説明

金コロイドの製造方法及び金コロイド

【課題】 本発明は、目的に合わせた粒径であって、粒子径分布がシャープで、形状も均一な真球状である金コロイドを製造する方法の提供を目的とする。
【解決手段】 金コロイドの製造方法において、第一の金塩の溶液に第一の還元剤を添加し、核コロイド粒子を形成させる核形成段階と、前記核コロイド粒子の溶液に、第二の金塩及び第二の還元剤を添加して核コロイドを成長させる成長段階とを含み、前記成長段階は少なくとも1回以上行うものであり、第一の還元剤にはクエン酸塩、第二の還元剤にはアスコルビン酸塩を用い、且つ、前記成長段階におけるアスコルビン酸塩の添加を第二の金塩の添加と同時に行なうことを特徴とする金コロイドの製造方法に関する。本発明の金コロイドの製造方法によれば、粒子径分布がシャープであり、形状が均一な真球状の金コロイドを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金コロイドの製造方法に関し、特に、体外診断薬に好適な金コロイドの製造方法及び金コロイドに関する。
【背景技術】
【0002】
体外診断薬は、患者の血液、尿、唾液、組織などを利用することから、人体に与える影響を最小限に留めて疾患の種類や原因等を把握することができ、早期診断、早期治療のための重要な役割を果たしている。このため、様々な診断用途に利用されており、妊娠診断や、便潜血の判定による大腸癌の一次スクリーン検査等に役立っている。このような体外診断薬としては、診断の目的となる抗原を検出するための抗体を、金コロイドの表面に結合させたものが知られている。
【0003】
この体外診断薬を有効に利用するために、感度を向上させて、診断の信頼性を維持するには、上記したような様々な用途に合わせて、適合した粒径の金コロイドを用いることが必要とされる。例えば、妊娠診断に用いられる体外診断薬では、非常に高い感度が要求されることから、金コロイドの粒径が40nmで均一であり、粒子径分布もシャープであることが求められている。
【0004】
また、体外診断薬に用いる抗体は、金コロイド上に直接結合させると、ランダムに配位してしまう場合があるため、あらかじめリンカーと呼ばれるタンパク質や有機物を結合させる場合がある。目的とする数のリンカーを金コロイド上に均等な配置で結合させるためには、金コロイドの粒径が均一であり、さらに形状も真球状に近いことが要求される。また、金コロイドの形状は、均一な真球状となっている場合には、彩度の高いワインレッド色を示し、この色彩を示す金コロイドは体外診断薬への利用に最適である。しかし、金コロイドの粒子の縦横比が異なっている場合には、青紫色となってしまう。
【0005】
以上のことから、体外診断薬を、様々な診断の目的に合わせた高感度なものとするためには、金コロイドが用途に合わせた粒径であり、粒子径分布がシャープで、さらに、形状も均一な真球状であることが望まれている。
【0006】
ここで、金コロイドの製造方法については、金塩溶液を還元する方法が、一般的に知られている。例えば、非特許文献1では、塩化金酸をクエン酸ナトリウム三水和物によって還元する方法が示されており、特許文献1や特許文献2には、クエン酸塩、アスコルビン酸塩で金塩溶液を還元して金コロイドを製造する方法が開示されている。
【0007】
【非特許文献1】G.フレーンス(G.Frens)、ネイチャー フィジカル サイエンス(Nature Physical Science)、1973年、第20巻、p.241
【特許文献1】特許第2834400号明細書
【特許文献2】特許第2902954号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1のように、還元剤にクエン酸塩のみを用いた場合には、粒径分布が均一な金コロイドを得ることができず、形状も球状でないものとなってしまう傾向があった。また、特許文献1や特許文献2のように、クエン酸塩又はアスコルビン酸塩のみを用いた場合においては、粒径分布がシャープな金コロイドを得ることは出来なかった。その他、知られている金コロイドの製造方法においても同様に、粒径制御が困難な場合や、形状が真球状とできない場合があった。そこで本発明は、目的に合わせた粒径であって、粒子径分布がシャープで、形状も均一な真球状である金コロイドを製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者等は、金塩溶液を還元して金コロイドを製造する方法において、用途に合わせた粒径等とするために鋭意検討を行った。その結果、金塩溶液の還元を、核コロイドを形成する段階と、成長させる段階とに分けて多段階で行うことにより、目的に合った粒径等となる金コロイドを製造する方法を開発するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、金コロイドの製造方法において、第一の金塩の溶液に第一の還元剤を添加し、核コロイド粒子を形成させる核形成段階と、前記核コロイド粒子の溶液に、第二の金塩及び第二の還元剤を添加して核コロイドを成長させる成長段階とを含み、前記成長段階は少なくとも1回以上行うものであり、第一の還元剤にはクエン酸塩、第二の還元剤にはアスコルビン酸塩を用い、且つ、前記成長段階におけるアスコルビン酸塩の添加を第二の金塩の添加と同時に行なうことを特徴とする金コロイドの製造方法に関する。
【0011】
本発明は、目的とする粒径の金コロイドの製造を、核コロイドを形成する段階、この核コロイドを成長させる段階、の多段階で構成することを特徴とする。そして、これを前提として、各段階における還元剤を、それぞれクエン酸塩とアスコルビン酸塩に特定し、更に、成長段階における還元剤の添加を、第二の金塩の添加と同時に行なうことを特徴とする。これらの特徴の相乗的作用により、本発明は、目的とする粒径(17nm以上)であって、形状も均一で、真球状の金コロイドを製造することができるようになっている。
【0012】
以下、本発明に係る金コロイドの製造方法に関し、核形成段階及び成長段階の各段階について詳細に説明する。
【0013】
核形成段階で用いる第一の金塩には、塩化金酸(III)、塩化金(I)、三フッ化金、一フッ化金、一臭化金、三臭化金、金(III)トリシアニド、シアン化金、雷酸金(I)、ヒドロキシ金(III)オキシド、トリヨード金(III)、トリス硝酸金(III)、硝酸金(I)等、の他、これらの水和物や塩類、又は、金粉や金箔等を王水に溶解させたものを使用することができる。
【0014】
第一の金塩を還元する第一の還元剤であるクエン酸塩としては、クエン酸リチウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸ルビジウム、クエン酸セシウム、クエン酸カルシウム、クエン酸マグネシウム、クエン酸アンモニウム、クエン酸物エチル、クエン酸ジエチル、クエン酸トリエチル、クエン酸モノブチル、クエン酸トリブチル、クエン酸モノアリル、クエン酸ジアリル、クエン酸トリアリル、イソクエン酸ナトリウム、イソクエン酸カリウム、イソクエン酸カルシウム、イソクエン酸セシウム、イソクエン酸アンモニウム等が利用可能であり、さらに、クエン酸、イソクエン酸、ヒドロキシクエン酸、過クエン酸、無水クエン酸、2−メチルクエン酸、クエン酸アニオン−3−アンモニウム、クエン酸アニオン−ジアンモニウム、アロイソクエン酸を用いることもでき、これらを水溶液の形態で使用しても良い。
【0015】
ここで、核形成段階において形成する核コロイドの粒径は、12nm以上17nm未満を目標とすることが好ましい。クエン酸系の還元剤を用いた場合に、核コロイドの平均粒子径にばらつきがなく、形状を均一に形成できる粒径の大きさだからである。この点、12nm未満の場合には、成長段階における成長速度が安定しない傾向があり、17nm以上とすると、核コロイドの粒径が均一とならない場合がある。
【0016】
上記した目標粒径の範囲にある核コロイドの形成は、第一の還元剤であるクエン酸塩の、添加量と添加方法を調製することで形成することができる。具体的には、第一の還元剤の添加量を、第一の金塩の添加量に対して、モル比で2倍〜11倍の範囲内とすることが好ましい。核コロイドを、粒径のばらつきなく形成することが可能となるからである。また、第一の還元剤を添加する際には、数滴ずつ滴下するのではなく、一度にすべての還元剤を添加することにより、均一な粒径の核コロイドを形成することができる。
【0017】
次に、核コロイドを成長させる成長段階について説明する。成長段階は、第二の還元剤であるアスコルビン酸塩と、第二の金塩との添加を同時に行って、核コロイドを成長させるものである。成長段階に用いる第二の金塩としては、上述した核形成段階において、第一の金塩として利用可能な金塩のうち、いずれかを使用することができるが、第一の金塩及び/又は第二の金塩は塩化金酸とすることが好ましい。塩化金酸は容易に水溶液とすることができ、容易に目的とする濃度に調製可能だからである。
【0018】
第二の還元剤であるアスコルビン酸塩としては、アスコルビン酸リチウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸ルビジウム、アスコルビン酸セシウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム等が利用可能な他、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、スコルバミン酸、エリソルビン酸、デヒドロイソアスコルビン酸、デオキシアスコルビン酸、クロロデオキシアスコルビン酸、ヨードデオキシアスコルビン酸、ブロモデオキシアスコルビン酸、フルオロデオキシアスコルビン酸、メチルアスコルビン酸、エチルアスコルビン酸、プロピルアスコルビン酸を用いることもでき、これらを水溶液の形態で使用しても良い。
【0019】
そして、第二の金塩と、第二の還元剤であるアスコルビン酸とは、同時に添加することが必要である。同時添加するのは、これにより核コロイドの成長速度が安定し、平均粒子径の標準偏差が10%以内の金コロイドを得ることが可能となるからである。尚、この添加の態様としては、第二の還元剤と第二の金塩とを、1回の成長段階の最初に一度に添加しても問題はないが、同時に滴下して金コロイドを成長させることが望ましい。同時に滴下することで、核コロイドの成長速度が一定となり、粒径の均一な金コロイドを製造することが可能となるからである。
【0020】
そして、1回の成長段階においては、第二の金塩とアスコルビン酸塩を、それぞれ次式で示される量添加するのが好ましい。
【数1】

【0021】
ここで、第二の金塩とアスコルビン酸塩の添加量を示す上記式について説明する。金の原子半径は、1.44Å(0.144nm)であり、また、金は面心立方格子構造をとることが知られていることから、1つのコロイド粒子の粒径Lは、原子半径と層数nから、次式により求めることができる。尚、ここでいう層数nとは、1つの金コロイドについて、中心原子から同じ距離にある原子群を1つの層としたときの、層の数とする。
【0022】
【数2】

【0023】
そして、層数nは、上記式[1]を変形することで、目的とする粒径Lから求めることができる(式[2])。また、この層数nからは、コロイド粒子の最外層を構成する原子数である最外層原子数yを求めることができる(式[3])。更に、最外層原子数yと層数nを算出することで、式[4]より、金コロイド1粒子中に含まれる金の総原子数Nがわかる。
【0024】
【数3】

【0025】
以上より、成長段階終了後の目的とする粒径Lを定めることで、コロイド1粒子中に含まれる金の総原子数Nを算出することができる。参考として、上記数式群を用いて、粒径Lにおける総原子数Nを算出した値を、以下の表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
ここで、成長段階において第二の金塩及びアスコルビン酸塩を添加するのは、目的の粒径のコロイド粒子を形成するために必要な量の金原子を補給するためである。即ち、両者の添加量とは、成長前後で不足する金原子の量であり(正確には不足する金イオン及びそれを金原子に還元するための還元剤の量)、これは、成長前後における金コロイド1粒子中の総原子量の差を意味する。従って、上記数式群により成長前後における金コロイド1粒子中の総原子量を把握することで、第二の金塩及びアスコルビン酸塩の添加量は、以下のように示される。
【0028】
【数4】

【0029】
上記式[5]において、(N−N)の値が、成長前後のコロイド粒子の総原子数の差であり、コロイド1粒子の成長に要する金原子数である。そして、コロイド1粒子の成長に必要な金原子数と、核コロイド溶液1L中に含まれるコロイド粒子数C等を用いれば、上記式により、第二の金塩の添加量(g)を算出することが可能となる。また、第二の還元剤の添加量(g)については、第二の金塩と同様にして、上記式[6]で示される。尚、コロイド粒子数Cは、核コロイド中の塩化金酸のモル濃度(mol/L)に、アボガドロ数Nを乗じ、核コロイド中に含まれる金の総原子数で割ることにより求めることができる。
【0030】
ここで、上記の式[5]及び[6]は、第二の金塩及びアスコルビン酸塩の添加量についての、理論値を示していることに留意すべきである。つまり、上記数式群においては、核コロイド溶液に含まれる金コロイドの粒子数(C)が、成長前後で変化せず、また、還元によって生じた金原子が完全に均一に核コロイド粒子に結合している等、理想的な成長過程をとることを前提としている。
【0031】
本発明者等は、実際に金コロイド粒子の製造を多段階で行なう場合、所望の粒径に成長させるための添加量は、必ずしも上記式には従わないことを確認している。これは、金コロイド粒子の成長が、上記のような理想的過程を取るとは限らないことによる。そこで、本発明者等は、本発明に係る方法に適合可能であり、成長後の粒径の標準偏差が許容範囲内となるように、上記(数4)の式の補正を行なうべく鋭意検討し、第二の金塩及びアスコルビン酸塩の添加量について次式の結果を得た。
【0032】
【数5】

【0033】
上記式において、α、βは理論式を補正するための定数であり、これらにより目的とする粒径を有するコロイド粒子の形成が可能となる。αは、金塩の添加量を補正する定数であり、1.0〜2.5であるが、より好ましくは、1.1〜2.2とする。また、βは、アスコルビン酸塩の添加量を補正する定数であり、2.0〜5.7であるが、より好ましくは2.6〜5.4とする。また、成長段階が複数回となる場合には、これらの定数を段階ごとに変化させても良い。特に、最初の(1〜2段階目の)成長段階においては、粒径のばらつきが生じやすく、比較的多量の金塩が必要となる傾向があり、α、βを高めにした方が良い。例えば、成長段階を3〜4段階とする場合、1〜2段階目では、αを1.4〜1.6、βを3.3〜4.0とし、それ以降の成長段階におけるαは1.1〜1.4、βは2.6〜3.2とすることで、各段階において目標粒径のコロイド粒子が形成し易くなる。
【0034】
本発明においては、粒径の大きな金コロイドを製造する場合等については、段階数を少なめに設定して1段階における添加量を多量とするよりも、段階数を増やして、1段階での添加量を少量とした方が好ましい。成長段階の回数を増やすことで、より均一な平均粒径の金コロイドを形成させることが結果的に可能となるからである。例えば、金コロイドの平均粒子径を17nm以上55nm未満とする場合には成長段階を1回で行う事が望ましく、55nm以上110nm未満とする場合には2回、110nm以上220nm以下とする場合には3回で行うことが好ましい。また、成長段階を多段階とした場合、成長段階の各段階で形成された金コロイドの粒径を測定し、後の段階における第二の金塩及び第二の還元剤の添加量を算出しても良い。このようにすることで、より粒径が均一な金コロイドを得ることができる。
【0035】
また、各成長段階での金塩溶液、アスコルビン酸塩溶液の濃度については、溶質量(金塩、アスコルビン酸塩の重量)が上記(数5)の範囲内であれば、特に、固定されるべきものではない。即ち、溶液の溶媒の量は、特に固定されるものではない。また、金塩溶液、アスコルビン酸塩溶液の濃度は、成長段階ごとに異なっても良いし、同じでも良い。更に、成長段階における金塩濃度と、核成長段階における金塩濃度とは異なっても良いし、同じでも良い。このように、各段階における添加溶液の濃度は調節可能であることから、本発明は、最終的なコロイド溶液の濃度調整が可能であるという利点を有する。尚、出発点に相当する核形成段階では、第一の金塩溶液の濃度を、金濃度で3.0×10−4mol/L〜1.3×10−3mol/Lの範囲内とすることが好ましい。あまりに高い金濃度に設定すると、生成した金コロイド粒子に凝集が生じるおそれがあるからである。
【0036】
本発明においては、核形成段階と成長段階との時間的間隔、或いは、個々の成長段階間の時間的間隔についての限定は特にない。従って、核形成段階から成長段階の終了までを、同一系内で連続的に行っても良いが、予め途中の段階まで形成、又は、成長させた金コロイドに、時間をおいて金塩及び還元剤を添加して金コロイドを成長させても良い。例えば、成長段階を2回と設定した場合には、予め成長段階を1回行って形成した金コロイドを用い、これに金塩及び還元剤を添加して金コロイドを成長させて(これにより成長段階を1回追加して)、目的とする平均粒子径の金コロイドを形成することができる。同様に、成長段階を3回で行う場合には、予め成長段階を2回行った金コロイドを用いることができる。
【0037】
また、本発明の金コロイドの製造方法によって得られる金コロイドは、TEM写真の観察による粒径の標準偏差が10%以内であることが好ましい。このような金コロイドであれば、体外診断薬に使用する場合に最適だからである。尚、本発明は、粒径の大きな金コロイドであっても、多段階で還元を行うことで粒度分布がシャープなものを得ることは可能であるが、体外診断薬として利用する場合には、220nm以下のものが好適である。
【発明の効果】
【0038】
以上で説明したように、本発明の金コロイドの製造方法によれば、粒子径分布がシャープであり、形状が均一な真球状の金コロイドを得ることができる。本発明は、特に、粒径17nm以上において、使用目的に合わせた粒径の金コロイドを、標準偏差10%以内で得ることができる。本発明は、体外診断薬に使用するための金コロイドの製造に好適である。また、染色細胞を観察する体外診断である組織化学マーカーと呼ばれる診断においても、体外診断薬と同様の性質の金コロイドが求められており、本発明はかかる用途にも好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明における最良の実施形態について説明する。
【0040】
実施例1:この実施例では、核形成段階において、第一の金塩である塩化金酸を第一の還元剤であるクエン酸塩で還元し、目標粒径15nmの核コロイドを形成した。その後、成長段階では、第二の金塩である塩化金酸と、第二の還元剤であるL−アスコルビン酸とを同時に滴下して、目標粒径30nmの金コロイドを形成させた。
【0041】
[核形成段階]
塩化金酸四水和物0.17g(4.1×10−4mol)と、クエン酸三ナトリウム二水和物0.49g(1.6×10−3mol)とを、それぞれ超純水25mlと100mlに溶解させて、塩化金酸溶液とクエン酸溶液を調製した。次に、500mlの三口フラスコ内に、塩化金酸溶液6mlと超純水200mlとを投入して、30分間加熱還流させた。液温が安定した後、クエン酸溶液50mlを混合して、15分間加熱還流した。その後、加熱を停止して室温で放冷し、核コロイドを形成させた。尚、超純水の代わりにイオン交換水や蒸留水を使用することもできる。
【0042】
[成長段階]
上記方法によって形成した3.0×10−4mol/Lの核コロイド(平均粒径15.22nm)52mlを、500mlの三口フラスコに入れ、液温が30℃になるまで恒温層内で撹拌した。液温が安定したら、塩化金酸四水和物0.34g(8.2×10−4mol)を超純水50mlに溶解させ、そのうちの9.2mlを201mlまで希釈した塩化金酸溶液と、L−アスコルビン酸ナトリウム0.07g(3.5×10−4mol)を超純水204mlに溶解させたL−アスコルビン酸溶液204mlとを、2.0ml/minの速度で同時に滴下して、1時間撹拌しながら反応させて、成長段階を1回行った。得られた金コロイドの溶液は、ワインレッド色であった。尚、塩化金酸及びL−アスコルビン酸ナトリウムの添加量は、目標粒径を30nm、定数αを1.4、βは3.3として、式1より算出した。
【0043】
実施例2:本実施例では、目標粒径を40nmとして金コロイドを製造した。核コロイドには、実施例1の核形成段階で形成した、3.0×10−4mol/Lの核コロイド(平均粒径15.22nm)を26ml用い、塩化金酸四水和物0.076g(1.8×10−4mol)を溶解させた塩化金酸溶液252mlと、L−アスコルビン酸ナトリウム0.092g(4.6×10−4mol)を溶解させたL−アスコルビン酸溶液256mlとを用いた。上記以外の条件については、実施例1の成長段階と、同様の方法を用いた。尚、塩化金酸及びL−アスコルビン酸ナトリウムの添加量は、定数αを1.4、βは3.5として算出した。
【0044】
実施例3:本実施例では、目標粒径を50nmとして金コロイドの製造を行った。実施例1で得られた3.0×10−4mol/Lの金コロイド(平均粒径15.22nm)を12mlと、塩化金酸四水和物0.072g(1.7×10−4mol)を溶解させた塩化金酸溶液233ml、L−アスコルビン酸ナトリウム0.094g(4.7×10−4mol)を溶解させたL−アスコルビン酸溶液233mlを用いて、それ以外の条件は、実施例1の成長段階と同様の方法で行った。使用した実施例2の金コロイドは、核コロイドを1回成長させたものであるため、実施例3は成長段階を合計2回行ったこととなる。尚、塩化金酸及びL−アスコルビン酸ナトリウムの添加量の算出に用いる定数は、αを1.4、βは3.8とした。
【0045】
実施例4:本実施例では、目標粒径を60nmとして金コロイドの製造を行った。実施例2で得られた3.0×10−4mol/Lの金コロイド(平均粒径39.07nm)を66.7mlと、塩化金酸四水和物0.027g(6.5×10−5mol)を溶解させた塩化金酸溶液80mlと、L−アスコルビン酸ナトリウム0.029g(1.5×10−4mol)を溶解させたL−アスコルビン酸溶液81.3mlとを用いた。上記以外の条件については、実施例3と同様の方法で行った。尚、塩化金酸及びL−アスコルビン酸ナトリウムの添加量の算出に用いる定数は、αを1.2、βは2.7とした。
【0046】
実施例5:本実施例では、目標粒径を80nmとして金コロイドの製造を行った。実施例2で得られた3.0×10−4mol/Lの金コロイド(平均粒径39.07nm)を33.3mlと、塩化金酸四水和物0.039g(9.4×10−5mol)を溶解させた塩化金酸溶液118mlと、L−アスコルビン酸ナトリウム0.043g(2.2×10−4mol)を溶解させたL−アスコルビン酸溶液120mlとを用いた。上記以外の条件は、実施例3と同様の方法で行った。尚、塩化金酸及びL−アスコルビン酸ナトリウムの添加量の算出に用いる定数は、αを1.2、βは2.8とした。
【0047】
実施例6:本実施例では、目標粒径を100nmとして金コロイドの製造を行った。実施例2で得られた3.0×10−4mol/Lの金コロイド(平均粒径39.07nm)を33.4mlと、塩化金酸四水和物0.079g(1.9×10−4mol)を溶解させた塩化金酸溶液247mlと、L−アスコルビン酸ナトリウム0.092g(4.6×10−4mol)を溶解させたL−アスコルビン酸溶液251mlとを用いた。尚、上記以外の条件は、実施例3と同様の方法で行った。得られた金コロイド溶液の色は、ワインレッド色であった。尚、塩化金酸及びL−アスコルビン酸ナトリウムの添加量の算出に用いる定数は、αを1.2、βは2.9とした。
【0048】
実施例7:本実施例では、目標粒径を200nmとして金コロイドの製造を行った。実施例6で得られた3.0×10−4mol/Lの金コロイド(平均粒径99.68nm)を4倍濃縮したものを17mlと、塩化金酸四水和物0.078g(1.9×10−4mol)を溶解させた塩化金酸溶液62ml、L−アスコルビン酸ナトリウム0.090g(4.5×10−4mol)を溶解させたL−アスコルビン酸溶液61.6mlを用いた以外は、実施例1の成長段階と同様の方法で行った。実施例6の金コロイドは成長段階を2回行ったものであるため、本実施例は成長段階を合計3回行ったこととなる。得られた金コロイドの溶液は、ワインレッド色であった。尚、塩化金酸及びL−アスコルビン酸ナトリウムの添加量の算出に用いる定数は、αを1.3、βは3.1とした。
【0049】
以上の各実施例の金コロイドについて、以下の方法でTEM写真を観察し、平均粒子径及び標準偏差を計測した。
【0050】
平均粒子径及び標準偏差(%)については、TEM(日本電子株式会社製、JEM−2010)によって撮影した写真を用いて、写真中の100検体を対象として粒子の大きさを計測し、その粒度分布から算出した。結果を表2に示す。各実施例についてのTEM観察写真を、図1及び図2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2より、第一の還元剤としてクエン酸塩を用いた核コロイドの核形成段階と、第二の還元剤としてアスコルビン酸塩を用いた成長段階により形成した、実施例1〜実施例7の金コロイドは、目標とする平均粒子径と、ほぼ一致する平均粒子径とすることができ、すべての実施例において標準偏差が10%以内であることが示された。また、核コロイドについても、同様に、標準偏差が10%以内であった。また、図1及び図2より、各実施例によって得られた金コロイドの形状は、ほぼ真球状となっていることが観察された。
【0053】
比較例1:還元を段階的に行わず、アスコルビン酸塩のみを還元剤として、目標粒径40nmの金コロイドを製造した。塩化金酸四水和物0.079g(1.9×10−4mol)を溶解させた塩化金酸溶液252mlと、L−アスコルビン酸0.092g(4.6×10−4mol)を溶解させたL−アスコルビン酸溶液256mlとを、超純水26mlに同時に滴下して金コロイドを形成させた。尚、上記以外の条件は、実施例1の成長段階と同様の方法で行った。
【0054】
比較例2:第一の還元剤と第二の還元剤を、どちらもクエン酸塩として、目標粒径を40nmの金コロイドを製造した。核形成段階として、塩化金酸四水和物0.0134g(3.2×10−5mol)と、クエン酸三ナトリウム二水和物1.14g(3.9×10−3mol)とを、それぞれ超純水110mlと100mlに溶解させて、塩化金酸溶液とクエン酸溶液を調製した。次に、500mlの三口フラスコ内に、塩化金酸溶液を投入して、加熱還流させた。液温が安定した後、クエン酸溶液1mlを混合して、2分間加熱還流した。その後、加熱を停止して室温で放冷し、核コロイドを形成させた。
【0055】
そして、上記方法によって形成された、3.0×10−4mol/Lの核コロイド26mlを用い、塩化金酸四水和物0.079g(1.9×10−4mol)を溶解させた塩化金酸溶液252mlと、クエン酸三ナトリウム0.1386g(4.6×10−4mol)を溶解させたクエン酸溶液256mlとを用いた。尚、上記以外の条件は、実施例1の成長段階と同様の方法で行った。
【0056】
比較例3:成長段階において、第二の金塩を添加した後に、第二の還元剤を添加して、目標粒径50nmの金コロイドを製造した場合について説明する。塩化金酸1.0×10−2mol/Lを2.44mlと、実施例1の核形成段階で得られた、核コロイド2.5×10−4mol/Lを2.25ml混合し、超純水を加えて150mlとして、室温で撹拌を行った。その後、L−アスコルビン酸ナトリウム4.0×10−4mol/Lを、10ml/minの速度で、100ml滴下した。その後、充分に撹拌して金コロイドを形成させた。
【0057】
【表3】

【0058】
以上の結果より、還元を段階的に行わず、還元剤にアスコルビン酸塩のみを用いた比較例1では、目標の粒子径40nmと比べて、得られた金コロイドの平均粒子径が非常に大きく、標準偏差もやや大きなものであることが分かった。比較例2は、核形成段階と成長段階の、どちらもクエン酸塩によって還元を行ったものであり、目標粒径が40nmであるのに対して、得られた金コロイドの平均粒子径は小さく、標準偏差も大きいものとなることが分かった。また、成長段階において、第二の金塩と第二の還元剤とを同時に添加していない比較例3では、目標粒径の50nmに近い金コロイドを得ることはできたものの、標準偏差が大変大きなものとなってしまうことが分かった。
【0059】
また、図3のTEM観察写真より、比較例1の金コロイドは、実施例と比べて形状が均一でなく、コロイドが粗大化してしまっていることが分かった。また、比較例2についても、コロイドが凝集して真球状となっていないことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例で得られた金コロイドのTEM観察写真(左から、核コロイド、実施例1、実施例2)。
【図2】実施例で得られた金コロイドのTEM観察写真(左から、実施例3、実施例5、実施例6)。
【図3】比較例で得られた金コロイドのTEM観察写真(左から、比較例1、比較例2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金コロイドの製造方法において、
第一の金塩の溶液に第一の還元剤を添加し、核コロイド粒子を形成させる核形成段階と、
前記核コロイド粒子の溶液に、第二の金塩及び第二の還元剤を添加して核コロイドを成長させる成長段階とを含み、
前記成長段階は少なくとも1回以上行うものであり、
第一の還元剤にはクエン酸塩、第二の還元剤にはアスコルビン酸塩を用い、且つ、前記成長段階におけるアスコルビン酸塩の添加を第二の金塩の添加と同時に行なうことを特徴とする金コロイドの製造方法。
【請求項2】
1回の成長段階において、第二の金塩とアスコルビン酸塩とを、それぞれ次式で示される量添加する請求項1に記載の金コロイドの製造方法。
【数1】

【請求項3】
第一の金塩及び/又は第二の金塩を、塩化金酸とする請求項1又は請求項2に記載の金コロイドの製造方法。
【請求項4】
成長段階を1回行い、コロイド粒子の平均粒子径を17nm以上55nm未満とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の金コロイドの製造方法。
【請求項5】
成長段階を2回行い、コロイド粒子の平均粒子径を55nm以上110nm未満とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の金コロイドの製造方法。
【請求項6】
成長段階を3回行い、コロイド粒子の平均粒子径を110nm以上220nm以下とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の金コロイドの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の金コロイドの製造方法により得られた金コロイドであって、粒径の標準偏差が10%以内の金コロイド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−321232(P2007−321232A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156041(P2006−156041)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
【Fターム(参考)】