説明

重量物の走行又は回転方法

【課題】重量物の走行或いは回転において、その作業手間を極めて少なくして、小さな空間での正確な走行・反転を可能する。
【解決手段】重量物Cを搭載する架台1下に、ボール状転動部材を有する走行装置3を配し、前記架台1と、架台1から離隔した構造物25等の所望位置との、いずれか一方に反力受け部材18、他方にセンターホールジャッキ13を取付ける。反力受け部材18に引張材26の一端を固定し、当該引張材26の他端をセンターホールジャッキ13に通し、引張材26を牽引することによって、前記架台1を走行又は回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘削のシールド掘進機などの重量物を、立抗などの中で、移動のために走行したり、回転したりする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削のためのシールド掘進機などを、立抗内で反転させて隣接する別のトンネルを掘進するために、立抗の中などで走行させたり回転させることがある。
このような数千トンもある極めて重い重量物を走行させたり、回転するには、特開昭53−38052号公報や特公昭44−5047号公報に記載されているような重量物搭載走行装置が使用されている。
同走行装置は、鋼球などのボール状転動部材を備えており、その転動部材がクローラのように回転することで走行するものである。
このような走行装置の上に架台を載せ、その架台の上に重量物を載せ、走行装置を走行させることによって走行・回転を行うものである。
【0003】
前記したように、重量物は架台の下に配置した走行装置のボール状転動部材の転がりによって走行するのであるが、その走行するための推進力を如何に得るかである。
従来は、立抗の床にH鋼などの反力受けを固定して、油圧シリンダなどをその反力受けと架台との間に設置して、シリンダのロッドを伸ばして架台を押すようにして走行したり回転させたりしていた。
【0004】
しかしながら、油圧シリンダなどのロッドが伸縮するジャッキを推進力として使用すると、架台を押して一度ロッドが一杯に伸びてしまうと、もうそれ以上架台を押すことが出来ない。
そこで、前記した床の反力受けの位置を移動して、再度ジャッキを設置し、ジャッキで押す作業を繰り返すことが必要となる。
つまりは、架台が走行したり回転したりする距離が長ければ長いほど、繰り返し、反力受けの移動、ジャッキの設置し直し、ジャッキの伸長による走行又は回転を、幾度も繰り返す必要が生じるものである。
このようなジャッキの伸縮による走行・回転であると、それら作業手間が非常に多くなり、走行にかかる時間も非常に長いものであった。
【特許文献1】特開昭53−38052号公報
【特許文献2】特公昭44−5047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする課題は、極めて重い重量物の走行或いは回転において、その作業手間を極めて少なくして、小さな空間での正確な走行・反転を可能するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる重量物の走行又は回転方法は、
重量物を搭載する架台下に、ボール状転動部材を有する走行装置を配し、
前記架台と、架台から離隔した構造物等の所望位置とのうち、
いずれか一方に反力受け部材、
他方にセンターホールジャッキを取付け、
反力受け部材に引張材の一端を固定し、
当該引張材の他端をセンターホールジャッキに通し、
センターホールジャッキによって引張材を牽引することによって、前記架台を走行又は回転させるものである。
また、他の重量物の走行又は回転方法は、
前記架台の回転中心位置には、架台と構造物床等との間には、架台を位置決めするピンを配し、
前記ピンを中心に架台を回転させることを特徴とするものである。
更に、他の重量物の走行又は回転方法は、
前記反力受け部材と前記センターホールジャッキとは、共にピン軸支されて首振り可能として成り、
前記引張材の架台に対する角度を可変であることを特徴とするものである。
更に、他の重量物の走行又は回転方法は、
反力受け部材は構造物等側に、センターホールジャッキは架台側に取付けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の重量物の走行又は回転方法は、以上のような構成を有するため、以下の効果を得ることができる。
<a>重量物を搭載する架台下に、ボール状転動部材を有する走行装置を配し、前記架台と、架台から離隔した構造物等の所望位置との、いずれか一方に反力受け部材、他方にセンターホールジャッキを取付け、反力受け部材に引張材の一端を固定し、当該引張材の他端をセンターホールジャッキに通し、センターホールジャッキによって引張材を牽引することによって走行又は回転するものである。
従って、走行や回転に必要な長さの引張材を使用すれば、一度の設置で必要距離走行又は回転することができ、反力受けの設置し直しや、ジャッキの設置し直しの手間数が格段に減り、短時間で必要距離走行または回転できることになる。
<b>架台の回転中心位置に、架台と構造物床等との間にピンを取付けることで、回転中心のズレが生じず、計画通りに、より正確な位置での回転が可能となる。
従って、トンネル立抗のような極めてスペースが限られたような場所でも、ギリギリのクリアランスを正確に確保しての回転が可能である。
<c>反力受け部材とセンターホールジャッキをピン軸支することで、それらの首振りが可能となり、架台の進行や回転によって引張材との角度が変わっても、それに対応して引張材を両者の間の最短距離に真っ直ぐに保つことが可能となる。
したがって、進行や回転に応じて反力受け部材やセンターホールジャッキの設置位置の変更などの必要がない。
<d>反力受け部材は構造物等側に、センターホールジャッキは架台側に取付けることによって、反力受け部材の背後にスペースが無い場合でも、引張材は架台側のジャッキ後方に送り伸ばされ、その進行が妨げられることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<1>架台
図1及び図2において1は架台であって、平行な複数本のH型鋼を、90度角度を変えて上下に配して組んだものである。
この上には、掘進機のストッパーとなる受け部2が、同じくH型鋼によって組まれている。
【0009】
<2>走行装置
図3、図4及び図5に示すのは、重量物搭載走行装置3であって、枠部材4・5、ガイド部材6、球体7、突片8から成っている。
【0010】
<3>枠部材
天板部9の長手方向を、便宜的に前後方向、巾方向を左右方向として、以下説明する。
方形の天板部9の下面に、平行に配された左右枠部材4と、前後の枠部材5とによって、収納空間10が形成されている
実施例では、左右の枠部材4は、三枚が平行に起立して天板部9の下面に固定されている。
前後の枠部材5は、左右の枠部材4の前後端に、左右の枠部材4と交差する方向に固定されている。
前後の枠部材5の下端部は、左右の枠部材4の下端部よりも高い位置に位置している。
【0011】
<4>ガイド部材
左右の枠部材4・4の間の収納空間10は、前後方向に伸びる水平なガイド部材6によって上下段に分けられている。
ガイド部材6は、前後の枠部材5・5とは離隔しており、上下段の空間10は、前部と後部で繋がって、全体が環状に連続した空間となっている。
【0012】
<5>球体
左右の枠部材4・4の間、実施例では、三本の枠部材4・4・4の間に形成された隣り合うふたつの環状に連続した収納空間10・10に、ボール状転動部材である球体7が、それぞれ多数個収納されている。
球体7としては鋼球が採用されている。
球体7は、左右の枠部材4・4の間で、自在に転がり可能となっている。
【0013】
<6>突片
左右の枠部材4・4には、実施例では三本の枠部材4・4・4の、それぞれ隣り合う枠部材4と向き合う面の下端部に、前後方向に連続する突出するガイド突片8・8が形成されている。
ガイド突片8・8の最先端、つまりは隣り合うガイド突片8側へ突出した先端同士間の巾Tは、球体7の直径Dより小さい。(図5)
したがって、球体7は、ガイド突片8・8によって空間10から離脱するのを妨げられている。
また、枠部材4の前後端部は、前後端に行くにつれて徐々に上昇している。
つまりは、その下端部に突設されたガイド突片8・8も、前後端に行くにつれて徐々に上昇することになる。
【0014】
<7>走行装置の走行
走行装置3が走行する場合、進行方向前部では、球体7が収納空間10の上段から下段に降下する。
ガイド突片8が、降下してくる球体7をガイドして、ガイド部材6の下まで導き、その球体7がガイド部材6を介して荷重を支える。
走行装置の後方では、球体7がガイド突片8によってガイドされ、その前方の球体7に押し上げられて上昇し、上段の空間10へと移動して、走行装置3が前進する。
【0015】
<8>センターホールジャッキ
架台1側に、センターホールジャッキ13を取り付ける。
センターホールジャッキ13は、架台1の四隅に回転可能なブラケット14を取付けて、そのブラケット14に設置してある。
ブラケット14は、固定部15と、その固定部15に対して垂直なピン16によって水平面上を首振り可能な取付部17から成っており、その取付部17にセンターホールジャッキ13を設置することで、センターホールジャッキ13の首振りが可能となる。(図6,図7)
センターホールジャッキ13は、中心を貫通する孔を有しており、この孔に通した引張材を油圧などによって牽引可能なジャッキである。
【0016】
<9>反力受け部材
反力受け部材18は、立抗などの構造物に固定可能な部材であって、構造物側に固定する固定部19と、この固定部19にピン20によって軸支された連結部21から成っている。
固定部19は、溶接などによって立抗などの構造物に固定し、連結部21には、ナット11によって引張材であるPC鋼棒26を連結可能である。(図8,図9)
連結部21は、垂直なピン20によって連結されているため、固定部19に対して水平な平面上を回転可能に取付けられていることになる。
以上のように、前記センターホールジャッキ13と反力受け部材18の連結部21は、水平な平面上を回転可能となっているが、反力受け部材18を取付ける位置が架台1よりも高い位置に位置する場合には、両者は垂直面上を回転して首振り可能にすることも考えられる。
【0017】
<10>ピン
架台1を、構造物の床面にピン22によって位置決めするために、ピン孔を有する上部ピンボックス23と、下部ピンボックス24を使用し、この両者にピン22を通す。
上部ピンボックス23は架台1の下面に溶接固定し、下部ピンボックス24は、立抗25の床面上に敷いた鉄板27の上に溶接固定する。(図10,図11)
両者のピン孔にピン22を通して、架台1の回転中心が位置決めされる。
【0018】
<11>走行
トンネルAを掘削してきたシールド掘進機Cが立抗25内に到達し、この立抗25内で走行し、方向を転換し、トンネルBを掘進するために発進するまでを説明する。
図12は、トンネルAを掘削してきたシールド掘進機Cが立抗25内にて架台1に載せられた状態である。
図13において、架台1をジャッキによって浮かせ、架台1の下に走行装置3を設置する。
走行装置3は、例えば三台を並列に並べて一体に固定し、その三台固定したものを、架台1の四つの隅角部近くにそれぞれ配置する。
図13では、架台1は立抗25内でトンネルAの出口前からトンネルBの入口前へ向けて直線上を走行するため、走行装置3の前後方向が走行方向と平行となるように配置する。
架台1の四隅にはブラケット14が固定され、このブラケット14のうち、立抗25の反対側壁面側の二個のブラケット14の取付部17に、センターホールジャッキ13が取付けられている。
立抗25の反対側壁面近くには、反力受け部材18・18が固定され、反力受け部材18にはそれぞれ引張材であるPC鋼棒26の端部がナット11によって固定されている。
PC鋼棒26の他方の端部は、前記センターホールジャッキ13の中心の孔に通してある。
以上の状態で、センターホールジャッキ13・13を駆動して、PC鋼棒26を牽引することにより、走行装置3の上に載った架台1が、トンネルBの入口方向へ走行する。
【0019】
<12>回転
シールド掘進機Cを、トンネルBの入口直前まで到達させてしまうと、その後シールド掘進機Cが立抗25の壁面に当って回転不能となるため、シールド掘進機Cはそれ以前で停止させ、その場所を回転位置とする。
架台1が所定の回転位置まで着たら、架台1の回転中心の下面に上部ピンボックス23を溶接し、立抗25の床の上に敷いた鉄板27の上に下部ピンボックス24を溶接する。
上部ピンボックス23と下部ピンボックス24のピン孔にピン22を通して、架台1の回転中心を位置決めする。
走行装置3の前後方向、つまりは球体7が移動する方向を、架台1の隅角の二辺に対して交差する方向となるよう、それぞれ向きを変える。
四隅のブラケット14のうち、任意のブラケット14に取付けたセンターホールジャッキ13と、立抗25の壁際に固定した反力受け部材18間にPC鋼棒26を掛け渡す。
このときPC鋼棒26は、架台1の回転対して、その円周への接線と近似する方向に向くように配置する。
この状態でジャッキ13によってPC鋼棒26を牽引すると、架台1が回転する。
実施例では、回転をスムーズに行わせるように、回転中心に対して点対象となる位置にあるふたつのジャッキ13・13によって回転力を得ている。
図14〜図18に示すように、架台1が或る程度回転した後、別個のジャッキ13と反力受け部材18との間にPC鋼棒26を掛け渡してジャッキ13を作動し、更に回転させる。
このような作動を少しづつ繰り返して、シールド掘進機Cが180度反転するまで回転させる。
【0020】
<13>位置の調整
シールド掘進機Cは、前記したようにトンネルBの入口直前まで到達していない。
ピン22、上部ピンボックス23、下部ピンボックス24を撤去する。
走行装置3を回転して、その前後方向を、架台1の前進方向と同じに向ける。
図19・図20に示すように、立抗25の壁際に固定した反力受け部材18と、その反力受け部材18と向き合うセンターホールジャッキ13との間にPC鋼棒26を掛け渡し、ジャッキ13を作動して、トンネルB入口前まで、その位置を調整する。
【0021】
<14>シールド掘進機の発進
PC鋼棒26、ジャッキ13、ブラケット14、反力受け部材18を取り外し、架台1の下や、進行方向の後部側にコマ材を噛ませて、シールド掘進機Cを、トンネルB掘進のために発進させる。(図21)
また、走行装置3は、その前後方向に対して45度斜めとなる方向へも、充分に走行可能であって、架台2の前後方向へ自在に走行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】シールド掘進機を載せた架台の回転状態の説明図
【図2】その正面図
【図3】走行装置の斜視図
【図4】走行装置の縦断面図
【図5】走行装置の断面図
【図6】センターホールジャッキを取付けたブラケットの平面図
【図7】図6の側面図
【図8】反力受け部材の分解斜視図
【図9】反力受け部材の斜視図
【図10】上下ピンボックスとピンの斜視図
【図11】上下ピンボックスの断面図
【図12】シールド掘進機が立抗内に到達した状態の平面図
【図13】シールド掘進機の走行前の平面図
【図14】シールド掘進機の回転前の平面図
【図15】シールド掘進機の回転状態の平面図
【図16】シールド掘進機の回転状態の平面図
【図17】シールド掘進機の回転状態の平面図
【図18】シールド掘進機の回転終了状態の平面図
【図19】シールド掘進機の位置調整前の平面図
【図20】シールド掘進機の位置調整後の平面図
【図21】シールド掘進機の発進前の平面図
【符号の説明】
【0023】
A:トンネル
B:トンネル
C:シールド掘進機
1:架台
3:走行装置
7:球体
13:センターホールジャッキ
18:反力受け部材
22:ピン
25:立抗
26:PC鋼棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量物を搭載する架台下に、ボール状転動部材を有する走行装置を配し、
前記架台と、架台から離隔した構造物等の所望位置とのうち、
いずれか一方に反力受け部材、
他方にセンターホールジャッキを取付け、
反力受け部材に引張材の一端を固定し、
当該引張材の他端をセンターホールジャッキに通し、
センターホールジャッキによって引張材を牽引することによって、前記架台を走行又は回転させる重量物の走行又は回転方法。
【請求項2】
前記架台の回転中心位置には、架台と構造物床等との間には、架台を位置決めするピンを配し、
前記ピンを中心に架台を回転させることを特徴とする
請求項1に記載の重量物の走行又は回転方法。
【請求項3】
前記反力受け部材と前記センターホールジャッキとは、共にピン軸支されて首振り可能として成り、
前記引張材の架台に対する角度を可変であることを特徴とする
請求項1又は2項に記載の重量物の走行又は回転方法。
【請求項4】
反力受け部材は構造物等側に、センターホールジャッキは架台側に取付けたことを特徴とする
請求項1、2、又は3のいずれか1項に記載の重量物の走行又は回転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−79411(P2009−79411A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249179(P2007−249179)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(503395944)株式会社浅井 (2)
【Fターム(参考)】