説明

金型温度解析方法

【課題】焼き付き不具合発生部位を精度よく予測することができる金型温度解析方法を提供。
【解決手段】金型モデルを受熱量の計算領域に分割する工程と、不具合が発生しない上限温度である受熱量測定温度を設定する工程と、計算領域の所定のタイムステップにおける温度を金型温度解析により計算する工程と、この工程で得られた計算温度と受熱量測定温度とを比較して、計算温度が受熱量測定温度よりも高い場合に、計算温度と受熱量測定温度との温度差に基づいてその計算領域の前記タイムステップにおける受熱量を計算する工程と、この工程を全計算領域についてタイムステップ毎に繰り返す繰り返し計算工程と、全タイムステップ終了後にタイムステップ毎の受熱量を積算し計算領域毎の総受熱量を算出する工程と、得られた総受熱量を判定基準に従って色別して金型モデルに重ね合わせて計算領域毎に表示する色別表示工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造や射出成形などに用いられる金型の温度解析方法に関する。より詳しくは、新たに設計された金型の熱影響による不具合発生部位を温度解析により予測する金型温度解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばダイカスト鋳造における金型からの鋳造部材の取り出しは、金型内の鋳造部材の温度が、使用した溶湯の凝固特性で決定されるある所定の理想温度まで降下した時点で行うようにしなければならない。この理想温度よりも高い温度で型開して鋳造部材を取り出すと、鋳造部材の型離れが悪く、いわゆる焼き付きを生じて部材の表面品質を低下させるとともに、金型からの取り出し作業に不都合を生じることがある。甚だしい場合には、金型を破損して金型の寿命を縮める原因にもなる。
【0003】
新規に設計される金型では、このような焼き付きの発生する部位を予測して予め対策を施すことが望まれる。従来は、金型を試作するとともに試験鋳造を行って型開直後の金型表面の温度分布を実測することで判断していた(特許文献1参照)。つまり、焼き付きは金型温度が高い部位に発生しやすいので、この高温部位を型開直後の金型の表面温度分布から予測しようとするものである。
【0004】
しかし、一般に金型のキャビティ面は大小の凹凸部を有する複雑な形状であり、また鋳造部材の肉厚も部位によって異なるために、ピーク温度に到達する時間や温度勾配が金型の部位によって異なり、型開直後の金型表面の温度分布から焼き付き発生部位を精度よく予測することは困難であった。
【0005】
例えば、図4はある鋳造金型におけるキャビティへの溶湯充填完了時刻tsから型開開始時刻teまでの部位による温度変化を概念的に示したグラフである。Aは鋳抜きピン近傍、Bは鋳造部材の厚肉部、Cは薄肉部の金型温度変化である。鋳抜きピン近傍の金型温度Aは、溶湯充填後急激に上昇して短時間で最高温度Taに到達しているが、急激に冷却されて型開開始時刻teでは温度Ta’まで低下している。しかし、鋳造部材の厚肉部における金型温度Bは金型温度Aよりも昇温時間は遅く、また最高温度Tbも低い。ところが、温度降下も遅いので型開開始時刻teでは鋳抜きピン近傍の金型温度Ta’よりも高い温度Tb’となっている。また、鋳造部材の薄肉部における金型温度Cの変化は前2者に比べて小さく且つ最高温度Tcも低い。型開開始時刻teにおける温度Tc’も鋳抜きピン近傍の金型温度Ta’と同程度に低くなっている。
【0006】
従来の予測方法では、型開直後の金型表面温度が閾値T以上である部位に焼き付きが発生しやすいと判断していた。従って、この場合には、鋳造部材の厚肉部は焼き付き危険部位と判断されるものの、鋳抜きピン近傍は焼き付き発生に関しては問題のない部位と判断されていた。しかし、現実には冷却時に最高温度Taを示す鋳抜きピン近傍に焼き付きの発生することがあった。すなわち、型開時の金型表面の温度分布のみからは金型の部位毎の温度履歴を推定することは困難であり、従来の予測方法は焼き付き発生部位を予測する手段としては必ずしも満足できるものではなかった。
【0007】
また、型開時の金型表面の温度分布によって焼き付き発生部位を予測する従来の方法では、実際に金型を試作して試験鋳造を実施しなければならない。さらに、得られた予測結果によっては実際に金型を修正しなければならず、最適化された金型を得るまでのリードタイムが長く、また、無駄が多いという問題があった。
【0008】
そのため、実際に金型を製作することなくシミュレーションによって焼き付き発生部位を精度よく予測できる金型温度解析方法の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開平8−1302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、金型を試作することなく、焼き付き不具合発生部位を精度よく予測することができる金型温度解析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、金型を任意の領域に分割してその領域毎のヒートサイクル中の温度変化を求め、その温度変化のうち閾値よりも高い温度となる部分の面積、すなわち焼き付きを発生させる金型の受熱量を計算すれば焼き付き発生部位を精度よく予測できることに着眼した。図3は、ある分割領域におけるヒートサイクル中の一部分の温度変化を模式的に示したものである。横軸は経過時間であり、縦軸は温度又は受熱量である。受熱量測定温度領域線(以後、受熱量測定温度ともいう)Tよりも上にある受熱領域Fの面積Sが焼き付き発生に寄与する金型の受熱量である。この受熱量を従来の実績や実験などから予め設定される受熱量の判定基準に基づいて判定すれば、焼き付き不具合発生部位を精度よく予測することができる。また、図中黒棒Jで示すタイムステップ毎に計算して得られるN個の受熱量を積算することで領域Fの面積Sに近似することができ、且つ計算の負荷を大幅に軽減することができる。
【0011】
本発明の金型温度解析方法は、金型モデルを受熱量の計算領域に分割する計算領域分割工程と、不具合が発生しない上限温度である受熱量測定温度を設定する温度設定工程と、計算領域の所定のタイムステップにおける温度を金型温度解析により計算する温度計算工程と、この温度計算工程で得られた計算温度と受熱量測定温度とを比較して、計算温度が受熱量測定温度よりも高い場合に、計算温度と受熱量測定温度との温度差に基づいてその計算領域の前記タイムステップにおける受熱量を計算する受熱量計算工程と、この受熱量計算工程を全計算領域についてタイムステップ毎に繰り返す繰り返し計算工程と、全タイムステップ終了後にタイムステップ毎の受熱量を積算し計算領域毎の総受熱量を算出する受熱量積算工程と、得られた総受熱量を予め設定されている判定基準に従って色別して金型モデルに重ね合わせて計算領域毎に表示する色別表示工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の金型温度解析方法によれば、鋳造のヒートサイクル(例えば、注湯開始時刻から型開時刻まで)を通して計算領域毎に焼き付き発生の可能性を知ることができる。特に色別表示されるので焼き付き発生の危険部位を容易に視認することが出来き、必要に応じて鋳造法案を変更してシミュレーションを繰り返すことにより金型設計の最適化を計ることができる。また、受熱量測定温度を設定してこの温度より高い場合にのみ受熱量計算を行うようにしているので計算の負荷が小さく、さらに計算領域を細分化することで予測精度を一層向上することができる。
【0013】
また、本発明の金型温度解析方法において、タイムステップn(t)における計算領域Zの計算温度をTjn(℃)、受熱量測定温度をT(℃)として、受熱量hjn(J)は下記の(式1)で与えることができる。
【0014】
(式1) hjn=1/2×(t−tn−1)×(qjn+qjn−1
ただし、qjn=金型の密度×領域体積×金型の比熱×(Tjn−T)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本実施の形態は、一般的に用いられているパーソナルコンピュータシステムと、例えばTCSなどの市販の金型温度解析プログラムを用いて実施することができる。
【0016】
図1に示す本実施形態の金型温度解析システム10は、入力装置11、処理部12、記憶装置13、メモリ14、表示装置15などから構成されるパーソナルコンピュータシステムから構成されている。
【0017】
入力装置11は、例えば、マウス及びキーボードから構成されており、金型温度解析における解析対象部材の金型の情報や、例えばダイカスト鋳造の初期条件などを入力するための装置である。
【0018】
処理部12は、CPUなどから構成されており、記憶装置13に記憶された金型温度解析プログラムを実行する。
【0019】
記憶装置13は、ハードディスクドライブ、CD−ROMドライブなどのディスクドライブから構成されており、金型温度解析プログラムがインストールされている。また、解析対象部材の情報や計算結果などを記憶する。
【0020】
メモリ14は、RANなどの揮発性メモリから構成されており、処理部12の一時記憶領域として用いられる。
【0021】
表示装置15は、CRL、LCD等から構成されており、入力情報や計算結果を表示する。
【0022】
次に、本実施形態の処理について図2に示すフローチャートに従って説明する。
【0023】
ステップS1では、処理部12は、対象部材の金型モデルをCADデータなどから記憶装置113へ取得し、この金型モデルを適宜のメッシュで計算領域に分割して表示装置15へ表示する。この時、メッシュの粗さは対象とする部材の材質や形状によって異なるが、焼き付き部位の予測精度や計算の負荷を考慮して適宜決定すればよい。
【0024】
ステップS2では、入力装置11から解析の初期条件として設定される受熱量測定温度T(℃)を入力する。受熱量測定温度Tは焼き付きが発生しない上限温度として定義される閾値であり、対象部材の材質や形状によって異なる。この受熱量測定温度Tは従来の製造実績や試験などによって決定され、例えば、対象部材が上記のアルミニウムダイカスト部材の場合には、概ね300〜350℃である。
【0025】
ステップS3では、処理部12は、タイムステップnにおける計算領域Zの温度を上記の金型温度解析プログラムを用いてシミュレーションし、計算温度Tjnとしてメモリ14に記憶する。
【0026】
ステップS4では、処理部12は計算温度Tjnを受熱量測定温度Tとを比較する。ここでTjn>T(YES)であれば、ステップS5へ進んで受熱量hjnを計算する。
【0027】
タイムステップn(時刻t)における受熱量hjnは計算温度Tjnと受熱量測定温度Tとから下記の式1によって得ることができる。
【0028】
jn=1/2×(t−tn−1)×(qjn+qjn−1)・・・・・・・(1)
ここで、基準温度換算熱量qjnは下記の式2によって与えられる。
【0029】
jn=金型の密度×領域体積×金型の比熱×(Tjn−T)・・・・・(2)
処理部12は、ステップS5で式1によって受熱量hjnを計算し、タイムステップnにおける計算領域Zの受熱量hjnとしてメモリ14に記憶する。
【0030】
一方、処理部12はステップS4で、Tjn≦T(NO)と判定したらステップS6へ進む。
【0031】
ステップ6では、処理部12はステップS3の温度計算と、ステップS4の受熱量測定温度Tとの比較とを全計算領域について実行したかを判断する。実行途中(NO)であればステップS7で次の計算領域Zj+1に進み、ステップS3〜S6を繰り返す。
【0032】
処理部12は、ステップ6で全計算領域について処理を完了したと判断したら、ステップ8へ進んで、さらに全タイムステップについて上記の処理が完了したかを判断する。
【0033】
ここでタイムステップは、金型温度解析を実行する解析実行時刻であり、例えばキャビティへの溶湯充填完了直後からの冷却時間を適宜の時間間隔(秒)で区切って設定する。この時間間隔は、対象部材の材質、あるいは大きさや形状などにより適宜に設定することができる。例えば、対象とする部材がADC12などのアルミニウムダイカスト部材の場合には、1/100〜5/100秒の範囲にするとよい。1/100秒未満では計算の負荷が過大となることがあるので好ましくない。また、5/100秒を越えて粗くすると焼き付き部位の予測精度が低下する場合があるので適当ではない。例えば、時間間隔を3/100秒とし溶湯充填後20秒間の温度変化から受熱量を求める場合には、667回目のタイムステップで終了となる。冷却時間は、溶湯充填完了直後から型開きまでとしてもよい。
【0034】
処理部12は、ステップS8で全タイムステップについて終了していない(NO)と判断したら、ステップS9で次のタイムステップ(n+1)に進んでステップS3〜S7を繰り返す。
【0035】
処理部12は、全タイムステップについてステップS3〜S7の処理を完了した(YES)と判断したら(例えば、型開き時刻到達後)、ステップS10へ進み、各受熱量hjnを計算領域Z毎に積算して計算領域Z毎の総受熱量Hを求めメモリ14に記憶する。
【0036】
ステップS11では、処理部12は、総受熱量Hを予め設定されている判定基準に基づいて計算領域毎に色分けして、金型の三次元モデルに重ねて表示装置15へ表示する。例えば、総受熱量Hがほぼ確実に焼き付き発生が予測される受熱量範囲にある場合には計算領域ZをNGゾーンとして赤、50%の確率で焼き付き発生が予測される受熱量範囲にある場合には計算領域Zを危険ゾーンとして黄、それ以外の計算量域ZはOKゾーンとして青などで表示するとよい。
【0037】
このように色別表示することで、設計者は焼き付き発生箇所を容易に視認することが出来る。そして、必要に応じて金型に冷却手段を設けたり、湯道を変更するなどの設計変更を施すことができる。さらに、設計変更後の金型モデルで再度同様の金型温度解析を実行することで、金型設計の最適化を図ることができる。
【0038】
以上の本実施形態において、領域分割工程はステップS1、温度設定工程はステップS2、温度計算工程はステップS3、受熱量計算工程はステップS4とS5、繰り返し計算工程はステップS6〜S9、受熱量積算工程はステップS10、色別表示工程はステップS11である。
【0039】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更してもよい。例えば、上記の実施の形態では、計算温度Tjnが受熱量測定温度Tよりも高い間は全てのタイムステップNで受熱量hjnを計算することとしたが、実験などによってこのタイムステップNの数を変更してもよい。例えば、Tjn>Tの範囲でタイムステップNの数を減少(受熱量計算の時間を短縮)することで計算の負荷をより軽減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、ダイカスト鋳造や射出成形などに用いられる金型の焼き付き発生部位を金型温度解析で予測する予測システムとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施形態の金型温度解析システムを示すブロック図である。
【図2】実施形態の処理を説明するフローチャートである。
【図3】分割領域におけるヒートサイクル中の一部分の温度変化を示す模式図である。
【図4】鋳造金型におけるヒートサイクル中の部位による温度変化を示す概念図である。
【符号の説明】
【0042】
10:金型温度解析システム 11:入力装置 12:処理部 13:記憶装置 14:メモリ 15:表示装置 F:受熱領域 J:受熱量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型モデルを受熱量の計算領域に分割する領域分割工程と、
不具合が発生しない上限温度である受熱量測定温度を設定する温度設定工程と、
前記計算領域の所定のタイムステップにおける温度を金型温度解析により計算する温度計算工程と、
該温度計算工程で得られた計算温度と前記受熱量測定温度とを比較して、該計算温度が該受熱量測定温度よりも高い場合に、該計算温度と該受熱量測定温度との温度差に基づいて前記計算領域の前記タイムステップにおける受熱量を計算する受熱量計算工程と、
該受熱量計算工程を全計算領域についてタイムステップ毎に繰り返す繰り返し計算工程と、
全タイムステップ終了後に前記タイムステップ毎の受熱量を積算し前記計算領域毎の総受熱量を算出する受熱量積算工程と、
得られた前記総受熱量を予め設定されている判定基準に従って色別して前記金型モデルに重ね合わせて前記計算領域毎に表示する色別表示工程と、を備えることを特徴とする金型温度解析方法。
【請求項2】
前記タイムステップn(t)における前記計算領域Zの前記計算温度をTjn(℃)、前記受熱量測定温度をT(℃)として、受熱量hjn(J)は下記の(式1)で与えられる請求項1に記載の金型温度解析方法。
(式1) hjn=1/2×(t−tn−1)×(qjn+qjn−1
ただし、qjn=金型の密度×領域体積×金型の比熱×(Tjn−T)である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−53094(P2009−53094A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221218(P2007−221218)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】