】
他の目的は、メタクリレートおよび/またはエポキシをベースする材料を歯または骨に接着固定するために使用することができる歯科用組成物を提供することである。
【0027】
その他の目的は、小窩および裂溝用の封鎖材または減感剤として使用することができる歯科用組成物を提供することである。
【0028】
他の目的は、低い水吸収率を示す歯科用組成物を提供することである。
【0029】
以下に記載の歯科用組成物を提供することによって、1つまたは複数の目的が達成される。
【0030】
この点から、リン原子上に1つのエチレン性不飽和部分を有する置換基を保持するリン酸エステルと、リン原子上に2つ以上(例えば、3、4または5つ)のエチレン性不飽和部分を有する置換基を保持するリン酸エステルを合わせて、配合物が提供される。
【0031】
プレポリマー、特にウレタン(メタ)アクリレートプレポリマーを上記の組成物に添加することは、組成物の皮膜形成性を向上させる助けとなる。
【課題を解決するための手段】
【0032】
したがって、好ましい実施形態において、本発明は、
a)次式(I)
【化4】

(式中、R1=(i)炭素原子1〜4個を有するアルキレン、または(ii)1つまたは複数のエーテルまたはチオエーテル結合によって、互いに結合する2つ以上の炭化水素残基で構成される、炭素原子1〜4個を有する二価有機基、または(iii)アリールであり、それぞれが任意にOHで置換され;
2=H、CH3であり;
1=OHまたはハロゲンであり;
2=X1または−O−R1−OOC−CR2=CH2である)による、リン原子上に1つのエチレン性不飽和部分を有する置換基を保持するリン酸エステルのうちの1つまたは混合物と、
b)次式(II)
【化5】

(式中、R3、R4、およびR5=(i)H、(ii)任意にOHで置換される、炭素原子1〜4個を有する直鎖状または分枝鎖アルキル、(iii)任意にOHで置換されるアリール、(iv)1つまたは複数のエーテル、チオエーテル、エステル、チオエステル、チオカルボニル、アミド、ウレタン、カルボニルおよび/またはスルホニル結合によって互いに結合する2〜6個の飽和もしくはエチレン性不飽和炭化水素残基で構成される、炭素原子5〜15個を有する有機基であって、それぞれが任意にOHで置換される有機基であり、
3、R4、およびR5基のうち少なくとも2つが、式(III)
【化6】

による少なくとも1つの基を含むか、または
3、R4、およびR5基のうち少なくとも1つが、上記式(III)
による少なくとも2つの基を含み、
2=X1または−O−CR345または−O−R1−OOC−CR2=CH2である)による、リン原子上に1または複数のエチレン性不飽和部分を有する置換基を保持するリン酸エステルのうちの1つまたは混合物と、を含む硬化性歯科用組成物であって、
(b)が、(a)約100重量部を基準にして約1〜約500重量部、好ましくは(a)約100重量部を基準にして約100〜約300重量部、さらに好ましくは(a)約100重量部を基準にして約150〜約250重量部の量で通常存在する、硬化性歯科用組成物に関する。
【0033】
組成物中の(a)と(b)の総量は通常、約10〜約90重量部の範囲、または約20〜約80重量部の範囲、または約30〜約70重量部の範囲である。
c)約0.1〜約20重量部、または約0.2〜約10重量部、または約0.3〜約5重量部の量の開始剤、
d)約0〜約5重量部、または約0.001〜約2重量部、または約0.01〜約1重量部の量の安定剤、
e)約5〜約90重量部、または約10〜約80重量部、または約20〜約70重量部の量の不飽和モノマー、
f)任意に、約0〜約30重量部、または約1〜約20重量部、または約2〜約15重量部の量の不飽和ポリマーおよび/またはプレポリマー、
g)任意に、約0〜約20重量部、または約1〜約15重量部、または約3〜約10重量部の量の溶媒、
h)任意に、約0〜約 重量部、好ましくは約0.2〜約10重量部、または約0.3〜約5重量部の量のフッ化物剥離剤、
i)任意に、約0〜約70重量部、または約5〜約60重量部、または約10〜約50重量部の量の非反応性無機充填剤、
j)任意に、約0〜約5重量部、または約0.05〜約3重量部、または約0.1〜約2重量部の量の光退色性着色剤。
【0034】
上記の任意の成分は、単独で、または他の任意の成分と組み合わせて、組成物中に存在することができる。
【0035】
本発明の意味内の「含む」および「含有する」という用語は、特徴の非網羅的なリストを意味する。同様に、「1つ」という言葉は、「少なくとも1つの」という意味で理解されたい。
【0036】
「リン原子上に」という用語は、リン原子に結合した置換基の1つにエチレン性不飽和部分が存在することを意味する。好ましいエチレン性不飽和部分は、式(III)によって表される。
【0037】
つまり、本発明の歯科用組成物の成分(b)は、リン酸エステルと結合した1つの置換基または枝内に少なくとも2つのエチレン性不飽和部分を含む。
【0038】
特定のメカニズムに束縛されることなく、好ましくは式(I)によるリン原子上に1つのエチレン性不飽和部分を有する置換基を保持するリン酸エステルのうちの1つまたは混合物と、好ましくは式(II)によるリン原子上に2つ以上のエチレン性不飽和部分を有する置換基を保持するリン酸エステルのうちの1つまたは混合物との組み合わせを使用することによって得られた組成物は、硬化すると極性の低下、ならびに良好な接着性を示すと考えられる。
【0039】
さらに、特定のメカニズムに束縛されることなく、十分なエッチングが成分(a)によって提供されるのに対して、成分(b)の官能価が高くなり、極性が低くなることによって、架橋度が高くなり、重合すると極性が著しく低下すると想定される。
【0040】
さらに、特定のメカニズムに束縛されることなく、ウレタンプレポリマーが好ましくは、ヒドロキシ基、酸性基、またはイオン性基を全く含有しない場合に、ウレタンプレポリマーを添加することによって、組成物の極性を増加することなく、親水性基材上の皮膜形成性が改善されると考えられる。
【0041】
以下の実施例に記載のように、37℃の水に組成物を5時間浸漬した後に測定された水吸収率は、約5重量%と低いか、または約4重量%と低い、場合によってはそれ以下である。
【0042】
歯科用組成物が低い水吸収率を有するだけでなく、エナメルおよび/または象牙質に対して良好な接着性を示す場合には有利であり得る。
【0043】
本発明の歯科用組成物のエナメル接着強度は、以下に記載のように測定して、約2〜約15MPaの範囲、または約5〜約13MPaの範囲、または約7〜約12MPaの範囲である。
【0044】
本発明の歯科用組成物の象牙質接着強度は、以下に記載のように測定して、約2〜約10MPaの範囲、または約4〜約8MPaの範囲、または約5〜約7MPaの範囲である。
【0045】
本発明の歯科用組成物の脱イオン水に対する接触角は、組成物を空気存在下で硬化させた場合には、以下に記載のように測定して、約5度を超える、または約10度を超える、約15度を超える角度である。
【0046】
組成物を空気の非存在下で硬化させた場合に、本発明の歯科用組成物の脱イオン水に対する接触角は、以下に記載のように測定して、約30度を超える、または約40度を超える、約50度を超える角度である。
【0047】
リン原子上に1つのエチレン性不飽和部分を有する置換基を保持する、成分(a)によるリン酸エステルの例としては、限定されないが、2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピルホスフェート、3−メタクリロイルオキシプロピルホスフェート、2−メタクリロイルオキシブチルホスフェート、3−メタクリロイルオキシブチルホスフェート、4−メタクリロイルオキシブチルホスフェート、5−メタクリロイルオキシ−3−オキサ−ペンチルホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシプロピル)ホスフェート、ビス(3−メタクリロイルオキシプロピル)ホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシブチル)ホスフェート、ビス(3−メタクリロイルオキシブチル)ホスフェート、ビス(4−メタクリロイルオキシブチル)ホスフェート、ビス(5−メタクリロイルオキシ−3−オキサ−ペンチル)ホスフェートまたはその混合物が挙げられる。
【0048】
リン原子上に2つ以上のエチレン性不飽和部分を有する置換基を保持する、成分(b)によるリン酸エステルの例としては、限定されないが、グリセロール−1,3−ジメタクリレート−2−ホスフェート、グリセロール−1,2−ジメタクリレート−3−ホスフェート、ビス(グリセロール−1,3−ジメタクリレート)ホスフェート、ビス(グリセロール−1,2−ジメタクリレート)ホスフェート、(グリセロール−1,2−ジメタクリレート)(グリセロール−1,3−ジメタクリレート)ホスフェート、(トリメチロールプロパンジメタクリレート)ホスフェート、ビス(トリメチロールプロパンジメタクリレート)ホスフェート、(トリメチロールエタンジメタクリレート)ホスフェート、ビス(トリメチロールエタンジメタクリレート)ホスフェート、ペンタエリトリトールトリメタクリレートホスフェートまたはその混合物が挙げられる。
【0049】
成分(c)による開始剤は、歯科材料を扱う分野の当業者には公知のラジカル重合に用いる光開始剤系である。一般的な例としては、増感剤と還元剤との組み合わせである。
【0050】
増感剤としては、波長390nm〜830nmを有する可視光の作用によって重合性モノマーを重合することができるものが好ましい。その例としては、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジ(2−メトキシエチル)ケタール、4,4,’−ジメチルベンジルジメチルケタール、アントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノン、1−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ブロモアントラキノン、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−ニトロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロ−7−トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン−10,10−ジオキシド、チオキサントン−10−オキシド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4−ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4,’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、アシルホスフィンオキシド、例えば(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ジフェニルホスフィンオキシド、およびアジド含有化合物が挙げられる。これらの化合物は単独で、または混合物として使用される。
【0051】
還元剤として、第3級アミン等が一般に使用される。第3級アミンの適切な例としては、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン、メチル4−ジメチルアミノベンゾエート、エチル4−ジメチルアミノベンゾエート、およびイソアミル4−ジメチルアミノベンゾエートが挙げられる。他の還元剤として、スルフィン酸ナトリウム誘導体および有機金属化合物も使用することができる。これらの化合物は、単独で、または混合物として使用される。
【0052】
適切な開始剤系の他の例は、例えば、(非特許文献1)および(非特許文献2)の文献に記載されている。
【0053】
さらに、(特許文献13)、(特許文献14)、(特許文献15)、(特許文献16)、(特許文献17)および(特許文献18)に記載のように、増感剤、電子供与体、およびオニウム塩からなる三元光重合開始系を使用することができ、参照により本明細書に包含される。
【0054】
成分(d)による安定剤の例は、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール(2,6−ジ−t−ブチル−4−エトキシフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−(ジメチルアミノ)メチルフェノールまたは2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン(UV−9)、2−(2’−ヒドロキシ−4’,6’−ジ−t−ペンチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、および2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールである。かかる補助剤は任意に、それらが樹脂と共重合されるように、反応性官能基を含む。
【0055】
成分(e)による不飽和モノマーの例は、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAイソプロピルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−メタクリルオキシプロポキシフェニル)プロパン、7,7,9−トリメチル−4,13−ジオキシ−3,14−ジオキサ−5,12−ジアザヘキサデカン−1,16−ジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバル酸エステルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバル酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサ(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチルシクロヘキサンジイソシアネートとの反応生成物、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチルシクロヘキサンジイソシアネートとの反応生成物、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)との反応生成物、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとトリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとイソホロンジイソシアネートとの反応生成物、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとイソホロンジイソシアネートとの反応生成物、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソ−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ−ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールモノ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールモノ(メタ)アクリレート、およびその混合物である。
【0056】
成分(f)によるポリマーの例は、例えば(特許文献19)に記載のアクリル酸、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、およびイタコン酸の(メタ)アクリレート官能化コポリマーである。この文献は明示されており、その開示内容、特に上記の箇所に開示される、アクリル酸、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、およびイタコン酸の(メタ)アクリレート官能化コポリマーの製造に関する開示内容は、本発明の開示内容の一部であるとみなされる。
【0057】
成分(f)によるプレポリマーの例が特に、(特許文献20)に記載されている。この文献も明示されており、特に上記の箇所に開示される不飽和ウレタンプレポリマーの製造に関する開示内容は、本発明の開示内容の一部であるとみなされる。そのプレポリマーは、ヒドロキシ基、酸性基またはイオン性基を含有しないことが好ましい。
【0058】
成分(f)による不飽和プレポリマーの好ましい例としてのウレタンプレポリマーは、(A)1つまたは複数のα,ω−末端ポリ(メタ)アクリレートジオール15〜85重量%、(B)1つまたは複数のラジカル硬化性、ポリヒドロキシ官能性化合物0〜30重量%、(C)1つまたは複数のポリイソシアネート14〜60重量%、(D)1つまたは複数のラジカル硬化性基を含有する、イソシアネート基に対して反応性の単官能化合物1〜40重量%を反応させることによって得ることができる。
【0059】
得られるプレポリマーは、ポリスチレン標準に対するGPC測定による、範囲約400〜約200.000g/mol、または約500〜約100.000g/mol、または約600〜約20.000g/molの平均分子量(Mw)を有する。
【0060】
成分(g)による溶媒の例は、水、C原子2〜10個を有する直鎖状、分枝鎖もしくは環状飽和または不飽和アルコール、ケトン、エステル、または前記種類の溶媒の2つ以上の混合物である。
【0061】
特に好ましいアルコール溶媒は、メタノール、エタノール、イソ−プロパノールおよびn−プロパノールである。
【0062】
他の適切な有機溶媒は、THF、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノール、トルエン、アルカンおよび酢酸アルキルエステル、特に酢酸エチルエステルである。
【0063】
一般に、溶媒混合物が、望まれる結果を得ることができないような程度まで接着性を付与しない場合には、上記の溶媒を単独で、またはこれらの溶媒のうち2種類以上の混合物を使用することが可能である。
【0064】
成分(h)によるフッ化物剥離剤の例は、天然に存在する、または合成のフッ化物鉱物、例えば、フッ化ナトリウム、フルオロアルミノシリケートガラスなどのフッ化物ガラス、フッ化カリウム亜鉛およびヘキサフルオロチタン酸カリウムなどの単一および複合無機フッ化物塩、テトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウムなどの単一および複合有機フッ化物塩、またはその組み合わせである。任意に、これらのフッ化物源を表面処理剤で処理することができる。特定の場合には、フッ化物源および充填剤(i)は全く同一である。
【0065】
成分(i)による非反応性無機充填剤の例は、天然または合成材料、例えば石英、窒化物(例えば窒化ケイ素)、例えばCe、Sb、Sn、Zr、Sr、BaまたはAlから誘導されるガラス、コロイドシリカ長石、ホウケイ酸ガラス、カオリン、タルク、チタニア、および亜鉛ガラス、ジルコニア−シリカ充填剤;(特許文献21)に記載のような、低モース硬度充填剤;およびサブミクロンのシリカ粒子(例えば、デグサ社(Degussa)によって市販されている「アエロジル(Aerosil)」シリーズ「OX50」、「130」、「150」および「200」シリカ、およびキャボット社(Cabot Corp.)によって市販されている「Cab−O−Sil M5」などの焼成シリカ);である。好ましい充填剤粒子は、石英、サブミクロンのシリカ、および(特許文献22)に記載の種類の非ガラス質微粒子である。これらの充填剤の混合物、ならびに有機および無機材料から製造される組み合わせ充填剤もまた企図される。
【0066】
任意に、充填剤と重合性樹脂との結合を高めるために、充填剤粒子の表面を、シランカップリング剤などの表面処理剤で処理することができる。カップリング剤は、アクリレートおよび/またはメタクリレートなどの反応性硬化基で官能化することができる。
【0067】
成分(j)による光退色性着色剤の例は、ローズベンガル、メチレンバイオレット、メチレンブルー、フルオレセイン、エオシンイエロー、エオシンY、エチルエオシン、エオシンブルーイッシュ、エオシンB、エリトロシンB、エリトロシンイエローイッシュブレンド、トルイジンブルー、4’,5’−ジブロモフルオレセインおよびそのブレンドである。光退色性着色剤の他の例は、(特許文献23)に記載されており、参照により本明細書に包含される。本発明の組成物の色は付加的に、増感化合物によって付与することができる。
【0068】
本発明の歯科用組成物は必ずしも、ハロゲン化溶媒および/または150℃より高い沸点を有する溶媒、光退色性ではない濃い色の染料または顔料、50μmよりも大きな平均粒径を有する充填剤、アルデヒド、および/または遊離カルボン酸基を有するモノマーを含有するわけではない。
【0069】
上記のリン酸エステル(a)は通常、4個を超える炭素原子を有するアルキレン鎖を含まない。上記のリン酸エステル(b)は通常、15個を超える炭素原子を有する残基R3、R4、またはR5を含まない。上記のリン酸エステル(a)および(b)は通常、アリール置換基上にエチレン性不飽和部分を保持しないリン酸アリールエステルを含まない。
【0070】
これらの歯科用接着剤組成物は、自己接着性の小窩および裂溝用封鎖材として、および自己接着性歯科用減感剤として、メタクリレートおよびエポキシをベースとする歯科用充填材料を接着固定するために使用することができる。
【0071】
メタクリレートをベースとする適切な歯科用充填材料は、例えば、(特許文献24)、(特許文献25)、(特許文献26)に記載されている。
【0072】
エポキシをベースとする適切な歯科用充填材料は、例えば、(特許文献27)、(特許文献28)、(特許文献29)、(特許文献30)、(特許文献31)、(特許文献32)に記載されている。
【0073】
これらの歯科用接着剤組成物は、(特許文献29)の18〜19ページに記載されている、エポキシをベースとする歯科用充填材料を接着固定するのに特に有用である。上記の文献は明示されており、その開示内容は本発明の開示内容の一部であるとみなされる。
【0074】
本発明の歯科用組成物は、少なくとも現況技術の自己接着性歯科用材料に匹敵する接着強度を提供する。さらに、それらは重合すると、極性の著しい低減を示し、したがって、モノマーが加水分解、膨潤および漏出しにくい。それらは、低減された親水性と共に、歯硬組織上、特に象牙質上での向上した皮膜形成性も示す。
【0075】
歯科用充填材料の接着固定に適用する場合には、これらの組成物は、適用時に充填材料のより良い湿潤を確保し、したがって、容易な取り扱い、およびより良い辺縁適合性が確保される。
【0076】
本発明の組成物は通常、歯組織をエッチングし、かつプライミングするのに十分な量で歯の表面に適用される。これに関して、以下のステップ:
a)好ましくはブラシまたはスポンジを使用して、歯の表面(エナメルおよび/または象牙質)に組成物を適用するステップ;
b)好ましくは空気流を使用して、組成物を分散させて薄膜を形成するステップ;
c)光またはレドックスで開始される組成物の硬化を行うステップ;
d)任意に、歯科用充填組成物を適用するステップ;が適用される。
【0077】
本発明の組成物は、少なくとも2つのパート(part)を含むパートのキットとして提供することができる。
【0078】
この組成物は一般に、いずれかの種類のパッケージ、例えばチューブまたはフラスコで提供することができる。しかしながら、少量の液体の適用に関して、従来技術では、適用を容易にする多くの代替が開示されている。
【0079】
歯科用途に関しては、(特許文献33)、(特許文献34)、(特許文献35)に記載されているマルチチャンバ・パッケージングデバイスが好ましい。
【0080】
したがって、本発明は、少なくとも2つのパートを含むパートのキットであって、1つのパートにおいて、好ましくは成分(a)、(b)、(c)、任意に(d)、(e)、任意に(f)、任意に(h)、任意に(i)、任意に(j)、もう1つのパートにおいて、上述の成分(c)、任意に(d)、(e)、任意に(f)、任意に(g)が含まれる、キットにも関する。成分を仕切ることによって、組成物の望ましくない反応が防止されるはずである。OH基を含む成分は好ましくは、一方のパートに収容され、リン酸エステル(a)および(b)はもう一方のパートに収容されるべきである。
【0081】
本発明の組成物は通常、例えば攪拌または振盪によって、成分を混合することにより製造される。
【0082】
以下の実験および結果は、本発明の範囲を限定することなく、本発明を例証するために示される。
【0083】
略語:
PM2:
日本化薬株式会社(Nippon Kayaku)からKayamer PM2として市販されている、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と五酸化リンとの反応生成物の混合物
PGDMA:
グリセロールジ(メタクリレート)(GDMA)と五酸化リンとの反応生成物の混合物
HEMA:
ヒドロキシエチルメタクリレート
UDMA:
ウレタンジメタクリレート
PUMA:
テゴ(Tego)ジオールBD−1000、TMHDI、およびHEMAの逐次重合生成物((特許文献20)の調製例2)
ビスGMA:
ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート
CPQ:
カンファーキノン
EDMAB:
エチル4−ジメチルアミノベンゾエート
MEHQ:
ヒドロキノンモノメチルエーテル
BHT:
ブチル化ヒドロキシトルエン
【0084】
別段の指定がない限り、「部」という言葉は、「重量部」を意味する。
【実施例】
【0085】
調製例1
PGDMA(40.0部)、PM2(19.1部)、HEMA(12.0部)、UDMA(10部)、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(8.0部)、脱イオン水(6.0部)、ビスGMA(2.0部)、CPQ(1.6部)、EDMAB(1.2部)、MEHQ(0.05部)、およびBHT(0.05部)を合わせることによって液体を調製した。
【0086】
この液体で充填材料を接着固定することによって、(特許文献36)または(特許文献37)に記載のように引張接着強度試験により、ウシの歯で接着強度の測定を行った。
【0087】
十分に大きく露出したエナメルまたは象牙質表面が得られる程度まで研摩紙によって、抜歯したばかりのウシの歯5本を研磨した。それぞれの場合において、標準化された接着表面を得るために、6mmの打ち抜き穴を有する小さなワックスディスクをこれらの表面に接着した。液体を表面全体に塗布し、ミクロブラシ(microbrush)を使用して適度な指圧で20秒間こすった。次いで、簡潔には、滑らかな光沢面を有する液体の薄膜が得られるまで、圧縮空気を吹き付けた。次いで、光重合装置(Elipar Trilight,スリーエムエスペ社(3M ESPE),光強度:約800W/cm2)を適用することによって、フィルムを10秒間重合した。次いで、小さなワックスディスクのくぼみに2つの層で歯科用充填材料を導入し、各層を製造元の説明書に従って完全に重合させた。小さなワックスディスクを除去し、試験片を36℃および湿度100%で24時間保存した。最後に、引張り試験(ツヴィック(Zwick)万能試験機)において試験片を引張った。得られたエナメルおよび象牙質接着強度を表1に示す。
【0088】
重合すると、この材料の極性が低下することを以下のように調べた:
スライドガラス上に液体の薄膜を作製し、空気の存在下にて上述のように重合させた。脱イオン水の液滴5μlを重合させたフィルムの抑制(inhibition)層上に置き、接触角顕微鏡(Kruss DSA 10)によって接触角を観察した。5秒後、接触角21度を測定した。空気の非存在下にてポリスチレンフィルムの下で液体を重合することによって、第2試験片を作製した。この試験片に関しては、かなり大きな接触角55度が観察され、それによって、重合するとこの材料の極性が著しく低下することが示された。
【0089】
調製例2
PGDMA40.0部、PM2 19.1部、HEMA12.0部、PUMA10部、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート8.0部、脱イオン水6.0部、ビスGMA2.0部、CPQ1.6部、EDMAB1.2部、MEHQ0.05部、およびBHT0.05部を合わせることによって、液体を調製した。
【0090】
すべての試験片について、歯科用充填材料の適用前に、接着剤の重合フィルムに関して、エナメルおよび象牙質上の両方で滑らかな、かつ光沢のある表面が認められた。
【0091】
(特許文献37)の12ページに記載のエポキシをベースとする複合充填材料の接着固定を調製例1に記載の方法に従って行った。エナメルおよび象牙質に対する接着強度を表1に示す。
【0092】
この液体の重合フィルムについては、空気の存在下にて作製された試験片では、脱イオン水に対する接触角は21度であり、空気の非存在下にて作製された試験片では54度であった。
【0093】
参照例1
PGDMA(59.1部)、HEMA(12.0部)、UDMA(10部)、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(8.0部)、脱イオン水(6.0部)、ビスGMA(2.0部)、CPQ(1.6部)、EDMAB(1.2部)、MEHQ(0.05部)、およびBHT(0.05部)を合わせることによって、液体を調製した。
【0094】
(特許文献37)の12ページに記載のエポキシをベースとする複合充填材料の接着固定を調製例1に記載の方法に従って行った。エナメルおよび象牙質に対する接着強度を表1に示す。
【0095】
この液体の重合フィルムについては、空気の存在下にて作製された試験片では、脱イオン水に対する接触角は22度であり、空気の非存在下にて作製された試験片では54度であった。
【0096】
参照例2
PM2(59.1部)、HEMA(12.0部)、UDMA(10部)、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(8.0部)、脱イオン水(6.0部)、ビスGMA(2.0部)、CPQ(1.6部)、EDMAB(1.2部)、MEHQ(0.05部)、およびBHT(0.05部)を合わせることによって、液体を調製した。
【0097】
(特許文献37)に記載のエポキシをベースとする複合充填材料の接着固定を調製例1に記載の方法に従って行った。エナメルおよび象牙質に対する接着強度を表1に示す。
【0098】
この液体の重合フィルムについては、空気の存在下および空気の非存在下にて重合された試験片に関して、脱イオン水に対する接触角は5度であった。
【0099】
【表1】

【0100】
示される値は、5回の測定それぞれの平均値である。エポキシベースの複合材料は、(特許文献37)の12ページに記載されている。フィルテック(Filtek)(商標)Z250およびフィルテック(商標)シュープリーム(Filtek(商標)Supreme)は、スリーエムエスペ社(3M ESPE AG)から市販されている。
【0101】
本発明の組成物の低極性の性質を例示するために、歯に対する良好な接着力を提供すると同時に、本明細書に記載の3種類の組成物について、水吸収率が決定された。
【0102】
組成物それぞれの5つの試験片(直径15mm、高さ1mm)をDIN EN ISO 4049に従って作製した。試験片を計量し、次いで37℃の水に浸した。5時間後に、試験片を再び計量した。異なる組成物に関する重量の増加、およびエナメルに対する接着強度を以下の表に示す。接着強度を測定する方法は、本特許出願に記述されている。
【0103】
【表2】

【0104】
5時間後、試験片の重量の更なる著しい変化は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)リン原子上に1つのエチレン性不飽和部分を有する置換基を保持するリン酸エステルのうち1つまたはその混合物と、
b)リン原子上に2つ以上のエチレン性不飽和部分を有する置換基を保持するリン酸エステルのうち1つまたはその混合物と、
c)開始剤と、
d)任意に、安定剤と、
e)不飽和モノマーと、
f)任意に、不飽和ポリマーおよび/またはプレポリマーと、
g)任意に、溶媒と、
h)任意に、フッ化物剥離剤と、
i)任意に、非反応性無機充填剤と、
j)任意に、光退色性着色剤と、
を含む、歯科用組成物。
【請求項2】
成分(a)が、次式(I):
【化1】

(式中、R1=(i)炭素原子1〜4個を有するアルキレン、または(ii)1つまたは複数のエーテルまたはチオエーテル結合によって、互いに結合する2つ以上の炭化水素残基で構成される、炭素原子1〜4個を有する二価有機基、または(iii)アリールであり、それぞれが任意にOHで置換され;
2=H、CH3であり;
1=OHまたはハロゲンであり;
2=X1または−O−R1−OOC−CR2=CH2である)によって表され、かつ
成分(b)が、次式(II):
【化2】

(式中、R3、R4、およびR5=(i)H、(ii)任意にOHで置換される、炭素原子1〜4個を有する直鎖状または分枝鎖アルキル、(iii)任意にOHで置換されるアリール、(iv)1つまたは複数のエーテル、チオエーテル、エステル、チオエステル、チオカルボニル、アミド、ウレタン、カルボニルおよび/またはスルホニル結合によって互いに結合する2〜6個の飽和もしくはエチレン性不飽和炭化水素残基で構成される、炭素原子5〜15個を有する有機基であって、それぞれが任意にOHで置換される有機基であり、
3、R4、およびR5基のうち少なくとも2つが、式(III):
【化3】

による少なくとも1つの基を含むか、または
3、R4、およびR5基のうち少なくとも1つが、上記の式(III)
による少なくとも2つの基を含み、
2=X1または−O−CR345または−O−R1−OOC−CR2=CH2である)によって表される、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
成分(b)が、成分(a)約100重量部を基準にして約1〜約500重量部の量で存在する、請求項1または2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
前記組成物における成分(a)および(b)の総量が、約10〜約90重量部である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
成分(f)の前記ポリマーおよび/またはプレポリマーが、約0〜約30重量部の量で存在する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
前記プレポリマーが、ヒドロキシ基、酸性基またはイオン性基を含有しない、請求項5に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
前記プレポリマーが、約600〜約20000の範囲のMwを有する、請求項5または6に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
前記組成物を空気の存在下にて硬化させた場合に、約15度を超える脱イオン水に対する接触角を有し、前記組成物を空気の非存在下にて硬化させた場合に、約50度を超える脱イオン水に対する接触角を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
約2〜約15MPaの範囲のエナメルおよび/または象牙質に対する接着強度を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
組成物を37℃の水に5時間浸漬した後に測定された、硬化組成物に関する水吸収率約5重量%未満を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項11】
少なくとも約5MPaのエナメル接着強度を有する、請求項10に記載の歯科用組成物。
【請求項12】
成分(a)が、2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピルホスフェート、3−メタクリロイルオキシプロピルホスフェート、2−メタクリロイルオキシブチルホスフェート、3−メタクリロイルオキシブチルホスフェート、4−メタクリロイルオキシブチルホスフェート、5−メタクリロイルオキシ−3−オキサ−ペンチルホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシプロピル)ホスフェート、ビス(3−メタクリロイルオキシプロピル)ホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシブチル)ホスフェート、ビス(3−メタクリロイルオキシブチル)ホスフェート、ビス(4−メタクリロイルオキシブチル)ホスフェート、ビス(5−メタクリロイルオキシ−3−オキサ−ペンチル)ホスフェート、ホスフェート、またはその混合物から選択される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項13】
成分(b)が、グリセロール−1,3−ジメタクリレート−2−ホスフェート、グリセロール−1,2−ジメタクリレート−3−ホスフェート、ビス(グリセロール−1,3−ジメタクリレート)ホスフェート、ビス(グリセロール−1,2−ジメタクリレート)ホスフェート、(グリセロール−1,2−ジメタクリレート)(グリセロール−1,3−ジメタクリレート)ホスフェート、(トリメチロールプロパンジメタクリレート)ホスフェート、ビス(トリメチロールプロパンジメタクリレート)ホスフェート、(トリメチロールエタンジメタクリレート)ホスフェート、ビス(トリメチロールエタンジメタクリレート)ホスフェート、ペンタエリトリトールトリメタクリレートホスフェートまたはその混合物から選択される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項14】
一方のパートにおいて、請求項1〜13のいずれか一項に記載の成分(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(h)、(i)、(j)を含み、もう一方のパートにおいて、請求項1〜13のいずれか一項に記載の成分(c)、(d)、(e)、(f)、(g)を含む、パートのキット。
【請求項15】
自己接着性の歯科小窩および裂溝用封鎖材として、および/または自己接着性歯科用減感剤として、(メタ)アクリレートおよび/またはエポキシをベースとする歯科用充填材料を接着固定するために使用される材料を製造するための、請求項1〜13のいずれか一項に記載の歯科用組成物または請求項14に記載のキットの使用。
【請求項16】
前記成分を混合するステップを含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物を製造する方法。

【公表番号】特表2009−513546(P2009−513546A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519865(P2006−519865)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007745
【国際公開番号】WO2005/004819
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(504169278)スリーエム イーエスピーイー アーゲー (43)
【Fターム(参考)】