説明

金属−トロポロン錯体を無機層間に担持した抗レジオネラ属菌材料

【課題】生理活性機能の優れた持続性あるいは生理活性物質の徐放性とともに、耐熱性、耐候性、保水性、環境親和性を有する抗レジオネラ属菌材料、その製造方法及びそれを任意の形態に製剤加工した加工製品を提供する。
【解決手段】無機層状化合物を主原料とし、この無機層状化合物の層間に、層間イオンとして、生理活性機能を有する、1種又は2種以上の選択された金属イオン及びトロポロン類化合物を、金属−トロポロン錯体の形で陽イオン交換反応により層間挿入する、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料の製造方法、それにより得られる新規抗レジオネラ属菌材料、及びこれを用いた加工製品。
【効果】上記層間挿入により、250℃付近の熱処理後においても明確な抗レジオネラ属菌効果の発現が持続することを可能とする新しい抗レジオネラ属菌材料を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を無機層状化合物の層間に挿入、担持した抗レジオネラ属菌材料に関するものであり、更に詳しくは、無機層状化合物を主原料とし、その層間に、植物生長調節機能、病害虫防除機能、雑草防除機能、抗微生物機能等の所定の生理活性作用を有する金属−トロポロン錯体を挿入、担持させてその生理活性機能の徐放性を向上させた新規な生理活性機能を有する抗レジオネラ属菌材料、その製造方法、及び当該抗レジオネラ属菌材料を有効成分として含有する抗レジオネラ属菌加工製品に関するものである。
【0002】
本発明は、所定の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料を提供するものであり、特に、浴場施設や、我々の生活環境において大量の水を溜めて利用する場所、給湯設備、冷却塔、加湿装置、水景施設に好適に利用可能であり、更に優れた所定の生理活性機能の持続性や保水性、耐候性及び環境親和性を有し、生活環境や医療福祉環境、植物の組織培養、農業、植林をはじめとする林業全般、植物栽培などに応用可能な新規抗レジオネラ属菌剤を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
エネルギー利用の高効率化を図る目的で、多くの公衆浴場には、大型の循環式浴槽が設置されている。業務用の大型循環式浴槽には、濾過装置の前に殺菌装置が組み込まれ、濾過装置にレジオネラ属菌や大腸菌などの人に危害を及ぼす細菌類の繁殖を防ぐ配慮がなされている場合が多い。最近では、一般家庭向けの循環式浴槽(24時間風呂)も普及してきており、販売台数が伸張している。循環式浴槽は、浴槽水を濾過して再利用するため、有機物をろ過・分解して水質を長持ちさせる保存性と、それに伴う浴槽の清掃頻度低下と水資源の節約が、従来型の浴槽には無い利点として挙げられる。
【0004】
しかし、この循環式浴槽を設置した浴槽水中において、レジオネラ属菌(感染時の主要症状は肺炎等で、重症者は致死率が高い。)の高いレベルでの繁殖が高確率で観察される事例が学会等で報告されており、また、家庭用24時間風呂では、レジオネラ属菌に限らず、大腸菌等のその他の雑菌によると思われる細菌汚染等のクレームが各地の消費生活センター等に寄せられている。こうした点を踏まえ、厚生労働省では、平成11年に、「建築物等におけるレジオネラ症防止対策について」を、生活衛生局長より、各都道府県及び政令市市長に通知し、指導を行っている。
【0005】
家庭用循環式浴槽の場合、浴槽水に微生物が繁殖する原因として、(1)繁殖に適した水温、(2)低い加熱温度、(3)浴槽水の循環路長、(4)微生物を利用した生物浄化方式、等が挙げられる。入浴に快適な水温は、多くの微生物の繁殖・増殖に格好の条件となる。レジオネラ属菌は、70℃に加温すると短時間で死滅するが、家庭用循環式浴槽での加熱温度は40℃前後である。また、浴槽水の循環路には、浴槽水を運ぶ配管が長いものが多く、徹底的な清掃が困難となり、配管壁面には微生物が付着して生物膜(バイオフィルム)を形成して増殖し易くなる。このような場所にアメーバなどの原生動物が定着し、更にレジオネラ属菌が混入すると、レジオネラ属菌がアメーバを利用して爆発的に増殖する。
【0006】
レジオネラ属菌は、レジオネラ症と呼ばれる感染症を引き起こすことが知られている。レジオネラ属菌を含む微細な水滴(エアロゾル)を直接肺に吸入することや、菌を含む水を誤飲することにより感染し、発症する。症状には、急性肺炎に似たレジオネラ肺炎と、インフルエンザに似たポンティアック熱がある。こうしたレジオネラ属菌に対する被害は、上記の浴場施設だけではなく、我々の生活環境において、大量の水を溜めて利用する場所、給湯設備、冷却塔、加湿装置、水景施設等でも発生しており、深刻な問題となっている。
【0007】
このレジオネラ属菌による問題の対策として、循環水系に抗菌剤を注入して細菌類の増殖を抑制する方法や、装置内を機械的に清掃洗浄し、あるいは洗浄剤を用いて洗浄する方法などが用いられてきた。そして、従来から、レジオネラ属菌を防除する殺菌剤として、例えば、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンなどのイソチアゾロン系化合物や、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールなどのニトロアルコール系化合物等、種々の化合物が提案されている。しかし、これらの従来から提案されている薬剤は、実験室内では有効な殺菌性能を示しても、実際に稼働している水系に使用してみると、必ずしも十分な効果が得られないことが多かった。
【0008】
ヒノキチオールをはじめとするトロポロン類化合物は、台湾檜油、青森産檜葉油及びウェスタンレッドセダーオイル等に含有する結晶性物質である。この天然由来の化合物は、現在では、合成品としても入手可能であり、抗菌防カビ剤や養毛育毛剤、アロマテラピー用芳香剤、歯磨や食品添加物等の様々な分野で広く利用されている。しかし、このトロポロン類化合物は、融点が52−53℃と低いことと、昇華性や光分解性が高いために、上記効果を長期間持続させることが困難であった。そのため、こうした生理活性物質あるいは薬剤が徐々に供給されるように、それらを徐放性にした内服又は外用の製剤が、徐放薬、徐放錠、徐放製剤、持効性製剤等と称されて、盛んに用いられている。
【0009】
これまでに、薬剤を無機層状物質と組み合わせて、徐放性、耐熱性あるいは分散性を改善する製薬に関する幾つかの手段が報告されている。トロポロン類化合物であるヒノキチオールを含む製品として、先行技術文献には、例えば、ヒノキチオール−粘土複合体を含む成形品、ヒノキチオールを含む粘土複合物、ヒノキチオールを含む殺菌剤組成物、ヒノキチオールを混合した品質保存剤(特許文献1〜4参照)や、セラミックス中の金属イオンにヒノキチオールを配位させることにより得られるセラミックス系組成物(特許文献5〜6参照)等が報告されている。
【0010】
そこで、これらの手段について詳しくみてみると、例えば、層状粘土成分の層間空隙中に、ヒノキチオールをゲストとして導入させる手段(特許文献1参照)、が提案されている。しかし、これは、熱可塑性樹脂に配合して成形することが困難であったヒノキチオールを粘土と複合し、成形品としたものに過ぎない。
【0011】
また、例えば、ヒノキチオールを油陽性抗菌防黴剤として含む粘土複合物(特許文献2参照)、ヒノキチオールを含む殺菌剤組成物(特許文献3参照)、ヒノキチオールとニンニク成分や唐辛子成分を含む品質保存剤(特許文献4参照)、が提案されている。しかし、これらは、上記生理活性物質を混合するのみであり、徐放性については考慮されておらず、これらの成分を無機層状化合物の層間に導入するものではない。
【0012】
また、セラミックス中に含まれるカルシウムイオン又はマグネシウムイオンにヒノキチオールを配位させて得られるセラミックス系組成物(特許文献5参照)、が提案されている。しかし、得られたヒノキチオール包接セラミックスは、セラミックスであるトバモライト、ゾノトライト等の層間にヒノキチオールを取り込んだという相互関係が明らかとされておらず、また、組成物のヒノキチオール含有率が数%程度と極めて低い。
【0013】
更に、セラミックス中のカルシウムイオン又はマグネシウムイオンを他の金属イオンと交換し、導入された金属イオンにヒノキチオールを配位させて得られるヒノキチオール包接セラミックス(特許文献6参照)、が提案されている。しかし、これも、同様に、セラミックスである粘土鉱物の層間にヒノキチオールが挿入されたことを示す明確な実証はなされておらず、導入されたとされる金属イオン及びヒノキチオールの含有率も数%程度であり、積極的に粘土鉱物層間に生理活性物質を挿入するものではない。
【0014】
また、金属イオンと粘土鉱物を複合化させることにより得られる抗菌性消臭剤(特許文献7参照)、が提案されている。しかし、これは、金属イオン溶液を粘土鉱物に噴霧して添着させるのみであり、層間担持や徐放性については特に考慮されていない。また、粘土鉱物と有機系塩基性物質の複合体にヒノキチオールやフラボノイド類を担持させて得られる抗菌防カビ剤(特許文献8参照)、が提案されている。しかし、これは、油溶性であるヒノキチオールやフラボノイド類を、塩基性物質で複合化して親油性を賦与した粘土鉱物複合体に混練する手段を採用しており、抗菌防カビ剤の積極的な粘土層間への固定化を行うものではない。
【0015】
また、金属成分とヒノキチオール類成分を反応させた抗生物剤で、多孔質物質を処理して得られる材料(特許文献9参照)、が提案されている。しかし、これは、単に多孔質物質の表面に抗生物剤を固着させているのみであり、効果の持続性や徐放性について特に検討されていない。更に、ヒノキチオールの金属錯体を、多孔質表面に含浸処理を行うことで得られる材料(特許文献10参照)、が提案されている。しかし、これも、物理的な表面処理を行うに留まっており、化学的あるいは電気的な手法を用いた固定化を行うものではない。
【0016】
更に、温水循環型の24時間風呂等での使用を念頭に置いて、アメーバなどとの共存状態にあるレジオネラ属菌を制御する目的として、それらが共存している水系に対してヒノキチオール及びヒノキチオール金属錯体等を添加して制御する方法(特許文献11、12、13参照)が提案されている。しかし、これらは、単にレジオネラ属菌を殺菌するために水系中に薬剤を添加するのみであり、抗レジオネラ属活性効果の徐放性については全く考慮していない。
【0017】
また、レジオネラ属菌に対する殺菌剤として、ヒノキチオールをはじめとするトロポロン化合物の金属錯体の使用(特許文献14参照)が提案されているが、その抗菌効果のみに着目しており、効果の持続性について言及していない。
【0018】
更に、ヒノキチオールをはじめとするトロポロン骨格を有する有機物とフィトンチッドを、ゲル化剤並びに吸水性樹脂と混合して得られる抗レジオネラ属菌剤(特許文献15参照)が提案されている。これは、ゲル状物質内にヒノキチオール類を封じ込めることにより、ゲル状物質からのヒノキチオール類の拡散を狙ったものである。しかし、ゲル状物質の含水率を制御することが困難であるため、ヒノキチオール類の拡散速度を自在に制御することは困難であり、ただ有効成分を揮発させるのみに留まる。その上、光分解性の高いヒノキチオールを錯体化せずにそのままの状態でゲル状物質に混合しているため、抗レジオネラ属菌効果の持続性に問題がある。
【0019】
【特許文献1】特開2004−18661号公報
【特許文献2】特開2003−104719号公報
【特許文献3】特開平10−265408号公報
【特許文献4】特開平10−210958号公報
【特許文献5】特開平11−21201号公報
【特許文献6】特開平11−71215号公報
【特許文献7】特開2005−176673号公報
【特許文献8】特開2003−104719号公報
【特許文献9】特開平11−180809号公報
【特許文献10】特開平10−265508号公報
【特許文献11】特開平11−671号公報
【特許文献12】特開平11−57737号公報
【特許文献13】特開平11−319847号公報
【特許文献14】特開平11−29408号公報
【特許文献15】特開平11−228433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、有効成分の長期持続性、徐放性、耐熱性及び耐候性を兼備した機能性材料を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、層状粘土鉱物の層間に、所定の生理活性機能を有するトロポロン類化合物と抗レジオネラ属菌機能を有する金属イオンからなる有機金属錯体を層間挿入し、その層間からの有機金属錯体の放出量を制御することで、所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
すなわち、本発明は、低コストでかつ安全に、目的に応じた機能を賦与させることを可能とする、生理活性機能を有する抗レジオネラ属菌材料の製造方法、当該方法で製造される、生理活性機能の優れた持続性あるいは生理活性物質の徐放性とともに、耐熱性、耐候性、保水性、環境親和性を有する新規抗レジオネラ属菌材料、及びそれを有効成分として用いた抗レジオネラ菌加工製品を提供することを目的とするものである。また、本発明は、層間挿入の利点として、250℃付近の熱処理後においても明確な抗レジオネラ属効果の発現を可能とする耐熱性を賦与した抗レジオネラ属菌材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)金属−トロポロン錯体を無機層状化合物の層間に担持してその生理活性機能の徐放性を向上させた抗レジオネラ属菌材料であって、無機層状化合物を主原料とし、この無機層状化合物の層間に所定の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を挿入し、担持させた構造を有することを特徴とする金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料。
(2)生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する金属カチオンが、Cu、Zn、NiもしくはAl又は遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンである、前記(1)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料。
(3)生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する有機配位子が、ヒノキチオール、β−ドラブリン、α−ツヤプリシン、γ−ツヤプリシン及び4−アセチルトロポロン中から選ばれた少なくとも一種以上の有機配位子である、前記(1)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料。
(4)主原料とする無機層状化合物が、天然もしくは合成の層状粘土鉱物、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である、前記(1)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料。
(5)層状粘土鉱物が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトもしくはスティーブンサイトのスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は膨潤性雲母である雲母粘土鉱物もしくはフッ化雲母である、前記(4)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料。
(6)抗レジオネラ属菌材料が、図1又は図4の粉末X線回折図形を示す、前記(1)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料。
(7)前記(1)から(6)のいずれかに記載の抗レジオネラ属菌材料を製造する方法であって、無機層状化合物を主原料とし、この無機層状化合物の層間に所定の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を挿入して、その無機層状化合物の層間に存在する交換性陽イオンと、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を交換することにより、金属−トロポロン錯体を層間に担持してその生理活性機能の徐放性を向上させた抗レジオネラ属菌材料を製造することを特徴とする金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料の製造方法。
(8)生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する金属カチオンが、Cu、Zn、NiもしくはAl又は遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンである、前記(7)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料の製造方法。
(9)生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する有機配位子が、ヒノキチオール、β−ドラブリン、α−ツヤプリシン、γ−ツヤプリシン及び4−アセチルトロポロン中から選ばれた少なくとも一種以上の有機配位子である、前記(7)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料の製造方法。
(10)主原料とする無機層状化合物が、天然もしくは合成の層状粘土鉱物、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である、前記(7)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料の製造方法。
(11)層状粘土鉱物が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトもしくはスティーブンサイトのスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は膨潤性雲母である雲母粘土鉱物もしくはフッ化雲母である、前記(10)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料の製造方法。
(12)前記(1)から(6)のいずれかに記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料を有効成分として含有し、任意の形態に製剤加工されていることを特徴とする抗レジオネラ属菌加工製品。
【0023】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の生理活性機能を有する抗レジオネラ属菌材料では、特に、主原料として、無機層状化合物、例えば、層状粘土鉱物、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト等のスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母鉱物もしくはフッ化雲母等を用いている。本発明は、この無機層状化合物の層間に、Cu、Zn、NiもしくはAl等又は遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンと、トロポロン類化合物で形成された金属−トロポロン錯体を層間挿入、担持したことを特徴としている。
【0024】
本発明は、金属−トロポロン錯体を無機層状化合物の層間に挿入、担持することにより、その層間からの金属−トロポロン錯体の放出量を制御することを可能としている。本発明は、無機層状化合物の層間と金属−トロポロン錯体の静電的な相互作用により、抗レジオネラ属菌機能の優れた持続性あるいは抗レジオネラ属菌物質の徐放性とともに、耐熱性、耐候性、保水性、環境親和性を有する新規抗レジオネラ属菌材料及びそれを用いた抗レジオネラ菌加工製品を製造し、提供することを可能とするものである。
【0025】
本発明の主原料の無機層状化合物について詳しく説明する。粘土鉱物は、無機結晶物質であり、組成や構造によって様々な種類が存在するが、その基本構造は、どれも類似している。ここでは、これらの粘土鉱物の構造について説明する。粘土鉱物は一部の例外を除いて全て層状構造を有している。層状構造とは、無機結晶層が多数積み重なった積層構造である。
【0026】
例えば、ベントナイトの主成分であるモンモリロナイトを代表例として説明すると、モンモリロナイトは、層状ケイ酸塩鉱物の1種であるスメクタイト族に分類される粘土鉱物である。ケイ酸塩鉱物の結晶構造は、イオン半径の大きい酸素原子の数と配置により決まる。ケイ酸塩鉱物の基本構造は、1個のケイ酸原子を中心とした四面体の各頂点に酸素原子を有する正四面体である。大部分のケイ酸塩鉱物は、この正四面体の3個の原子を隣接した各々の四面体と共有することにより、1次元的な六角網目状の層を形成している。
【0027】
この四面体層の他に、O2−やOHなどの陰イオンが八面体の各頂点に各々1個ずつ位置し、その中心にAl3+、Mg2+などの陽イオンが存在し、各頂点の陰イオンが隣接した八面体同士を結びつけ、二次元的な網状をなす八面体層がある。これは、Mg、Alなどの原子を中心とし、酸素原子が六配位している八面体と、その八面体が稜共有(酸素原子と酸素原子を結んだ辺を共有している)によって二次元的な網目状を形成している八面体層である。
【0028】
これらの四面体層と八面体層との結びつきは、各層が1枚ずつの二層構造(1:1型)、二枚の四面体層の間に八面体層が挟まった構造(2:1型)、2:1型の層間域に八面体層が位置する構造(2:1:1型)、等があり、四面体層と八面体層の様々な組み合わせ方で、一組の単位層を形成している。
【0029】
モンモリロナイトの結晶構造は、ケイ酸四面体層−アルミナ八面体層−ケイ酸四面体層の3層が積み重なっており(2:1型)、その単位層は、厚さ約10Å(1nm)、広がり0.1〜1μmという極めて薄い板状になっている。アルミナ八面体層の中心原子であるAl3+の1部がMg2+に置換されることで陽電荷不足となり、各結晶層自体は負に帯電しているが、結晶層間にNa、K、Ca2+、Mg2+等の陽イオンを挟むことで電荷不足を中和し、モンモリロナイトは、安定状態となる。
【0030】
そのため、モンモリロナイトは結晶層が何層も重なり合った状態で存在しており、層と層の間には、陽イオンと空隙が存在している。層表面の負電荷及び層間陽イオンが様々な作用を起こすことによって、モンモリロナイトの特異的性質は発揮される。モンモリロナイト単位層表面の負電荷と層間陽イオンとの結合力は弱いため、他のイオンを含む溶液と接触すると、層間陽イオンと液中の陽イオンは瞬間的に交換反応を起こし、陽イオン交換反応が生じる。
【0031】
水中に放出された陽イオンの量を測定すれば、モンモリロナイトの反応関与電荷量(陽イオン交換容量:CEC)を知ることができる。陽イオン交換容量は、溶液のpHや濃度によって変わり、モンモリロナイトは、pH6以上になると陽イオン交換容量が増加することが知られている。モンモリロナイトは層状構造を成しているため、極めて大きな表面積を有している。その表面上において、層表面の酸素原子や水酸基との水素結合、層間において、層間負電荷や層間陽イオンとの静電気的結合などが生じ、吸着能を発揮し、それは、特に極性分子に対して作用しやすい。
【0032】
本発明において、無機層状化合物とは、層間に交換性陽イオンを有する層状ケイ酸塩鉱物を意味する。層状ケイ酸塩としては、特に限定されないが、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト等のスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、膨潤性雲母として雲母粘土鉱物もしくはフッ化雲母等が例示される。層状ケイ酸塩及び膨潤性雲母は、天然物でも合成物であっても良く、これらの1種又は2種以上を併用して用いることも適宜可能である。
【0033】
このような層状ケイ酸塩の中でも、スメクタイト族のモンモリロナイト及び膨潤性雲母が好ましい。上記層状ケイ酸塩及び膨潤性雲母は、水と接触すると、水を吸着して膨らむ(膨潤する)作用があり、これは、層間陽イオンと水分子との相互作用によって生じる。上記層状ケイ酸塩及び膨潤性雲母の単位層表面の負電荷と層間陽イオンとの結合力は、層間陽イオンと水分子の相互作用エネルギーより弱いため、層間陽イオンが水分子を引き寄せる力により層間が押し広げられる。この層間陽イオンと水分子の相互作用により層間挿入反応が容易に進行しやすくなる。
【0034】
三次元結晶層が負電荷を帯びているモンモリロナイトに代表されるスメクタイト族粘土鉱物や膨潤性雲母等は、イオン交換性、膨潤性、有機あるいは無機複合体形成能等の化学的活性が顕著であり、これらの交換反応が自然界の物質循環に果たす役割は大きく、また、粘土鉱物や膨潤性雲母の工業的利用面でもイオン交換能は直接的間接的に用いられている。粘土鉱物や膨潤性雲母と様々な物質との複合体の形成は、極性分子の吸着や、イオン交換能等を含めた粘土層内表面による吸着現象である。
【0035】
代表的な複合体は、粘土と各種の有機化合物との複合体であり、スメクタイト族粘土鉱物や膨潤性雲母等の利用をはじめ、自然現象の解釈等にも広く利用されている。すなわち、モンモリロナイト以外の、イオン交換能を有するスメクタイト族粘土鉱物や、イオン交換能を有する膨潤性雲母等を本発明に用いた場合でも、本発明による金属−トロポロン錯体を無機層間に担持した抗レジオネラ属菌材料を、イオン交換反応を用いて形成し得ることは可能であり、それらは同様に実施が可能である。
【0036】
層状ケイ酸塩の層間に存在する交換性陽イオンとは、結晶表面上のナトリウム、カルシウム等のイオンであり、これらのイオンは、カチオン性物質に対してイオン交換性を有するので、カチオン性を有する種々の物質を層状ケイ酸塩の層間に挿入することができる。層状ケイ酸塩の陽イオン交換容量(CEC)は、特に限定されないが、CEC=30〜400ミリ等量/100gであることが好ましい。
【0037】
30ミリ等量/100g未満であると、陽イオン交換によって結晶層間に挿入できる生理活性物質の量が少なくなるので、生理活性機能の発現と持続性が充分に発揮できない可能性がある。一方、400ミリ等量/100gを超えると、層状ケイ酸塩の層間の結合力が強固となり、生理活性物質の層間挿入が困難になることがある。
【0038】
無機層状化合物は、市販されているものを使用することができ、市販されているスメクタイト系層状ケイ酸塩としては、例えば、「クニピアシリーズ」、「スメクトンシリーズ」(クニミネ工業株式会社)や、市販されている膨潤性マイカやスメクタイト系層状ケイ酸塩としては、例えば、「TNシリーズ」、「TSシリーズ」、「NHTシリーズ」(トピー工業株式会社)、「ルーセンタイトシリーズ」「ミクロマイカシリーズ」「ソマシフシリーズ」(コープケミカル株式会社)等を挙げることができる。いずれの市販品も、結晶構造、陽イオン交換容量や比表面積等その性質に応じて種々のグレードがあるが、本発明では、いずれも用いることができる。
【0039】
本発明において、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体については、錯体を形成する有機配位子であるトロポロン系化合物として、例えば、ヒノキチオール、β−ドラブリン、α−ツヤプリシン、γ−ツヤプリシン及び4−アセチルトロポロン等が例示される。錯体を形成する中心金属としては、Cu、Zn、NiもしくはAl等又は遷移金属の群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンのオキシ塩化物、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩酸塩等の水和物等が例示される。
【0040】
本発明において、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体は、無機層状化合物の層間に物理的あるいは静電的に保持されている。すなわち、無機層状化合物の層間は、一般には、陽イオンが静電的に保持されているが、本発明においては、層間に生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体が保持されている。
【0041】
本発明の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間に取り込んだ抗レジオネラ属菌材料を製造するには、例えば、次のような方法によることができる。先ず、無機層状化合物を任意の重量分計量する。これに脱イオン水を適量添加し、充分に撹拌を行い、無機層状化合物の重量濃度が0.1〜10wt%程度となる無機層状化合物懸濁液を調製する。次に、使用する無機層状化合物の陽イオン交換容量に対し、0.1〜3倍量分の脱イオン水あるいは有機溶媒の金属塩溶液を調製する。
【0042】
一方で、この陽イオン交換容量当量に対し、0.3〜9倍量分のトロポロン系化合物を秤量し、脱イオン水あるいは有機溶媒に溶解し、トロポロン系化合物溶液を得る。この時使用する有機溶媒は、金属塩あるいはトロポロン系化合物が溶解すれば良く、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール及びアセトン等が使用できる。次に、金属塩溶液とトロポロン系化合物溶液を充分に混合撹拌し、金属−トロポロン錯体を得る。必要であれば、加熱により、錯体形成反応を促進しても良い。
【0043】
合成された金属−トロポロン錯体は、使用する金属溶液や溶媒の種類により、溶液状態あるいは懸濁液状態として得ることができる。この金属−トロポロン錯体をあらかじめ分散させておいた無機層状化合物懸濁液中に投入し、撹拌しながら陽イオン交換反応を行うことで、金属−トロポロン錯体を無機層状化合物の層間に挿入する。交換反応速度は、混合した上記懸濁液を加熱することで、早めることができる。反応は、懸濁液温度が5℃付近からでも進行するが、5〜90℃付近までの加熱を行い、交換反応を円滑に進行させることが望ましい。反応時間は、設定した温度条件によって変化するが、0.5〜72時間程度が適当である。
【0044】
使用する中心金属イオンや有機配位子の種類によって、最適反応温度や反応時間は勿論異なる。加熱反応中には、反応系の水分が蒸発しないように、反応容器上部に水冷の冷却管を装備するのが好ましい。反応終了後、固液を分離洗浄して金属−トロポロン錯体を層間に取り込んだ抗レジオネラ属菌材料を得ることができる。乾燥方法は、特に限定されるものではないが、凍結乾燥、噴霧乾燥あるいは加熱乾燥等が挙げられる。更に、金属−トロポロン錯体を層間に取り込んだ抗レジオネラ属菌材料懸濁液を平面に展開・乾燥し、キャスト膜として得ることもできる。
【0045】
本発明の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間に担持した抗レジオネラ属菌材料は、そのままでの使用も勿論可能であるが、軟膏剤、クリーム剤、乳剤、ペレット等の、散布又は塗布に適した形態に製剤加工することができる。これらの加工製品を製造する方法は、特に限定されず、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間に担持した抗レジオネラ属菌材料を油性基剤中に混合溶解する方法や、一般に用いられる方法により適宜製造することができる。
【0046】
本発明の生理活性機能を有する抗レジオネラ属菌材料は、無機層間に所定の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体がイオン化して存在している。そのため、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体の系外への徐放速度を制御できるため、抗レジオネラ属菌効果の持続性が極めて高い。目的や使用環境に応じて、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間に担持した抗レジオネラ属菌材料と、他の有機あるいは無機材料と混合して成形体を形成して使用することも可能である。
【0047】
本発明の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間に担持した抗レジオネラ属菌材料は、無機層間に金属−トロポロン錯体が、静電的に固定化されて存在している。そのため、本発明の抗レジオネラ属菌材料の合成に使用する無機層状化合物を、陽イオン交換容量や結晶構造、比表面積等から適宜選択して、層の荷電量と電荷分布割合を考慮することにより、層間内における生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体の保有量や、層間内における生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体の保持力を制御することができる。
【0048】
すなわち、本発明では、上記因子を選択、制御することで、生理活性作用を有する金属−トロポロン錯体が徐々に放たれて行く徐放速度を制御することが可能であるから、生理活性効果の程度及び持続性を制御することができ、また、持続性を極めて長くすることもできる。目的や使用環境に応じて、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料と、他の有機あるいは無機材料と混合して成形体を形成して使用することも可能である。
【0049】
従来、層間支柱を有する層状粘土成分と、その層間空隙中にゲストとしてヒノキチオールを導入したヒノキチオール−粘土複合体や、塩基交換能を有する膨潤性粘土に抗菌防黴剤及び塩基性物質を含有させた粘土複合物、ヒノキチオール等の殺菌剤と水膨潤性粘土鉱物との複合体、セラミックス中に含まれるカルシウムイオン又はマグネシウムイオンにヒノキチオールを配位、包接させたセラミックス系組成物等が提案されている。しかし、それらは、ヒノキチオール単体を粘土ないしセラミックスに混合又は配位させたものであり、その徐放効果は限られたものであり、高い徐放性を付与することは困難であった。
【0050】
これに対して、本発明では、主原料として、層間に交換性陽イオンを有し、所定の陽イオン交換容量(CEC)を有する無機層状化合物を用いること、無機層状化合物の層間に生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を挿入して、そのカチオン交換性を利用してこの無機層状化合物の層間に存在する交換性陽イオンと、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を交換すること、それにより、トロポロン類化合物を金属−トロポロン錯体の形で層間に担持させること、が重要であり、それにより、金属−トロポロン錯体を無機層状化合物の層間に安定に担持させて、著しく徐放性を向上させた有機無機複合材料を合成することを実現可能としたものである。
【0051】
本発明は、天然由来成分のトロポロン化合物と抗菌性金属イオンを錯体化し、静電的に粘土層間に固定化する技術と、高効率の生理活性効果の確認技術を確立した点において新規である。これまでのトロポロン化合物に関する既報特許のほとんどは、当該化合物の無機多孔質担体表面への物理的な吸着あるいは単純な混練手段を採用するに留まり、化学的手法による層間担持や徐放性制御について考慮されていない。生理活性物質は、この陽イオン交換反応を利用することで粘土層間に固定化されるため、生理活性機能の制御された持続性(生理活性物質の徐放性)とともに、耐熱・耐候・環境親和性の向上や、他構造部材との複合化による加工製品への展開等が達成される。
【0052】
この粘土鉱物の層間内に金属−トロポロン錯体を担持した試剤は、トロポロン化合物の生理活性機能のみならず、金属イオン由来の生理活性機能をも同時に発現させることができるため、トロポロン化合物と結合させる金属イオンを適宜選択することで、抗菌能力や防カビ能力を自在に制御することが可能となる。更に、粘土鉱物層間内に陽イオン交換反応により担持できる金属錯体含有量を変化させることが可能であるため、使用目的に応じた試剤の材料設計が可能となる。すなわち、本発明では、使用環境中において問題視されていた生理活性成分の残効性、徐放性を改善し、必要とされる活性成分の施用量を制御し、かつ天候や利用形態等の外因性の環境変化に対して安定な活性を実現可能となるため、本発明の抗レジオネラ属菌材料は、生活、環境、農業及び医療福祉等の広範囲の分野での応用が期待される。
【発明の効果】
【0053】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した新規抗レジオネラ属菌材料、及びそれを用いた加工製品を提供することができる。
(2)本発明の抗レジオネラ属菌材料は、特に、浴場施設や、我々の生活環境において大量の水を溜めて利用する場所、給湯設備、冷却塔、加湿装置、水景施設に利用可能であり、更に優れた生理活性機能、例えば、病害虫防除機能、雑草防除機能、抗微生物機能等の持続性や保水性、耐候性及び環境親和性を有し、生活環境や医療福祉環境、植物の組織培養、農業、植林をはじめとする林業全般、植物栽培などに応用可能である。
(3)本発明の抗レジオネラ属菌材料の層間では、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体が、ナノメートルオーダーで均一に分散しているため、抗レジオネラ属菌材料を培地表面あるいは田畑などに使用する場合でも、均一に散布又は塗布し、培地あるいは土などと均一に混合できるので、植物生長調節機能、病害虫防除機能、雑草防除機能、抗微生物機能等の生理活性作用を有効に及ぼすことができる。
(4)本発明の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料は、そのままでの使用も勿論可能であるが、活性機能を有する有機物や金属イオン、有機金属錯体の徐放速度を制御できるため、抗レジオネラ属菌効果の持続性が極めて高く、例えば、任意の形態に製剤加工した加工製品とすることもできる。
(5)低コストでかつ安全に、目的に応じた機能を賦与させた加工製品とすることができる。
(6)加工製品を製造する方法は、特に限定されず、生理活性機能を有する抗レジオネラ属菌材料を油性基剤中に混合溶解する方法や、一般に用いられている方法により製造することができる。
(7)加工製品は、使用環境に応じた合目的な設計が可能であるため、広範な産業分野での利用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0055】
(1)銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料の製造
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイトゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量の塩化銅2水和物水溶液と、CECに対して2倍量のヒノキチオール(C1012)エタノール溶液を混合撹拌して、黄緑色の銅−ヒノキチオール錯体を得た。
【0056】
この錯体を、あらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、40℃で撹拌しながら48時間保持して交換反応を行った。反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、40℃電気乾燥機中で乾燥させ、銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した生理活性機能を有する粉末状の抗レジオネラ属菌材料を得た。
【0057】
(2)銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料の確認試験
得られた銅−ヒノキチオール/粘土複合体は、原料モンモリロナイトよりも疎水性が高く、有機金属錯体の層間挿入が行われたことが示唆された。図1に、得られた銅−ヒノキチオール錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料の粉末X線回折の結果を示す。この抗レジオネラ属菌材料の粉末X線回折の結果より、低角度側に2.28nmの(001)回折線が確認された。この時の層間内間隔は1.32nm程度であり、この層間距離は、銅−ヒノキチオール錯体が、銅を中心としてその周囲を包囲する配位子である2分子のヒノキチオールの七員環が、層平面に対して縦に直立している距離にほぼ相当する。
【0058】
更にまた、低角度側に1.31nmの回折線が確認されるが、これは、銅−ヒノキチオール錯体が層間内で平行に配列している距離にほぼ等しい。この系においては、銅−ヒノキチオール錯体は、2種類の立体配置でモンモリロナイトの層間に存在していることが判る。銅−ヒノキチオール錯体は、平面正方形の立体配座を示すが、trans−型異性体は、広い抗菌スペクトルを示すことが知られている。
【0059】
比較のために、対照試料として図1に示した、無機層間にNaのみを担持した原料モンモリロナイトの粉末X線回折の結果より、モンモリロナイトの回折図形からは、粘土鉱物特有の回折ピークが多数確認された。基底面間隔とそれに起因する(00l)の回折線と(0kl)回折線が確認され、(001)回折線から計算された基底面間隔値は水一分子層を含む1.24nmであった。層間内の水分子のサイズを考慮すると、粘土層一層の厚さは0.96nm程度となることが判った。
【0060】
得られた銅−ヒノキチオール/粘土複合体について、CHNコーダーを用いた炭素含有率測定を行い、使用したモンモリロナイトの陽イオン交換容量に対して、挿入された銅−ヒノキチール錯体の交換率を計算した。その結果、交換性ナトリウムイオンとの交換率は80%以上と見積もられ、目的とする抗レジオネラ属菌材料が合成されたことが確認された。
【0061】
図2に、原料モンモリロナイトの赤外吸収スペクトルを示す。原料モンモリロナイトからは粘土鉱物特有の吸収である、3624cm−1に八面体のAl−OH伸縮による吸収、3434cm−1に層間水分子のOH伸縮振動による吸収が見られた。1639cm−1の吸収も吸着水のOH伸縮振動による。また、1038cm−1には四面体Si−O−Si伸縮振動、914cm−1には八面体Al−OH変角振動、及び847cm−1には(Al、Mg)−OH変角振動に帰属する強い吸収が確認された。更に、520、467cm−1にはSi−O−Al変角振動とSi−O−Mg変角振動がそれぞれ確認された。
【0062】
図3に、得られた銅−ヒノキチオール錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料と錯体の配位子であるヒノキチオールの赤外吸収スペクトルの結果を示した。銅−ヒノキチオール担持モンモリロナイトの赤外吸収スペクトルの結果より、2965、2873cm−1にCH基及び七員環のC−H伸縮振動、1593、1513cm−1の七員環分子骨格に帰属するC=C伸縮振動が存在し、1434及び1356cm−1にCH基及び七員環のC−H変角振動、また、812、741cm−1には芳香環C−H変角振動による吸収が確認された。上記複合体の系についても、挿入有機物に特有の吸収と、それらの層間担持に伴う若干のシフトが確認され、これらのことからも、目的とする抗レジオネラ属菌材料が合成されたことが確認された。
【実施例2】
【0063】
(アルミニウム−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料の製造)
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイトゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量の塩化アルミニウム6水和物水溶液と、CECに対して3倍量のヒノキチオール(C1012)エタノール溶液を混合撹拌して、白色のアルミニウム−ヒノキチオール錯体を得た。
【0064】
この錯体を、あらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、40℃で撹拌しながら48時間保持して交換反応を行った。反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、40℃電気乾燥機中で乾燥させ、粉末状のアルミニウム−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した生理活性機能を有する抗レジオネラ属菌材料を得た。
【実施例3】
【0065】
(亜鉛−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料の製造)
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイトゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量の硝酸亜鉛6水和物水溶液と、CECに対して2倍量のヒノキチオール(C1012)エタノール溶液を混合撹拌して、亜鉛−ヒノキチオール錯体を得た。
【0066】
この錯体を、あらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、40℃で撹拌しながら48時間保持して交換反応を行った。反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、40℃電気乾燥機中で乾燥させ、亜鉛−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した生理活性機能を有する粉末状の抗レジオネラ属菌材料を得た。
【実施例4】
【0067】
(1)ニッケル−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料の製造
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイトゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量の硝酸ニッケル6水和物水溶液と、CECに対して3倍量のヒノキチオール(C1012)エタノール溶液を混合撹拌して、黄色のニッケル−ヒノキチオール錯体を得た。
【0068】
この錯体を、あらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、40℃で撹拌しながら48時間保持して交換反応を行った。反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、40℃電気乾燥機中で乾燥させ、ニッケル−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した生理活性機能を有する粉末状の抗レジオネラ属菌材料を得た。
【0069】
(2)実施例2、3及び4のアルミニウム、亜鉛及びニッケル−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料の確認試験
上記実施例2、3及び4のアルミニウム、亜鉛及びニッケル−ヒノキチオール錯体を層間担持した抗菌抗レジオネラ属菌材料の粉末X線回折を行った。図4に、その結果を示す。粉末X線回折の結果より、モンモリロナイトの基底面間隔値は、層間のナトリウムイオンに水分子が配位した水分子1層分にほぼ相当する1.24nmであり、(00l)と(hk0)回折線が確認された。
【0070】
上記金属−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイト懸濁液に投入すると、凝集塩効果による相分離が観察されたことにより、層間挿入反応が生じたことが示唆された。アルミニウム−ヒノキチオール錯体を挿入した試料は、層間距離が1.59nmにまで拡大した。この時の層間内距離は0.63nmであり、ヒノキチオールの7員環が層内に対して平行に2層配列した距離にほぼ等しい。また、長周期構造に起因する(003)回折線と原料モンモリロナイトの(hk0)回折線も確認された。
【0071】
亜鉛−ヒノキチオール錯体を挿入した試料についても、同様の挙動が確認され、基底面間隔値は1.52nmであった。ニッケル−ヒノキチオール錯体を反応させた系では、基底面間隔値が1.51nmとなり、層構造に起因する(003)と(005)回折線も確認された。
【0072】
合成された複合体の基底面間隔値は、いずれも1.5nm程度であり、使用した遷移金属イオンの水和半径は、およそ水2分子に相当することを考えると、配位子が層間に対して(屈曲しながら)平行に配列した距離とほぼ等しい。この基底面間隔値は、金属錯体との反応前のモンモリロナイトの基底面間隔値である0.96nmと比較して、明らかに拡大しているため、これらの金属錯体が、モンモリロナイトの層間に挿入されたことが判明した。
【実施例5】
【0073】
(銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料の抗レジオネラ属菌試験)
抗レジオネラ属菌試験のための供試菌として、レジオネラ属菌の1種であるレジオネラニューモフィラ株(Legionella pneumophila ATCC(アメリカンタイプカルチャーコレクション)33152)を用いた。L字型試験管に10mlの滅菌リン酸緩衝生理食塩水(pH7.0±0.1)を用いて最終濃度50、25、12.5、7.25、3.12、及び1.56mg/lの銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料の懸濁液を調製した。
【0074】
約10CFU/mlに調製したレジオネラ属菌0.1mlをそれぞれの管に接種して、30℃、24時間、100rpmで振とう培養した後に、各管の上清50μlを新しいBCYEα培地に移植して、37℃、72時間培養した。培養後、菌の発育を阻止した最小濃度を最小殺菌濃度(MBC)と判定した。対照試料として、モンモリロナイト層間に銅イオンのみを担持した試剤についても同様の試験を行った。
【0075】
【表1】

【0076】
表1から明らかなように、銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料は、明確な抗レジオネラ属菌効果を示し、銅イオンのみを担持した試剤と比較して高い抗レジオネラ属菌活性を示すことが明らかとなった。
【実施例6】
【0077】
(銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料の徐放性試験)
レジオネラ属菌の1種であるレジオネラニューモフィラ株(Legionella pneumophila ATCC33152)を用いて、徐放性試験を行った。銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料は、100.0mgを秤量し、10mlの5%DMSO溶液に分散させて試験原液(10000ppm)を調製した。試験原液をローターミックス(ATR)を用いて20rpmの速度で常時回転させた。調製後、1、20、40、及び50日目にサンプルの2mlを用いて抗菌活性を測定した。試験方法は段落0073、0074に記載したとおりで、20日目以降は、試料に対して活性測定の1日前に洗浄操作を行った。洗浄操作は、試験原液の2mlを15000rpm、5分間遠心分離した後、上澄みを除去し滅菌蒸留水に再懸濁する操作を3回繰り返し、1日間徐放させた後に抗菌活性試験に供した。
【0078】
【表2】

【0079】
表2から明らかなように、銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料は、徐放期間50日まで12.5ppmの濃度で抗レジオネラ属菌活性を示すことが明らかとなった。20日目以降で、洗浄操作時の上澄みの中にヒノキチオールと銅イオンが有効量残留していることを確認しており、活性中心は良好な錯体を形成している銅−ヒノキチオールであることが示唆された。
【実施例7】
【0080】
(銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料の耐洗浄試験)
レジオネラ属菌の1種であるレジオネラニューモフィラ株(Legionella pneumophila ATCC33152)を用いて、耐洗浄試験を行った。銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料は、100.0mgを秤量し、10mlの5%DMSO溶液に分散させて試験原液(10000ppm)を調製した。(1)調製した懸濁液をローターミックス(ATR)を用いて20rpmの速度で1日間以上撹拌し、(2)この懸濁液を3000rpm10分遠心後に上澄みを除去し20%DMSO溶液で再懸濁し、(3)同様に、遠心後の上澄みを除去し滅菌蒸留水で再々懸濁し、(4)ローターミックス(ATR)を用いて、20rpmの速度で1日間以上撹拌した。(1)〜(4)の操作を1洗浄操作とし、1、3、5、10、15及び20洗浄操作後の懸濁液を試料として採取し、抗菌活性試験に供した。
【0081】
【表3】

【0082】
表3から明らかなように、銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料は、洗浄回数20回後でも25ppmの濃度で抗レジオネラ属菌活性を示すことが明らかとなった。
【実施例8】
【0083】
(銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料の温泉水を用いた抗レジオネラ属菌試験)
検水として、温泉(泉質は、ナトリウム塩化物・炭酸水素塩泉)の泉源から得られた湧出水(以下、泉源水という)及び泉源水を一時的に貯湯させておくタンクから得られた貯湯水(以下、貯湯タンク水という)を用いた。これらの検水は、予め新版レジオネラ症防止指針に基づくレジオネラ属菌検査を行い、検出限界以下(10CFU/100ml未満)であることを確かめている。
【0084】
抗レジオネラ属菌試験のための供試菌として、レジオネラ属菌の一種であるレジオネラニューモフィラ株(Legionella pneumophila ATCC(アメリカンタイプカルチャーコレクション)33152)を用いた。10mlのL字型試験管に、泉源水及び貯湯タンク水を用いて、最終濃度50、25、12.5、6.25、3.12、及び1.56mg/lの銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料の懸濁液を調製した。
【0085】
約10CFU/mlに調製したレジオネラ属菌0.1mlをそれぞれの管に接種して、30℃、24時間、100rpmで振とう培養した後、更に、各管の上清50μlを新しいBCYEα培地に移植して、37℃、48時間培養した。培養後、菌の発育を阻止した最小濃度を最小殺菌濃度(MBC)と判定した。
【0086】
【表4】

【0087】
表4から明らかなように、銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料は、温泉水中にあっても明確な抗レジオネラ属菌効果を示し、滅菌リン酸緩衝生理食塩水を用いたときと変わらない強い抗レジオネラ属菌活性を示すことが明らかとなった。
【実施例9】
【0088】
(銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料の温泉水中持続性試験1)
レジオネラ属菌の一種であるレジオネラニューモフィラ株(Legionella pneumophila ATCC33152)を用いて、抗レジオネラ属菌材料の温泉水中殺菌力持続性試験を行った。泉源水及び貯湯タンク水それぞれに、銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料を添加して、最終濃度50mg/lの試験原液を3lずつ調製し、マグネチックスターラーを用いて、約100rpmの速度で常時回転させた。
【0089】
調製日からの経過日の、1、3、4、8、10、11、15、17、24、30、32、36、39、43、46、50、52、57、64、67、及び95日目の試験原液における抗レジオネラ属菌材料の抗菌活性を測定した。それぞれの経過日に、試験原液の10mlをL字型試験管に移し、レジオネラ属菌を接種して約10CFU/mlの菌液として、30℃、24時間、100rpmで振とう培養した。更に、各管の上清50μlを新しいBCYEα培地に移植して、37℃、48時間培養した。培養後、菌の発育が認められなかった場合に、殺菌力ありと判定した。
【0090】
【表5】

【0091】
表中の+は、10CFU/mLのレジオネラ属菌を、24時間の各試験原液との接触により、殺菌力試験の検出限界以下(20CFU/ml未満)まで減数させたことを示す。表5から明らかなように、銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料は、各種温泉水の中で、95日まで50ppmの濃度で抗レジオネラ属菌活性を示すことが明らかとなった。
【実施例10】
【0092】
(銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料の温泉水中持続性試験2)
レジオネラ属菌の一種であるレジオネラニューモフィラ株(Legionella pneumophila ATCC33152)を用いて、抗レジオネラ属菌材料の温泉水中殺菌力持続性試験を行った。泉源水及び貯湯タンク水それぞれに、銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料を添加して最終濃度50mg/lの試験原液を3lずつ調製し、マグネチックスターラーを用いて、約100rpmの速度で常時回転させて、調製日からの経過日の、64、及び95日目の試験原液における抗レジオネラ属菌材料の抗菌活性を測定した。
【0093】
それぞれの経過日に、試験原液の500mlを滅菌採水瓶に移して試験液とし、レジオネラ属菌を接種して約10CFU/mlの菌液を調製して、30℃、24時間、100rpmで振とう培養した。培養後の試験液について、新版レジオネラ症防止指針に準拠してレジオネラ属菌検査を行った。
【0094】
すなわち、試験液を、直径47mm、孔径0.45μmのポリカーボネートメンブランフィルター(ミリポア)で吸引ろ過した後、滅菌蒸留水5mlに浮遊させて十分に撹拌し、50℃、20分間加温した上清の0.1mlをGVPC培地(日本ビオメリュー)に接種した。35℃で数日間好気培養し、レジオネラ属菌を疑うコロニーが検出された場合は、システイン要求性試験、血清型別試験及びPCR試験を用いて同定した。最終的に10日間まで培養して、レジオネラ属菌の発育を認めなかったものを検出限界以下とし、殺菌力ありと判定した。
【0095】
【表6】

【0096】
表中の++は、10CFU/mLのレジオネラ属菌を、24時間の各試験原液との接触によりレジオネラ属菌検査の検出限界以下(10CFU/100ml未満)まで減数させたことを示す。表6から明らかなように、銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料は、95日まで、各種温泉水中50ppmの濃度で、1mlあたり約10万個存在するレジオネラ属菌を一般に用いられているレジオネラ属菌検査の検出限界以下(10CFU/100ml未満)まで減数させるほどの強い抗レジオネラ属菌活性を示すことが明らかとなった。
【実施例11】
【0097】
(銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料の熱処理後の抗菌試験)
銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ材料の耐熱性を検討するために、熱処理後の試料についての抗菌試験を行った。実施例1で得られた銅−ヒノキチオール粘土複合体について、電気炉を用いた熱処理(空気中、昇温速度10℃/分、保持1時間)を行った。処理温度は、それぞれ200、250、300、400及び500℃とした。
【0098】
各熱処理温度にて得られた試料について、粉末X線回折による分析を行った。図5に、その結果を示す。粉末X線回折の結果より、未処理試料からは、2.28nmの基底面間隔値を示す回折線と、それに隣接して層構造に起因すると思われる回折線が確認された。配位子であるヒノキチオールは、銅イオンと2:1型の平面錯体を形成することが知られており、層間に対し直立して配置していると仮定すると、基底面間隔値は2.45nmとなる。
【0099】
(001)回折線は、250℃処理まで2.2nm程度の数値を示していたが、300℃処理で1.46nmまで低下した。これに伴い、(002)と思われる回折線も高角度側にシフトした。400〜500℃処理では、層内有機物の離脱に伴い、1.3nmまで減少したが、中心化学種である銅の酸化還元状態は、X線的には確認されなかった。
【0100】
抗レジオネラ属菌試験のための供試菌として、レジオネラ属菌の1種であるレジオネラニューモフィラ株(Legionella pneumophila ATCC(アメリカンタイプカルチャーコレクション)33152)を用いた。L字型試験管に10mlの滅菌リン酸緩衝生理食塩水(pH7.0±0.1)を用いて、最終濃度50、25、12.5、7.25、3.12、及び1.56mg/lの銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料の懸濁液を調製した。
【0101】
約10CFU/mlに調製したレジオネラ属菌0.1mlをそれぞれの管に接種して、30℃、24時間、100rpmで振とう培養した後に、各管の上清50μlを新しいBCYEα培地に移植して、37℃、72時間培養した。培養後、菌の発育を阻止した最小濃度を最小殺菌濃度(MBC)と判定した。
【0102】
【表7】

【0103】
表7から明らかなように、銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料は、レジオネラ属菌に対して、熱処理温度が300℃まで、好ましくは250℃まで、明確な抗レジオネラ属菌活性を示すことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上詳述したように、本発明は、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料に係るものであり、本発明により、浴場施設や、我々の生活環境において大量の水を溜めて利用する場所、給湯設備、冷却塔、加湿装置、水景施設に利用可能であり、更に、優れた生理活性機能、例えば、病害虫防除機能、雑草防除機能、抗微生物機能等の持続性や保水性、環境親和性を有し、生活環境や医療福祉環境、植物の組織培養、農業、植林をはじめとする林業全般、植物栽培などに応用可能な抗レジオネラ属菌材料を提供することができる。
【0105】
本発明の抗レジオネラ属菌材料は、無機層状化合物の層間では、生理活性機能を有する有機金属錯体がナノメートルオーダーで均一に分散しているため、培地表面や田畑へ使用された場合でも分散性に優れている。また、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料は、そのままでの使用も勿論可能であるが、活性機能を有する金属−トロポロン錯体の系外への徐放速度を制御できるため、生理活性効果の持続性が極めて高く、任意の形態に製剤加工した加工製品とすることができる。
【0106】
更に、本発明の、任意の形態に製剤加工した加工製品は、通常の製剤製品を製造する方法を用いて、生理活性機能を有する抗レジオネラ属菌材料を油性基剤中に混合溶解する方法や、一般に用いられる方法により製造することができる。こうした加工製品は、使用環境に応じた合目的な設計が可能であるため、広範な産業分野での利用が可能となる。本発明は、上述の抗レジオネラ属菌材料に関する新製品・新技術を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の実施例1に係る、生理活性機能を有する銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料と、対照試料である原料モンモリロナイトの粉末X線回折図形である。
【図2】本発明の実施例1に係る、対照試料である原料モンモリロナイトの赤外吸収スペクトルである。
【図3】本発明の実施例1に係る、生理活性機能を有する銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料と、対照試料であるヒノキチオールの赤外吸収スペクトルである。
【図4】本発明の実施例2、3及び4に係る、生理活性機能を有するアルミニウム、亜鉛及びニッケル−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗レジオネラ属菌材料と、対照試料である原料モンモリロナイトの粉末X線回折図形である。
【図5】本発明の実施例8及び9に係る、生理活性機能を有する銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗菌防カビ材料の熱処理前後の粉末X線回折図形である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属−トロポロン錯体を無機層状化合物の層間に担持してその生理活性機能の徐放性を向上させた抗レジオネラ属菌材料であって、無機層状化合物を主原料とし、この無機層状化合物の層間に所定の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を挿入し、担持させた構造を有することを特徴とする金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料。
【請求項2】
生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する金属カチオンが、Cu、Zn、NiもしくはAl又は遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンである、請求項1に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料。
【請求項3】
生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する有機配位子が、ヒノキチオール、β−ドラブリン、α−ツヤプリシン、γ−ツヤプリシン及び4−アセチルトロポロン中から選ばれた少なくとも一種以上の有機配位子である、請求項1に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料。
【請求項4】
主原料とする無機層状化合物が、天然もしくは合成の層状粘土鉱物、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である、請求項1に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料。
【請求項5】
層状粘土鉱物が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトもしくはスティーブンサイトのスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は膨潤性雲母である雲母粘土鉱物もしくはフッ化雲母である、請求項4に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料。
【請求項6】
抗レジオネラ属菌材料が、図1又は図4の粉末X線回折図形を示す、請求項1に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の抗レジオネラ属菌材料を製造する方法であって、無機層状化合物を主原料とし、この無機層状化合物の層間に所定の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を挿入して、その無機層状化合物の層間に存在する交換性陽イオンと、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を交換することにより、金属−トロポロン錯体を層間に担持してその生理活性機能の徐放性を向上させた抗レジオネラ属菌材料を製造することを特徴とする金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料の製造方法。
【請求項8】
生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する金属カチオンが、Cu、Zn、NiもしくはAl又は遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンである、請求項7に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料の製造方法。
【請求項9】
生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する有機配位子が、ヒノキチオール、β−ドラブリン、α−ツヤプリシン、γ−ツヤプリシン及び4−アセチルトロポロン中から選ばれた少なくとも一種以上の有機配位子である、請求項7に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料の製造方法。
【請求項10】
主原料とする無機層状化合物が、天然もしくは合成の層状粘土鉱物、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である、請求項7に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料の製造方法。
【請求項11】
層状粘土鉱物が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトもしくはスティーブンサイトのスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は膨潤性雲母である雲母粘土鉱物もしくはフッ化雲母である、請求項10に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料の製造方法。
【請求項12】
請求項1から6のいずれかに記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した抗レジオネラ属菌材料を有効成分として含有し、任意の形態に製剤加工されていることを特徴とする抗レジオネラ属菌加工製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−84265(P2009−84265A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128941(P2008−128941)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【Fターム(参考)】