説明

量子もつれ生成システム、量子もつれ生成方法

【課題】エラーの種類を制限しないことにより、エラーの種類を制限しない場合における理論限界に近い効率を達成することができる量子もつれ生成システムを提供する。
【解決手段】送信装置は、量子ビットAと光パルスμとの間に量子もつれ状態を生成して、光パルスμを受信装置に伝送する第1量子もつれ生成部を備え、受信装置は量子もつれ状態を生成する第2量子もつれ生成部と、光パルスν、νを入力とし光パルスν、νを生成する検出光生成部と、光パルスν、νの光子数に依存した値を測定する検出部と、光パルスν、νの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がある」と推定した場合には量子もつれの共有成功と判定し、「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がない」と推定した場合には量子もつれの共有失敗と判定する判定部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコヒーレント状態にあるパルスの伝送に基づき、量子もつれを生成する量子もつれ生成システム、量子もつれ生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
量子通信を行うには、少なくとも送受信装置が量子もつれを共有するための能力を持つ必要がある。量子もつれの共有は、送信装置が量子もつれ状態にある二系のうちの一つを受信装置へ伝送し、受信装置が受け取った系に対して一般化測定を行うことで達成される。これは暗に、量子もつれ生成方式が「送信装置が準備する量子もつれ状態」と「受信装置が行う一般化測定」で定義されることを意味している。従来の量子もつれ生成方式の中には、送信装置が「量子ビットと光のコヒーレント状態間における量子もつれ状態」を生成することに基づくものが存在する。コヒーレント状態の伝送に基づく量子通信とは、一般に、次の量子もつれ生成の枠組みに含まれると見なされている。図1を参照して、コヒーレント状態の伝送に基づく量子もつれ生成の概念を説明する。図1は、コヒーレント状態の伝送に基づく量子もつれ生成の概念を示す図である。
【0003】
<手順1>
まず、送信装置は何らかの方法で自身の保持する量子ビットA(付録A参照)[2]と光パルスμ[1]を
【0004】
【数1】

【0005】
という量子もつれ状態[6]に準備する。ここで、{qj=0,1は確率分布を、{|j〉}j=0,1は量子ビットAの計算基底を、{|α〉}j=0,1は光パルスがコヒーレント状態にあることを表す。なお、レーザーによって作られるパルスの量子力学的記述がコヒーレント状態に相当する。コヒーレント状態はある複素数αで特徴付けられるため、|α〉と記述される。|α|はレーザー光の振幅に対応する。
【0006】
<手順2>
次に、送信装置は光パルスμを伝送路(光ファイバー、真空中、空気中など)[9]を通じて、受信装置へ送信する。受信装置が受け取ったパルスをν[4]と呼ぶことにする。伝送路には一般に光損失が存在するため、伝送路の作用は、環境系E[3]の状態を含めて、
【0007】
【数2】

【0008】
と記述[7]される。ここで、
【0009】
【数3】

【0010】
もコヒーレント状態を表す。また、Tは伝送路の透過率に対応し、Tが大きければ、伝送路中の光損失が小さいことを意味する。従って、式(2)より、受信装置が光パルスνを受け取った時点で、環境系まで含めた系全体の状態[8]は、
【0011】
【数4】

【0012】
と書けることになる。
【0013】
<手順3>
次に、受信装置は、受け取った光パルスν[4]に対し、一般化測定[5]を行い、測定結果に応じて量子もつれ共有の成功・失敗の判断を行う。
【0014】
コヒーレント状態の伝送に基づく量子もつれ生成は、量子通信の長距離化を担う技術である量子中継においても基本的な役割を担う(非特許文献2〜6参照)。ここでの量子もつれ生成の目的は、離れた物質量子ビット間に量子もつれを供給することにあり、そこで用いられるのが光パルスと様々な物質量子ビットとの間で実現可能(詳細は非特許文献2を参照)なユニタリー相互作用
【0015】
【数5】

【0016】
である。このユニタリー演算の実現方法の例を付録Bで示す。ここで、{|αe±iθ/2〉}はコヒーレント状態である。実際、この相互作用^Uによって、
【0017】
【数6】

【0018】
という状態にある物質量子ビットAとコヒーレント状態|α〉μにある光パルスμは、式(4)のルールによって、
【0019】
【数7】

【0020】
という量子もつれ状態に変換され、<手順2>〜<手順3>を通じて量子もつれ生成を行うシステムが提案されてきた。これらの既存の量子もつれ生成システムは手順3の違いによって、(a)検知光を一つしか利用しないシステム(非特許文献2、3、4)と(b)検知光を二つ利用するシステム(非特許文献5、6)に大別される。ここで、検知光とは量子ビットと相互作用する光パルスを指す。検知光を一つしか用いないシステムでは、受信装置は受け取った光パルスνを自身が保有している物質量子ビットBに続けて入射するため、物質量子ビットABに対して入力される光パルスは一つしかない(非特許文献2、3、4)。一方で検知光を二つ用いるシステムでは、受信装置は受け取った光パルスνとは別に、コヒーレント状態に初期化した光パルスνを自分が保有する物質量子ビットBに入射するため、物質量子ビットAに対する検知光がν、物質量子ビットBに対する検知光がνとなり、2つの光パルスが利用される(非特許文献5、6)。
【0021】
以下、図2、図3を用いて2つの検知光を利用する従来技術の量子もつれ生成システム9(非特許文献5、6)について解説する。図2は2つの検知光を用いる従来技術の量子もつれ生成システム9の構成を示すブロック図である。図3は2つの検知光を用いる従来技術の量子もつれ生成システム9の動作を示すフローチャートである。従来技術の量子もつれ生成システム9は送信装置80と、受信装置90と、伝送路100とを備える。送信装置80は、量子ビットA81と、第1相互作用部82と、第1スイッチ84とを備える。第1相互作用部82は、ビームスプリッタ82aを備える。受信装置90は、第2スイッチ91と、量子ビットB92と、第2相互作用部93と、検出光生成部94と、第1変位演算部95と、検出部96と、判定部97とを備える。第2相互作用部93はビームスプリッタ93aを備える。検出光生成部94は、ビームスプリッタ94aを備える。第1変位演算部95は、ビームダンパー95aと、ビームスプリッタ95bとを備える。検出部96は、光子検出器96aと、光子検出器96bとを備える。量子もつれ生成システム9は、伝送路100の透過率T(0≦T≦1)に対し、以下のように定義される(非特許文献5、6)。
【0022】
<手順1>
送信装置80の量子ビットA81はζα=(αsinθ)/2として、
【0023】
【数8】

【0024】
に初期化される(S81)。次に、第1相互作用部82のビームスプリッタ82aは、量子ビットA81に対し、コヒーレント状態|α/√T〉μ(ここでα≧0)にある光パルスμを照射し、式(4)のユニタリー変換^Uを通じて、量子もつれ状態
【0025】
【数9】

【0026】
を準備する(S82)。但し、ζαは本質的なパラメータではなく、系の状態の数学的取り扱いが容易になるように導入されているだけである。
【0027】
<手順2>
第1スイッチ84は光パルスμを参照光LOと共に伝送路100を通じて受信装置90へ送信する(S84)。受信装置90が受け取ったパルスをνと呼ぶことにする。式(2)より、この操作によって系全体の状態が、
【0028】
【数10】

【0029】
となる。
【0030】
<手順3>
受信装置90の第2スイッチ91は、光パルスνと参照光LOとを、送信装置80から受信する(S91)。量子ビットB92は、(e−iζα|0〉+eiζα|1〉)/√2に初期化される(S92)。第2相互作用部93のビームスプリッタ93aは、受け取った参照光LOからコヒーレント状態
【0031】
【数11】

【0032】
にある光パルスνを準備し、これを(e−iζα|0〉+eiζα|1〉)/√2に初期化された量子ビットB92に入射する(S93)。この操作により、式(5)の導出と同様にして、光パルスνと受信装置90の量子ビットB92は
【0033】
【数12】

【0034】
となる。
【0035】
<手順4>
検出光生成部94は、
【0036】
【数13】

【0037】
で定義される50/50ビームスプリッタであるビームスプリッタ94aにて構成されている。従って、検出光生成部94は、パルス光νとパルス光νとを入力として、50/50ビームスプリッタ94aを作用させて、パルス光νとパルス光νとを生成する(S94)。
【0038】
<手順5>
第1変位演算部95は、パルスνに対して変位演算子
【0039】
【数14】

【0040】
を作用する(S95)。一般に、変位演算子^Dβは、コヒーレント状態|α〉をコヒーレント状態|α+β〉に、
【0041】
【数15】

【0042】
と変換する。従って、この時点での系全体の状態は、
【0043】
【数16】

【0044】
であり、これが測定直前の状態である。
【0045】
<手順6>
検出部96は光子検出器96aと光子検出器96bとで構成されている。光子検出器96aと光子検出器96bは、それぞれパルス光νとパルス光νを測定する(S96)。判定部97は、どちらかの光子検出器が光子を検出した場合、量子もつれの共有が成功したと判定する(S97)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0046】
【非特許文献1】W. K. Wootters, "Entanglement of Formation of an Arbitrary State of Two Qubits", Phys. Rev. Lett. 80, pp2245-2248 (1998).
【非特許文献2】P. van Loock, T. D. Ladd, K. Sanaka, F. Yamaguchi, K. Nemoto, W. J. Munro, and Y. Yamamoto, "Hybrid Quantum Repeater Using Bright Coherent Light", Phys. Rev. Lett. 96, 240501 (2006).
【非特許文献3】P. van Loock, N. Lutkenhaus, W. J. Munro, and K. Nemoto, "Quantum Repeaters using Coherent-State Communication", Phys. Rev. A 78, 062319 (2008).
【非特許文献4】W. J. Munro, R. Van Meter, S. G. R. Louis, and K. Nemoto, "High-Bandwidth Hybrid Quantum Repeater", Phys. Rev. Lett. 101, 040502 (2008).
【非特許文献5】K. Azuma, N. Sota, R. Namiki, S. K. Ozdemir, T. Yamamoto, M. Koashi, and N. Imoto, "Optimal entanglement generation for efficient hybrid quantum repeaters", Phys. Rev. A 80, 060303(R) (2009).
【非特許文献6】K. Azuma, H. Takeda, M. Koashi, and N. Imoto, "Quantum repeaters and computation by a single module", e-print arXiv:1003.0181.
【非特許文献7】K. Azuma, N. Sota, M. Koashi, and N. Imoto, "Tight bound on coherent-state-based entanglement generation over lossy channels", Phys. Rev. A 81, 022325 (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0047】
一般に、量子もつれに生じるエラーには、「ビットエラー」と「位相エラー」の2種が存在するが、図2の量子もつれ生成システム9は、生成する量子もつれが有するエラーが1種類になるように設計されている。このような「生成される量子もつれが含むエラーの種類を1種に制限する」設計は、量子もつれ生成システム9に限らず、1つの検知光しか用いない既存のシステム(非特許文献3、4)においても採用されている。これは、これまでエラーが1種の量子もつれを生成する量子もつれ生成システムに重きが置かれてきたことを意味する。また、現在ではエラーの種類が1種類の量子もつれを生成する任意のシステムに対し、「成功確率」と「成功した条件の下で生成される量子もつれの忠実度の平均値」で定義される理論限界の存在が明らかにされている(非特許文献7)。そしてこの理論限界が、理想的な光子数識別検出器を用いる図2の量子もつれ生成システム9によって達成可能であることも証明されている(非特許文献7)。
【0048】
このように、従来のシステムは「生成した量子もつれのエラーの種類が1種」という制限を充たすように設計され、結果として、この制限の中で図2の量子もつれ生成システム9が最適であることが明らかにされている。しかしながら、生成される量子もつれのエラーの種類数に固執しなければ、既存のシステムよりも効率的なシステムを構築できる可能性が残されていた。
【0049】
そこで、本発明では、エラーの種類を制限しないことにより、エラーの種類を制限しない場合における理論限界に近い効率を達成することができる量子もつれ生成システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0050】
本発明の量子もつれ生成システムは、送信装置と、伝送中に光パルスが受ける位相変化を相殺可能な透過率がTの伝送路と、受信装置とを備える。送信装置は量子ビットAと第1量子もつれ生成部とを備える。受信装置は量子ビットBと、第2量子もつれ生成部と、検出光生成部と、検出部と、判定部とを備える。
【0051】
第1量子もつれ生成部は、量子ビットAが0の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をα、量子ビットAが1の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をαとして、量子ビットAと光パルスμの量子もつれ状態
【0052】
【数17】

【0053】
を生成して、光パルスμを伝送路(透過率T)を通じて伝送する。伝送路を通過した光パルスを光パルスνと呼ぶものとし、Eを環境系に漏れた光パルスの状態を表すものとすると、光パルスνの伝送路通過後の環境系を含めた全系の状態は、
【0054】
【数18】

【0055】
となる。
【0056】
第2量子もつれ生成部は、量子ビットBが0の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をβ、量子ビットBが1の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をβとして、量子ビットBと光パルスνの量子もつれ状態
【0057】
【数19】

【0058】
を生成する。検出光生成部は、光パルスνと、光パルスνとを入力とし、系全体の状態
【0059】
【数20】

【0060】
(ただし、a:=|α−α|/2、b:=|β−β|/2をa≠bを充たす任意の実数とし、θ、θ、θ、θを任意の実数とする)を形成する光パルスν、νを生成する。検出部は、光パルスνの光子数に依存した値、および光パルスνの光子数に依存した値を測定する。判定部は、光パルスνと光パルスνが有した光子数に差があるか否かを推定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がある」と推定した場合には、量子もつれの共有が成功したと判定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と、光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がない」と推定した場合には、量子もつれの共有が失敗したと判定する。
【発明の効果】
【0061】
<本発明の量子もつれ生成システムにおける理論限界>
本発明のような「エラーの種類を制限しない場合の量子もつれ生成方式」に対する一般的な理論限界の導出に着手したところ、「方式の成功確率P」と「生成される量子もつれのコンカレンス(量子もつれの強度を表す指標の一つ、非特許文献1参照)の平均値 ̄C」に対し、
【0062】
【数21】

【0063】
という理論限界(図12(i)のグラフ)が存在することを突き止めるに至った。一方で、図2の量子もつれ生成システム9の成功確率Pと生成される量子もつれのコンカレンスの平均値 ̄Cは、
【0064】
【数22】

【0065】
と見積もられ(図12(iii)のグラフ)、式(13)の理論限界と隔たりがあることがわかる。さらに既存の別の方式の効率(図12(iv)と(v))と比べてみても、式(13)の理論限界(図12(i)のグラフ)との間にギャップが存在する。このような理論限界(13)と既存の方式の効率とのギャップは、生成される量子もつれのエラーの種類数に固執しなければ、これまで以上に効率的な量子もつれ生成方式が構築可能であることを示唆している。
【0066】
本発明の量子もつれ生成システムは、複数のエラーを含む量子もつれの生成を許容することで、実際に、既存の方式よりも効率的な量子もつれ生成方式を実現した。この方式は、ある種の量子非破壊測定が利用可能であれば理論限界(13)が達成可能であり、もし量子非破壊測定の役割を光子検出器で代用したとしても、理論限界(13)に近い効率(図12(ii)のグラフ)を誇る。
【0067】
<本発明の量子もつれ生成システムの効果の検証>
もし、式(22’’’)におけるパラメータaとbが等しくなるようにパラメータα、α1、β0、βを選んだ場合には、生成される量子もつれが有するエラーの種類は1種に制限され、これは図2の量子もつれ生成システム9と同様に動作する。本発明は、図2の量子もつれ生成システム9とは異なり、生成されるエラーの種類を制限しない、すなわちaとbを等しくとるという条件を課さないことによって、理論限界(13)に匹敵する効率を達成するシステムである。
【0068】
ここでは発明の効果をみるため、
【0069】
【数23】

【0070】
として議論する。例として、受信装置が検出部として、
【0071】
【数24】

【0072】
という射影演算子に対応する量子非破壊測定を利用したと仮定する。この場合、量子ビットAと受信装置の系Bννの間で量子もつれを生成するシステムとなり、この方式の効率は理論限界(13)(図12(i))と一致する。
【0073】
また、受信装置が検出部として、光パルスνと光パルスν各々の光子数を、理想的な光子数識別検出器で測定すると仮定すれば、本発明の量子もつれ生成システムの成功確率P
【0074】
【数25】

【0075】
で表される。ここで、Iαは変形ベッセル関数
【0076】
【数26】

【0077】
を表す。また、成功した際に生成される量子もつれのコンカレンスの平均値 ̄Cは、
【0078】
【数27】

【0079】
と書ける。故に成功確率Pとコンカレンス ̄Cは、aとbで制御されることがわかる。ここでb=aとすれば、この方式が生成する量子もつれが有するエラーは1種となるだけでなく、この方式の効率は前述した既存の方式の効率[式(14)]と等しくなる。しかしながら、前述したシステム(非特許文献5)とは異なり、本方式にはパラメータbの自由度が残されており、それによって本方式の効率が前述のシステム(非特許文献5)を上回る。例えば、a、bの選び方として、所望の成功確率Pに対して、aとbはコンカレンス ̄Cが最大となるように
【0080】
【数28】

【0081】
から決定することも可能である。
【0082】
例として、式(25)の効率、既存の方式の効率、そして理論限界[式(13)]を図12に例示した。図12は従来技術のコンカレンスと成功確率の関係と本発明におけるコンカレンスと成功確率の関係とを比較して示す図である。図12では、比較のため、伝送路は0.17dB/kmの光ファイバーに対応させ、その透過率Tを
【0083】
【数29】

【0084】
と定義し、θは0.01、そして各々の方式で利用されている検出器は全て理想的なものと仮定されている。横軸は方式の成功確率、縦軸は成功の際に生成される量子もつれのコンカレンスの平均値である。(i)はエラーの種類を制限しない場合の理論限界[式(13)]、(ii)は本発明の量子もつれ生成システムの効率[式(25)]、(iii)は2つの検知光を用いる既存のシステム(非特許文献5、6)の効率[式(14)]、(iv)はホモダイン検波器と1つの検知光に基づく既存のシステム(非特許文献2)の効率、(v)は光子検出器と1つの検知光に基づく既存のシステム(非特許文献3、4)の効率をそれぞれ表す。グラフから、本発明の量子もつれ生成システムの効率は理論限界に非常に近いだけでなく、既存の全てのシステムの効率を上回ることが見て取れる。従って、本発明の量子もつれ生成システムは、既存のシステムが固執してきた「生成された量子もつれのエラーへの制約」を取り除くことで、量子もつれ生成の効率が向上することを示している。この計算では、検出部で用いられる光子検出器が理想的な光子数識別検出器であると仮定したが、一般的な光子検出器を用いたとしても本発明の量子もつれ生成システムは機能し、式(22’’’)にあるパラメータaとbによって本発明の量子もつれ生成システムの効率は制御される。
【0085】
このように、本量子もつれ生成システムによれば、エラーの種類を制限しないことにより、エラーの種類を制限しない場合における理論限界[式(13)]に近い効率を達成することができる。以下では、式(22’’’)を構成するための実施例を示す。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】コヒーレント状態の伝送に基づく量子もつれ生成の概念を示す図。
【図2】従来技術の量子もつれ生成システムの構成を示すブロック図。
【図3】従来技術の量子もつれ生成システムの動作を示すフローチャート。
【図4】実施例1の量子もつれ生成システムの構成を示すブロック図。
【図5】実施例1の量子もつれ生成システムの動作を示すフローチャート。
【図6】実施例2の量子もつれ生成システムの構成を示すブロック図。
【図7】実施例2の量子もつれ生成システムの動作を示すフローチャート。
【図8】実施例3の量子もつれ生成システムの構成を示すブロック図。
【図9】実施例3の量子もつれ生成システムの動作を示すフローチャート。
【図10】実施例4の量子もつれ生成システムの構成を示すブロック図。
【図11】実施例4の量子もつれ生成システムの動作を示すフローチャート。
【図12】従来技術のコンカレンスと成功確率の関係と本発明におけるコンカレンスと成功確率の関係とを比較して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0087】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。なお、本明細書では、送信装置、受信装置で利用する全てのデバイスが理想的に動作すると仮定して本発明システムの原理説明を進める。しかしながら、もし、あるシステムの送信装置と受信装置を理想化し、そのシステムの動作原理が以下で述べる本発明システムの動作原理と同等であると認められる場合は、そのシステムは本発明と同等であることに注意する。
【実施例1】
【0088】
以下、図4、5を参照して実施例1に係る量子もつれ生成システムについて詳細に説明する。図4は本実施例の量子もつれ生成システム1の構成を示すブロック図である。図5は本実施例の量子もつれ生成システム1の動作を示すフローチャートである。本実施例の量子もつれ生成システム1は、送信装置10と、受信装置20と、伝送路100とを備える。送信装置10は、量子ビットA81と、第1相互作用部82と、第1変位演算部13と、第1スイッチ84とを備える。第1相互作用部82は、ビームスプリッタ82aを備える。第1変位演算部13は、ビームダンパー13aと、ビームスプリッタ13bと、ビームスプリッタ13cとを備える。受信装置20は、第2スイッチ91と、量子ビットB92と、第2相互作用部93と、第2変位演算部25と、検出光生成部94と、検出部96と、判定部97とを備える。第2相互作用部93は、ビームスプリッタ93aを備える。第2変位演算部25は、ビームダンパー25aと、ビームスプリッタ25bとを備える。検出光生成部94はビームスプリッタ94aを備える。検出部96は、光子検出器96aと、光子検出器96bとを備える。
【0089】
まず、送信装置10の量子ビットA81は、αをα≧0を充たす任意の実数、ζα=(αsinθ)/2、Tを伝送路100の透過率として、
【0090】
【数30】

【0091】
に初期化される(S81)。ここで、量子ビットA81は共振器に原子などを入れて実現され、量子ビットA81の初期化は、例えば、共振器中の原子のエネルギーギャップに相当する波長の光を照射することで実現される(付録Aを参照)。光の照射時間を変えることで、所望の状態を作ることができる。なお、本発明において上記の量子ビットの実現方法は一例にすぎないため、量子ビットの実現方法は上記に限定されない。また、初期化を実現する装置は本発明において本質的ではないため、詳細は省略する。第1相互作用部82は、量子ビットA81に対し、振幅及び位相がα/√Tで表される光パルスμを照射して、式(4)で表現されるユニタリー変換^Uを通じて、量子もつれ状態
【0092】
【数31】

【0093】
を生成する(S82)。光パルスのパラメータα/√Tは、ビームスプリッタ82aの反射率を調整することで実現できる。式(4)のユニタリー変換^Uは、例えば量子ビットA81を構成する共振器中の原子に対し、非共鳴な光パルスを照射する事で実現される。パラメータのθは、原子と入射した光パルスとの非共鳴度合い、相互作用強度・時間に依存するが、この自由度は任意の値であっても以後の議論は成立する。ユニタリー変換^Uの出力状態として書いた式(16)は、相互作用が終了した量子ビットA81と相互作用後にこの共振器から出てきた光パルスμとで構成される合成系の数学的表現である。ユニタリー変換^Uの実現方法の例は、付録Bに与えた。
【0094】
第1変位演算部13は、前記光パルスμに、変位演算子
【0095】
【数32】

【0096】
を実現する変位演算器を作用させて、合成系の状態
【0097】
【数33】

【0098】
を形成する光パルスμを生成する(S13)。ここで、光パルスμとビームスプリッタ13cによって生成された強いレーザー光を非常に低い反射率のビームスプリッタ13bで混ぜると、変位演算子
【0099】
【数34】

【0100】
が施された光パルスμが得られる。従って、強いレーザー光を生成するビームスプリッタ13cと反射率の低いビームスプリッタ13bとを合わせて、ひとつの変位演算部とみなすことができる。なお、ビームダンパー13aは、不要な光を破棄することを目的とする。ここで、
【0101】
【数35】

【0102】
のパラメータである−(α/√T)cos(θ/2)はビームスプリッタ13bに入射するレーザ光の強度を調整することで制御できる。
【0103】
次に、第1スイッチ84は、第1変位演算部13で生成された光パルスμと参照光LOとを伝送路100を通じて受信装置20に送信する(S84)。ここで、第1スイッチ84は、異なる経路からやって来る光パルスμと、参照光LOが、光ファイバー中で並走するようにパルスの経路を調整することができるものとする。伝送路100を通過した光パルスを光パルスνと呼ぶものとし、Eを環境系に漏れた光パルスの状態を表すものとし、光パルスνの伝送路100通過後の環境系を含めた全系の状態は、
【0104】
【数36】

【0105】
で表される。
【0106】
受信装置20の第2スイッチ91は、参照光LOと、光パルスνとを送信装置10から受信する(S91)。量子ビットB92は、
【0107】
【数37】

【0108】
に初期化される(S92)。なお、ステップS92は、ステップS81、S82、S13、S84、S91が実行される前、実行されている最中、実行された後のいずれのタイミングで実行してもよい。量子ビットB92の準備・初期化は量子ビットA81と同様の方法で実現可能である。第2相互作用部93は、βをβ>αを充たす任意の実数とし、参照光LOから振幅及び位相がβで表される光パルスνを生成して、量子ビットB92に対し、生成した光パルスνを照射することで式(4)で表現されるユニタリー変換^Uを達成し、量子もつれ状態
【0109】
【数38】

【0110】
を生成する(S93)。ここで、光パルスνのパラメータβはビームスプリッタ93aの反射率によって調整可能である。
【0111】
第2変位演算部25は、光パルスνに、変位演算子
【0112】
【数39】

【0113】
を実現する変位演算器を作用させて、合成系の状態
【0114】
【数40】

【0115】
を形成する光パルスνを生成する(S25)。第2変位演算部25では、第1変位演算部13で実行される変位演算と同様の原理で構成されている。ただし、第2変位演算部25のビームスプリッタ25bの反射率は非常に高く設定する必要があり、第1変位演算部13のビームスプリッタ13bの反射率とは異なる。しかしこれは本質的な差ではない。
【0116】
検出光生成部94は、光パルスνと、光パルスνとを入力とし、入力された光パルスνと、光パルスνに対し、
【0117】
【数41】

【0118】
で定義される50/50ビームスプリッタであるビームスプリッタ94aを作用させて光パルスνと、光パルスνとを生成する(S94)。ここで、式(21)の右辺は、ビームスプリッタ94aが出力する光パルスνと、光パルスνの状態を表す。また、50/50ビームスプリッタとは、反射率と透過率が各々50%の特性を有するビームスプリッタを意味する。この操作によって、系全体の状態は、
【0119】
【数42】

【0120】
となる。これは、式(22’’’)に対応する状態である。
【0121】
検出部96は、光パルスνの光子数に依存した値、および光パルスνの光子数に依存した値を測定する(S96)。判定部97は、光パルスνと光パルスνが有した光子数に差があるか否かを推定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がある」と推定した場合には、量子もつれの共有が成功したと判定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と、光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がない」と推定した場合には、量子もつれの共有が失敗したと判定する(S97)。例えば、光子検出器96aは光パルスνを、光子検出器96bは光パルスνをそれぞれ測定し、判定部97が、光パルスνと光パルスνに存在する光子数に差がある場合に量子もつれの共有が成功したと判定することで実現可能である。
【0122】
このように、本実施例の量子もつれ生成システム1によって、式(22)の状態が構成され、これは、式(22’’’)と実質的に同じ状態である。故に、本量子もつれ生成システム1は、本発明の一つの実施例となっている。
【実施例2】
【0123】
実施例1の量子もつれ生成システム1は送信装置10と受信装置20に各々一つずつ変位演算部(第1変位演算部13、第2変位演算部25)を備える構成であった。これら変位演算部の位置は可変であり、例えば、受信装置側に集約することも可能である。実施例2では、変位演算部を受信装置側に集約することにより、実施例1の効果に加えて、送信装置を従来技術の送信装置のまま変更することなく用いることができる量子もつれ生成システム2について、図6、7を参照して詳細に説明する。図6は本実施例の量子もつれ生成システム2の構成を示すブロック図である。図7は本実施例の量子もつれ生成システム2の動作を示すフローチャートである。本実施例の量子もつれ生成システム2は、送信装置80と、受信装置30と、伝送路100とを備える。送信装置80は、量子ビットA81と、第1相互作用部82と、第1スイッチ84とを備える。第1相互作用部82は、ビームスプリッタ82aを備える。受信装置30は、第2スイッチ91と、量子ビットB92と、第2相互作用部93と、検出光生成部94と、第2変位演算部38と、第1変位演算部95と、検出部96と、判定部97とを備える。第2相互作用部93は、ビームスプリッタ93aを備える。検出光生成部94はビームスプリッタ94aを備える。第2変位演算部38は、ビームスプリッタ38aと、ビームスプリッタ38bと、ビームダンパー38cとを備える。第1変位演算部95は、ビームダンパー95aと、ビームスプリッタ95bとを備える。検出部96は、光子検出器96aと、光子検出器96bとを備える。
【0124】
量子ビットA81は、αをα≧0、ζα=(αsinθ)/2として、
【0125】
【数43】

【0126】
に初期化される(S81)。第1相互作用部82は、量子ビットA81に対し、振幅及び位相がα/√T(Tを伝送路100の透過率とする)で表される光パルスμを照射して、式(4)で実現されるユニタリー変換^Uを通じて、量子もつれ状態
【0127】
【数44】

【0128】
を生成する(S82)。
【0129】
第1スイッチ84は、光パルスμと参照光LOとを伝送路100を通じて受信装置30に送信する(S84)。伝送路100を通過した光パルスを光パルスνと呼ぶものとし、Eを環境系に漏れた光パルスの状態を表すものとし、光パルスνの伝送路100通過後の環境系を含めた全系の状態が、
【0130】
【数45】

【0131】
で表されるものとする。
【0132】
受信装置30の第2スイッチ91は、参照光LOと、光パルスνとを送信装置80から受信する(S91)。量子ビットB92は、βをβ>αを充たす実数とし、
【0133】
【数46】

【0134】
に初期化される(S92)。なお、ステップS92は、ステップS81、S82、S84、S91が実行される前、実行されている最中、実行された後のいずれのタイミングで実行してもよい。第2相互作用部93は、参照光LOから振幅及び位相がβで表される光パルスνを生成して、量子ビットB92に対し、生成した光パルスνを照射して、量子もつれ状態
【0135】
【数47】

【0136】
を生成する(S93)。
【0137】
検出光生成部94は、光パルスνと、前記光パルスνとを入力とし、系全体の状態
【0138】
【数48】

【0139】
を形成する光パルスν、νを生成する(S94)。実施例1と同様に、検出光生成部94は、式(21)で定義される50/50ビームスプリッタ94aにより実現される。
【0140】
第2変位演算部38は、光パルスνに、変位演算子
【0141】
【数49】

【0142】
を実現する変位演算器(ビームスプリッタ38a、ビームスプリッタ38b、ビームダンパー38cで実現される)を作用させて光パルスνを形成する(S38)。第1変位演算部95は、光パルスνに、変位演算子
【0143】
【数50】

【0144】
を実現する変位演算器(ビームダンパー95a、ビームスプリッタ95bで実現される)を作用させて光パルスνを形成する(S95)。光パルスνおよび光パルスν形成後の系全体の状態は、
【0145】
【数51】

【0146】
で表されるものとする。これは、式(22’’’)に対応する状態である。
【0147】
次に、検出部96は、光パルスνの光子数に依存した値、および光パルスνの光子数に依存した値を測定する(S96)。判定部97は、光パルスνと光パルスνが有した光子数に差があるか否かを推定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がある」と推定した場合には、量子もつれの共有が成功したと判定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と、光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がない」と推定した場合には、量子もつれの共有が失敗したと判定する(S97)。
【0148】
このように、本実施例の量子もつれ生成システム2によれば、実施例1の効果に加えて、変位演算機能を受信装置30側に集約したため、従来の送信装置80をそのまま使用しても、エラーを制限しない場合の理論限界に近い効率の量子もつれ生成を実現できる。
【実施例3】
【0149】
実施例1の量子もつれ生成システム1においては、送信装置10及び受信装置20のそれぞれが変位演算機能を備え、実施例2の量子もつれ生成システム2においては、変位演算機能を受信装置30側に集約した。しかしながら前述したように本発明の本質は、式(22’’’)で表現される量子もつれ状態を準備することであり、変位演算等が何処で行われるかは重要な問題でない。従って、本発明の目的を達成することが可能な変位演算機能の構成パターンは、実施例1、2に限らず他にもいくつかのパターンが考えられる。そこで、実施例3、および後述する実施例4では、これらの変位演算機能の構成パターン等の全ての上位概念として、本発明の目的を達成するために必要となる要素を抽象化して構成したシステムの例について説明する。まず、量子もつれ生成システム3について、図8、図9を用いて詳細に説明する。図8は本実施例の量子もつれ生成システム3の構成を示すブロック図である。図9は本実施例の量子もつれ生成システム3の動作を示すフローチャートである。本実施例の量子もつれ生成システム3は、送信装置40と、受信装置50と、伝送路100とを備える。送信装置40は、量子ビットA41と、第1相互作用部42と、第1スイッチ44とを備える。受信装置50は、第2スイッチ51と、量子ビットB52と、第2相互作用部53と、検出光生成部54と、検出部56と、判定部57とを備える。第1相互作用部42、第2相互作用部53、検出光生成部54は、光を生成する機構、ビームスプリッタ、シューター等で実現可能であるものとし、各構成部が後述する変換式を各々実行できる機能を備えていればどんな構成でも良いものとする。また、検出部56は実施例1、2で説明したように任意の光子検出器で実現可能である。
【0150】
まず、量子ビットA41は、
【0151】
【数52】

【0152】
に初期化される(S41)。第1相互作用部42は、量子ビットA41に対し、光パルスμを照射して、量子ビットA41が0の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をα、量子ビットA41が1の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をαとして、量子もつれ状態
【0153】
【数53】

【0154】
を生成する(S42)。
【0155】
第1スイッチ44は、Tを伝送路100の透過率とし、量子もつれ状態
【0156】
【数54】

【0157】
を形成する光パルスμと参照光LOとを伝送路100を通じて受信装置50に送信する(S44)。伝送路100を通過した光パルスを光パルスνと呼ぶものとし、Eを環境系に漏れた光パルスの状態を表すものとし、光パルスνの伝送路100通過後の環境系を含めた全系の状態が、
【0158】
【数55】

【0159】
で表されるものとする。
【0160】
受信装置50の第2スイッチ51は、参照光LOと、光パルスνとを送信装置40から受信する(S51)。量子ビットB52は、
【0161】
【数56】

【0162】
に自身を初期化する(S52)。なお、ステップS52は、ステップS41、S42、S44、S51が実行される前、実行されている最中、実行された後のいずれのタイミングで実行してもよい。第2相互作用部53は、参照光LOから光パルスνを生成して、量子ビットB52に対し、生成した光パルスνを照射して、量子ビットB52が0の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をβ、量子ビットB52が1の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をβとして、量子もつれ状態
【0163】
【数57】

【0164】
を生成する(S53)。
【0165】
検出光生成部54は、光パルスνと、光パルスνとを入力とし、系全体の状態
【0166】
【数58】

【0167】
(ただし、a:=|α−α|/2、b:=|β−β|/2をa≠bを充たす任意の実数とし、θ、θ、θ、θを任意の実数とする)を形成する光パルスν、νを生成する(S54)。
【0168】
検出部56は、光パルスνの光子数に依存した値、および光パルスνの光子数に依存した値を測定する(S56)。判定部57は、光パルスνと光パルスνが有した光子数に差があるか否かを推定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がある」と推定した場合には、量子もつれの共有が成功したと判定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と、光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がない」と推定した場合には、量子もつれの共有が失敗したと判定する(S57)。
【0169】
ここで、示した方法は、実施例1、2の上位概念に相当する。また、式(22’’’)でa≠bとおくことが、生成される量子もつれのエラーの種類を制限しないことに繋がり、結果的に本実施例は、理論限界(13)に近い効率を達成可能な方式となる。
【実施例4】
【0170】
第1量子もつれ生成部65は、量子ビットA41が0の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をα、量子ビットA41が1の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をαとして、量子ビットA41と光パルスμの量子もつれ状態
【0171】
【数59】

【0172】
を生成して、光パルスμを伝送路110(透過率T)を通じて伝送する(S65)。伝送路110を通過した光パルスを光パルスνと呼ぶものとし、Eを環境系に漏れた光パルスの状態を表すものとすると、光パルスνの伝送路110通過後の環境系を含めた全系の状態は、
【0173】
【数60】

【0174】
となる。
【0175】
第2量子もつれ生成部79は、量子ビットB52が0の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をβ、量子ビットB52が1の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をβとして、量子ビットB52と光パルスνの量子もつれ状態
【0176】
【数61】

【0177】
を生成する(S79)。なお、ステップS79は、ステップS65が実行される前、実行されている最中、実行された後のいずれのタイミングで実行してもよい。検出光生成部54は、光パルスνと、光パルスνとを入力とし、系全体の状態
【0178】
【数62】

【0179】
(ただし、a:=|α−α|/2、b:=|β−β|/2をa≠bを充たす任意の実数とし、θ、θ、θ、θを任意の実数とする)を形成する光パルスν、νを生成する(S54)。検出部56は、光パルスνの光子数に依存した値、および光パルスνの光子数に依存した値を測定する(S56)。判定部57は、測定された光パルスνの光子数に依存した値と光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がある」と推測される場合には、量子もつれの共有が成功したと判定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と、光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がない」と推測される場合には、量子もつれの共有が失敗したと判定する(S57)。
【0180】
ここで、示した方法は、実施例1、2、3の上位概念に相当する。また、式(22’’’)でa≠bとおくことが、生成される量子もつれのエラーの種類を制限しないことに繋がり、結果的に本実施例は、理論限界(13)に近い効率を達成可能な方式となる。
【0181】
<付録A:量子ビット>
量子ビットとは、二つの異なる状態{|0〉,|1〉}をとり、一般には重ね合わせ状態
【0182】
【数63】

【0183】
をとる。ただし、α、βは|α|+|β|=1を充たす複素数である。基本的には量子ビットに対して「初期化、1量子ビットユニタリー演算、測定」の3つの操作が実現可能であることが要請される。初期化とは、式(26)の複素係数α、βを自由に選べる能力をいう。ユニタリー演算
【0184】
【数64】

【0185】
は、3次元単位ベクトル(n,n,n)とパウリ演算子
【0186】
【数65】

【0187】
を用いて、
【0188】
【数66】

【0189】
と書かれ、状態を
【0190】
【数67】

【0191】
へ変換する。また、測定は量子ビットが|0〉か|1〉の状態にあるかを判定する。例えば、式(26)にある状態に対して測定を行えば、確率|α|で|0〉、確率|β|で|1〉という状態にあると判定される。このような量子ビットの例は、様々なものが存在する。例えば単一光子、超伝導量子ビット、量子ドット、ダイヤモンド中のNV中心、原子、イオン等は量子ビットとして利用できる。そして、各々の物理系ごとに具体的な「初期化、1量子ビットユニタリー演算、測定」の実現方法は異なる。例えば、原子のエネルギー固有状態{|e〉,|g〉}を量子ビットの{|0〉,|1〉}に対応させる場合には、これらの基本操作が適当な周波数のレーザー光を適当な時間だけ原子に照射することによって実現可能であることが知られている。
【0192】
<付録B:相互作用^Uの実現方法の例>
ここでは、^Uを実現する方法の例について述べる。ある2準位系(例えば単一原子)のエネルギー固有状態{|e〉,|g〉}を量子ビットの{|0〉,|1〉}に対応させることにする。相互作用^Uを得るための仮定は、
(1)2準位系と光との相互作用が、Jaynes−Cummingsハミルトニアン
【0193】
【数68】

【0194】
(ω:光の振動数、−hω:二準位系のエネルギー差、Ω:ラビ振動数、^σ:=|g〉〈e|、^σ:=|e〉〈g|、^a:光の消滅演算子)で記述されること
(2)非共鳴な(|ω−ω’|≫Ω)レーザー光を照射すること
の2点である。仮定1は、超伝導量子ビット、量子ドット、ダイヤモンド中のNV中心、
原子、イオン等のほとんど全ての物理系で満足される。また、仮定2は要請される条件を充たすレーザーを準備すればよい。このとき、式(4)に現れるθは、相互作用時間をtとすれば、
【0195】
【数69】

【0196】
で決定される。量子ドット等の典型的な物理系では、θ〜0.01が達成可能だと予想されている(非特許文献2参照)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信装置と、伝送中に光パルスが受ける位相変化を相殺可能な透過率がTの伝送路と、受信装置とを備える量子もつれ生成システムであって、
前記送信装置は、
量子ビットAと、
前記量子ビットAが0の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をα、量子ビットAが1の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をαとして、量子ビットAと光パルスμの量子もつれ状態
【数70】


を生成して、光パルスμを前記伝送路を通じて伝送する第1量子もつれ生成部とを備え、
前記伝送路を通過した光パルスを光パルスνと呼ぶものとし、Eを環境系に漏れた光パルスの状態を表すものとし、光パルスνの伝送路通過後の環境系を含めた全系の状態が、
【数71】


で表されるものとし、
前記受信装置は、
量子ビットBと、
前記量子ビットBが0の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をβ、量子ビットBが1の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をβとして、量子ビットBと光パルスνの量子もつれ状態
【数72】


を生成する第2量子もつれ生成部と、
光パルスνと、光パルスνとを入力とし、系全体の状態
【数73】


(ただし、a:=|α−α|/2、b:=|β−β|/2をa≠bを充たす任意の実数とし、θ、θ、θ、θを任意の実数とする)を形成する光パルスν、νを生成する検出光生成部と、
前記光パルスνの光子数に依存した値、および前記光パルスνの光子数に依存した値を測定する検出部と、
前期測定された光パルスνと光パルスνが有した光子数に差があるか否かを推定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がある」と推定した場合には、量子もつれの共有が成功したと判定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と、光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がない」と推定した場合には、量子もつれの共有が失敗したと判定する判定部と、
を備えることを特徴とする量子もつれ生成システム。
【請求項2】
送信装置と、受信装置とからなる量子もつれ生成システムであって、
送信装置は、
【数74】


に初期化された量子ビットAと、
前記量子ビットAに対し、光パルスμを照射して、量子ビットAが0の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をα、量子ビットAが1の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をαとして、量子もつれ状態
【数75】


を生成する第1相互作用部と、
Tを伝送路の透過率とし、参照光LOと量子もつれ状態
【数76】


を形成する光パルスμとを前記伝送路を通じて受信装置に送信する第1スイッチとを備え、
前記伝送路を通過した光パルスを光パルスνと呼ぶものとし、Eを環境系に漏れた光パルスの状態を表すものとし、光パルスνの伝送路通過後の環境系を含めた全系の状態が、
【数77】


で表されるものとし、
受信装置は、
前記参照光LOと、前記光パルスνとを送信装置から受信する第2スイッチと、
【数78】


に初期化された量子ビットBと、
前記参照光LOから光パルスνを生成して、前記量子ビットBに対し、前記生成した光パルスνを照射して、量子ビットBが0の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をβ、量子ビットBが1の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をβとして、量子もつれ状態
【数79】


を生成する第2相互作用部と、
前記光パルスνと、前記光パルスνとを入力とし、系全体の状態
【数80】


(ただし、a:=|α−α|/2、b:=|β−β|/2をa≠bを充たす任意の実数とし、θ、θ、θ、θを任意の実数とする)を形成する光パルスν、νを生成する検出光生成部と、
前記光パルスνの光子数に依存した値、および前記光パルスνの光子数に依存した値を測定する検出部と、
前期測定された光パルスνと光パルスνが有した光子数に差があるか否かを推定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がある」と推定した場合には、量子もつれの共有が成功したと判定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と、光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がない」と推定した場合には、量子もつれの共有が失敗したと判定する判定部と、
を備えることを特徴とする量子もつれ生成システム。
【請求項3】
送信装置と、受信装置とからなる量子もつれ生成システムであって、
送信装置は、αをα≧0を充たす任意の実数、ζα=(αsinθ)/2、Tを伝送路の透過率として、
【数81】


に初期化された量子ビットAと、
前記量子ビットAに対し、振幅及び位相が複素数α/√Tで表される光パルスμを照射して、量子もつれ状態
【数82】


を生成する第1相互作用部と、
前記光パルスμに、変位演算子
【数83】


を実現する変位演算器を作用させて、合成系の状態
【数84】


を形成する光パルスμを生成する第1変位演算部と、
前記第1変位演算部で生成された光パルスμと参照光LOとを前記伝送路を通じて受信装置に送信する第1スイッチとを備え、
前記伝送路を通過した光パルスを光パルスνと呼ぶものとし、Eを環境系に漏れた光パルスの状態を表すものとし、光パルスνの伝送路通過後の環境系を含めた全系の状態が、
【数85】


で表されるものとし、
受信装置は、
前記参照光LOと、前記光パルスνとを送信装置から受信する第2スイッチと、
βをβ>αを充たす任意の実数とし、
【数86】


に初期化された量子ビットBと、
前記参照光LOから振幅及び位相が複素数βで表される光パルスνを生成して、前記量子ビットBに対し、前記生成した光パルスνを照射して、量子もつれ状態
【数87】


を生成する第2相互作用部と、
前記光パルスνに、変位演算子
【数88】


を実現する変位演算器を作用させて、合成系の状態
【数89】


を形成する光パルスνを生成する第2変位演算部と、
前記光パルスνと、前記光パルスνとを入力とし、系全体の状態
【数90】


を形成する光パルスν、νを生成する検出光生成部と、
前記光パルスνの光子数に依存した値、および前記光パルスνの光子数に依存した値を測定する検出部と、
前期測定された光パルスνと光パルスνが有した光子数に差があるか否かを推定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がある」と推定した場合には、量子もつれの共有が成功したと判定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と、光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がない」と推定した場合には、量子もつれの共有が失敗したと判定する判定部と、
を備えることを特徴とする量子もつれ生成システム。
【請求項4】
送信装置と、受信装置とからなる量子もつれ生成システムであって、
送信装置は、αをα≧0を充たす任意の実数、ζα=(αsinθ)/2として、
【数91】


に初期化された量子ビットAと、
前記量子ビットAに対し、振幅及び位相が複素数α/√T(Tを伝送路の透過率とする)で表される光パルスμを照射して、量子もつれ状態
【数92】


を生成する第1相互作用部と、
前記光パルスμと参照光LOとを前記伝送路を通じて受信装置に送信する第1スイッチとを備え、
前記伝送路を通過した光パルスを光パルスνと呼ぶものとし、Eを環境系に漏れた光パルスの状態を表すものとし、光パルスνの伝送路通過後の環境系を含めた全系の状態が、
【数93】


で表されるものとし、
受信装置は、
前記参照光LOと、前記光パルスνとを送信装置から受信する第2スイッチと、
βをβ>αを充たす任意の実数とし、
【数94】


に初期化された量子ビットBと、
前記参照光LOから振幅及び位相が複素数βで表される光パルスνを生成して、前記量子ビットBに対し、前記生成した光パルスνを照射して、量子もつれ状態
【数95】


を生成する第2相互作用部と、
前記光パルスνと、前記光パルスνとを入力とし、系全体の状態
【数96】


を形成する光パルスν、νを生成する検出光生成部と、
前記光パルスνに、変位演算子
【数97】


を実現する変位演算器を作用させて光パルスνを形成する第2変位演算部と、
前記光パルスνに、変位演算子
【数98】


を実現する変位演算器を作用させて光パルスνを形成する第1変位演算部と、
前記光パルスνおよび光パルスν形成後の系全体の状態が、
【数99】


で表されるものとし、
前記光パルスνの光子数に依存した値、および前記光パルスνの光子数に依存した値を測定する検出部と、
前期測定された光パルスνと光パルスνが有した光子数に差があるか否かを推定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がある」と推定した場合には、量子もつれの共有が成功したと判定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と、光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がない」と推定した場合には、量子もつれの共有が失敗したと判定する判定部と、
を備えることを特徴とする量子もつれ生成システム。
【請求項5】
送信装置と、伝送中に光パルスが受ける位相変化を相殺可能な透過率がTの伝送路と、受信装置とを用いる量子もつれ生成方法であって、
前記送信装置は、
量子ビットAが0の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をα、量子ビットAが1の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をαとして、量子ビットAと光パルスμの量子もつれ状態
【数100】


を生成して、光パルスμを前記伝送路を通じて伝送する第1量子もつれ生成ステップを実行し、
前記伝送路を通過した光パルスを光パルスνと呼ぶものとし、Eを環境系に漏れた光パルスの状態を表すものとし、光パルスνの伝送路通過後の環境系を含めた全系の状態が、
【数101】


で表されるものとし、
前記受信装置は、
量子ビットBが0の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をβ、量子ビットBが1の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をβとして、量子ビットBと光パルスνの量子もつれ状態
【数102】


を生成する第2量子もつれ生成ステップと、
光パルスνと、光パルスνとを入力とし、系全体の状態
【数103】


(ただし、a:=|α−α|/2、b:=|β−β|/2をa≠bを充たす任意の実数とし、θ、θ、θ、θを任意の実数とする)を形成する光パルスν、νを生成する検出光生成ステップと、
前記光パルスνの光子数に依存した値、および前記光パルスνの光子数に依存した値を測定する検出ステップと、
前期測定された光パルスνと光パルスνが有した光子数に差があるか否かを推定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がある」と推定した場合には、量子もつれの共有が成功したと判定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と、光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がない」と推定した場合には、量子もつれの共有が失敗したと判定する判定ステップと、
を実行することを特徴とする量子もつれ生成方法。
【請求項6】
送信装置と、受信装置とを用いる量子もつれ生成方法であって、
送信装置は、
量子ビットAを、
【数104】


に初期化する第1初期化ステップと、
前記量子ビットAに対し、光パルスμを照射して、量子ビットAが0の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をα、量子ビットAが1の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をαとして、量子もつれ状態
【数105】


を生成する第1相互作用ステップと、
Tを伝送路の透過率とし、参照光LOと量子もつれ状態
【数106】


を形成する光パルスμとを前記伝送路を通じて受信装置に送信する第1スイッチステップとを実行し、
前記伝送路を通過した光パルスを光パルスνと呼ぶものとし、Eを環境系に漏れた光パルスの状態を表すものとし、光パルスνの伝送路通過後の環境系を含めた全系の状態が、
【数107】


で表されるものとし、
受信装置は、
前記参照光LOと、前記光パルスνとを送信装置から受信する第2スイッチステップと、
量子ビットBを、
【数108】


に初期化する第2初期化ステップと、
前記参照光LOから光パルスνを生成して、前記量子ビットBに対し、前記生成した光パルスνを照射して、量子ビットBが0の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をβ、量子ビットBが1の状態に対応するコヒーレント光の振幅及び位相を表す複素数をβとして、量子もつれ状態
【数109】


を生成する第2相互作用ステップと、
前記光パルスνと、前記光パルスνとを入力とし、系全体の状態
【数110】


(ただし、a:=|α−α|/2、b:=|β−β|/2をa≠bを充たす任意の実数とし、θ、θ、θ、θを任意の実数とする)を形成する光パルスν、νを生成する検出光生成ステップと、
前記光パルスνの光子数に依存した値、および前記光パルスνの光子数に依存した値を測定する検出ステップと、
前期測定された光パルスνと光パルスνが有した光子数に差があるか否かを推定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がある」と推定した場合には、量子もつれの共有が成功したと判定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と、光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がない」と推定した場合には、量子もつれの共有が失敗したと判定する判定ステップと、
を実行することを特徴とする量子もつれ生成方法。
【請求項7】
送信装置と、受信装置とからなる量子もつれ生成方法であって、
送信装置は、
量子ビットAを、αをα≧0を充たす任意の実数、ζα=(αsinθ)/2、Tを伝送路の透過率として、
【数111】


に初期化する第1初期化ステップと、
前記量子ビットAに対し、振幅及び位相が複素数α/√Tで表される光パルスμを照射して、量子もつれ状態
【数112】


を生成する第1相互作用ステップと、
前記光パルスμに、変位演算子
【数113】


を実現する変位演算器を作用させて、合成系の状態
【数114】


を形成する光パルスμを生成する第1変位演算ステップと、
前記第1変位演算ステップで生成された光パルスμと参照光LOとを前記伝送路を通じて受信装置に送信する第1スイッチステップとを実行し、
前記伝送路を通過した光パルスを光パルスνと呼ぶものとし、Eを環境系に漏れた光パルスの状態を表すものとし、光パルスνの伝送路通過後の環境系を含めた全系の状態が、
【数115】


で表されるものとし、
受信装置は、
前記参照光LOと、前記光パルスνとを送信装置から受信する第2スイッチステップと、
量子ビットBを、βをβ>αを充たす任意の実数とし、
【数116】


に初期化する第2初期化ステップと、
前記参照光LOから振幅及び位相が複素数βで表される光パルスνを生成して、前記量子ビットBに対し、前記生成した光パルスνを照射して、量子もつれ状態
【数117】


を生成する第2相互作用ステップと、
前記光パルスνに、変位演算子
【数118】


を実現する変位演算器を作用させて、合成系の状態
【数119】


を形成する光パルスνを生成する第2変位演算ステップと、
前記光パルスνと、前記光パルスνとを入力とし、系全体の状態
【数120】


を形成する光パルスν、νを生成する検出光生成ステップと、
前記光パルスνの光子数に依存した値、および前記光パルスνの光子数に依存した値を測定する検出ステップと、
前期測定された光パルスνと光パルスνが有した光子数に差があるか否かを推定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がある」と推定した場合には、量子もつれの共有が成功したと判定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と、光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がない」と推定した場合には、量子もつれの共有が失敗したと判定する判定ステップと、
を実行することを特徴とする量子もつれ生成方法。
【請求項8】
送信装置と、受信装置とを用いる量子もつれ生成方法であって、
送信装置は、
量子ビットAを、αをα≧0を充たす任意の実数、ζα=(αsinθ)/2として、
【数121】


に初期化する第1初期化ステップと、
前記量子ビットAに対し、振幅及び位相が複素数α/√T(Tを伝送路の透過率とする)で表される光パルスμを照射して、量子もつれ状態
【数122】


を生成する第1相互作用ステップと、
前記光パルスμと参照光LOとを前記伝送路を通じて受信装置に送信する第1スイッチステップとを実行し、
前記伝送路を通過した光パルスを光パルスνと呼ぶものとし、Eを環境系に漏れた光パルスの状態を表すものとし、光パルスνの伝送路通過後の環境系を含めた全系の状態が、
【数123】


で表されるものとし、
受信装置は、
前記参照光LOと、前記光パルスνとを送信装置から受信する第2スイッチステップと、
量子ビットBを、βをβ>αを充たす任意の実数とし、
【数124】


に初期化する第2初期化ステップと、
前記参照光LOから振幅及び位相が複素数βで表される光パルスνを生成して、前記量子ビットBに対し、前記生成した光パルスνを照射して、量子もつれ状態
【数125】


を生成する第2相互作用ステップと、
前記光パルスνと、前記光パルスνとを入力とし、系全体の状態
【数126】


を形成する光パルスν、νを生成する検出光生成ステップと、
前記光パルスνに、変位演算子
【数127】


を実現する変位演算器を作用させて光パルスνを形成する第2変位演算ステップと、
前記光パルスνに、変位演算子
【数128】


を実現する変位演算器を作用させて光パルスνを形成する第1変位演算ステップと、
前記光パルスνおよび光パルスν形成後の系全体の状態が、
【数129】


で表されるものとし、
前記光パルスνの光子数に依存した値、および前記光パルスνの光子数に依存した値を測定する検出ステップと、
前期測定された光パルスνと光パルスνが有した光子数に差があるか否かを推定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がある」と推定した場合には、量子もつれの共有が成功したと判定し、測定された光パルスνの光子数に依存した値と、光パルスνの光子数に依存した値から「光パルスνと光パルスνが有した光子数に差がない」と推定した場合には、量子もつれの共有が失敗したと判定する判定ステップと、
を備えることを特徴とする量子もつれ生成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−38590(P2013−38590A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173031(P2011−173031)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】