説明

金および/または銀の回収方法

【課題】貴金属の選択性や回収効率が良く、貴金属の回収に用いた物質が再利用できる貴金属の回収方法を提供すること。
【解決手段】以下の工程(a)〜(d)、
(a)金イオンおよび/または銀イオンを含有する水溶液に下限臨界溶液温度を有する
オキシエチレン鎖含有ポリビニルエーテルを添加する工程
(b)前記水溶液に還元剤を添加した後、前記ポリマーの下限臨界溶液温度よりも高い
温度にして前記水溶液をポリマーの凝集相と水相の2相の溶液に分離させ、前記
ポリマーの凝集相に金および/または銀を析出させる工程
(c)前記2相の溶液を前記ポリマーの下限臨界溶液温度よりも低い温度にして均一な
水溶液に戻し、前記水溶液に金および/または銀を析出させる工程
(d)金および/または銀を前記水溶液から回収する工程
を含むことを特徴とする金および/または銀の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有する温度刺激応答性ポリマーを利用した選択的でかつ効率的な金および/または銀の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金、銀等の貴金属を含む水溶液中からこれらの金属を分離する技術は、資源の回収・再利用の観点から極めて重要である。これまで、貴金属の回収方法としては、貴金属含有水溶液の濃度を高める蒸発濃縮、電気分解等の方法が行われてきた。
【0003】
しかしながら、こうした方法は、大規模な設備を必要とし、更に処理に時間がかかるという問題があった。更に、系内に他のイオン種が共存する場合、貴金属を選択的に回収することは難しかった。
【0004】
現在では、効率的な貴金属の回収方法として溶媒抽出法が複数知られている。例えば、貴金属を、ヨウ素及び/又はヨウ化物イオンと、多価アルコール、ポリエーテル及び環状ラクトンよりなる群から選ばれる1種または2種以上の有機溶媒とを含む溶解液に接触させて該貴金属を該溶解液中に溶解し、還元剤を添加して該金属を析出させ回収する方法が知られている(特許文献1)。
【0005】
また、貴金属元素を含有する溶液をキレート剤に接触させて溶液中の貴金属を前記キレート剤に吸着させる吸着工程と、該吸着工程で貴金属を吸着した前記キレート剤を過塩素酸塩を含む白金溶離液に接触させて前記キレート剤に吸着した貴金属の中の白金を前記白金溶離液中に溶出させる第1溶離工程とを行い、前記白金溶離液中に白金を回収する。次に、前記第1溶離工程を終えた前記キレート剤を金属溶離液に接触させて貴金属を全貴金属溶離液中に溶出させる第2溶離工程を行うことにより、前記金属溶離液中に白金以外の貴金属を回収する方法が知られている(特許文献2)。
【0006】
更に、貴金属イオンを含有する水溶液に、酸性条件下、ペプチドを混合する工程、前記水溶液をアルカリに調整する工程、ペプチドに捕捉された貴金属を前記水溶液から分離する方法が知られている(特許文献3)。
【0007】
また更に、環状フェノール硫化物を溶解させた溶液に数種のレアメタル、白金系金属抽出剤を溶解させた溶液に接触させることにより、環状フェノール硫化物を溶解させた溶液中にレアメタル、白金系金属を回収する方法が知られている(特許文献4〜6)。
【0008】
しかしながら、これらの方法は、貴金属の選択性や回収効率が悪い、貴金属の回収に用いた物質が再利用できない等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−154892号公報
【特許文献2】特開2005−2114号公報
【特許文献3】特開2007−56308号公報
【特許文献4】特開2007−239066号公報
【特許文献5】特開2007−239088号公報
【特許文献6】特開2009−274383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、貴金属の選択性や回収効率が良く、貴金属の回収に用いた物質が再利用できる貴金属の回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の構造を有する温度刺激応答性ポリマーであるオキシエチレン鎖含有ポリビニルエーテルと還元剤を併用することにより、貴金属の中でも金および/または銀の選択性や回収率の向上と、前記回収に用いたポリマーを再利用できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は以下の工程(a)〜(d)、
(a)金イオンおよび/または銀イオンを含有する水溶液に下限臨界溶液温度を有する
オキシエチレン鎖含有ポリビニルエーテルを添加する工程
(b)前記水溶液に還元剤を添加した後、前記ポリマーの下限臨界溶液温度よりも高い
温度にして前記水溶液をポリマーの凝集相と水相の2相の溶液に分離させ、前記
ポリマーの凝集相に金および/または銀を析出させる工程
(c)前記2相の溶液を前記ポリマーの下限臨界溶液温度よりも低い温度にして均一な
水溶液に戻し、前記水溶液に金および/または銀を析出させる工程
(d)金および/または銀を前記水溶液から回収する工程
を含むことを特徴とする金および/または銀の回収方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金および/または銀の回収方法は、特定の構造を有する温度応答性ポリマーであるオキシエチレン鎖含有ポリビニルエーテルを用いることにより、混合、加熱、ろ過等の簡単な操作により、携帯電話、パソコン等から金および/または銀を選択性良く回収することができる。
【0014】
また、上記金および/または銀の回収にあたり還元剤を併用することにより金および/または銀の選択性や回収効率が良くなる上、これに用いたオキシエチレン鎖含有ポリビニルエーテルも再利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の金および/または銀の回収方法(以下、「本発明回収方法」)の工程(a)では金イオンおよび/または銀イオンを含有する水溶液に下限臨界溶液温度を有するオキシエチレン鎖含有ポリビニルエーテルを添加する。
【0016】
金イオンおよび/または銀イオンを含有する水溶液は、例えば、携帯電話、パソコン等を適度な大きさに粉砕し、王水、硫酸、塩酸、硝酸等の酸溶液に溶解して得られる。これら金イオンおよび/または銀イオンは水溶液中に1×10−4〜1×10−6M、好ましくは5×10−5Mの濃度で含有していることが好ましい。また、前記水溶液のpHに特に制限されず、例えば、pH1〜14の何れでもよい。
【0017】
一方、上記水溶液に添加される下限臨界溶液温度を有するオキシエチレン鎖含有ポリビニルエーテル(以下、単に「ポリマー」という)は、常法に従って、オキシエチレン鎖を含有するビニルエーテル類を調製し、これをモノマーとしてカチオン重合させることにより得られるものであって、下限臨界溶液温度を有するものであれば特に制限されない。そしてこのポリマーは、下限臨界溶液温度より低い温度領域では水に均一溶解しているが、ポリマー水溶液を昇温していくと臨界温度付近でポリマーの急激な脱水和およびそれに伴う疎水性相互作用による相分離が起こり、結果としてポリマーが水に不溶となる特徴を有している。また、このポリマーはオキシエチレン鎖を含有することから、特に金および/または銀の回収に際して高い選択性を示す。なお、下限臨界溶液温度を示す温度刺激応答性ポリマーとして、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、メチルセルロース、ポリ(メチルビニルエーテル)等が知られているが、オキシエチレン鎖含有ポリビニルエーテルほどの金および/または銀の選択性、回収率を達成できない。
【0018】
このようなポリマーのオキシエチレン鎖としては、例えば、くし型のポリオキシエチレン鎖を繰り返す構造が挙げられ、この構造であればポリオキシエチレン鎖を構成するオキシエチレンのユニット数や、ポリオキシエチレン鎖の末端アルキル基の種類を変えることにより下限臨界溶液温度が変化させることができる。
【0019】
また、ポリマーの分子量は、例えば、重量平均分子量(Mw)が500〜1,000,000、好ましくは2,000〜200,000、特に好ましくは10,000〜100,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が1〜4、好ましくは1〜2、より好ましくは1.4以下、特に好ましくは1であるものが使用できる。なお、この分子量分布は1に近いほど下限臨界溶液温度がシャープな相変化挙動を示す。また、本明細書において、重量平均分子量および分子量分布はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により標準ポリスチレンの検量線から求めた値である。更に、ポリマーの下限臨界溶液温度は、20〜100℃、好ましくは40℃〜100℃の範囲にあるものが使用できる。
【0020】
上記ポリマーの具体例としては、下記式(I)を構成単位とするものが挙げられ、これらのポリマーの中でもポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)が好ましい。
【化2】

(ただし、式(I)中、Rはメチル基またはエチル基、mは0〜4の整数である)
【0021】
なお、上記式(I)を構成単位とするポリマーのうち、例えば、ポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)(式(I)中、m=0、R=メチル基)は70℃付近、ポリ(2−エトキシエチルビニルエーテル)(式(I)中、m=0、R=エチル基)は20℃付近、ポリ(2−メトキシエトキシエチルビニルエーテル)(式(I)中、m=1、R=メチル基)は40℃付近、ポリ(2−エトキシエトキシエチルビニルエーテル)(式(I)中、m=1、R=エチル基)は80℃付近に下限臨界溶液温度を示すことが知られている(杉原、青島、科学と工業、75(10), 510-517(2001))。
【0022】
上記工程(a)において上記水溶液に含有させるポリマーの量は、使用するポリマーの種類や水溶液中に含まれている金および/または銀イオンの量により異なる場合があり、一概には言えないが、例えば、上記水溶液中に0.01〜10質量%(以下、単に「%」という)、好ましくは0.05〜1%である。なお、ポリマーの量は、ポリマーが水溶液中に均一に溶解し、かつ含有される回収目的とする金および/または銀イオンに対して十分な量を用いることが重要である。使用するポリマーの量が充分でないと、金および/または銀の回収率が低下したり、凝集相の完結に多くの時間を有したり、さらには凝集相が全く生成しない場合がある。例えば、1ミリモル濃度の金イオンが含まれている水溶液に対しては、1gのポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)を用いれば良く、この水溶液では80℃で2時間加熱することで、96%の金が回収できる。それに対し、ポリマーの使用量を3分の1に減らすと凝集相の完結に7時間以上の時間を要し、さらに4分の1以下の使用量では凝集相を生じないことがある。
【0023】
上記工程(a)で得られた水溶液は、次に、工程(b)で還元剤を添加した後、前記ポリマーの下限臨界溶液温度よりも高い温度にして前記ポリマーの凝集相と水相の2相の溶液に分離させ、前記ポリマーの凝集相に金および/または銀を析出させる。
【0024】
上記で用いられる還元剤としては、還元作用を有する物質であれば特に制限されないが、例えば、水素化ホウ素塩、ホスホン酸塩、次亜燐酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、亜二チオン酸塩等の無機化合物、ヒドラジン、エチレンジアミン、ウレア、チオウレア、ジメチルアミノボラン等の各種アミン、ジアミン類およびイミン類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等の各種アルデヒド類、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール等の各種チオール類等の有機化合物、その他、ハイドロキノン、タンニン酸、クエン酸、アスコルビン酸およびそれらのナトリウム塩、カリウム塩等の還元作用を有する化合物等が挙げられる。これら還元剤のうち、本発明の回収方法における金および/または銀の還元能や作業性等を勘案すれば、還元剤としてクエン酸、クエン酸ナトリウム、エタノールアミン、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウムおよび塩酸ヒドロキシルアミンが好ましく、特にアスコルビン酸が好ましい。また、これらの還元剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。更に、これら還元剤は上記水溶液に含有される金および/または銀イオンの総量に対して等倍モル以上、好ましくは2倍モル以上の量で添加すればよい。
【0025】
還元剤を添加した上記水溶液は、更に、ポリマーの下限臨界溶液温度よりも高い温度にすることにより前記水溶液をポリマーの凝集相と水相の2相の溶液に分離させることができる。この分離の際に水溶液中に含有されていた金および/または銀イオンは前記ポリマーの凝集相に析出する。
【0026】
上記工程(b)でポリマーの凝集相と水相の2相に分離した溶液は、次に、工程(c)で前記2相の溶液を前記ポリマーの下限溶液臨界温度よりも低い温度、好ましくは室温にして均一な水溶液に戻し、前記水溶液に金および/または銀を析出させる。
【0027】
上記工程(c)で前記水溶液に析出した金および/または銀は、次に、工程(d)で水溶液から回収する。水溶液から金および/または銀を回収する方法は特に制限されず、当該分野において既知の分離方法が利用できる。また、この分離方法の条件も、特に制限されず、生じた沈殿に応じて適宜設定すればよい。本発明においては、分離方法の中でも一般的なろ紙、親水性PTFEフィルター、ガラス繊維フィルター、ガラスプレフィルター等のろ材を用いたろ過が好ましい。
【0028】
上記で分離された金および/または銀は、鉄、コバルト、ニッケル等の金属イオン共存下においても、最初の金イオンおよび/または銀イオンを含有する水溶液から、例えば、金であれば少なくとも96質量%以上、銀であれば95質量%以上の回収が可能である。
【0029】
なお、上記工程(d)で金および/または銀を回収した後の水溶液について、更に、工程(b)〜(d)を繰り返して行うことが好ましい。これにより原理的には金および/または銀を定量的に回収できる。
【0030】
また、工程(d)で金および/または銀を回収した後の水溶液を、前記ポリマーの下限臨界溶液温度よりも高い温度にして前記水溶液をポリマーの凝集相と水相の2相の溶液に分離させた状態で、前記ポリマーを回収することができる。この工程は、前記ポリマーが下限臨界溶液温度より低い温度では容易に水に溶解するため、下限臨界溶液温度より高い温度で操作する必要がある。そうすることで、定量的にポリマーを回収することができる。また、回収した前記ポリマーは、金および/または銀を含有する別の水溶液の金および/または銀の回収に再利用することができる。
【0031】
更に、上記ポリマーの回収を行う前に、金および/または銀が回収された水溶液へ、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩類を添加しておくことが好ましい。これにより前記ポリマーの回収率が向上する。この無機塩類を添加する場合には、ポリマー質量に対して5倍量以上、好ましくは10倍量以上の濃度で添加する。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0033】
実施例中の各特性の分析は、下記方法に従って行った。
(1)ポリマーの分子量および分子量分布
ポリマーの分子量および分子量分布は下記RI検出器を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により標準ポリスチレンの検量線から求めた。
GPC装置:HLC−8220GPC((株)東ソー製)
カラム:KF804L(Shodex社製)×3本
溶離液:テトラヒドロフラン
(2)金属濃度の測定
金属濃度は原子吸光光度計(AA6200:島津製作所社製)を用いて測定した。
(3)樹脂濃度の測定
樹脂濃度は分光光度計(V−570スペクトフォトメーター:日本分光社製)を用いて測定した。
【0034】
参 考 例 1
ポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)の合成(1):
アルゴン気流下、容量500mLのガラス製フラスコに乾燥トルエン350mL、2−メトキシエチルビニルエーテル30.4g(0.3mol)、乾燥酢酸エチル31.6g (0.36mol)、1−ブトキシエチルアセテート(IBEA)40mMトルエン溶液35mL(1.4mmol)を仕込み0℃に冷却した後、撹拌しながらEt1.5AlCl1.5の1Mトルエン溶液7.0mL(7.0mmol)を添加した。これを0℃で30分撹拌後、反応液にエタノール50mL添加し反応停止後、反応液をトルエンで希釈して水洗し、有機相から溶媒を留去して、重量平均分子量(Mw)が34,400、Mw/Mnが1.2のポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)28.5g(収率94%)を得た。得られたポリマーの下限臨界溶液温度は70℃であった。
【0035】
参 考 例 2
ポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)の合成(2):
乾燥酢酸エチル63.2g(0.72mol)、1−ブトキシエチルアセテート(IBEA)40mMトルエン溶液70mL(2.8mmol)、Et1.5AlCl1.5の1Mトルエン溶液14.0mL(14.0mmol)を用いた以外は参考例1と同様の方法で重合操作を行い、重量平均分子量(Mw)が18,600、Mw/Mnが1.3のポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)24.0g(収率82%)を得た。得られたポリマーの下限臨界溶液温度は69℃であった。
【0036】
参 考 例 3
ポリ(ジエチレングリコール−ω−エチル−α−ビニルエーテル)の合成:
2−メトキシエチルビニルエーテルの代わりにジエチレングリコール−ω−エチル−α−ビニルエーテル48g(0.3mol)を用いた以外参考例1と同様な操作を行い、重量平均分子量(Mw)が32,600、Mw/Mnが1.3のポリ(ジエチレングリコール−ω−エチル−α−ビニルエーテル:式(I)中、m=1、R=エチル基)41.3g(収率86%)を得た。得られたポリマーの下限臨界溶液温度は40℃であった。
【0037】
参 考 例 4
ポリ(ジエチレングリコール−ω−メチル−α−ビニルエーテル)の合成:
2−メトキシエチルビニルエーテルの代わりにジエチレングリコール−ω−メチル−α−ビニルエーテル43.8g(0.3mol)を用いた以外参考例1と同様の操作を行い、重量平均分子量(Mw)が31,200、Mw/Mnが1.2のポリ(ジエチレングリコール−ω−メチル−α−ビニルエーテル:式(I)中、m=1、R=メチル基)35.9g(収率82%)を得た。得られたポリマーの下限臨界溶液温度は81℃であった。
【0038】
参 考 例 5
ポリ(テトラエチレングリコール−ω−エチル−α−ビニルエーテル)の合成:
2−メトキシエチルビニルエーテルの代わりにテトラエチレングリコール−ω−エチル−α−ビニルエーテル74.4g(0.3mol)を用いた以外、参考例1と同様の操作を行い、重量平均分子量(Mw)が33,200、Mw/Mnが1.2のポリ(テトラエチレングリコール−ω−エチル−α−ビニルエーテル:式(I)中、m=4、R=エチル基)67.0g(収率90%)を得た。得られたポリマーの下限臨界溶液温度は58℃であった。
【0039】
実 施 例 1
金属の回収:
50mLガラス製ビーカーに参考例1で得られたポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル(Mw=34,400、Mw/Mn=1.2、下限臨界溶液温度=70℃、)50mg、金属溶液として塩化金酸水溶液(関東化学(株)製、濃度1.0×10−3M)1mL、およびアスコルビン酸0.35g(2.0mmol)を仕込み、イオン交換水を加え全体が20mLの均一な溶液となるよう希釈した。この溶液を上記ポリマーの下限臨界溶液温度よりも10℃高い温度(80℃)で2時間加熱を行い、凝集相と水相の2相の溶液に分離させた。この時、金属は凝集相に析出していた。次に、この溶液を室温(約23℃)まで冷却して水層を均一な水溶液とし、金を析出させた。その後、この溶液をガラス繊維フィルター(Whatman GF/B)でろ過し、金を回収した。一方、ろ液中の金イオン濃度を原子吸光光度計を用いて測定し、金の回収率を算出した。また、金属溶液として塩化金酸水溶液の代わりに濃度1.0X10−3Mの硝酸銀水溶液または硫酸銅水溶液を用いた以外同様の操作を行い、銀および銅の回収率を算出した。それらの結果を表1に結果を示した。
【0040】
【表1】

【0041】
回収率の値より、ポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)を用いることで、金と銀、特に金を選択的に回収できることがわかった。また、金属回収後のろ液の透過率を分光光度計を用いて測定したところ、何れの金属回収後のろ液も透過率が100%であったことから、金属の回収に用いたポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)は100%ろ液に存在することがわかった。
【0042】
実 施 例 2
複数の金属共存下での金属の回収:
実施例1の金属溶液を、金イオン、銀イオンおよび銅イオンがそれぞれ等モル溶解している溶液に変更した以外は実施例1と同様にして回収試験を行い、各金属の回収率を算出した。その結果を表2に示した。
【0043】
【表2】

【0044】
回収率の値より、複数の金属が共存する系であっても、ポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)を用いることで金と銀を選択的に回収できることがわかった。
【0045】
実 施 例 3
複数の金属共存下での金属の回収:
実施例1の金属溶液を、金イオン、銀イオン、銅イオン、ニッケルイオン、鉄イオン、コバルトイオンがそれぞれ等モル共存している溶液に変更した以外は全て実施例1と同様にして回収試験を行い、各金属の回収率を算出した。その結果を表3に示した。
【0046】
【表3】

【0047】
回収率の値より、金、銀以外の金属イオンが多数共存する系であっても、ポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)を用いることで金と銀を選択的に高い回収率で回収できることがわかった。
【0048】
比 較 例 1
金の回収:
実施例1で用いたポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)の代わりに、温度刺激応答性を有するメチルセルロース(MC)、ポリN−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)およびポリビニルメチルエーテル(PVME)に代える以外は、実施例1と同様の操作を行い金の回収率を算出した。それらの結果も表4に示した。
【0049】
【表4】

【0050】
回収率の値より、ポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)よりも金の回収率が高い温度刺激応答性を有するポリマーはないことがわかった。
【0051】
実 施 例 4
金の回収:
実施例1で用いたアスコルビン酸の代わりに、クエン酸一水和物0.42g(2.0mmol)を用いた以外、実施例1と同様の操作を行い、金の回収率を算出した。この場合の金の回収率は92%であった。
【0052】
実 施 例 5
金の回収:
実施例1において用いた参考例1で合成したポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)の代わりに、参考例2で合成した(2−メトキシエチルビニルエーテル)、参考例3で合成したポリ(ジエチレングリコール−ω−エチル−α−ビニルエーテル)または参考例5で合成したポリ(テトラエチレングリコール−ω−エチル−α−ビニルエーテル)を用いた以外、実施例1と同様の操作を行い、金の回収率を算出した。また、参考例4で合成したポリ(ジエチレングリコール−ω−メチル−α−ビニルエーテル)については、加熱を85℃で行った以外は上記と同様の操作を行い、金の回収率を算出した。それらの結果を表5に示した。
【0053】
【表5】

【0054】
回収率の値より、いずれのポリマーを用いても高い回収率で金を回収できることがわかった。
【0055】
実 施 例 6
ポリマーの回収:
実施例1で金を回収後のろ液を再び80℃において15分加熱を行い、凝集相と水相に分離させた後、ガラス繊維フィルター(Whatman GF/B)を用いてろ過してポリマーを回収した。分光光度計を用いてろ過前後におけるろ液中のポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)の量を測定したところ、60%のポリマーがフィルター上に回収されていることがわかった。
【0056】
実 施 例 7
ポリマーの回収:
実施例1で金を回収後のろ液に無水硫酸ナトリウム0.7g(5.0mmol)を加え溶解させ、80℃で15分加熱を行い凝集相と水相に分離させた後、ガラス繊維フィルター(Whatman GF/B)を用いてろ過してポリマーを回収した。分光光度計を用いてろ過前後におけるろ液中のポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)の量を測定したところ、75%のポリマーがフィルター上に回収されていることがわかった。
【0057】
実 施 例 8
ポリマーの再利用:
実施例6においてフィルター上に回収されたポリマーを実施例1のポリマーと同様に、アスコルビン酸と共に金水溶液に加え溶液の温度を80℃とすることにより、80%程度の金を回収することができた。これによりポリマーの再利用が可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明回収方法は、携帯電話、パソコン等から金と銀を選択性良く回収することができ、また、金および/または銀の回収に用いたオキシエチレン鎖含有ポリビニルエーテルも再利用することができる。
【0059】
従って、本発明の金および/または銀の回収方法は貴金属資源の再利用に貢献することができる。

以 上


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)〜(d)、
(a)金イオンおよび/または銀イオンを含有する水溶液に下限臨界溶液温度を有する
オキシエチレン鎖含有ポリビニルエーテルを添加する工程
(b)前記水溶液に還元剤を添加した後、前記ポリマーの下限臨界溶液温度よりも高い
温度にして前記水溶液をポリマーの凝集相と水相の2相の溶液に分離させ、前記
ポリマーの凝集相に金および/または銀を析出させる工程
(c)前記2相の溶液を前記ポリマーの下限臨界溶液温度よりも低い温度にして均一な
水溶液に戻し、前記水溶液に金および/または銀を析出させる工程
(d)金および/または銀を前記水溶液から回収する工程
を含むことを特徴とする金および/または銀の回収方法。
【請求項2】
下限臨界溶液温度が20〜100℃の範囲にあるオキシエチレン鎖含有ポリビニルエーテルを用いる請求項1記載の金および/または銀の回収方法。
【請求項3】
工程(d)で金および/または銀を回収した後の水溶液について、更に、工程(b)〜(d)を行うものである請求項1または2に記載の金および/または銀の回収方法。
【請求項4】
還元剤がクエン酸、クエン酸ナトリウム、エタノールアミン、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウムおよび塩酸ヒドロキシルアミンからなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1ないし3の何れかに記載の金および/または銀の回収方法。
【請求項5】
工程(d)で金および/または銀を回収した後の水溶液を、前記ポリマーの下限臨界溶液温度よりも高い温度にして前記水溶液をポリマーの凝集相と水相の2相の溶液に分離させた状態で、前記ポリマーを回収するものである請求項1ないし4の何れかに記載の金および/または銀の回収方法。
【請求項6】
オキシエチレン鎖含有ポリビニルエーテルが下記式(I)
【化1】

(ただし、式(I)中、Rはメチル基またはエチル基、mは0〜4の整数である)
を構成単位とするものである請求項1ないし5の何れかに記載の金および/または銀の回収方法。
【請求項7】
オキシエチレン鎖含有ポリビニルエーテルがポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)である請求項1ないし5の何れかに記載の金および/または銀の回収方法。

【公開番号】特開2011−84783(P2011−84783A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238852(P2009−238852)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年5月2日 社団法人 日本分析化学会 展望とトピックス委員会発行の「第70回分析化学討論会 展望とトピックス」に発表
【出願人】(504203572)国立大学法人茨城大学 (99)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】