説明

重荷重用空気入りタイヤ

【課題】 使用初期から末期までの長期間にわたって耐チッピング性に優れた重荷重用タイヤの提供。
【解決手段】 (a)天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムを70重量%以上含むゴム成分100重量部、(b)窒素吸着比表面積(N2SA)が60m2/g以上のカーボンブラック及び/又はシリカ30〜70重量部、並びに(c)式(I):
【化1】


(式中、Rは、炭素数2〜20の置換もしくは非置換のアルキレン基もしくは、オキシアルキレン基又は芳香族環を含む炭素数8〜20のアルキレン基であり、xは平均2〜6の数、nは1〜20の整数である)で表される環状ポリスルフィド0.1〜10重量部を含んでなるゴム組成物を、トレッドの全容積に対して、20〜80容積%の比率をしめるタイヤベーストレッドに用いた重荷重用タイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重荷重用空気入りタイヤに関し、更に詳しくは空気入りタイヤの使用初期から末期までの長期間にわたって耐チッピング性に優れる重荷重用空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トラックやバス用などの重荷重用空気入りタイヤに対する寿命改善の要求が近年強くなってきており、そのためタイヤトレッドのベース部には低発熱性かつ高補強性のゴム組成物を用い、ベース容量を増量した構造の低発熱性タイヤが採用されている(例えば特許文献1参照)。更に悪路向け重荷重用タイヤではベース容量を増すと摩耗(使用)末期にベーストレッドが露出するため、ベースコンパウンドに対しても耐チッピング性能が要求されるようになっている。このような観点から、伸びが高く、その性能を長期にわたって持続可能なゴム組成物の開発が望まれていた。
【0003】
【特許文献1】特開2002−19418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は、使用初期から使用末期までの長期間にわたって、優れた耐チッピング性を示す重荷重用空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に従えば、(a)天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムを70重量%以上含むゴム成分100重量部、(b)窒素吸着比表面積(N2SA)が60m2/g以上のカーボンブラック及び/又はシリカ30〜70重量部、並びに(c)式(I):
【化1】

(式中、Rは、炭素数2〜20の置換もしくは非置換のアルキレン基もしくは、オキシアルキレン基又は芳香族環を含む炭素数8〜20のアルキレン基であり、xは平均2〜6の数、nは1〜20の整数である)で表される環状ポリスルフィド0.1〜10重量部を含んでなるゴム組成物を、トレッドの全容積に対して、20〜80容積%の比率をしめるタイヤベーストレッドに用いた重荷重用タイヤが提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、前述のように、NR及び/又はIRを主体としたゴム成分に、N2SAの大きいカーボンブラック及び/又はシリカと前記式(I)の環状ポリスルフィドを配合したゴム組成物をタイヤベーストレッドに用いることによって、空気入りタイヤの使用初期から末期までの長期間にわたって耐チッピング性に優れた重荷重用空気入りタイヤを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る重荷重用タイヤのベーストレッドを構成するゴム組成物は、ゴム成分(a)として、天然ゴム(NR)及び/又はポリイソプレンゴム(IR)を(併用する場合には合計量で)70重量%以上、好ましくは80重量%以上含むことが必要である。NR/IRの使用量が少な過ぎると強度が不足するので好ましくない。NR及び/又はIR以外のゴムとしては、例えばポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)などを用いることができ、これらは単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
【0008】
本発明に係るゴム組成物には、成分(b)として、窒素吸着比表面積(N2SA)(JIS K 6217に準拠して測定)が60m2/g以上、好ましくは100〜140m2/gのカーボンブラック及び/又はシリカを、ゴム成分(a)100重量部当り、(カーボンブラック及びシリカを併用する際には両者の合計量として)30〜70重量部、好ましくは40〜60重量部配合する。カーボンブラックのN2SAが低過ぎると耐摩耗性が不足するので好ましくない。またカーボンブラック及び/又はシリカの配合量が少な過ぎると耐摩耗性及び強度が不足するので好ましくなく、逆に多過ぎると発熱性が悪化するので好ましくない。なおシリカとしてはタイヤ用補強充填剤として使用することができる任意のシリカ例えば天然シリカ、合成シリカ、より具体的には乾式シリカ、湿式シリカを用いることができる。
【0009】
本発明に係る組成物には、更に、成分(c)として、ゴム成分(a)100重量部当り、前記式(I)(式中、Rは、炭素数2〜20の置換もしくは非置換のアルキル基もしくは、オキシアルキレン基又は芳香族環を含む炭素数8〜20のアルキレン基であり、xは平均2〜6の数、好ましくは3〜5の数でnは1〜20の整数好ましくは1〜10の整数である)で表される環状ポリスルフィドを0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜8重量部配合する。なお、環状ポリスルフィド(A)は例えば特開2002−293783号公報にその製造法、その他が詳細に記載されている。
【0010】
本発明で使用する環状ポリスルフィド(A)の配合量が少な過ぎると破断物性向上の効果が不足するので好ましくなく、逆に多過ぎると破断伸びが低下するので好ましくない。
【0011】
本発明に係る重荷重用タイヤは、例えば図1に模式的に示したような構造を有する(これは単なる例示であって、本発明の重荷重用タイヤを図1に示す構造に限定するものでないことはいうまでもない)。本発明によれば、タイヤトレッド2のベーストレッド3として、前記ゴム組成物を用い、タイヤトレッド2の全容積に対して20〜80%、好ましくは30〜70%の比率を占めるように構成する。この容積が少な過ぎると低発熱性が不足するので好ましくなく、逆に多過ぎると耐摩耗性が不足するので好ましくない。なお図1において4はカーカス、5はベルト、6はサイドトレッド、7はインナーライナー、8はビードコアを示す。本発明に係る重荷重用タイヤ1はそのベーストレッド3に前記ゴム組成物を用いることを除けば従前通りの方法及び製造を用いて製造することができる。
【0012】
本発明において使用する前記式(I)の環状ポリスルフィドは、式:X−R−X(式中、Xは、それぞれ独立に、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、好ましくは塩素、臭素のハロゲン原子を表し、Rは、置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基又は置換もしくは非置換のC2〜C20のオキシアルキレン基、芳香族環を含むアルキレン基、好ましくは前記置換もしくは非置換のC2〜C20、更に好ましくはC4〜C10のアルキレン基又は芳香族環を示す。)のジハロゲン化合物とアルカリ金属の多硫化物M2x(式中、Mはアルカリ金属、例えばナトリウム、カリウム、リチウムなどである、xは2〜6の整数である)とを、親水性及び親油性溶媒の非相溶の混合溶媒中で2相系で反応させることによってか、又はM2xの溶液(溶媒としては水及びC1〜C4脂肪族アルコールを用いることができ、水の使用が最も好ましい)中にX−R−XをM2xとX−R−Xとが界面で反応するような速度で添加して反応させることによって、製造される。なお、後者の方法でX−R−Xの添加速度が速すぎると、X−R−Xの濃度が高くなり、界面以外での反応も起こり、分子間の反応が優先され鎖状になるので好ましくない。従って、M2xとX−M−Xの反応をできるだけ不均一系で界面だけで反応させることが環状ポリスルフィドを得るのに好ましい。
【0013】
前記一般式X−R−X及び式(I)の基Rとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、1,2−プロピレンなどの直鎖又は分岐鎖のアルキレン基があげられ、これらのアルキレン基はフェニル基、ベンジル基などの置換基で置換されていてもよい。基Rとしては更にオキシアルキレン基を含むアルキレン基、例えば基(CH2CH2O)p及び基(CH2)q(式中、pは1〜5の整数であり、qは0〜2の整数である)が任意に結合したオキシアルキレン基を含むアルキレン基とすることができ、特に好ましくは以下をあげることができる。
【0014】
−CH2CH2OCH2CH2−,−(CH2CH2O)2CH2CH2−,
−(CH2CH2O)3CH2CH2−,−(CH2CH2O)4CH2CH2
−(CH2CH2O)5CH2CH2−,−(CH2CH2O)2CH2−1
−CH2CH2OCH2OCH2CH2
【0015】
前記反応に用いる親水性溶媒及び親油性溶媒については特に限定はなく、実際の反応系において非相溶で2相を形成する任意の溶媒を用いることができる。具体的には、例えば親水性溶媒としては、水の他、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類をあげることができ、これらは任意の混合物として使用することもできる。また親油性溶媒としては、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ジオキサン、ジブチルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類などをあげることができ、これらは任意の混合物として使用することもできる。
【0016】
前記ジハロゲン化合物と前記アルカリ金属の多硫化物との界面での反応は、当量反応であり、実用的には両化合物を0.95:1〜1:0.95(当量比)で反応させ、反応温度は好ましくは50〜120℃、更に好ましくは70〜100℃である。
【0017】
前記反応において触媒は必要ではないが、場合によって触媒として4級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、クラウンエーテルなどを用いることができる。かかる触媒としては、例えば(CH34+Cl-,(CH34+Br-,(C494+Cl-,(C494+Br-,C1225+(CH33Br-,(C494+Br-,CH3+(C653-,C1633+(C493Br-,15−crown−5,18−crown−6,Benzo−18−crown−6等が挙げられる。特に式(I)のxの平均が4超〜6以下の環状ポリスルフィドを製造する場合には触媒の使用が好ましい。
【0018】
本発明に係る重荷重用タイヤに用いる前記ゴム組成物には、前記した必須成分に加えて、その他の補強剤(フィラー)、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他一般ゴム用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練、加硫して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0020】
実施例1〜4及び比較例1
サンプルの調製
表Iに示す配合において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.8リットルの密閉型ミキサーで3〜5分間混練し、165±5℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄をオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。
【0021】
次に得られたゴム組成物を15×15×0.2cmの金型中で150℃で30分間加硫して加硫ゴムシートを調製し、以下に示す試験法で加硫ゴムの物性を評価した。結果は表Iに示す。なお、TB及びEBは比較例1の数値を100として指数表示した。
【0022】
ゴム物性評価試験法
破断強度(TB)及び破断伸び(EB):JIS−6251の方法(ダンベル3号)に準拠してTB及びEBを測定し、結果は比較例1の値を100として表Iに指数表示した。
【0023】
チッピング評価:各コンパウンドをベーストレッド部に使用したサイズ11R22.5のタイヤを作成し(トレッド中のベース比率35%)、積載重量20トンの車に装着して約6ヶ月間のうちに舗装路及び非舗装路を約60,000km走行した後(摩耗末期)に、タイヤトレッドの外観を5点法にて評価した。この数字が小さい方がチッピングが少なく、外観が良好なことを示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表I脚注
*1:天然ゴム STR−20
*2:東ソー・シリカ(株)製シリカ(N2SA=193m2/g)
*3:昭和キャボット(株)製カーボンブラック(N2SA=111m2/g)
*4:デックサ社製 シランカップリング剤
*5:FLEXSYS製老化防止剤
*6:正同化学工業(株)製酸化亜鉛
*7:日本油脂(株)製ビーズステアリン酸
*8:FLEXSYS製加硫促進剤
*9:荒川化学工業(株)製変性ガムロジン(マルキード382)
*10:鶴見化学工業(株)製金華印油入微粉硫黄
【0026】
*11:環状ポリスルフィド1:以下のようにして合成した、式(I)において、R=(CH26、x(平均)=5及びn=1〜4の環状ポリスルフィド。
30%多硫化ソーダ(Na24)水溶液89.76g(0.15mol)に水80g、硫黄48g(0.15mol)及び触媒としてテトラブチルアンモニウムブロマイド1.16g(0.0045mol)を入れて80℃2時間反応させた後、トルエン100gを加えて90℃で1,6−ジクロロヘキサン23.3g(0.15mol)を1時間滴下し、さらに4時間反応させた。反応終了後、有機層を分離し、減圧下90℃で濃縮した後、目的の環状ポリスルフィドを35.2g(収率95%)得た。
【0027】
*12:環状ポリスルフィド2:以下のようにして合成した、式(I)において、R=(CH22O(CH2)O(CH22、x(平均)=4及びn=1〜2の環状ポリスルフィド。
30%多硫化ソーダ(Na24)水溶液89.76gにトルエン100gを加え、90℃で1,2−ビス(2−クロロエトキシ)メタン26.0g(0.15mol)を1時間滴下し、さらに4時間反応させた。反応終了後、有機層を分離し、減圧下90℃で濃縮した後、目的の環状ポリスルフィドを35.0g(収率96%)得た。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、以上説明した通り、標準配合の比較例1に対し、実施例では環状スルフィドを配合することにより、摩耗末期の耐チッピング性を大幅に改善することができるので、重荷重用タイヤのベーストレッドして使用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】重荷重用タイヤの一例の子午線方向概略断面構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 重荷重用タイヤ
2 トレッド
3 ベーストレッド
4 カーカス
5 ベルト
6 サイドレッド
7 インナーライナー
8 ビードコア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムを70重量%以上含むゴム成分100重量部、(b)窒素吸着比表面積(N2SA)が60m2/g以上のカーボンブラック及び/又はシリカ30〜70重量部、並びに(c)式(I):
【化1】

(式中、Rは、炭素数2〜20の置換もしくは非置換のアルキレン基もしくは、オキシアルキレン基又は芳香族環を含む炭素数8〜20のアルキレン基であり、xは平均2〜6の数、nは1〜20の整数である)で表される環状ポリスルフィド0.1〜10重量部を含んでなるゴム組成物を、トレッドの全容積に対して、20〜80容積%の比率をしめるタイヤベーストレッドに用いた重荷重用タイヤ。
【請求項2】
前記環状スルフィドが、式:X−R−X(式中、Xはそれぞれ独立にハロゲン原子を表し、前記定義の通りである)のジハロゲン化合物と、式M2x(式中、Mはアルカリ金属であり、xは平均2〜6の数である)のアルカリ金属の多硫化物とを、親水性及び親油性溶媒の非相溶混合溶媒中で2相系で反応させて得たものである請求項1に記載の重荷重用タイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2006−89611(P2006−89611A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277137(P2004−277137)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】