説明

重合体被覆無機粒子

【課題】 本発明は、シリカ等の無機粒子を表面処理し、防錆材として使用した際に、高い防錆性を発揮し、該防錆効果の安定性、持続性にも高度に優れたものを開発することを目的とする。
【解決手段】 2−アミノエチルアミノ基、3−アミノプロピルアミノ基、ジメチルアミノエチルメチルアミノ基等のキレートを形成可能な基、またはメルカプト基から選ばれる金属イオン捕捉性基を有する重合体、好適には架橋された重合体で、シリカ等の無機粒子が被覆されてなることを特徴とする重合体被覆無機粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆材、充填材、ガス処理材、合成反応の触媒等として有用な無機粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ等の無機粒子は、機械的強度に優れ、また化学的な安定性が高く、さらには安価に種々の形状や比表面積、細孔をもつものが容易に入手できるばかりでなく、表面処理を施すことにより様々な機能を付与することができる。そして、これらの無機粉体は、上記表面処理により付与された性状に応じて、防錆材、各種ゴムや樹脂の充填材、ガス処理材、合成反応の触媒など様々な用途に用いられている。
【0003】
これらの中でも、防錆材は有用であり、例えば、カルシウムを担持させたシリカが、亜鉛めっき鋼板等の金属部材の錆防止として使用されている。これは、カルシウムを担持したシリカからカルシウムイオンが溶出して沈殿皮膜を形成する一方で、金属の錆の原因となるイオン性物質を補足することにより防錆効果を発揮するものと推定される。
【0004】
上記カルシウムを担持したシリカを防錆材として含む有機樹脂をコーティングした表面処理鋼板は、かなりの防錆効果を示すものの、目的の防錆効果を得るためには、別途加える添加剤の種類や組成を工夫する必要があり、さらに、その性状を向上させることが望まれていた。
【0005】
このため、種々の官能基をシリカに導入し、その防錆効果の優れたものを見出すことが重要であるが、いまだ十分な検討はなされていないのが実状である。また、シリカへの官能基の導入は、シランカップリング剤を利用する方法が汎用的であるが(例えば、特許文献1、2参照)、この手法では、該シランカップリング剤のシリカ表面への結合の安定性が満足できるほど高くなく、導入した官能基に多少の防錆効果が認められたとしても、それを十分に発揮させることが困難であった。特に、鋼板は家電、自動車、建材等の用途において種々加工され、長期間に渡って使用されるが、これらの用途では、高熱や高湿度、さらには溶剤、酸等の薬剤にも曝されるような厳しい条件下で使用されることも有りえるため、上記防錆効果の低下の問題が顕著に発生し更なる改善が必要であった。
【0006】
さらに、シリカ等の無機粒子に、官能基を導入する別の方法としては、無機粒子を所望する官能基を有するビニル系の重合体で被覆して機能性を付与する方法も知られている。具体的には、a)無機粒子を前記ビニル系の重合性単量体で被覆した後、該単量体を重合させる方法(例えば、特許文献3〜5参照)、b)前記ビニル系重合体を溶剤に分散させ、無機粒子に直接被覆させる方法(例えば、特許文献6参照)等である。
【0007】
しかしながら、これらの無機粒子をビニル系の重合体で被覆する方法は、いずれも顔料、クロマトグラフィー用充填材、ゴム用充填材等の用途において、それぞれの性能向上を目的に、アミノ基、水酸基、スルホン酸基、4級アンモニウム等の各用途に応じた官能基を付与しているものであり、その中にあって、防錆性の付与を目的に特定の官能基を付与したものは無かった。したがって、該防錆の目的に、如何なる官能基が効果的かは、これらの文献からは不明であり、メルカプト基やキレートを形成可能な基のような特殊な基を、この目的に従って該方法を応用して無機粒子に導入したような例は全く知られていなかった。
【0008】
【特許文献1】特開平6−199621号公報
【特許文献2】特開平9−48610号公報
【特許文献3】特開平3−281577号公報
【特許文献4】特開平5−96184号公報
【特許文献5】特開2005−60668号公報
【特許文献6】特開平5−181144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の背景にあって、本発明は、シリカ等の無機粒子を表面処理し、防錆材として使用した際に、高い防錆性を発揮し、該防錆効果の安定性、持続性にも高度に優れたものを開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討を進めた。その結果、無機粒子を、メルカプト基、またはキレートを形成可能な基から選ばれる金属イオン捕捉性基を有する重合体で被覆した新規な重合体被覆無機粒子によれば、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、メルカプト基、または該メルカプト基を有するものを除く、キレートを形成可能な基から選ばれる金属イオン捕捉性基を有する重合体で被覆されてなることを特徴とする重合体被覆無機粒子である。
【0012】
また、本発明は、上記重合体被覆無機粒子の製造方法として、下記工程(A)〜(C)を含むことを特徴とする方法も提供する。
【0013】
(A) 無機粒子からなる原料粉体と、メルカプト基、または該メルカプト基を有するものを除く、キレートを形成可能な基から選ばれる金属イオン捕捉性基を有する重合性単量体、若しくは該金属イオン捕捉性基に変換可能な官能基か、該金属イオン捕捉性基を導入することができる構造を有する重合性単量体とを含む重合性組成物を準備する工程、
(B) 前記原料粉体と、前記重合性組成物を混合して該原料粉体に該重合性組成物を吸着させる工程、
(C) 前記工程(B)で得られた重合性組成物を吸着させた原料粉体について、吸着された重合性組成物を重合し、更に前記重合性単量体が、前記金属イオン捕捉性基に変換可能な官能基若しくは前記金属イオン捕捉性基を導入することができる構造を有する重合性単量体である場合には、前記官能基を該金属イオン捕捉性基に変換するか又は前記構造に金属イオン捕捉性基を導入することにより、金属イオン捕捉性基を有する重合体被覆無機粒子を得る工程。
【発明の効果】
【0014】
本発明の重合体被覆無機粒子は、メルカプト基、またはキレートを形成可能な基から選ばれる金属イオン捕捉性基を有しており、これが腐食の原因となる金属イオンを強固に捕捉するためと推測されるが、極めて優れた防錆性を有している。その効果は、同じ金属の捕捉性基である、3級アミノ基、ピリジル基等を有する重合体で被覆されている無機粒子の防錆性よりも大きく勝っている。
【0015】
また、この金属イオン捕捉性基は、防錆材を構成する無機粒子を被覆する重合体に結合することにより導入されているため安定であり、防錆効果の持続性が高い。従って、本発明の防錆材は、高温、高湿度、溶剤、酸等に曝される過酷な環境下で使用されても、防錆性の低下が生じ難く、こうした厳しい条件下で使用される鋼板用の防錆材として極めて有用である。
【0016】
さらに、本発明の重合体被覆無機粒子は、上記金属イオンの捕捉性能を利用して、クロマトグラフィー用充填材、ゴム用充填材、触媒、ガス処理材等の様々な用途に有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の重合体被覆無機粒子は、金属イオン捕捉性基を有する重合体で被覆されてなる無機粒子(以下、重合体被覆無機粒子とも呼ぶ)からなり、これは核となる無機粒子(以下、核粒子とも呼ぶ)が、メルカプト基、または該メルカプト基を有するものを除く、キレートを形成可能な基から選ばれる金属イオン捕捉性基を有する重合体により被覆されている。
【0018】
上記核粒子は、無機粒子であれば特に限定されるものではなく、公知の無機粒子の中から目的とする用途に応じて適宜選択すればよい。粒子径、比表面積、細孔径、細孔容積、形状等の異なる種々のものが容易に入手可能であり、また化学的安定性にも優れる点で、ケイ素、チタン、アルミニウム、ジルモニウム、スズ、鉛、鉄、亜鉛等の金属または半金属の単独酸化物、もしくは複合酸化物が好ましい。また、複合酸化物としては、さらにナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属を含むものも好適である。これらの中でも特に、化学的安定性に優れ、また容易に種々の性状のものが入手できる点で、ケイ素の単独酸化物、またはケイ素を構成元素として含む複合酸化物(ケイ素系酸化物)が好ましい。
【0019】
ケイ素系酸化物をより具体的に例示すると、石英、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、ゾルゲルシリカ等のシリカ類;シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−バリウムオキサイド、シリカ−アルミナ、シリカ−カルシア、シリカ−ストロンチウムオキサイド、シリカ−マグネシア、シリカ−チタニア−ナトリウムオキサイド、シリカ−チタニア−カリウムオキサイド、シリカ−ジルコニア−ナトリウムオキサイド、シリカ−ジルコニア−カリウムオキサイド、シリカ−アルミナ−ナトリウムオキサイド、またはシリカ−アルミナ−カリウムオキサイド等の複合酸化物類;ケイ酸カルシウム、タルク、ゼオライト、モンモリロナイト等のケイ酸塩類が挙げられる。
【0020】
本発明の重合体被覆無機粒子において、前記核粒子を被覆する重合体(以下、被覆重合体とも言う)は、メルカプト基、または該メルカプト基を有するものを除く、キレートを形成可能な基から選ばれる金属イオン捕捉性基を少なくとも1つ有する。こうした金属イオン捕捉性基を有する重合体により被覆されていることにより、無機粒子も同様の機能を持つことができ、優れた防錆効果を発揮できる。
【0021】
ここで、金属イオン捕捉性基を重合体が有するとは、該金属イオン捕捉性基を重合体が共有結合により結合されている状態をいう。したがって、本発明の重合体被覆無機粒子においては、上記金属イオン捕捉性基が無機粒子を被覆する重合体と強固に結合しているため、水洗等により簡単に脱離してしまうこともなく、例えば防錆材として使用した際において、高温、高湿度、溶剤、酸等に曝される過酷な環境下で使用されても、その優れた防錆効果を安定的・持続的に発揮できる。
【0022】
被覆重合体としては、前記金属イオン捕捉性基を有するものであれば特に制限されない。こうした被覆重合体は、非架橋体であっても良いが、架橋重合体とすることにより、溶剤等に対する溶解性がさらに低下し、熱安定性、耐湿性、耐酸性等がより優れたものになり、過酷な条件下で使用されても防錆効果が一層に低下し難いものにできるため好ましい。なお、該架橋重合体における架橋は共有結合性の架橋であることが好適である。
【0023】
被覆重合体としては、ポリスチレン系、(メタ)アクリル系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリウレタン系、ポリスルホン系、ポリエーテル系、ポリエーテルスルホン系等の公知の如何なる樹脂でもよい。これらのなかでも、重合体被覆無機粒子の製造が容易な点で、ポリスチレン系、(メタ)アクリル系であることが好ましく、特に、耐加水分解性などの化学的安定性等にも優れる点でポリスチレン系の樹脂であることが好ましい。
【0024】
本発明の重合体被覆無機粒子では、核粒子の表面が前記被覆樹脂で被覆されているが、必ずしもその全面を被覆している必要はなく一部の表面が被覆されていればよい。しかしながら、被覆重合体の安定性の観点から、表面の全面が被覆されているのが好適である。また、被覆の状態は、核粒子の表面に被覆重合体が容易に脱離しない形で固定化されていれば特に限定されず、例えば核粒子が細孔を有している場合には、該細孔の壁面を覆った状態、あるいは該細孔を埋めるように存在している状態、あるいはそれらが組み合わさった状態で存在していてもよい。
【0025】
重合体被覆無機粒子の粒径や粒度分布、形状等は特に限定されるものではなく、用途等に応じて適宜選択すればよい。これら粒径や粒度分布、形状等は、後述するような製造方法により、核粒子の選択や、被覆に用いる重合性単量体の量などで制御できる。
【0026】
平均粒子径が小さく、比表面積が大きいほど周囲との接触面積が大きくなり、防錆材としての効果に優れ、かつ有機樹脂等に練り込む際の分散性や塗膜性に優れる点で、重合体被覆無機粒子の平均粒子径は、0.005〜100μmであることが好ましく、0.005〜10μmであることがより好ましく、0.005〜1μmであることが特に好適である。
【0027】
さらに、粒子を構成する一次粒子の平均粒子径が小さいほど、緻密な防錆皮膜を形成できるため好ましい。係る粒子の平均一次粒子径は、0.001〜10μmであることが好ましく、0.005〜5μmであることがより好ましく、0.005〜1μmであることが特に好適である。また、重合体被覆無機粒子の比表面積は、1〜400m/gであるのが好ましく、50〜400m/gであるのが特に好ましい。形状も特に制限されず球状、板状、層状、ウィスカー状あるいは不定形等、どのような形状でもよい
また、重合体被覆無機粒子において、核粒子と重合体の両者の割合は特に制限されるものではない。通常、重合体の割合が多いほど、目的とする金属イオン捕捉性基も多量に有することができ、防錆性も高くなるが、あまりにその割合が多いと、その製造のために粉砕等の工程が必要となる場合が多いため、重合体被覆層の平均厚さが、核粒子の直径の1/10000〜1/10で且つ1000nm以下であることが好ましい。なお、防錆性を良好に発揮させる観点からは、重合体被覆層の平均厚さは、核粒子の直径の1/1000〜1/100で且つ100nm以下であるのが好ましい。
【0028】
本発明において、被覆重合体が有する金属イオン捕捉性基は、メルカプト基、またはキレートを形成可能な基から選ばれる官能基である。キレートを形成可能な基には、メルカプト基を有することにより、金属イオンとキレートを形成可能な基もあるが、無論、これらの基も、メルカプト基を有するものとして、本発明の金属イオン捕捉性基の範疇に含まれる。
【0029】
メルカプト基は、硫黄原子が孤立電子対を有し、金属イオンを強固に配位結合し得る官能基であり、本発明において、粒子に防錆性を付与する金属イオン捕捉性基として機能する。また、キレートを形成可能な基も、言うまでもなく金属イオンをキレート結合により強固に捕捉し得るため、粒子に防錆性を付与する金属イオン捕捉性基として機能する。
【0030】
上記キレートを形成可能な基としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選ばれる求核性の原子を複数含むことで、ニ座以上の多座配位基として作用し金属イオンと接触した際にキレート結合を形成し得る基であり、前記メルカプト基を有するものを除く公知の基が制限なく使用できる。それら求核性原子から成る配位基の具体的な例としては、ヒドロキシル基、ヒドロキシフェニル基、エノール基、カルボキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、キノン基、エーテル基、エステル基、アミド基、ニトロソ基、ニトロ基、N−オキシド基、スルホン酸基、次亜リン酸基、亜リン酸基、第一アミノ基、第二アミノ基、第三アミノ基、アゾ基、ヒドラジル基、シッフ塩基、オキシム基、イミン基、エナミン基、チオエーテル基、チオアルデヒド基、チオカルボニル基、チオカルボキシル基、チオアミド基、チオシアナート基、イソチオシアナート基、アリールホスフェイン基、アリールアルセン基、セレノール基、セレノカルボニル基などを挙げることができる。
【0031】
以上に挙げた配位基を複数含むことによって多座配位基として働く官能基としては、アミノカルボン酸型、ポリアミン型、アミノリン酸型、環状エーテル型、ジチオカルバミン型、アミドキシム型、クリプタント型、多価フェノール型、グルカミン型、チオ尿素型、イソチオニウム型などがあり、より具体的には、イミノジ酢酸基、イミノプロピオン酸基、エチレンジアミン三酢酸基、エチレンジアミン四酢酸基、2−アミノエチルアミノ基、3−アミノプロピルアミノ基、ジメチルアミノエチルメチルアミノ基、ヒドキシエチルイミノジ酢酸基、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸基、12−クラウン−4基、ベンゾ−12−クラウン−4基、クリプタント[2.1]基、クリプタント[2.2]基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
本発明において、上記金属イオン捕捉性基は、後工程での官能基の変換が容易である点で、メルカプト基や、2−アミノエチルアミノ基、3−アミノプロピルアミノ基、ジメチルアミノエチルメチルアミノ基等のアミノアルキルアミノ基が好ましい。なお、被覆樹脂は、必要に応じて、これら金属イオン捕捉性基の異なる複数種を有していても良い。
【0033】
本発明の重合体被覆無機粒子において、上記金属イオン捕捉性基の導入量は、特に限定されるものではなく、使用目的に応じて適宜選択すればよい。坦持量が多いほど、防錆効果は高まるが、一方で、ある程度以上は、坦持させて得られる効果に対して、高コストになったり、坦持させるための工程が煩雑になったりする。また、少なすぎると、十分な防錆効果が得られない。こうしたことから、金属イオン捕捉性基の導入量は、0.01〜2mmol/gであることが好ましく、0.05〜1.5mmol/gであることが特に好ましい。
【0034】
次に、本発明の重合体被覆無機粒子の製造方法は特に限定されるものではないが、好適には、下記工程(A)〜(C)を含むことを特徴とする方法により製造するのが好ましい。
【0035】
(A) 無機粒子からなる原料粉体と、メルカプト基、または該メルカプト基を有するものを除く、キレートを形成可能な基から選ばれる金属イオン捕捉性基を有する重合性単量体、若しくは該金属イオン捕捉性基に変換可能な官能基か、該金属イオン捕捉性基を導入することができる構造を有する重合性単量体とを含む重合性組成物を準備する工程、
(B) 前記原料粉体と、前記重合性組成物を混合して該原料粉体に該重合性組成物を吸着させる工程、
(C) 前記工程(B)で得られた重合性組成物を吸着させた原料粉体について、吸着された重合性組成物を重合し、更に前記重合性単量体が、前記金属イオン捕捉性基に変換可能な官能基若しくは前記金属イオン捕捉性基を導入することができる構造を有する重合性単量体である場合には、前記官能基を該金属イオン捕捉性基に変換するか又は前記構造に金属イオン捕捉性基を導入することにより、金属イオン捕捉性基を有する重合体被覆無機粒子を得る工程、
この方法によれば、簡便な操作で、樹脂粉体のような異物を混入させることなく、原料粉体の粒子形状、平均粒子径、粒度分布性状といった粉体特性を基本的保ったまま複合粉体を製造することができる。以下、この製造方法について説明する。
【0036】
上記製造方法では、先ず、無機粒子からなる原料粉体と、メルカプト基、若しくは該メルカプト基を有するものを除く、キレートを形成可能な基から選ばれる金属イオン捕捉性基を有する重合性単量体、または該金属イオン捕捉性基に変換可能な官能基若しくは該金属イオン捕捉性基を導入することができる構造を有する重合性単量体とを含む重合性組成物を準備する{工程(A)}。ここで、原料粉体としては前記した核粒子からなる粉体が使用される。
【0037】
重合性組成物としては、前記金属イオン捕捉性基を有する重合性単量体、または該金属イオン捕捉性基に変換可能な官能基若しくは該金属イオン捕捉性基を導入することができる構造を有する重合性単量体に、任意成分としてその他の重合性単量体、重合開始剤、溶媒、各種添加剤を含有する組成物である。また、重合性単量体を重合させて得る重合体は、架橋体の方が防錆性の効果の安定性・持続性に優れているため、上記単官能の重合性単量体と共に、架橋剤となる多官能の重合性単量体を組成物に含有させ、架橋重合体が得られるようにするのが好ましい。なお、重合性単量体に関しては、重合性に優れる点で、(メタ)アクリル基、スチリル基等のラジカル重合性の不飽和二重結合を有する重合性単量体であることが好ましい。
【0038】
金属イオン捕捉性基に変換可能な官能基若しくは該金属イオン捕捉性基を導入することができる構造を有する重合性単量体は、ハロゲン化アルキル基、アミノ基、グリシジル基などの、化学反応を応用して種々の金属イオン捕捉性基を導入することが可能な官能基または構造を有する重合性単量体を意味する。このような重合性単量体を例示すれば、クロロメチルスチレン、アミノスチレン、ビニルベンジルジメチルアミン、ビニルベンジルジエチルアミン、(メタ)アクリル酸グリシジルなどを挙げることができる。
【0039】
架橋剤となる多官能の重合性単量体として好適に使用できるものを例示すれば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等の多官能の芳香族ビニル化合物類等の芳香族ビニル系の単量体類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ヘキサメチレンジ(メタ)アクリルアミド等の多官能の非フッ素系(メタ)アクリル系の単量体類;ジビニルスルホン、フタル酸ジアリル等を挙げることができる。
【0040】
前記重合性組成物におけるこれら必須成分の含有量は、得ようとする被覆樹脂の性状に応じて適宜決定すればよいが、機能性の付与効果及び安定性の観点から次のようにするのが好適である。即ち、架橋剤を含む重合性組成物に含まれる全重合性単量体(任意成分としての重合性単量体も含む)合計質量を基準として、「金属イオン捕捉性基を有する重合性単量体、または該金属イオン捕捉性基に変換可能な官能基若しくは該金属イオン捕捉性基を導入することができる構造を有する重合性単量体」の好適な含有割合は70〜99.5質量%、特に80〜99質量%であり、架橋剤の好適な含有割合は0.5〜30質量%、特に1〜20質量%である。
【0041】
任意成分のその他の重合性単量体は、重合性組成物が原料粉体に吸収され易くする、金属イオン捕捉性基を有する単官能単量体や金属イオン捕捉性基に変換可能な官能基又は構造を有する重合性単量体が常温、常圧下で固体の場合にこれらを溶解せしめる、或いは被覆樹脂の物性を改良すると言った目的で添加されるものである。好適に使用される重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の水酸基を有する(メタ)アクリル系の単量体類;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクロレイン、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、メチルビニルケトン等が挙げられる。
【0042】
任意成分である重合開始剤としては、用いる重合性単量体に応じて、熱または光により重合を開始させることのできる公知の重合開始剤を適宜選択して用いればよいが、加熱により重合開始能を発現するものであることが操作がより簡便であり好ましい。例えば、重合性単量体としてビニル系単量体を採用した場合には、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシド等の有機過酸化物や、2,2,−アゾビスイソブチロニトリルや2,2,−アゾビス−(2,4,−ジメルバレロニトリル)等のアゾビス系重合開始剤等が好適な重合開始剤として挙げられる。これら重合開始剤は、重合性単量体100質量部に対して、0.1〜20質量部、好適には0.5〜10質量部用いるのが一般的である。
【0043】
また、前記重合性組成物には、必要に応じて重合禁止剤や重合抑制剤、紫外線吸収剤等の他の添加剤を配合したものを用いても良い。さらに、重合性単量体が固体である場合には、少量の溶剤を用いて液状のものとすることも可能である。なお、(A)工程において、それぞれ所定量の各成分を混合することにより重合性組成物を調製することができる。このとき予め全ての成分を混合してもよいし、後述する工程(B)における混合操作の際に各成分を添加し重合性組成物の調製を行なってもよい。
【0044】
本発明の製造方法では、前記(A)工程に次いで、前記原料粉体と、前記重合性組成物を混合して該原料粉体に該重合性組成物を保持させる{工程(B)}。
【0045】
前記重合性組成物を原料粉体とよく混合しながら少量ずつ加えていき、自然放置の状態で重合性組成物が原料粉体からにじみ出すことなく全てが原料粉体に吸着し、保持されるようにする。全ての重合性組成物が原料粉体に吸着された状態にした後、次の(C)工程で重合性組成物を重合硬化させることにより、原料粉体の形状や粒径を維持したままの表面処理が可能となり好ましい。重合性組成物を吸着させる量は、前記した金属イオン捕捉性基の導入量と同じか、それよりも多い必要がある。しかしながら、重合性組成物の量が多すぎると原料粉体の形状や粒径が保てなくなるため、吸着させる量は0.01〜2.5mmol/gであることが好ましく、0.05〜2mmol/gであることが特に好ましい。
【0046】
本発明の製造方法においては、重合性組成物を原料粉体に効率良く吸着させるために、使用する重合性組成物の極性に応じて原料粉体の表面を改質する前処理を行なうのが好適である。
【0047】
具体的には、吸着させようとする重合性組成物がアミノ基等の親水性基を有し、これにより水に対する溶解度が5質量%以上である重合性単量体を含む場合には、前処理を行い原料粉体の水/n−ヘキサン分散性向を水側にさせておくのが好ましい。特に、親水性が強く、水に対する溶解度が5質量%以上かつn−ヘキサンに対する溶解度が5質量%以下の重合性単量体を含む重合性組成物を吸収させる場合には、水/n−ヘキサン分散性向を水側とすることが、均一な被覆樹脂層を有する無機粒子を得るために重要である。
【0048】
これとは逆に、親水性基を有していないか、或いは有していても疎水性基の影響が大きいなどの理由により、水に対する溶解度が5質量%未満の重合性組成物を吸収させる場合には、原料粉体の水/n−ヘキサン分散性向をヘキサン側にさせておくのが好ましい。特にクロロメチルスチレン、スチレン等の、水に対する溶解度が1質量%未満の重合性単量体を吸着させようとする場合には、原料粉体の水/n−ヘキサン分散性向がヘキサン側にあるのみならず、修飾疎水化度が40質量%以上(特に50〜90質量%)とするのが好ましい。
【0049】
なお上記水/n−ヘキサン分散性向は、ガラス製試験管等に水及びn−ヘキサンをほぼ等量入れ、そこへ少量の粒子粉体を加えてよく振とうして、粒子が水側とヘキサン側のどちらに分配しているかで判断できる。また、修飾疎水化度は、水−メタノールの比を変えた溶液に対する粒子粉体の浮遊割合を測定する方法によって求められる浮遊量が50%となるメタノール濃度である。
【0050】
一般に、原料粉体そのもの(無機粉体そのもの)の水/n−ヘキサン分散性向は水側であるので、分散性向をn−ヘキサン側にするためには前処理が必要である。前処理方法としては、一般に疎水化処理として知られている表面処理方法が採用できる。具体的には、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、シリコーンオイル、環状シロキサン、ヘキサアルキルジシラザン等により処理する方法が採用できる。これらのなかでも、均一で良好な処理ができると言う理由から環状シロキサン又はヘキサアルキルジシラザンにより処理することが好ましい。
【0051】
このとき処理剤として使用する環状シロキサンとしては、より均一な表面処理ができ、入手も容易であると言う理由から、ひずみが大きく開裂しやすい構造を有する下記式で示される環状シロキサンを使用することが好ましい。
【0052】
【化1】

【0053】
(式中、Rは炭素数1〜18の一価の炭化水素基、水素原子、又は水酸基であり、Meはメチル基であり、nは3〜6の整数である。)
上記式において、Rは炭素数1〜18の炭化水素基である。当該炭化水素基は炭素数が1〜18であれば特に限定されず、公知の如何なる基でもよい。当該炭化水素基を具体的に例示すると、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクタデシル基等の炭素数1〜18の直鎖又は分枝状アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数4〜6の環状アルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、オクタデシニル基等の炭素数2〜18のアルケニル基;フェニル基、ナフチル基、トリル基、スチリル基、キシリル基、メシチル基等の炭素数6〜18の置換又は非置換のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7〜9のアラルキル基等が挙げられる。上記炭化水素基のなかでも、炭素数1〜3の直鎖アルキル基、フェニル基、フェネチル基又はビニル基が特に好ましい。また上記式においてnは3〜6であり、特に好ましくは3〜4である。
【0054】
このような環状シロキサンを具体的に例示すると、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、トリメチルトリビニルシクロトリシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリメチルシクロトリシロキサン等が挙げられる。
【0055】
また、ヘキサアルキルジシラザンで処理する場合には、下記式で示されるヘキサアルキルジシラザンを用いるのが好ましい。
【0056】
【化2】

【0057】
(式中、R、R、R、R、R及びRは各々独立に、炭素数1〜18のアルキル基である。)
上記式において、R〜Rとして示されるアルキル基としては、前記環状シロキサンにおけるRとして例示したものと同様の基が挙げられる。高い処理効率を得るためには、当該R〜Rとしては炭素数1〜3の直鎖アルキル基が好ましい。また、R〜Rは互いに異なっていても良いが、入手の容易さや表面処理効率の点からいずれも同一の基であることが好ましい。特に好ましいヘキサアルキルジシラザンを具体的に例示すると、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、ヘキサプロピルジシラザン等が挙げられる。
【0058】
上記環状シロキサン、ヘキサアルキルジシラザンは各々単独で用いてもよいし、異なる化合物を2種以上併用して表面処理を行っても良い。また、他の表面処理剤と併用しても構わない。
【0059】
上記のような表面処理剤を用いて原料粉体を表面処理して疎水化する場合には、処理の際に凝集が起こり難く、また、溶剤除去等の手間が不要な点で、溶剤を用いない乾式処理により行なうのが好ましい。例えば、ヘキサアルキルジシラザンによる処理を行う場合には、特許第2886037号公報、特許第2886105号公報等に記載の方法を採用するのが好適である。該方法は、容器に無機粒子の粉末を導入し、容器を密閉して、200〜300℃程度の温度において、不活性ガスの雰囲気下、ヘキサメチルジシラザンを分圧25〜150kPa程度になるように導入し一定時間、好ましくは0.5〜2時間程度保持することにより行う。この時、必要に応じて、容器内に水蒸気を分圧で30〜100kPa程度存在させたり、アンモニア等の塩基性ガスを分圧で10〜100kPa程度共存させる方法もとることができる。
【0060】
また、環状シロキサンで処理する場合には、無機粒子の粉末を撹拌しつつ、そこへ液状あるいはガス状の環状シロキサンを加え、次いで、密閉された反応系で加熱する方法が好ましい。この方法をより具体的に述べると、まず、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中、ヘンシェルミキサー等の高速撹拌装置で粒子を攪拌しつつ、そこへ環状シロキサン等を気体状もしくは液状で加え、密閉された反応系にて所定の温度まで加熱することにより製造できる。環状シロキサン等を粒子に加える方法は、液状あるいはガス状のいずれでもよく、さらに液状で加える場合には、滴下によっても良いし、噴霧によって加えても良い。均一に処理することが可能な点ではガス状で加えることが特に好ましい。上記加熱温度は、環状シロキサン等によって粒子表面が疎水化できる範囲であれば、特に制限されるものではないが、一般には、用いる環状シロキサンの沸点以上であることが好ましく、通常100〜300℃程度である。また、攪拌の際の攪拌速度等も特に限定されるものではなく、用いる攪拌装置等により一概には言えないが、一般的には、50〜3000rpm程度である。
【0061】
このような乾式処理を採用することにより、無機粒子の表面処理工程における凝集を防止することができ、また必要に応じて、同じ反応容器内で重合体による被覆も可能となり、工業的に有利である。
【0062】
必要に応じて前記したような前処理を施した原料粉体に重合性組成物を吸着させるには、原料粉体と重合性組成物とを攪拌下に混合すればよい。十分な攪拌を行ないながら両者を混合することにより原料粉体に均一に重合性組成物を保持させることができる。なお、上記吸収処理において重合性組成物は、予め全成分を混合したものを用いてもよいし、各成分を別々に供給してもよい。
【0063】
攪拌の方法は特に限定されるものではなく、粒子が攪拌により浮遊する程度の状態を得られるのであれば、公知の如何なる方法でも良い。例えば、ヘンシェルミキサー等を用いて直接機械的に攪拌してもよいし、高速気流を吹き込む攪拌、外部から振動や揺動等を与える攪拌でも良い。機械的に原料粉体を直接攪拌する場合の攪拌速度は、原料粉体の材質や形状、粒子径により一概には言えないが、一般的には50〜3000rpmとするのが好適である。なお、重合性組成物を原料粉体に均一に吸着させるためには、所定量の架橋重合性組成物を連続的又は断続的に供給するのが好ましく、特に不活性ガス雰囲気中で噴霧により供給するのが好ましい。噴霧に際しては公知のスプレーノズル等が好適に使用できる。また添加速度も特に限定されず、他の種々の条件によって決定すれば良いが、一般的には、核粒子100g当たり1〜20ml/minである。これらを加える際の温度条件も特に制限されず、冷却下でも、加熱下でも良いが、あまりに高い温度では被覆前に単量体が重合してしまうため、一般には−10〜40℃程度が好ましい。
【0064】
本発明の製造方法では、前記工程(B)で得られた重合性組成物を吸着させた原料粉末について、吸着された重合性組成物を重合し、更に前記重合性単量体が金属イオン捕捉性基に変換化可能な官能基または金属イオン捕捉性基を導入することができる構造を有する重合性単量体である場合には、前記官能基を金属イオン捕捉性基に変換するか又は前記構造に金属イオンと配位結合可能な官能基を導入することにより、金属イオン捕捉性基を有する重合体被覆無機粒子を得る{工程(C)}。
【0065】
原料粉末に吸収された重合性組成物を重合させる方法としては、該組成物に含まれる重合性単量体の重合方法として公知の方法が採用できるが、加熱により重合を開始させるのが好適である。例えばビニル系単量体を重合させる場合には、前記したような熱重合開始剤を用いることにより、より効率的に重合させることができる。また、当該加熱温度は、用いた重合性単量体及び重合開始剤の種類等により公知の条件を適宜設定すればよく、一般には40〜230℃、好ましくは50〜180℃程度である。このとき、酸素による重合阻害を防止するため、これら操作は窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。反応容器内の圧力は、特に制限されず、加圧でもよいし、常圧でもよいし、減圧でもよい。用いた重合性単量体の種類にもよるが、それらの中でも加圧が好ましい。加圧する際の圧力としては、一般的には0.01〜0.6MPa程度である。重合時間も上記したような他の条件に合わせて適宜設定すればよく、一般的には、30〜180分程度である。
【0066】
重合性組成物として金属イオン捕捉性基を有する重合性単量体を含むものを用いた場合には、このような方法により重合を行なうことにより、金属イオン捕捉性基を有する重合体被覆無機粒子を得ることができる。
【0067】
また、重合性組成物として金属イオン捕捉性基に変換化可能な官能基または金属イオン捕捉性基を導入することができる構造を有する重合性単量体を含むものを使用した場合には、前記官能基を金属イオン捕捉性基に変換するか又は前記構造に金属イオン捕捉性基を導入することにより、金属イオン捕捉性基を有する重合体被覆無機粒子を得ることができる。
【0068】
このとき、被覆された重合体に金属イオン捕捉性基を導入する好適な方法を具体的に例示する。例えば、重合体がハロゲン化アルキル基を有する場合には、NaSH等のチオール化試薬を用いて、ハロゲン基を金属イオン捕捉性基であるメルカプト基に変換可能である。また、ハロゲン化アルキル基を持つ重合体に、アミノ基と金属イオン捕捉性基の両方を有する化合物を反応させることにより、アミノ基がハロゲン化アルキル基と反応して、金属イオン捕捉性基を有する重合体被覆無機粒子を得ることができる。一方、重合体がアミノ基を有する場合には、ハロゲン化アルキル基と金属イオン捕捉性基の両方を有する化合物と反応させることにより、金属イオン捕捉性基を導入できる。さらには、重合体がグリシジル基を有する場合には、アミノ基と金属イオン捕捉性基の両方を有する化合物と反応させることで、金属イオン捕捉性基を導入できる。また、その他公知の化学反応を応用して、様々な金属イオン捕捉性基を導入することが可能である。なお、これらの官能基導入の際には、被覆している重合体が剥離等により喪失してしまわないよう、適宜その導入形態や反応条件を選択すべき必要がある。一般に、芳香族ビニル系の単量体の重合体は、エステル構造を有する(メタ)アクリル系単量体に比して化学的に安定であり、種々の官能基の導入が容易である。
【0069】
このような金属イオン捕捉性基の導入に際しては、得られる粒子の凝集を防止するため、可能ならば溶剤を用いず、温度、圧力等の反応条件を適宜設定し、反応化剤をガス状で架橋重合処理を行なった粉体と接触させる方法を採用することが好ましい。
【0070】
一方、溶媒を用いて液中で目的の官能基を導入した場合は、固液分離して粉体を回収し、必要に応じて洗浄、乾燥処理を行なうことにより本発明の無機粒子を得ることができる。固液分離方法としては、ろ過や遠心沈降法が採用できる。また、洗浄は、使用した溶媒を用いて、目的の官能基を導入するのに使用した試薬等が必要な程度まで洗い流されるまで繰り返し行えばよい。洗浄の終点の目安は、粒子に含まれる成分の量が変化しなくなるまでとし、成分の量は乾燥後の粒子の含有炭素量などで測定できる。乾燥の条件は、被覆樹脂が分解等しない条件で行えばよく、加熱乾燥、送風乾燥、減圧乾燥等、公知の如何なる乾燥方法を適用してもよい。また水溶液を用いた場合には、乾燥時間を節約するため、アルコール、アセトン等の揮発性有機溶媒で置換してから乾燥してもよい。加熱する場合、その温度は150℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。また、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で加熱するとよい。このようにして得られた乾燥品は、通常、前記した金属イオン捕捉性基を有する重合体で被覆された無機粒子と同等の粒径、粒度分布を有する粉末であるが、乾燥工程で軽く凝集した状態になることがある。このような凝集は、通常、使用条件下(例えば、樹脂成分と混合する)で解砕されるが、必要に応じて解砕し、微粉化してもよい。逆に、取り扱い性を向上させるなどの目的で、公知の方法で造粒することもできる。
【0071】
以上、本発明の製造方法について説明したが、本発明の無機粒子を製造する方法はこれに限定されるものではなく、例えば、非架橋性の重合体で無機粒子を被覆した後に電子線照射等により架橋させる方法を用いても本発明の無機粒子を製造することができる。
【0072】
上記のようにして製造される本発明の無機粒子は、例えば、防錆剤、ガス処理材、触媒等として使用することができるが、特に、防錆剤として有用なことは前記したとおりである。
【0073】
本発明において、上記金属イオン捕捉性基を有する無機粒子の防錆材としての使用方法は、金属部材に対して使用される、無機粒子の形態をした防錆材の公知の方法が制限無く採用できる。金属部材としては、公知の金属材料を用いることができ、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミ板、アルミ合金板、チタン板、銅板等の金属板が挙げられる。また、これらン属性部材は、合金製であってもよい。
【0074】
これらの材料の表面にはめっきが施されていてもよく、めっきの種類としては、亜鉛めっき、アルミめっき、銅めっき、ニッケルめっき等が挙げられる。これらの合金めっきであってもよい。鋼板の場合は、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板、溶融合金化亜鉛めっき鋼板、アルミめっき鋼板、アルミ−亜鉛合金化めっき鋼板、ステンレス鋼板等、一般に公知の鋼板及びめっき鋼板を適用できる。これらのうち、本発明が特に効果的に使用できる金属部材としては、亜鉛系めっき鋼板やアルミニウム系めっき鋼板が該当する。
【0075】
こうした金属部材に対して、本発明の防錆材を含有する有機樹脂組成物をコーティングすることにより使用するのが一般的である。この場合、有機樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル系共重合体樹脂、ポリブタジエン樹脂、フェノール樹脂、およびこれらの樹脂の付加物または縮合物などを挙げることができ、これらのうちの1種を単独で、または2種以上を混合して使用することができる。重合体被覆無機粒子の分散性を考慮すれば、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、アクリル系共重合体樹脂が特に好ましい。
【0076】
また、防錆材の配合量は、有機樹脂100重量部に対して、1〜100重量部であり、好ましくは10〜60重量部である。金属部材の表面へのコーティング方法は、塗布法、浸漬法、スプレー法等の任意の方法を採用できる。有機樹脂組成物の塗膜厚さは、乾燥後で0.1〜5μmとし、好ましくは0.5〜3μmであり、特に好ましくは0.5〜1μmである。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
1.各物性の測定方法
各実施例、比較例で用いた原料および生成物等における各種物性は以下の方法で測定した。
・平均一次粒子径
走査型電子顕微鏡(SEM)もしくは透過型電子顕微鏡(TEM)によって撮影した粒子に関し、それぞれ1000個以上2000個未満の画像を使って、高精細画像解析ソフトウェアIP−1000PC(旭エンジニアリング社製)で解析し、粒子の形状を球形に仮定し、一次粒子の平均粒子径を求めた。
・比表面積
比表面積測定装置(島津製作所製:フローソーブII−2300型)を用いて、窒素ガスを吸着ガスとしBET法により求めた。
・官能基量測定
官能基の量は、粒子に含有する炭素量から算出した。炭素量は、微量炭素分析装置(堀場製作所製EMIA−511型)を用い粒子粉末を酸素雰囲気中で1350℃に加熱して測定した。なお、被覆量測定のための前処理として、粒子粉末を80℃で加熱し、系内を減圧にすることによって表面の被覆に関与してない単量体及び空気中で吸着した水分等を除いた後、該粒子粉体の炭素含有量を求めた。
2.金属イオン捕捉性基を有する無機粒子の製造
製造例1
熱分解法により製造された比表面積200m/g、平均粒径が0.016μmのシリカ粉末(トクヤマ社製、商品名QS102;以下、これをQS102と称する)50gを内容積1000mlのステンレス製オートクレーブに仕込んだ。オートクレーブ内を窒素ガスで内部ガス置換した後、オートクレーブ付属の撹拌翼を400rpmで回転させながら20gのD4を二流体ノズルにて霧状にし、シリカ粉末に均一に吹き付けた。窒素ガスを流通させたまま30分間撹拌した後、オートクレーブを密閉し、275℃で1時間加熱した。続いて、加熱したまま系中を減圧し、未反応のD4を除去した。得られた粒子粉体は以下、QS102−D4と称す。
【0078】
50gのQS102−D4を、内容積1000mlのステンレス製オートクレーブに仕込んだ。オートクレーブ内を窒素ガスで内部ガス置換した後、オートクレーブ付属の撹拌翼を800rpmで回転させ、クロロメチルスチレン(以下、CMSと呼ぶ)5g、ジビニルベンゼン0.5g、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3gの重合性単量体混合溶液を、約15秒かけて二流体ノズルにて霧状にし、シリカ粉末に吹き付け、表面を濡らした。30分間撹拌した後、オートクレーブのコックを閉じて密閉し、20℃から80℃まで1時間かけて昇温し、同温度で1時間保持して単量体を重合させた。
【0079】
得られた粉末50gを1000mlガラス容器に入れ、メタノール800mlに分散させた。0.1mol/lのエチレンジアミン−メタノール溶液を200ml加え、攪拌しながら80℃で12時間還流を行った。続いてろ過を行い、さらに1000mlのメタノールで3回洗浄を行った。洗浄終了後、100℃で乾燥して、2−アミノエチルアミノ基を有する粒子粉末を得た。この粒子粉末において、2−アミノエチルアミノ基の量は0.6mmol/gである。
【0080】
製造例2
製造例1と同様にして製造した50gのQS102−D4を、内容積1000mlのステンレス製オートクレーブに仕込んだ。オートクレーブ内を窒素ガスで内部ガス置換した後、オートクレーブ付属の撹拌翼を800rpmで回転させ、クロロメチルスチレン4g、ジビニルベンゼン0.4g、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2gの重合性単量体混合溶液を、約15秒かけて二流体ノズルにて霧状にし、シリカ粉末に吹き付け、表面を濡らした。30分間撹拌した後、オートクレーブのコックを閉じて密閉し、20℃から80℃まで1時間かけて昇温し、同温度で1時間保持して単量体を重合させた。
【0081】
得られた粉末50gを1000mlガラス容器に入れ、メタノール800mlに分散させた。0.1mol/lのNaSH−メタノール溶液を200ml加え、攪拌しながら80℃で12時間還流を行った。続いてろ過を行い、さらに1000mlのメタノールで3回洗浄を行った、さらにイオン交換水で5回洗浄を行った。洗浄終了後、100℃で乾燥して、メルカプト基を有する粒子粉末を得た。この粒子粉末において、メルカプト基の量は0.6mmol/gである。
【0082】
比較製造例1
製造例1と同様にして製造した50gのQS102−D4を、内容積2000mlのガラス製セパラブルフラスコに仕込んだ。内部を窒素ガスで置換した後、撹拌翼を800rpmで回転させつつ、4gの4−ビニルピリジン、0.5gのジビニルベンゼン、0.3gのt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートからなる重合性単量体混合溶液を、約15秒かけて二流体ノズルにて霧状にして吹き付けた。30分間撹拌した後、20℃から90℃まで1時間かけて昇温し、同温度で1時間保持して単量体を重合させた。得られたピリジル基を有する粒子の平均一次粒径は0.016μm、比表面積は140m/gであり、該ピリジル基の量は0.6mmol/gであった。
【0083】
比較製造例2
製造例1と同様にして製造した50gのQS102−D4を、内容積2000mlのガラス製セパラブルフラスコに仕込んだ。内部を窒素ガスで置換した後、撹拌翼を800rpmで回転させつつ、5gのメタクリル酸ジメチルアミノエチル、0.8gのエチレングリコールジメタクリレート、0.5gのt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートからなる重合性単量体混合溶液を、約15秒かけて二流体ノズルにて霧状にして吹き付けた。30分間撹拌した後、20℃から90℃まで1時間かけて昇温し、同温度で1時間保持して単量体を重合させた。得られた3級アミノ基を有する粒子の平均一次粒径は0.016μm、比表面積は140m/gであり、該3級アミノ基の量は0.6mmol/gであった。
【0084】
比較製造例3
製造例1と同様にして製造したQS102−D4の50gを、内容積1000mlのステンレス製オートクレーブに仕込んだ。オートクレーブ内を窒素ガスで内部ガス置換した後、オートクレーブ付属の撹拌羽を800rpmで回転させ、スチレン5g、ジビニルベンゼン0.5g、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3gの重合性単量体混合溶液を、約15秒かけて二流体ノズルにて霧状にし、シリカ粉末に吹き付け、表面を濡らした。30分間撹拌した後、オートクレーブのコックを閉じて密閉し、20℃から80℃まで1時間かけて昇温し、同温度で1時間保持して重合性単量体を重合させた。
【0085】
得られた架橋ポリスチレン被覆シリカのうちの50gを耐圧性ポリテトラフルオロエチレン容器に移し、該容器に直結したフラスコ内へ固体の三酸化硫黄を入れ、気化した三酸化硫黄を窒素ガスで上記架橋ポリスチレン被覆シリカの入った容器に15分間送り込み、系内の三酸化硫黄ガス濃度を30vol%以上とし、さらに系内に窒素ガスを導入して、0.3MPa程度に加圧して、密閉下にて撹拌しながら80℃で1時間加熱してスルホン化した。続いて、系中を減圧にして、未反応の三酸化硫黄ガスを完全に除去し粉末を回収した。得られた粒子はスルホン酸基を有し、陽イオン交換容量は0.48meq/gであった。
【0086】
3.防錆効果の検証
実施例1〜2、比較例1〜4
防錆効果は、亜鉛めっき鋼板上に、製造例1〜2で得られた金属イオン捕捉性基を有する無機粒子を含有した有機樹脂溶液をコーティングした鋼板を用いて実施した。有機樹脂溶液の組成は、エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製エピコート828)100重量部、同社製硬化剤のYH−300を85重量部、硬化促進剤の1,4,7−ジアザビシクロウンデカエンを1重量部、製造例1〜2で製造した重合体被覆シリカを30重量部配合したものであった。
【0087】
この有機樹脂溶液組成物を混練し、ビーズミルで粉砕後、脱泡し、溶融亜鉛めっき鋼板上にバーコーターで塗布した。塗布した鋼板をそのまま150℃5時間で硬化させることにより、表面処理鋼板を得た。得られた表面処理鋼板は塩水噴霧試験により防錆効果の評価を実施した。
【0088】
表面処理鋼板の試験板に、カッターナイフで被塗板表面に達するクロスカットを入れ、槽内温度を35℃に保った塩水噴霧試験機内に静置して、5%塩化ナトリウム水溶液を1kg/cm2 の圧力で7日間塗膜に噴霧し、サビ(錆)発生状況を観察して、以下の評価基準に基づき評価した。なお、腐食状況は平面部のサビの発生面積を観察して、以下の基準で評価した。
【0089】
平面部のサビ発生面積0.1%未満: ◎
0.1%以上5%未満:○
5%以上20%未満: △
20%以上: ×
【0090】
【表1】

【0091】
表1に示すように、実施例1〜2はサビ発生量が少なく高い防錆効果を示した。一方、比較製造例1〜3で得られた粒子は上記実施例1〜2ほどの高い防錆性は得られなかった(比較例1〜3)。
【0092】
また、比較例4として、上記鋼板に塗布する有機樹脂溶液の組成において、金属イオン担持シリカに代えて、重合体で被覆することなく、シリカにカルシウムイオンを交換担持させた市販品の防錆材(比表面積:40m/g)を同量配合した比較有機樹脂溶液も製造し、同様に防錆性を評価した。結果は△であり、上記実施例1〜2ほどの高い防錆性は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルカプト基、または該メルカプト基を有するものを除く、キレートを形成可能な基から選ばれる金属イオン捕捉性基を有する重合体で被覆されてなることを特徴とする重合体被覆無機粒子。
【請求項2】
無機粒子を被覆する重合体が架橋重合体である請求項1記載の重合体被覆無機粒子。
【請求項3】
請求項1に記載の重合体被覆無機粒子を製造する方法であって、下記工程(A)〜(C)を含むことを特徴とする方法。
(A) 無機粒子からなる原料粉体と、メルカプト基、若しくは該メルカプト基を有するものを除く、キレートを形成可能な基から選ばれる金属イオン捕捉性基を有する重合性単量体、または該金属イオン捕捉性基に変換可能な官能基か、該金属イオン捕捉性基を導入することができる構造を有する重合性単量体とを含む重合性組成物を準備する工程、
(B) 前記原料粉体と、前記重合性組成物を混合して該原料粉体に該重合性組成物を吸着させる工程、
(C) 前記工程(B)で得られた重合性組成物を吸着させた原料粉体について、吸着された重合性組成物を重合し、更に前記重合性単量体が、前記金属イオン捕捉性基に変換可能な官能基若しくは前記金属イオン捕捉性基を導入することができる構造を有する重合性単量体である場合には、前記官能基を該金属イオン捕捉性基に変換するかまたは前記構造に金属イオン捕捉性基を導入することにより、金属イオン捕捉性基を有する重合体被覆無機粒子を得る工程。
【請求項4】
請求項1〜3記載の何れか一項に記載の重合体被覆無機粒子からなる防錆材。

【公開番号】特開2007−217482(P2007−217482A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37464(P2006−37464)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】