説明

重金属固定剤

【課題】 飛灰の飛散を防止することができるとともに、飛灰中の重金属を確実に固定することができる重金属固定剤及び重金属固定化方法を提供すること。
【解決手段】 飛灰に、水、並びに、ポリアミンポリジチオカルボン酸等の重金属固定化能力のある化合物と、完全ケン化ポリビニルアルコール、セルロース誘導体等の粉塵防止剤、及び水を含有する重金属固定剤を添加して混練する飛灰中の重金属を固定化するに際し、重金属固定化能力のある化合物、及び粉塵防止剤が水に溶解している重金属固定剤を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛灰等に含まれる重金属の固定剤に関し、更に詳細には、重金属を固定すると同時に、処理飛灰等から発生する粉塵を抑制することのできる重金属固定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
飛灰等の粉塵防止方法として、例えば、界面活性剤と多価アルコールとを水溶液にして散布することを特徴とする粉塵防止方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、生分解性樹脂を水に乳化してなる、生分解性樹脂のエマルジョンよりなることを特徴とする粉塵発生防止剤(例えば、特許文献2参照)や、解膠した繊維及び分散媒を含有することを特徴とする粉塵防止剤(例えば、特許文献3参照)や、石膏及び/又は粘土と高分子ポリマーとを含む高粘性スラリーからなることを特徴とする粉塵発生防止(例えば、特許文献4参照)や、水硬性材料から発生する粉塵を防止する方法であって、あらかじめ添加剤に起泡剤を混合し、泡沫を形成したものを上記水硬性材料に添加することを特徴とする粉塵発生防止法(例えば、特許文献5参照)が知られている。
【0003】
一方、低毒防錆粉塵防止用組成物として、オキシ脂肪酸アミドポリオキシアルキレンエーテルと金属石鹸の混合物中に、ポリビニルアルコールを含有させた組成物が知られており、完全ケン化ポリビニルアルコールを用いることが記載されている(例えば、特許文献6参照)。また、イ草の処理方法において、ポリビニルアルコールやセルロース誘導体が染色土の粉塵飛散を抑制できることが知られている(例えば、特許文献7参照)。
【0004】
また、焼却施設の各種設備や焼却施設の解体時に発生する廃棄物に付着したダイオキシン類や重金属類等を含有する煤塵等の有害付着物の飛散を確実に防止するため、合成樹脂系、水溶性高分子系、吸水性樹脂等の合成高分子材料を含む飛散防止剤を作業前に焼却施設の各種設備又は塊状廃棄物に噴霧して表面に飛散防止膜を形成させることや、この飛散防止剤に重金属固定化剤を含有させても良いことが提案されている(例えば、特許文献8参照)。
【0005】
また、廃水や廃ガス、固体状廃棄物中の金属を効率よく捕集するため、金属捕集剤とポリビニルアルコール等の水溶性高分子を併用する金属捕集方法が提案されている(例えば、特許文献9参照)。また、土壌や固体状廃棄物の飛散防止剤として、分子内にエポキシ基を2個以上有する化合物(A)、該エポキシ基と反応する官能基を2個以上有する硬化剤(B)からなる飛散防止剤に重金属固定剤を含有できることが提案されている(例えば、特許文献10参照)。
【0006】
【特許文献1】特開昭56−67385号公報
【特許文献2】特開2000−159316号公報
【特許文献3】特開平5−140543号公報
【特許文献4】特開2003−126797号公報
【特許文献5】特開平8−73847号公報
【特許文献6】特開昭49−115086号公報
【特許文献7】特開昭56−144107号公報
【特許文献8】特開2003−1219号公報
【特許文献9】特開平9−227855号公報
【特許文献10】特開2002−200475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、重金属固定化剤を含有する焼却施設の付着物の飛散防止剤(特許文献8参照)は知られていたが、特許文献8には「[0028]このような重金属固定化剤の含有量は、少な過ぎると添加による十分な重金属類の溶出防止効果を得ることができず、多いと相対的に飛散防止膜形成のための合成高分子材料の含有量が少なくなり、飛散防止効果が低下することから、飛散防止剤中の全有効成分(合成高分子材料と重金属固定化剤との合計)に対する割合で0.1〜30重量%、特に0.5〜10重量%とするのが好ましい。」と記載されているように、焼却施設の付着物の飛散防止に重点がおかれ、飛灰の飛散防止効果を維持すると共に、飛灰中の重金属を確実に固定することができる重金属固定剤は知られていなかった。特許文献9及び10には、飛灰に対して、飛散防止剤と重金属固定剤を別々に添加した例しか具体的に記載されていない。本発明の課題は、飛灰の飛散を防止することができるとともに、飛灰中の重金属を確実に固定することができる重金属固定剤及び重金属固定化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、重金属固定化能力のある化合物、及び粉塵防止剤を水に均一に溶解させた重金属固定剤を用いて飛灰を処理することにより、重金属固定化能力のある化合物と、粉塵防止剤を別々に添加して飛灰を処理するよりも、飛灰の飛散防止効果が向上するとともに、飛灰中の重金属をより確実に固定することができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の重金属固定剤に関する。
(1)重金属固定化能力のある化合物、粉塵防止剤、及び水を含有する重金属固定剤であって、重金属固定化能力のある化合物、及び粉塵防止剤が水に溶解していることを特徴とする重金属固定剤。
(2)粉塵防止剤が、完全ケン化ポリビニルアルコール及びセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)に記載の重金属固定剤。
(3)完全ケン化ポリビニルアルコールが、親水性基を有する完全ケン化ポリビニルアルコールであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の重金属固定剤。
(4)セルロース誘導体が、カルボキシメチルセルロース又はその塩、カルボキシメチルエチルセルロース又はその塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の重金属固定剤。
(5)重金属固定化能力のある化合物が、ジチオカルバミン酸又はその塩であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の重金属固定剤。
(6)ジチオカルバミン酸又はその塩が、ポリアミンポリジチオカルボン酸又はその塩であることを特徴とする(5)に記載の重金属固定剤。
(7)重金属固定剤のpHが8以上であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の重金属固定剤。
(8)重金属が、飛灰中の重金属であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の重金属固定剤。
【0010】
また本発明は、以下の飛灰中の重金属固定化方法に関する。
(9)飛灰に、水、並びに、重金属固定化能力のある化合物、粉塵防止剤、及び水を含有する重金属固定剤を添加して混練する飛灰中の重金属固定化方法であって、重金属固定化能力のある化合物、及び粉塵防止剤が水に溶解していることを特徴とする飛灰中の重金属固定化方法。
(10)粉塵防止剤が、完全ケン化ポリビニルアルコール及びセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(9)に記載の飛灰中の重金属固定化方法。
(11)完全ケン化ポリビニルアルコールが、親水性基を有する完全ケン化ポリビニルアルコールであることを特徴とする(10)に記載の飛灰中の重金属固定化方法。
(12)セルロース誘導体が、カルボキシメチルセルロース又はその塩、カルボキシメチルエチルセルロース又はその塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(10)又は(11)に記載の飛灰中の重金属固定化方法。
(13)重金属固定化能力のある化合物が、ジチオカルバミン酸又はその塩であることを特徴とする(9)〜(12)のいずれかに記載の飛灰中の重金属固定化方法。
(14)ジチオカルバミン酸又はその塩が、ポリアミンポリジチオカルボン酸又はその塩であることを特徴とする(13)に記載の飛灰中の重金属固定化方法。
(15)重金属固定剤のpHが8以上であることを特徴とする(9)〜(14)のいずれかに記載の飛灰中の重金属固定化方法。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明の重金属固定剤を用いれば、飛灰の飛散を防止することができるとともに、飛灰中の重金属を確実に固定することができる。従って、1工程で有害物質の環境への放出を効果的に抑制することができるので、既存の設備をそのまま使用することができ、産業上の利用価値は高いといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の重金属固定剤に用いられる重金属固定化能力のある化合物としては、重金属と何らかの相互作用により重金属を水に不溶な形にできる化合物であって、かつ粉塵防止剤と共に水に溶解、好ましくは水に均一に溶解する化合物であれば特に限定されるものでなく、有機化合物であっても、無機化合物であってもかまわない。具体的には、苛性ソーダ等のアルカリ性物質;リン酸化合物;チオフェノール、エチルメルカプタン、メチルメルカプタン、低分子又は高分子有機ポリチオール化合物等の有機チオール化合物;一硫化ナトリウム、二硫化ナトリウム、三硫化ナトリウム、四硫化ナトリウム、五硫化ナトリウム等のポリ硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム等の硫化ナトリウム類;トリメルカプトトリアジン又はその塩類の少なくとも一種等の無機硫黄化合物;金属キレート化合物;などを例示することができ、特に、金属キレート化合物を好ましく例示することができる。
【0013】
金属キレート化合物としては、重金属とキレートを形成できる官能基を有する化合物であれば特に限定されず、そのようなキレート形成基としては、グリシン基、β−アラニン基、イミノジ酢酸基等のアミノ酸基;ジチオカルバミン酸基、ジチオカルボン酸基、ポリアミノ基、チオウレイド基、ホスホメチルアミノ基、カルボン酸基などを例示することができ、特にジチオカルバミン酸基を好ましく例示することができる。また、金属キレート化合物が、水溶性であるのが好ましく、その場合、キレート形成基も親水性基であるのが好ましい。
【0014】
ジチオカルバミン酸基を有する金属キレート化合物を形成するアミンは、特に限定されず、低分子アミン化合物、高分子アミン化合物、1級アミン化合物、2級アミン化合物、モノアミン化合物、ポリアミン化合物いずれも使用することができる。そのようなアミン化合物として、具体的には、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、n−ブチルアミン、ジ−(n−ブチル)アミン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、アニリン、1−ナフチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ジブチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、トリブチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、テトラブチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミン;フェニレンジアミン、o−、m−、p−キシレンジアミン、イミノビスプロピルアミン、モノメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、3,5−ジアミノクロロベンゼン、メラミン、1−アミノエチルピペラジン、ピペラジン、3,3’−ジクロロベンジジン、ジアミノフェニルエーテル、トリジン、m−トルイレンジアミン、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミンなどを例示することができ、これらは1種単独で、また2種以上混合して用いることもできる。
【0015】
ポリエチレンイミン誘導体等の高分子ポリアミンとしては、平均分子量5000以上、好ましくは平均分子量10000〜200000、特に好ましくは平均分子量20000〜150000であるのが好ましい。
【0016】
上記ポリアミン、ポリエチレンイミン(以下、ポリアミン、ポリエチレンイミンを総称してポリアミン類と呼ぶ場合がある。)はアルキル基、アシル基あるいはβ−ヒドロキシアルキル基をN−置換基として有していてもよい。上記N−置換アルキル基は炭素数2〜18のものが好ましく、N−置換アシル基は炭素数2〜30のものが好ましい。また、N−置換したβ−ヒドロキシアルキル基としては、アルキル基の炭素数が2〜35のものが好ましい。
【0017】
上記したジチオカルバミン酸基を有する金属キレート化合物のうち、特に、ポリアミンポリジチオカルボン酸化合物を好ましく例示することができる。また、これらのジチオカルバミン酸化合物等金属キレート化合物は、そのままでも使用することができるが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニア等のアミンとの塩として使用することもできる。
【0018】
また、上記例示した重金属固定化能力のある化合物は、1種単独で、また2種以上混合して用いることができる。
【0019】
ここで、重金属とは、鉛、クロム、カドミウム、砒素、セレン,水銀、銅、亜鉛、アルミニウム等を例示する事ができる。
【0020】
本発明に用いられる粉塵防止剤としては、粉塵の発生を抑制する効力のある薬剤であって、かつ重金属固定化能力のある化合物と共に水に溶解、好ましくは水に均一に溶解する化合物であれば特に制限されず、これら条件を満たす公知の粉塵防止剤を用いることができるが、ポリビニルアルコール及びセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。上記ポリビニルアルコールとしては、さらに完全ケン化品のポリビニルアルコールが好ましい。完全ケン化品であれば、特に製造メーカーは限定されない。この場合、完全ケン化品とは、ケン化度が、96.0%以上のものをいい、特に、ケン化度が98%以上のものが好ましい。また、ケン化度が所定の値であれば、水酸基の置換基は、アセチル基に限定されず、シリル基、他のアシル基であってもよく、特に親水性基を有するものを好ましく例示することができる。親水性基は、水と親和性の高い官能基であれば特に限定されず、具体的には下記に示す官能基を例示することができる。
【0021】
【化1】

上記式中、Yは、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基及びリン酸基から選ばれる少なくとも1種の極性基で変性された炭化水素基、又はカルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基及びリン酸基から選ばれる少なくとも1種の極性基を有する基で変性された炭化水素基を示す。
【0022】
上記親水基は、ポリビニルアルコール中に、どのような形で含まれていても構わないが、ポリビニルアルコールのケン化された水酸基の一部に置換基として有するのが好ましい。
【0023】
また、重合度は特に限定されないが、飛散防止効果の点において、重合度が300〜6000のものが好ましく、重合度が400〜4000のものがより好ましく、重合度が1000〜3000のものが特に好ましい。
【0024】
また、上記セルロース誘導体としては、水溶性セルロース誘導体であるのが好ましく、カルボキシメチルセルロース又はその塩、カルボキシメチルエチルセルロース又はその塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース等を好ましく例示することができる。これらは1種単独又は混合物として使用することができる。これらの中でも、飛散防止効果の点で、カルボキシメチルセルロースの塩が好ましく、カルボキシメチルセルロースナトリウムがより好ましい。
【0025】
また、セルロース誘導体の分子量は特に制限されないが、飛散防止効果の点において、分子量が、1×10〜1×10のものが好ましく、1×10〜5×10のものがより好ましく、2.5×10〜2×10のものが特に好ましい。
【0026】
また、セルロース誘導体のエーテル化度は特に制限されないが、飛散防止効果及び品質の安定性の面において、0.5〜2.6のものが好ましく、0.8〜2.3のものがより好ましく、1.0〜2.0のものが特に好ましい。ここでエーテル化度とは、セルロースのグルコース環単位当たり、アルコキシル基で置換された水酸基の平均個数を表す。
【0027】
その他の粉塵防止剤としては、特に限定されるわけではないが、アクリル酸、メタクリル酸、それらのエステル又はアクリルアミドを構成単位とするアクリル系重合体又はその加水分解物、並びにそれらの塩、キシリトール、ソルビトール、マルトール、マンニット、マルチトール、イノシトール、フィチン酸、等の糖アルコール、グリセリン、ジグリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポルグリセリン等の多価アルコール、トウモロコシ、小麦、馬鈴薯、タピオカ、タロイモ、サツマイモ、米等の生デンプンや、これらのα化デンプン、デキストリン、酸化デンプン、アルデヒド化デンプン、エステル化デンプン、エーテル化デンプン、カチオン化デンプン、架橋デンプン等の変性デンプン、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、等の界面活性剤、セルソルブ、ブチルセルソルブ、ブチルセルソルブアセテート、ブチルカルビトール、ブチルテレフタレート、プルラン、アラビアガム、デキストラン、キサンタンガム、ポリビニルピロリドン、タマリンドガム、ファーセルラン、デンプングリコール酸ナトリウム、カラギーナン、ポリεカプロラクトン、ポリアミド、ポリアミン、ポリイミン、カゼイン、ガラクトマンナン、アルギン酸及びその塩、等を挙げることができる。
【0028】
本発明の重金属固定剤は、上記した重金属固定化能力のある化合物、粉塵防止剤、及び水を含有する重金属固定剤であって、重金属固定化能力のある化合物、及び粉塵防止剤が水に溶解していることを特徴とする。水に溶解しているとは、例えば、室温や使用時に有効成分である重金属固定化能力のある化合物、及び粉塵防止剤が水溶液中で溶解していることを意味し、完全に溶解しておらず、若干の析出物が存在する場合も本発明に含まれるが、使用時において、目詰まり等の問題の発生防止や、重金属固定能及び飛散防止効果の低下防止の点で均一に溶解していることが好ましい。
【0029】
重金属固定化能力のある化合物と、粉塵防止剤の混合比は、重金属固定効果及び飛散防止効果が十分に得られれば特に限定されないが、飛灰の飛散を防止するとともに、飛灰中の重金属を確実に固定するため、重金属固定化能力のある化合物100重量部に対して、粉塵防止剤が0.01〜100重量部、好ましくは0.02〜50重量部、より好ましくは0.03〜20重量部、特に好ましくは0.5〜15重量部の範囲である。
【0030】
また、本発明の重金属固定剤は、pH8以上、さらにはpH10以上、中でもpH12以上で用いるのが好ましい。pH8以上では、重金属固定能力及び保存安定性が向上する。このpH領域で粉塵防止剤を用いる場合、粉塵防止剤として、完全ケン化ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体を用いると、水溶液中で均一に溶解しやすく、飛散防止効果に優れる点で好ましい。また、飛散防止効果も、重金属固定剤と共に水溶液として併用することにより向上する場合がある。
【0031】
また、本発明の重金属固定剤の粘度は、20℃で10〜1000CPSであることが好ましく、20〜600CPSであることがより好ましく、25〜300CPSであることが特に好ましい。
【0032】
本発明の重金属固定剤の水溶液中の重金属固定化能力のある化合物、及び粉塵防止剤の固形分濃度は特に限定されないが、10〜80重量%の範囲が好ましく、20〜70%の範囲がより好ましく、30〜60%の範囲が特に好ましい。
【0033】
本発明の重金属固定剤は、重金属を含有する固体状物質に対して使用することで重金属を固定するとともに、飛散防止効果をも有する。かかる重金属を含有する固体状物質としては、具体的には、焼却灰、鉱滓、土壌、汚泥等を好ましく例示することができる。焼却灰とは、飛灰と残灰とがあり、飛灰はゴミや産業廃棄物等の焼却に伴って発生する粉状の煤塵や、残灰処理における熔融炉から発生する煤塵を集塵したものであり、集塵方法により以下のように分類される。最も広く利用されている電気集塵法(EP法ともいう。)により集塵された飛灰をEP灰という。次に多い集塵法は遠心集塵法(サイクロン法)で、特にサイクロンを並列にして用いるマルチサイクロン法(MC法ともいう。)により集塵された飛灰をMC灰という。また洗浄集塵法(スクラバー法)による集塵灰、バッグフィルターを用いて集塵した集塵灰等である。これらの集塵法は単独の場合もあるが、2つの方法を併用することもあり(例えばMC法とEP法等)、本発明の重金属固定剤は、このようにして得られた飛灰も対象とすることができる。一方、残灰は、ゴミ焼却場及び産業廃棄物の焼却場等で、焼却後、焼却炉の残る灰であり、有害な重金属を含むものが対象となる。これらのなかでも、本発明の重金属固定剤は、焼却灰に対して好ましく用いることができる。
【0034】
本発明では、上記重金属固定剤を重金属を含有する固体状物質の表面に散布するだけでもよいが、重金属を含有する固体状物質に添加して混合及び/又は混練することが好ましい。この際、混合及び/又は混練作業を容易とするために、更に水を添加しても良い。
【0035】
以下、本発明を、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明の範囲は、実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
(1)重金属固定剤の調製−1
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40%、pH=12以上)と、完全ケン化ポリビニルアルコール(HP−H105、重合度500、分子量2万2千、ケン化度97.5〜99.0%、クラレ(株)社製)をそれぞれ7.5重量%、10.0重量%、12.5重量%、15.0重量%に調整した水溶液とを、重量比で1:1となるように混合して、重金属固定剤(No1〜4)を調製した。その外観をまとめて表1に示す。
(2)重金属固定剤の調製−2
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40%、pH=12以上)と、完全ケン化ポリビニルアルコール(AF−17、重合度1700、ケン化度98.0%、日本酢ビ・ポバール(株)社製)を7.5重量%に調整した水溶液とを重量比で1:1となるように混合して、重金属固定剤(No5)を調製し3日間放置したのち、その外観を観察した。その結果をまとめて表1に示す。
【0037】
【表1】

【実施例2】
【0038】
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40%、pH=12以上)と、完全ケン化ポリビニルアルコール(AF−17、重合度1700、ケン化度98.0%、日本酢ビ・ポバール(株)社製)を7.5重量%含有する水溶液とを重量比3:1で混合して重金属固定剤No6を調製した。消石灰により前処理されpHが12以上であるアルカリ性鉛含有ごみ焼却飛灰(Pb含有量:5600mg/kg)100重量部に対して、室温にて、水44重量部、重金属固定剤No6:4重量部を添加し、ポバートミキサーで十分に混練し、25℃で1日放置した。その後、環境庁告示第13号により、鉛の溶出試験を行った。その結果、鉛の溶出量は、0.02mg/Lであった。また、完全ケン化ポリビニルアルコールを用いない重金属固定剤3重量部を用いる以外、同様に行い、鉛の溶出試験を行った。その結果、0.04mg/Lであった。この結果、完全ケン化ポリビニルアルコールを用いることにより、重金属固定能力に影響がないことがわかった。
【実施例3】
【0039】
消石灰により前処理されpHが12以上であるアルカリ性鉛含有ごみ焼却飛灰(Pb含有量:5600mg/kg)100重量部に対して、室温にて、水30重量部、及びピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40%、pH12以上)と、表2に示す濃度及び種類の完全ケン化ポリビニルアルコールとを重量比3:1で混合して調製した重金属固定剤4重量部を添加し、ポバートミキサーで十分に混練した。その後、60℃で24時間加熱乾燥した。乾燥したものを粉砕し、メッシュ径が2mmの篩で分級し、粒径が2mm以下のものを試験試料とした。
【0040】
図1に示す分散度測定装置(ホソカワミクロン株式会社製:パウダテスタ)を用い、分散度を測定した。測定装置は、上下方向に同軸上に配置された上部ホッパー部1(内径50mm)、ガラス円筒部2(内径100mm、長さ340mm)及び円盤状ガラス板3(直径100mm)からなる。
【0041】
上記調製した試験試料10gを上部ホッパー部1からガラス円筒部2の頂部開口に自然落下させ、ガラス円筒部2の底部開口部から円盤状ガラス板3の上に落下した試料の重量を未飛散試料重量として測定し、下記計算式により分散度をもとめた。同一の試料につき5回測定を行い、最大と最小の値を除いた3回の値の平均値を分散度とした。その結果を表2にまとめて示す。尚、分散度の値が小さいほど、粉塵防止効果が大きいことを示す。
【0042】
【数1】

比較例1
完全ケン化ポリビニルアルコールを用いない以外は、実施例4と同様に試験試料を調製し、同様の方法で分散度を求めた。その結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【実施例4】
【0044】
(3)重金属固定剤の調製−3
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40%、pH=12以上)に、ヒドロキシプロピルセルロースの1%水溶液(品名:HPC−H、日本曹達(株)社製)、2%水溶液(品名:HPC−M、日本曹達(株)社製)、5%水溶液(品名:HPC−L、日本曹達(株)社製)又は10%水溶液(品名:HPC−SL、日本曹達(株)社製)のいずれかを、重量比で1:1となるように混合して重金属固定剤(No7〜10)を調製した。その外観をまとめて表3に示す。
【0045】
【表3】

【実施例5】
【0046】
消石灰により前処理されpHが12以上であるアルカリ性鉛含有ごみ焼却飛灰(Pb含有量:5600mg/kg)100重量部に対して、室温にて、水44重量部、実施例5で調製した重金属固定剤(No7〜10)4重量部を添加し、ポバートミキサーで十分に混練し、25℃で1日放置した。その後、環境庁告示第13号により、鉛の溶出試験を行った。その結果、鉛の溶出量は、それぞれ、No9添加:22mg/L、No10添加:20mg/L、No11添加:21mg/L、No12添加:20mg/Lであった。また、ヒドロキシプロピルセルロースを用いない重金属固定剤2重量部を用いる以外、同様に行い、鉛の溶出試験を行った。その結果、20mg/Lであった。この結果、ヒドロキシプロピルセルロースを用いることにより、重金属固定能力に影響がないことがわかった。
【実施例6】
【0047】
消石灰により前処理されpHが12以上であるアルカリ性鉛含有ごみ焼却飛灰(Pb含有量:5600mg/kg)100重量部に対して、室温にて、水30重量部;ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40%、pH12以上)を3重量部と、ヒドロキシプロピルセルロースの1%水溶液(品名:HPC−H、日本曹達(株)社製)、2%水溶液(品名:HPC−M、日本曹達(株)社製)、5%水溶液(品名:HPC−L、日本曹達(株)社製)又は10%水溶液(品名:HPC−SL、日本曹達(株)社製)のいずれか1重量部を、あらかじめ均一に混合した重金属固定剤(No11〜No14)4重量部;を添加し、ポバートミキサーで十分に混練した。その後、60℃で24時間加熱乾燥した。乾燥したものを粉砕し、メッシュ径が2mmの篩で分級し、粒径が2mm以下のものを試験試料とした。
【0048】
実施例3と同様にして分散度を測定した。その結果を表4に示す。
比較例2
ヒドロキシプロピルセルロースを用いない以外は、実施例6と同様に試験試料を調製し、同様の方法で分散度を求めた。その結果を表4に示す。
【0049】
【表4】

【実施例7】
【0050】
(4)重金属固定剤の調製−4
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40%、pH=12以上)に、カルボキシメチルセルロースナトリウムの2%水溶液(品名:CMC<1330>、ダイセル化学工業(株)社製)、1%水溶液(品名:CMC<1350>、分子量76万、ダイセル化学工業(株)社製)、0.5%水溶液(品名:CMC<1380>、分子量110万、ダイセル化学工業(株)社製)又は1.5%水溶液(品名:CMC<アーネストガム>、ダイセル化学工業(株)社製)のいずれかを、重量比で1:1となるように混合して重金属固定剤(No15〜18)を調製した。その外観をまとめて表5に示す。
【0051】
【表5】

【実施例8】
【0052】
消石灰により前処理されpHが12以上であるアルカリ性鉛含有ごみ焼却飛灰(Pb含有量:5600mg/kg)100重量部に対して、室温にて、水30重量部;ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40%、pH12以上)を3重量部と、カルボキシメチルセルロースナトリウムの2%水溶液(品名:CMC<1330>、ダイセル化学工業(株)社製)、1%水溶液(品名:CMC<1350>、分子量76万、ダイセル化学工業(株)社製)、0.5%水溶液(品名:CMC<1380>、分子量110万、ダイセル化学工業(株)社製)又は1.5%水溶液(品名:CMC<アーネストガム>、ダイセル化学工業(株)社製)のいずれか1重量部を、あらかじめ均一に混合した重金属固定剤(No19〜No22)4重量部;を添加し、ポバートミキサーで十分に混練した。その後、60℃で24時間加熱乾燥した。乾燥したものを粉砕し、メッシュ径が2mmの篩で分級し、粒径が2mm以下のものを試験試料とした。
【0053】
実施例3と同様にして分散度を測定した。その結果を表6に示す。
比較例3
カルボキシメチルセルロースナトリウムを用いない以外は、実施例8と同様に試験試料を調製し、同様の方法で分散度を求めた。その結果を表6に示す。
【0054】
【表6】

【実施例9】
【0055】
(5)重金属固定剤の調製−5
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40%、pH=12以上)に、ヒドロキシエチルセルロースの3%水溶液(品名:HEC(SP−400)、ダイセル化学工業(株)社製)、1%水溶液(品名:HEC(SP−600)、ダイセル化学工業(株)社製)、0.5%水溶液(品名:HEC(SP−900)、ダイセル化学工業(株)社製)又はカチオン化ヒドロキシエチルセルロースの2%水溶液(品名:ジェルナー(QH300)、ダイセル化学工業(株)社製)のいずれかを、重量比で1:1となるように混合して重金属固定剤(No23〜26)を調製した。その外観をまとめて表7に示す。
【0056】
【表7】

【実施例10】
【0057】
消石灰により前処理されpHが12以上であるアルカリ性鉛含有ごみ焼却飛灰(Pb含有量:5600mg/kg)100重量部に対して、室温にて、水30重量部;ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40%、pH12以上)を3重量部と、ヒドロキシエチルセルロースの3%水溶液(品名:HEC(SP−400)、ダイセル化学工業(株)社製)、1%水溶液(品名:HEC(SP−600)、ダイセル化学工業(株)社製)、0.5%水溶液(品名:HEC(SP−900)、ダイセル化学工業(株)社製)又はカチオン化ヒドロキシエチルセルロースの2%水溶液(品名:ジェルナー(QH300)、ダイセル化学工業(株)社製)のいずれか1重量部を、あらかじめ均一に混合した重金属固定剤(No27〜No30)4重量部;を添加し、ポバートミキサーで十分に混練した。その後、60℃で24時間加熱乾燥した。乾燥したものを粉砕し、メッシュ径が2mmの篩で分級し、粒径が2mm以下のものを試験試料とした。
【0058】
実施例3と同様にして分散度を測定した。その結果を表8に示す。
比較例4
ヒドロキシエチルセルロースを用いない以外は、実施例10と同様に試験試料を調製し、同様の方法で分散度を求めた。その結果を表8に示す。
【0059】
【表8】

【実施例11】
【0060】
(6)重金属固定剤の調製−6
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40%、pH=12以上)に、メチルセルロースの2%水溶液(品名:MC(SM−400)、信越化学工業(株)社製)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの4%水溶液(品名:HPMC(65SH−50)、信越化学工業(株)社製)、2%水溶液(品名:HPMC(65SH−400)、信越化学工業(株)社製)、1%水溶液(品名:HPMC(65SH−4000)、信越化学工業(株)社製)又は1%水溶液(品名:HPMC(60SH−4000)、信越化学工業(株)社製)のいずれかを、重量比で1:1となるように混合して重金属固定剤(No31〜35)を調製した。その外観をまとめて表9に示す。
【0061】
【表9】

【実施例12】
【0062】
消石灰により前処理されpHが12以上であるアルカリ性鉛含有ごみ焼却飛灰(Pb含有量:5600mg/kg)100重量部に対して、室温にて、水30重量部;ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40%、pH12以上)を3重量部と、メチルセルロースの2%水溶液(品名:MC(SM−400)、信越化学工業(株)社製)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース4%水溶液(品名:HPMC(65SH−50)、信越化学工業(株)社製)、2%水溶液(品名:HPMC(65SH−400)、信越化学工業(株)社製)、1%水溶液(品名:HPMC(65SH−4000)、信越化学工業(株)社製)又は1%水溶液(品名:HPMC(60SH−4000)、信越化学工業(株)社製)のいずれか1重量部を、あらかじめ均一に混合した重金属固定剤(No36〜No40)4重量部;を添加し、ポバートミキサーで十分に混練した。その後、60℃で24時間加熱乾燥した。乾燥したものを粉砕し、メッシュ径が2mmの篩で分級し、粒径が2mm以下のものを試験試料とした。
【0063】
実施例3と同様にして分散度を測定した。その結果を表10に示す。
比較例5
セルロース誘導体を用いない以外は、実施例12と同様に試験試料を調製し、同様の方法で分散度を求めた。その結果を表10に示す。
【0064】
【表10】

【実施例13】
【0065】
消石灰により前処理されpHが12以上であるアルカリ性鉛含有ごみ焼却飛灰(Pb含有量:5600mg/kg)100重量部に対して、室温にて、水44重量部、実施例7、9、11で調製した重金属固定剤(No16、No18、No25、No26、No31、No33、No35)4重量部を添加し、ポバートミキサーで十分に混練し、25℃で1日放置した。その後、環境庁告示第13号により、鉛の溶出試験を行った。その結果、鉛の溶出量は、それぞれNo16添加:18mg/L、No18添加:18mg/L、No25添加:17mg/L、No26添加:19mg/L、No31添加:18mg/L、No33添加:18mg/L、No35添加:18mg/Lであった。また、セルロース誘導体を用いない重金属固定剤2重量部を用いる以外、同様に行い、鉛の溶出試験を行った。その結果、18mg/Lであった。この結果、セルロース誘導体を用いることにより、重金属固定能力に影響がないことがわかった。
【実施例14】
【0066】
(7)重金属固定剤の調製−7
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40.5%、pH12以上)87.5重量部に、カルボキシメチルセルロースナトリウム(品名:CMC(1350)ダイセル化学工業(株)社製)1重量部、蒸留水9.5重量部を混合し、均一透明の重金属固定剤(No.41)を調製した。このNo.41の20℃粘度は310cpsであった。
【実施例15】
【0067】
消石灰により前処理されpHが12以上であるアルカリ性鉛含有ごみ焼却飛灰(Pb含有量:870mg/kg)100重量部に対して、室温にて、重金属固定剤(No.41)を1重量部、水25重量部を添加し、ポバートミキサーで3分30秒間混練りした。その後、60℃で15時間加熱乾燥した。乾燥したものを粉砕し、メッシュ径が2mmの篩で分級し、粒径が2mm以下のものを試験試料とした。実施例3と同様にして分散度を測定した。この結果を表11に示す。
【0068】
比較例6
消石灰により前処理されpHが12以上であるアルカリ性鉛含有ごみ焼却飛灰(Pb含有量:870mg/kg)100重量部に対して、室温にて、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40.5%、pH12以上)2.625重量部、カルボキシメチルセルロースナトリウム(品名:CMC(1350)ダイセル化学工業(株)社製)0.03重量部、水25.345重量部を添加し、ポバートミキサーで3分30秒間混練りした。その後、60℃で15時間加熱乾燥した。乾燥したものを粉砕し、メッシュ径が2mmの篩で分級し、粒径が2mm以下のものを試験試料とした。実施例3と同様に分散度を測定した。この結果を表11に示す。
【0069】
比較例7
比較例6でカルボキシメチルセルロースナトリウム(品名:CMC(1350)ダイセル化学工業(株)社製)0.03重量部を用いない以外は、比較例6と同様に試験試料を調製し、実施例3と同様に分散度を測定した。この結果を表11に示す。
【0070】
【表11】

【実施例16】
【0071】
(8)重金属固定剤の調製−8
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40.5%、pH12以上)84.0重量部に、完全ケン化ポリビニルアルコール(品名:HP−F117、重合度1700、分子量7万6千、クラレ(株)社製)の20重量%水溶液16.0重量部を混合し、均一透明の重金属固定剤(No.42)を調製した。このNo.42の20℃粘度は50cpsであった。
【実施例17】
【0072】
消石灰により前処理されpHが12以上であるアルカリ性鉛含有ごみ焼却飛灰(Pb含有量:870mg/kg)100重量部に対して、室温にて、重金属固定剤(No.42)を3重量部、水25重量部を添加し、ポバートミキサーで3分30秒間混練りした。その後、60℃で15時間加熱乾燥した。乾燥したものを粉砕し、メッシュ径が2mmの篩で分級し、粒径が2mm以下のものを試験試料とした。実施例3と同様に分散度を測定した。この結果を表12に示す。
比較例8
消石灰により前処理されpHが12以上であるアルカリ性鉛含有ごみ焼却飛灰(Pb含有量:870mg/kg)100重量部に対して、室温にて、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40.5%、pH12以上)2.52重量部、完全ケン化ポリビニルアルコール(品名:HP−F117、クラレ(株)社製)0.10重量部、水25.38重量部を添加し、ポバートミキサーで3分30秒間混練りした。その後、60℃で15時間加熱乾燥した。乾燥したものを粉砕し、メッシュ径が2mmの篩で分級し、粒径が2mm以下のものを試験試料とした。実施例3と同様に分散度を測定した。この結果を表12に示す。
比較例9
比較例8で完全ケン化ポリビニルアルコール(品名:HP−F117、クラレ(株)社製)0.10重量部を用いない以外は、比較例8と同様に試験試料を調製し、実施例3と同様に分散度を測定した。この結果を表12に示す。
【0073】
【表12】

【実施例18】
【0074】
(9)重金属固定剤の調製−9
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40.5%、pH12以上)84.0重量部に、完全ケン化ポリビニルアルコール(品名:PVA−110、重合度1000、クラレ(株)社製)の31重量%水溶液16.0重量部を混合し、均一透明の重金属固定剤(No.43)を調製した。このNo.43の20℃粘度は55cpsであった。
【実施例19】
【0075】
消石灰により前処理されpHが12以上であるアルカリ性鉛含有ごみ焼却飛灰(Pb含有量:870mg/kg)100重量部に対して、室温にて、重金属固定剤(No.43)を3重量部、水25重量部を添加し、ポバートミキサーで3分30秒間混練りした。その後、60℃で15時間加熱乾燥した。乾燥したものを粉砕し、メッシュ径が2mmの篩で分級し、粒径が2mm以下のものを試験試料とした。実施例3と同様に分散度を測定した。この結果を表13に示す。
比較例10
消石灰により前処理されpHが12以上であるアルカリ性鉛含有ごみ焼却飛灰(Pb含有量:870mg/kg)100重量部に対して、室温にて、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム塩水溶液(固形分含有量40.5%、pH12以上)2.52重量部、完全ケン化ポリビニルアルコール(品名:PVA−110、クラレ(株)社製)0.15重量部、水25.33重量部を添加し、ポバートミキサーで3分30秒間混練りした。その後、60℃で15時間加熱乾燥した。乾燥したものを粉砕し、メッシュ径が2mmの篩で分級し、粒径が2mm以下のものを試験試料とした。実施例3と同様に分散度を測定した。この結果を表13に示す。
【0076】
【表13】

【0077】
表11〜13の結果から重金属固定化能力のある化合物と粉塵防止剤を別々に飛灰に添加するよりも、重金属固定化能力のある化合物と粉塵防止剤とをあらかじめ水に均一に溶解させた重金属固定剤を使用したほうが明らかに飛散防止効果に優れることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例3において用いた分散度測定装置の概略図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属固定化能力のある化合物、粉塵防止剤、及び水を含有する重金属固定剤であって、重金属固定化能力のある化合物、及び粉塵防止剤が水に溶解していることを特徴とする重金属固定剤。
【請求項2】
粉塵防止剤が、完全ケン化ポリビニルアルコール及びセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の重金属固定剤。
【請求項3】
完全ケン化ポリビニルアルコールが、親水性基を有する完全ケン化ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1又は2に記載の重金属固定剤。
【請求項4】
セルロース誘導体が、カルボキシメチルセルロース又はその塩、カルボキシメチルエチルセルロース又はその塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の重金属固定剤。
【請求項5】
重金属固定化能力のある化合物が、ジチオカルバミン酸又はその塩であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の重金属固定剤。
【請求項6】
ジチオカルバミン酸又はその塩が、ポリアミンポリジチオカルボン酸又はその塩であることを特徴とする請求項5に記載の重金属固定剤。
【請求項7】
重金属固定剤のpHが8以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の重金属固定剤。
【請求項8】
重金属が、飛灰中の重金属であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の重金属固定剤。
【請求項9】
飛灰に、水、並びに、重金属固定化能力のある化合物、粉塵防止剤、及び水を含有する重金属固定剤を添加して混合及び/又は混練する飛灰中の重金属固定化方法であって、重金属固定化能力のある化合物、及び粉塵防止剤が水に溶解していることを特徴とする飛灰中の重金属固定化方法。
【請求項10】
粉塵防止剤が、完全ケン化ポリビニルアルコール及びセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項9に記載の飛灰中の重金属固定化方法。
【請求項11】
完全ケン化ポリビニルアルコールが、親水性基を有する完全ケン化ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項10に記載の飛灰中の重金属固定化方法。
【請求項12】
セルロース誘導体が、カルボキシメチルセルロース又はその塩、カルボキシメチルエチルセルロース又はその塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項10又は11に記載の飛灰中の重金属固定化方法。
【請求項13】
重金属固定化能力のある化合物が、ジチオカルバミン酸又はその塩であることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の飛灰中の重金属固定化方法。
【請求項14】
ジチオカルバミン酸又はその塩が、ポリアミンポリジチオカルボン酸又はその塩であることを特徴とする請求項13に記載の飛灰中の重金属固定化方法。
【請求項15】
重金属固定剤のpHが8以上であることを特徴とする請求項9〜14のいずれかに記載の飛灰中の重金属固定化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−15328(P2006−15328A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74313(P2005−74313)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】