説明

重合収縮がない、または少ない歯科用組成物

【課題】重合収縮がない、または小さく、重合収縮に由来する問題の発生を低減することができ、実使用に耐え得る、歯科治療分野の用途に適した低重合収縮性歯科用組成物の提供。
【解決手段】フッ素を含有せず、(メタ)アクリル酸エステル基を有する光重合性物質2と、熱で開環重合する脂環式エポキシ基を有するカチオン重合性物質3と、溶解パラメータが前記光重合性物質2およびカチオン重合性物質3よりも小さい非重合性物質4とが含まれていることを特徴とする低重合収縮性歯科用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合収縮がない、または少ない歯科用組成物(低重合収縮性歯科用組成物)、その硬化方法、低重合収縮性硬化物に関する。
【0002】
さらに詳しくは、本発明は、重合収縮がない、または小さく、重合収縮に由来する問題の発生を低減することができる、歯科用途に適した歯科用組成物(低重合収縮性歯科用組成物)、その硬化方法、低重合収縮性硬化物に関する。
【背景技術】
【0003】
齲蝕により損傷を受けた歯牙の修復には、歯科用材料(組成物)が広く使用されている。例えば、(メタ)アクリレート基含有重合性化合物を含む歯科用組成物が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、フルオレン骨格に(メタ)アクリル酸エステル基を有する重合性物質が開示され、この重合性物質は、硬化性が良好で、かつ、その重合体が歯科材料に求められる機械的特性を満たすことが報告されている(特許文献1)。
このような従来の歯科用材料の短所の一つとしては、歯科用材料が、重合(硬化)する際に、一般的に収縮することが挙げられる。歯科用材料の重合反応により、モノマーが、化学的に結合し、高分子となるために、より規則正しく配向し、分子が相互により密に詰められやすくなる。そのため、通常、分子がより規則正しいコンフィグレーションを構成し、高分子材料の体積は減少する。このような、重合によって生じる高分子材料の体積の減少は、「重合収縮」として知られている。
【0005】
この重合収縮は、歯科用途においても、多数の問題を引き起こし得る。例えば、歯科用材料を重合して、歯科材料と歯牙構造とを接着させたとしても、重合収縮によって、歯科用材料と歯牙構造との間に間隙が生じてしまう場合がある。これは術後性の過敏症、マイクロリーケージ、エナメル質辺縁亀裂(ホワイトクラック)、および二次的齲蝕等を引き起こし、修復した歯牙にダメージを与え寿命を縮めることが知られている。このため、重合収縮がない、または小さく、重合収縮に由来する問題の発生を低減することができる歯科用材料が望まれている。
【0006】
重合収縮を低減する一般的な手法の一つとして、歯科用組成物中の重合性単量体において、重合性官能基1molあたりの質量(官能基当量;g/mol)を増やす手法がある。例えば、歯科用組成物が、一分子中に二つの(メタ)アクリレート基含有単量体を含む場合、該単量体の分子量を大きくすれば、歯科組成物の重合収縮を低減することができる。
【0007】
しかしながら、単量体において、このような官能基を著しく増加させると、単量体の粘度が上昇してしまうので、取り扱いが困難になったり、架橋密度が低下して硬化体の物性が著しく低下したりするといった問題が生じる。
【0008】
一方、開環重合単量体は、(メタ)アクリレート基含有単量体のような付加重合性単量体に比べて重合収縮が小さいことが知られている。このような開環重合単量体の一例としてのカチオン開環重合性単量体は、酸によって重合を開始することができ、酸素による重合阻害を受け難い単量体として知られている。
【0009】
このようなカチオン開環重合性単量体としては、エポキシ化合物、オキセタン化合物、テトラヒドロフラン、ビシクロオルトエステル化合物、スピロオルトエステル化合物、環状カーボネート化合物、又はスピロオルトカーボネート等が挙げられる。
【0010】
これらのカチオン開環重合性単量体の中でも、ビシクロオルトエステル化合物、スピロオルトエステル化合物、環状カーボネート化合物、またはスピロオルトカーボネートは、重合時に収縮しない、あるいは膨張する重合性単量体として知られている(非特許文献1)。
【0011】
しかしながら、これら非収縮性、或いは膨張性カチオン開環重合性単量体は、重合が極めて遅く、十分に硬化させるためには加熱条件を必要とする。そのため、口腔内で重合(硬化)させなければならない場合が多い歯科用途には相応しくない。
【0012】
また、エポキシ化合物は、非収縮性、或いは膨張性は有していないものの、(メタ)アクリレート系の単量体に比べて重合収縮を低減できる。さらに上記の非収縮あるいは膨張性開環重合性単量体に比べて重合速度が速く常温でも硬化する。特に、シクロヘキセンオキシドに代表される脂環式エポキシ化合物は硬化活性が高い。
【0013】
例えば、特許文献2には、脂環式エポキシ化合物を含む歯科用組成物が開示されている。
【0014】
また、特許文献3〜5には、歯科用途として使用する旨の開示はないものの、同様に、脂環式エポキシ化合物を含む重合性組成物が開示されている。
【0015】
しかしながら、これらの組成物は、従来のエポキシ化合物を用いたとしても、その重合収縮率、あるいは硬化速度に関して、歯科用途としては未だ満足のいく特性を有するものではないことがほとんどであった。その他、重合収縮を低減する目的で、エポキシ化合物の官能基当量を増加させた組成物においても、依然として同様な問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2007−55977号公報
【特許文献2】特表2001−513117号公報
【特許文献3】特開2004−285125号公報
【特許文献4】特開2005−68303号公報
【特許文献5】特開2005−75907号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】ラドテック研究会編、「UV・EV硬化技術の現状と展望」、株式会社シーエムシー出版、2002年12月27日、p.45−48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そこで、本発明者らは、鋭意検討の結果、従来の歯科用組成物では解決できなかった、重合収縮がない、または小さく、重合収縮に由来する問題の発生を低減することができ、実使用に耐え得る、歯科治療分野の用途に適した低重合収縮性歯科用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
このような課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下のとおりである。
【0020】
本発明の低重合収縮性歯科用組成物は、フッ素を含有せず、(メタ)アクリル酸エステル基を有する光重合性物質(A)と、熱で開環重合する脂環式エポキシ基を有するカチオン重合性物質(B)と、溶解パラメータが前記光重合性物質(A)およびカチオン重合性物質(B)よりも小さい非重合性物質(C)とを、含むことを特徴とする。
【0021】
本発明の低重合収縮性歯科用組成物は、前記カチオン重合性物質(B)および/または非重合性物質(C)が、フッ素を含有しないことが好ましい。
【0022】
本発明の低重合収縮性歯科用組成物は、さらに、無機フィラー、有機フィラーおよび有機無機複合フィラーからなる群から選択される少なくとも1つのフィラーを含むことが好ましい。
【0023】
本発明の低重合収縮性歯科用組成物は、さらに、溶解パラメータが前記光重合性物質(A)よりも小さい(メタ)アクリル酸エステル基を有するフッ素含有光重合性物質(D)が含まれていることが好ましい。
【0024】
本発明の低重合収縮性歯科用組成物は、前記光重合性物質(A)7〜30重量部、前記フッ素含有光重合性物質(D)0.5〜10重量部、前記カチオン重合性物質(B)30〜70重量部、前記非重合性物質(C)5〜40重量部含むことが好ましい。
【0025】
本発明の低重合収縮性歯科用組成物は、前記フッ素含有光重合性物質(D)に含まれるフッ素置換基の炭素数が、6〜10であることが好ましい。
【0026】
本発明の低重合収縮性歯科用組成物は、前記フッ素含有光重合性物質(D)が、下記一般式(1)で示されることが好ましい。
【0027】
【化1】

【0028】
また、本発明の歯科用組成物の硬化方法は、上記低重合収縮性歯科用組成物を加熱して、前記カチオン重合性物質(B)を重合させ、その後、光を照射して前記光重合性物質(A)を重合させることを特徴とする。
【0029】
また、別の本発明の歯科用組成物の硬化方法は、上記低重合収縮性歯科用組成物を加熱して、前記カチオン重合性物質(B)を重合させ、その後、光を照射して前記光重合性物質(A)および前記フッ素含有光重合性物質(D)を共重合させることを特徴とする。
【0030】
さらに、本発明の低重合収縮性硬化物は、上記低重合収縮性歯科用組成物を重合して得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明の歯科用組成物は、重合収縮がない、または小さく、歯牙へ使用した時に適合性が優れるといった、歯科治療分野の用途に適した特性を発揮することができる。さらに、このような特性により、本発明の歯科用組成物は、術後性の過敏症、マイクロリーケージ、エナメル質辺縁亀裂(ホワイトクラック)、及び二次的齲蝕といった、重合収縮に由来する問題の発生を低減・抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1(A)は、重合する前における、本発明の歯科用組成物に含まれる各成分の状態を示す図である。図1(B)は、加熱によりカチオン重合させた際の、本発明の歯科用組成物に含まれる各成分の状態を示す図である。図1(C)は、光照射により光重合させた際の、本発明の歯科用組成物に含まれる各成分の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の低重合収縮性歯科用組成物は、フッ素を含有せず、(メタ)アクリル酸エステル基を有する光重合性物質(A)と、熱で開環重合する脂環式エポキシ基を有するカチオン重合性物質(B)と、溶解パラメータが前記光重合性物質(A)およびカチオン重合性物質(B)よりも小さい非重合性物質(C)とを、必須成分として含み、各種物性を改良するため、必要に応じ他の成分を含んでいても良い。以下、これら各成分について具体的に説明する。
【0034】
本発明の低重合収縮性歯科用組成物に含まれる光重合性物質(A)は、フッ素を含有せず、(メタ)アクリル酸エステル基を有する限り特に限定されるものではないが、光にてラジカル重合を開始できる光ラジカル重合性物質(A1)が好ましい。
【0035】
光ラジカル重合性物質(A1)は、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、アルキルやアルキレン等の直鎖構造だけでなく、芳香環やシクロ環やスピロ環、縮合環等の環構造を有するもの、酸素、窒素、硫黄、リン、ハロゲン等のヘテロ原子を有していたり、複素環やヘテロ原子含有置換基を有するもの、あるいはその分子内に酸性基、または歯科の修復処置中の条件で酸に容易に転換される酸の塩あるいは酸の前駆物質を有しているものであってもよい。
【0036】
光ラジカル重合性物質(A1)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ウレタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系単量体等を挙げることができる。
【0037】
また、分子内に酸性基を有している光ラジカル重合性物質(A1)を具体的に例示すれば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、p−ビニル安息香酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(MAC−10)、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸およびその無水物、2,3−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレート、N−o−ジ(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル4−アミノサリチル酸、N−フェニルグリシンまたはN−トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレートとの付加物、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート、2および3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシドホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルアシドホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルアシドホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルアシドホスフェート、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2または1−スルホ−1または2−プロピル(メタ)アクリレート、1または3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート、3−ブロモ−2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−2−スルホエチル(メタ)アクリルアミドなどを挙げることができる。
【0038】
本発明の光重合性物質(A)として好ましくは、例えば(メタ)アクリル酸とジオールとのエステル基を有する化合物であり、具体的には、下記化学式(2)で示される化合物である。
【0039】
【化2】

【0040】
ここで、式中、q+pが5であることが好ましい。この化合物を単独で用いてもよいし、一般的な単官能(メタ)アクリレート、単官能ビニル化合物、多官能(メタ)アクリレートと併用して用いてもよい。
【0041】
本発明の低重合収縮性歯科用組成物に含まれるカチオン重合性物質(B)は、加熱で開環重合する脂環式エポキシ基を有する限り特に限定されない。
【0042】
また、歯科用組成物には、歯質や齲蝕との判別を行うためにX線造影性を付与することが好ましく、そのため、X線造影性を有するフィラーが充填される。X線造影性を有するフィラーには、重金属元素が多く含まれ屈折率も高くなるため、透明性の確保のためにフィラーとマトリックスレジンとの屈折率を近似させる必要がある。そのため、該重合性物質の屈折率の低下を招くという観点から、カチオン重合性物質(B)はフッ素を含有しないことが好ましい。
【0043】
カチオン重合性物質(B)としては、例えばエポキシ基含有シクロアルキル基を含有した化合物が挙げられ、複数のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物であってもよいし、一つのエポキシ基を有する単官能エポキシ化合物であってもよい。ここで、エポキシ環とシクロアルキル基は縮合環を形成した構造であることが好ましい。シクロアルキル基は5〜6員であることが好ましい。また、1分子中のシクロアルキル基は、単数であっても複数であっても良く、後者の場合には、アルキレン、(ポリ)エーテル、(ポリ)エステル等の構造を挟んで結合していても良いし、縮合環、橋構造、スピロ環のように、脂環を構成する原子を共有し合うように直接結合していても良い。
【0044】
このような多官能エポキシ化合物の具体例としては、下記化学式(3)で示される化合物が挙げられる。
【0045】
【化3】

【0046】
なお、rが0のものとrが1〜10のものとの混合物、例えば当量混合物であってもよい。
【0047】
その他の多官能エポキシ化合物の具体例としては、下記化学式(4)〜(15)にて示される化合物が挙げられる。
【0048】
【化4】

【0049】
【化5】

【0050】
【化6】

【0051】
【化7】

【0052】
【化8】

【0053】
【化9】

【0054】
【化10】

【0055】
【化11】

【0056】
【化12】

【0057】
【化13】

【0058】
【化14】

【0059】
【化15】

【0060】
また、単官能エポキシ化合物の具体例としては、下記化学式(16)〜(20)にて示される化合物が挙げられる。
【0061】
【化16】

【0062】
【化17】

【0063】
【化18】

【0064】
【化19】

【0065】
【化20】

【0066】
本発明の低重合収縮性歯科用組成物に含まれる非重合性物質(C)は、非重合性であるとともに、溶解パラメータが光重合性物質(A)およびカチオン重合性物質(B)の溶解パラメータよりも小さい限り特に限定されない。
【0067】
また、歯科用組成物には、歯質や齲蝕との判別を行うためにX線造影性を付与することが好ましく、そのため、X線造影性を有するフィラーが充填される。X線造影性を有するフィラーには、重金属元素が多く含まれ屈折率も高くなるため、透明性の確保のためにフィラーとマトリックスレジンとの屈折率を近似させる必要がある。そのため、該重合性物質の屈折率の低下を招くという観点から、非重合性物質(C)は、フッ素を含有しないことが好ましい。
【0068】
非重合性物質(C)としては、例えば、下記化学式(21)で表わされる前記飽和エステルが好ましく、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジメチルセバケート、ジエチルセバケート、ジブチルセバケートやジノニルフタレートがより好ましく、ジブチルセバケートが特に好ましい。
【0069】
【化21】

【0070】
前記溶解パラメータ(SP値)とは、液体である非重合性物質等のモル蒸発熱をΔH、モル体積をVとするとき、正則溶液の理論から導き出される値であり、下記式(1)により定義される値δである。
【0071】
【数1】

【0072】
前記非重合性物質(C)の溶解パラメータSPCと前記光重合性物質(A)、(B)のSP値のうち大きい方のSP値をSPABとし、SPCとSPABとの差(下記式(2))において、非重合性物質(C)は、SPC-ABが0未満である条件を満たすが、好ましくは−0.01以下、より好ましくは−0.1以下、さらに好ましくは−0.5以下である。
【0073】
【数2】

【0074】
前記非重合性物質(C)の溶解パラメータSPCと後述のフッ素含有重合性物質(D)の溶解パラメータSPDとの差(下記式(3))において、非重合性物質(C)は、SPC-Dが0を越える条件を満たすが、好ましくは0.01(より好ましくは0.1、更に好ましくは0.5以上である。
【0075】
【数3】

【0076】
本発明の低重合収縮性歯科用組成物には、フッ素含有光重合性物質(D)が含まれることが好ましい。ここで、フッ素含有光重合性物質(D)は、分子中にフッ素原子を含み、(メタ)アクリル酸エステル基を有するとともに、溶解パラメータが前記光重合性物質(A)よりも小さいのであれば特に限定されない。
【0077】
例えば、フッ素含有光重合性物質(D)としては、下記一般式(22)〜で示されるような、パーフルオロアダマンチル含有基を含むフッ素置換基含有基を有している化合物が挙げられる。
【0078】
【化22】

【0079】
【化23】

【0080】
【化24】

【0081】
【化25】

【0082】
また、フッ素含有光重合性物質(D)としては、(メタ)アクリル酸と炭素数6〜10のフッ素置換基を含有するジオールとのエステル基を有する化合物も好適に用いられ、例えば、下記一般式(26)で示されるような化合物と(メタ)アクリル酸とのエステル化合物が挙げられる。
【0083】
【化26】

【0084】
具体的には、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−デカフルオロヘプタンジオール、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロオクタンジオール、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−テトラデカフルオロノナンジオール、または2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘプタデカフルオロデカンジオールと、(メタ)アクリル酸とのエステル化合物が挙げられる。
【0085】
さらに、フッ素含有光重合性物質(D)としては、下記一般式(27)で示されるような化合物と(メタ)アクリル酸とのエステル化合物も好適に用いられる。
【0086】
【化27】

【0087】
このようなエステル化合物としては、具体的には2−フルオロ−2−パーフルオロオクチル−1,3−プロパンジオール、2−フルオロ−2−パーフルオロイソオクチル−1,3−プロパンジオール、または2−フルオロ−2−パーフルオロ(4−エチル−ヘキシル)−2−ヒドロキシメチル−1−メタノールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物が挙げられる。
【0088】
さらに、フッ素含有光重合性物質(D)としては、下記一般式(28)で示されるような化合物と(メタ)アクリル酸とのエステル化合物も好適に用いられる。
【0089】
【化28】

【0090】
具体的には2,2,4,4,5,5,7,7−オクタフルオロトリエチレングリコール、2,2,4,4,5,5,7,7,8,8,10,10−ドデカフルオロテトラエチレングリコール、2,4,4,5,7,7−ヘキサフルオロ−2,5,8−トリ(トリフルオロメチル)トリエチレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物が挙げられる。
【0091】
さらに、フッ素含有光重合性物質(D)としては、下記一般式(29)で示されるようなパーフルオロアダマンチル含有基ジオールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物も好適に用いられる。
【0092】
【化29】

【0093】
中でも、前記含フッ素重合性物質が、下記化学式(30)で表わされるものであることが好ましい。
【0094】
【化30】

【0095】
また、本発明の歯科用組成物の低重合収縮性能の作用機構を円滑に発言させるという観点から、本発明の歯科用組成物は、前記光重合性物質(A)7〜30重量部、前記フッ素含有光重合性物質(D)0.5〜10重量部、前記カチオン重合性物質(B)30〜70重量部、前記非重合性物質(C)5〜40重量部含まれていることが好ましい。
【0096】
前記カチオン重合性物質(B)をカチオン重合させるためのカチオン重合開始剤は、特に限定されるものではなく、公知の如何なるカチオン重合開始剤であってもよい。このようなカチオン重合開始剤としては、ルイス酸或いはブレンステッド酸、又は加熱や光照射によりルイス酸或いはブレンステッド酸を生じる化合物などが知られている。
かかるカチオン重合開始剤の配合量は、カチオン重合性物質(B)100重量部に対し、0.001〜20重量部の範囲であり、好ましくは0.001〜10重量部の範囲である。
【0097】
また、光重合性物質(A)およびフッ素含有光重合性物質(D)を光重合させるための光重合開始剤としては、光増感剤単独または光増感剤と光重合促進剤との組み合わせが利用できる。
【0098】
光増感剤としては、ベンジル、カンファ−キノン、α−ナフチル、p,p’−
ジメトキシベンジル、ペンタジオン、1,4−フェナントレンキノン、ナフトキノン、トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、ビス(η−5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウムなどの可視光あるいは紫外光の照射で励起され重合を開始する公知のα−ジケトン化合物類およびリン原子含有化合物、チタン原子含有化合物、ベンゾフェノン類、ベンゾインアルキルケタール類などが上げられ、これらの化合物は単独で使用されてもよく、あるいは、2種類以上を混合して使用されても差し支えない。
光重合促進剤としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジンなどの第3級アミン類;前記第3級アミンとクエン酸、リンゴ酸、2−ヒドロキシプロパン酸との組み合わせ;5−ブチルアミノバビルツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバビルツ−ル酸などのバビルツール酸類;ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物などが例示される。これらの化合物は、単独で使用されてもよく、あるいは、2種類以上を混合して使用されても差し支えない。
【0099】
これら化合物の中でも、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチル、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチル、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートなど芳香族に直接窒素原子が結合した第3級芳香族アミンもしくは重合性基を有する脂肪族第3級アミンは、好ましい化合物である。
【0100】
硬化を速やかに終了させるためには、光増感剤と光重合促進剤とを組み合わせて使用することは好ましく、カンファーキノンまたはトリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドと、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルもしくはp−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチルなど芳香族に直接窒素原子が結合した第3級芳香族アミンのエステル化合物と組み合わせて使用することは、好ましい。重合開始剤として、有機過酸化物、ジアゾ系化合物を使用する場合において、公知の各種化合物が制限はなく、好適に使用される。
【0101】
上記光重合開始剤、または光重合促進剤の配合量は、光重合性物質(光重合性物質(A)単独あるいは光重合性物質(A)およびフッ素含有光重合性物質(D))100重量部に対して、0.001〜10重量部の範囲であり、好ましくは0.001〜5重量部の範囲である。
【0102】
重合開始剤として、有機過酸化物、ジアゾ系化合物を使用する場合において、公知の各種化合物が制限はなく、好適に使用される。
有機過酸化物として、例えば、ジアセチルパ−オキサイド、ジイソブチルパーオキサイド、ジデカノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、スクシン酸パーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジアリルパーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート類;tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルネオデカネート、クメンパーオキシネオデカネートなどのパーオキシエステル類;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシドなどの過酸化スルホネート類等が挙げられる。
【0103】
また、ジアゾ系化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメトキシバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)などを挙げることができる。
重合を短時間で終了させたい場合には、80℃での分解半減期が10時間以下である化合物は好ましく、上記化合物の中でも、ベンゾイルパ−オキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルは好ましい化合物である。
【0104】
重合開始剤としてレドックス開始剤系を使用する場合において、特に限定はなく、公知の各種開始剤が使用される。
前記の有機過酸化物と第3級アミンの組み合わせ;有機過酸化物/スルフィン酸もしくはそのアルカリ金属塩類/第3級アミンの組み合わせ;過硫酸カリウムなどの無機過酸化物と亜硫酸ナトリウム、無機過酸化物と亜硫酸水素ナトリウムのような無機過酸化物と無機還元剤の組み合わせなどを挙げることができる。中でも、ベンゾイルパ−オキサイドとN,N−ジメチル−p−トルイジン、ベンゾイルパ−オキサイドとN,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジンが好適に使用される。
これらの重合開始剤の使用量は、特に限定するものではないが、通常、重合性化合物100重量部に対して、0.001〜10重量%の範囲内であり、好ましくは0.001〜5重量%の範囲内である。ここで、重合性化合物100重量部とは、本発明の歯科用組成物に含まれる光重合性物質(A)およびカチオン重合性物質(B)の合計量100重量部あるいは、フッ素含有光重合性物質(D)を含む場合は、光重合性物質(A)、カチオン重合性物質(B)およびフッ素含有光重合性物質(D)の合計量100重量部を指す。
また、本発明の歯科用組成物において配合成分としてフィラーを含むことができるが、かかるフィラーは特に制限されるものではなく、通常、公知の無機フィラー、有機フィラーおよび有機無機複合フィラーが挙げられる。
【0105】
無機フィラーとしては、非晶質シリカ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、石英、アルミナ等が挙げられる。さらに、これら無機酸化物粒子を高温で焼成する際に緻密な無機酸化物粒子を得やすくする等の目的で、少量の周期律表第I族の金属酸化物を該無機酸化物粒子中に存在させた複合酸化物の粒子を用いることもできる。歯科用としては、シリカとジルコニアとを主な構成成分とする複合酸化物の無機フィラーがX線造影性を有することから、特に好適に用いられる。
【0106】
これら無機フィラーの粒径、形状は特に限定されず、一般的に歯科用材料として使用されている、球状や不定形の、平均粒子径0.01μm〜100μmの粒子を目的に応じて適宜使用すればよい。また、これらフィラーの屈折率も特に限定されず、一般的な歯科用組成物のフィラーが有する1.4〜1.7の範囲のものが制限なく使用できる。中でもより高い表面滑沢性や、対磨耗性を得るために、形状が球状もしくは略球状の無機紛体及び/またはその凝集体を用いることが好適である。なお、ここで言う略球状とは、走査型電子顕微鏡で無機フィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子の最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で徐した平均均斉度が0.6以上の物であることを言う。
上記無機球状フィラーの粒径等は特に制限される物ではないが、より高い表面滑沢性や対磨耗性を得る為には、平均粒径が0.01μm〜1μmの無機粒子及び/又は概無機粒子の凝集体からなる無機球状フィラーを用いるのが好適である。これら無機球状フィラーは、単一の粒子系、及び平均粒子経が異なる2つあるいはそれ以上の群からなる混合粒子系で使用することができる。
【0107】
上記無機フィラーは、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理することが、重合性単量体とのなじみをよくし機械的強度や耐水性を向上させる上で望ましい。表面処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、3−エチル−3−[3−(トリエトキシシリル)プロポキシメチル]オキセタン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。特に重合性単量体がカチオン重合成単量体である場合、カチオン重合性の官能基を有するシランカップリング剤である3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、3−エチル−3−[3−(トリエトキシシリル)プロポキシメチル]オキセタン等が望ましい。上記シランカップリング剤は1種類あるいは2種類以上を合わせて用いることができる。
【0108】
また、更に高いフィラー充填率と良好な操作性を両立する目的で、有機無機複合フィラーを好適に使用できる。有機無機複合フィラーとは、重合性単量体と、無機フィラーを主成分とする重合硬化性組成物を重合硬化させた後に粉砕して得られるものであり、公知の製造方法によって製造される有機無機複合フィラーが何ら制限なく用いられる。
これらのフィラーは、単独で使用されてもよく、あるいは、2種類以上を混合して使用されても差し支えない。
【0109】
これらのフィラーを本発明の歯科用組成物に配合することにより、より重合収縮を小さくすることができ、または、硬化前の歯科用組成物の操作性の改良、あるいは、硬化後の機械的物性の向上を計ることができる。
【0110】
かかるフィラーの配合量は、光重合性物質(A)、カチオン重合性物質(B)および非重合性物質(C)の配合量の合計100重量部、あるいはフッ素含有光重合性物質(D)を含む場合は、光重合性物質(A)、カチオン重合性物質(B)、非重合性物質(C)およびフッ素含有光重合性物質(D)の配合量の合計量100重量部に対して、50〜1500重量部の範囲であり、好ましくは70〜1000重量部の範囲である。
【0111】
さらに、これら無機フィラー、有機−無機複合フィラー等の充填材は各々単独で用いても良いし、材質、粒径、形状等の異なる複数種のものを併用しても良いが、硬化後の機械的物性に優れる点で、無機フィラー単独、或いは無機フィラーと有機−無機複合フィラー併用して用いることが特に好ましい。
【0112】
さらに本発明の歯科用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、重合禁止剤、酸化防止剤および紫外線吸収剤等の安定化剤、その他染料、帯電防止剤、顔料、香料、有機溶媒や増粘剤等の公知の添加剤が配合されていても良い。
【0113】
本発明の歯科用組成物は上記のような歯科用充填修復材料として特に好適に使用されるが、それに限定されるものではなく、歯科用接着材や義歯床用材料等その他の歯科治療分野の用途にも使用できる。
【0114】
本発明の歯科用組成物の包装形態は特に制限されるものではなく、その目的や保存安定性を考慮して適宜決定すればよい。例えば、カチオン重合開始剤として光カチオン重合開始剤を配合した際には、本発明の歯科用カチオン硬化性組成物を構成する全ての成分を遮光状態で一つの包装とすればよい。一方、光照射を行わずとも室温でカチオン重合を開始できるような成分を重合開始剤として用いる場合には、保存中に重合・硬化してしまわないように、2つ以上の包装に分割しておき、使用直前に両者を混合するような形態が好ましい。
【0115】
本発明の歯科用組成物の重合収縮が小さいあるいは重合収縮が生じないメカニズムについて、歯科用組成物の成分を模式的に示した図1を参照しながら説明する。
【0116】
まず、歯科用組成物は、重合する前においては、図1(A)に示すように、フッ素含有光重合性物質(D)1、光重合性物質(A)2、カチオン重合性物質(B)3、及び非重合性物質(C)4が、ランダムに混合された状態にある。
【0117】
加熱により生じるカチオン重合により、図1(B)に示すように、カチオン重合性物質(B)3が開環重合し、ゲル状のマトリックス5が形成される。そして、このマトリックス5の溶解パラメータ(SP値)に近いSP値を有している光重合性物質(A)2が、ゲル中でマトリックス5の分子に包含される。
【0118】
さらに、光照射により生じる光重合により、照射部位の微小空間では、図1(C)に示すように、マトリックス5の分子から光重合性物質(A)2が引き抜かれ、フッ素含有光重合性物質(D)1と共重合し、光重合性物質(A)とフッ素含有光重合性物質(D)とで構成された共重合体6が形成される。その結果、フッ素含有光重合性物質(D)1と光重合性物質(A)2とが分散されている状態での体積よりも、その共重合体6の体積の方が、若干収縮する。
【0119】
一方、光重合性物質(A)2が引き抜かれて形成されたマトリックス5の分子内の間隙に、非重合性物質(C)がトリガーとなってすぐに入り込んで、包含される。非重合性物質(C)4は、フッ素不含有重合性物質2よりも僅かに大きなsp値を有しているから、マトリックス5の分子と非重合性物質(C)4の分子との間で立体反発を惹き起こし、非重合性物質(C)4が包含されているマトリックス5を押し広げる。さらに、共重合体6の分子同士や、共重合体6と非重合性物質(C)4との分子同士が、共重合体6内のフッ素原子によって静電反発する。その結果、図1(B)のような光重合性物質(A)2を包含したマトリックス5の体積よりも、図1(C)のような非重合性物質(C)4を包含したマトリックス5の体積の方が、僅かに大きくなる。その結果、ゲルが若干膨張する。すると、共重合体6の生成による収縮と、ゲルの生成による膨張とが、相殺する結果、その系全体の収縮率が、0あるいはほとんど0に近い値となる。
【0120】
本発明の低収縮性歯科用組成物の重合の際の収縮率(測定条件は、後述の実施例の要領の通り)は、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下、更に好ましくは0.2%以下である。また、本発明の低収縮性歯科用組成物の重合の際のギャップ幅(測定条件は、後述の実施例の要領の通り)は、好ましくは15μm以下、より好ましくは12μm以下、更に好ましくは10μm以下である。
【実施例】
【0121】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0122】
実施例および比較例において、「表面実装性の評価」は次のように行った。
1.評価試験
(1)体積収縮率試験
セル内に歯科用組成物を充填した後、セルを90℃で2時間加熱して、歯科用組成物を熱硬化させた。気体置換型ピクノメータ(島津製作所社製:アキュピックII)を用い、熱硬化後の歯科用組成物の密度(D1)を測定した。
【0123】
次いで、歯科用光照射器(JETLITE3000)を用いて、熱硬化後の歯科用組成物を30秒間光照射して、光重合させた。気体置換型ピクノメータ(島津製作所社製:アキュピックII)を用い、光重合後の歯科用組成物の密度
(D2)を測定した。
【0124】
得られた熱硬化後の歯科用組成物の密度(D1)と光重合後の歯科用組成物の密度(D2)とから、下記式に基づいて、歯科用組成物の収縮率を算出した。
【0125】
【数4】

【0126】
(2)ギャップ幅試験
円柱形(内径6mm、高さ5mm(141.3mm3))のアルミナチューブ内に歯科用組成物を充填した後、セルを90℃で2時間加熱して、歯科用組成物を熱硬化させた。さらに、熱硬化後の歯科用組成物を、歯科用光照射器(JETLITE3000)を用いて、アルミチューブの上下2方向からそれぞれ30秒間光照射して、光重合させた。
【0127】
ついで、歯科用組成物の光照射面側を除去するために、アイソメットを用いて、最初に光照射を行った面に対して平行に、歯科用組成物を厚さ2mm切断した。さらに、この切断面に金蒸着した後、この金蒸着された切断面をSEMにて観察した。
【0128】
金蒸着された切断面(円形)の中心角0、45、90、135、180、225、270、315度における歯科用組成物の外縁とアルミナチューブ(円周)との溝幅8点を測定した。対角線に位置する測定点での値2点をそれぞれ合計し、その平均値を、ギャップ幅とした。
【0129】
なお、ギャップ幅の値は小さいほど、歯牙と歯科用組成物との良好な適合性を示し、臨床において術後性の過敏症、マイクロリーケージ等を起こしにくいといった、歯科用材料にとって好ましい特性を示す。ギャップ幅は、歯科用材料の重合における収縮応力が歯牙と歯科用材料の界面に及ぼした結果であり、重合収縮がない場合には、収縮応力が発生しないため、ギャップ幅がない結果が得られる。
2.実施例および比較例
[実施例1]
下記化学式(31)で示され、SP値が10.62である光重合性化合物(a)と、下記化学式(32)で示され、SP値が10.16であるカチオン重合性物質(b)と、下記化学式(33)で示され、SP値が9.12である非重合性物質(c)と、熱硬化剤としてサンエイドSI−60L(三新化学工業社製)(e)と、光重合開始剤としてカンファーキノン(Aldrich社製)(f)とを、表1で示される配合比率で、均一に溶解させて歯科用組成物1を調製した。歯科用組成物1を、評価試験(収縮率試験およびギャップ幅試験)に供した。得られた試験結果を表1に示す。
【0130】
【化31】

【0131】
【化32】

【0132】
【化33】

【0133】
[実施例2]
上記(a)、(b)、(c)、(e)および(f)とともに、下記化学式(34)に示され、SP値が8.31であるフッ素含有光重合性物質(d) 0.85重量部をさらに添加し、光重合性物質(a)の配合量を16.15重量部に変更したこと以外は、実施例と同様に調製して歯科用組成物2を得て、評価試験(収縮率試験およびギャップ幅試験)に供した。得られた試験結果を表1に示す。
【0134】
【化34】

【0135】
[実施例3]
ストロンチウムガラスフィラー(粒径1.0μm) 100重量部を、pH4.0に調整した塩酸 100mL中に懸濁し、攪拌しながら3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン3gを滴下した。1時間攪拌後、エバポレーターで水を留去し、得られた固体を乳鉢で粉砕後、減圧下80℃で15時間乾燥して、粉末状のSrフィラー(g)得た。
【0136】
実施例1で得られた歯科用組成物1に、表1で示される配合比率でSrフィラー(g)を、1/3量(重量)毎の計3回に分けて添加し、それぞれの添加毎に3分間、自転・公転ミキサー(キーエンス:HybridMixer)を用いて混合して歯科用組成物3を調製した。次いで、得られた歯科用組成物3を評価試験(収縮率試験およびギャップ幅試験)に供した。得られた試験結果を表1に示す。
[実施例4]
実施例2で得られた歯科用組成物2を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、歯科用組成物4を調製し、歯科用組成物4を評価試験(収縮率試験およびギャップ幅試験)に供した。得られた試験結果を表1に示す。
[比較例1]
光重合性化合物(a)および非重合性物質(c)を用いずに、表1で示す配合比率としたこと以外は実施例1と同様にして、歯科用組成物5を調製し、歯科用組成物5を評価試験(収縮率試験およびギャップ幅試験)に供した。得られた試験結果を表1に示す。
[比較例2]
カチオン重合性物質(b)および非重合性物質(c)を用いずに、表1で示される配合比率としたこと以外は実施例1と同様にして、歯科用組成物6を調製し、得られた歯科用組成物6を評価試験(収縮率試験およびギャップ幅試験)に供した。得られた試験結果を表1に示す。
[比較例3]
光重合性化合物(a)、カチオン重合性物質(b)および非重合性物質(c)を用いず、表1で示される配合比率としたこと以外は実施例2と同様にして、歯科用組成物7を調製し、得られた歯科用組成物7を評価試験(収縮率試験およびギャップ幅試験)に供した。得られた試験結果を表1に示す。
[比較例4]
非重合性物質(c)を用いず、表1で示される配合比率としたこと以外は実施例3と同様にして、歯科用組成物8を調製し、得られた歯科用組成物8を評価試験(収縮率試験およびギャップ幅試験)に供した。得られた試験結果を表1に示す。
[比較例5]
カチオン重合性物質(b)および非重合性物質(c)を用いず、表1で示される配合比率としたこと以外は実施例3と同様にして、歯科用組成物9を調製し、得られた歯科用組成物9を評価試験(収縮率試験およびギャップ幅試験)に供した。得られた試験結果を表1に示す。
【0137】
【表1】

【0138】
実施例1と比較例1〜2とを対比すると、光重合性物質(a)、カチオン重合性物質(b)、非重合性物質(c)を含む歯科用組成物(実施例1)は、これら(a)〜(c)の一部のみしか含まない歯科用組成物(比較例1〜2)に比べて、収縮率およびギャップ幅が小さな値を示した。すなわち、光重合性物質(a)、カチオン重合性物質(b)、非重合性物質(c)を含む歯科用組成物は、歯科用途に適した特性を発揮することが確認できた。
【0139】
また、歯科用組成物が、上記(a)〜(c)の他に、フッ素含有光重合性物質(d)を含む場合(実施例2)、フィラー(g)を含む場合(実施例3)、およびフッ素含有光重合性物質(d)とフィラー(g)とを含む場合(実施例4)では、収縮率およびギャップ幅の値を一層低減することができ、実施例2、4における歯科用組成物では、何れの値もゼロであった。すなわち、光重合性物質(a)、カチオン重合性物質(b)、非重合性物質(c)とともに、フッ素含有光重合性物質(d)およびフィラー(g)あるいは何れか一方を含む歯科用組成物は、より一層、歯科用途に適した特性を発揮することが確認できた。
【0140】
一方、歯科用組成物が、(a)〜(c)の一部のみしか含まない場合、フッ素含有光重合性物質(d)を含む場合(実施例2)あるいはフィラー(g)を含んでいたとしても、実施例2〜4の歯科用組成物と比較して、収縮率およびギャップ幅の値は著しく大きく、歯科用途に適した特性を発揮できないことが確認できた。
【符号の説明】
【0141】
1:フッ素含有光重合性物質(D)
2:光重合性物質(A)
3:カチオン重合性物質(B)
4:非重合性物質(C)
5:マトリックス
6:共重合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素を含有せず、(メタ)アクリル酸エステル基を有する光重合性物質(A)と、
熱で開環重合する脂環式エポキシ基を有するカチオン重合性物質(B)と、
溶解パラメータが前記光重合性物質(A)およびカチオン重合性物質(B)よりも小さい非重合性物質(C)とが、
含まれていることを特徴とする低重合収縮性歯科用組成物。
【請求項2】
前記カチオン重合性物質(B)および/または非重合性物質(C)が、フッ素を含有しないことを特徴とする請求項1に記載の低重合収縮性歯科用組成物。
【請求項3】
さらに、無機フィラー、有機フィラーおよび有機無機複合フィラーからなる群から選択される少なくとも1つのフィラーを含むことを特徴とする記載の低重合収縮性組成物。
【請求項4】
さらに、溶解パラメータが前記光重合性物質(A)よりも小さい(メタ)アクリル酸エステル基を有するフッ素含有光重合性物質(D)が含まれていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の低重合収縮性歯科用組成物。
【請求項5】
前記光重合性物質(A)7〜30重量部、
前記フッ素含有光重合性物質(D)0.5〜10重量部、
前記カチオン重合性物質(B)30〜70重量部、
前記非重合性物質(C)5〜40重量部
含まれていることを特徴とする請求項4に記載の低重合収縮性歯科用組成物。
【請求項6】
前記フッ素含有光重合性物質(D)に含まれるフッ素置換基の炭素数が、6〜10であることを特徴とする請求項4または5に記載の低重合収縮性歯科用組成物。
【請求項7】
前記フッ素含有光重合性物質(D)が、下記一般式(1)で示されることを特徴とする請求項4〜6の何れか一項に記載の低重合収縮性歯科用組成物。
【化35】

【請求項8】
請求項1〜3の何れか一項に記載の低重合収縮性歯科用組成物を加熱して、前記カチオン重合性物質(B)を重合させ、その後、光を照射して前記光重合性物質(A)を重合させることを特徴とする歯科用組成物の硬化方法。
【請求項9】
請求項4〜7の何れか一項に記載の低重合収縮性歯科用組成物を加熱して、前記カチオン重合性物質(B)を重合させ、その後、光を照射して前記光重合性物質(A)および前記フッ素含有光重合性物質(D)を共重合させることを特徴とする歯科用組成物の硬化方法。
【請求項10】
請求項1〜7の何れか一項に記載の低重合収縮性歯科用組成物を重合して得られる低重合収縮性硬化物。

【図1】
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