説明

重量物昇降装置

【課題】 数百トンの重量物を長ストローク上げ下げでき、且つその昇降動作中及び動作停止中に水平力が作用しても安全に昇降動作することが出来る昇降装置を提供する。
【解決手段】 重量物を接地状態の昇降手段で上下昇降する重量物昇降装置であって、一端が接地され他端側が鉛直方向に伸縮して重量物を上げ下げする昇降部A1と、その昇降部A1の昇降動作中及び昇降動作停止時、該昇降部に作用する水平力に抗して昇降部の転倒を防止する転倒防止手段A2を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁等の重量物を昇降する昇降装置に関し、更に詳しくは昇降動作中及び動作停止時に昇降部に作用する水平力に対抗して転倒を防止する転倒防止手段を備えた重量物昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
重量物を上げ下げする昇降装置として、重量物を載承支持して昇降するものにジャッキ装置がある。
そのジャッキ装置は、一般的に油圧式ジャッキで構成され、ロッドの伸長によって重量物を上げ下げし得るように構成されている。
ところで、この種ジャッキ装置には、重量物を載承することによる鉛直荷重の他に、地震や風(横風)などの水平力(引張力)が作用する。前者の鉛直荷重はそのジャッキ装置の能力(定格荷重)に相当し、後者の水平力に対抗する力は一般的に前記能力の20〜30%が求められている。
【0003】
しかして、重量物を上げ下げする昇降装置の能力が200〜300トン(t)、ストロークを3000mmとした場合、耐水平力の能力は40トン〜90トンとなるが、このような能力を備えたジャッキ装置を構成しようとした場合、シリンダやピストンロッドの外径は非常に大きなものとなり、単独で構成することは殆ど不可能であり、仮に製作できたとしてもこれを現場に搬送し、設置するための運搬手段や設置手段が必要となるが、これ等の製作もほとんど不可能である。
【0004】
能力(鉛直荷重)については複数のジャッキ装置を集合することで対応できるが、それらジャッキ装置は一般的にストロークが200〜300mmと短く、耐水平力も能力の5〜10%程度であり、ストロークが約10倍となった場合は、耐水平力は勿論のこと鉛直荷重に対しても耐えられず、長ストロークが要求される昇降装置には全く使用できないものである。
【0005】
しかして、重量物等を荷台に載せて昇降するジャッキ装置が開発され、提案されている。そのジャッキ装置は、基台と荷台との間に荷台昇降用シリンダを配設し、更に基台と荷台の間に一対の2つ折れリンク機構を配設し、両リンク機構のリンク棒間を横梁で結合し、横梁と基台との間に、2つ折れリンク機構の開度を調整するリンクシリンダを設けたものである(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
そして、上記ジャッキ装置は上記構成により、昇降作動の間、各荷台昇降シリンダは荷台上の積載物の垂直方向の荷重を、2つ折れリンク機構は幅方向の横荷重を受け持ち、しかも2つ折れリンク機構のリンク棒間を横梁で結合しているから、横荷重に対する剛性を高くできるとしている。
【0007】
しかしながら、横荷重に対する剛性が向上される方向は、リンクシリンダが伸縮する方向のみで、それと直交する方向の横荷重に対しては剛性の向上は期待できない。尚、前記2つ折れリンク機構を直交する二方向に配置することも考えられるが、該リンク機構を交差して配置することは構造的に不可能である。
【0008】
【特許文献1】特開2000−289994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記した従来技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、数百トンの重量物を長ストローク上げ下げでき、且つその昇降動作中及び動作停止中に水平力が作用しても安全に昇降動作することが出来る昇降装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する為に本発明が講じた技術的手段は、重量物を接地状態の昇降手段で上下昇降する重量物昇降装置であって、一端が接地され他端側が鉛直方向に伸縮して重量物を上げ下げする昇降手段を備えた昇降部と、その昇降部の昇降動作に追従して伸長/収縮する蛇腹状の転倒防止手段を設けたことを特徴とする(請求項1)。
上記昇降手段としては、流体圧(水叉は空気)、油圧等で作動するジャッキが好適で、昇降のストローク(能力)に応じて多段伸長型を選択使用する。
【0011】
上記手段によれば、昇降部の昇降動作中及び昇降動作の停止中、昇降部に作用する水平力に対して常に転倒防止手段が対抗するため、重量物の昇降動作を安全に行うことができる。
【0012】
そして、上記昇降部は複数の昇降手段と、その複数の昇降手段の基部相互を連結する下枠体と、前記複数の昇降手段の伸縮する作動部相互を連結する上枠体で構成し、その下枠体と上枠体とを前記転倒防止手段で連結する(請求項2)。
上記昇降部を構成する下枠体と上枠体の形状は、平面角形(例えば、四角形、多角形等)、或いは円形、楕円形等、何れでもよい。
上記手段によれば、複数の昇降手段が同期して作動することで上枠体(荷台)は水平状体で昇降し、上枠体に載承した重量物を安全に昇降できる。そして、上枠体と下枠体とが転倒防止手段で連結されている為、昇降動作に追従して該転倒防止手段も伸長/収縮し、昇降動作中及び昇降動作の停止中に水平力が作用しても前記転倒防止手段が対抗し、昇降装置が転倒するのを確実に防止する。
【0013】
上記転倒防止手段は、平板叉は矩形状の枠体をヒンジ連結によって蛇腹状に連結構成され、それらが前記昇降部を構成する下枠体と上枠体とに亘って架設される(請求項3)。
平板を蛇腹状に連結して構成する場合、平板には水平力(風)が通り抜ける窓孔を開設すると有効である。
叉、上記の蛇腹状の伸長/収縮する転倒防止手段は、昇降手段の伸縮動作に追従して上枠体(作用点側)に連結された側から展開伸長されるが、該転倒防止手段の展開伸長は構成する平板または枠体の全体が同時に均一に展開伸長するように構成してもよい。
更に、転倒防止手段は、パイプ叉は棒杆を簾状にヒンジ連結によって蛇腹状に構成してもよい(請求項4)。
そして、前記昇降部を構成する下枠体と上枠体を平面矩形状とし、下枠体と上枠体との間に昇降手段(ジャッキ)を平面矩形状に配置し、その昇降手段で区画される4周面に夫々前記転倒防止手段を配置してもよい(請求項5)。
【0014】
上記手段によれば、平面略矩形状をした昇降部の4面にはそれぞれ転倒防止手段を配置しているため、昇降装置のいずれの面に水平力が作用しても、その水平力が作用する方向と同方向に、平板或いはパイプ、棒杆の長手方向叉は軸芯方向が向いた転倒防止手段が対抗して昇降装置が転倒するのを防止する。即ち、昇降装置における水平力が作用する面と直交する面に配置した転倒防止手段が水平力に対応し、昇降装置が転倒するのを防止し、鉛直起立状態に保持する。従って、安全に昇降作業を行うことが出来る。
【0015】
更に、前記昇降手段を多段伸長ジャッキで構成することができる(請求項6)。この多段伸長ジャッキは、能力の異なる複数のジャッキが1本物状に順次収納されているもの(実施例で図示するもの)、或いは最下段を複数(例えば4台)のジャッキで構成し、その最下段のジャッキのロッド相互をフレームで連結し、そのフレームに次の段を構成する複数(例えば4台)のジャッキの基部を固定して鉛直に起立し、そのジャッキのロッド相互を最下段同様フレームで連結し、更に次の段を構成する複数のジャッキを前記フレームに鉛直に起立固定する階段状の形態等が挙げられる。その場合は、昇降ストロークを大きく設定することができる。それにより、重量物を載承して大きいストローク昇降できる昇降装置を構成できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の重量物昇降装置は請求項1、2記載の構成により、重量物を載承して昇降動作する最中、或いは重量物を載承して所定高さに停止する時、該装置に水平力が作用しても転倒防止手段が常に対応する為、装置が水平力を受けて転倒するようなことは無く、安定して昇降動作を行うことができる。
【0017】
叉、請求項3、4記載の構成により、水平力に対抗する転倒防止手段を簡単に構成することができる。しかも、転倒防止手段の展開伸長/折畳み収縮は、昇降部における上枠体の上下動作で行われる為、別途、伸縮動力源を必要とせず、安価に製作することができる。
更に、請求項5記載の構成により、昇降装置のいずれの面に水平力が作用しても、その水平力が作用する面と直交する面に配置した転倒防止手段が対応して昇降装置を鉛直起立状態に保持する。従って、安全に昇降作業を行うことが出来る。
また、請求項6記載の構成により、大きいストロークの昇降装置を構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る重量物昇降装置の実施の一例を図面に基づいて説明する。
図1は重量物昇降装置の全体を示す外観図で、重量物昇降装置Aは、4本の昇降手段1と、その4本の昇降手段1の基部側を連結する下枠体2と、4本の昇降手段1の伸縮する作動部相互を連結する上枠体3とからなる昇降部A1と、その昇降部A1の昇降動作中及び昇降動作停止時、該昇降部A1に作用する水平力に抗して昇降部A1の転倒を防止する転倒防止手段A2とで構成されている。
【0019】
昇降部A1を構成する4本の昇降手段1は、油圧式の多段伸長ジャッキ(図示は3段伸長ジャッキ)で構成され、その昇降手段1は下枠体2と上枠体3との間に亘って平面略矩形状に配置取り付けられている。
【0020】
上記昇降手段1の基部相互を連結する下枠体2は、金属製型材を用いて平面視矩形状に形成され、その矩形の長辺における角部近傍位置に前記昇降手段1の基部を嵌合し得る取付孔4が開設され、その取付孔4に昇降手段1を構成する多段伸長ジャッキが嵌合されて下枠体2と一体化されている。尚、下枠体2に対する昇降手段1の固定は、多段伸長ジャッキのシリンダ外周にフランジを突出形成し、そのフランジを前記取付孔4の周囲に起立固定した保持枠5にボルト・ナット6で締着固定されている。
【0021】
昇降手段1の伸縮する作動部相互を連結する上枠体3は、複数の昇降手段の能力を合体すると共に重量物Wを載承する荷台を構成するもので、前記した下枠体2と同様、金属製型材を用いて平面視矩形状に形成され、その矩形の長辺に昇降手段1の伸縮するロッドの先端が連結固定されている。それにより、上枠体3は複数の昇降手段1が同期して作動することで水平状態を維持して上下昇降される。
【0022】
そして、上記昇降部A1を構成する平面視矩形状の下枠体2と、昇降手段1で上下昇降される上枠体3とに亘って、昇降部A1の昇降動作中及び昇降動作停止時に該昇降部に作用する水平力に対抗する転倒防止手段A2が設けられている。
その転倒防止手段A2は昇降部A1の上下昇降に追従して展開伸長/折畳み収縮する蛇腹状部材で構成されている。
その転倒防止手段A2は、矩形状の金属製枠で、上下の長辺に沿ってヒンジ連結用の蝶番構造を備えた転倒防止部材7を複数枚、軸8を用いて蛇腹状(葛篭折り)に連結して構成されている。そして、この転倒防止手段A2は、前記昇降部A1の周囲4面(上・下二面を除いた周囲四面)に配置されている。即ち、昇降部A1における前・後面及び左・右面に配置され、何れの方向の水平力に対しても対応できるようになっている。
【0023】
上記転倒防止手段A2を構成する矩形状の転倒防止部材7の大きさは、その構成から長辺の長さを昇降部A1を構成する上・下枠体の辺の長さ内に収まる長さとするのが好ましく、短辺の長さは短い方が昇降部A1の収縮時(例えば、図2の状態)における上・下枠体より水平方向外側への突出量を少なくできる。
叉、図示の場合は昇降部A1の周囲4面に、転倒防止手段A2をそれぞれ1個ずつ配置しているが、長辺の長さを短くしたものを各面に複数列(例えば、二列)配置するなど任意である。
更に、前記転倒防止手段A2を構成する矩形状の転倒防止部材は、矩形状の金属平板に周囲を除いて窓孔を開設して形成したもの、或いは金属製棒材叉はパイプ材を連結して矩形枠体に構成したもの等、何れでもよい。
【0024】
上記構成とした重量物昇降装置は、上枠体3の上に重量物を載置して昇降部A1の昇降手段1を同期して作動させることで、上枠体3は水平状態を維持して上昇し、重量物を所定高さへ持ち上げることができる、そして、前記上枠体3の上昇動作に追従して蛇腹状に折畳まれていた転倒防止手段A2が展開伸長し、水平力の向きと同じ方向に端面が対向配置された転倒防止手段A2が対抗して昇降装置が転倒するのを防止する。
転倒防止手段A2の蛇腹状に連結された転倒防止部材は、昇降部A1の昇降動作に伴って該昇降部A1の上枠体3に連結された最上位の転倒防止部材から順次鉛直方向に引き上げられ、蛇腹状に折畳まれていた転倒防止部材は上位側から直線状に展開する。そして、直線状に展開した転倒防止手段A2はその面が水平力に対して略直角に対向した場合でも、図示するように転倒防止部材7が枠体で構成され、該部材に開口が存在することで、水平力(風)は通り抜け、水平力の影響を軽減できる。叉、転倒防止部材の面が水平力の方向と同方向に向いた場合は、水平力に対して十分に対抗でき、昇降部A1が転倒するのを防止できる。
【0025】
上記転倒防止手段A2の取付形態は、図示した形態に限定されるものではなく、ある特定の方向の水平力に対して対応できるように設置するようにしてもよい。
叉、転倒防止手段A2は昇降部の各面内に配置する形態に限定されず、内部に配置してもよい。
【0026】
図5及び図6は転倒防止手段A2の他の例を示す図で、所定長さを有した金属製のパイプ叉は棒杆9の両側部に連結板10を熔接し、そうしたパイプ叉は棒杆9を平行に並べ、それらパイプ叉は棒杆9の連結板10相互をピン11でヒンジ連結して簾状に構成されている。そして、簾状をなした転倒防止手段A2は前示実施例と同様、下枠体2と上枠体3に連結される。
上記構成により、各パイプまたは棒杆9は、昇降部A1の昇降動作に伴って連結板10相互がピン11部分で回動屈曲して一直線状(平面形状)に展開伸長叉は折畳まれる。
尚、上記パイプまたは棒杆9を簾状に連結する連結板10は、各パイプまたは棒杆の両側にそれぞれ1枚ずつ熔接し、平行に並べたパイプまたは棒杆の隣同士の連結板をピンで連結してもよいが、水平力の作用により該連結板10が軸方向に曲げられることも考えられる。これを防止する為に図示するように、パイプまたは棒杆9に二枚の連結板10を熔接したもの用意し、これを一本おきに配列して一枚の連結板10を二枚の連結板10で挟持するようにすると有効である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る重量物昇降装置の実施の一例を示し、昇降手段が伸長した状態の正面図。
【図2】昇降手段が収縮した状態の正面図。
【図3】同拡大平面図。
【図4】同装置における転倒防止手段の配置形態を示す斜視図。
【図5】転倒防止手段の他の例を示し、昇降手段が伸長した状態の正面図。
【図6】昇降手段が収縮した状態の同正面図。
【符号の説明】
【0028】
A…重量物昇降装置 A1…昇降部
A2…転倒防止手段 1…昇降手段
2…下枠体 3…上枠体
7…転倒防止部材 8…軸
9…パイプまたは棒杆 10…連結板
11…ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量物を接地状態の昇降手段で上下昇降する重量物昇降装置であって、一端が接地され他端側が鉛直方向に伸縮して重量物を上げ下げする昇降部と、その昇降部の昇降動作に追従して伸長/収縮する蛇腹状の転倒防止手段を設け、該昇降部に作用する水平力に抗して昇降部の転倒を防止する転倒防止手段を備えたことを特徴とする重量物昇降装置。
【請求項2】
前記昇降部は、複数の昇降手段と、その複数の昇降手段の基部相互を連結する下枠体と、前記複数の昇降手段の伸縮する作動部相互を連結する上枠体で構成され、転倒防止手段が前記下枠体と上枠体とに亘って取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の重量物昇降装置。
【請求項3】
前記転倒防止手段は、平板叉は矩形状の枠体をヒンジ連結によって蛇腹状に構成され、それらが前記昇降部を構成する下枠体と上枠体とに亘って架設されていることを特徴とする請求項2記載の重量物昇降装置。
【請求項4】
前記転倒防止手段は、パイプ叉は棒杆を簾状にヒンジ連結によって蛇腹状に構成され、それらが前記昇降部を構成する下枠体と上枠体とに亘って架設されていることを特徴とする請求項2記載の重量物昇降装置。
【請求項5】
前記昇降部を構成する下枠体と上枠体が平面矩形状で、下枠体と上枠体との間に昇降手段を平面略矩形状に配置し、その昇降手段で区画される4周面にそれぞれ転倒防止手段を配置したことを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項記載の重量物昇降装置。
【請求項6】
前記昇降手段が、多段伸長ジャッキであることを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項記載の重量物昇降装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−96504(P2006−96504A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284089(P2004−284089)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(390032001)株式会社大滝油圧 (9)