金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカおよびそれを用いた金イオンセンサおよび金回収方法
【課題】鉱石等に含まれる金を効率よく安価に取り出す金イオン検出センサを提供する。
【解決手段】有機シリコン化合物および界面活性剤から作製した高秩序化メソポーラスシリカ(HOMS)に、目標金属である金を選択的に吸着するキレート化合物等の金イオン吸着性化合物を担持させる。その金イオン吸着性化合物を担持したHOMSを目標金属である金が溶解された溶液と接触させ、目標金属である金イオンを選択的にHOMSに担持された金イオン吸着性化合物に吸着させる。目標金属である金イオンを吸着した金イオン吸着性化合物を担持したHOMSを化学的処理し、目標金属である金イオンをHOMSに担持された金イオン吸着性化合物から遊離させ、目標金属である金を回収する。金イオンが遊離された金イオン吸着性化合物を担持したHOMSは、再使用できる。この金イオン吸着性化合物を担持したHOMSは金濃度検出センサとしても使用できる。
【解決手段】有機シリコン化合物および界面活性剤から作製した高秩序化メソポーラスシリカ(HOMS)に、目標金属である金を選択的に吸着するキレート化合物等の金イオン吸着性化合物を担持させる。その金イオン吸着性化合物を担持したHOMSを目標金属である金が溶解された溶液と接触させ、目標金属である金イオンを選択的にHOMSに担持された金イオン吸着性化合物に吸着させる。目標金属である金イオンを吸着した金イオン吸着性化合物を担持したHOMSを化学的処理し、目標金属である金イオンをHOMSに担持された金イオン吸着性化合物から遊離させ、目標金属である金を回収する。金イオンが遊離された金イオン吸着性化合物を担持したHOMSは、再使用できる。この金イオン吸着性化合物を担持したHOMSは金濃度検出センサとしても使用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標金属として金イオンを選択的に吸着可能な金イオン吸着性化合物を担持した規則的な配列を持って多孔質化されているメソポーラスシリカに関するものであり、メソポーラスシリカに担持された金イオン吸着性化合物を用いて、金イオンを含む金属溶解溶液に含まれる金イオンを効率的に回収する方法に関する。さらに、メソポーラスシリカに担持された金イオン吸着性化合物を用いた金属溶解溶液に含まれる金イオン濃度を検出するセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
金は人類の歴史上最も魅力的な金属でありアクセサリや装飾品に使用されてきた。近年は、高導電性や耐腐食性等の優れた特性から携帯電話やパソコンなどの電子機器等に使用されるプリント基板の配線にも使用されており、金は世界的に需要が急拡大しているが、埋蔵量や生産量が少ないだけでなく、埋蔵資源国が偏在している。さらに、不安定で流動的な昨今の社会情勢や経済情勢から、金は円やドル等の通貨よりも最も安全な財産であるとされ、金の価格は年々高くなってきている。一方、希少金属(レアメタル)や金等の貴金属を使用した携帯電話やパソコンなどの廃棄量も急激に増えており、この廃棄物から希少金属や金を回収することが急務となっている。(このような希少金属や貴金属などが含まれた廃棄物を都市鉱石と呼ぶこともある。)しかしながら、都市鉱石には多数の金属が含まれているため、目標金属としての金を回収するプロセスは複雑であり、適切な回収方法もなく、また回収費用が大きくなり、現状では経済的に引き合わない。
【0003】
一方、メソポーラスシリカを用いた金属イオン検出方法は種々研究されている。たとえば、特許文献1および2においては、メソポーラスシリカにアミノポルフィリン、ジチゾン、ポルフィリンスルホン等の色素分子を保持して複合センサを作り、Pbイオン、Cdイオン、水銀イオン、Crイオンなどを色素分子に吸着させて、そのスペクトル変化を利用してイオン濃度を検出することが記載されている。しかしながら、これまでのどの先行特許文献や非特許文献においても、メソポーラスシリカに吸着させた金属、特に金の回収についての開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−32886
【特許文献2】特開2007−32887
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. B. Rosenbaum,Minerals extraction and processing: New developments. Science, 191 (1976)720-723.
【非特許文献2】A. S.Bashammakh, M. S. El-Shahawi, Extraction equilibrium and simple extractivespectrophotometric determination of gold (I& III) in water using the ion−pairing amiloride hydrochloride. Int. J.Chem., 2 (2010), 155-163.
【非特許文献3】P. Navarro, R.Alvarez, C. Vargas, F. J. Alguacil, On the use of zinc for gold cementationfrom ammoniacal−thiosulphatesolutions. Miner. Eng., 17 (2004) 825-831.
【非特許文献4】L. L. Sundberg,Direct adsorption of solvent-extracted gold on a chelating ion exchange resin.Anal. Chem., 47 (1975) 2037-2040.
【非特許文献5】W. I. Harris, J.R. Stahlbush, W. C. Pike, R. R. Stevens, The extraction of gold from basemoderate cyanide solutions using ion-exchange polyamine resins. React. Polym.,17 (1992) 21-27.
【非特許文献6】A. Davis T.Tran, D. R. Young, Solution chemistry of iodide leaching of gold.Hydrometallurgy, 32 (1993) 143-159.
【非特許文献7】S. Akita, L.Yang, H. Takeuchi, Solvent extraction of gold (III) from hydrochloric acid bynonionic surfactants media. Hydrometallurgy, 43 (1996) 37-46.
【非特許文献8】R. R. Barefoot,J. C. VanLoon, Recent advances in the determination of the platinum groupelements and gold. Talanta, 49 (1999) 1-14.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような社会情勢や経済情勢および産業情勢を背景にして、環境的制約、コストおよびエネルギー供給の観点から金の生産方法、特に金イオンの分離・抽出におけるイノベーションも活発に行われている。(非特許文献1、2)金イオンの分離・抽出方法として、たとえば、浸透法、析出法、イオン交換樹脂法、言い換えれば、吸着、浸出、溶媒抽出および生物学的方法が、調査されている。(非特文献3〜8)しかし、これらの方法では、金イオンを含む複数イオン混合体や他の微量貴金属の存在において、微量濃度レベルの金イオンを同定したり抽出したりすることは困難である。従って、微量金イオンを同定し抽出するための、迅速で、費用効率が良く、使いやすく、かつ信頼性の良い技術が要求されている。また、これまでのどの先行特許文献や非特許文献においても、メソポーラスシリカに吸着させた金属、特に金の回収についての開示はない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、高度に秩序化した構造を有するメソポーラスシリカに金イオンを選択的に吸着することができる化合物(以下、金イオン吸着性化合物という)を担持させて、担持された金イオン吸着性化合物に金イオンを吸着させ、この吸着された金イオンを回収する効率的な方法およびそれに使用される金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを提供する。さらに、この金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを用いて金イオン濃度検出を精度良く行なう金イオンセンサを提供する。
【0008】
シリカ源と界面活性剤を混合した後、酸性水溶液を添加して、これを焼成すると、メソポーラスシリカが生成される。このメソポーラスシリカに金イオン吸着性化合物(金イオンはまだ吸着されていない)を担持する。金イオン吸着性化合物は、金イオン{特に3価金イオンAu(III)}を選択的に吸着することができる化合物である。たとえば、キレート化合物のような金属錯体である。(特定の金属を選択的に吸着しやすい化合物を本出願では金属吸着性化合物と呼ぶ。ここで、金属吸着性化合物が選択的に吸着可能な特定金属を回収するという意味で、この特定金属を目標金属と称する。本発明においては、目標金属は金である。)
【0009】
金を含む種々の金属が溶解された金属溶解溶液に前記金イオン吸着性化合物を担持(または修飾)したメソポーラスシリカを接触させ、メソポーラスシリカに担持した金イオン吸着性化合物に目標金属である金を吸着させる。このとき、金属溶解溶液のpH値、溶液濃度や溶液温度等の環境要因を調節すれば、効率的に目標金属を吸着させることができる。(たとえば、都市鉱石等を王水等の酸性溶液に溶かして固形物を除去した溶液は、目標金属である金を含む種々の金属が溶解された金属溶解溶液となる。)
【0010】
次に、金イオンが吸着された金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを金イオンが遊離可能な溶液(金イオン遊離溶液)に接触させて、吸着された金イオンを金イオン遊離溶液に溶解させる。この溶液をろ過して固形物と液体に分離する。分離された液体は金イオンだけを溶解しているので、目標金属である金の回収が可能となる。溶液の濃度、pH、反応温度等をコントロールすることで、金の回収効率を上げることができる。また、分離された固形物は、金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカであり、メソポーラスシリカに担持された金イオン吸着性化合物は金を吸着していない。すなわち、固形物は金イオン吸着性化合物(金イオンを吸着していない)を担持したメソポーラスシリカに戻る。しかも本体(金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカ)は変化していないので、再度目標金属である金イオン吸着材として利用できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明において、金イオン吸着性化合物が広い表面積や高秩序化した構造を持つメソポーラスシリカの表面およびポア(細孔)内壁に担持(修飾)されているので、金イオン吸着性化合物の反応基に金イオンが容易にしかも速く吸着する。従って、吸着の応答速度が速いだけでなく、金イオン吸着性化合物への吸着効率が、単独の金イオン吸着性化合物への吸着効率よりも非常に大きくなるとともに、金イオン吸着量も多くなる。また、金イオン吸着性化合物に吸着された金イオンも整然と配列し密に吸着されているので、吸着した金イオンを容易に速く遊離することができる。従って金イオンの遊離効率も非常に大きい。また、金イオン吸着性化合物は金イオン溶解溶液のpH値等を調整することにより金イオンを選択的に多量に吸着することができる。従って、金だけを効率良く回収できる。
【0012】
さらに、金イオン吸着性化合物を担持しているメソポーラスシリカはその骨格が強固であり、金イオン吸着性化合物の担持や金イオンの吸着によってもメソポーラスシリカの骨格には変化が殆どない。吸着した金イオンもほぼ完全に遊離できるのでもとの状態(金イオンを吸着していない金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカ)に戻るので、金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを繰り返し使用することができる。
従って、トータル(全体)の金の回収費用を小さくすることができる。また、本発明の金イオンが吸着された金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカは、比色法または紫外可視分光法を用いてppbオーダーの非常に低濃度の金イオン濃度も検出することができるので、金イオン濃度センサーとしても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の金回収システムを示す図である。
【図2】図2は、HOM-Cageの生成方法を示す図である。
【図3】図3は、レセプターR1の合成反応を示す図である。
【図4】図4は、レセプターR2の合成反応を示す図である。
【図5】図5は、レセプターR3の合成反応を示す図である。
【図6】図6は、レセプターR4の構造式を示す図である。
【図7】図7は、レセプターR4を担持したHOM−R4を生成する方法を示す図である。
【図8】図8は、波長が550nmにおけるHOM−R1の吸収分光強度(室温測定)を示す図である。
【図9】図9は、金イオンを吸着したHOM-R1 の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。
【図10】図10は、波長が550nmの可視光における吸収率と金イオン{Au(III)}濃度との関係を示す図である。
【図11】図11は、金イオンを吸着したHOM-R2の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。
【図12】図12は、金イオンを吸着したHOM-R3の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。
【図13】図13は、金イオンを吸着したHOM-R4の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。
【図14】図14は、金イオンを吸着したHOM-R1の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。
【図15】図15は、金イオンを含む複数金属イオン混合液中にHOM−R1を浸漬した後のろ過液における金属イオン濃度を示す図である。
【図16】図16は、溶出処理後の溶出液における金属イオン濃度を示す図である。
【図17】図17は、HOM―R1の窒素吸着・離脱等温線を示す図である。
【図18】図18は、図17から求めたBET比表面積、細孔体積および細孔サイズを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、高い選択性と光学的検出機能を有する種々のキレート等を用いた金イオン検出技術および金回収技術を提供するものである。この技術の特徴は異種原子から構成されるメソポーラス材料の原子レベルで配列したナノサイズの表面状態を利用していることである。本発明は、活性重金属および貴金属を含む廃棄物から金を抽出する方法として非常に優れている。
【0015】
メソポーラスシリカのナノレベルで配列した内表面は、pHなどの環境条件を制御して固着・解離状態を可変することによって金イオン検出センサを作る。隣接原子と電子軌道構造の異なる表面原子とキレートとの結合によって、金イオンを確実に吸着できる。さらに、ナノレベルの内側配列は電荷移動を増大させるので、ppbレベルの極く微量の吸着でも肉眼で観察可能な変化が起こる。
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の金回収システムを示す図である。まず、第1段階で高度に秩序化したメソポーラスシリカ(HOMシリカ(HOMS):High Ordered Mesoporous Silica、尚通常、HOMと言った場合、シリカ(Silica)は含まないが、本明細書においてはHOMと記載した場合も、特に明記しない限りシリカ(Silica)も含むものとする。)を合成する。ここで、メソポーラスシリカとは、多孔質シリカの1種であり、メソポア領域と呼ばれる、2から50nmの領域の大きさのほぼ均一で規則的な直径の細孔(メソ孔)を有し、細孔の作るネットワークの様式(空間対称性)や製造方法等によって、様々な特性を有することが知られている多孔質物質群である。しかし、本特許出願においては、メソ孔よりも小さなマイクロ孔(2nm以下の細孔)やメソ孔よりも大きなマクロ孔(50nm以上の細孔)を有するポーラスシリカもメソポーラスシリカと呼ぶ。
【0017】
本発明に用いられるHOMの形態は、薄膜状形態やモノリス形態を含む。モノリス形態とは、通常薄膜以外の各種の形態、たとえば微粒子、粒子、ブロック状のもの等の形態を言う。高度に秩序化したとは、立方晶や六方晶系メソポーラス構造が3次元的に表面や内壁表面に規則正しく配列した状態を言い、たとえば立方晶Ia3d、Pm3n、Fm3mや六方晶P6m構造を言う。これらの構造が広範囲に存在すると、金イオン吸着性化合物を大量に担持することができ、全体の金イオン吸着量を大きくすることができる。また、HOMのBET比表面積は大きいほど良いが、通常400m2/g以上であり、好適には800m2/g以上である。
【0018】
HOMシリカは種々の方法により合成できる。たとえば、界面活性剤を鋳型としたゾルゲル法においては、水溶液中に臨界ミセル濃度以上の濃度で界面活性剤を溶解させると、界面活性剤の種類に応じて一定の大きさと構造をもつミセル粒子が形成される。しばらく静置するとミセル粒子が充填構造をとり、コロイド結晶となる。ここで溶液中にシリカ源となる有機シリコン化合物などを加え、微量の酸あるいは塩基を触媒として加えると、コロイド粒子の隙間でゾルゲル反応が進行しシリカゲル骨格が形成される。最後に高温で焼成すると、鋳型とした界面活性剤が分解・除去されて純粋な高度に秩序化したメソポーラスシリカ(HOMシリカ)が得られる。また、たとえば、好適には、有機シリコン化合物と界面活性剤を混合してリオトロピック型液晶相を形成し、さらに、酸水溶液を加えることによって、短時間に有機シリコン化合物の加水分解反応を起こし、メソポーラスシリカと界面活性剤の複合生成物を得た後、界面活性剤を除去して、HOMシリカを得る方法が利用される。
【0019】
有機シリコン化合物として、たとえば、TEOS(テトラエトキシシラン)、TMOS(テトラメトキシシラン)、テトラメチルオルトケイ酸(C4H12O4Si)やテトラエチルオルトケイ酸(C8H20O4Si)などのシリコンアルコキシドを用いる。(生成物から加熱や真空引き等でエタノールよりメタノールを除去する方が容易であるから、生産性はTEOSよりTMOSの方が好適である。)尚、HOMの形成には、有機シリコン化合物の他に無機シリコン化合物を用いることもできる。たとえば、カネマイト(NaHSi2O5・3H2O)、ジ珪酸ナトリウム結晶(Na2Si2O5)、マカタイト(NaHSi4O9・5H2O)、アイラアイト(NaHSi8O17・XH2O)、マガディアイト(Na2HSi14O29・XH2O)、ケニヤアイト(Na2HSi20O41・XH2O)、水ガラス(珪酸ソーダ)、ガラス、無定形珪酸ナトリウムを用いることもできる。これらは、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
また、テンプレート(鋳型)となる界面活性剤も、種々のものを使用できる。たとえば、カチオン性やアニオン性や両性や非イオン性の界面活性剤を使用できる。鋳型となる陽イオン性界面活性剤としては、たとえば、第1級アミン塩、第2級アミン塩、第3級アミン塩、第4級アンモニウム塩が挙げられる。また、鋳型となる陰イオン性界面活性剤としては、たとえば、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩などが挙げられ、セッケン、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化オレフィン、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩および高級アルコールリン酸エステル塩が挙げられる。
【0021】
鋳型となる両性界面活性剤としては、たとえば、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインが挙げられる。鋳型となる非イオン界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン酸誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのエーテル型のものや、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどの含窒素型が挙げられる。これらは、2種以上混合して用いても良い。
【0022】
界面活性剤の種類を変更することによりHOMの構造(細孔の大きさや形、結晶構造など)を制御することができるので、結晶構造の秩序性が高くBET比表面積が大きい細孔密度の大きなHOMを形成できる界面活性剤が好適である。たとえば、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル(Brij56:C16H33(OCH2CH2)10OH、C16EO10)、トリブロック共重合体界面活性剤(たとえば、pluronic(登録商標)P123:EO20PO70EO20、Pluronic(登録商標)F108:EO141PO44O141)を用いることができる。Brij56:TMOS=0.5の重量比の混合により、立方晶構造Pm3n(HOM-9)が得られ、P123:TMOS=0.75の重量比の混合により、立方晶構造Ia3d(HOM-5)が得られ、F108:TMOS=0.7の重量比の混合により、立方晶構造Im3m(HOM-1)ケージ状シリカ構造が得られる。
【0023】
図2はケージ状或いはシリンダー状の立方晶モノリス(以下、HOM-Cageと記す)の生成方法を示す図である。丸形フラスコに8.0gのTetramethylorthosilicate (TMOS)を入れ、その中に5.6gの界面活性剤(EO141PO44EO141)F108を添加する。界面活性剤を完全に溶解させるためにフラスコは約60℃の温水に保持された。その後、4gのpH1.3の酸性水溶液(H2O-HCl)が添加され、ロータリーエバポレータにより溶液を10分間蒸発させると、固体材料が形成された。この固体材料は水分を含み塊状なので、さらにオーブン中において40℃で1日保持し、その後さらに450℃で8時間焼成することにより粉末状のHOM-Cage (ケージ状メソポーラスシリカ)が形成される。
【0024】
次に、第2段階で、金イオン吸着性化合物をHOMに担持させる。この段階では、金イオン吸着性化合物には金イオンは(他の金属イオンも)吸着されていない。(金イオンを吸着していないことを示す用語として「金イオン吸着性化合物」と称する。本発明に用いられる金イオン吸着性化合物として、金属錯体、無機金属化合物や有機金属化合物がある。セルロース、タンパク質などの金イオン吸着性化合物も含まれる。金属錯体として、無機および有機の金属錯体や金属カルボニル化合物、金属クラスターや有機金属化合物が挙げられる。また、キレート化合物も含まれる。基本的には、金属の中で金(イオン)を吸着できる化合物であって、HOMに担持でき、化学処理により、目標金属である金以外の金属イオンを遊離でき、その後に他の化学処理により目標金属である金を遊離できる化合物である。金イオン吸着性化合物は、化学的にはたとえばOH基を介してHOMシリカに強固に結合している。
【0025】
金イオン吸着性化合物は、回収しようとする目標金属である金イオンを選択的にしかも多量に吸着する化合物が望ましい。たとえば、金イオンに対して選択的に結合するキレート化合物が挙げられる。金を含む各種の金属が溶解した金属溶解溶液のpH値や温度や濃度などを調整すれば、金イオン吸着性化合物に目標金属である金イオンを選択的に吸着できる。また、キレート化合物は、非常に微量の(たとえば、ppbオーダー)金を選択的に吸着することができるので、金属溶解溶液中に含まれる金イオンの量が少なくても、効率的に選択的に金イオンを吸着する。
【0026】
たとえば、我々は、N,N-ビス(サリチリデン)2,6-ジアミノピリジン{N,N-Bis(salicylidene)2,6-diaminopyridine (略称BSP)(以下レセプター1(R1)とも称する。)}、N,N-ジサリチリデン-4-ニトロ-フェニレンデン{N,N-disalicylidene-4-nitro-phenylenedene ((略称DSNPD) (以下レセプター2(R2)とも称する。))、 4-ドデシル-6-(2-チアゾルイルアゾ)レソルシノール{4-dodecyl-6-(2-thiazolylazo)resorcinol (略称DTAR)(以下レセプター3(R3)とも称する。)}、または4-(2-ピロジルアゾ)レゾルシノール{4-(2-pyridylazo)resorcinol (略称PAR)(以下レセプター4(R4)とも称する。)}のキレート錯体が金イオン{Au(III)}を選択的に優先的に吸着することを見出した。本出願では、上記の金イオン吸着性化合物をレセプター(R1、R1、R3、R4)とも称する。(レセプター(receptor)とは本来「受容体」という生物学的用語であるが、本出願では特定金属(金イオン)を吸着する金属イオン吸着性化合物という意味でレセプターという用語を用いることもある。)
【0027】
これらのレセプターは後述するように、溶液をpH=3付近で調節した金イオン{特に3価の金イオン(Au(III)イオン)}を含有した溶液にレセプターを担持したHOMシリカを浸漬すると、レセプターは他のpH値の溶液における場合よりも大量にしかも選択的にAu(III)イオンを吸着する。Au(III)イオンの吸着量が増していくとレセプターを担持したHOMシリカの色が変化していく。色調と吸着されたAu(III)イオン濃度とは相関関係にあるので、色調からAu(III)イオン濃度を知ることができる。すなわち比色分析が可能である。
【0028】
また、Au(III)イオン吸着後の光吸収スペクトルからもAu(III)イオン濃度を測定できる。すなわち、レセプターを担持したHOMシリカはAu(III)イオン濃度検出センサでもある。たとえば、これらのレセプターを担持したメソポーラスシリカ(HOMS−R1〜R4)は、金イオン{Au(III)}を吸着すると紫外可視分光法において500nm〜600nmの波長を持つ可視光に吸収ピークを示し、この波長域の吸収率と金イオン濃度とは相関関係があるので、キャリブレーションカーブを事前に作っておくことにより、金イオン{Au(III)}を吸着したHOMS−R1〜R4の紫外可視分光法における当該波長の吸収率データからこのHOMS−R1〜R4の金イオン濃度を知ることができる。しかもこのHOMS−R1〜R4は溶液中の金イオンを選択的にほとんど全部の金イオンを吸着するとともに、他の含有金属イオンはほとんど吸着しないので、非常に感度の良い金イオン濃度センサとなる。特にppbレベルの微量な金でも正確な濃度を検出できる。
【0029】
このような金イオン吸着性化合物をHOMに担持(修飾)させる方法(複合化法とも呼ぶ)として種々の方法が挙げられる。たとえば、HOMに保持されるべき金イオン吸着性化合物が中性である場合には、試薬含浸法(REACTIVE & FUNCTIONAL POLYMERS,49,189(2001)など)が用いられ、陰イオン性である場合には、陽イオン交換法が用いられ、陽イオン性である場合には陰イオン交換法が用いられる。これらの複合化法は、特別の条件や操作ではなく、既知の一般的な技術分野に属するものである。したがって、これらの一般的な技術分野の詳細については、当該固体吸着分野に関する総説、文献などを参照することができる。
【0030】
たとえば、メソポーラスシリカを陽イオン性有機試薬(たとえば、陽イオン性シリル化剤)を用いて表面処理し、そのメソポーラスシリカに陽イオン性官能基を付与し、次いで、この陽イオン性メソポーラスシリカと陰イオン性金イオン吸着性化合物の水溶液やアルコール溶液とを接触させ、金イオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に吸着させる方法、メソポーラスシリカと金イオン吸着性化合物の有機溶媒溶液とを接触させ、有機溶媒だけをろ過あるいは蒸留などにより取り除くことで、金イオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に物理的に吸着させて担持する方法、メソポーラスシリカをチオール基を持つシリル化剤を用いて表面処理し、次いで、生成する表面のチオール基を酸化処理することで、そのメソポーラスシリカに陰イオン性官能基を付与し、この陰イオン性メソポーラスシリカと陽イオン性金属吸着性化合物の水溶液とを接触させ、金イオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に吸着させる方法、あらかじめ金イオン吸着性化合物を細孔内および表面に充填した後に、これを陽イオン性有機試薬の有機溶媒溶液で処理して、金イオン吸着性化合物を細孔内および表面に固定する方法、金イオン吸着性化合物と陽イオン性有機試薬をあらかじめ混合し、得られた試薬複合体の有機溶媒溶液と該シリカとを接触させ、有機溶媒だけをろ過あるいは蒸留などにより取り除くことで、金イオン吸着性化合物を該シリカ内に担持する方法が使用される。
【0031】
また、前述のレセプター(R1〜R4)をHOMに担持させるには、レセプターをN,N-ジメチルフォルムアミド{N,N-Dimethylformamide (DMF)}またはエタノールに溶解し、この溶液とHOMを接触させて、HOMへレセプター(R1〜R4)を含浸させる。このようにしてレセプター(R1〜R4)を高密度に整然と担持したHOMシリカが完成する。尚エタノールや水分等の液分を蒸発(加熱や真空引き等)させてさらに乾燥することによりレセプター(R1〜R4)を担持したHOMシリカを高純度の固体状態(粉末)で効率良く作製できる。
また、結晶構造の秩序性が高くBET比表面積が大きいポーラス(細孔)密度の大きなHOMシリカほど、多くのレセプターが規則的にHOMシリカの表面および細孔内壁に担持される。たとえば、好適には、立方晶構造Pm3n、Fm3m、Ia3d、六方晶構造P6mなどの構造が広範囲に形成されたHOMシリカにレセプター(金イオン)吸着性化合物を吸着させる。
【0032】
金イオン吸着性化合物単独でも当然選択的に目標金属である金イオンを吸着できるが、金イオン吸着性化合物は凝集等するため、金イオン吸着が可能な官能基を有効に利用することができない。すなわち、凝集された(たとえば、粒子状の)金イオン吸着性化合物物質の表面に存在する官能基に目標金属である金イオンが吸着しても、拡散または浸透により金イオン吸着性化合物内部の金イオン濃度は距離(の2乗)に対して指数関数的に減少するから、その粒子状物質の内部にある金イオン吸着性化合物の官能基全部に金イオンが吸着することは困難である。また、仮にその粒子状物質の内部にある金イオン吸着性化合物の官能基に金イオンが吸着したとしても、その吸着した金イオンを取り出す(遊離するまたは逆抽出する)ことが難しいという問題がある。かなりの時間をかければ粒子状物質の内部に金イオンを拡散させ、さらに取り出すことも可能であるが、長時間をかけて金イオンを粒子状物質の内部を移動させることは生産性が悪く工業的には利用できない。
【0033】
これに対して、メソポーラスシリカは、細孔表面積が非常に大きく高度に秩序化した配向構造を持つので、メソポーラスシリカの表面および細孔内壁に金イオン吸着性化合物を担持したものは、金イオン吸着性化合物が整然と配列して結合しているので、金イオン吸着性化合物の金イオン吸着率が非常に高くなる。すなわち、金イオン吸着性化合物の1分子ずつが金イオン吸着に利用できる。金イオン溶解溶液や遊離(逆抽出)溶液は、メソポーラスシリカの表面や細孔へ容易に速やかに侵入していくので、HOMに担持された金イオン吸着性化合物(の反応基)と容易に、しかも速やかに接触する。このことは、HOMに担持された金イオン吸着性化合物が金イオン溶解溶液と接触すると速やかに吸着される。また、吸着された金イオンを遊離するときも遊離溶液と接触すれば吸着された金イオンが速やかに遊離されるということも意味するので、生産性が飛躍的に向上する。
【0034】
たとえば、キレート樹脂単独の場合には、キレート樹脂の表面において、表面原子がすべて有効にキレート(官能基)を持った状態にはならず、原子的には離散的にキレートの反応端がある状態となっている。キレート樹脂単独で金イオンを吸着する時も、キレート樹脂のどの部分につくか制御できない。また、金イオン溶解溶液と接触した部分のキレート官能基には金イオンが吸着(抽出とも言う)されると予想されるが、金イオン溶解溶液が浸透しにくいキレート樹脂内部では金イオンは殆ど吸着されないと考えられる。すなわち、金イオン吸着効率が非常に悪い。さらにキレート樹脂に吸着した金イオンを遊離するとき(逆抽出とも言う)も、キレート樹脂内部に吸着した金イオンを取り出すことも困難となる。
【0035】
このキレート樹脂を繰り返し利用するときも、キレート樹脂中の残存物等の影響により、金イオンの抽出・逆抽出の効率がどんどん悪くなり、繰り返し使用でキレート樹脂の性能が大幅に劣化してしまう。これに対して、キレート樹脂をHOMに担持したものは、HOMの大きな比表面積と整列した原子配列を使って、キレート官能基をHOMの表面上に広範囲に形成することができる。言い換えれば、HOMではキレートの反応端はほぼ同一の性状になる。しかも、従来のキレート樹脂単独では実現できないほどに、HOM表面および細孔内壁に多量にキレートの反応端を有する。そのキレート官能基が金イオンもしくは金イオンを含む錯体イオンを選択的に捕獲するので、金イオンの吸着効率が非常に高くなる。また、その捕獲された金イオンもしくは金イオンを含む錯体イオンを逆抽出で取り出すことも容易に可能となる。さらに、キレート樹脂単独で使用した場合には樹脂そのものの物理的および/または化学的強度が不十分であるため、キレート樹脂の繰り返し使用による劣化が大きいが、キレート樹脂をHOMに担持したものは、その骨格たるHOMの物理的および/または化学的強度が十分であるため、繰り返し使用による劣化が小さい。
【0036】
第3段階では、事前に都市鉱石や自然鉱石中の各種金属を溶解した酸性溶液(金属溶解溶液)を準備しておく。この金属溶解溶液は、たとえば以下のようにして作製する。携帯電話やパソコンなどから得られたAu等の貴金属を含む材料を王水溶液中に浸漬すると、Au、Fe、Cu、Coなどの多数の金属(これらも都市鉱石等に含まれる)が溶解される。この溶液から固形分を除いた溶液が金属溶解溶液である。金属溶解溶液中に金イオン吸着性化合物(これをMCとする)を高密度に担持したHOM(以下、HOM−MC)に浸漬等して金属溶解溶液とHOM−MCと接触させる。この接触により、HOM−MCに金属イオンが吸着される。(これをHOMM−MC−Au−M(Au:目標金属である金(Au)、M:Au以外の吸着された金属とする。)金属吸着性化合物は、一定の条件(pH値、温度、濃度等)下で目標金属である金を選択的にかつ優先的に吸着するので、その条件下の金属溶解溶液中に金イオン吸着性化合物を浸漬すれば、目標金属である金だけを吸着したHOM(すなわち、HOM−MC−Au)を得ることができる。
【0037】
たとえば、金イオンを最も良く吸着するpH値に調整された金属溶解溶液にHOM−MCを接触(浸漬を含む)させ、HOM-MCに金イオンを選択的に大量に吸着することができる。しかし、条件などの多少の変動によりわずかの他の金属Mが吸着される可能性もあるので、金属溶解溶液中の目標金属である金以外の金属をあらかじめ少なくしておくことにより、金以外の金属Mの吸着量が非常に少ないHOMM−MC−Au−Mが得られる。たとえば、金属溶解溶液中のpH調整や化学処理等を行い金以外の金属を析出沈殿させ除去しておくなどの方法がある。上述のレセプターR1〜R4の場合、金属溶解溶液をpH=2〜5、好適にはp=2.5〜4に調節することにより金イオン{特に3価の金イオンAu(III)}をHOM-MC(HOM−R1〜R4)に効率的に吸着させることができる。尚エタノールや水分等の液分を蒸発(加熱や真空引き等)させてさらに乾燥することにより金イオンを吸着したHOMシリカを高純度の固体状態(粉末)で効率良く収集できる。
【0038】
第4段階では、目標金属である金を含む金属を吸着したHOM−MC−Au−Mを、目標金属である金以外の金属を遊離できる溶液中に浸漬して、目標金属である金以外の金属を除去してほぼ目標金属である金だけを吸着したHOM−MC−Auとする。或いは、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目標金属である金以外の金属を除去してHOM−MC−Auにできる場合もある。たとえば、上述したレセプター(R1〜R4)を担持したHOM−(R1〜R4)−Au−Mの場合には、HCl溶液に浸漬することにより、HOM−(R1〜R4)−Auが得られる。尚、目標金属である金以外の金属の吸着が非常に少ない場合(このときは、最初からHOM−MC−Auである)や、目標金属である金だけを遊離できる方法があれば、第4段階は省略することもできる。
【0039】
第5段階では、ほぼ目標金属である金だけを吸着したHOM−MC−Auを、目標金属である金を溶解可能な溶液に浸漬して、目標金属である金イオンを溶解する。(溶出処理)或いは、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目標金属である金イオンだけを遊離できる場合もある。或いは、目標金属である金イオンだけを遊離できる溶液に浸漬することにより、目標金属である金イオンを溶解できる。このような場合には、必ずしも目標金属である金イオンだけを吸着したHOM−MC−Auにする必要がない。この溶解液から目標金属である金イオンが遊離されたHOM−MCは固形物であるから、ろ過して取り除く。固形物として取り除かれたHOM−MCは再度使用可能である。
【0040】
また、目標金属である金の溶解液から種々の方法(たとえば、電気分解法)により、目標金属を分離すると目標金属である金を回収できる。すなわち、都市鉱石等から目標金属である金を回収できた。たとえば、HOM−(R1〜R4)−Auを塩酸水溶液にチオ尿素を添加した溶離液に浸漬することにより、Au(III)イオンを遊離できる。この結果、固形物HOM−(R1〜R4)はろ過して再利用でき、第3段階において再び使用できる。Au(III)イオンは溶離液に溶けているので、メッキ等によりAu単体として回収できる。尚、HOM−MCに目標金属である金を吸着してHOM−MC−Auにすることを目標金属である金の抽出と考えた場合に、この工程はHOM−MC−AuからAuを遊離してHOM−MCにするので逆抽出工程と言うこともできる。
【0041】
以上述べた第1段階〜第5段階の工程を経ることにより、都市鉱石等から得られた目標金属である金を溶解した金属溶解溶液から、金イオン吸着性化合物を担持した高度に秩序化したHOMシリカ(HOMS)を用いて、目標金属である金を回収することができる。
【実施例1】
【0042】
<レセプターR1[N,N-ビス(サリチリデン)2,6-ジアミノピリジン{N,N-Bis(salicylidene)
2,6-diaminopyridine (BSP)}]の生成>
図3に示す反応式でレセプターR1を合成した。すなわち、レセプターR1は、ベンゼン溶媒に濃硫酸を2−3滴添加し、2-ヒドロキシベンズアルデヒド(2-hydroxybenzaldehyde)および2,6ジアミノピリジン(2,6 diaminopyridine)を反応させて生成された。得られた生成物は6時間還流され、室温で冷却された後、固体状のBSPは吸引ろ過法によって収集された。その後、この材料は、ジクロロメタン(DCM=CH2Cl2)およびメタノール(CH3OH)(1:1)を用いて再結晶化された。
【実施例2】
【0043】
<レセプターR2[N,N-ジサリチリデン-4-ニトロ-フェニレンデン {N,N-disalicylidene-4-nitro-phenylenedene (DSNPD)}]の生成>
図4は、レセプターR2の合成反応を示す図である。レセプターR2は、ベンゼン溶媒に濃硫酸を2−3滴添加し、2-ヒドロキシべンズアルデヒド(2-hydroxybenzaldehyde)および4-ニトロ-o-フェニレンジアミン(4-nitro-O-phenylenediamin)を反応させて生成された。得られたこの生成物は6時間還流され、室温で冷却された後、固体状のDSNPDは吸引ろ過法によって収集された。その後、この材料は、ジクロロメタン(DCM=CH2Cl2)およびメタノール(CH3OH)(1:1)を用いて再結晶化された。
【実施例3】
【0044】
<レセプターR3 [4-ドデシル-6-(2-チアゾルイルアゾ)レソルシノール{4-dodecyl-6-(2-thiazolylazo)resorcinol(DTAR)}]の生成>
図5は、レセプターR3の合成反応を示す図である。2アミノチアゾル{2-aminothiazole
(15g,0.15 mol)}は、連続攪拌しながら、0.4MH2SO4(100mL)に均質に溶解され、1時間氷冷却された。この均質な混合液へ、氷冷却した100mlの亜硝酸ナトリウム溶液(10.8g,0.16mol)を滴状に添加し、0〜2℃で2時間攪拌した。このジアゾル化溶液へ、1〜3℃で50ml体積のC2H5OH-(0.5%)NaOH(3:1)混合液に溶解した等モル比の4ドデシルレソシルシノール{4-dodecylrescorcinol(41.8g、0.15 mol)}を添加した。10%硝酸ナトリウムを使って、溶液のpHを約5.5へ調整することによって、このカップリング反応が促進された。混合液は冷蔵され、所望の生成物が非晶質状の暗赤橙色析出物として得られた。さらに、これを熱水および冷水を用いた連続洗浄により精製され、70%エタノールから再結晶された。
【実施例4】
【0045】
図6は、レセプターR4[4-(2-ピロジルアゾ)レゾルシノール{4-(2-pyridylazo)resorcinol (PAR)}]の構造式を示す図である。レセプターR4は市販のものを用いた。
【実施例5】
【0046】
<HOMS材料の合成>
図2は、ケージ状あるいはシリンダー状の立方晶モノリス(以下、HOM-Cageと記す)の生成方法を示す図である。丸形フラスコに8.0gの テトラメチルオルトシリケート{Tetramethylorthosilicate (TMOS)}を入れ、その中に5.6gの界面活性剤(EO141PO44EO141)F108を添加する。界面活性剤を完全に溶解させるためにフラスコは約60℃の温水に保持された。その後、4gのpH1.3の酸性水溶液(H2O-HCl)が添加され、ロータリーエバポレータにより溶液を10分間蒸発させると、固体材料が形成された。この固体材料は水分を含み塊状なので、さらにオーブン中において40℃で1日保持し、その後450℃で8時間焼成することにより粉末状のHOM-Cage(ケージ状メソポーラスシリカ)を形成した。
【実施例6】
【0047】
<HOM−R1〜R4の合成>
HOMにレセプターR1〜R4を担持し、HOM−R1〜R4を作製する方法はほぼ同じであり、レセプターR1,R2,R3はN,N-ジメチルホルムアミド{N,N-Dimethylformamide (DMF)}中に溶解し、R4はエタノール液中に溶解して作製する。図7は、レセプターR4を担持したHOM−R4を生成する方法を示す図である。
丸形フラスコに入ったエタノール液中に0.04gの4-(2-ピリジルアゾ)レゾルシノール{4-(2-pyridylazo)resorcinol (PAR)}を入れ、さらに、実施例5で生成した1.0gHOM−Cageを1g添加した。エタノールは、フラスコをロータリーエバポレータへ連結し、45℃でゆっくりと真空引きして取り除かれた。フラスコ中の粘性液体は、2時間以内に色が付いたゲル状材料(固体生成物)へ変化した。この材料を65〜70℃で5時間乾燥した後、温水洗浄され、再度乾燥した。乾燥した塊状粉末をすりつぶして細かい粉末状にして、金イオン{Au(III)}抽出を行なった。
【実施例7】
【0048】
<HOM-R1, HOM-R2, HOM-R3およびHOM-R4に関するpHの調査>
7種類のpH水溶液(2.0, 3.5, 5.2, 7.0, 9.5, 11.0 and 12.5)を使用し、金イオンAu(III)がどのpH水溶液で最も吸着されるか、各センサHOM−R1〜R4に関して調査した。pH2.0およびpH3.5に関しては0.01M硫酸または0.2M KCl−HClのどちらかのpH調整溶液を使い、pH5.2に関してはCH3COOH− CH3COONaが使われた。pH 7.0, 9.5,11.0および 12.5に関しては、3-モルホリノプロパンスルホン酸{3-morpholinopropane sulfonic acid (MOPS)}、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸{N-cyclohexyl-3-aminopropane
sulfonic acid (CAPS)}、2-(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸{2-(cyclohexylamino) ethane sulfonic acid (CHES)}、およびKClの混合液を使い、さらに、0.2MNaOHを使ってpH調整を行なった。各pH溶液4mlに2ppm Au(III)を添加し、必要量の水を加えて20ml水溶液にした。この水溶液に各センサHOM−R1〜R4を添加し、25分間攪拌してからろ過し固体材料を得た。
【0049】
この固体材料を紫外可視分光光度計(UV-VIS-NIR Spectroscopy)により、吸収スペクトルを測定した。図8は、波長が550nmにおけるHOM−R1の吸収分光強度(室温測定)を示す。縦軸はpH=3.5のときの信号強度に対する相対強度(%)を示し、横軸にpH値をプロットしている。この図から、pH=3.5の場合が最も高い信号強度を示し、水溶液をこのpH値に保持すると、センサHOM−R1は金イオンAu(III)を最も良く吸着することが分かる。他のセンサHOM−R2〜R4に関しても同様の結果を示した。pH値のばらつきも考えると、HOM−R1〜R4に金イオン{Au(III)}を最も吸着するpH値は2〜5の間、好適には3〜4、最適にはpH=3.5であると言える。
【実施例8】
【0050】
<種々の金イオン濃度におけるHOM−R1による金イオンの抽出>
金イオン{Au(III)}を最も良く吸着するpH=3.5の水溶液4mlに種々の濃度(0.5ppb〜20ppm)のAu(III)を添加し、必要量の水を加えて20ml水溶液にした。それから、HOM-R1 (20mg)を加えて25分間攪拌してろ過し固体材料を得た。この固体材料について紫外可視分光光度計を使って紫外可視分光法による吸収スペクトルを測定した。
【0051】
図9は、この固体材料、すなわち金イオンを吸着したHOM-R1の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。得られた固体材料の色調は、金イオン{Au(III)}が吸着していないときの色(黄色で、これはHOM-R1の色である)に対して、Au(III)濃度が増加するにつれてだんだん濃くなり褐色(2ppm)になりさらに濃い褐色(20ppm)となっていく。従って、この色調を見ることによって固体材料中に取り込まれたAu(III)濃度を知ることができ、HOM-R1は比色分析法による金イオン{Au(III)}濃度センサとして使用できる。
【0052】
図9に示す分光曲線のグラフにおいて、横軸は測定波長、縦軸は吸収率を示す。分光光度曲線は下の方から、Au(III)濃度が0ppb(曲線1)、100ppb(曲線2)、500ppb(曲線3)、2ppm(曲線4)、10ppm(曲線5)、および20ppm(曲線6)である場合を示す。このように、分光光度はすべての測定波長(300nm〜900nm)において、金イオン{Au(III)}濃度が増加するに従い吸収率が連続的に増加する。特に金イオン{Au(III)}吸着の効果は波長が550nmの可視光におけるスペクトルデータに表れる。
【0053】
図10は、図9に示す分光曲線を使って求めた、波長が550nmの可視光における吸収率と金イオン{Au(III)}濃度との関係を示す図である。横軸に金イオン{Au(III)}濃度{マイクロモル(μM)}、縦軸に吸収率の相対強度を示す。Au(III)濃度が0のときにおける吸収スペクトルの強度をA0とし、種々のAu(III)濃度のときにおける吸収スペクトルの強度をAとし、吸収率の相対強度を、(A−A0)で示す。従って、A=A0のとき吸収率の相対強度は0である。
【0054】
図10からも(波長が550nmにおいて)吸収スペクトル強度は金イオン{Au(III)}濃度が増加するに従い大きくなる。この曲線を使えば、HOM-R1に吸着された金イオン{Au(III)}濃度を知ることができる。すなわち、HOM-R1は良好な金イオン{Au(III)}濃度センサである。特に、0.051μM以下の金イオン{Au(III)}濃度の場合、内グラフから分かるように吸収率の相対強度と金イオン{Au(III)}濃度との関係は直線性があるので、吸収率が分かれば即座に金イオン{Au(III)}濃度を求めることができる。従って図10はHOM-R1の金イオン{Au(III)}濃度センサのキャリブレーションカーブと言える。
【実施例9】
【0055】
<種々の金イオン濃度におけるHOM−R2による金イオンの抽出>
金イオン{Au(III)}を最も良く吸着するpH=3.5の水溶液4mlに種々の濃度(0.5ppb〜2ppm)のAu(III)を添加し、必要量の水を加えて20ml水溶液にした。それから、HOM-R2 (16mg)を加えて25分間攪拌してろ過し固体材料を得た。この固体材料について紫外可視分光法および比色分析法を使って吸収スペクトルおよび色調を測定した。
【0056】
図11は、この固体材料、すなわち金イオンを吸着したHOM-R2 の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。得られた固体材料の色調は、金イオン{Au(III)}が吸着していないときの色(黄色で、これはHOM-R2の色である)に対して、Au(III)濃度が増加するにつれて濃くなっていき、金イオン{Au(III)}濃度2ppmでは薄い褐色となる。従って、この色調を見ることによって固体材料中に取り込まれたAu(III)濃度を知ることができ、HOM-R2はAu(III)濃度センサとして使用できる。尚、これらの結果は図9に示すHOM-R1と同様であるので、両端(Au(III)濃度が0ppmと2ppm)のデータのみを示している。
【0057】
得られた分光曲線のグラフにおいて、横軸は測定波長、縦軸は吸収率を示す。分光光度曲線は両端(Au(III)濃度が0ppmと2ppm)のデータのみを示すが、分光光度はすべての測定波長(300nm〜900nm)において、金イオン{Au(III)}濃度が増加するに従い吸収率が連続的に増加する。この結果は図9に示すHOM-R1と同様である。尚、特に金イオン{Au(III)}吸着の効果は波長が501nmの可視光におけるスペクトルデータに表れる。
【実施例10】
【0058】
<種々の金イオン濃度におけるHOM−R3による金イオンの抽出>
金イオン{Au(III)}を最も良く吸着するpH=3.5の水溶液4mlに種々の濃度(0.5ppb〜2ppm)のAu(III)を添加し、必要量の水を加えて20ml水溶液にした。それから、HOM-R3 (10 mg)を加えて25分間攪拌してろ過し固体材料を得た。この固体材料について紫外可視分光光度計を使って吸収スペクトルを測定し、また比色分析法により色調を評価した。
【0059】
図12は、この固体材料、すなわち金イオンを吸着したHOM-R3 の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。得られた固体材料の色調は、金イオン{Au(III)}が吸着していないとき(0ppm)の色(赤褐色で、これはHOM-R3の色である)に対して、Au(III)濃度が増加するにつれて濃くなっていき、2ppm Au(III)では濃い赤褐色となる。従って、この色調を見ることによって固体材料中に取り込まれたAu(III)濃度を知ることができ、HOM-R3はAu(III)濃度センサとして使用できる。尚、これらの結果は図9に示すHOM-R1と同様であるので、両端(Au(III)濃度が0ppmと2ppm)のデータのみを示している。
【0060】
得られた分光高度曲線のグラフにおいて、横軸は測定波長、縦軸は吸収率を示す。分光光度曲線は両端(Au(III)濃度が0ppmと2ppm)のデータのみを示すが、分光光度はすべての測定波長(300nm〜900nm)において、金イオン{Au(III)}濃度が増加するに従い吸収率が連続的に増加する。この結果は図9に示すHOM-R1と同様である。尚、特に金イオン{Au(III)}吸着の効果は波長が575nmの可視光におけるスペクトルデータに表れる。
【実施例11】
【0061】
<種々の金イオン濃度におけるHOM−R4による金イオンの抽出>
金イオン{Au(III)}を最も良く吸着するpH=3.5の水溶液4mlに種々の濃度(0.5ppb〜2ppm)のAu(III)を添加し、必要量の水を加えて20ml水溶液にした。それから、HOM-R4 (20 mg)を加えて25分間攪拌してろ過し固体材料を得た。この固体材料について紫外可視分光光度計を使って吸収スペクトルを測定し、さらに比色分析法により色調を評価した。
【0062】
図13は、この固体材料、すなわち金イオンを吸着したHOM-R4 の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。得られた固体材料の色調は、金イオン{Au(III)}が吸着していないとき(0ppm)の色(明るい赤褐色で、これはHOM-R4の色である)に対して、Au(III)濃度が増加するにつれて濃くなっていく。従って、この色調を見ることによって固体材料中に取り込まれたAu(III)濃度を知ることができ、HOM-R4はAu(III)濃度センサとして使用できる。尚、これらの結果は図9に示すHOM-R1と同様であるので、両端(Au(III)濃度が0ppmと2ppm)のデータのみを示している。
【0063】
得られた分光高度曲線のグラフにおいて、横軸は測定波長、縦軸は吸収率を示す。分光光度曲線は両端(Au(III)濃度が0ppmと2ppm)のデータのみを示すが、分光光度はすべての測定波長(300nm〜900nm)において、金イオン{Au(III)}濃度が増加するに従い吸収率が連続的に増加する。この結果は図9に示すHOM-R1と同様である。尚、特に金イオン{Au(III)}吸着の効果は波長が565nmの可視光におけるスペクトルデータに表れる
【実施例12】
【0064】
<種々の金属を含む溶液からの金イオンの抽出>
金イオン{Au(III)}を最も良く吸着する3.5pH溶液を4ml取り、ビーカーへ0.7Mクエン酸ナトリウム溶液4mlを添加し、種々の金属イオンおよび2ppm Au(III)を添加し、それから、必要量の水を加えて20ml水溶液にした。この水溶液へ濃塩酸(HCl)を加えて、pH 3.5に調整した。複数混合物水溶液において、Au(III)の濃度は2ppmであり、他の金属イオン濃度に関しては、Fe3+, Cu2+, Ni2+濃度がそれぞれ20ppm、Co2+, Cr3+, Pt3+, Pd2+, Ru3+,Ag+濃度はそれぞれ2 ppmであった。その後、HOM-R1を20mg添加し25分間攪拌した。その水溶液をろ過し、紫外可視分光(UV-VIS-NIR)分析のために固体材料を得た。ろ過溶液中の金属イオン濃度はICP-OES(ICP発光分光分析)により解析された。ろ過溶液にはAu(III)は含まれず、Au(III)以外の金属イオンであった。固体材料中のAu(III)は、UV-VIS-NIR スペクトルによって測定された。
【0065】
図14は、この固体材料、すなわち金イオンを吸着したHOM-R1 の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。金イオンを含む溶液(2ppm Au3+のみを含む溶液{曲線2:2ppmAu(III)}、2ppm Au3+と複数イオンを含む溶液{曲線3:2ppmAu(III)+Ions})に浸漬したHOM-R1はλ=550nmのピークを示すが、金イオンを含まない溶液{曲線1:0ppm、曲線4:20-2(mixture ions)}に浸漬したHOM-R1はλ=550nmのAu3+のピークを示さない。このことにより、HOM-R1は金イオン以外の金属イオンは吸着しないことが分かる。実際に、2ppmの金イオンを含む複数金属イオン混合液中にHOM−R1を浸漬後のろ過液における金イオン濃度は、図15の表に示すように0.025ppmと極めて少なくなった。さらに、ろ過された粉末を溶出処理により得た溶液の金イオン濃度は、図16に示すように、1,89ppmであり、他の金属イオン(Fe3+、Cu2+、Ni2+、Co2+、Cr3+、Pt3+、Pd2+、Ru3+、Ag+)は検出されなかった。この結果からもHOM-R1は金イオンのみを吸着し他の金属イオンは吸着しないことが分かる。また、金イオンの回収率は約90%と見積もることができる。尚、他のレセプターを担持したHOM-R2〜R4に関しても同様に金イオン{Au(III)}を優先的に吸着し他の金属イオンは殆ど吸着しないことも確認された。
【実施例13】
【0066】
<種々の金属を含む溶液からの金イオンの抽出>
実施例12において示した複数イオン混合液からAu(III)を抽出した固体材料を50mlビーカー中で20mlの溶離液(1%HClに0.1M Thiourea(チオ尿素))を添加)に入れ、1時間攪拌した。この溶液をろ過するとろ過液にはAu(III)が抽出された。固形物はHOM-R1であり、次のAu(III)抽出に使用された。ICP-OESによる我々のデータは、複数イオン混合液中のAu(III)の90%以上が抽出されたということを示した。
【実施例14】
【0067】
図17は、HOM―R1の窒素吸着・離脱等温線を示す。縦軸に吸着量、横軸に相対圧力(P0=1atm)を示す。4つの試料{HOM-Cage1、HOM―R1、HOM−R1−Au(III)、HOM−R1(after Elution)}ともIUPACのIV型の曲線であり、メソポーラス(細孔直径2〜50nm)の存在を示している。窒素吸着・離脱等温線より求めた上記材料{HOM-Cage1、HOM―R1、HOM−R1−Au(III)、HOM−R1(after Elution)}のBET比表面積(Surface area)は450m2/g〜600m2/g、細孔体積(Pore volume)0.50〜0.60cm3/g、細孔サイズ(Pore size)7.1nm〜8.02nmであった。この結果を図18の表に示す。BET比表面積は大きく、細孔サイズも小さく、HOM-R1は良好な吸着サイトを持つことが分かる。さらに、HOM-R1に金イオンを吸着させ、その金イオンを溶出させても窒素吸着・離脱等温線には大きな差はなく、HOM-R1は金イオン吸着に繰り返し利用できることが分かる。
【0068】
上述したように、本発明は、有機シリコン化合物および界面活性剤から作製した高秩序化メソポーラスシリカに目標金属である金を選択的に吸着するキレート化合物のような金イオン吸着性化合物を担持させ、その金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを目標金属である金イオンが溶解された溶液と接触させ、目標金属である金イオンを選択的にメソポーラスシリカに担持された金イオン吸着性化合物に吸着させる。その後で、目標金属である金イオンを吸着した金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを化学的処理し、目標金属である金イオンをメソポーラスシリカに担持された金イオン吸着性化合物から遊離させ、目標金属である金を回収する。目標金属である金イオンが遊離された金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカは、再使用できる。
【0069】
本発明は都市鉱石等に含まれる金を効率よく安価に取り出す材料およびその方法さらには金イオンセンサーを提供するものであるが、上記の説明からも分かるように、都市鉱石ばかりではなく、各種金属を含む通常の鉱石からの金イオンの抽出・吸着・逆抽出にも適用できるし、金イオンが溶け込んだ溶液、たとえばメッキや冶金等の工程から排出される廃液からの金の抽出・吸着・逆抽出して、金を回収できる。
尚、明細書のある部分に記載し説明した内容を記載しなかった他の部分においても矛盾なく適用できることに関しては、当該他の部分に当該内容を適用できることも言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、種々の金属を含む物質や材料から金を除去する産業分野や回収する産業分野において利用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標金属として金イオンを選択的に吸着可能な金イオン吸着性化合物を担持した規則的な配列を持って多孔質化されているメソポーラスシリカに関するものであり、メソポーラスシリカに担持された金イオン吸着性化合物を用いて、金イオンを含む金属溶解溶液に含まれる金イオンを効率的に回収する方法に関する。さらに、メソポーラスシリカに担持された金イオン吸着性化合物を用いた金属溶解溶液に含まれる金イオン濃度を検出するセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
金は人類の歴史上最も魅力的な金属でありアクセサリや装飾品に使用されてきた。近年は、高導電性や耐腐食性等の優れた特性から携帯電話やパソコンなどの電子機器等に使用されるプリント基板の配線にも使用されており、金は世界的に需要が急拡大しているが、埋蔵量や生産量が少ないだけでなく、埋蔵資源国が偏在している。さらに、不安定で流動的な昨今の社会情勢や経済情勢から、金は円やドル等の通貨よりも最も安全な財産であるとされ、金の価格は年々高くなってきている。一方、希少金属(レアメタル)や金等の貴金属を使用した携帯電話やパソコンなどの廃棄量も急激に増えており、この廃棄物から希少金属や金を回収することが急務となっている。(このような希少金属や貴金属などが含まれた廃棄物を都市鉱石と呼ぶこともある。)しかしながら、都市鉱石には多数の金属が含まれているため、目標金属としての金を回収するプロセスは複雑であり、適切な回収方法もなく、また回収費用が大きくなり、現状では経済的に引き合わない。
【0003】
一方、メソポーラスシリカを用いた金属イオン検出方法は種々研究されている。たとえば、特許文献1および2においては、メソポーラスシリカにアミノポルフィリン、ジチゾン、ポルフィリンスルホン等の色素分子を保持して複合センサを作り、Pbイオン、Cdイオン、水銀イオン、Crイオンなどを色素分子に吸着させて、そのスペクトル変化を利用してイオン濃度を検出することが記載されている。しかしながら、これまでのどの先行特許文献や非特許文献においても、メソポーラスシリカに吸着させた金属、特に金の回収についての開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−32886
【特許文献2】特開2007−32887
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. B. Rosenbaum,Minerals extraction and processing: New developments. Science, 191 (1976)720-723.
【非特許文献2】A. S.Bashammakh, M. S. El-Shahawi, Extraction equilibrium and simple extractivespectrophotometric determination of gold (I& III) in water using the ion−pairing amiloride hydrochloride. Int. J.Chem., 2 (2010), 155-163.
【非特許文献3】P. Navarro, R.Alvarez, C. Vargas, F. J. Alguacil, On the use of zinc for gold cementationfrom ammoniacal−thiosulphatesolutions. Miner. Eng., 17 (2004) 825-831.
【非特許文献4】L. L. Sundberg,Direct adsorption of solvent-extracted gold on a chelating ion exchange resin.Anal. Chem., 47 (1975) 2037-2040.
【非特許文献5】W. I. Harris, J.R. Stahlbush, W. C. Pike, R. R. Stevens, The extraction of gold from basemoderate cyanide solutions using ion-exchange polyamine resins. React. Polym.,17 (1992) 21-27.
【非特許文献6】A. Davis T.Tran, D. R. Young, Solution chemistry of iodide leaching of gold.Hydrometallurgy, 32 (1993) 143-159.
【非特許文献7】S. Akita, L.Yang, H. Takeuchi, Solvent extraction of gold (III) from hydrochloric acid bynonionic surfactants media. Hydrometallurgy, 43 (1996) 37-46.
【非特許文献8】R. R. Barefoot,J. C. VanLoon, Recent advances in the determination of the platinum groupelements and gold. Talanta, 49 (1999) 1-14.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような社会情勢や経済情勢および産業情勢を背景にして、環境的制約、コストおよびエネルギー供給の観点から金の生産方法、特に金イオンの分離・抽出におけるイノベーションも活発に行われている。(非特許文献1、2)金イオンの分離・抽出方法として、たとえば、浸透法、析出法、イオン交換樹脂法、言い換えれば、吸着、浸出、溶媒抽出および生物学的方法が、調査されている。(非特文献3〜8)しかし、これらの方法では、金イオンを含む複数イオン混合体や他の微量貴金属の存在において、微量濃度レベルの金イオンを同定したり抽出したりすることは困難である。従って、微量金イオンを同定し抽出するための、迅速で、費用効率が良く、使いやすく、かつ信頼性の良い技術が要求されている。また、これまでのどの先行特許文献や非特許文献においても、メソポーラスシリカに吸着させた金属、特に金の回収についての開示はない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、高度に秩序化した構造を有するメソポーラスシリカに金イオンを選択的に吸着することができる化合物(以下、金イオン吸着性化合物という)を担持させて、担持された金イオン吸着性化合物に金イオンを吸着させ、この吸着された金イオンを回収する効率的な方法およびそれに使用される金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを提供する。さらに、この金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを用いて金イオン濃度検出を精度良く行なう金イオンセンサを提供する。
【0008】
シリカ源と界面活性剤を混合した後、酸性水溶液を添加して、これを焼成すると、メソポーラスシリカが生成される。このメソポーラスシリカに金イオン吸着性化合物(金イオンはまだ吸着されていない)を担持する。金イオン吸着性化合物は、金イオン{特に3価金イオンAu(III)}を選択的に吸着することができる化合物である。たとえば、キレート化合物のような金属錯体である。(特定の金属を選択的に吸着しやすい化合物を本出願では金属吸着性化合物と呼ぶ。ここで、金属吸着性化合物が選択的に吸着可能な特定金属を回収するという意味で、この特定金属を目標金属と称する。本発明においては、目標金属は金である。)
【0009】
金を含む種々の金属が溶解された金属溶解溶液に前記金イオン吸着性化合物を担持(または修飾)したメソポーラスシリカを接触させ、メソポーラスシリカに担持した金イオン吸着性化合物に目標金属である金を吸着させる。このとき、金属溶解溶液のpH値、溶液濃度や溶液温度等の環境要因を調節すれば、効率的に目標金属を吸着させることができる。(たとえば、都市鉱石等を王水等の酸性溶液に溶かして固形物を除去した溶液は、目標金属である金を含む種々の金属が溶解された金属溶解溶液となる。)
【0010】
次に、金イオンが吸着された金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを金イオンが遊離可能な溶液(金イオン遊離溶液)に接触させて、吸着された金イオンを金イオン遊離溶液に溶解させる。この溶液をろ過して固形物と液体に分離する。分離された液体は金イオンだけを溶解しているので、目標金属である金の回収が可能となる。溶液の濃度、pH、反応温度等をコントロールすることで、金の回収効率を上げることができる。また、分離された固形物は、金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカであり、メソポーラスシリカに担持された金イオン吸着性化合物は金を吸着していない。すなわち、固形物は金イオン吸着性化合物(金イオンを吸着していない)を担持したメソポーラスシリカに戻る。しかも本体(金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカ)は変化していないので、再度目標金属である金イオン吸着材として利用できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明において、金イオン吸着性化合物が広い表面積や高秩序化した構造を持つメソポーラスシリカの表面およびポア(細孔)内壁に担持(修飾)されているので、金イオン吸着性化合物の反応基に金イオンが容易にしかも速く吸着する。従って、吸着の応答速度が速いだけでなく、金イオン吸着性化合物への吸着効率が、単独の金イオン吸着性化合物への吸着効率よりも非常に大きくなるとともに、金イオン吸着量も多くなる。また、金イオン吸着性化合物に吸着された金イオンも整然と配列し密に吸着されているので、吸着した金イオンを容易に速く遊離することができる。従って金イオンの遊離効率も非常に大きい。また、金イオン吸着性化合物は金イオン溶解溶液のpH値等を調整することにより金イオンを選択的に多量に吸着することができる。従って、金だけを効率良く回収できる。
【0012】
さらに、金イオン吸着性化合物を担持しているメソポーラスシリカはその骨格が強固であり、金イオン吸着性化合物の担持や金イオンの吸着によってもメソポーラスシリカの骨格には変化が殆どない。吸着した金イオンもほぼ完全に遊離できるのでもとの状態(金イオンを吸着していない金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカ)に戻るので、金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを繰り返し使用することができる。
従って、トータル(全体)の金の回収費用を小さくすることができる。また、本発明の金イオンが吸着された金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカは、比色法または紫外可視分光法を用いてppbオーダーの非常に低濃度の金イオン濃度も検出することができるので、金イオン濃度センサーとしても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の金回収システムを示す図である。
【図2】図2は、HOM-Cageの生成方法を示す図である。
【図3】図3は、レセプターR1の合成反応を示す図である。
【図4】図4は、レセプターR2の合成反応を示す図である。
【図5】図5は、レセプターR3の合成反応を示す図である。
【図6】図6は、レセプターR4の構造式を示す図である。
【図7】図7は、レセプターR4を担持したHOM−R4を生成する方法を示す図である。
【図8】図8は、波長が550nmにおけるHOM−R1の吸収分光強度(室温測定)を示す図である。
【図9】図9は、金イオンを吸着したHOM-R1 の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。
【図10】図10は、波長が550nmの可視光における吸収率と金イオン{Au(III)}濃度との関係を示す図である。
【図11】図11は、金イオンを吸着したHOM-R2の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。
【図12】図12は、金イオンを吸着したHOM-R3の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。
【図13】図13は、金イオンを吸着したHOM-R4の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。
【図14】図14は、金イオンを吸着したHOM-R1の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。
【図15】図15は、金イオンを含む複数金属イオン混合液中にHOM−R1を浸漬した後のろ過液における金属イオン濃度を示す図である。
【図16】図16は、溶出処理後の溶出液における金属イオン濃度を示す図である。
【図17】図17は、HOM―R1の窒素吸着・離脱等温線を示す図である。
【図18】図18は、図17から求めたBET比表面積、細孔体積および細孔サイズを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、高い選択性と光学的検出機能を有する種々のキレート等を用いた金イオン検出技術および金回収技術を提供するものである。この技術の特徴は異種原子から構成されるメソポーラス材料の原子レベルで配列したナノサイズの表面状態を利用していることである。本発明は、活性重金属および貴金属を含む廃棄物から金を抽出する方法として非常に優れている。
【0015】
メソポーラスシリカのナノレベルで配列した内表面は、pHなどの環境条件を制御して固着・解離状態を可変することによって金イオン検出センサを作る。隣接原子と電子軌道構造の異なる表面原子とキレートとの結合によって、金イオンを確実に吸着できる。さらに、ナノレベルの内側配列は電荷移動を増大させるので、ppbレベルの極く微量の吸着でも肉眼で観察可能な変化が起こる。
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の金回収システムを示す図である。まず、第1段階で高度に秩序化したメソポーラスシリカ(HOMシリカ(HOMS):High Ordered Mesoporous Silica、尚通常、HOMと言った場合、シリカ(Silica)は含まないが、本明細書においてはHOMと記載した場合も、特に明記しない限りシリカ(Silica)も含むものとする。)を合成する。ここで、メソポーラスシリカとは、多孔質シリカの1種であり、メソポア領域と呼ばれる、2から50nmの領域の大きさのほぼ均一で規則的な直径の細孔(メソ孔)を有し、細孔の作るネットワークの様式(空間対称性)や製造方法等によって、様々な特性を有することが知られている多孔質物質群である。しかし、本特許出願においては、メソ孔よりも小さなマイクロ孔(2nm以下の細孔)やメソ孔よりも大きなマクロ孔(50nm以上の細孔)を有するポーラスシリカもメソポーラスシリカと呼ぶ。
【0017】
本発明に用いられるHOMの形態は、薄膜状形態やモノリス形態を含む。モノリス形態とは、通常薄膜以外の各種の形態、たとえば微粒子、粒子、ブロック状のもの等の形態を言う。高度に秩序化したとは、立方晶や六方晶系メソポーラス構造が3次元的に表面や内壁表面に規則正しく配列した状態を言い、たとえば立方晶Ia3d、Pm3n、Fm3mや六方晶P6m構造を言う。これらの構造が広範囲に存在すると、金イオン吸着性化合物を大量に担持することができ、全体の金イオン吸着量を大きくすることができる。また、HOMのBET比表面積は大きいほど良いが、通常400m2/g以上であり、好適には800m2/g以上である。
【0018】
HOMシリカは種々の方法により合成できる。たとえば、界面活性剤を鋳型としたゾルゲル法においては、水溶液中に臨界ミセル濃度以上の濃度で界面活性剤を溶解させると、界面活性剤の種類に応じて一定の大きさと構造をもつミセル粒子が形成される。しばらく静置するとミセル粒子が充填構造をとり、コロイド結晶となる。ここで溶液中にシリカ源となる有機シリコン化合物などを加え、微量の酸あるいは塩基を触媒として加えると、コロイド粒子の隙間でゾルゲル反応が進行しシリカゲル骨格が形成される。最後に高温で焼成すると、鋳型とした界面活性剤が分解・除去されて純粋な高度に秩序化したメソポーラスシリカ(HOMシリカ)が得られる。また、たとえば、好適には、有機シリコン化合物と界面活性剤を混合してリオトロピック型液晶相を形成し、さらに、酸水溶液を加えることによって、短時間に有機シリコン化合物の加水分解反応を起こし、メソポーラスシリカと界面活性剤の複合生成物を得た後、界面活性剤を除去して、HOMシリカを得る方法が利用される。
【0019】
有機シリコン化合物として、たとえば、TEOS(テトラエトキシシラン)、TMOS(テトラメトキシシラン)、テトラメチルオルトケイ酸(C4H12O4Si)やテトラエチルオルトケイ酸(C8H20O4Si)などのシリコンアルコキシドを用いる。(生成物から加熱や真空引き等でエタノールよりメタノールを除去する方が容易であるから、生産性はTEOSよりTMOSの方が好適である。)尚、HOMの形成には、有機シリコン化合物の他に無機シリコン化合物を用いることもできる。たとえば、カネマイト(NaHSi2O5・3H2O)、ジ珪酸ナトリウム結晶(Na2Si2O5)、マカタイト(NaHSi4O9・5H2O)、アイラアイト(NaHSi8O17・XH2O)、マガディアイト(Na2HSi14O29・XH2O)、ケニヤアイト(Na2HSi20O41・XH2O)、水ガラス(珪酸ソーダ)、ガラス、無定形珪酸ナトリウムを用いることもできる。これらは、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
また、テンプレート(鋳型)となる界面活性剤も、種々のものを使用できる。たとえば、カチオン性やアニオン性や両性や非イオン性の界面活性剤を使用できる。鋳型となる陽イオン性界面活性剤としては、たとえば、第1級アミン塩、第2級アミン塩、第3級アミン塩、第4級アンモニウム塩が挙げられる。また、鋳型となる陰イオン性界面活性剤としては、たとえば、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩などが挙げられ、セッケン、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化オレフィン、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩および高級アルコールリン酸エステル塩が挙げられる。
【0021】
鋳型となる両性界面活性剤としては、たとえば、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインが挙げられる。鋳型となる非イオン界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン酸誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのエーテル型のものや、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどの含窒素型が挙げられる。これらは、2種以上混合して用いても良い。
【0022】
界面活性剤の種類を変更することによりHOMの構造(細孔の大きさや形、結晶構造など)を制御することができるので、結晶構造の秩序性が高くBET比表面積が大きい細孔密度の大きなHOMを形成できる界面活性剤が好適である。たとえば、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル(Brij56:C16H33(OCH2CH2)10OH、C16EO10)、トリブロック共重合体界面活性剤(たとえば、pluronic(登録商標)P123:EO20PO70EO20、Pluronic(登録商標)F108:EO141PO44O141)を用いることができる。Brij56:TMOS=0.5の重量比の混合により、立方晶構造Pm3n(HOM-9)が得られ、P123:TMOS=0.75の重量比の混合により、立方晶構造Ia3d(HOM-5)が得られ、F108:TMOS=0.7の重量比の混合により、立方晶構造Im3m(HOM-1)ケージ状シリカ構造が得られる。
【0023】
図2はケージ状或いはシリンダー状の立方晶モノリス(以下、HOM-Cageと記す)の生成方法を示す図である。丸形フラスコに8.0gのTetramethylorthosilicate (TMOS)を入れ、その中に5.6gの界面活性剤(EO141PO44EO141)F108を添加する。界面活性剤を完全に溶解させるためにフラスコは約60℃の温水に保持された。その後、4gのpH1.3の酸性水溶液(H2O-HCl)が添加され、ロータリーエバポレータにより溶液を10分間蒸発させると、固体材料が形成された。この固体材料は水分を含み塊状なので、さらにオーブン中において40℃で1日保持し、その後さらに450℃で8時間焼成することにより粉末状のHOM-Cage (ケージ状メソポーラスシリカ)が形成される。
【0024】
次に、第2段階で、金イオン吸着性化合物をHOMに担持させる。この段階では、金イオン吸着性化合物には金イオンは(他の金属イオンも)吸着されていない。(金イオンを吸着していないことを示す用語として「金イオン吸着性化合物」と称する。本発明に用いられる金イオン吸着性化合物として、金属錯体、無機金属化合物や有機金属化合物がある。セルロース、タンパク質などの金イオン吸着性化合物も含まれる。金属錯体として、無機および有機の金属錯体や金属カルボニル化合物、金属クラスターや有機金属化合物が挙げられる。また、キレート化合物も含まれる。基本的には、金属の中で金(イオン)を吸着できる化合物であって、HOMに担持でき、化学処理により、目標金属である金以外の金属イオンを遊離でき、その後に他の化学処理により目標金属である金を遊離できる化合物である。金イオン吸着性化合物は、化学的にはたとえばOH基を介してHOMシリカに強固に結合している。
【0025】
金イオン吸着性化合物は、回収しようとする目標金属である金イオンを選択的にしかも多量に吸着する化合物が望ましい。たとえば、金イオンに対して選択的に結合するキレート化合物が挙げられる。金を含む各種の金属が溶解した金属溶解溶液のpH値や温度や濃度などを調整すれば、金イオン吸着性化合物に目標金属である金イオンを選択的に吸着できる。また、キレート化合物は、非常に微量の(たとえば、ppbオーダー)金を選択的に吸着することができるので、金属溶解溶液中に含まれる金イオンの量が少なくても、効率的に選択的に金イオンを吸着する。
【0026】
たとえば、我々は、N,N-ビス(サリチリデン)2,6-ジアミノピリジン{N,N-Bis(salicylidene)2,6-diaminopyridine (略称BSP)(以下レセプター1(R1)とも称する。)}、N,N-ジサリチリデン-4-ニトロ-フェニレンデン{N,N-disalicylidene-4-nitro-phenylenedene ((略称DSNPD) (以下レセプター2(R2)とも称する。))、 4-ドデシル-6-(2-チアゾルイルアゾ)レソルシノール{4-dodecyl-6-(2-thiazolylazo)resorcinol (略称DTAR)(以下レセプター3(R3)とも称する。)}、または4-(2-ピロジルアゾ)レゾルシノール{4-(2-pyridylazo)resorcinol (略称PAR)(以下レセプター4(R4)とも称する。)}のキレート錯体が金イオン{Au(III)}を選択的に優先的に吸着することを見出した。本出願では、上記の金イオン吸着性化合物をレセプター(R1、R1、R3、R4)とも称する。(レセプター(receptor)とは本来「受容体」という生物学的用語であるが、本出願では特定金属(金イオン)を吸着する金属イオン吸着性化合物という意味でレセプターという用語を用いることもある。)
【0027】
これらのレセプターは後述するように、溶液をpH=3付近で調節した金イオン{特に3価の金イオン(Au(III)イオン)}を含有した溶液にレセプターを担持したHOMシリカを浸漬すると、レセプターは他のpH値の溶液における場合よりも大量にしかも選択的にAu(III)イオンを吸着する。Au(III)イオンの吸着量が増していくとレセプターを担持したHOMシリカの色が変化していく。色調と吸着されたAu(III)イオン濃度とは相関関係にあるので、色調からAu(III)イオン濃度を知ることができる。すなわち比色分析が可能である。
【0028】
また、Au(III)イオン吸着後の光吸収スペクトルからもAu(III)イオン濃度を測定できる。すなわち、レセプターを担持したHOMシリカはAu(III)イオン濃度検出センサでもある。たとえば、これらのレセプターを担持したメソポーラスシリカ(HOMS−R1〜R4)は、金イオン{Au(III)}を吸着すると紫外可視分光法において500nm〜600nmの波長を持つ可視光に吸収ピークを示し、この波長域の吸収率と金イオン濃度とは相関関係があるので、キャリブレーションカーブを事前に作っておくことにより、金イオン{Au(III)}を吸着したHOMS−R1〜R4の紫外可視分光法における当該波長の吸収率データからこのHOMS−R1〜R4の金イオン濃度を知ることができる。しかもこのHOMS−R1〜R4は溶液中の金イオンを選択的にほとんど全部の金イオンを吸着するとともに、他の含有金属イオンはほとんど吸着しないので、非常に感度の良い金イオン濃度センサとなる。特にppbレベルの微量な金でも正確な濃度を検出できる。
【0029】
このような金イオン吸着性化合物をHOMに担持(修飾)させる方法(複合化法とも呼ぶ)として種々の方法が挙げられる。たとえば、HOMに保持されるべき金イオン吸着性化合物が中性である場合には、試薬含浸法(REACTIVE & FUNCTIONAL POLYMERS,49,189(2001)など)が用いられ、陰イオン性である場合には、陽イオン交換法が用いられ、陽イオン性である場合には陰イオン交換法が用いられる。これらの複合化法は、特別の条件や操作ではなく、既知の一般的な技術分野に属するものである。したがって、これらの一般的な技術分野の詳細については、当該固体吸着分野に関する総説、文献などを参照することができる。
【0030】
たとえば、メソポーラスシリカを陽イオン性有機試薬(たとえば、陽イオン性シリル化剤)を用いて表面処理し、そのメソポーラスシリカに陽イオン性官能基を付与し、次いで、この陽イオン性メソポーラスシリカと陰イオン性金イオン吸着性化合物の水溶液やアルコール溶液とを接触させ、金イオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に吸着させる方法、メソポーラスシリカと金イオン吸着性化合物の有機溶媒溶液とを接触させ、有機溶媒だけをろ過あるいは蒸留などにより取り除くことで、金イオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に物理的に吸着させて担持する方法、メソポーラスシリカをチオール基を持つシリル化剤を用いて表面処理し、次いで、生成する表面のチオール基を酸化処理することで、そのメソポーラスシリカに陰イオン性官能基を付与し、この陰イオン性メソポーラスシリカと陽イオン性金属吸着性化合物の水溶液とを接触させ、金イオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に吸着させる方法、あらかじめ金イオン吸着性化合物を細孔内および表面に充填した後に、これを陽イオン性有機試薬の有機溶媒溶液で処理して、金イオン吸着性化合物を細孔内および表面に固定する方法、金イオン吸着性化合物と陽イオン性有機試薬をあらかじめ混合し、得られた試薬複合体の有機溶媒溶液と該シリカとを接触させ、有機溶媒だけをろ過あるいは蒸留などにより取り除くことで、金イオン吸着性化合物を該シリカ内に担持する方法が使用される。
【0031】
また、前述のレセプター(R1〜R4)をHOMに担持させるには、レセプターをN,N-ジメチルフォルムアミド{N,N-Dimethylformamide (DMF)}またはエタノールに溶解し、この溶液とHOMを接触させて、HOMへレセプター(R1〜R4)を含浸させる。このようにしてレセプター(R1〜R4)を高密度に整然と担持したHOMシリカが完成する。尚エタノールや水分等の液分を蒸発(加熱や真空引き等)させてさらに乾燥することによりレセプター(R1〜R4)を担持したHOMシリカを高純度の固体状態(粉末)で効率良く作製できる。
また、結晶構造の秩序性が高くBET比表面積が大きいポーラス(細孔)密度の大きなHOMシリカほど、多くのレセプターが規則的にHOMシリカの表面および細孔内壁に担持される。たとえば、好適には、立方晶構造Pm3n、Fm3m、Ia3d、六方晶構造P6mなどの構造が広範囲に形成されたHOMシリカにレセプター(金イオン)吸着性化合物を吸着させる。
【0032】
金イオン吸着性化合物単独でも当然選択的に目標金属である金イオンを吸着できるが、金イオン吸着性化合物は凝集等するため、金イオン吸着が可能な官能基を有効に利用することができない。すなわち、凝集された(たとえば、粒子状の)金イオン吸着性化合物物質の表面に存在する官能基に目標金属である金イオンが吸着しても、拡散または浸透により金イオン吸着性化合物内部の金イオン濃度は距離(の2乗)に対して指数関数的に減少するから、その粒子状物質の内部にある金イオン吸着性化合物の官能基全部に金イオンが吸着することは困難である。また、仮にその粒子状物質の内部にある金イオン吸着性化合物の官能基に金イオンが吸着したとしても、その吸着した金イオンを取り出す(遊離するまたは逆抽出する)ことが難しいという問題がある。かなりの時間をかければ粒子状物質の内部に金イオンを拡散させ、さらに取り出すことも可能であるが、長時間をかけて金イオンを粒子状物質の内部を移動させることは生産性が悪く工業的には利用できない。
【0033】
これに対して、メソポーラスシリカは、細孔表面積が非常に大きく高度に秩序化した配向構造を持つので、メソポーラスシリカの表面および細孔内壁に金イオン吸着性化合物を担持したものは、金イオン吸着性化合物が整然と配列して結合しているので、金イオン吸着性化合物の金イオン吸着率が非常に高くなる。すなわち、金イオン吸着性化合物の1分子ずつが金イオン吸着に利用できる。金イオン溶解溶液や遊離(逆抽出)溶液は、メソポーラスシリカの表面や細孔へ容易に速やかに侵入していくので、HOMに担持された金イオン吸着性化合物(の反応基)と容易に、しかも速やかに接触する。このことは、HOMに担持された金イオン吸着性化合物が金イオン溶解溶液と接触すると速やかに吸着される。また、吸着された金イオンを遊離するときも遊離溶液と接触すれば吸着された金イオンが速やかに遊離されるということも意味するので、生産性が飛躍的に向上する。
【0034】
たとえば、キレート樹脂単独の場合には、キレート樹脂の表面において、表面原子がすべて有効にキレート(官能基)を持った状態にはならず、原子的には離散的にキレートの反応端がある状態となっている。キレート樹脂単独で金イオンを吸着する時も、キレート樹脂のどの部分につくか制御できない。また、金イオン溶解溶液と接触した部分のキレート官能基には金イオンが吸着(抽出とも言う)されると予想されるが、金イオン溶解溶液が浸透しにくいキレート樹脂内部では金イオンは殆ど吸着されないと考えられる。すなわち、金イオン吸着効率が非常に悪い。さらにキレート樹脂に吸着した金イオンを遊離するとき(逆抽出とも言う)も、キレート樹脂内部に吸着した金イオンを取り出すことも困難となる。
【0035】
このキレート樹脂を繰り返し利用するときも、キレート樹脂中の残存物等の影響により、金イオンの抽出・逆抽出の効率がどんどん悪くなり、繰り返し使用でキレート樹脂の性能が大幅に劣化してしまう。これに対して、キレート樹脂をHOMに担持したものは、HOMの大きな比表面積と整列した原子配列を使って、キレート官能基をHOMの表面上に広範囲に形成することができる。言い換えれば、HOMではキレートの反応端はほぼ同一の性状になる。しかも、従来のキレート樹脂単独では実現できないほどに、HOM表面および細孔内壁に多量にキレートの反応端を有する。そのキレート官能基が金イオンもしくは金イオンを含む錯体イオンを選択的に捕獲するので、金イオンの吸着効率が非常に高くなる。また、その捕獲された金イオンもしくは金イオンを含む錯体イオンを逆抽出で取り出すことも容易に可能となる。さらに、キレート樹脂単独で使用した場合には樹脂そのものの物理的および/または化学的強度が不十分であるため、キレート樹脂の繰り返し使用による劣化が大きいが、キレート樹脂をHOMに担持したものは、その骨格たるHOMの物理的および/または化学的強度が十分であるため、繰り返し使用による劣化が小さい。
【0036】
第3段階では、事前に都市鉱石や自然鉱石中の各種金属を溶解した酸性溶液(金属溶解溶液)を準備しておく。この金属溶解溶液は、たとえば以下のようにして作製する。携帯電話やパソコンなどから得られたAu等の貴金属を含む材料を王水溶液中に浸漬すると、Au、Fe、Cu、Coなどの多数の金属(これらも都市鉱石等に含まれる)が溶解される。この溶液から固形分を除いた溶液が金属溶解溶液である。金属溶解溶液中に金イオン吸着性化合物(これをMCとする)を高密度に担持したHOM(以下、HOM−MC)に浸漬等して金属溶解溶液とHOM−MCと接触させる。この接触により、HOM−MCに金属イオンが吸着される。(これをHOMM−MC−Au−M(Au:目標金属である金(Au)、M:Au以外の吸着された金属とする。)金属吸着性化合物は、一定の条件(pH値、温度、濃度等)下で目標金属である金を選択的にかつ優先的に吸着するので、その条件下の金属溶解溶液中に金イオン吸着性化合物を浸漬すれば、目標金属である金だけを吸着したHOM(すなわち、HOM−MC−Au)を得ることができる。
【0037】
たとえば、金イオンを最も良く吸着するpH値に調整された金属溶解溶液にHOM−MCを接触(浸漬を含む)させ、HOM-MCに金イオンを選択的に大量に吸着することができる。しかし、条件などの多少の変動によりわずかの他の金属Mが吸着される可能性もあるので、金属溶解溶液中の目標金属である金以外の金属をあらかじめ少なくしておくことにより、金以外の金属Mの吸着量が非常に少ないHOMM−MC−Au−Mが得られる。たとえば、金属溶解溶液中のpH調整や化学処理等を行い金以外の金属を析出沈殿させ除去しておくなどの方法がある。上述のレセプターR1〜R4の場合、金属溶解溶液をpH=2〜5、好適にはp=2.5〜4に調節することにより金イオン{特に3価の金イオンAu(III)}をHOM-MC(HOM−R1〜R4)に効率的に吸着させることができる。尚エタノールや水分等の液分を蒸発(加熱や真空引き等)させてさらに乾燥することにより金イオンを吸着したHOMシリカを高純度の固体状態(粉末)で効率良く収集できる。
【0038】
第4段階では、目標金属である金を含む金属を吸着したHOM−MC−Au−Mを、目標金属である金以外の金属を遊離できる溶液中に浸漬して、目標金属である金以外の金属を除去してほぼ目標金属である金だけを吸着したHOM−MC−Auとする。或いは、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目標金属である金以外の金属を除去してHOM−MC−Auにできる場合もある。たとえば、上述したレセプター(R1〜R4)を担持したHOM−(R1〜R4)−Au−Mの場合には、HCl溶液に浸漬することにより、HOM−(R1〜R4)−Auが得られる。尚、目標金属である金以外の金属の吸着が非常に少ない場合(このときは、最初からHOM−MC−Auである)や、目標金属である金だけを遊離できる方法があれば、第4段階は省略することもできる。
【0039】
第5段階では、ほぼ目標金属である金だけを吸着したHOM−MC−Auを、目標金属である金を溶解可能な溶液に浸漬して、目標金属である金イオンを溶解する。(溶出処理)或いは、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目標金属である金イオンだけを遊離できる場合もある。或いは、目標金属である金イオンだけを遊離できる溶液に浸漬することにより、目標金属である金イオンを溶解できる。このような場合には、必ずしも目標金属である金イオンだけを吸着したHOM−MC−Auにする必要がない。この溶解液から目標金属である金イオンが遊離されたHOM−MCは固形物であるから、ろ過して取り除く。固形物として取り除かれたHOM−MCは再度使用可能である。
【0040】
また、目標金属である金の溶解液から種々の方法(たとえば、電気分解法)により、目標金属を分離すると目標金属である金を回収できる。すなわち、都市鉱石等から目標金属である金を回収できた。たとえば、HOM−(R1〜R4)−Auを塩酸水溶液にチオ尿素を添加した溶離液に浸漬することにより、Au(III)イオンを遊離できる。この結果、固形物HOM−(R1〜R4)はろ過して再利用でき、第3段階において再び使用できる。Au(III)イオンは溶離液に溶けているので、メッキ等によりAu単体として回収できる。尚、HOM−MCに目標金属である金を吸着してHOM−MC−Auにすることを目標金属である金の抽出と考えた場合に、この工程はHOM−MC−AuからAuを遊離してHOM−MCにするので逆抽出工程と言うこともできる。
【0041】
以上述べた第1段階〜第5段階の工程を経ることにより、都市鉱石等から得られた目標金属である金を溶解した金属溶解溶液から、金イオン吸着性化合物を担持した高度に秩序化したHOMシリカ(HOMS)を用いて、目標金属である金を回収することができる。
【実施例1】
【0042】
<レセプターR1[N,N-ビス(サリチリデン)2,6-ジアミノピリジン{N,N-Bis(salicylidene)
2,6-diaminopyridine (BSP)}]の生成>
図3に示す反応式でレセプターR1を合成した。すなわち、レセプターR1は、ベンゼン溶媒に濃硫酸を2−3滴添加し、2-ヒドロキシベンズアルデヒド(2-hydroxybenzaldehyde)および2,6ジアミノピリジン(2,6 diaminopyridine)を反応させて生成された。得られた生成物は6時間還流され、室温で冷却された後、固体状のBSPは吸引ろ過法によって収集された。その後、この材料は、ジクロロメタン(DCM=CH2Cl2)およびメタノール(CH3OH)(1:1)を用いて再結晶化された。
【実施例2】
【0043】
<レセプターR2[N,N-ジサリチリデン-4-ニトロ-フェニレンデン {N,N-disalicylidene-4-nitro-phenylenedene (DSNPD)}]の生成>
図4は、レセプターR2の合成反応を示す図である。レセプターR2は、ベンゼン溶媒に濃硫酸を2−3滴添加し、2-ヒドロキシべンズアルデヒド(2-hydroxybenzaldehyde)および4-ニトロ-o-フェニレンジアミン(4-nitro-O-phenylenediamin)を反応させて生成された。得られたこの生成物は6時間還流され、室温で冷却された後、固体状のDSNPDは吸引ろ過法によって収集された。その後、この材料は、ジクロロメタン(DCM=CH2Cl2)およびメタノール(CH3OH)(1:1)を用いて再結晶化された。
【実施例3】
【0044】
<レセプターR3 [4-ドデシル-6-(2-チアゾルイルアゾ)レソルシノール{4-dodecyl-6-(2-thiazolylazo)resorcinol(DTAR)}]の生成>
図5は、レセプターR3の合成反応を示す図である。2アミノチアゾル{2-aminothiazole
(15g,0.15 mol)}は、連続攪拌しながら、0.4MH2SO4(100mL)に均質に溶解され、1時間氷冷却された。この均質な混合液へ、氷冷却した100mlの亜硝酸ナトリウム溶液(10.8g,0.16mol)を滴状に添加し、0〜2℃で2時間攪拌した。このジアゾル化溶液へ、1〜3℃で50ml体積のC2H5OH-(0.5%)NaOH(3:1)混合液に溶解した等モル比の4ドデシルレソシルシノール{4-dodecylrescorcinol(41.8g、0.15 mol)}を添加した。10%硝酸ナトリウムを使って、溶液のpHを約5.5へ調整することによって、このカップリング反応が促進された。混合液は冷蔵され、所望の生成物が非晶質状の暗赤橙色析出物として得られた。さらに、これを熱水および冷水を用いた連続洗浄により精製され、70%エタノールから再結晶された。
【実施例4】
【0045】
図6は、レセプターR4[4-(2-ピロジルアゾ)レゾルシノール{4-(2-pyridylazo)resorcinol (PAR)}]の構造式を示す図である。レセプターR4は市販のものを用いた。
【実施例5】
【0046】
<HOMS材料の合成>
図2は、ケージ状あるいはシリンダー状の立方晶モノリス(以下、HOM-Cageと記す)の生成方法を示す図である。丸形フラスコに8.0gの テトラメチルオルトシリケート{Tetramethylorthosilicate (TMOS)}を入れ、その中に5.6gの界面活性剤(EO141PO44EO141)F108を添加する。界面活性剤を完全に溶解させるためにフラスコは約60℃の温水に保持された。その後、4gのpH1.3の酸性水溶液(H2O-HCl)が添加され、ロータリーエバポレータにより溶液を10分間蒸発させると、固体材料が形成された。この固体材料は水分を含み塊状なので、さらにオーブン中において40℃で1日保持し、その後450℃で8時間焼成することにより粉末状のHOM-Cage(ケージ状メソポーラスシリカ)を形成した。
【実施例6】
【0047】
<HOM−R1〜R4の合成>
HOMにレセプターR1〜R4を担持し、HOM−R1〜R4を作製する方法はほぼ同じであり、レセプターR1,R2,R3はN,N-ジメチルホルムアミド{N,N-Dimethylformamide (DMF)}中に溶解し、R4はエタノール液中に溶解して作製する。図7は、レセプターR4を担持したHOM−R4を生成する方法を示す図である。
丸形フラスコに入ったエタノール液中に0.04gの4-(2-ピリジルアゾ)レゾルシノール{4-(2-pyridylazo)resorcinol (PAR)}を入れ、さらに、実施例5で生成した1.0gHOM−Cageを1g添加した。エタノールは、フラスコをロータリーエバポレータへ連結し、45℃でゆっくりと真空引きして取り除かれた。フラスコ中の粘性液体は、2時間以内に色が付いたゲル状材料(固体生成物)へ変化した。この材料を65〜70℃で5時間乾燥した後、温水洗浄され、再度乾燥した。乾燥した塊状粉末をすりつぶして細かい粉末状にして、金イオン{Au(III)}抽出を行なった。
【実施例7】
【0048】
<HOM-R1, HOM-R2, HOM-R3およびHOM-R4に関するpHの調査>
7種類のpH水溶液(2.0, 3.5, 5.2, 7.0, 9.5, 11.0 and 12.5)を使用し、金イオンAu(III)がどのpH水溶液で最も吸着されるか、各センサHOM−R1〜R4に関して調査した。pH2.0およびpH3.5に関しては0.01M硫酸または0.2M KCl−HClのどちらかのpH調整溶液を使い、pH5.2に関してはCH3COOH− CH3COONaが使われた。pH 7.0, 9.5,11.0および 12.5に関しては、3-モルホリノプロパンスルホン酸{3-morpholinopropane sulfonic acid (MOPS)}、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸{N-cyclohexyl-3-aminopropane
sulfonic acid (CAPS)}、2-(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸{2-(cyclohexylamino) ethane sulfonic acid (CHES)}、およびKClの混合液を使い、さらに、0.2MNaOHを使ってpH調整を行なった。各pH溶液4mlに2ppm Au(III)を添加し、必要量の水を加えて20ml水溶液にした。この水溶液に各センサHOM−R1〜R4を添加し、25分間攪拌してからろ過し固体材料を得た。
【0049】
この固体材料を紫外可視分光光度計(UV-VIS-NIR Spectroscopy)により、吸収スペクトルを測定した。図8は、波長が550nmにおけるHOM−R1の吸収分光強度(室温測定)を示す。縦軸はpH=3.5のときの信号強度に対する相対強度(%)を示し、横軸にpH値をプロットしている。この図から、pH=3.5の場合が最も高い信号強度を示し、水溶液をこのpH値に保持すると、センサHOM−R1は金イオンAu(III)を最も良く吸着することが分かる。他のセンサHOM−R2〜R4に関しても同様の結果を示した。pH値のばらつきも考えると、HOM−R1〜R4に金イオン{Au(III)}を最も吸着するpH値は2〜5の間、好適には3〜4、最適にはpH=3.5であると言える。
【実施例8】
【0050】
<種々の金イオン濃度におけるHOM−R1による金イオンの抽出>
金イオン{Au(III)}を最も良く吸着するpH=3.5の水溶液4mlに種々の濃度(0.5ppb〜20ppm)のAu(III)を添加し、必要量の水を加えて20ml水溶液にした。それから、HOM-R1 (20mg)を加えて25分間攪拌してろ過し固体材料を得た。この固体材料について紫外可視分光光度計を使って紫外可視分光法による吸収スペクトルを測定した。
【0051】
図9は、この固体材料、すなわち金イオンを吸着したHOM-R1の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。得られた固体材料の色調は、金イオン{Au(III)}が吸着していないときの色(黄色で、これはHOM-R1の色である)に対して、Au(III)濃度が増加するにつれてだんだん濃くなり褐色(2ppm)になりさらに濃い褐色(20ppm)となっていく。従って、この色調を見ることによって固体材料中に取り込まれたAu(III)濃度を知ることができ、HOM-R1は比色分析法による金イオン{Au(III)}濃度センサとして使用できる。
【0052】
図9に示す分光曲線のグラフにおいて、横軸は測定波長、縦軸は吸収率を示す。分光光度曲線は下の方から、Au(III)濃度が0ppb(曲線1)、100ppb(曲線2)、500ppb(曲線3)、2ppm(曲線4)、10ppm(曲線5)、および20ppm(曲線6)である場合を示す。このように、分光光度はすべての測定波長(300nm〜900nm)において、金イオン{Au(III)}濃度が増加するに従い吸収率が連続的に増加する。特に金イオン{Au(III)}吸着の効果は波長が550nmの可視光におけるスペクトルデータに表れる。
【0053】
図10は、図9に示す分光曲線を使って求めた、波長が550nmの可視光における吸収率と金イオン{Au(III)}濃度との関係を示す図である。横軸に金イオン{Au(III)}濃度{マイクロモル(μM)}、縦軸に吸収率の相対強度を示す。Au(III)濃度が0のときにおける吸収スペクトルの強度をA0とし、種々のAu(III)濃度のときにおける吸収スペクトルの強度をAとし、吸収率の相対強度を、(A−A0)で示す。従って、A=A0のとき吸収率の相対強度は0である。
【0054】
図10からも(波長が550nmにおいて)吸収スペクトル強度は金イオン{Au(III)}濃度が増加するに従い大きくなる。この曲線を使えば、HOM-R1に吸着された金イオン{Au(III)}濃度を知ることができる。すなわち、HOM-R1は良好な金イオン{Au(III)}濃度センサである。特に、0.051μM以下の金イオン{Au(III)}濃度の場合、内グラフから分かるように吸収率の相対強度と金イオン{Au(III)}濃度との関係は直線性があるので、吸収率が分かれば即座に金イオン{Au(III)}濃度を求めることができる。従って図10はHOM-R1の金イオン{Au(III)}濃度センサのキャリブレーションカーブと言える。
【実施例9】
【0055】
<種々の金イオン濃度におけるHOM−R2による金イオンの抽出>
金イオン{Au(III)}を最も良く吸着するpH=3.5の水溶液4mlに種々の濃度(0.5ppb〜2ppm)のAu(III)を添加し、必要量の水を加えて20ml水溶液にした。それから、HOM-R2 (16mg)を加えて25分間攪拌してろ過し固体材料を得た。この固体材料について紫外可視分光法および比色分析法を使って吸収スペクトルおよび色調を測定した。
【0056】
図11は、この固体材料、すなわち金イオンを吸着したHOM-R2 の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。得られた固体材料の色調は、金イオン{Au(III)}が吸着していないときの色(黄色で、これはHOM-R2の色である)に対して、Au(III)濃度が増加するにつれて濃くなっていき、金イオン{Au(III)}濃度2ppmでは薄い褐色となる。従って、この色調を見ることによって固体材料中に取り込まれたAu(III)濃度を知ることができ、HOM-R2はAu(III)濃度センサとして使用できる。尚、これらの結果は図9に示すHOM-R1と同様であるので、両端(Au(III)濃度が0ppmと2ppm)のデータのみを示している。
【0057】
得られた分光曲線のグラフにおいて、横軸は測定波長、縦軸は吸収率を示す。分光光度曲線は両端(Au(III)濃度が0ppmと2ppm)のデータのみを示すが、分光光度はすべての測定波長(300nm〜900nm)において、金イオン{Au(III)}濃度が増加するに従い吸収率が連続的に増加する。この結果は図9に示すHOM-R1と同様である。尚、特に金イオン{Au(III)}吸着の効果は波長が501nmの可視光におけるスペクトルデータに表れる。
【実施例10】
【0058】
<種々の金イオン濃度におけるHOM−R3による金イオンの抽出>
金イオン{Au(III)}を最も良く吸着するpH=3.5の水溶液4mlに種々の濃度(0.5ppb〜2ppm)のAu(III)を添加し、必要量の水を加えて20ml水溶液にした。それから、HOM-R3 (10 mg)を加えて25分間攪拌してろ過し固体材料を得た。この固体材料について紫外可視分光光度計を使って吸収スペクトルを測定し、また比色分析法により色調を評価した。
【0059】
図12は、この固体材料、すなわち金イオンを吸着したHOM-R3 の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。得られた固体材料の色調は、金イオン{Au(III)}が吸着していないとき(0ppm)の色(赤褐色で、これはHOM-R3の色である)に対して、Au(III)濃度が増加するにつれて濃くなっていき、2ppm Au(III)では濃い赤褐色となる。従って、この色調を見ることによって固体材料中に取り込まれたAu(III)濃度を知ることができ、HOM-R3はAu(III)濃度センサとして使用できる。尚、これらの結果は図9に示すHOM-R1と同様であるので、両端(Au(III)濃度が0ppmと2ppm)のデータのみを示している。
【0060】
得られた分光高度曲線のグラフにおいて、横軸は測定波長、縦軸は吸収率を示す。分光光度曲線は両端(Au(III)濃度が0ppmと2ppm)のデータのみを示すが、分光光度はすべての測定波長(300nm〜900nm)において、金イオン{Au(III)}濃度が増加するに従い吸収率が連続的に増加する。この結果は図9に示すHOM-R1と同様である。尚、特に金イオン{Au(III)}吸着の効果は波長が575nmの可視光におけるスペクトルデータに表れる。
【実施例11】
【0061】
<種々の金イオン濃度におけるHOM−R4による金イオンの抽出>
金イオン{Au(III)}を最も良く吸着するpH=3.5の水溶液4mlに種々の濃度(0.5ppb〜2ppm)のAu(III)を添加し、必要量の水を加えて20ml水溶液にした。それから、HOM-R4 (20 mg)を加えて25分間攪拌してろ過し固体材料を得た。この固体材料について紫外可視分光光度計を使って吸収スペクトルを測定し、さらに比色分析法により色調を評価した。
【0062】
図13は、この固体材料、すなわち金イオンを吸着したHOM-R4 の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。得られた固体材料の色調は、金イオン{Au(III)}が吸着していないとき(0ppm)の色(明るい赤褐色で、これはHOM-R4の色である)に対して、Au(III)濃度が増加するにつれて濃くなっていく。従って、この色調を見ることによって固体材料中に取り込まれたAu(III)濃度を知ることができ、HOM-R4はAu(III)濃度センサとして使用できる。尚、これらの結果は図9に示すHOM-R1と同様であるので、両端(Au(III)濃度が0ppmと2ppm)のデータのみを示している。
【0063】
得られた分光高度曲線のグラフにおいて、横軸は測定波長、縦軸は吸収率を示す。分光光度曲線は両端(Au(III)濃度が0ppmと2ppm)のデータのみを示すが、分光光度はすべての測定波長(300nm〜900nm)において、金イオン{Au(III)}濃度が増加するに従い吸収率が連続的に増加する。この結果は図9に示すHOM-R1と同様である。尚、特に金イオン{Au(III)}吸着の効果は波長が565nmの可視光におけるスペクトルデータに表れる
【実施例12】
【0064】
<種々の金属を含む溶液からの金イオンの抽出>
金イオン{Au(III)}を最も良く吸着する3.5pH溶液を4ml取り、ビーカーへ0.7Mクエン酸ナトリウム溶液4mlを添加し、種々の金属イオンおよび2ppm Au(III)を添加し、それから、必要量の水を加えて20ml水溶液にした。この水溶液へ濃塩酸(HCl)を加えて、pH 3.5に調整した。複数混合物水溶液において、Au(III)の濃度は2ppmであり、他の金属イオン濃度に関しては、Fe3+, Cu2+, Ni2+濃度がそれぞれ20ppm、Co2+, Cr3+, Pt3+, Pd2+, Ru3+,Ag+濃度はそれぞれ2 ppmであった。その後、HOM-R1を20mg添加し25分間攪拌した。その水溶液をろ過し、紫外可視分光(UV-VIS-NIR)分析のために固体材料を得た。ろ過溶液中の金属イオン濃度はICP-OES(ICP発光分光分析)により解析された。ろ過溶液にはAu(III)は含まれず、Au(III)以外の金属イオンであった。固体材料中のAu(III)は、UV-VIS-NIR スペクトルによって測定された。
【0065】
図14は、この固体材料、すなわち金イオンを吸着したHOM-R1 の紫外可視分光光度曲線および固体材料の色調を示す図である。金イオンを含む溶液(2ppm Au3+のみを含む溶液{曲線2:2ppmAu(III)}、2ppm Au3+と複数イオンを含む溶液{曲線3:2ppmAu(III)+Ions})に浸漬したHOM-R1はλ=550nmのピークを示すが、金イオンを含まない溶液{曲線1:0ppm、曲線4:20-2(mixture ions)}に浸漬したHOM-R1はλ=550nmのAu3+のピークを示さない。このことにより、HOM-R1は金イオン以外の金属イオンは吸着しないことが分かる。実際に、2ppmの金イオンを含む複数金属イオン混合液中にHOM−R1を浸漬後のろ過液における金イオン濃度は、図15の表に示すように0.025ppmと極めて少なくなった。さらに、ろ過された粉末を溶出処理により得た溶液の金イオン濃度は、図16に示すように、1,89ppmであり、他の金属イオン(Fe3+、Cu2+、Ni2+、Co2+、Cr3+、Pt3+、Pd2+、Ru3+、Ag+)は検出されなかった。この結果からもHOM-R1は金イオンのみを吸着し他の金属イオンは吸着しないことが分かる。また、金イオンの回収率は約90%と見積もることができる。尚、他のレセプターを担持したHOM-R2〜R4に関しても同様に金イオン{Au(III)}を優先的に吸着し他の金属イオンは殆ど吸着しないことも確認された。
【実施例13】
【0066】
<種々の金属を含む溶液からの金イオンの抽出>
実施例12において示した複数イオン混合液からAu(III)を抽出した固体材料を50mlビーカー中で20mlの溶離液(1%HClに0.1M Thiourea(チオ尿素))を添加)に入れ、1時間攪拌した。この溶液をろ過するとろ過液にはAu(III)が抽出された。固形物はHOM-R1であり、次のAu(III)抽出に使用された。ICP-OESによる我々のデータは、複数イオン混合液中のAu(III)の90%以上が抽出されたということを示した。
【実施例14】
【0067】
図17は、HOM―R1の窒素吸着・離脱等温線を示す。縦軸に吸着量、横軸に相対圧力(P0=1atm)を示す。4つの試料{HOM-Cage1、HOM―R1、HOM−R1−Au(III)、HOM−R1(after Elution)}ともIUPACのIV型の曲線であり、メソポーラス(細孔直径2〜50nm)の存在を示している。窒素吸着・離脱等温線より求めた上記材料{HOM-Cage1、HOM―R1、HOM−R1−Au(III)、HOM−R1(after Elution)}のBET比表面積(Surface area)は450m2/g〜600m2/g、細孔体積(Pore volume)0.50〜0.60cm3/g、細孔サイズ(Pore size)7.1nm〜8.02nmであった。この結果を図18の表に示す。BET比表面積は大きく、細孔サイズも小さく、HOM-R1は良好な吸着サイトを持つことが分かる。さらに、HOM-R1に金イオンを吸着させ、その金イオンを溶出させても窒素吸着・離脱等温線には大きな差はなく、HOM-R1は金イオン吸着に繰り返し利用できることが分かる。
【0068】
上述したように、本発明は、有機シリコン化合物および界面活性剤から作製した高秩序化メソポーラスシリカに目標金属である金を選択的に吸着するキレート化合物のような金イオン吸着性化合物を担持させ、その金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを目標金属である金イオンが溶解された溶液と接触させ、目標金属である金イオンを選択的にメソポーラスシリカに担持された金イオン吸着性化合物に吸着させる。その後で、目標金属である金イオンを吸着した金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを化学的処理し、目標金属である金イオンをメソポーラスシリカに担持された金イオン吸着性化合物から遊離させ、目標金属である金を回収する。目標金属である金イオンが遊離された金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカは、再使用できる。
【0069】
本発明は都市鉱石等に含まれる金を効率よく安価に取り出す材料およびその方法さらには金イオンセンサーを提供するものであるが、上記の説明からも分かるように、都市鉱石ばかりではなく、各種金属を含む通常の鉱石からの金イオンの抽出・吸着・逆抽出にも適用できるし、金イオンが溶け込んだ溶液、たとえばメッキや冶金等の工程から排出される廃液からの金の抽出・吸着・逆抽出して、金を回収できる。
尚、明細書のある部分に記載し説明した内容を記載しなかった他の部分においても矛盾なく適用できることに関しては、当該他の部分に当該内容を適用できることも言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、種々の金属を含む物質や材料から金を除去する産業分野や回収する産業分野において利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標金属である金を含む各種金属が溶解された溶液(金属溶解溶液)から金イオンを吸着するとともに吸着された金イオンを遊離することが可能な、金イオンを吸着する金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカ。
【請求項2】
金イオン吸着性化合物は目標金属である金イオンを選択的に吸着可能な化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第1項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項3】
金イオン吸着性化合物はキレート化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第2項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項4】
キレート化合物は、N,N-ビス(サリチリデン)2,6-ジアミノピリジン{N,N-Bis(salicylidene)2,6-diaminopyridine(BSP)、N,N-ジサリチリデン-4-ニトロ-フェニレンデン{N,N-disalicylidene-4-nitro-phenylenedene(DSNPD)、4-ドデシル-6-(2-チアゾルイルアゾ)レソルシノール{4-dodecyl-6-(2-thiazolylazo)resorcinol(DTAR)、または4-(2-ピロジルアゾ)レゾルシノール{4-(2-pyridylazo)resorcinol(PAR)から選択された1または2以上の化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第3項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項5】
金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを、目標金属である金イオンが最大に吸着されるpH値に調整された金属溶解溶液と接触させ、メソポーラスシリカに吸着した金イオン吸着性化合物に目標金属である金イオンを吸着させることを特徴とする、特許請求の範囲第1項〜第4項のいずれかの項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項6】
金イオンは3価イオン{Au(III)}であり、前記pH値は2〜4の間であることを特徴とする、特許請求の範囲第5項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項7】
金イオン吸着性化合物をメソポーラスシリカに担持する工程と、
目標金属である金イオンを最も良く吸着するpH値に調整された目標金属である金イオンを含む金属溶解溶液に金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを接触させ、前記金イオン吸着性化合物に目標金属である金イオンを選択的に吸着する工程と、
目標金属である金イオンを吸着した前記金イオン吸着性化合物から目標金属である金イオンを遊離する工程とを
含むことを特徴とする金回収方法。
【請求項8】
金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカはリユースすることを特徴とする、特許請求の範囲第7項に記載の金回収方法。
【請求項9】
金イオン吸着性化合物はキレート化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第7項または第8項に記載の金回収方法。
【請求項10】
キレート化合物は、N,N-ビス(サリチリデン)2,6-ジアミノピリジン{N,N-Bis(salicylidene)2,6-diaminopyridine(BSP)、N,N-ジサリチリデン-4-ニトロ-フェニレンデン{N,N-disalicylidene-4-nitro-phenylenedene(DSNPD)、4-ドデシル-6-(2-チアゾルイルアゾ)レソルシノール{4-dodecyl-6-(2-thiazolylazo)resorcinol (DTAR)、または4-(2-ピロジルアゾ)レゾルシノール{4-(2-pyridylazo)resorcinol(PAR)から選択された1または2以上の化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第9項に記載の金回収方法。
【請求項11】
金属溶解溶液のpH値は2〜4であることを特徴とする、特許請求の範囲第10項に記載の金回収方法。
【請求項12】
N,N-ビス(サリチリデン)2,6-ジアミノピリジン{N,N-Bis(salicylidene)2,6-diaminopyridine(BSP)、N,N-ジサリチリデン-4-ニトロ-フェニレンデン{N,N-disalicylidene-4-nitro-phenylenedene(DSNPD)、4-ドデシル-6-(2-チアゾルイルアゾ)レソルシノール{4-dodecyl-6-(2-thiazolylazo)resorcinol(DTAR)、または4-(2-ピロジルアゾ)レゾルシノール{4-(2-pyridylazo)resorcinol(PAR)から選択された少なくとも1を担持したメソポーラスシリカ用いた金イオン検出センサ。
【請求項13】
金イオン濃度は、比色法または紫外可視分光法により検出することを特徴とする、特許請求の範囲第12項に記載の金イオン検出センサ。
【請求項14】
紫外可視分光法による金イオン濃度は、500nm〜600nmの波長を用いて検出することを特徴とする、特許請求の範囲第13項に記載の金イオン検出センサ。
【請求項1】
目標金属である金を含む各種金属が溶解された溶液(金属溶解溶液)から金イオンを吸着するとともに吸着された金イオンを遊離することが可能な、金イオンを吸着する金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカ。
【請求項2】
金イオン吸着性化合物は目標金属である金イオンを選択的に吸着可能な化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第1項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項3】
金イオン吸着性化合物はキレート化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第2項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項4】
キレート化合物は、N,N-ビス(サリチリデン)2,6-ジアミノピリジン{N,N-Bis(salicylidene)2,6-diaminopyridine(BSP)、N,N-ジサリチリデン-4-ニトロ-フェニレンデン{N,N-disalicylidene-4-nitro-phenylenedene(DSNPD)、4-ドデシル-6-(2-チアゾルイルアゾ)レソルシノール{4-dodecyl-6-(2-thiazolylazo)resorcinol(DTAR)、または4-(2-ピロジルアゾ)レゾルシノール{4-(2-pyridylazo)resorcinol(PAR)から選択された1または2以上の化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第3項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項5】
金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを、目標金属である金イオンが最大に吸着されるpH値に調整された金属溶解溶液と接触させ、メソポーラスシリカに吸着した金イオン吸着性化合物に目標金属である金イオンを吸着させることを特徴とする、特許請求の範囲第1項〜第4項のいずれかの項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項6】
金イオンは3価イオン{Au(III)}であり、前記pH値は2〜4の間であることを特徴とする、特許請求の範囲第5項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項7】
金イオン吸着性化合物をメソポーラスシリカに担持する工程と、
目標金属である金イオンを最も良く吸着するpH値に調整された目標金属である金イオンを含む金属溶解溶液に金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを接触させ、前記金イオン吸着性化合物に目標金属である金イオンを選択的に吸着する工程と、
目標金属である金イオンを吸着した前記金イオン吸着性化合物から目標金属である金イオンを遊離する工程とを
含むことを特徴とする金回収方法。
【請求項8】
金イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカはリユースすることを特徴とする、特許請求の範囲第7項に記載の金回収方法。
【請求項9】
金イオン吸着性化合物はキレート化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第7項または第8項に記載の金回収方法。
【請求項10】
キレート化合物は、N,N-ビス(サリチリデン)2,6-ジアミノピリジン{N,N-Bis(salicylidene)2,6-diaminopyridine(BSP)、N,N-ジサリチリデン-4-ニトロ-フェニレンデン{N,N-disalicylidene-4-nitro-phenylenedene(DSNPD)、4-ドデシル-6-(2-チアゾルイルアゾ)レソルシノール{4-dodecyl-6-(2-thiazolylazo)resorcinol (DTAR)、または4-(2-ピロジルアゾ)レゾルシノール{4-(2-pyridylazo)resorcinol(PAR)から選択された1または2以上の化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第9項に記載の金回収方法。
【請求項11】
金属溶解溶液のpH値は2〜4であることを特徴とする、特許請求の範囲第10項に記載の金回収方法。
【請求項12】
N,N-ビス(サリチリデン)2,6-ジアミノピリジン{N,N-Bis(salicylidene)2,6-diaminopyridine(BSP)、N,N-ジサリチリデン-4-ニトロ-フェニレンデン{N,N-disalicylidene-4-nitro-phenylenedene(DSNPD)、4-ドデシル-6-(2-チアゾルイルアゾ)レソルシノール{4-dodecyl-6-(2-thiazolylazo)resorcinol(DTAR)、または4-(2-ピロジルアゾ)レゾルシノール{4-(2-pyridylazo)resorcinol(PAR)から選択された少なくとも1を担持したメソポーラスシリカ用いた金イオン検出センサ。
【請求項13】
金イオン濃度は、比色法または紫外可視分光法により検出することを特徴とする、特許請求の範囲第12項に記載の金イオン検出センサ。
【請求項14】
紫外可視分光法による金イオン濃度は、500nm〜600nmの波長を用いて検出することを特徴とする、特許請求の範囲第13項に記載の金イオン検出センサ。
【図15】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−218991(P2012−218991A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87767(P2011−87767)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
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