説明

重合体及びそれからなる帯電防止剤

【課題】 長期に渡って帯電防止性を持続し、樹脂に練り込んでもその外観や透明性を損なわない帯電防止剤及びそれを含有する樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】
(a)ポリオキシアルキレン基を有するジオール、
(b)ホウ素化合物、及び
(c)末端が酸変性されたポリオレフィン
を反応させることにより得られる重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合体及びそれからなる帯電防止剤に関する。詳しくは、帯電防止性に加え、樹脂に配合してもその透明性や外観を損なわない帯電防止剤と、それを含有する樹脂組成物、さらに該樹脂組成物からなるフィルム、シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成樹脂はその優れた特性のため成型品やフィルム等様々な用途で使用されている。しかしながら、合成樹脂製品はその疎水性ゆえに非常に静電気を帯びやすく、そのため製品にゴミや埃が付着して外観をそこねたり、加工中に電気的障害が現れたり、電子機器に用いられた場合は誤動作を引き起こすといった大きな欠点を有している。
【0003】
従来、これら欠点を解決する手段としてアニオン、カチオン、ノニオン等種々の界面活性剤を添加する方法があり実用に供されている。しかしながらこの界面活性剤を添加する方法は、製品成形後の短期間における帯電防止性には優れるが、製品表面にブリードアウトした界面活性剤が摩擦、水洗等によって失われてしまうために長期に渡って性能を持続することが困難である。更に合成樹脂製品は成形時の温度が高温であるため界面活性剤が一部熱分解を引き起こし、成型時の発煙や、製品の着色等の原因となる。また合成樹脂の多層フィルム及びシ−トにおいては、帯電防止性能を発揮させるために、表面層だけでなくコア層にも帯電防止剤を添加する必要があるため、添加量が多くなり経済的に不利な面がある。
【0004】
近年、これら界面活性剤使用による欠点や問題点を解決する手段として、ポリエ−テルエステルアミドを主成分とし第3成分として酸変性ポリオレフィン等を配合(特許文献1)したりカチオン化マレイミド構造体を有する(特許文献2)高分子型帯電防止剤が提案されているが、これらはまだ性能的に不十分である。また、変性ポリオレフィンと多官能親水基を共重合(特許文献3、4)させた高分子型帯電防止剤が提案されているが、成型品では有効でもフィルム及びシートでは性能が安定しないという問題があった。特に、同フィルムをタッチパネルや偏向板等の部材として使用する場合、高い光学的均質性が求められるが、スジやフィッシュアイが発生するなどその外観や透明性も十分満足できるものではなかった。
【0005】
また、特許文献5にホウ酸とポリアルキレングリコールを反応させた化合物を含有する帯電防止剤が提案されているが、この化合物はポリオレフィン等の樹脂に対して相溶性が十分でないため、透明性を要求される用途に使用することができない。
【特許文献1】特開平11−170456号公報 (2頁)
【特許文献2】特許第3077847号公報 (1〜2頁)
【特許文献3】特開2001−278985号公報(2〜5頁)
【特許文献4】特開2002−284880号公報(2〜3頁)
【特許文献5】特許3761502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、長期に渡って帯電防止性を持続し、樹脂に練り込んでもその外観や透明性を損なわない帯電防止剤及びそれを含有する樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討の結果、特定の重合体からなる帯電防止剤が上記課題を解決できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、
(a)ポリオキシアルキレン基を有するジオール、
(b)ホウ素化合物、及び
(c)末端が酸変性されたポリオレフィン
を反応させることにより得られる重合体に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
(a)ポリオキシアルキレン基を有するジオールは、例えばジオールにアルキレンオキサイドを付加することにより得ることができる。具体的には、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールの他、例えば下記一般式(1)で示されるものが挙げられる。

H−(OA)m−O−R−O−(AO)n−H (1)

式中、Rはジオールから水酸基を除いた残基、A、Aはそれぞれ独立して炭素数2〜4のアルキレン基、m及びnはジオールの水酸基1個当たりのアルキレンオキサイド付加数を表す。m個の(OA)とn個の(AO)は、同一でも異なっていてもよく、また、これらが2種以上のオキシアルキレン基で構成される場合の結合形式はブロック若しくはランダム又はこれらの組合せのいずれでもよい。m及びnは、通常1〜100、好ましくは2〜30、特に好ましくは3〜10の整数である。また、mとnとは、同一でも異なっていてもよい。
【0011】
ジオールとしては、二価アルコール(例えば炭素数2〜12の脂肪族、脂環式若しくは芳香族二価アルコール)、炭素数6〜18の二価フェノール及び三級アミノ基含有ジオールが挙げられる。脂肪族二価アルコールとしては、例えば、アルキレングリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール)、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,12−ドデカンジオールが挙げられる。脂環式二価アルコールとしては、例えば、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールが挙げられ、芳香族二価アルコールとしては、例えば、キシリレンジオール等が挙げられる。二価フェノールとしては、例えば、単環二価フェノール(ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、ウルシオール等)、ビスフェノール(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−ブタン、ジヒドロキシビフェニル等)及び縮合多環二価フェノール(ジヒドロキシナフタレン、ビナフトール等)が挙げられる。
【0012】
三級アミノ基含有ジオールとしては、例えば、炭素数1〜30の脂肪族又は脂環式一級モノアミン(メチルアミン、エチルアミン、シクロプロピルアミン、1−プロピルアミン、2−プロピルアミン、アミルアミン、イソアミルアミン、ヘキシルアミン、1,3−ジメチルブチルアミン、3,3−ジメチルブチルアミン、2−アミノヘプタン、3−アミノヘプタン、シクロペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン等)のビスヒドロキシアルキル化物及び炭素数6〜12の芳香族一級モノアミン(アニリン、ベンジルアミン等)のビスヒドロキシアルキル化物が挙げられる。これらのうち好ましいのは、脂肪族二価アルコール及びビスフェノール、特に好ましくはエチレングリコール及びビスフェノールAである。
【0013】
ポリオキシアルキレン基を構成するオキシアルキレン基としては、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。ポリオキシアルキレン基はこれらの1種または2種以上により構成され、例えばアルカリ触媒の存在下、100〜200℃の温度でジオールにアルキレンオキサイドを付加することで得ることができる。
【0014】
ポリオキシアルキレン基を有するジオールとしては、好ましくは分子量300〜2,000、より好ましくは500〜1,000のポリエチレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物を用いることができる。
【0015】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、(a)ポリオキシアルキレン基を有するジオールとともに、ポリオキシアルキレン基を有するモノオールや、ポリオキシアルキレン基を有する多価アルコールを併用してもよい。これらは、例えばモノオールや多価アルコールにアルキレンオキサイドを付加することにより得ることができる。
【0016】
モノオールとしては、一価アルコール(例えば炭素数1〜24の脂肪族、脂環式若しくは芳香族一価アルコール)、炭素数6〜18の一価フェノールが挙げられる。具体的には、一価アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ドデシルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等が挙げられ、一価フェノールとしては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等が挙げられる。多価アルコールとしては、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン等が挙げられる。
【0017】
ポリオキシアルキレン基を構成するオキシアルキレン基としては、前記したものと同様のものを好ましく用いることができる。アルキレンオキサイドの付加モル数は通常1〜100モルの範囲にあるが、好ましくは2〜30である。また、2種以上のアルキレンオキサイドの場合の結合形式はブロック若しくはランダム又はこれらの組合せのいずれでもよい。
【0018】
本発明で使用されるホウ素化合物は特に限定されるものではないが、具体的には無水ホウ酸(酸化ホウ素)、例えばオルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸等の各種のホウ酸、例えばホウ酸エスエル、ホウ酸エステルとアルコールとの錯化合物、ホウ酸アルキル等の加熱によって無水ホウ酸を生成する前駆物質などを挙げることができる。
【0019】
(c)末端が酸変性されたポリオレフィンは、例えばポリオレフィンの末端をα,β−不飽和カルボン酸又はその無水物により変性することにより得ることができる。
【0020】
ポリオレフィンとしては、炭素数2〜30(好ましくは2〜12、さらに好ましくは2〜10)のオレフィンの1種もしくは2種以上の混合物を重合することによって得られるポリオレフィン(重合法)、高分子量ポリオレフィンの熱減成法によって得られる低分子量ポリオレフィン(熱減成法)が使用できる。ポリオレフィンの数平均分子量Mnは100〜10,000が好ましく、300〜3,000がより好ましく、500〜1,500が最も好ましい。
【0021】
炭素数2〜30のオレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、炭素数5〜30(好ましくは5〜12、さらに好ましくは5〜10)のα−オレフィン、例えば、4−メチル−1−ペンテン、1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン及び1−ドデセン、炭素数4〜30(好ましくは4〜18、さらに好ましくは4〜8)のジエン、例えば、ブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン、11−ドデカジエン等が挙げられる。
【0022】
酸変性に用いられるα,β−不飽和カルボン酸又はその無水物としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸およびそれらの無水物、例えば(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸および(無水)シトラコン酸等が挙げられる。これらのうち好ましいものはフマル酸および特に(無水)マレイン酸である。
【0023】
(c)末端が酸変性されたポリオレフィンとして片末端のみが酸変性されたポリオレフィンを用いることによって、得られる重合体の粘度特性を制御しやすくなるため好ましい。片末端のみが酸変性されたポリオレフィンとしては、ポリ(イソ)ブテニルコハク酸(PIBSA)が挙げられる。PIBSAは、イソブテンの単独重合体、もしくはイソブテンとn−ブテンとの共重合体であるポリ(イソ)ブテンと無水マレイン酸を反応させることで得ることができる。
【0024】
本発明の重合体は、(a)、(b)及び(c)を一度に反応させることによっても得ることができるが、反応を制御しやすい点で、(1)(a)と(b)を反応させた後、得られた反応物と(c)を反応させる製造方法、(2)(a)と(c)を反応させた後、得られた反応物と(b)を反応させる製造方法が好ましい。
【0025】
(1)の製造方法において、(a)と(b)の反応は120〜250℃で触媒はなくても進行する。得られた反応物と(c)との反応は触媒の存在下、150〜250℃で行うことができる。触媒は酸触媒であってもアルカリ触媒であってもよいが、そのまま(c)に由来する酸基の中和にも用いることができる点でアルカリ触媒が好ましい。(a)と(b)の反応モル比は特に限定されるものではないが、架橋構造を形成することによって粘度特性がブランク樹脂に近い重合体が得られる点で、(b)1モルに対し(a)が0.3〜3モルであれば好ましく、さらに0.5〜2モルであればより好ましい。続いて(c)を、(a)、(b)及び(c)の合計質量を100%とした場合、40〜95質量%、特には50〜80質量%となるように反応させることが、得られた重合体と樹脂との相溶性の点で好ましい。
【0026】
(2)の製造方法において、(a)と(c)の反応は触媒の存在下、150〜250℃で行うことができる。触媒は酸触媒であってもアルカリ触媒であってもよいが、そのまま(c)に由来する酸基の中和にも用いることができる点でアルカリ触媒が好ましい。得られた反応物と(b)との反応は120〜250℃で触媒はなくても進行するが、前反応の触媒が残っていてもよい。(a)と(c)の反応モル比は特に限定されるものではないが、得られる重合体と樹脂との相溶性の点で(c)1モルに対し(a)が0.1〜2モルであれば好ましく、さらに0.5〜2モルであればより好ましい。さらに、(a)と(c)の反応物に残存する水酸基に対し、(b)の反応基数が等しくなるようにすれば、粘度特性がブランク樹脂と近い重合体が得られる点から最も好ましい。
【0027】
重合体中に(c)に由来する酸基が存在する場合、その一部もしくは全部がアルカリ性物質により中和されていることが好ましい。中和のために使用するアルカリ性物質としては、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物や炭酸塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩、アンモニア、有機アミン等が挙げられるが、帯電防止性の点でカリウム等のアルカリ金属の水酸化物が好ましい。塩を形成している酸基の割合は必ずしも残存する酸基の全てでなくてもよいが、帯電防止性の点で30モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましい。
【0028】
本発明に係る重合体の重量平均分子量は通常2,000〜1,000,000の範囲内にあるが、帯電防止性と樹脂との相溶性の両立の点で5,000〜300,000の範囲内であれば好ましい。なお、本発明において「重合体」とは、重合体そのもののみでもよく、あるいは各々の重合工程で発生した未反応成分、副反応物も含めた成分も包含して広義に重合体としてもよい。
【0029】
本発明の重合体は、特に帯電防止剤として好適に用いることができる。本発明の重合体が樹脂に帯電防止性を付与するメカニズムは明らかではないが、ホウ酸由来の構成単位を重合体中に組み込むことで、残存する酸基の中和に用いたアルカリ性物質が乖離しやすくなり、帯電防止効果が発現すると考えられる。本発明の重合体を帯電防止剤として用いる場合、その配合量は熱可塑性樹脂中に3〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0030】
本発明の帯電防止剤は、単独でも十分効果を発揮することができるが、本発明の目的を損なわない範囲で、必要により本発明以外の公知のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤を単独或いは2種以上併用させてもよい。また、アルカリ金属やアルカリ土類金属の塩、ポリエーテルエステルアミド等のような高分子型帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤や通常樹脂製品に添加される各種添加剤、充填剤を付加成分として添加することもできる。
【0031】
アルカリ金属やアルカリ土類金属の塩としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属や、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属と、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、過塩素酸、硫酸、リン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸との塩が挙げられる。
【0032】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0033】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンの単独重合体、前記α−オレフィン同士の共重合体、前記α−オレフィンと共重合可能なα−オレフィン以外の単量体とα−オレフィンとの共重合体、及びこれらの混合物が挙げられる。前記のα−オレフィンと共重合可能なα−オレフィン以外の単量体としては、酢酸ビニル、マレイン酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等を挙げることができる。
【0034】
ポリスチレン樹脂としては、スチレン類の単独重合体の他、スチレン類と共重合可能な単量体とスチレン類との共重合体が挙げられる。具体的には、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)等が挙げられる。ビニル樹脂としては、ジエン系重合体、例えばブタジエン樹脂、ポリイソプレン樹脂等が挙げられる。ポリアミド樹脂としては、ナイロン等が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンサクシネートアジペート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル等が挙げられる。ポリアセタール樹脂としては、ホルムアルデヒド又はトリオキサンの重合体が挙げられる。ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールAとホスゲンとの縮合物、ビスフェノールAと炭酸ジエステルとの縮合物が挙げられる。熱可塑性ポリウレタン樹脂としては、有機ジイソシアネートと高分子ジオールの反応物が挙げられる。フッ素樹脂としては、フッ素含有モノマーの重合体が挙げられる。
【0035】
本発明に係る帯電防止剤を添加した熱可塑性樹脂は、公知公用の成形法に適用できる好適な材料であり、得られる成形体には、特に制限はなく、例えばフィルム・シート、モノフィラメント、繊維や不織布等のマルチフィラメント、射出成形体、ブロー成形体、積層体、発泡体、真空成形体などの熱成形体が挙げられる。又、本発明に係る帯電防止剤を添加した樹脂組成物は、延伸配向結晶化させる際の成形性が良く本発明効果が顕著に現れ、延伸して得られるフィルム・シート、テープヤーン、延伸ブロー成形体、(モノ、マルチ)フィラメントの製造に好適である。
【0036】
本発明に係る帯電防止剤を添加した樹脂組成物から得られる成形体の成形方法としては、射出成形法、ブロー成形法(射出延伸ブロー、押出し延伸ブロー、ダイレクトブロー)、バルーン法、インフレーション成形、共押出法、カレンダー法、ホットプレス法、溶媒キャスティング法、(延伸)押出し成形,紙やアルミとの押出しラミネーション法、異形押出し成形、真空(圧空)成形などの熱成形、溶融紡糸(モノフィラメント、マルチフィラメント、スパンボンド法、メルトブローン法、解繊糸法など)、発泡成形法、圧縮成形法等が挙げられ、何れの方法にも適応できる。
【0037】
特に、押出し成形、溶融紡糸などの延伸配向結晶化させる工程をとり得る成形法の場合、得られる成形体の強度、耐熱性、耐衝撃性、透明性等の実用強度や外観を改良させる事ができ、より好ましく用いられる。本発明に係るブロック重合体を添加した樹脂組成物から得られる成形体は、例えば、公知・公用の成形法で得られる成形体を包含し、その形状、大きさ、厚み、意匠等に関して何ら制限はない。
【0038】
本発明に係るブロック重合体を添加した樹脂組成物を上記成形方法から得られる、ボトル、フィルム又はシート、中空管、積層体、真空(圧空)成形容器、(モノ、マルチ)フィラメント、不織布、発泡体等の成形体は、例えば、ショッピングバッグ、紙袋、シュリンクフィルム、ゴミ袋、コンポストバッグ、弁当箱、惣菜用容器、食品・菓子包装用フィルム、食品用ラップフィルム、化粧品・香粧品用ラップフィルム、おむつ、生理用ナプキン、医薬品用ラップフィルム、製薬用ラップフィルム,肩こりや捻挫等に適用される外科用貼付薬用ラップフィルム、農業用・園芸用フィルム、農薬品用ラップフィルム、温室用フィルム、肥料用袋、包装用バンド、ビデオやオーディオ等の磁気テープカセット製品包装用フィルム、フレキシブルディスク包装用フィルム、製版用フィルム、粘着テープ、テープ、ヤーン、育苗ポット、防水シート、土嚢用袋、建築用フィルム、雑草防止シート、植生ネット、など食品、電子、医療、薬品、化粧品等の各種包装用フィルム、電子部品用フィルム、電機絶縁フィルム、金属板ラミネート用フィルム、ガラスディスプレイ用フィルム等のフィルム、液晶表示装置用部材のプリズムレンズシート、タッチパネル、バックライト等のベースフィルム、偏光板、光学レンズ、各種計器のカバー、自動車、電車等の窓ガラスに用いられる反射防止用フィルム;ディスプレイ防爆用フィルムのベースフィルム、液晶表示用基板、有機EL表示素子基板、カラーフィルター用基板、タッチパネル用基板、太陽電池用基板等の光学シート;光学レンズ、スクリーン等に用いるレンズシート、電機・自動車製造業、農業・土木・水産分野で用いられる資材等の広範囲における各種材料として好適に使用し得る。
【実施例】
【0039】
次に実施例に基づいて本発明をより詳しく説明する。ただし、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0040】
[製造例1]
窒素導入管、攪拌機、温度計付きステンレス製オートクレーブ(以下、単に「ステンレス製オートクレーブ」とする)にホウ酸を37.1g、ポリエチレングリコール(水酸基価374mgKOH/g)を180g仕込み、十分に窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、微量窒素バブリングの減圧条件下で3時間反応させた。得られた生成物はゲル状の粘性重合体であった。
【0041】
[製造例2]
ステンレス製オートクレーブにポリブテニルコハク酸(鹸化価90mgKOH/g)77.6gと製造例1で得られた生成物を77.6g、酸化防止剤(イルガノックス1010)を0.7g仕込んだ。充分に窒素置換を行い、80℃まで昇温させた後、48%KOH6.7gを添加した。更に充分な窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、220℃、0.2kPa以下、微量窒素バブリングの減圧下条件で3時間維持した。得られた生成物(重合体1とする)は粘ちょうな重合体であった。
【0042】
[製造例3]
ステンレス製オートクレーブに無水ホウ酸を12.9g、ポリエチレングリコール(水酸基価374mgKOH/g)を187.1g仕込み、十分に窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、微量窒素バブリングの減圧条件下で3時間反応させた。得られた生成物は液状重合体であった。
【0043】
[製造例4]
ステンレス製オートクレーブにポリブテニルコハク酸(鹸化価90mgKOH/g)121.0gと製造例3で得られた生成物を30.0g、酸化防止剤(イルガノックス1010)を0.7g仕込んだ。充分に窒素置換を行い、80℃まで昇温させた後、48%KOH11.6gを添加した。更に充分な窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、220℃、0.2kPa以下、微量窒素バブリングの減圧下条件で3時間維持した。得られた生成物(重合体2とする)は粘ちょうな重合体であった。
【0044】
[製造例5]
ステンレス製オートクレーブにホウ酸を24.7g、ポリエチレングリコール(水酸基価374mgKOH/g)を120g、ヨウ化リチウムを8.0g仕込み、十分に窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、微量窒素バブリングの減圧条件下で3時間反応させた。得られた生成物はゲル状の粘性重合体であった。
【0045】
[製造例6]
ステンレス製オートクレーブにポリブテニルコハク酸(鹸化価90mgKOH/g)77.6gと製造例5で得られた生成物を77.6g、酸化防止剤(イルガノックス1010)を0.7g仕込んだ。充分に窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、220℃、0.2kPa以下、微量窒素バブリングの減圧下条件で3時間維持した。得られた生成物(重合体3とする)は粘ちょうな重合体であった。
【0046】
[製造例7]
ステンレス製オートクレーブにポリブテニルコハク酸(鹸化価90mgKOH/g)100.1gとポリエチレングリコール(水酸基価374mgKOH/g)を49.5、酸化防止剤(イルガノックス1010)を0.7g、水酸化ナトリウムを0.3g仕込んだ。充分に窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、220℃、0.2kPa以下、微量窒素バブリングの減圧下条件で6時間維持した。得られた生成物は粘ちょうな重合体であった。
【0047】
[製造例8]
ステンレス製オートクレーブに製造例7で得られた生成物を50.0gとポリエチレングリコール(水酸基価374mgKOH/g)を82.9g、ホウ酸を17.1g仕込んだ。充分に窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、220℃、0.2kPa以下、微量窒素バブリングの減圧下条件で5時間維持した。得られた生成物(重合体4とする)はゲル状重合体であった。
【0048】
[製造例9]
ステンレス製オートクレーブにホウ酸を16.45g、ポリエチレングリコール(水酸基価374mgKOH/g)を39.9g、ステアリルジエタノールアミンのエチレンオキサイド付加物(水酸基価314mgKOH/g)を47.5g仕込み、十分に窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、微量窒素バブリングの減圧条件下で3時間反応させた。生成物はゲル状の粘性重合体であった。
【0049】
[製造例10]
ポリブテニルコハク酸(鹸化価90mgKOH/g)77.6gと製造例9で得られた生成物を77.6g、酸化防止剤(イルガノックス1010)を0.7g仕込んだ。充分に窒素置換を行い、80℃まで昇温させた後、48%KOH6.7gを添加した。更に充分な窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、220℃、0.2kPa以下、微量窒素バブリングの減圧下条件で3時間維持した。得られた生成物(重合体5とする)は粘ちょうな重合体であった。
【0050】
[製造例13]
ステンレス製オートクレーブに無水ホウ酸を2.1g、ビスフェノールA−18EO付加物(東邦化学工業製ビスオール18EN;水酸基価111mgKOH/g)を187.1g仕込み、十分に窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、微量窒素バブリングの減圧条件下で3時間反応させた。生成物は液状重合体であった。
【0051】
[製造例14]
ポリブテニルコハク酸(鹸化価90mgKOH/g)121.0gと製造例13で得られた生成物を99.3g、酸化防止剤(イルガノックス1010)を1.1g仕込んだ。充分に窒素置換を行い、80℃まで昇温させた後、48%KOH11.3gを添加した。更に充分な窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、220℃、0.2kPa以下、微量窒素バブリングの減圧下条件で3時間維持した。得られた生成物(重合体6とする)は粘ちょうな重合体であった。
【0052】
[製造例15]
ステンレス製オートクレーブにホウ酸を3.4g、ポリオキシエチレングリコール(水酸基価112mgKOH/g)を180.0g仕込み、十分に窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、微量窒素バブリングの減圧条件下で3時間反応させた。生成物は液状重合体であった。
【0053】
[製造例16]
ポリブテニルコハク酸(鹸化価62mgKOH/g)120.0gと製造例15で得られた生成物を66.5g、酸化防止剤(イルガノックス1010)を1.1g仕込んだ。充分に窒素置換を行い、80℃まで昇温させた後、48%KOH7.7gを添加した。更に充分な窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、220℃、0.2kPa以下、微量窒素バブリングの減圧下条件で3時間維持した。得られた生成物(重合体7とする)は粘ちょうな重合体であった。
【0054】
[製造例17]
ステンレス製オートクレーブに無水ホウ酸を8.0g、ポリオキシエチレングリコール(水酸基価374mgKOH/g)を92.0g、メトキシポリエチレングリコール(水酸基価140mgKOH/g)を69.0g仕込み、十分に窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、微量窒素バブリングの減圧条件下で3時間反応させた。生成物は液状重合体であった。
【0055】
[製造例18]
ポリブテニルコハク酸(鹸化価90mgKOH/g)77.6gと製造例17で得られた生成物を19.4g、酸化防止剤(イルガノックス1010)を0.7g仕込んだ。充分に窒素置換を行い、80℃まで昇温させた後、48%KOH6.7gを添加した。更に充分な窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、220℃、0.2kPa以下、微量窒素バブリングの減圧下条件で3時間維持した。得られた生成物(重合体8とする)は粘ちょうな重合体であった。
【0056】
[比較製造例1]
ステンレス製オートクレーブにシクロヘキサントリカルボン酸を62.3g、ポリエチレングリコール(水酸基価374mgKOH/g)を87.7g、触媒としてパラトルエンスルホン酸を0.3g仕込み、十分に窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、微量窒素バブリングの減圧条件下で2時間反応させた。得られた生成物(比較重合体1とする)はゲル状物と固体状が存在する粘性重合体であった。
【0057】
[比較製造例2]
ポリブテニルコハク酸(鹸化価90mgKOH/g)77.6gと比較製造例1を77.6g、酸化防止剤(イルガノックス1010)を0.7g仕込んだ。充分に窒素置換を行い、80℃まで昇温させた後、48%KOH6.7gを添加し、更に充分な窒素置換を行い、220℃まで昇温させた後、220℃、0.2kPa以下、微量窒素バブリングの減圧下条件で3時間維持した。得られた生成物(比較重合体2とする)は粘ちょうな重合体であった。
【0058】
[比較製造例3]
窒素導入管、攪拌機、温度計付きステンレス製オートクレーブにペンタエリスリトール68.0g、エチレンオキサイドを22.0g、KOHを0.1g仕込み、窒素置換を行い、徐々に昇温した。オートクレーブの内圧減少により、反応進行を確認した後、120℃にし、別途タンクから少しずつエチレンオキサイドをオートクレーブに導入し、付加反応を行なった。エチレンオキサイドの付加量は594gであった。得られた生成物(比較重合体3とする)は液状重合体であった。
【0059】
試験片1の作製
熱可塑性樹脂としてポリプロピレン[ノバテックPP FL6H(商品名:日本ポリプロ(株)販売)]に対して前述の本発明の重合体を表1に示した配合量で配合し、ラボプラストミルとローラミキサー((株)東洋精機製作所製)にて200℃で溶解混合した後、混合した樹脂をプレス機にて厚さ0.5mm、縦60mm、横60mmのシート状に成型した。次にこのシートをオーブンの中で加熱した後、縦5.0倍、横5.0倍に延伸し厚み20μmのフィルムを得た。
【0060】
試験片2の作製
熱可塑性樹脂としてポリプロピレン[プライムポリプロ F−300SP(商品名:プライムポリマー(株)販売)]に対して前述の本発明の重合体を表1に示した配合量で配合し、Tダイ押出機で溶融温度200−240℃にて200μmのシートを製膜した。
【0061】
試験片3の作製
熱可塑性樹脂としてポリエチレン[スミカセン F−102(商品名:住友化学(株)販売)]に対して前述の本発明の重合体を表1に示した配合量で配合し、Tダイ押出機で溶融温度200−220℃にて200μmのシートを製膜した。
【0062】
試験片4の作製
熱可塑性樹脂としてポリ乳酸[レイシアH−400(商品名:三井化学(株)販売)]に対して前述の本発明の重合体を表1に示した配合量で配合し、ラボプラストミルとローラミキサー((株)東洋精機製作所製)にて200℃で溶解混合した後、混合した樹脂をプレス機にて厚さ0.2mm、縦60mm、横60mmのシート状に成型した。次にこのシートをオーブンの中で加熱した後、縦3.0倍、横3.0倍に延伸し厚み20μmのフィルムを得た。
【0063】
<評価方法>
(1)帯電防止性
温度23℃、相対湿度50%の環境下に1日放置した後、同条件下でJIS−K6911に準じ、(株)川口電気製作所製超絶縁計P−616を使用して作製した試験片の表面固有抵抗値を測定した。又、試験片を80℃のお湯に30分浸漬し、綺麗な布で表面を拭き取り後、表面固有抵抗値を測定した。数値が小さい程、帯電防止性が優れている事を示す。表面固有抵抗値(LogΩ/□)は13以下が目標である。
(2)外観
帯電防止剤未配合の試験片と本発明の帯電防止剤を配合した試験片を目視で比較確認した。未配合と同等の外観で樹脂に相溶しているものを○、スジ、ボイドやフィッシュアイ等が発生し外観が不良なものを×で評価した。
(3)透明性
HAZE測定装置(東京電色(株)製 HAZEMETER TC−HIIIDPK)にて作製したフィルム、シートのHAZE値を測定し、帯電防止剤未配合の試験片と本発明の帯電防止剤配合の試験片との差ΔHAZEを比較評価した。ΔHAZEが小さいほど、帯電防止剤未配合の試験片に近い透明性を示す。ΔHAZEは10以下が目標である。
【0064】
【表1】

【0065】
以上の結果より、本発明に係る重合体は、帯電防止性とその持続性に優れ、かつ、樹脂に練り込んでもその外観や透明性を損なわないことが確認できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリオキシアルキレン基を有するジオール、
(b)ホウ素化合物、及び
(c)末端が酸変性されたポリオレフィン
を反応させることにより得られる重合体。
【請求項2】
前記(a)ポリオキシアルキレン基を有するジオールが下記一般式(1)で表される化合物である請求項1に記載の重合体。

H−(OA)m−O−R−O−(AO)n−H (1)

(A1、Aはそれぞれ独立して炭素数2〜4のアルキレン基を示す。R1はジオールから水酸基を除いた残基。m及びnはそれぞれ独立して1〜100の整数を表す。m個の(OA)とn個の(AO)は、同一でも異なっていてもよく、また、これらが2種以上のオキシアルキレン基で構成される場合の結合形式はブロック若しくはランダム又はこれらの組合せのいずれでもよい。)
【請求項3】
前記(b)ホウ素化合物がホウ酸、無水ホウ酸、ホウ酸アルキルからなる群より選ばれる1種または2種以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項4】
前記(c)末端が酸変性されたポリオレフィンがポリブテニルコハク酸である請求項1〜3のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の重合体からなる帯電防止剤。
【請求項6】
請求項5に記載の帯電防止剤を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂である請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6または7の樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項9】
請求項6または7の樹脂組成物からなるシート。

【公開番号】特開2012−31310(P2012−31310A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172903(P2010−172903)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】