説明

量子ゲート方法および装置

【課題】共振器モードと遷移双極子モーメントおよび均一幅の大きな遷移との強い結合を量子ゲートに利用する。
【解決手段】共振器中の物理系iの|0>、|1>で量子ビットを表し、均一幅が|0>と|1>の間のエネルギー差よりも大きい遷移で結ばれた状態を|2>、|3>として、|2>と|3>との間の遷移に共通の共振器モードを共鳴させ、m個の物理系kで共振器モードを利用した量子ビットゲートを行う際に、相互のエネルギーの差が均一幅よりも大きく、|2>、|3>のいずれとも均一幅よりも大きいエネルギー差を持つ|4>、|5>に、|0>、|1>で表していた量子ビットの状態を移し、|3>と|4>間および|5>間の遷移に共鳴する光を利用して物理系間のアディアバティック・パッセージを行い、m個の量子ビット間で量子ビットゲートを行い、|4>、|5>を|0>、|1>に移す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振器モードを利用する量子ゲートにおける量子ゲート方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶中の希土類イオンの核スピンの状態は、固体としては特異的に長いコヒーレンス時間を持ち(4Kで約500μs、磁場印加で82ms、rfパルス列印加で30s)かつ光で制御や読出しができるため、量子情報処理デバイスの固体での実現に極めて適している。この結晶中の核スピンを量子ビットとして利用する際に、相互の結合に共振器モードを利用して、量子ビット数に拡張性のある量子コンピュータを構築する、周波数領域量子コンピュータが提案されている(例えば非特許文献1参照)。しかしながら従来の技術では、共振器モードとの結合に振動子強度の非常に小さいf−f遷移の利用が想定されていたため、結合定数gを量子ビット間の2量子ビットゲート(あるいは多量子ビッとゲート)に十分な大きさにすることが困難である。
【0003】
f−f遷移の利用が想定されていたのは、量子ビットは、コヒーレンス時間の長い電子基底状態の核スピンの状態で表すという前提のもと、以下の2つの条件を満たすためである。(1)単一イオン内の状態(量子ビットの基底状態である|0>と|1>など)を光遷移のエネルギーで区別するために、利用する光遷移の均一幅が核スピンによる分裂幅(10〜100MHz)以下でなくてはならない。(2)量子ビット間の区別を光遷移のエネルギーで行うため、利用する光遷移の均一幅が量子ビット間の区別に使うエネルギー差以下(超微細構造の不均一分布を利用して区別する場合、数kHz程度以下。光遷移の不均一幅を利用して区別する場合、数GHz程度以下)でなければならない。
【非特許文献1】Opt. Commun. 196, 119(2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本来禁制の遷移が結晶場でわずかに許容になったf−f遷移に対し、本来許容のf−d遷移が利用できれば、結合定数の点ではるかに有利(約1000倍)である。しかし、f−d遷移は大きな均一幅(30THz程度以下)を持つため、f−d遷移を利用しつつ上記(1)、(2)に記述されているエネルギーの区別を実現する方法は知られていない。
【0005】
本発明の目的は、共振器モードと遷移双極子モーメントが大きく均一幅の大きな遷移との強い結合を量子ゲートに利用する量子ゲート方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明の量子ゲート方法は、共振器中の複数の物理系を物理系i(1≦i≦n、nは2以上の整数)とし、それぞれの物理系iの有する2つの状態|0>、|1>で量子ビットを表し(状態の添え字はその状態を有する物理系を示す)、それぞれの物理系に対し、均一幅ΔEhomoが、状態|0>と|1>の間のエネルギー差よりも大きい遷移で結ばれた2つの状態であって、相互のエネルギーの差が該均一幅よりも大きい状態を状態|2>、|3>として、状態|2>と|3>との間の遷移に共通の共振器モードを共鳴させ、前記物理系iのうちのm個の物理系k(k=j(1),j(2),…,j(m)、2≦m≦n)で表されるm個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートを行う際に、それぞれの物理系kの2つの状態であって、同一の物理系kの中で相互のエネルギーの差が前記均一幅ΔEhomoよりも大きく、それぞれが状態|2>、|3>のいずれともΔEhomoよりも大きいエネルギー差を持つ状態|4>、|5>(|E(|u>)−E(|v>)|>ΔEhomo、u,v∈{2,3,4,5}、u≠v、E(|s>)は状態sのエネルギーを表す)に、それぞれ|0>、|1>で表していた量子ビットの状態を移し、前記共振器モードと共鳴させた遷移で結ばれた状態の片方の状態|3>と状態|4>間の遷移および状態|3>と状態|5>の間の遷移に共鳴する光を利用して、物理系間のアディアバティック・パッセージを行い、前記m個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートを行い、状態|4>、|5>で表していた量子ビットの状態を状態|0>、|1>に移すことを特徴とする。
【0007】
本発明の量子ゲート方法は、共振器中の複数の物理系を物理系i(1≦i≦n、nは2以上の整数)とし、それぞれの物理系iの有する2つの状態|0>、|1>で量子ビットを表し(状態の添え字はその状態を有する物理系を示す)、それぞれの物理系に対し、均一幅ΔEhomoが、状態|0>と|1>の間のエネルギー差よりも大きい遷移で結ばれた2つの状態であって、相互のエネルギーの差が該均一幅よりも大きい状態を状態|2>、|3>として、状態|2>と|3>との間の遷移に共通の共振器モードを共鳴させ、前記物理系iのうちのm個の物理系k(k=j(1),j(2),…,j(m)、2≦m≦n)で表されるm個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートを行う際に、それぞれの物理系kの2つの状態であって、同一の物理系kの中で相互のエネルギーの差が前記均一幅ΔEhomoよりも大きく、それぞれが状態|2>、|3>のいずれともΔEhomo以上のエネルギー差を持つ状態|4>、|5>であって、異なる物理系の間で相互のエネルギーの差が前記均一幅ΔEhomoよりも大きい状態|4>、|5>(|E(|u>)−E(|v>)|>ΔEhomo、u,v∈{4,5}、q,r∈{j(1),j(2),…,j(m)}、q≠r)に、それぞれ|0>、|1>で表していた量子ビットの状態を移し、前記共振器モードと共鳴させた遷移で結ばれた状態の片方の状態|3>と状態|4>間の遷移および状態|3>と状態|5>の間の遷移に共鳴する光を利用して物理系間のアディアバティック・パッセージを行い、前記m個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートを行い、状態|4>、|5>で表していた量子ビットの状態を状態|0>、|1>に移すことを特徴とする。
【0008】
本発明の量子ゲート方法は、共振器中の複数の物理系を物理系i(1≦i≦n、nは2以上の整数)とし、それぞれの物理系iの有する2つの状態|0>、|1>で量子ビットを表し(状態の添え字はその状態を有する物理系を示す)、それぞれの物理系に対し、均一幅ΔEhomoが、状態|0>と|1>の間のエネルギー差よりも大きい遷移で結ばれた2つの状態であって、相互のエネルギーの差が該均一幅よりも大きい状態を状態|2>、|3>として、状態|2>と|3>との間の遷移に共通の共振器モードを共鳴させ、前記物理系iのうちのm個の物理系k(k=j(1),j(2),…,j(m)、2≦m≦n)で表されるm個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートを行う際に、前記共振器モードと共鳴させた遷移で結ばれた状態|2>と|3>のうちのエネルギーの低い方の状態を|2>とし、かつ状態|2>として、状態|0>あるいは状態|1>とのエネルギー差がΔEhomoよりも大きい状態を用い、状態|0>、|1>のうち状態|2>とのエネルギー差がΔEhomoよりも大きい状態を残してもう片方を状態|2>に移し、前記共振器モードと共鳴する単一光子を外部から入射させ、量子ビット間の量子ビットゲートを行い、前記m個の量子ビット間での単一光子と共振器モードとを利用した量子ビットゲートの終了後に、状態|2>を、状態|0>と|1>のうちの単一光子入射前に状態|2>へ移された状態に戻すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の量子ゲート方法および装置によれば、共振器モードと遷移双極子モーメントが大きく均一幅の大きな遷移との強い結合を量子ゲートに利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る量子ゲート方法および装置について詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、同一の番号を付した部分については同様の動作を行うものとして、重ねての説明を省略する。
【0011】
本実施形態の量子ゲート装置について図1を参照して説明する。
本実施形態の量子ゲート装置は、光源部101、光制御部102、共振器付き結晶103、クライオスタット104を含む。
【0012】
光源部101は、レーザーを生成しこのレーザーのスペクトル幅を搾取化する。光源部101は例えば9種類のレーザーを生成する。
光制御部102は、光学効果素子を使用してレーザーの周波数および強度を設定する。
共振器付き結晶103は、内部に結晶(例えば希土類イオンを含む酸化物結晶)を有していて特定の共鳴周波数を持つ光に共鳴する。
クライオスタット104は、内部の温度を低温(例えば1.5K)に保つ。クライオスタット104の内部には共振器付き結晶103が設置されている。
それぞれの具体的な動作は後に実施例で説明する。
【0013】
次に、本発明により、通常はエネルギー差が小さくコヒーレンス時間の長い状態で表されている量子ビットに対して、均一幅の大きな遷移と共振器モードとの強い結合を利用しつつ、量子ビットを表す状態を量子ビット内、および量子ビット間において遷移エネルギーで区別できるようにし、量子ゲートが可能になる機構を説明する。また、量子ビットを表す物理系と共振器モードとの結合が強くなることにより、量子ゲートの性能が向上する(失敗確率が減少する)機構も説明する。
【0014】
エネルギー差の小さい2状態で量子ビットを表し、量子ビットの操作に光を使う場合の量子ゲートについて図2を参照して説明する。例えば、酸化物結晶中の希土類イオンの超微細構造分裂で分離した核スピンの状態を量子ビットとして利用する場合が相当する。
【0015】
量子ゲートでは、一つの量子ビット内で量子ビットの量子状態を操作する場合がある。その際、量子ビットを表す複数の量子状態(例えば量子ビットの基底)を区別して操作する必要がある。図2(a)に、量子ビットを表す状態|0>、|1>を|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移にそれぞれ共鳴する光1、光2を照射し操作する様子を示す。その際、照射する2つの光の強度の時間変化などを光1、光2のそれぞれに対して制御し、量子ビットを操作するので、光1、光2は、それぞれ|0>−|e>間遷移、|1>−|e>間遷移にのみ共鳴するのが望ましい。そのために|0>−|e>間遷移、|1>−|e>間遷移の均一幅は状態|0>と|1>のエネルギー差よりも小さい必要がある。
【0016】
また、量子ゲートには、2量子ビット間の操作が必要である。その際、量子ビットを遷移周波数の違いで区別し操作するためには、量子ゲートを行う2つの量子ビットの間での遷移周波数の違いよりも、操作に利用する遷移の均一幅が狭い必要がある。図2(b)にその様子を示す。図2(b)中の物理系1と物理系2の|A>−|e>間遷移は共通の共振器モードに共鳴し、これにより2量子ビット間の操作が可能になっている。(その前にいくつかの操作が必要であるが)物理系1の|0>−|e>間遷移に光3を、物理系2の|0>−|e>間遷移に光4を共鳴させて2量子ビット間の操作を行うためには、物理系1と物理系2との間での|0>−|e>間遷移周波数の差よりも、|0>−|e>間遷移の均一幅が小さい必要がある。
【0017】
さらに、2量子ビット間のゲートに利用する共振器モードとの結合が|A>−|e>間遷移にのみ共鳴するためには、|A>−|e>間遷移の均一幅が(図2(b)で示されている場合では)状態|0>と|A>との間および|1>と|A>との間のエネルギー差よりも小さい必要がある。
【0018】
このように、量子ビット内あるいは量子ビット間で量子ビットを表す状態をエネルギーで区別して操作をするために、操作に利用する遷移の均一幅が、量子ビットを通常あるいは一時的に表す状態間のエネルギー差よりも小さい必要がある。
【0019】
次に、量子ビットの操作に利用する遷移の均一幅が量子ビットを表す状態間のエネルギー差よりも大きい場合について図3を参照して説明する。
この場合、量子ビット内での量子ビットを表す状態の区別(図3(a)の光1と光2に共鳴する状態の区別や、図3(b)の光3、光4に共鳴する状態と共振モードに共鳴する状態との区別)ができなくなり、また量子ビット間での量子ビットを表す状態の区別(図3(b)の光3と光4に共鳴する状態が属する物理系の区別)もできなくなる。
【0020】
ところで、上記の量子状態間の区別という点では、量子ビット操作に利用する遷移の均一幅は狭い方が有利である。しかし、後述するように、量子ゲートの成功確率、量子ゲートに必要な時間等の点では、共振器モードと量子ビット操作に利用する遷移との結合が強い方が有利であり、そのためには遷移双極子モーメントが大きな遷移の利用が望ましく、その結果、遷移は少なくとも遷移確率に応じた大きな均一幅を持つことになる。
【0021】
本発明では、量子ビットを表している状態間のエネルギー差が小さい場合でも、共振器モードとの結合に遷移双極子モーメントの大きな遷移を用いて、性能の高い量子ゲートを実現するために、以下の方法を用いる。
2量子ビット間のゲート操作で遷移双極子モーメントが大きく均一幅の大きな遷移と強く結合した共振器モードを利用する時に、エネルギー差の小さい状態|0>、|1>で表していた量子ビットを、エネルギー差が利用する遷移の均一幅よりも大きなエネルギー差を持つ2状態|4>、|5>に移す。後ほど本発明を用いた2種類の量子ゲートの方法の例を説明するが、その中の第2の量子ゲートの方法では、|0>と|1>の一方の状態を共振器モードと共鳴する遷移の2状態のうちの一つである状態|2>に移し、残りの状態と|2>とのエネルギー差を利用する遷移の均一幅よりも大きくするだけでもよい。
【0022】
例えば、ある物理系kの状態|0>、|1>で表していた量子ビットの状態を状態|4>、|5>あるいは状態|2>に移すために、状態|0>と|4>の間の遷移への共鳴を横切るように周波数を変化させた光を照射し、また、状態|1>と|5>の間の遷移への共鳴を横切るように周波数を変化させた光を照射するか、または、状態|1>と|2>の間の遷移への共鳴を横切るように周波数を変化させた光を照射して、2状態間のアディアバティック・パッセージを利用する。他に、状態|0>、|1>で表していた量子ビットの状態を状態|4>、|5>あるいは状態|2>に移すために、状態|0>と|4>の間の遷移に共鳴するπパルス光を照射し、また、状態|1>と|5>の間の遷移に共鳴するπパルス光を照射するか、または、状態|1>と|2>の間の遷移に共鳴するπパルス光を照射するかして、πパルス光が共鳴する遷移の2状態を入れ替えることを利用してもよい。
【0023】
これらの状態で、共振器モードを利用した操作を行い、2量子ビット間の共振器モードを利用した操作が終わった後、|4>、|5>あるいは|2>に移していた状態を、それぞれ|0>、|1>あるいは移動前に量子ビットを表していた状態の片方に戻す。
【0024】
一般に、量子ビットを表す2状態は、コヒーレンス時間の長い状態が選択されており、それを|4>、|5>、|2>などの他の状態に移すと、その間デコヒーレンス(コヒーレンスの劣化)が早く進む場合が多いと考えられる。しかし強い共振器モードと物理系との結合による速いゲートが可能になるため、他の状態に移している間のコヒーレンス時間でも、十分長いと見なすことができるようになる。
【0025】
2量子ビット間の量子ゲートの方法として、例えば以下の2つの方法がある。
第1の方法は、共通の共振器モードに共鳴することで繋がれた量子ビットを古典的な光(コヒーレント光)で操作して、2量子ビット間の量子ゲートを行う方法である。図4を用いてこの方法を説明する。
【0026】
この方法では、お互いの状態間の遷移双極子モーメントが小さく、遷移の均一幅の狭い複数の状態(A状態と呼ぶ)と、A状態との遷移双極子モーメントが大きく、A状態との遷移の均一幅(ΔEhomo)が広い状態(B状態と呼ぶ)とを有する複数の物理系を用いる。A状態の中の、エネルギー差ΔEqubitの2つの状態|0>、|1>で、2量子ビットゲート操作中ではない物理系の量子ビットが表されている。通常、状態|0>、|1>はΔEqubitが小さく、コヒーレンス時間の長い状態である。すなわち、ΔEhomo>ΔEqubitを満たす。このような複数の物理系が光共振器の中に入れられ、それぞれの物理系のA状態の中の一つの状態|2>とB状態(|3>とする)とを結ぶ遷移が、共通の共振器モードと共鳴している。なお、状態|2>と|3>のエネルギー差はΔEhomoよりも大きい。
【0027】
これらの複数の物理系で表されている複数の量子ビットのうち、k番目とl番目の量子ビットで2量子ビットゲートを行う場合には、k番目とl番目の物理系に対して、次の(1)〜(3)に示す一連の操作を行う。
(1)量子ビットの状態|0>、|1>を、それぞれ|4>と|5>に移す。ただし、状態|4>と|5>のエネルギー差はΔEhomoよりも大きく、また|4>と|5>の両方と、|2>と|3>の両方との4通りの組み合わせに対するエネルギー差もΔEhomoよりも大きい状態である(図4(a))。(2)状態|4>−|3>間、|5>−|3>間遷移に共鳴する光パルスを照射し、アディアバティック・パッセージによるゲート操作を行う(図4(b))。(3)状態|4>、|5>を、状態|0>、|1>に戻す。
上記(1)では、物理系i(1≦i≦n、nは2以上の整数)のうちのm個の物理系k(k=j(1),j(2),…,j(m)、2≦m≦n)で表されるm個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートを行う際に、それぞれの物理系kの2つの状態であって、同一の物理系kの中で相互のエネルギーの差が均一幅ΔEhomoよりも大きく、それぞれが状態|2>、|3>のいずれともΔEhomoよりも大きいエネルギー差を持つ状態|4>、|5>(|E(|u>)−E(|v>)|>ΔEhomo、u,v∈{2,3,4,5}、u≠v、E(|s>)は状態sのエネルギーを表す)に、それぞれ|0>、|1>で表していた量子ビットの状態を移す。他に、物理系iのうちのm個の物理系kで表されるm個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートを行う際に、それぞれの物理系kの2つの状態であって、同一の物理系kの中で相互のエネルギーの差が均一幅ΔEhomoよりも大きく、それぞれが状態|2>、|3>のいずれともΔEhomoよりも大きいエネルギー差を持つ状態|4>、|5>であって、異なる物理系の間で相互のエネルギーの差が均一幅ΔEhomoよりも大きい状態|4>、|5>(|E(|u>)−E(|v>)|>ΔEhomo、u,v∈{4,5}、q,r∈{j(1),j(2),…,j(m)}、q≠r)に、それぞれ|0>、|1>で表していた量子ビットの状態を移してもよい。
【0028】
第2の方法では、共通の共振器モードに共鳴することで繋がれた量子ビットに対して、共振器モードに単一光子を入射することにより、2量子ビットゲート操作を施す。
この方法でも、第1の方法と同様の物理系を用い、同様の状態|0>、|1>で2量子ビットゲート操作中ではない物理系の量子ビットが表されている。ただしこの方法では、共振器に入射した光子がほぼいつでも入射した光路を反対向きに戻ってくる片側共振器(反射率100%に近いミラーと、それよりも低反射率のミラーからなる光共振器)を利用する。
【0029】
第2の方法の場合、k番目とl番目の量子ビットで2量子ビットゲートを行う場合には、k番目とl番目の物理系に対し、次の(1)〜(3)の一連の操作を行う。(1)状態|1>を、状態|2>に移す。(2)反射率が低いミラーの方から、量子ビットを繋いでいる共振器モードに対して単一光子を入射する(図5)。この操作で2量子ビットゲートである制御位相ゲートを行う。(3)状態|2>を|1>に戻す。
【0030】
(1)の操作を、k番目とl番目の物理系に対し選択的に行うには、それぞれの物理系の状態を、一旦状態|2>ではないA状態に移し(その際に、操作する光の周波数でk番目とl番目を選択する)、さらにその状態から状態|2>へ移せばよい(図中の破線で示した過程)。
【0031】
この一連の操作において、状態|1>の替わりに状態|0>を状態|2>に移し、単一光子入射後、また状態|0>に戻してもよい。
【0032】
第1の方法では、共振器モードと遷移との強い結合をアディアバティック・パッセージに利用できるため、速いゲートが可能になり、ゲートの際の失敗確率を減らすことができる。第2の方法では、共振器モードと遷移との強い結合により、大きなノーマルモード・スプリッティングが生じるため、同じパルス幅のパルス光で(同じゲートの速さで)比較した場合、やはり失敗確率を減らすことができる。
【0033】
第1の方法の利点をもう少し詳しく述べる。共振器モードで結合した物理系にアディアバティック・パッセージを適用した2量子ビットゲートでは、光共振器の減衰定数が大きいほど、また共振器モードと結合する遷移の緩和速度が速いほど、誤り確率が大きくなる。誤り確率Pが、共振器の緩和に起因するκ・Tと、遷移の緩和に起因する(Γ・T)/(g・T)との和で表されるとする。ここでκは共振器の減衰定数、Tはゲートにかかる時間、Γは遷移の緩和速度、gは共振器モードとイオンとの結合定数である。PをまずTの関数と考えると、PはTmin=(1/g)・(Γ/κ)1/2で最小値2・{(κ・Γ)/g1/2をとる。この値がゲート時間最適化後の誤り確率である。ところで、現実的な物理系として、光共振器中の希土類イオン分散結晶を考え、共振器モードと結合する遷移として、均一幅の狭いf−f遷移を利用するとすると、g〜100kHz、κ〜50kHz、Γ〜2kHz程度なので、Tmin〜2×10−6<1/gとなり、結合定数の逆数程度よりも長い時間をかけるというアディアバティックの条件を満たしていない。その結果、緩和の起こる上状態への励起が起こりやすくなり、緩和による失敗確率が増えると考えられる。ところが、均一幅の広いf−d遷移が利用できるとすると、gが例えば100〜1000倍程度となり、アディアバティックの条件を満たすため、最小のPが実現できると予想される。以上のようにして量子ゲートの失敗確率を減らすことができる。
【0034】
以上の実施形態によれば、共振器モードを利用する量子ゲートにおいて、エネルギー差が小さくコヒーレンス時間の長い状態で表されている量子ビットに対して、共振器モードを利用する操作の間、一時的に、個々の量子ビットを表す2状態間のエネルギーの差または異なる量子ビット間での量子ビットを表す状態のエネルギーの差が大きな状態で量子ビットを表すことにより、遷移双極子モーメントが大きく遷移の均一幅が量子ビットを通常表している2状態間のエネルギー差、あるいは量子ビット間での量子ビットを通常表している状態のエネルギー差よりも大きい遷移に共鳴させた共振器モードを利用しても、量子ビット内での量子ビットを表す2状態の区別、あるいは量子ビット間での量子ビットを表す状態の区別を可能にし、共振器モードと遷移双極子モーメントが大きな遷移との強い結合を量子ゲートに利用することを可能にすることができる。
【実施例】
【0035】
(第1の実施例)
本実施例の量子ゲート方法および装置では、量子ビットとして、YSiOの10−3%のY3+イオンをPr3+イオンに置換したPr3+:YSiO結晶中のPr3+イオンを利用する。結晶は10mm×10mm×10mm程度の大きさで、表面に超高反射率のミラーが形成され、共振器構造になっている。またその共振器モードは、Pr3+イオンの−5dバンド間遷移に共鳴し、モードウエスト半径が約1μmとなっている。結晶は、クライオスタット中に設置され1.5Kに保たれる。Pr3+:YSiO結晶中のPr3+イオンのエネルギー状態のうち、本実施例にかかわるものを図6に示す。
【0036】
本実施例の量子ゲート装置について図7を参照して説明する。
本実施例の量子ゲート装置は、アルゴンイオンレーザー励起リングチタンサファイアレーザー701,703,708,709、リング色素レーザー702,704,705,706,707,周波数狭窄化システム710、2倍波用非線形結晶711、ミラー712、ビームスプリッター713、差周波用非線形結晶714、周波数設定用音響光学効果素子715、強度設定用音響光学効果素子716、制御部717、共振器付き結晶103、クライオスタット104を含む。なお、レーザー701,703,708,709、702,704,705,706,707、周波数狭窄化システム710、2倍波用非線形結晶711、ミラー712、ビームスプリッター713、および、差周波用非線形結晶714が光源部101に対応し、周波数設定用音響光学効果素子715、強度設定用音響光学効果素子716、制御部717、および、ミラー712が光制御部102に対応する。
【0037】
2量子ビットゲート操作の際、対象となる量子ビットを表している2つのイオンの片方(イオン1とする)を操作するため、アルゴンイオンレーザー励起のリング色素レーザー2台(レーザー1 702、レーザー2 704とする)とアルゴンイオンレーザー励起リングチタンサファイアレーザー2台(レーザー3 701、レーザー4 703とする)を用意し、レーザー1 702とレーザー3 701は、参照用共振器と音響光学効果素子および電気光学効果素子によるフィードバック系(周波数狭窄化システム710)で、1kHzにスペクトルを狭窄化し、絶対周波数も安定化させて用いる。レーザー3 701、レーザー1 702からの光をそれぞれ光1、光2とする。またレーザー4 703からの光は、さらに2倍波用非線形結晶711を通され、周波数を2倍にして用いる。この光を光3、レーザー2 704からの光を光4とする。
【0038】
もう片方のイオン(イオン2とする)を操作するために、さらにアルゴンイオンレーザー励起のリング色素レーザー3台(レーザー5 705、レーザー6 706、レーザー7 707とする)、アルゴンレーザー励起リングチタンサファイアレーザー2台(レーザー8 708、レーザー9 709とする)を用意する。レーザー5 705からの光は2つに分けられ、片方はレーザー8 708と非線形結晶714により差周波を取られ、もう片方はレーザー9 709と差周波をとられて、それぞれ参照用共振器と音響光学効果素子および電気光学効果素子によるフィードバック系(周波数狭窄化システム710)で、1kHzにスペクトルが狭窄化される。こうして得た光をそれぞれ光5、光6とする。レーザー6 706、レーザー7 707からの光はそれぞれ非線形結晶711で2倍波とし、それぞれ光7、光8とする。
光1〜8は、それぞれ、制御部717からの信号で制御された周波数設定用音響光学効果素子715と強度設定用音響光学効果素子716により、周波数と強度を調整されている。
【0039】
イオン1に関して、核スピンに起因して分裂した状態にまで分解した間遷移の遷移周波数の一つをν104とする。その遷移の下の状態は、のシュタルク分裂した状態のうち最もエネルギーが低い状態が核スピンの状態により3つに分裂した状態の一つである±|5/2>となっており、これを|0>とする。上の状態は|4>とする。また、核スピンに起因して分裂した状態にまで分解した間遷移の遷移周波数の一つをν115とする。その遷移の下の状態は、のシュタルク分裂した状態のうち最もエネルギーが低い状態が核スピンの状態により3つに分裂した状態の一つである±|3/2>となっており、これを|1>とする。上の状態は|5>とする。
【0040】
イオン2に関しては、核スピンに起因して分裂した状態にまで分解した間遷移の遷移周波数の一つをν204とする。その遷移の下の状態は、のシュタルク分裂した状態のうち最もエネルギーが低い状態が核スピンの状態により3つに分裂した状態の一つである±|5/2>となっており、これを|0>とする。上の状態は|4>とする。また、核スピンに起因して分裂した状態にまで分解した間遷移の遷移周波数の一つをν215とする。その遷移の下の状態は、のシュタルク分裂した状態のうち最もエネルギーが低い状態が核スピンの状態により3つに分裂した状態の一つである±|3/2>となっており、これを|1>とする。上の状態は|5>とする。
【0041】
光1はν104、光2はν115、光3は−5dバンド間遷移、光4は−5dバンド間遷移、光5はν204、光6はν215、光7は−5dバンド間遷移、光8は−5dバンド間遷移にそれぞれ共鳴させることができる。
【0042】
イオン1とイオン2の間で、2量子ビットゲートを行う場合、まず、光1、光2、光5、光6を、それぞれ周波数ν104、ν115、ν204、ν215を横切るように周波数掃引しつつ結晶に照射し、2状態とひとつの光によるアディアバティック・パッセージによって、状態|0>、|1>、|0>、|1>をそれぞれ状態|4>、|5>、|4>、|5>に移す。その際、光1、光2、光5、光6のπパルスを利用して、状態を移してもよい。次に、本実施例では、“Phys. Rev. A 70, 012305 (2004).”に記載の方法で、光3、光4、光7、光8の光パルスを照射することにより、イオン1で表される量子ビット(量子ビット1とする)とイオン2で表される量子ビット(量子ビット2とする)の間で、制御位相反転ゲートを行う。その際、イオン1とイオン2の−5d間遷移と共振器モードとの強い結合を利用している。−5d間遷移の均一幅、および光3、光4、光7、光8の光パルスを作用させる−5dバンド間遷移、−5dバンド間遷移、−5dバンド間遷移、−5dバンド間遷移の均一幅は、状態|0>−|1>間、|0>−|1>間のエネルギー差よりも大きいが、これらの状態を、それぞれエネルギー差が大きな2状態すなわち、状態|4>と|5>および|4>と|5>に移したため、−4f5d間遷移と共振器モードとの強い結合を利用した量子ゲートが可能になっている。
【0043】
光3、光4、光7、光8の光パルス照射後、状態|4>、|5>、|4>、|5>で表されている情報を、状態|0>、|1>、|0>、|1>に戻す。本実施例の場合、状態|4>、|5>、|4>、|5>が属してしている4つの状態、はそれぞれ結晶場でシュタルク分裂した複数の状態からなっており、そのそれぞれが、核スピンの状態によりさらに分裂している。従って、本実施例の場合は、実は4つの光パルス照射後、情報は状態|4>、|5>、|4>、|5>だけでなく、それぞれの状態にエネルギー的に近い複数の状態に分散されて蓄えられている。その様子を状態|4>について示すと、下記の(1)のようになる。
【数1】

【0044】
情報は上記(1)のαに蓄えられている。この分散された状態をまとめて状態|0>に移す必要がある。その方法は、状態|4>に関しては以下のようになる。光3、光4、光7、光8の光パルス照射の方法は決められているため(イオン1、イオン2、共振器モード系にユニタリー変換を施すだけであるため)、αの値(相互比率)は予めわかる。まず適当な状態、例えばの状態の一つを選び|a>とする。状態|と|a>との間を結ぶ遷移に共鳴するN個の光と、|0>と|a>との間を結ぶ遷移に共鳴する光を用意し(図7では省略されている)、αに応じた強度の時間変化をもつ光を照射することで、分散していた確率振幅をまとめて、|4>に移すことができると考えられる。同様にして、状態|5>、|4>、|5>とそのそれぞれの近傍の状態で表されている情報も、それぞれ状態|1>、|0>、|1>に移すことができると考えられる。
【0045】
本実施例では、1量子ビットゲート操作は、光2、光6をそれぞれ3つにわけ、音響光学効果素子で周波数ν115、ν115+17.3MHz、ν115−10.2MHz、ν215、ν215+17.3MHz、ν215−10.2MHzの光を生成し、それらを結晶に照射することで、2つのπパルス光照射と1つのパルス光照射により、あるいは、3つの光照射によるアディアバティック・パッセージにより、実行することができる。また、結果の読み出しは、量子ビット1に関しては、状態|0>または|1>を、量子ビット2に関しては、状態|0>または|1>を、の状態にアディアバティック・パッセージあるいはπパルス照射で移し、共振器モードに現れる真空ラビ分裂(単一物理系によるノーマルモード・スプリッティング)を観測することで実行できる。
【0046】
以上のようにして、状態|0>、|1>、|0>、|1>で表されている量子ビット1と量子ビット2に対し、遷移双極子モーメントが大きく、共振器モードとの結合定数を大きくできるf−d遷移を利用した2量子ビットゲート操作を、施すことが可能になる。また、2量子ビットゲートを施すイオンは、光遷移の不均一幅の中から選ぶので、量子ビット数の拡張性にも優れた方法となっている。
【0047】
(第2の実施例)
第1の実施例において、2量子ビットゲート操作を施したいイオン1、イオン2に対して、状態|0>、|1>、|0>、|1>をそれぞれ状態|4>、|5>、|4>、|5>に移すかわりに、状態|1>、|1>のみをそれぞれ状態|5>、|5>に移す。さらに間遷移に共鳴する光をリング色素レーザーとチタンサファイアレーザーの差周波を取ることで用意し、|5>をイオン1のに移す。またリング色素レーザーで用意した光により、|5>をイオン2のに移す。本実施例では、この状態の共振器モードと物理系に対し、“Phys. Rev. A 72, 032333 (2005).”に記載の方法を適用する。すなわち、共振器モードに、単一光子源から発生させた単一光子を入射させる。これにより、量子ビット1と量子ビット2の間で、制御位相ゲートが実行される。最後に第1の実施例と同様の方法で、イオン1とイオン2のの状態に蓄えられている情報を、それぞれ状態|1>と|1>に移す。
【0048】
本実施例でも、1量子ビットゲート操作は第1の実施例と同様の方法で行うことができる。また、結果の読み出しも第1の実施例と同様の方法で可能である。
【0049】
以上のようにして、本実施例でも状態|0>、|1>、|0>、|1>で表されている量子ビット1と量子ビット2に対し、遷移双極子モーメントが大きく、共振器モードとの結合定数を大きくできるf−d遷移を利用した2量子ビットゲート操作を、施すことが可能になる。また、2量子ビットゲートを施すイオンは、光遷移の不均一幅の中から選ぶので、量子ビット数の拡張性に優れた方法となっている。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施形態の量子ゲート装置のブロック図。
【図2】光を使った量子ゲートにおける、エネルギーを使った状態の区別と量子ビットの区別を説明するための図。
【図3】均一幅の広い遷移を量子ビットの操作に利用する場合を説明するための図。
【図4】実施形態の量子ゲート方法の第1の方法について説明するための図。
【図5】実施形態の量子ゲート方法の第2の方法について説明するための図。
【図6】実施例で利用するYSiO結晶中のPr3+イオンのエネルギー状態を模式的に示した図。
【図7】実施例の量子ゲート装置のブロック図。
【符号の説明】
【0052】
101・・・光源部、102・・・光制御部、103・・・共振器付き結晶、104・・・クライオスタット、701,703,708,709・・・アルゴンイオンレーザー励起リングチタンサファイアレーザー、702,704,705,706,707・・・リング色素レーザー、710・・・周波数狭窄化システム、711・・・2倍波用非線形結晶、712・・・ミラー、713・・・ビームスプリッター、714・・・差周波用非線形結晶、715・・・周波数設定用音響光学効果素子、716・・・強度設定用音響光学効果素子、717・・・制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振器中の複数の物理系を物理系i(1≦i≦n、nは2以上の整数)とし、それぞれの物理系iの有する2つの状態|0>、|1>で量子ビットを表し(状態の添え字はその状態を有する物理系を示す)、それぞれの物理系に対し、均一幅ΔEhomoが、状態|0>と|1>の間のエネルギー差よりも大きい遷移で結ばれた2つの状態であって、相互のエネルギーの差が該均一幅よりも大きい状態を状態|2>、|3>として、状態|2>と|3>との間の遷移に共通の共振器モードを共鳴させ、
前記物理系iのうちのm個の物理系k(k=j(1),j(2),…,j(m)、2≦m≦n)で表されるm個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートを行う際に、それぞれの物理系kの2つの状態であって、同一の物理系kの中で相互のエネルギーの差が前記均一幅ΔEhomoよりも大きく、それぞれが状態|2>、|3>のいずれともΔEhomoよりも大きいエネルギー差を持つ状態|4>、|5>(|E(|u>)−E(|v>)|>ΔEhomo、u,v∈{2,3,4,5}、u≠v、E(|s>)は状態sのエネルギーを表す)に、それぞれ|0>、|1>で表していた量子ビットの状態を移し、
前記共振器モードと共鳴させた遷移で結ばれた状態の片方の状態|3>と状態|4>間の遷移および状態|3>と状態|5>の間の遷移に共鳴する光を利用して、物理系間のアディアバティック・パッセージを行い、
前記m個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートを行い、
状態|4>、|5>で表していた量子ビットの状態を状態|0>、|1>に移すことを特徴とする量子ゲート方法。
【請求項2】
共振器中の複数の物理系を物理系i(1≦i≦n、nは2以上の整数)とし、それぞれの物理系iの有する2つの状態|0>、|1>で量子ビットを表し(状態の添え字はその状態を有する物理系を示す)、それぞれの物理系に対し、均一幅ΔEhomoが、状態|0>と|1>の間のエネルギー差よりも大きい遷移で結ばれた2つの状態であって、相互のエネルギーの差が該均一幅よりも大きい状態を状態|2>、|3>として、状態|2>と|3>との間の遷移に共通の共振器モードを共鳴させ、
前記物理系iのうちのm個の物理系k(k=j(1),j(2),…,j(m)、2≦m≦n)で表されるm個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートを行う際に、それぞれの物理系kの2つの状態であって、同一の物理系kの中で相互のエネルギーの差が前記均一幅ΔEhomoよりも大きく、それぞれが状態|2>、|3>のいずれともΔEhomo以上のエネルギー差を持つ状態|4>、|5>であって、異なる物理系の間で相互のエネルギーの差が前記均一幅ΔEhomoよりも大きい状態|4>、|5>(|E(|u>)−E(|v>)|>ΔEhomo、u,v∈{4,5}、q,r∈{j(1),j(2),…,j(m)}、q≠r)に、それぞれ|0>、|1>で表していた量子ビットの状態を移し、
前記共振器モードと共鳴させた遷移で結ばれた状態の片方の状態|3>と状態|4>間の遷移および状態|3>と状態|5>の間の遷移に共鳴する光を利用して物理系間のアディアバティック・パッセージを行い、
前記m個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートを行い、
状態|4>、|5>で表していた量子ビットの状態を状態|0>、|1>に移すことを特徴とする量子ゲート方法。
【請求項3】
共振器中の複数の物理系を物理系i(1≦i≦n、nは2以上の整数)とし、それぞれの物理系iの有する2つの状態|0>、|1>で量子ビットを表し(状態の添え字はその状態を有する物理系を示す)、それぞれの物理系に対し、均一幅ΔEhomoが、状態|0>と|1>の間のエネルギー差よりも大きい遷移で結ばれた2つの状態であって、相互のエネルギーの差が該均一幅よりも大きい状態を状態|2>、|3>として、状態|2>と|3>との間の遷移に共通の共振器モードを共鳴させ、
前記物理系iのうちのm個の物理系k(k=j(1),j(2),…,j(m)、2≦m≦n)で表されるm個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートを行う際に、前記共振器モードと共鳴させた遷移で結ばれた状態|2>と|3>のうちのエネルギーの低い方の状態を|2>とし、かつ状態|2>として、状態|0>あるいは状態|1>とのエネルギー差がΔEhomoよりも大きい状態を用い、状態|0>、|1>のうち状態|2>とのエネルギー差がΔEhomoよりも大きい状態を残してもう片方を状態|2>に移し、
前記共振器モードと共鳴する単一光子を外部から入射させ、量子ビット間の量子ビットゲートを行い、
前記m個の量子ビット間での単一光子と共振器モードとを利用した量子ビットゲートの終了後に、状態|2>を、状態|0>と|1>のうちの単一光子入射前に状態|2>へ移された状態に戻すことを特徴とする量子ゲート方法。
【請求項4】
前記物理系が結晶中の希土類イオンであり、量子ビットを表す2つの状態|0>と|1>が電子基底状態の超微細構造分裂で分離した2つの状態であり、前記共振器モードと共鳴させた遷移で結ばれた状態の一方の状態が4f電子の状態でもう一方の状態が5d電子の状態であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の量子ゲート方法。
【請求項5】
状態|0>、|1>で表していた量子ビットの状態を状態|4>、|5>あるいは状態|2>に移すために、状態|0>と|4>の間の遷移への共鳴を横切るように周波数を変化させた光を照射し、また、状態|1>と|5>の間の遷移への共鳴を横切るように周波数を変化させた光を照射するか、または、状態|1>と|2>の間の遷移への共鳴を横切るように周波数を変化させた光を照射して、2状態間のアディアバティック・パッセージを利用することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の量子ゲート方法。
【請求項6】
状態|0>、|1>で表していた量子ビットの状態を状態|4>、|5>あるいは状態|2>に移すために、状態|0>と|4>の間の遷移に共鳴するπパルス光を照射し、また、状態|1>と|5>の間の遷移に共鳴するπパルス光を照射するか、または、状態|1>と|2>の間の遷移に共鳴するπパルス光を照射するかして、πパルス光が共鳴する遷移の2状態を入れ替えることを利用することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の量子ゲート方法。
【請求項7】
共振器と、
前記共振器中に含まれる複数の物理系i(1≦i≦n、nは2以上の整数)であって、物理系iの有する2つの状態|0>、|1>で量子ビットを表し(状態の添え字はその状態を有する物理系を示す)、それぞれの物理系に対し、均一幅ΔEhomoが、状態|0>と|1>の間のエネルギー差よりも大きい遷移で結ばれた2つの状態であって、相互のエネルギーの差が該均一幅よりも大きい状態|2>、|3>を有する物理系iと、
前記共振器の共振器モードが物理系iの有する、均一幅ΔEhomoが状態|0>と|1>の間のエネルギー差よりも大きい遷移に共鳴し、前記物理系iのうちのm個の物理系k(k=j(1),j(2),…,j(m)、2≦m≦n)で表されるm個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートを行う際に、それぞれの物理系kの2つの状態であって、同一の物理系kの中で相互のエネルギーの差が前記均一幅ΔEhomoよりも大きく、それぞれが状態|2>、|3>のいずれともΔEhomoよりも大きいエネルギー差を持つ状態|4>、|5>(|E(|u>)−E(|v>)|>ΔEhomo、u,v∈{2,3,4,5}、u≠v、E(|s>)は状態sのエネルギーを表す)に、それぞれ|0>、|1>で表していた量子ビットの状態を移し、前記m個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートの終了後に、状態|4>、|5>で表していた量子ビットの状態を状態|0>、|1>に移すための第1光源と、
前記共振器モードと共鳴させた遷移で結ばれた状態の片方の状態|3>と状態|4>間の遷移および状態|3>と状態|5>の間の遷移に共鳴する光を利用して物理系間のアディアバティック・パッセージを行うための第2光源と、
前記第1光源および前記第2光源から発生する光の時間波形を制御する制御部を具備することを特徴とする量子ゲート装置。
【請求項8】
共振器と、
前記共振器中の複数の物理系を物理系i(1≦i≦n、nは2以上の整数)であって、物理系iの有する2つの状態|0>、|1>で量子ビットを表し(状態の添え字はその状態を有する物理系を示す)、それぞれの物理系に対し、均一幅ΔEhomoが、状態|0>と|1>の間のエネルギー差よりも大きい遷移で結ばれた2つの状態であって、相互のエネルギーの差が該均一幅よりも大きい状態|2>、|3>を有する物理系iと、
前記共振器の共振器モードが物理系iの有する、均一幅ΔEhomoが状態|0>と|1>の間のエネルギー差よりも大きい遷移に共鳴し、前記物理系iのうちのm個の物理系k(k=j(1),j(2),…,j(m)、2≦m≦n)で表されるm個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートを行う際に、それぞれの物理系kの2つの状態であって、同一の物理系kの中で相互のエネルギーの差が前記均一幅ΔEhomoよりも大きく、それぞれが状態|2>、|3>のいずれともΔEhomo以上のエネルギー差を持つ状態|4>、|5>であって、異なる物理系の間で相互のエネルギーの差が前記均一幅ΔEhomoよりも大きい状態|4>、|5>(|E(|u>)−E(|v>)|>ΔEhomo、u,v∈{4,5}、q,r∈{j(1),j(2),…,j(m)}、q≠r)に、それぞれ|0>、|1>で表していた量子ビットの状態を移し、前記m個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートの終了後に、状態|4>、|5>で表していた量子ビットの状態を状態|0>、|1>に移すための第1光源と、
前記共振器モードと共鳴させた遷移で結ばれた状態の片方の状態|3>と状態|4>間の遷移および状態|3>と状態|5>の間の遷移に共鳴する光を利用して物理系間のアディアバティック・パッセージを行うための第2光源と、
前記第1光源および前記第2光源から発生する光の時間波形を制御する制御部を具備することを特徴とする量子ゲート装置。
【請求項9】
共振器と、
前記共振器中に含まれる複数の物理系i(1≦i≦n、nは2以上の整数)であって、物理系iの有する2つの状態|0>、|1>(状態の添え字はその状態を有する物理系を示す)で量子ビットを表す物理系iと、
前記共振器の共振器モードが物理系iの有する、均一幅ΔEhomoが状態|0>と|1>の間のエネルギー差よりも大きい遷移に共鳴し、前記物理系iのうちのm個の物理系k(k=j(1),j(2),…,j(m)、2≦m≦n)で表されるm個の量子ビット間で共振器モードを利用した量子ビットゲートを行う際に、前記共振器モードと共鳴させた遷移で結ばれた状態|2>と|3>のうちのエネルギーの低い方の状態を|2>とし、かつ状態|2>として、状態|0>あるいは状態|1>とのエネルギー差がΔEhomo以上である状態を用い、状態|0>、|1>のうち状態|2>とのエネルギー差がΔEhomo以上である状態を残してもう片方を状態|2>に移し、前記m個の量子ビット間での単一光子と共振器モードとを利用した量子ビットゲートの終了後に、状態|2>を、状態|0>と|1>のうちの単一光子入射前に状態|2>へ移された状態に戻すための第3光源と、
前記共振器モードと共鳴させた単一光子を外部から入射させ、量子ビット間の量子ビットゲートを行うための第4光源と、
前記第3光源と前記第4光源から発生する光の時間波形を制御する制御部を具備することを特徴とする量子ゲート装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−72233(P2010−72233A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238381(P2008−238381)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】