説明

量子論に基づく連続的精密NMR/MRI(核磁気共鳴スペクトロスコピー/核磁気共鳴映像法)の方法と装置

概してスピン磁気共鳴応用の方法、および詳細にはNMR(核磁気共鳴スペクトロスコピー)およびMRI(核磁気共鳴映像法)を実行する方法が開示される。量子論に基づいた連続的精密方法である。この方法は、緩和時間およびスピン数密度が求められるその自己相関関数およびパワースペクトルを生成するスピン磁気共鳴ランダム放出を直接使用する。方法は、NMR/MRI機械およびデータ処理の複雑性を大幅に縮小し、それによりNMR/MRI機械を現存のパルスNMR/MRIよりもずっと低コストでずっと小さく、より正確に、そして操作しやすくする。非常に低い逆RF磁場B1(約0.01ガウスまたは0.01ガウスより少ない)を用いることにより、本方法でのMRIは患者にとってずっと安全である。および、連続的スピン磁気共鳴放出を使用することにより、本方法のNMRはあらゆる科学および工業技術の要求を満たす実質的に無制限のスペクトル分解能の方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概してスピン磁気共鳴、および詳細には、核スピン磁気共鳴スペクトロスコピー(NMR)/核スピン磁気共鳴映像法(MRI)に関する。本発明はスピン磁気共鳴データ生成、データ収集、およびデータ整理のための方法および装置について記述する。
【背景技術】
【0002】
約60年前にブロッホ(非特許文献1)とパーセル(非特許文献2)によって別々に凝縮物質の中に核スピン磁気共鳴が発見されて以来、それは主となる研究およびエンジニアリング技術、および物理学、化学、生物学、薬学などの計測器の分野で急速に発展してきた。特に、1970年代初めのダマディアン(非特許文献3)とLauterbur(非特許文献4)による先駆者的研究の後、その薬品での開発は医薬品および健康化学の診断映像技術において大変革をもたらしてきた。
【0003】
基本的に、核磁気共鳴の応用には、二つの広義のカテゴリーがある。一つは核磁気共鳴スペクトロスコピー(スペクトロメーター)であり、もう一つは核磁気共鳴映像法(スキャナー)である。どちらも強い静磁場B0を必要とする。それらは同じ物理的原理、数学的方程式、および多くのデータ収集および処理技術を共有するが、焦点および最終結果は異なる。混乱を避けるため、学究および産業に適合される慣習に従って、本出願では頭字語“NMR”は核磁気共鳴スペクトロスコピー(スペクトロメーター)に使用され、および頭字語“MRI”は核磁気共鳴映像法(スキャナー)に使用される。NMRは通常、化学、物理学、および薬学の研究所で、サンプルのスピン磁気共鳴周波数、化学シフト、および詳細なスペクトルを得るため使用される。一方MRIは通常、医療施設および生物学研究所で、人体または他の生体サンプルの核スピン数密度ρ、スピン格子緩和時間T1、およびスピンスピン緩和時間T2の、1−D(一次元)、2−D(二次元)、または3−D(三次元)映像を生成するため使用される。
【0004】
核スピン磁気共鳴には、二つの並行する論理的処理がある(非特許文献5)。量子論学に基づく一つ(非特許文献5、6)は徹底的で包括的なものであり、半古典的な電磁気学に基づくもう一方(非特許文献5、7)現象的なものである。これら二つの説明は相補的である。量子論学的説明は核磁気共鳴のあらゆる既知の現象に定量的に適用され、古典的な論理はわずかなものを除いて核磁気共鳴のほとんどの実験を有効に説明することが可能である。それにも関わらず、実用的な適用の中には古典的論理が占められる。無線周波数(RF)B1パルス磁界、スピンと勾配エコー、空間符号化、および自由誘導減衰(FID)と結合される古典的なブロッホ方程式は 、現在多くのいわゆるパルス核磁気共鳴を構成する。現代の核スピン磁気共鳴応用は、事実上完全に古典的な電磁気学に論理化され定式化されている(非特許文献8)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Bloch, F.、Hansen, W. W.、Packard, M. E.著「The nuclear induction(核誘導)」フィジックス・レビュー、69,127、1946年
【非特許文献2】Purcell, E. M.、Torrey, H. C.、Pound, R. V.著「Resonance absorption by nuclear magnetic moments in a solid(固体中の核磁気モーメントによる共鳴吸収)」フィジックス・レビュー、69,127、1946年
【非特許文献3】Damadian, R. V.著「Tumor Detection by Nuclear Magnetic Resonance(核磁気共鳴による腫瘍検出)」サイエンス誌、171, 1151、1971年
【非特許文献4】Lauterbur, P. C.著「Image formation by induced local interactions: examples employing nuclear magnetic resonance(局所的相互作用による画像形成:核磁気共鳴を使用する例)」ネイチャー誌、242, 190、1973年
【非特許文献5】Abragam, A.著「The Principles of Nuclear Magnetism(核磁気の原理)」オックスフォード大学出版局、1983年
【非特許文献6】Bloembergen, N.、Purcell, E. M.、Pound, R. V.著「Relaxation effects in nuclear magnetic resonance absorption(核磁気共鳴吸収の緩和効果)」フィジックス・レビュー、73,679、1948年
【非特許文献7】Bloch, F.著「Nuclear Induction(核誘導)」フィジックス・レビュー、70,460、1946年
【非特許文献8】Cowan, B.著「Nuclear Magnetic Resonance and Relaxation(核磁気共鳴および緩和)」ケンブリッジ大学出版局、1997年
【発明の概要】
【0006】
本発明は新規のシステム、つまりNMRおよびMRI試験を実施するための方法および装置を提供する。本方法に必要とされる基本的な個別の機器およびハードウェアは、従来のパルスNMR/MRIで使用されるものと同様である。しかし、従来の方法とは異なり、本発明はNMRおよびMRI応用を行うための連続的精密方法である。本発明は放射線の量子論に基づき、その物理および数学は正確で厳密である。また、それは連続モードで作用し、および原理と方程式からデータ生成、収集、整理までほとんど全ての態様において従来のパルスNMRおよびMRIと異なるものとする。本発明の実施では、試験中のサンプルの磁化Mはまったく関与せず、およびパルス、フェーズ、エコー、およびFIDの使用は回避される。従って、信号強度/SNR(信号−ノイズ比率)と静磁場B0の間の密接な関係は基本的に排除されている。この連続的方法で代わりとなる重大なものは、静磁場B0での二つのスピンのゼーマンエネルギーレベル間の量子推移確率Pである。本システムは感度が高く、およびSNRは自動/相互相関を通して非常に強化されている。
従って、この連続的精密方法は高磁場および低磁場のNMR/MRIのいずれにも適用される能力がある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本発明のさらなる特徴および利点は、以下の詳細な説明から、数字が部分を表す追随する図面と併せることにより分かる。
【0008】
【図1a】磁場のスピンエネルギーの構想である。
【図1b】磁場配向を示す。
【図2】緩和時間、放出確率、および信号の間の関係を示す構想である。
【図3a】本発明によるレシーバーコイルセットを図式的に示した図である。
【図3b】本発明によるレシーバーコイルセットを図式的に示した図である。
【図4】本発明によるデータ収集およびデータ整理を図式的に示した図である。
【図5a】本発明によるスピン空間位置確認のための周波数エンコード磁場を示す。
【図5b】本発明によるスピン空間位置確認のための周波数エンコード磁場を示す。
【図6】本発明によるデータ収集およびデータ整理を図式的に示した図である。
【図7a】本発明による単一のレシーバーコイルの実施例および修正ボックスを図式的に示した図である。
【図7b】本発明による単一のレシーバーコイルの実施例および修正ボックスを図式的に示した図である。
【図7c】本発明による単一のレシーバーコイルの実施例および修正ボックスを図式的に示した図である。および、
【図8a】本発明による相関関数の修正をグラフ的に示した図である。
【図8b】本発明による相関関数の修正をグラフ的に示した図である。
【図8c】本発明による相関関数の修正をグラフ的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は一般的にスピン磁気共鳴に、および特に核スピン磁気共鳴スペクトロスコピー(NMR)と核スピン磁気共鳴映像法(MRI)に関し、またシステム、すなわち核スピン磁気共鳴応用を実行するための方法および装置を説明し提供する。
【0010】
本来、スピン磁気共鳴は量子現象である。この視点からNMRおよびMRIの新規の方法および技術が開発されている。その論理基盤は放射線の量子論であり、その物理および数学は正確および厳密であり、かつ連続モードで作用する。従って本方法は、原理と方程式からデータ生成、収集、および整理までのほとんど全ての態様において、従来のパルスNMR/MRIと異なる。
【0011】
従来のパルスNMRおよびMRIと比較して、本発明の方法は直接で自然な方法で、スピン磁気共鳴推移放出からの信号として連続的な定常ランダムノイズを使用する。磁化M、パルス、フェーズ、エコー、自由誘導減衰(FID)などパルスNMRやMRIで重要な役割を果たすそれらのものは、この連続的精密NMRおよびMRIではまったく関与せず、事実上排除されている。代わりに、本発明で重要なものは、連続的で固定された(エルゴード)、そしてランダムなスピン時期共鳴放出信号VSR(t)そのものである。本発明により、このランダム信号VSR(t)は、原型のままでいずれの操作もせず、スピン共鳴スペクトルS(v)、スピン数密度ρ、および緩和時間T1およびT2上の豊富な情報を明らかにするため研究されることが可能である。
【0012】
本発明の二つの主要な機能は、スピン磁気共鳴ランダム放出の自己相関関数R(t)とパワースペクトルS(v)である。S(v)とR(t)から、他のNMRまたはMRIパラメーターは以下で検討されるような方程式(3、6、7、および8)を使用して導かれることが可能である。ウィーナー・ヒンチン論理、方程式(5)は、R(t)をS(v)に関連させる。R(t)からS(v)は前進するフーリエ変換であり、一方、S(v)からR(t)は逆フーリエ変換である。従って、R(t)かS(v)は、スピン放出ランダム信号V(t)から最初に得られることができる。R(t)とS(v)を計算するには(参考文献12)、様々な方法および市販で入手可能なコンピュータソフトウェアがある。本発明の開示では、まず相関関数R(t)はスピン共鳴ノイズ信号V(t)から得られ、次に方程式(5)がS(v)を生み出す。この順序で、V(t)の非信号ランダムノイズは自己/相互相関操作で排除されることが可能である。V(t)から第一に取得するS(v)とS(v)から第二に取得するR(t)が逆フーリエ変換ならば、このS(v)は全ての非信号ノイズと他の望ましくない信号に汚染されている。
【0013】
自己/相互相関は、その入力としての二つの信号、およびそれらの自己/相互相関関数の出力が必要である。この目的のため、固有の、二つの同一のレシーバーコイルセットが本発明に用いられうる。下記に説明される図3aおよび3bは、これら二つのコイルセットを二通りの可能な構成を示して概念的により詳細に表す。これらの二つのレシーバーコイルセットは、二組のコイル末端で二つの電圧Va(t) とVb(t)を生成して、NMR/MRIサンプルを包囲するよう互いに設置される。Va(t)とVb(t)は実際、スピン共鳴放出信号ノイズVSRa(t)とVSRb(t)、他の電子ランダムノイズVNa(t)とVNb(t)、およびRF B1磁場関連電圧VB1a(t)とVB1b(t)を含む。VNa(t)とVNb(t)は、それらの統計的な独立性のため相互相関操作で取り消されていく。VSRa(t)=VSRb(t)であり、VB1a(t)=VB1b(t)であるが、VB1a(t)とVB1b(t)はランダムではない。それらは相関操作で排除されることはできないが、その自己相関関数R'(t)汚染への影響は、より詳細に下記で検討される図4、6、および7a〜7cに示される、“R(t)へのR'(t)修正”によって取り除かれることが可能である。
【0014】
二組のレシーバーコイルを示す図4および6、および単一セットのレシーバーコイルを示す図7a〜7cに描かれるように、本発明の方法には二つの可能な実施例がある。本開示での単一セットのレシーバーコイルは、従来のパルスNMR/MRIに使用されるものと同じである。図7a〜7cの一組のコイルの実施例はハードウェアの使用がすくなくなっているが、関数による非信号ノイズの排除は不可能である(図7a)か、または部分的にのみ(図7および7c)可能である。これらの非信号ノイズを取り除くには“R(t)へのR'(t)修正”関数ブロック(図7a〜7c)を行う。
【0015】
本発明の逆RF磁場B1は緩和時間T2の測定のため必要であるが、緩和時間T1のみが必要である場合、測定B1磁場なしで実行されることも可能である。どちらの場合も、このRF磁場B1は連続的で安定していなければならない。このB1磁場を適用すると、過剰な共鳴推移確率PB1を刺激することによりスピンアセンブルを他の動的平衡状態に変換する。これはスピン信号強度を強化するため効果的な方法である。しかしいずれの状況でも、約0.01ガウスかそれ以下の非常に弱いBl磁場が望ましい。
【0016】
NMR/MRI操作方法の主要結果は、スピン磁気共鳴放出パワースペクトルS(υ)、スピン数密度ρ、緩和時間T1とT2、およびその映像である。全てのこれらパラメーターは、それらの真値であり、いわゆる“加重”ρ、“加重”T1、および“加重”T2ではない。
【0017】
スピン放出信号の強度を増大させるための微弱なRF磁場B1の使用、および非信号ノイズを減少させるための自己/相互相関の使用を通して、本発明は高い静磁場B0を必要としないだけでなく、少ないハードウェアのおよびソフトウェアの使用だけでよい。従って、本方法のNMR/MRI機械は、現在のパルスNMR/MRIよりも、ずっと廉価、ずっと容易、ずっと小型で、またより安全でより正確で、スペクトル分解能がより高く、操作がより容易であるため、医学を含む科学、工業技術へ広く適用される。
【0018】
パルスNMRまたはMRIの記述は、静磁場B0、静磁場B0のその正確さ、および自由誘導減衰(FID)信号の試験中の物質の磁化ベクトルMに関する。本発明の量子論に基づく連続的NMRおよびMRIの記述は、スピン個体分布、静磁場B0のスピンエネルギーのゼーマン分裂、ゼーマンエネルギーレベル間の推移確率、およびスピン磁気共鳴ランダム放出ノイズに関する。
【0019】
全ての原子は核を有する。核はそれぞれ、一つのプロトンのみでありニュートロンがない水素原子核1Hを除いては、プロトン(複数可)およびニュートロン(複数可)から成る。

【0020】
磁気スピンはゼロ磁場環境でいずれの空間配向も有さない。核磁気スピンのアンサンブルがその方向がデカルト座標体系のz軸に指定される静磁場B0に配置されるとき、元の縮退スピン磁気エネルギーレベルは分けられたゼーマンエネルギーと同等に(2I+1)に分けられる。1Hまたは13Cの場合、I=1/2であり、(2l+1)=2ゼーマンエネルギーのみがある。図1aに示されるように、高エネルギー(高いほうの)レベルはEh で、低エネルギー(低いほうの)レベルはElである。エネルギーの分裂に伴い、スピンの方向定量化が行われる。エネルギーElのスピンは正のB0方向に向かって自ら整列し、一方エネルギーEhのスピンは負のB0方向に向かって自ら整列する(図1b)。熱平衡が確立されるとき、高レベルのスピン数密度nh、および低レベルのスピン数密度nlは、ボルツマン分布nh/nl = exp(-γhB0/2πκβT)を満たす。式中、hはプランクの定数であり、およびκβとTはそれぞれボルツマンの定数と温度を示す。常にnl>nhであるが、nl はnhとほぼ同等であり、(nl -nh)/( nh+ nl)はB0磁場が一般的な研究所環境でどれほど強くなろうと、非常に小さい数である。(nl -nh)の差はB0の強度によって決まる。より大きなB0は大きな(nl -nh)を引き起こし、そして次にサンプルのより大きい磁化Mと、より高いラーモア周波数を引き起こす。これは、パルスNMR/MRIが高いB0を使用しがちである主原因の一つである。本発明は磁化Mと(nl -nh)の差を使用しないので、高B0磁場は必ずしもより優れたNMR/MRI性能を意味するわけではない。
【0021】
熱平衡で、高および低レベルのスピン数密度nlとnhは、B0磁場およびTが変化しない限り定常状態で留まるけれども、統計的にdnh/dt=dnl/dt=0になるよう、スピン格子相互作用により高エネルギーレベルスピンは低エネルギーレベルに、および逆もまた同様に、推移確率PB0で連続的に推移する。これは、動的平衡状態とみなされる。高〜低全てのスピンパワーレベルの推移は、角振動周波数―ラーモア周波数―−ω=γB(線形周波数v=ω/2πヘルツ)の光子の放出を伴う。そのような光子はそれぞれ、試験中のサンプルを包囲する検出装置(レシーバーコイル)隣接の端末で微小電圧を誘導する。全てのこれらの放出を追加すると、微小スピン磁気共鳴放出信号が確立される。この工程はランダムプロセスである。確立された信号は固定(エルゴード)ランダムノイズの形で出現する。これらのノイズは本来弱いが、現代の電気機器で測定することが可能である。このノイズの時間系列は、レシーバーコイルの出力端末で核スピン磁気共鳴放出の連続的固定(エルゴード)ランダムノイズ信号VB0(t)を構成する。
【0022】
磁場B0の上記スピン共鳴ランダム放出は、逆RF磁場B1の存在の有無にかかわらず、自然に連続的な方法で生じる。量子学的観点から、ラーモア周波数の逆RFB1磁場は、二つの同じスピンゼーマンエネルギーレベルの間の推移確率PB1によって追加のランダム放出を刺激することであり、その結果として追加のスピン共鳴放出ノイズ信号VB1(t)を生じる。B0による放出とB1による放出の間の統計的独立性によって、B0とB1両方の存在がもたらされ、合計のスピン共鳴推移確率PSR=PB0+PB1となり、および結合スピン磁気共鳴放出ノイズ信号は、VSR(t)=VB0(t)+VB1(t)となる(図2)。正しく解析されているならば、このVSR(t)のスピン共鳴放出ランダムノイズの時間系列は、スピン推移確率、緩和時間、共鳴スペクトルなどにおいて、豊富で詳細な情報を明らかにする。
【0023】
推移確率Pは二つのエネルギーレベルの間の推移率を統治する(図2)。Pの寸法は、1/秒であり、その逆数は緩和時間T(秒)、すなわちT=1/Pである。PB0の逆数は、スピン格子緩和時間T1であり、PB1の逆数は緩和時間TB1(TB1はスピンスピン緩和時間T2ではない)であり、およびPSRの逆数は緩和時間TSRである。PSR=PB0+PB1なので、よって、1/TSR=1/T1+1/TB1となる(図2)。
【0024】
高エネルギーレベルでのスピン数密度がnhであり、およびその対応する推移確率がPである場合、高レベルから低レベルまでの推移の数は1秒につきnh×Pと等しい。次に共鳴放出力W(t)は、W(t)= hv0nhPとして表されうる。ここではhおよびv0はプランクの定理およびラーモア周波数を表す。W(t)はノイズ電圧V(t)の二乗と釣り合う。従って、上昇するPはより大きな共鳴ノイズ信号V(t)を引き起こす。
【0025】
磁場B0および温度Tが変化しない限り、確率PB0およびスピン格子緩和時間T1は定数に留まる。下記のように磁場B1が適用されると、確率PB1はB1の二乗によって変化する。RF磁場B1と比べて、静磁場B0はそのスピン推移確率PB0の上昇または下降に対し非常に穏やかに作用する。
【0026】
ラーモア周波数のB1刺激されたゼーマン推移確率は、PB1によって表される。磁場B1が磁場B0よりずっと弱いと(これは常にNMRおよびMRIの場合である)、スピンアンサンブルのエネルギーハミルトニアン上でのその影響は、摂動として考えられることができる。その後、標準量子学的摂動論理は適用され、結果としてスピンスピン緩和時間T2および磁場B1がB1刺激された推移確率PB1に関連して表される(参考文献9、10)
[数式1]

式中、再び、γ およびI はそれぞれ、ジャイロ磁気比率およびスピン量子数を表す。記号mは、スピン磁気量子数である。プロトン(1H)、炭素-13(13C)、またはリン-31(31P)など全てのI=1/2(そしてm=1/2)の原子核のため、上記の方程式は(参考文献9)に帰着する。
[数式2]

【0027】
静磁場B0と逆RF磁場B1の両方がラーモア周波数で適用されると、統計的独立性のため、合成スピン共鳴推移確率はPSR=PB0+PB1となる。従って、緩和時間に関しては、
[数式3]

となり、式中、T1およびT2はそれぞれ、スピン格子およびスピンスピン緩和時間である。
【0028】
方程式(3)は、演繹的な既知磁場B1、量TSR、および緩和時間T1およびT2の関係を確立する、本発明の主となる方程式である。B0とB1の両方が出現するとき、合成スピン磁気共鳴信号は、VSR(t)= VB0(t)+VB1(t)となる。ノイズ信号VB0(t)は緩和時間T1の情報を含み、ノイズ信号VB1(t)は緩和時間T2の情報を含む。緩和時間がTSRである結合された連続的固定ランダムノイズ信号VSR(t)は、T1とT2両方の情報を含む。
【0029】
VB0(t)またはVB1(t)またはVSR(t)= VB0(t)+VB1(t)を表す、固定ランダム時間信号V(t)を仮定すると、その自己相関関数R(t)は以下のように定められる:
[数式4]

【0030】
R(t)は実数値の偶数関数であり、R(t)=R(-t)である。この自己相関関数の後、信号V(t)のパワースペクトルS(υ)および緩和時間Tは、二つの数学的理論から厳密に求められることが可能である。
【0031】
時間関数V(t)のパワースペクトルS(υ)を提示するウィーナー・ヒンチン論理は、その自己相関関数R(t)のフーリエ変換である(参考文献11、12)。
[数式5]

式中、j=(-l)1/2、υは周波数である。パワースペクトルS(υ)を有すると、スピン共鳴周波数υ0は(参考文献13)として見出されることが可能である。
[数式6]

【0032】
時間関数V(t)の緩和時間Tの二乗を提示するボーン・ウォルフ論理は、その自己相関関数R(t)の二乗の標準化二次モーメントである(13、14)。
[数式7]

これは、緩和時間Tを計算する正確な方法を提供するので、本発明の他の主な方程式である。
【0033】
スピン緩和時間T1およびT2に加えて、スピン数密度ρ
もまた、NMR/MRI応用の基礎的なパラメーターである。スピン密度ρは、S(v0) = c×ρ×Pであるため、スピン推移確率Pおよび共鳴周波数υ0の共鳴パワースペクトルS(υ)から求められることが可能であり、式中のcは較正係数である。通常、関連するスピン数密度ρは必要とされ、次の式を導く。



[数式8]



ここでは、確率PおよびTは、B0が存在するときのみPB1およびT1を、またはB1が適用される場合はPSRおよびTSRを表しうる。絶対値のスピン数密度ρが要求される場合は、較正係数cの値が求められなければならない。
【0034】
上記の六つの方程式(3、4、5、6、7、および8)は本発明のデータ解析およびデータ整理に基づく。つまり、スピン磁気共鳴ノイズ信号VSR(t)の取得後、スピン共鳴パワースペクトルS(υ)、共鳴周波数υ0、スピン数密度ρ、そして緩和時間TSRは、全て方程式(3、4、5、6、7、および8)を生かして正確に計算されることが可能である。磁場B1(B1=0)なしでは、VSR(t)=VB0(t), PSR=PB0, TSR=TB0=T1であり、磁場B1では、VSR(t)=VB0(t)+ VB1(t)である。その後方程式(3)に従い、TSR はT1およびT2によって決まる。二つの異なるB1の値(一つのB1は0と等しくなりうる)での二組の測定は、二つのTSR、ひいては二つの方程式(3)を産出し、それらはT1およびT2のために同時に解かれることが可能である。
【0035】
ここで上記の方程式および手順から計算されるパラメーターρ、T1およびT2は、それらの“真値”である。これらはパルスNMR/MRIのいわゆる“加重” T1、T2 、またはρ戸は異なる。
【0036】
方程式(7)は実際に、信号V(t)の緩和時間Tをその自己相関関数R(t)から計算するための唯一の式ではない。同じタスクを伴う他の数学形式があるはずである。例として、グッドマン(15)は次の式を使用して緩和時間Tを定める。
[数式9]

方程式(7)および方程式(9)はどちらも、緩和時間Tを決定するために使用されることが可能である。方程式(9)の方が単純であるが、方程式(7)はより物理的な見識を主張する。本開示では、緩和時間の計算は方程式(7)に基づく。
【0037】
1.逆RF(無線周波数)磁場B1
パルスNMR/MRIと類似して、本発明はトランスミッターコイルセットによって生じる逆(x‐y面において)RF(無線周波数)磁場B1を用いる。しかし、パルスNMR/MRIのRF磁場B1と本発明の異なる点は、スピン磁気共鳴放出を刺激するために使用される、連続的(パルスではない)かつ非常に弱い磁場B1であることである。これは広帯域の(スピン共鳴放出線の帯域幅に関してずっと広い)交番磁界である。連続的な作業モードにより、いくつかのRF磁場B1はレシーバーコイルによって必然的に妨害され、およびスピン共鳴放出ノイズ信号VSR(t)に付加して、いくらかの追加電圧UB1(t)を誘導する。その後、UB1およびVSRはともに、追随する電気機器に、レシーバーコイルによって無差別に供給されうる。UB1はVSRには望ましくない干渉である。それゆえ、可能最小限のレベルに抑制されなければならない。このVSR干渉を事実上排除することに代わって三つの別個の方法が適用されうる:(1)レシーバーコイル(複数可)を特別な設計、取り付け、および配置で機械的に構成する。一配置としては、それらのクロスカップリングまたは漏洩を無効にするため、レシーバーコイルセットをトランスミッターコイルセットに対し垂直(90度)にする。この直交性により、トランスミッターコイルとレシーバーコイルの間のクロスカップリングはわずか1%に制限されることが可能である。(2)いくつかの補償回路を電気的に使用する。および、(3)このVB1影響を最終的に排除するためいくつかの修正技術を数値的に適用する。この三つ目の方法の詳細な説明は下記で検討する。
【0038】
クロスカップリングによってレシーバーコイルに直接堆積されるB1磁場力の比に加え、RF磁場B1による第二の影響のある可能性がある。トランスミッターコイルによってもともと生じるB1磁場は、サンプル量にいくらかの電磁波による障害を引き起こしうる。これら障害部分がレシーバーコイルに第二UB1誘導を逆送りする可能性がある。以下の説明でUB1が言及される場合は常に、直接および第二の影響からのこれらUB1の和を意味する。
【0039】
2.スピン磁気共鳴ランダム放出のためのレシーバーコイル
連続的NMR/MRI方法は二種のレシーバー(検出)コイルを使用する。一つは、二つの同一のスピン共鳴放出ノイズ信号VSRa(t)とVSRb(t)を生成する、二つの同一の対のレシーバーコイルの使用である。もう一方は、単一スピン共鳴放出ノイズ信号VSR(t)を生成する、パルスNMR/MRIに使用するものと同じの、単一レシーバーコイルセットの使用である。図3aおよび3bは、同一かつ接近して取り付けられるこれら二つの対のレシーバーコイルを示す。これらは試験中のサンプルを包囲して両側に設置されうる(図3a)か、または試験中のサンプルの周囲に巻きつけられる(図3b)。コイル10または対のコイル10の二つの端末は、信号Va(t)を電気機器14および62に供給し、コイル12または対のコイル12の二つの端末は、信号Vb(t)を電気機器16および64に供給する(図4および図6参照)。電圧Va(t)およびVb(t)は、スピン共鳴放出信号ノイズVSR(t)、UB1 (t)、およびVn(t)の付加的和である。Vn(t)はここで、コイルから(および後に追随する電気機器から)発せられるあらゆる種類の非信号ランダムノイズ(ジョンソン熱ノイズ、ショットノイズなど)を表す。 Va(t)=VSRa(t)+UB1a(t)+Vna(t)、およびVb(t)=VSRb(t)+UB1b(t)+Vnb(t)。 VSRa(t) = VSRb(t)、およびUB1a(t)=UB1b(t)であるが、Vna(t)≠Vnb(t)である。しかし、これれら三つの型の信号VSRa(t)、UB1(t)、およびVn(t)は、互いに統計的に独立する。さらに、Vna(t)はVnb(t)から統計的に独立する。
【0040】
3.連続的精密NMRおよびMRIの説明
NMRまたはMRI応用の基礎的なパラメーターは、スピン磁気共鳴線輪郭(パワースペクトル)S(v)、スピン数密度ρ、スピン格子(縦方向)緩和時間T1、およびスピンスピン(逆)緩和時間T2である。いくつかの特殊なMRI/MRIで必要とされる他のパラメーターはこれらの測定から求められる。
【0041】
一般的に、上記のパラメーターはサンプル量での位置x、y、およびzであり、ゆえに一次元、二次元、三次元画像を要する。NMR応用のサンプルは通常、サンプル量全体に同次であり、量中においてこれらのパラメーターを自由に様々に提供する。
【0042】
3−1.核磁気共鳴スペクトロスコピー(NMR)
NMR応用のタスクは一般的に、ρ、T1、T2、および試験中の同種のサンプルのための詳細な高分解能スピン共鳴スペクトルを得ることである。これらパラメーターの空間分布が求められるならばそれは磁気共鳴映像法(MRI)のタスクとなる。
【0043】
図4は、NMR応用でのデータ生成、取得、および整理のフローチャートである。ブロック20は、磁場B0マグネット、逆(x‐y面において)磁場B1(ブロック22)を放射するためのRFトランスミッターコイル、およびレシーバーコイルなどの、NMR機械設備を含む。試験中のサンプルは静磁場B0に設置される。ここではいずれの画像もスピン定位も必要とされないため、勾配磁場はない。図4のブロック20には、上記および図3aおよび3bに示される二つの同一の対レシーバーコイルセットがある。サンプルを静磁場B0に設置した後、サンプルでスピンの磁気共鳴放出が自然に生じ、およびそれにより、二つの信号Va(t) とVb(t)が二つの対のコイルセットのそれぞれの端末で発生する。電気機器14にはVa=VSRa+ Vna+UB1a、電気機器16にはVb=VSRb+Vnb+UB1bである。電気機器14および16(電気機器14と16は同一)を分かれて通過した後、Va(t) とVb(t)は相関のため、自己/相互相関器24で接触する。相関器24は、VSRとUB1のためには自己相関器として作用し、VSRa=VSRbおよびUB1a=UB1bなので、UB1のVSR+RB1(t)の自己相関関数R'(t)= RSR(t)を産出する。 統計的に独立するVna(t) とVnb(t)のためには、相関器24は相互相関器として作用し、相関関数Rn(t)=0を産出する。従って、R'(t)=RSR(t)+RB1(t) +Rn(t)=RSR(t)+RB1(t)である。NMR応用にはRSR(t)のみが必要とされる。RB1(t)はR'(t)から取り除かれなければならない。これが図4(下記参照)の相関ブロック26のタスクである。その入力は汚染された自己相関R'(t)であり、相関後はその出力はR(t)= RSR(t)となる。これは静磁場B0およびRF磁場B1がいずれも存在するときの場合である。RF磁場B1が適用されないときは、UB1(t)=0となり、およびRB1(t)はないので、相関ブロック26は不必要となる。本発明は非信号ノイズVn(t)を排除するため相関を使用するので、従ってシステムのSNRは大幅に強化される。相関作業は強い独立ノイズに潜む弱い信号を再生するために理想的である。
【0044】
R(t) が得られたら、ウィーナー・ヒンチン論理方程式(5)および方程式(6)はスピン共鳴スペクトルS(υ)およびスピン共鳴周波数υ0を産出する。方程式(7)は緩和時間TをR(t)から正確に計算し、および方程式(8)はスピン数密度ρを前方へ移動させる(ブロック28)。
【0045】
S(υ)、ρ、およびT1のみが要求される場合、上記の手順でのRF磁場B1は適用される必要がない。B1がないと、S(υ)、ρ、およびT1は一式の測定から出る。一方、緩和時間T2も必要な場合、異なるB1値(二つのB1値の一つは0に設定されうる)で二つのR(t) 生成するため、上記の手順は二回繰り返されなければならない。二つのR(t)は方程式(7)により二つのTSRを産出する。これら二つのTSRを使用して、一つは第一B1および一つは第二B1のための、二つの方程式(3)を解くことにより緩和時間T1およびT2が同時に得られることが可能である。
【0046】
トランスミッターコイルで確立されるこの逆RF磁場B1は、サンプル量全体にわたって均一でなければならない。それは連続的な定常状態のRF磁場B1であり、その帯域幅はスピン共鳴放出の帯域幅よりずっと、例として三桁広くなければならない。
【0047】
T1およびT2のために方程式(3)を解く中で、B1の強度は解の精度に影響を与えることが可能である。数式的解析により、解を十分正確な保持するため項1/ T1は1/2(γB)2T2とはそれほど異なってはならない。この検討のもとで、NMRおよびMRI測定で接触する緩和時間T1およびT2には通常、RF磁場B1は約-0.01ガウスかそれ以下でありうる。
【0048】
3−2.磁気共鳴映像法(MRI)
MRI応用のタスクは、組織や人体などのサンプルのスピン数密度ρ 、スピン格子緩和時間T1、およびスピンスピン緩和時間T2の空間分布、すなわち一次元、二次元、三次元の映像を得ることである。スピン共鳴周波数は通常、既知のパラメーターである。この目的を達成するため、MRI測定に先行して、スピン空間位置確認のための特殊な機器または装置が利用可能でなければならない。この種の装置は現存するMRIシステムから部分的に取り入れられるか、またはこのスピン定置目的を提供することのできるいずれの手段から取り入れられうる。
【0049】
図5aに概念的に説明されるように、この装置は高さzおよび厚さΔzの薄片52に細いロッド状の細長い塊50を区分する。この細長い塊のそれぞれのy座標のボクセルが固有の磁場Be= Be(y)に、および続いて対応するスピン共鳴周波数ν(y)=γ×[B0+ Be(y)]/2πに割り当てられるよう、塊の縦長のy寸法、単調増加(または減少)に沿って、z方向周波数エンコード磁場Be(y)(図5bでは54)が装置によって作られる。このように、この塊のそれぞれおよびすべてのボクセルは、その固有のスピン放出周波数νe(y)によって定置されることが可能である。ゆえに一次元共鳴映像法は実現される。この細長い塊を薄片52全体へと滑らせると、二次元映像を生成し、同様のやり方で薄片の様々な高さzで滑らせると三次元映像を生成する。
【0050】
図6はMRI応用の図表を示す。図4のNMR応用と同様に、ブロック60は、非信号ノイズVn(t)とB1のクロスカップリング電圧UB1 (t)に沿って電気機器62および64(電気機器62と64は同一)に供給される、二つの同一のスピン共鳴放出ノイズ信号VSRa(t) とVSRb(t)を誘導するため、サンプル(図3)を包囲する二つの同一の対のレシーバー(検出)コイルセットを含む、MRI機械設備である。同じ記号を使用するが、ブロック60の出力のランダムノイズ電圧Vna およびVnbは電気機器62と64の出力のノイズ電圧Vna およびVnbより、後者がMRI機械ブロック60で生じるノイズに加えて電気機器ブロック62と64で生じるノイズを含むので小さくなることに、留意する。相関器66はVSRa(t) + UB1aおよびVSRb(t)+ UB1bには自己相関としての機能を果たすが、ランダムノイズVna およびVnbには相互相関として機能する。Vna およびVnbの相関はそれらの統計的独立性によりゼロに等しくなる。相関器66からの自己相関関数R'(t)は、VSRの自己相関RSR(t)とUB1の自己相関RB1(t) の和である。RB1(t)は望ましくないので、R'(t)から取り除かれなければならない。これは相関ブロック68のタスクである。相関ブロック66の出力は、図6に示されるようにMRIパラメーターが求められることが可能な、スピン共鳴放出ノイズ信号VSR(t)の自己相関関数R'(t)である。
【0051】
フーリエ変換の直線性、およびk=1、2、..., N (N=図5の塊50の合計ボクセル数)であるk論理ボクセルの全てのスピン共鳴放出ノイズ信号VSRk(t)の統計的独立性により、R(t)はVSRk(t)の全ての構成自己相関関数Rk(t)の和である。Rk(t)はそれぞれ、ボクセルの位置ykとBe(yk)によって決まる固有の搬送周波数υkを有する。この事実によって図6の多チャンネル帯域通過フィルター70が可能になる。フィルター70の出力は、k=1、2、..., Nであるk論理スピンボクセルそれぞれのためにRk(t)が分けられる。T1kとT2k、Sk(υ)、およびρkは次に、NMRの項で説明されたものと同様の手順と方程式を使用してRk(t)から求められることができる。T1k= T1(yk)、T2k= T2(yk)、およびρk=ρ(yk)であり、これは一次元映像である。この一次元映像の空間分解能Δyは、磁場Be(y)の勾配および多チャンネル帯域幅Δυによって決まり、Δy=2πΔυ(dy/γdBe)である。
【0052】
前述したように、得られたT1、T2、S(υ)、およびρは真値であり、従来のパルスNMR/MRIで見られる“加重”値ではない。当然、これらの真値T1、T2、およびρは、事前に割り当てられた混合比を使っていずれの“加重”映像を形成するため混合されることが可能である。
【0053】
図4および図6ではともに、ブロックに示される電気機器14、16および62、64は増幅器、混合器などを含む。A/D変換器もまた含まれることが可能であり、あるいはどこか別のところに設置されてもよい。
【0054】
4.単一信号レシーバーコイルを使用する連続的精密NMR/MRI
前記の説明は、自己相関に二つの入力として機能する二つの信号VaとVbを生成する二つの同一のレシーバー(検出)コイルセットについてである。実際のところ、本連続的精密NMR/MRI技術は、単一レシーバーコイルを使用して実行されることも可能である。そのような場合には、レシーバーコイルは従来のNMR/MRI機械に用いられるものと同じである。
【0055】
図7a〜7cは、本連続的精密NMR/MRI方法の履行のための、三つの可能な単一レシーバーコイルの配置を描く。NMR/MRI信号は図7a〜7cのレシーバーコイル74、76、または78から来る。他の機能ブロックは図4および図6と同じである。ブロック82に続くこれらのブロックは図7a〜7cには図示されない。
【0056】
これら三つの実施例に潜在する原理は、図4および6の二つの同一のレシーバーコイルを使用するものと同様である。相関ブロック82は次の項で説明する。
【0057】
図7aの実施例はもっとも単純であるが、相関器80はコイル自体およびすべての電気機器で発生するいずれの非信号電圧を排除することができない。非信号電圧の影響は相関ブロック82で除去される。7bの実施例ではコイル自体および前置増幅器からのいずれの非信号電圧を排除することはできないが、ブロック94で発生する電子ノイズは相関器86で排除されることが可能である。7cの実施例ではコイル自体で発生するいずれの非スピン信号電圧を排除することはできないが、電気機器88および90からの全ての電子ノイズは相関92で取り消される。図7bでは、直路と電気機器94を通る経路の間の路長差を補正するため路長調節が必要とされうる。この補正をしないと、最大R'(t)はt = 0から少し離れて出現しうる。
【0058】
5.スピン共鳴放出相関R(t)のための相関R' (t)の修正
図4、6、および7a〜7cに示されるように、修正ブロックのタスクは、R(t)を得るためのR'(t)修正をする、つまりR'(t)からR(t)を抽出することである。これは以下のように、一般的に定められうる。
【0059】
自己相関関数はR'(t)=R(t)+ Rn(t)である。 R(t)とRn(t)はランダム(または決定論的な)信号V(t) および他のランダム(または決定論的な)信号Vn(t)の自己相関関数をそれぞれ表す。 V(t)はVn(t)から統計的に独立しなければならない。一般性を失わずに、V(t)とVn(t)のパワースペクトルがどちらもローレンツ形状(または他の形状)であると仮定し、 さらにVn(t)のスペクトル帯域幅がV(t)の帯域幅よりずっと、およそ3桁広いと仮定する。従って、緩和時間とスペクトル帯域幅の相互関係の不等式(参考文献13)によれば、Rn(t)はR(t) のダンピングオフ率(または緩和時間)よりずっと、三桁早く(または短く)なる。
【0060】
図8a〜8cはこれらの特徴を示す。図8aおよび8bはV(t) の曲線R(t)およびVn(t)の曲線Rn(t)を描く。正の半分の包絡線のみが明確に描かれている。図では、V(t)には緩和時間= 0.1 秒、およびVn(t)には緩和時間=0.0002秒である。従って、Rn(t)のダンピングオフ率はR(t)より500フォールド早い。t ~ 0.0015秒では、R(t)は実質的にR(0)と等しいが、Rn(t)は意図的にRn(0)=100×R(0)に設定しているけれども、すでに0に漸近線である(図8c)。図8cでは、曲線1(a'-b'-c-d-e)は測定データから求められたR(t)+Rn(t)であり、曲線2(a-b-c-d-e)はR(t)―曲線1から抽出されるべきであるもの―である。(座標のメモリは図8aおよび図8bでは非常に異なることに注意)。曲線1と2の重大な差異は、t = 0の周辺で急速に近接するところで生じる。
【0061】
従って、以下のように三ステップ修正手順が実行される。
(1)t = 0(点a)からt=tc(点c)までの測定から求められる相関関数R'(t)の切片を廃棄する。Vn(t)、tcの帯域幅が良く評価されることが可能なことがわかる。図8cでは、tcはおよそ0.002秒かかりうる。
(2)図8cの点cから点eまでのR'(t)データに基づいた曲線適合から数式的に曲線方程式を見つける。
(3)ステップ(2)で得られた曲線方程式を使用して点cから点a(t = 0)までのR'(t)を数式的に推定する。ここでこのR'(t)は修正されたものとなり、すべての点でR(t)と等しくなる。
【0062】
上記の説明では、V(t)は核スピン磁気共鳴放出信号VSR(t)を表し、Vn(t)は全ての非スピン信号ノイズVnoise(t)に加えてB1関連電圧UB1 (t)を表す。NMRおよびMRIでは、スピン信号VSR(t)の帯域幅は非常に狭く、一般的に十数ヘルツから数十ヘルツである。電子機器ノイズVnoise(t)の帯域幅はスピン信号VSR(t)の帯域幅より、容易に数桁広くなる。MRIでは、RF磁場B1の帯域幅は図5の塊50の全てのボクセルのスピン共鳴周波数をカバーしなければならず、ゆえにVB1(t)の帯域幅はスピン信号VSR(t)の帯域幅より数桁広くなることが可能である。NMRでは、VB1(t)の帯域幅はスピン信号VSR(t)の帯域幅より意図的に数桁広くされる。上記のそれぞれの場合で、この修正計画は満足のいくものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
6.連続的精密NMRおよびMRIの二つの特別な特徴
本発明の特に有利な一つの特徴は、MRI応用で見られる。およそ0.01ガウスのRF磁場B1は、MRI手順におかれる患者の体内に堆積されるRFパワーがパルスMRIでの患者の体内に堆積するRFパワーより10-8も少ないことを意味する。10-8のRFパワー削減ファクターは、患者の安全問題に関して不可欠で重要である。
【0064】
他の有利な特徴はNMR応用で見られる。連続的操作方法であるため、スピン共鳴放出信号は必要とされる限り測定されることが可能である。早いフーリエ変換により、スペクトルのスペクトル分解能は測定された信号の時間の利用可能な長さと比例して釣り合う。従って、例として、100または1000秒長さの信号はそれぞれ、0.01または0.001ヘルツ分解能の結果をもたらしうる。そのような超微細分解能はNMR研究において非常に有益である。
【0065】
7.連続的精密ESR
核スピン磁気共鳴と並んで、電子スピン磁気共鳴(ESR)がある。NMRに類似して、電子スピン磁気共鳴もまた、対でない電子を有する種を検出する分光技術であるが、NMRほど広範囲には使用されない。NMRとESRは同じ基本論理と技術構想を共有する。NMRとESRの一つの明らかな違いは共鳴周波数であり、NMRが無線周波数でESRは電磁波周波数である。従って本発明の方法はまた、電子スピン磁気共鳴(ESR)にも応用されることが可能である。その場合はもちろん、電気機器は電磁波環境に適合するよう変更される必要がある。
【符号の説明】
【0066】
1曲線
2曲線
10コイル、対のコイル
12コイル、対のコイル
14電気機器
16電気機器
20MRI機械
22磁場
24自己/相互相関器
26相関の修正
28計算
50塊
52薄片
54エンコード磁場
60MRI機械
62電気機器
64電気機器
66相関器
68相関の修正
70フィルター
72方程式
74レシーバーコイル
76レシーバーコイル
80相関器
82相関の修正
86相関器
88電気機器
90電気機器
92相関器
94電気機器


(参考文献)
【0067】
(9)Rushworth, F. A.、Tunstall, D. P.「Nuclear magnetic resonance(核磁気共鳴)Gordon and Breach Science Publishers、1973年
(10)Andrew, E. R.「Nuclear magnetic resonance(核磁気共鳴)」大学出版局 ケンブリッジ、1955年
(11)Papoulis, A.「Probability, random variables, and stochastic processes(確率、ランダム変化、および確率過程)」第4版、マグロウヒル社、2002年
(12)Bendat, J. S.、Piersol, A. G.著「Random data: analysis and measurement procedures(ランダムデータ:分析および測定手順)」第二版、ワイリー・インターサイエンス、2000年
(13)Born, M.、 Wolf, E.著「Principles of Optics(光学の原理)」第7版Pergamon Press、1999年
(14)Mandel, L.、Wolf, E.著「Coherence properties of optical fields(光学分野のコヒーレント特性)」 Reviews of Modern Physics誌、37, 231、1965年
(15)Goodman, J. W.「Statistical Optics(統計光学)」John Wiley & Sons、1985年


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物がMRIおよびESR試験またはNMRおよびMRI試験を受けることから構成される、NMR/MRIまたはESR/MRI試験の方法において、前記それぞれのMRIおよびESRまたはNMRおよびMRI試験からのスピン共鳴放出ノイズ信号を一致させ、およびノイズおよび収集信号データを排除するため信号を相関する。
【請求項2】
MRI/ESRまたはNMR/MRI試験は連続的に稼動する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ノイズを排除するため信号をフィルタリングするステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
信号は非スピン信号ノイズを排除するため相関される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
追加のスピン共鳴推移排出を刺激しかつ緩和時間T1およびT2を測定するため、逆RF磁場を適用するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
試験中の対象物の核スピン磁気共鳴放出からの信号として連続的固定ランダムノイズを用いるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
単一のレシーバーコイルセットまたは二つの同一のセットのレシーバーコイルによってスピン磁気共鳴放出ノイズを検出するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
スピン放出信号ノイズを強化しかつ他の非信号ノイズを排除するため自己および相互相関を使用することから構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
スピン磁気共鳴放出の自己相関関数を得るため、汚染された相関関数を純化することから構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
さらに、対象物のそれぞれのスピンボクセルの構成自己相関関数を得るため、自己相関関数をフィルタリングすることから構成される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
さらに、真値および正確である、前記NMR応用でスピン共鳴パワースペクトルS(υ)
、スピン密度ρ、およびスピン緩和時間T1とT2を得るため、前記スピン共鳴放出の自己相関関数の精密なデータ処理から構成される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
さらに、前記MRI応用で、スピン密度ρ、およびスピン緩和時間T1とT2の真値で正確な一次元、二次元、三次元映像を得るため、それぞれのボクセルの精密なデータ処理および構成自己相関から構成される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
二つのスピン共鳴放出信号を生成するための二つの対のコイル、およびフィルターと前記コイルからの信号を相関するための相関器の組み合わせで構成される、対象物の試験のためのMRI/ESRまたはNMR/MRIシステム。
【請求項14】
前記システムは前記試験の間連続的に稼動する、請求項13のシステム。
【請求項15】
さらに、
非スピン信号を排除するためフィルタリングおよび相関される信号を、フィルタリングおよび相関するためのフィルターを含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記フィルターは多チャンネル帯域通過フィルターから構成される、請求項13に記載のシステム。
【請求項17】
対象物を包囲する二つの側に設置される二つの同一の対のレシーバーコイルセットから構成される、請求項13に記載のシステム。
【請求項18】
コイルは対象物の周囲に互いに巻きつけられた対のコイルから構成される、請求項13に記載のシステム。
【請求項19】
さらに、前記相関の一部として信号を修正するためのコンピューター可読のコンピューターコードから構成される、請求項13に記載のシステム。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【公表番号】特表2010−526302(P2010−526302A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506703(P2010−506703)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/062578
【国際公開番号】WO2008/137804
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(509281737)
【Fターム(参考)】