説明

重布

【課題】強度、耐摩耗性、衝撃吸収性等の物理的特性及び耐候性、耐薬品性等の化学的特性に優れるばかりか、実用に供されている間の難燃性能劣化が非常に小さい重布を提供する。
【解決手段】単糸繊度が1.5〜100dtex、強度が4.5〜9.0cN/dtexであって、最大粒子径が10μm未満、平均粒子径が0.1〜5μmのトリアジン系化合物を0.5〜10重量%含有するポリアミドマルチフィラメントを少なくとも一部に用た重布。前記トリアジン系化合物の最大粒子径は好ましくは5μm未満、平均粒子径は好ましくは0.1〜2.3μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重布に関するものであり、さらに詳しくは、ターポリン、テント、トラック幌、スピネーカー、ジェネカー等のヨット帆布などの産業用資材用途に用いることのできる重布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ターポリン、帆布等の重布としては、ポリエステル繊維やポリアミド繊維等の合成繊維が使用されているが、なかでも、自動車用幌シート、倉庫用、軒出しテント、スピネーカーやジェネカー等のヨット帆布等の重布には、耐候性、難燃性、軽量性や高強力性等の特性が要求されている。
【0003】
従来、重布に難燃性を付与する方法としては、合成繊維より構成される布帛に塩化ビニル樹脂をカレンダー法、押出しラミネートやコーティング法等により被覆加工する方法が一般に用いられてきた。しかしながら、このように難燃性を後加工により付与する従来の方法では、製品としての価格が上昇するばかりか、燃焼時に発生する有害なガスが人体や環境に対して多大な負荷をもたらすといった問題、後加工により難燃性を付与するため、経時的に難燃性能が劣化するといった問題や難燃性や耐久性を付与するため樹脂付着量を多くする必要があり、そのため製品重量が増え、施工性が悪くなるといった問題を抱えていた。
【0004】
上記問題点を解決する手段としては、重布の素材として、難燃性を付与したポリアミド繊維を使用することが提案された。耐候性や耐磨耗性に優れたポリアミド繊維に難燃性を付与する技術に関しては、従来からよく知られているが、十分な難燃性が付与されたポリアミド繊維については、未だに実現していないのが現状である。
【0005】
例えば、特許文献1では、メラミンシアヌレ−トの約100重量%が30μm以下且つ80重量%以上が7μm以下の粒子径でポリアミド中に分散されてなるポリアミド組成物からなる単糸径10〜100μmの難燃性繊維が開示されている。しかるに、特許文献1では、ポリアミド繊維中のメラミンシアヌレ−トの粒子径が大きいため、難燃性ポリアミド繊維の強度が不十分であり、重布に使用できなかった。
【0006】
さらに、例えば、特許文献2では、ポリアミドにトリアジン系難燃剤を配合したポリアミド樹脂組成物を用いてなる難燃性ポリアミド・フィラメントであって、引張強度が2.0cN/dtex以上であり、かつ、ポリアミド・フィラメント中に分散しているトリアジン系難燃剤の平均粒子径が5μm未満であるポリアミドフィラメントが開示され、メラミンシアヌレートを5〜8重量部添加することにより、最高強度4.4cN/dtexの難燃性に優れたポリアミドモノフィラメントを得ることが可能であることが開示されている。しかしながら、特許文献2では、重布用の高強力でかつ単糸繊度が細いマルチフィラメントの難燃化については検討されていない。
【特許文献1】特開昭56−107012号公報
【特許文献2】特開2002−173829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術における問題点を解決するためものであり、強度、耐摩耗性、衝撃吸収性等の物理的特性及び耐候性、耐薬品性等の化学的特性を損なうことなく、ポリアミド繊維が実用に供されている間の難燃性能劣化が非常に小さい重布の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明によれば、単糸繊度が1.5〜100dtex、強度が4.5〜9.0cN/dtexであって、最大粒子径が10μm未満、平均粒子径が0.1〜5μmのトリアジン系化合物を0.5〜10重量%含有するポリアミドマルチフィラメントを少なくとも1部に用いたことを特徴とする重布が提供される。
【0009】
なお、本発明の重布においては、前記トリアジン系化合物の最大粒子径が5μm未満、平均粒子径が0.1〜2.3μmであること、
前記トリアジン系化合物がメラミンシアヌレートであること、
前記ポリアミドマルチフィラメントがさらに銅化合物を銅金属量として10〜500ppm含有すること、
前記ポリアミドマルチフィラメントがさらに有機または無機顔料を0.1〜1重量%含有すること
が、いずれも好ましい態様として挙げられ、これらの重布は、なかでも特に建築用シート、テント倉庫用シート、建築工事用シートおよび車両用帆布建築用膜材用、スピネーカー、ジェネカー等のヨット帆布用途に適用した場合に優れた効果を発現する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下に説明するとおり、強度、耐摩耗性、衝撃吸収性等の物理的特性及び耐候性、耐薬品性等の化学的特性を損なうことなく、ポリアミドマルチフィラメントが実用に供されている間の難燃性能劣化が非常に小さい重布を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を具体的に説明する。
本発明の重布を構成するマルチフィラメントとしては、ポリアミドマルチフィラメントであることが必須である。ポリアミドマルチフィラメントは耐薬品性、耐磨耗性に優れ、高タフネスを有する。ポリアミドマルチフィラメントを重布の構成素材の少なくとも一部に用いることにより、アルカリ環境下や摩擦環境下においても劣化し難く、長期にわたって使用が可能な重布を得ることができる。
【0012】
本発明で使用するポリアミドとしては、アミノカルボン酸やそのラクタムから重縮合されるナイロン4、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12や、ジカルボン酸とジアミドの重縮合で得られるポリナイロン4−6、ナイロン6−6、ナイロン6−10等の公知のポリアミド等を用いることができる。また、ポリアミドマルチフィラメントには、本発明の効果を阻害しない範囲、好ましくは10重量%以下であれば、共重合化合物や異種ポリマ等を含有しても良いし、耐光剤、防炎剤、顔料、難燃剤、艶消剤、滑剤等の各種添加剤を用いても良い。
【0013】
本発明の重布に用いるポリアミドマルチフィラメントの単糸断面は、丸断面以外にも、異型断面であっても良く、異形断面形状としては扁平型、三角型、C型、Y型、団子型、中空型、あるいはそれらの組合せ等を例示することができるがこれに限られるものではない。
【0014】
本発明の重布に用いるポリアミドマルチフィラメントは、トリアジン系化合物を0.5〜10重量%、好ましくは0.5〜8重量%、さらに好ましくは1.0〜5重量%含有することが、優れた難燃特性を発現するために必要である。ポリアミドマルチフィラメントに含まれるトリアジン系化合物の含有量が0.5重量%未満では、必要とされる難燃性が得られず、逆に10重量%を越える場合には、難燃性効果が飽和し、むしろ強度が低下したり、糸切れや毛羽が発生して製糸の収率が低下したりしてしまうため好ましくない。
【0015】
本発明で用いるトリアジン系化合物としては、メラミン類やシアヌル酸類、またメラミン類とシアヌル酸類の付加物等が挙げられる。シアヌル酸類としては、シアヌル酸やイソシアヌル酸は勿論のこと、エノール形、ケト形を問わずトリメチルシアヌレート、トリエチルシアヌレート、メチルシアヌレート、ジエチルシアヌレート、トリノルマルプロピルシアヌレートなどのシアヌル酸誘導体を用いることができる。また、シアヌル酸類は水和物であっても無水物であってもよい。メラミン類としては、メラミンは勿論のこと、アンメリド、アンメリン、ホルモグアナミン、グアニルメラミン、シアノメラミン、アリルグアナミン、メラム、メレム、リン酸メラミン等を例示することができる。メラミン類とシアヌル酸類との付加物としては、メラミンとイソシアヌル酸の付加物であるメラミンシアヌレートを例示することができるが、前記メラミン類とシアヌル酸類の付加物、好ましくは等モル付加物であれば種類を限定されるものではない。また、例えばメラミン類とシアヌル酸類の水溶液を混合して両者の塩を形成させた後、濾過して得られるメラミン類とシアヌル酸類の塩には未反応のメラミン類やシアヌル酸類が含まれていても良い。
【0016】
これらトリアジン系化合物難燃剤のうちでも、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミン、メラミシアヌレートが好ましく用いられ、特にメラミンシアヌレートが難燃性発現および加工性の面から最も好ましく用いられる。
【0017】
本発明で使用するポリアミドマルチフィラメントに添加するトリアジン系化合物は、その平均粒子径が0.1〜5μmであることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜2.3μmである。平均粒子径が0.1μm未満のトリアジン系化合物をポリアミドポリマに添加しても構わないが、かえって、コスト高となり実用的ではない。また、平均粒子系が5μmを越えると、産業資材用途として好適な高強度の難燃性ポリアミドマルチフィラメントを収率よく得ることが困難となる。
【0018】
トリアジン系化合物の最大粒子径としては10μm未満が好ましく、さらに好ましくは5μm未満である。本発明の重布に用いるようなマルチフィラメントにトリアジン系化合物を使用する場合に、トリアジン系化合物の最大粒子径が10μm以上であると、溶融ポリマ中で他のトリアジン系化合物と凝集する確率が高くなり、製糸性が著しく低下したり、また、マルチフィラメント中におけるトリアジン系化合物の分散状態が悪くなり、重布用途に好適な高強度マルチフィラメントを得ることが困難となる。マルチフィラメント中におけるトリアジン系化合物の分散状態を確認する手法としては、ミクロトームで5〜10μmに切断した糸サンプルをNikon製“ECLIPSE E600W POL”偏光顕微鏡を用いて、400〜500倍で撮影した写真によって確認できる。
【0019】
上記粒子径を有するトリアジン系化合物は、トリアジン系化合物をボールミル等の手段で粉砕した後、乾式分級するなどの方法で得ることができる。
【0020】
また、本発明の重布に柔軟性を持たせるために、ポリアミドマルチフィラメントは単糸繊度が1.5〜100dtexのマルチフィラメントであることが必要である。
【0021】
本発明で特筆すべき技術的特徴は、最大粒子径が前記範囲内にあるトリアジン系化合物を用いることで、単糸繊度が本発明の範囲を満足するマルチフィラメントであっても製糸性良く高強度なポリアミドマルチフィラメントを得ることが可能となること、及びトリアジン系化合物を含有し、且つ単糸繊度が本発明の範囲を満足するポリアミドマルチフィラメントにおいて、単糸繊度が太いマルチフィラメントと比較して繊維表面積が大きくなるため、重布燃焼時に難燃剤であるトリアジン系化合物と炎との接触面積が増加し優れた難燃効果を発現することにある。このため、本発明で使用するポリアミドマルチフィラメントの単糸繊度は1.5〜100dtex、好ましくは1.5〜80dtex、さらに好ましくは3〜60dtexであることが必要である。単糸繊度が1.5dtex未満の場合には、トリアジン系化合物の大きさと比較して単糸太さが細くなり、繊維製造工程で毛羽や糸切れが発生する可能性がある。また、単糸繊度が100dtexを超える場合には、得られる重布の風合いが堅くなる可能性がある。
【0022】
また、本発明で使用するポリアミドマルチフィラメントは、強度が4.5〜9.0cN/dtex、好ましくは6.0〜8.5cN/dtexである。4.5cN/dtex未満では重布用繊維として強度が十分でなく、有用できない。一方、強度が9.0cN/dtexを越える難燃性ポリアミドマルチフィラメントも得られるが、製糸の収率が劣り、毛羽が多く発生するため品位の良い重布を得ることができない。
【0023】
また、本発明の重布に用いるポリアミドマルチフィラメントに添加するトリアジン系化合物とともに、各種の難燃剤を併用することによって、さらに難燃性を向上させることができる。併用する好ましい難燃剤としては、次亜リン酸アルカリ金属又は次亜リン酸土類金属塩、例えば、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸バリウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸アルミニウム、及び水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウム等が挙げられ、これらの添加量としては、通常0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜3重量%である。
【0024】
さらに、本発明の重布の耐候劣化及び耐熱強力劣化を防ぐためには、ポリアミドマルチフィラメントが銅化合物を銅金属量として10〜500ppm含有することが好ましい。銅金属量10ppm未満の場合には、銅化合物による耐候・耐熱性向上効果が低く、銅金属量が500ppmを超える場合には、銅化合物が異物となり製糸性が悪化する危険性を有している。含有する銅金属量としては20〜300ppmが好ましく、30〜250ppmがより好ましい。銅化合物として、沃化銅、塩化銅、臭化銅等を例示することができるがこれに限られるものではなく、従来知られた無機及び有機銅塩や銅金属単体を用いることができる。
【0025】
また、ポリアミドマルチフィラメントは銅化合物に加えて他の耐熱剤を含有してもよい。耐熱剤としてはアミン化合物、メルカプト化合物、リン系化合物、ヒンダードフェノール化合物、ハロゲン化合物、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属等があげられるが、これに限られるものではなく、また、これらを2種類以上組み合わせたものでも良い。アミン系化合物としては、N, N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、ジアリル−p−フェニレンジアミン、ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン等を例示することができ、メルカプト化合物としては2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトチアゾールが例示でき、リン系化合物としてはステアリルフォスフェート、亜リン酸またはその塩等の有機・無機リン酸等を例示できるがこれらに限られるものではなく、銅化合物と前記耐熱剤は別々に添加しても良いし、錯体を形成させて添加しても良い。銅化合物とともに加える耐熱剤としてはメルカプト化合物が好ましく、特に2−メルカプトベンゾイミダゾールを組み合わせることが好ましい。その時のメルカプト化合物添加量としては300〜3000ppmであることが、熱酸化劣化防止性および製糸性の観点から好ましい。
【0026】
ポリアミドマルチフィラメントの硫酸相対粘度は3〜4.5の範囲であることが好ましい。硫酸相対粘度が4.5を超える高重合度のポリカプラミドマルチフィラメントを生産性良く安価に得ることは現在の技術では難しい。また、硫酸相対粘度が3未満の場合には所望の強度のマルチフィラメントが得難いばかりか、長時間の保管時に物性の低下が大きくなる可能性を有している。
【0027】
上記した本発明の条件を満足していれば、ポリアミドマルチフィラメントの伸度や沸水収縮率等の諸物性はとくに限定されない。
【0028】
また、本発明の重布に用いるポリアミドマルチフィラメントは、さらに有機または無機顔料を0.1〜1重量%含有することが好ましく、より好ましい範囲は0.2〜0.8重量%である。ポリアミドマルチフィラメントを原着化することにより、染色の必要が無く、低コストで染色廃液が発生しない等の利点が得られ、環境に与える負荷の小さい車両内装材を得ることが可能となる。添加する顔料の種類に特に限定はなく、カーボンブラック等の公知の無機および有機顔料を添加することが可能である。また、顔料を添加したポリアミドマルチフィラメントを用いた車両内装材織編物は、耐候性が向上するという利点も有している。顔料添加量が0.1重量%未満の場合には、求める色調を有するマルチフィラメントを得られない可能性がある。また、添加量が1重量%を超える場合には、顔料が異物となって繊維製造工程で製糸性良く得ることができない可能性がある。
【0029】
また、本発明の重布に使用される樹脂としては、含浸用、コーティング用、バインダー用等の下地用ならびにラミネート樹脂皮膜用を含め、通常産業用または、衣料用に使用されるものを用いることができる。その場合、例えば、不通気性、耐熱性、難燃性等の性質を有する樹脂なども使用することができる。かかる樹脂としては、例えば、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、さらに、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂等、耐熱性を有する合成樹脂や天然ゴムを使用することができるが、さらに、通常の有機、無機難燃剤を含有する樹脂、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂等を使用できるが、これらに限られるものではない。
【0030】
次に、本発明の重布に用いるポリアミドマルチフィラメントの製造方法の一例を説明するが、ポリアミドマルチフィラメントの製造方法はこれに限られるものではない。
【0031】
ポリアミドチップと難燃剤、銅化合物および原着用顔料等との混合は、該ポリアミドの重縮合完了直後から該ポリアミドマルチフィラメントが紡糸口金から紡出されるまでの任意の段階で混合すれば良い。例えば、重縮合完了直後の溶融ポリアミドに難燃剤等を添加・混練してチップ化した後固相重合し、次いでエクストル−ダー式紡糸機で溶融紡糸・延伸する方法、あるいは乾燥したポリアミドチップに、難燃剤等を混練して溶融紡糸・延伸する方法、あるいは、溶融混練により難燃剤等を高濃度含有させたマスタ−チップを製造し、該マスタ−チップとポリアミドチップを計量混合しながら溶融紡糸・延伸する方法等がある。マスターチップ化した際には紡糸時に2軸エクストルーダー型押し出し機やスタティックミキサー等を用いることが、難燃剤等を微分散させるためには好ましい。
【0032】
口金より紡出した糸条は、冷風等の冷却装置にて冷却固化したのち油剤を付与され、300〜2000m/分で回転する引き取りローラに捲回して一旦巻き取った後、もしくは連続して2段以上の多段で熱延伸を施し、巻取り機にて巻取る。熱延伸温度はポリアミドマルチフィラメントのガラス転移点〜融点−10℃で行い、延伸倍率は、2.5〜7倍の範囲でそれぞれ行い、上記したポリアミドマルチフィラメントの物性となるよう製造する。かくして、重布に用いるポリアミドマルチフィラメントが得られる。
【0033】
本発明の重布の製造方法には特に限定は無く、例えば、シャットル織機、シャットルレス織機、トリコット機、ラッセル機等の製造方法を利用することができる。また、その織編組織は平組織、斜文組織、朱子組織、平編、リブ編、ガータ編、デンビー編、コード編、アトラス編等、種々の織編組織から選択することができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
次に、本発明の重布の製造方法の一例を示すが、製造方法はこれに限られるものではない。
【0035】
前述の方法で得られたポリアミドマルチフィラメントを構成素材の少なくとも一部、好ましくは全構成素材の50%以上となるように使用して、所望の目付量となるように経糸および緯糸の織密度を調整してシャットルレス織機を用いて製織する。製織時に付与するワークビームとクロスビーム間の経糸張力には、特に決まりのないものの、好ましい範囲として0.1〜2cN/dtexの範囲を例示することができる。一方、緯糸は原糸チーズから糸条を解舒してから緯糸を打ち込むまでの間で張力を付与するが、そのときの張力範囲には特に決まりはない。また、マルチフィラメント布帛は必要に応じて、撥水処理、接着剤処理、制電剤処理、耐候剤、抗菌剤、防カビ剤等を下処理として施すことができ、染色方法や染料は特に限定されるものではない。さらに、被覆加工方法としては、特に限定はなく、例えば、ディッピング法、カレンダートッピング法、コーティング法等の方法を利用することができる。
【0036】
かくして本発明の重布を得ることができる。得られた重布を常法により加工し、建築用シート、テント倉庫用シート、建築工事用シート、車両用帆布あるいはヨット帆布とすることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明の態様を更に詳しく説明する。明細書本文および実施例に用いた特性の定義および測定法は次の通りである。
【0038】
(1)繊度
JIS L1013(1999)8.3の方法で正量繊度を測定した。
【0039】
(2)強度・伸度
JIS L1013(1999)8.5の方法で測定した。
【0040】
(3)硫酸相対粘度
ポリマ試料を98%硫酸に1重量%の濃度で溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定し、次式に従い求めた。
硫酸相対粘度(ηr)=(試料溶液の滴下秒数)/(硫酸溶液滴下秒数)
各サンプルにつき2回の測定をおこない、その平均値を採用した。
【0041】
(4)限界酸素指数(LOI)
JIS L1091(2002)繊維製品の燃焼性試験方法E法(酸素指数法試験)によって測定した。LOIが25以上であれば必要とされる難燃性を満足する。
【0042】
(5)燃焼性試験
JIS L1091(2002)繊維製品の燃焼性試験方法A法(燃焼試験)に基づいて炭化面積、残炎時間、残塵時間を測定し、さらにD法(接炎回数)に基づいて接炎回数を測定し、合格するものを○、不合格であるものを×で表示した。なお、燃焼性の測定は、加工布帛を50℃のお湯に30分間浸漬し、自然乾燥したものについて実施した。
【0043】
(6)トリアジン系化合物最大粒子径および平均粒子径
トリアジン系化合物粉末の最大粒子径および平均粒子径は以下の2種類の方法を用いて測定できる。
A)粒度分布測定機(“SK Laser Micron Sizer”:セイシン企業製)を用いて測定し、最大粒子径および平均粒子径を求めた。
B)トリアジン系化合物粉末をイオンコーター(Eiko Engineering社製 “IB−3”)を用いて金蒸着した。作製サンプルをSEM(トプコン株式会社製 “ABT−55”)を用いて観察し、粒子100個の最大直径を測定し、その平均を平均粒子径、最も大きい粒子の最大直径を最大粒子径とした。
【0044】
(7)繊維中におけるトリアジン系化合物の最大粒子径および平均粒子径
ミクロトームで5〜10μmに切断した糸サンプルをNikon製“ECLIPSE E600W POL”偏光顕微鏡を用いて、400〜500倍で撮影した写真によって繊維中におけるトリアジン系化合物の分散状態を観察し、その繊維断面に確認できるトリアジン系化合物の最大粒子径、平均粒子径を測定した。
【0045】
(8)耐候性強度保持率
スガ試験機株式会社製キセノンウェザーメーター(“SuperXenonWeatherMeter”)を用い、試験条件を温度63℃、水噴霧有り、ブラックパネル法として耐候性試験を100時間実施し、試験前の原糸の強度(100%)に対する試験後の原糸の強度の割合(%)を求めた。
【0046】
(9)耐候性試験後のLOI測定
屋外にて800日放置した重布を前記限界酸素指数測定法にて測定した。
【0047】
[実施例1]
硫酸相対粘度3.8のナイロンポリマと、平均粒子径1.2μmで最大粒子径3.1μmのメラミンシアヌレート粉末を10重量%添加したナイロン6マスターポリマを計量器で連続的計量しながら、6:4の比率で285℃の2軸エクストルーダー式押出機に連続的に供給し連続的に溶融した。それぞれのポリマには沃化銅を100ppm添加した。
【0048】
溶融ポリマを285℃の配管を通じて8段のスタティックミキサーで混練し、ギヤポンプにて総繊度が900dtexとなるように計量した後、285℃の紡糸パックに導き、パック内では30ミクロンカットのフィルターを通過させ、孔径0.5mm、孔長1.1mmの単孔が96個開けられた口金より押し出した。
【0049】
紡出糸条を口金下に設けた長さ20cm、雰囲気温度310℃の加熱筒を通過させた後、ユニフロー型チムニーを用いて30℃の冷風を40m/分の速度で吹き付け固化させた後、油剤ローラにて油剤を付与した。油剤を付与した糸条を475m/分の表面速度を有する第1ローラ(非加熱)で巻き取った後、連続して延伸工程に供した。
【0050】
第1ローラを通過した糸条を速度500m/分の第2ローラ(55℃)、速度1375m/分の第3ローラ(90℃)、速度1800m/分の第4ローラ(155℃)、速度2250m/分の第5ローラ(195℃)、速度2150m/分の第6ローラ(130℃)に連続して供すことにより、延伸を行い総繊度900dtexのナイロン6マルチフィラメントを得た。得られたナイロン6マルチフィラメントの特性を表1に示した。
【0051】
得られたナイロン6マルチフィラメントを経糸および緯糸とし、津田駒製ウォータージェットルーム(ZW303)を用いて、回転速度1000rpmで生地を平組織に製織した。経糸に関しては300m/minの速度で整経し、経糸及び緯糸の織密度をそれぞれ25本/inch、25本/inchとした。得られた生地をフッ素系撥水剤(明成科学社製“アサヒガードLS317”)0.7%に浸漬し、絞り率85%で絞った後、乾熱炉にて定長状態で170℃、1分間の熱処理を施し、撥水織物を得た。次いで、ポリウレタン樹脂(大日精化社製“ハイムレンX3038”)100部とMEK18重量部、トルエン18重量部、水50重量部、架橋剤2重量部および上記撥水剤2重量部を調合してコーティング溶液とし、この溶液を撥水織物の片面にナイフコーターでコーティングし、70℃、1分間の乾燥後、110℃、1分間の熱処理を施し重布を得た。得られた重布の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0052】
得られた重布は、建築用シート、テント倉庫用シート、建築工事用シート、車両用帆布、ヨット帆布として、全く問題なく使用可能であった。
【0053】
[実施例2]
それぞれのナイロンマスターポリマにカーボンブラックを0.5重量%添加したこと、および孔数が12個の口金を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。得られたナイロン6マルチフィラメントおよび重布の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0054】
[実施例3]
ナイロン6ポリマとナイロン6マスターポリマを2:8の比率で混合して紡糸工程に供したこと、および平均粒子径0.7μmで最大粒子径2.5μmのメラミンシアヌレートを添加したこと以外は、実施例1と同様に行った。得られたナイロン6マルチフィラメントおよび重布の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0055】
[実施例4]
ナイロン6ポリマとナイロン6マスターポリマを8:2の比率で混合して紡糸工程に供したこと、および平均粒子径2.0μmで最大粒子径4.5μmのメラミンシアヌレートを添加したこと以外は、実施例1と同様に行った。得られたナイロン6マルチフィラメントおよび重布の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0056】
[比較例1]
マスターチップを用いずに、1軸エクストルーダー式押出し機を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。得られた平織物を難燃剤(大京化学製“ビゴールNA−7”)40%、水58.8%、硬仕上げ剤(住友化学製“Sumitex Resin M−3”)1%、触媒(住友化学製“Sumitex Accelerator ACX”)0.2%の溶液でピックアップ70%となるようにディップし、140℃で2分間乾燥した。得られたナイロン6マルチフィラメントおよび重布の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0057】
[比較例2]
ナイロン6ポリマを用いずに、平均粒子径1.2μmで最大粒子径3.1μmのメラミンシアヌレート粉末を15重量%、沃化銅を100ppm添加したナイロン6マスターポリマのみを用いて、1軸エクストルーダー式押出し機を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。得られたナイロン6マルチフィラメントおよび重布の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0058】
[比較例3]
ナイロン6ポリマとナイロン6マスターポリマを2:8の比率で混合して紡糸工程に供したこと、平均粒子径6.7μmで最大粒子径14.3μmのメラミンシアヌレートを添加したこと、および各ローラ速度を、第1ローラ690m/分、第2ローラ725m/分、第3ローラ1470m/分、第4ローラ1850m/分、第5ローラ2250m/分、第6ローラ2150m/分に変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。得られたナイロン6マルチフィラメントおよび重布の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0059】
[比較例4]
平均粒子径6.7μmで最大粒子径14.3μmのメラミンシアヌレートを添加したこと、孔数が10個の口金を用いたこと、各ローラ速度を、第1ローラ690m/分、第2ローラ725m/分、第3ローラ1470m/分、第4ローラ1850m/分、第5ローラ2250m/分、第6ローラ2150m/分に変更したこと、および総繊度1600dtexのマルチフィラメントを得たこと以外は、実施例1と同様に行った。得られたナイロン6マルチフィラメントおよび重布の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0060】
[比較例5]
ナイロン6ポリマとナイロン6マスターポリマを9.7:0.3の比率で混合して紡糸工程に供したこと以外は、実施例1と同様に行った。得られたナイロン6マルチフィラメントおよび重布の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0061】
【表1】

【0062】
表1の結果から明らかなように、本発明の条件を満足する実施例1〜4の重布は、後加工を施さなくても製織後の難燃性に優れた重布であり、その難燃性能は劣化試験に供した後においても殆ど変化しない。
【0063】
しかしながら、比較例1に示すような、後加工によって難燃性を付与した重布は、難燃加工直後のLOIは高く難燃性に優れた重布となるものの、屋外に長時間曝露された場合の難燃性低下が激しいものであった。
【0064】
比較例2のように、トリアジン系化合物含有量が本発明の規定を超える場合には、ポリアミドマルチフィラメントの採取は可能であったものの、ポリアミドマルチフィラメント製造工程において毛羽の発生が多発し、安定的に製織編工程を通過することが困難であった。
【0065】
比較例3および4のように、トリアジン系化合物の平均粒子径、最大粒子径が本発明の規定を超える場合には、ポリアミドフィラメント繊維の採取は可能であったものの、ポリアミド繊維製造工程において毛羽の発生が多発し、安定的に繊維を採取することはできなかった。
【0066】
比較例4のように、単糸繊度が本発明の規定を上回る場合には、ポリアミドマルチフィラメント製造工程において毛羽および糸切れが多発し、実用に供するに値するポリアミドマルチフィラメント繊維を得ることができなかった。
【0067】
比較例5のように、トリアジン系化合物の含有量が本発明の規定に満たない場合には、必要とされる難燃性が得られず、実用に供するに値する難燃性を有するポリアミドマルチフィラメント繊維を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の重布は、強度、耐摩耗性、衝撃吸収性等の物理的特性及び耐候性、耐薬品性等の化学的特性に優れるばかりか、実用に供されている間の難燃性能劣化が非常に小さいという特性を有していることから、建築用シート、テント倉庫用シート、建築工事用シートおよび車両用帆布建築用膜材用、ヨット帆布として有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度が1.5〜100dtex、強度が4.5〜9.0cN/dtexであって、最大粒子径が10μm未満、平均粒子径が0.1〜5μmのトリアジン系化合物を0.5〜10重量%含有するポリアミドマルチフィラメントを少なくとも1部に用いたことを特徴とする重布。
【請求項2】
前記トリアジン系化合物の最大粒子径が5μm未満、平均粒子径が0.1〜2.3μmであることを特徴とする請求項1に記載の重布。
【請求項3】
前記トリアジン系化合物がメラミンシアヌレートであることを特徴とする請求項1または2に記載の重布。
【請求項4】
前記ポリアミドマルチフィラメントがさらに銅化合物を銅金属量として10〜500ppm含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の重布。
【請求項5】
前記ポリアミドマルチフィラメントがさらに有機または無機顔料を0.1〜1重量%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の重布。
【請求項6】
前記重布が、建築用シート、テント倉庫用シート、建築工事用シート、車両用帆布あるいはヨット帆布に使用するものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の重布。

【公開番号】特開2007−146341(P2007−146341A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345212(P2005−345212)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】