説明

金属−絶縁体バラクタデバイス

バラクタは、所与の電圧が第1および第2導電層にわたって印加されるよう互いに離間して配された第1および第2導電層より構成される。さらに、絶縁構造は、前記第1および第2導電層の間に配された、少なくとも1つの絶縁層を含み、前記第1および第2導電層間のデバイスキャパシタンス値が所与の電圧に応じて変化するよう、前記第1および第2導電層と協働して所与の電圧の変化に応じて変化する電荷プールを作り出すよう構成される。この絶縁構造は少なくとも1つの層、2つの別個の層、またはこれ以上の別個の層を含んでよい。これらの層の1つ以上はアモルファス材料であってよい。ゼロバイアス電圧バージョンのバラクタも記載される。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は2005年4月25日出願の「THIN−FILM TRANSISTORS BASED ON TUNNELING STRUCTURES AND APPLICATIONS」と題された米国特許出願番号第11/113,587号の一部継続出願であり、2004年6月8日出願の「METAL−INSULATOR VARACTOR DEVICES」と題された米国仮特許出願番号第60/586,493号の優先権を主張するものである。第11/113,587号出願は、それ自体が2004年6月26日出願の「HIGH SPEED ELECTRON TUNNELING DEVICES」と題された米国特許出願番号第10/877,874の一部継続出願であり、「PRACTICAL THIN−EILM TRANSISTORS BASED ON METAL−INSULATOR TUNNELING STRUCIURES AND THEIR APPLICATIONS」と題された米国仮特許出願番号第60/565,700号の優先権を主張するものである。第10/887,874号出願は、それ自体が2003年1月20日出願の「HIGH SPEED ELECTRON TUNNELING DEVICES」と題された米国特許出願番号第10/347,534号の継続出願であり、これもまた2001年5月21日出願の「HIGH SPEED ELECTRON TUNNELING DEVICE AND APPLICATIONS」と題された米国特許出願番号第09/860,972号の継続出願である。上記全ては、全体が参照により本願に組み込まれるものである。
【背景技術】
【0002】
今日の電子設計では、多くの場合、バイアス電圧に応じてキャパシタンスが変化する電子部品が用いられており、将来においても継続して使用され続けることになろう。このようなデバイスは、「バラクタ」とも呼ばれることが多い。高速バラクタ(すなわち、キャパシタンスが電圧の高周波変化で非常に速く変化するバラクタ)は、高周波回路における低損失周波数逓倍器および同調素子として用いられる。
【0003】
従来技術のバラクタ設計では、通常、半導体材料を用い、接合のキャパシタンスを変化させるようバイアスをかけたp−n接合を作り出す。半導体ベースの設計を用いることは意図された目的には効果的であるが、本願では、一般的な先行技術のp−n接合設計を用いるよりも、例えばデバイス速度などについての顕著な効果や、さらに他の効果を与えることを目的とする新しい設計を開示する。
【発明の開示】
【0004】
以下にさらに詳細に説明するように、本明細書に開示されるのは、非常に効果的なバラクタおよび関連する方法である。
【0005】
本発明の一つの態様において、バラクタは、所与の電圧が第1および第2導電層間に印加されるよう互いに離間して配された第1および第2導電層より構成される。さらに、絶縁構造は、前記第1および第2導電層の間に配された、少なくとも1つの絶縁層を含み、前記第1および第2導電層間のデバイスキャパシタンス値が所与の電圧に応じて変化するよう、前記第1および第2導電層と協働して所与の電圧の変化に応じて変化する電荷プールを作り出すよう構成される。
【0006】
一つの特徴では、この絶縁構造は少なくとも2つの別個の層を含む。
【0007】
別の特徴では、この絶縁構造は単一の材料層を含む。
【0008】
関連する特徴では、絶縁体層の少なくとも1つの層はアモルファス材料である。
【0009】
本発明の別の様態において、MIIMデバイスは、バイアス電圧を必要とすることなくバラクタを用いることができるようにするために、閾値バイアス電圧をゼロボルト、少なくともほぼゼロボルトに、設定するよう構成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下の説明は、当業者による本発明の製造と使用が可能となるように提示されるものであり、特許出願とその要件に照らして提供されるものである。説明された実施形態に対する各種の修正は、当業者には容易にわかるものであり、本明細書における一般的な原則はその他の実施形態にも当てはまる。したがって、本発明はここに示す実施形態に限定することを意図するものではなく、添付の請求の範囲に規定する代替物、変形例、等価物を含めてここに記載の原則および特徴に一致する最も広い範囲に従うものである。なお、図面は縮尺どおりではなく、その性質上、関心の対象である特徴を最もよく図示できると考えられるように、概略的となっている。また、本開示を通して、有用である場合には、同じ要素には同じ参照数字を適用している。
【0011】
デバイスにかかる電圧の関数として2端子デバイスのキャパシタンスが変化する可変容量デバイス(以下、バラクタ)を形成する非常に有利な金属−絶縁体デバイス構造を開示する。開示されたバラクタは、競合する半導体ベースのバラクタに対して以下のようないくつかの利点を有する。
1.キャパシタンスの大きな変化
2.単位面積あたりの高キャパシタンス
3.高い微分容量
4.広い範囲の各種の基板材料に対応
【0012】
一実施においては、本開示における基本的なバラクタは、金属−絶縁体−絶縁体−金属(MIIM)構造を有し、これは全体が参照により本願に組み込まれ共有されるEliassonおよびModdelによる米国特許番号第6,534,784号(以下、784特許)において最初に開示された種類のものである。これに関して、784特許のデバイスは特にソーラーエネルギー変換に関するものであることを認識する必要がある。
【0013】
次に図1aおよび図1bを参照すると、MIIMバラクタのエネルギーバンド図が図示され、一般にそれぞれ参照符号10および12で示される。図1aに、V=0で示すゼロバイアスでのデバイスを示し、図1bに、V=Vで示す正方向に印加されたバイアス電圧(フォワードバイアス)でのデバイスを示す。これらの図において、第1金属層Mおよび第2金属層Mは間隔をおいた関係で配置される。絶縁構造20は、第1および第2金属層MおよびMの間に配される。この例において、絶縁構造20は第1絶縁層Iおよび第2絶縁層Iを含む。本開示のバラクタデバイスが784特許のMIIMトンネルデバイスと異なるのは、デバイスが、非線形抵抗デバイスやダイオードではなく、キャパシタとして機能することである。784特許のMIIMダイオードでは、絶縁体材料および絶縁体の厚みは、電子がデバイスを一方の金属から他方の金属へトンネルできるように選択される。なお、この予期しない驚くべき振る舞いは、非線形デバイスの開発に向けられたデバイス特性および複雑なモデリング技術を用いた設計と関連して発見された。この注目すべき発見を元にMIIM構造を全く異なる種類のデバイスとして全く異なる方法で機能するように変更が行われたが、これはありふれたことでも自明なことでもないと考えられる。とりわけ、第1絶縁体Iは、非常に高い障壁高(>>1eV)を有するよう構成され、第2絶縁体Iは、低い障壁高(通常<0.3eV)を有する。そのため、第2の金属(M)からの電子は、容易にIをトンネルすることができるがIをトンネルすることはできない。したがって、フォワードバイアス下で、自由電子電荷が、2つの絶縁体間にあるおおよそ三角形のポテンシャル井戸30にプールされる。より具体的には、ポテンシャル井戸30は、I内のIおよびIの間の境界32近傍に形成される。さらに、この電荷のプーリングは印加される電圧に依存してキャパシタンスの変化を引き起こし、バラクタデバイスを形成することが理解される。
【0014】
以下において、図1aおよび図1bに示すMIIMバラクタのキャパシタンスの理論計算を、(i)印加電圧、(ii)C(V)、(iii)代替的バラクタ構成、(iv)バラクタの周波数応答と性能に影響を与える要因に応じて説明する。
【0015】
[理論−C(V)を計算する]
以下の分析は、読者の理解を助けるという意図を持って提示されるものであって、提示された理論的概念によって限定されることは意図していない。
【0016】
図2a〜図2cを参照すると、MIIMバラクタの動作を理解し、印加電圧の関数としてのキャパシタンスを推定するには、図に示す電荷と電界分布の静電学的問題を解くことから始めることができる。図2a〜図2cは、それぞれ、距離xに対する、電位E、電荷ρ、および電界強度εのプロットである。厚みdの第1の(高い)I障壁、電子親和力χ、および誘電定数ε、ならびに厚みdの第2の(低い)I障壁、電子親和力χ、および誘電定数ε、を有する、上記のM、I、I、およびMを含むMIIM構造からはじめる。これらの障壁は仕事関数ΦM1を有する左側の金属Mと、仕事関数ΦM2を有する右側の金属Mに境界付けられている。図2に示す障壁高は全て正の数を取っており、以下の式により得られる。
【数1】

【0017】
最後に、MIIMのM、M間に大きさVの電圧を印加する。この分析では、いくつかの重要な仮定をしている。まず、第1の(高い)障壁はこれをトンネルする電子を無視できるほど十分に高いおよび/または広いと仮定する。そうでない場合、第1の金属Mと電荷プールとの間、および電荷プールと第2の金属Mとの間のトンネル速度を考慮にいれる必要がある。このような3レベルシステムでは電荷プールの電子密度および擬フェルミエネルギーがトンネル速度の変化とともに変化するので、最初の分析ではこのような複雑さを回避することとする。同様に、第1の障壁における自由電荷密度は全く無視できる程度であると仮定する。次に、第2の(低い)障壁材料の状態密度は量子的機械反射によって修正されないと仮定する。つまり、量子閉じ込めと三角形量子井戸の形成を無視する。この仮定は、通常の障壁材料はアモルファス酸化物であり、長距離の電子コヒーレンスがないことによりあらゆる量子閉じ込め効果を破壊すると考えられるため、正確であると思われる。3つ目に、これらの障壁はアモルファスな性質を有するのであるが、状態密度におけるバンドテール状態は無視し、単に単一の有効電子質量を有する放物線バンドモデルを用いることとする。この状態密度は以下の式によって得られる。
【数2】

ここで、h(バー)はプランク定数であり、mは電子質量であり、Eは伝導帯端上のエネルギーである。
【0018】
第2の(低い)I障壁の所与の点χにおける自由電子電荷密度を計算するには、障壁の電位V(χ)がわかればよい。このとき、電荷密度は以下のとおりである。
【数3】

ここで、f(E)は電子のフェルミ分布である。なお、図2aに示すエネルギー仕様を用いており、ここで第1の金属のフェルミ準位はゼロであり、電位エネルギーEは縦軸の下に行くにつれて正の方向に増加する。障壁Iの電荷密度が電位の関数であることがわかっているので、電位分布V(χ)、障壁Iの電荷密度Q、および2つの金属の界面における電荷密度QおよびQを解くのに適当な境界状態を有するポアソン方程式を用いてもよい。なお、図2bは、これらの各種の電荷密度値を説明するためにxの関数としての電荷密度をプロットする。アノードM電荷Q(V)のバイアス電圧依存性より、キャパシタンスをdQ/dVとして計算することができる。
【0019】
次に、障壁Iにおける電荷と電位のポアソン関係は、以下の式により得られる。
【数4】

上記式6の両辺に2・dV/dχをかけることにより、次を得ることができる。
【数5】

両辺を積分することにより、次を得ることができる。
【数6】

【0020】
次に、I−M界面の境界条件を用いて、積分定数Cを解くことができる。この点(すなわちI−M界面)をχ=0と呼び、χが図2a〜図2cで見て左およびIに向かって正方向に増加する仕様を用いる。χ=0における電位はわかっている。単に−φである。このときの電荷密度を無視できるようφ>>kTとするならば、χ=0における電界はQ/εで与えられる。すると、χ=0境界条件は次のとおりとなる。
【数7】

これらの境界条件により、積分定数は以下のとおりとなる。
【数8】

すると、電界を求める式は以下のとおりとなる。
【数9】

【0021】
ポアソン方程式は高度に非線形の二階微分方程式であるので、V(χ)およびQを解くためには数値法を用いる必要がある。dV/dχがわかっているため、周知のテイラー法がうまく働く(例えば、Schaumの「Outline of Theory and Problems of Differential Equations」McGraw Hill(1973)を参照。同書は、参照により本明細書に組み込まれる)。第2の障壁をx軸に沿って有限要素に分割する。V(χ)およびV’(χ)であることがわかっているχ=0からはじまって、χ=dに向かって作業する。このプロセスをはじめるにはQの値を仮定しなければならない。後で、境界条件を用いて、所与のバイアス電圧のQの正しい値を見つけることになる。テイラー法を用いて、連続する電位の値が次の式から得られる。
【数10】

ここで、hは有限要素幅(dχ)であり、±はV(χ)の勾配によって決まる。V’(χ)>0のとき符号は負であり、それ以外の場合は符号は正である。
【0022】
の仮の値からV(χ)を解いたので、Qを次のように解くことができる。
【数11】

【0023】
所与のバイアス電圧のQの正しい値を解くことができる境界条件は次の式から得られる。
【数12】

ここで、φ=Vnmaxである。Q(V)を解くためには、Qについての先の2つの式を同等とみなしてQを解くことができる。
【0024】
(V)が求められたので、これを式15に挿入してQを求め、Q(V)を求める。最後に、MIIMの微分容量を次の式から求める。
【数13】

【0025】
図3は一般に参照番号40で指示される座標系を含み、所与のMIIMデバイスについての電圧に対してプロットされたキャパシタンスを示す。差込まれた座標系42は、エネルギーバンド図44を示し、d=2nm、d=8nm、ε=10ε、ε=60ε、φ=1.0eV、φ=0.1eV、およびφ12=0.9eVである所与のMIIMデバイスについて、オングストロームでの距離に対する電子ボルトでのエネルギーを示している。プロットは、それぞれ参照番号45、46、47、および48で示される、4つの異なる温度150°K、200°K、250°K、および300°Kについて与えられる。
【0026】
図3に照らすと、一般的な傾向は明らかである。負のバイアス電圧、および閾値電圧Vthより低い電圧においては、MIIMのキャパシタンスは、直列の2つの誘電体IおよびIの幾何形状キャパシタンスに近づく。閾値より上では、キャパシタンスは、第1の(高い方の)I障壁のみのキャパシタンスに近づく。温度がT=0Kに向かって下がるにつれ、バラクタはこれらの2つのキャパシタンス値をより一層急に切り替えるようになる。閾値電圧は絶縁体井戸がMのフェルミエネルギー準位にある正の印加電圧であり、次の式から得られる。
【数14】

図3のMIIM構造について、Vthはほぼ0.25Vである。実際の利用においては、すぐ後でより詳細に説明するように、ゼロバイアスにおけるキャパシタンスの最大変化が生じてバイアスの供給が必要とならないように、Vth=0とすることが有利である場合がある。
【0027】
ここで、それぞれ参照番号50および60で一般に指示されるエネルギーバンド図である図4aおよび図4bに注目すると、非常に有利である「ゼロバイアス」MIIMデバイスについて、バラクタが動作するためにバイアス供給電圧が必要とならないようVthがゼロボルトに移動される。図4aはバイアスがV=0のエネルギーバンド構成を示し、図4bはバイアスがV=Vのエネルギーバンド構成を示す。これを実現するために、φはΦM2=χを選択することによりゼロに等しく設定される。すなわち、Mの仕事関数は、Iの電子親和力χに等しくなる。この変化は図4bを図2aと比較すると、図2aが非ゼロ値φを示すため、はっきりと見ることができる。さらに、図4bに示すように、φはφ12に等しく設定される。
【0028】
上記の分析から、また上述のデバイスおよび例をすべて考慮に入れると、キャパシタンスの振れを最大化するためには、第1の障壁I層を非常に薄くかつ非常に高くし、第2の障壁層Iをかなり広くかつ低くしなければならないことがわかる。電荷蓄積領域に有利になるように電界をより強く分布させるために、可能であればε<εとすることは有利であるかもしれない。当然ながら、材料およびデバイススピードについての実用的な限界(以下で説明する)が、実現可能な性能を制限することになる。
【0029】
[代替的なバラクタ構成]
代替的な金属−絶縁体バラクタ構造を考えることができ、本発明は上述のMIIM構造に限られるものではないことが理解される。次にこのような代替的な構造について説明する。
【0030】
ここで、金属−絶縁体−金属(MIM)バラクタのエネルギーバンド図を、それぞれ、一般に参照番号60で示すバイアスがV=0である場合について、および一般に参照番号62で示すバイアスがV=Vにおける場合について示す図5aおよび図5bに注目する。第1および第2金属層はそれぞれMおよびMと示し、絶縁体をIと示す。MIMバラクタの製作において、絶縁体Iの電子親和力χおよび仕事関数ΦM2を有する金属Mを、以下のように選択することにより負の障壁高が形成される。
【数15】

【0031】
したがって、負の障壁高が絶縁体Iおよび金属Mの間の境界64に形成される。図5aと図5bとの比較からわかるように、このMIM構造において、絶縁体Iおよび金属Mの間の負の障壁は、幅が印加電圧によって変調される電荷井戸66を形成し、印加電圧に応じたキャパシタンスの変化をもたらす。
【0032】
別の代替的バラクタ構造を、金属−絶縁体−金属(MIIIM)バラクタのエネルギーバンド図を、それぞれ、一般に参照番号70により示されるバイアスがV=0である場合について、および一般に参照番号72により示されるバイアスがV=Vにおける場合について示す図6aおよび図6bに図示する。第1および第2金属層はそれぞれMおよびMと示し、第1絶縁層I、第2絶縁層I、および第3絶縁層Iを含む絶縁層構造74と示す。デバイスは、IとIとの間の境界78近傍のIに電荷井戸76を作り出すよう構成される。なお、図6aおよび図6bのデバイスはゼロバイアスデバイスを表す。MIIIM構造は動作および精神においてMIIMバラクタとかなり類似しているため、簡便性のために詳細な分析は行わない。さらに、当業者には上記の説明から容易にMIIMデバイスを作成することができると考えられる。
【0033】
[周波数応答および性能]
本明細書に記載のバラクタの速度すなわち周波数応答は、電荷プールを出入りする電荷の移動の速さによって決定される。以下、MIIMバラクタ構造に限定して検討を加えるが、代替的構造についてもこの検討により十分理解できると考えられる。
【0034】
再び図1aおよび図1bを参照すると、増加する正電圧をバラクタに印加すると、金属Mからのトンネリングにより電子が電荷プール30を満たす。電圧が再び減少すると、以下の2つのプロセスを経て余剰の電荷がプールから流出する。(1)トンネリングにより金属Mに戻る、(2)絶縁体Iの伝導帯を亘るバンド輸送で金属Mに戻る。これらの電子が電荷プールと金属Mとの間を行き来する移動スピードは、バラクタの周波数応答を決定する。
【0035】
絶縁体Iを亘るバンド輸送はアモルファス絶縁材料の場合には過度に遅いのであるが、これを無視するならば、例えばBlake J. Eliassonの博士論文「METAL−INSULATOR−METAL DIODES FOR SOLAR ENERGY CONVERSION」(University of Colorado(2001))に記載されるような現行のトンネルモデルを用いて電荷プールおよび金属Mの間のトンネル電流を計算することができる。この論文は、参照により本明細書に組み込まれる。この計算はトンネルする電子についての微分抵抗R(V)をもたらす。ここでの標記では、電圧Vは電荷プールと金属Mとの間の電圧である。なお、V=0でのトンネル確率が必ずしも対称的ではないため、R(V)はR(−V)とは等しくない。電荷プールと金属Mとの間のキャパシタンスCを加えると、以下のように周波数応答を計算することのできる図7の単純な小信号モデルを構築することができる。
【数16】

ここで各種の要素は式19と同じ符号が付される。
【0036】
図7と共に図2aを参照すると、高速バラクタの設計には、RおよびCを最小化する必要がある。I厚み(d)および障壁高(φ)を最小化すると、Rが減少するがCが増加することが知られている。ただし、Rが障壁高および厚みに指数的に依存するが、Cは線形にしか依存しないため、dおよびφを減少することにより周波数応答のネットゲインが見られることになる。これらの値を減少することによる不利益は、Vthに対するキャパシタンスの振れが減少することである(図3参照)。
【0037】
現実的に材料を考慮すると周波数応答が上記の理想的なRC限界値よりも低下する。とりわけ、アモルファス絶縁体材料については、局在化したバンドテール状態、ディープトラップ状態、および、ありがちなフラット表面状態が生じる可能性が高い。絶縁体の伝導帯「端」より下方で延出するこのような状態の電子は、絶縁体1の界面の近くの絶縁体Iへの長期的な帯電を引き起こすことになり、部分的に印加電圧を遮蔽しC(V)曲線を変化させる。
【0038】
広義にまとめると、この文書では以下を定める。バラクタは、所与の電圧を第1および第2導電層にわたって印加できるように互いに間隔をおいて配された第1および第2導電層をそなえて構成される。絶縁構造は、第1および第2導電層の間に配された少なくとも1つの絶縁層を含み、第1および第2導電層と協働して上記所与の電圧の変化に応じて変化する電荷プールを作り出すよう構成されて、第1および第2導電層の間のデバイスキャパシタンス値が上記所与の電圧の変化に応じて変化する。絶縁構造は1つの層、2つの別々の層、または2つ以上の別々の層を含んでもよい。この層の1つ以上がアモルファス材料であってもよい。このバラクタのゼロバイアス電圧バージョンについても記述した。
【0039】
上記具体的な方向付け有する各種の要素を有する物理的な実施形態がそれぞれ説明されたが、本発明は、広い範囲の配置や相互の方向付けで配設された各種の要素を有するさまざまな具体的構成を考慮に入れることができる。例えば、上記の組み込まれた米国特許第6,563,185号で詳細に検討されているように、金属層に換えて、半導体や半金属含むがこれに限定されないその他の材料を用いることができる。さらに、本明細書で説明した方法は、無制限に修正することができ、例えば、方法を構成する各種の手順の順番を変更することができる。したがって、本例は例示的なものとして理解するべきであり、限定的なものとして理解するべきではなく、本発明は本明細書に記載の詳細に限定されるものではなく、添付の請求項の範囲において修正可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
本発明は、後に簡単に説明する図面とあわせて、以下の詳細な説明を参照して理解されるものである。説明の明瞭性のために、図面中の要素には縮尺どおりとなっていないものもある。さらに、各種の図面において用いられる垂直、水平などの説明的な用語は、説明の目的のみで用いられるものであって、記載の構造やデバイスの有用な方向付けについて限定することを意図したものではない。
【図1a】本発明のMIIMデバイスのエネルギーバンド図であり、バイアスのかかっていない状態を示している。
【図1b】本発明のMIIMデバイスのエネルギーバンド図であり、バイアスのかかった状態を示している。
【図2a】図1aおよび図1bのMIIMデバイスのエネルギーバンド図であり、バイアス状態についてさらに詳細を示している。
【図2b】図2aのバイアスされたデバイスの横方向距離に対する電荷のプロットである。
【図2c】図2aのバイアスされたデバイスの横方向距離に対する電界強度のプロットである。
【図3】本発明により製造された例示的MIIMバラクタデバイスのバイアス電圧に対するキャパシタンスのプロットであり、この例示的MIIMのエネルギーバンド図の挿入プロットを含む。
【図4a】本発明のMIIMデバイスのエネルギーバンド図であり、バイアスのかかっていない状態を示し、デバイスはゼロバイアス電圧の必要なく用いられるよう構成されている。
【図4b】本発明のMIIMデバイスのエネルギーバンド図であり、バイアスのかかった状態を示し、デバイスはゼロバイアス電圧の必要なく用いられるよう構成されている。
【図5a】本発明の第1の代替的MIMデバイスのエネルギーバンド図であり、バイアスのかかっていない状態を示している。
【図5b】本発明の第1の代替的MIMデバイスのエネルギーバンド図であり、バイアスのかかった状態を示している。
【図6a】本発明の第2の代替的MIIMデバイスのエネルギーバンド図であり、バイアスのかかっていない状態を示している。
【図6b】本発明の第2の代替的MIIMデバイスのエネルギーバンド図であり、バイアスのかかった状態を示している。
【図7】MIIMデバイス構造から導き出された小信号モデルの模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所与の電圧が第1および第2導電層にわたって印加されるよう互いに離間して配された第1および第2導電層と、
前記第1および第2導電層の間に配された、少なくとも1つの絶縁層を含み、前記第1および第2導電層間のデバイスキャパシタンス値が所与の電圧に応じて変化するよう、前記第1および第2導電層と協働して所与の電圧の変化に応じて変化する電荷プールを生成するように構成される絶縁構造と、
を備えるバラクタ。
【請求項2】
前記所与の電圧を用いて、前記第1導電層よりも正方向に、前記第2導電層にだんだんバイアスをかけることで、対応するデバイスキャパシタンス値の増加を生成する、請求項1に記載のバラクタ。
【請求項3】
前記絶縁構造は、少なくとも、第1導電層に隣接する第1絶縁層と、第2導電層に隣接し、第1絶縁層と隣り合わせの関係にある第2絶縁層とを含み、その間に境界を規定し、前記複数の絶縁層の第1絶縁層との当該境界近傍で、前記複数の絶縁層の第2絶縁層内に電荷プールを生成する、請求項1に記載のバラクタ。
【請求項4】
前記第1絶縁層は第1障壁高を含み、前記第2絶縁層は第2障壁高を含み、前記第1および第2障壁高は、前記所与の電圧に応じて第2導電層から第2絶縁層を通過する電子のトンネリングを生成させ、第1絶縁層を横切る電子のトンネリングを禁じて、前記電荷プールを生成するように選択される、請求項3に記載のバラクタ。
【請求項5】
前記第1障壁高は、前記第2障壁高よりも高い、請求項4に記載のバラクタ。
【請求項6】
前記第1障壁高は1eVよりもはるかに高く、前記第2障壁高は0.3eVよりも低い、請求項5に記載のバラクタ。
【請求項7】
前記第1絶縁層は第1キャパシタンス値を含み、前記第2絶縁層は第2キャパシタンス値を含み、
前記第2導電層に対して前記第1導電層がだんだん正になるようにする、所与の電圧の所与の閾値より低い、所与の電圧の印加により、デバイスキャパシタンス値が第1キャパシタンス値と第2キャパシタンス値の直列の組み合わせに近づき、
前記第2導電層に対して前記第1導電層がだんだん負になるようにする、所与の電圧の所与の閾値より高い、所与の電圧の印加により、デバイスキャパシタンス値が第1絶縁層の第1キャパシタンス値に近づくようになっている、請求項3に記載のバラクタ。
【請求項8】
前記バラクタは、所与の電圧の閾値をゼロボルト、少なくともほぼゼロボルト、に設定するように構成される、請求項7に記載のバラクタ。
【請求項9】
前記絶縁構造は、第1および第2導電層の間に1つのみの絶縁材料の層を含み、前記絶縁材料は第2導電層の第2層仕事関数と協働して前記絶縁材料と前記第2導電層との間に所与の電圧に応じて負の障壁高を生成する絶縁障壁高を有し、前記電荷プールが前記絶縁体材料内の前記第2導電層との境界の近傍に形成される、請求項1に記載のバラクタ。
【請求項10】
前記電荷プールは、所与の電圧の変化により変調される幅を備えている、請求項9に記載のバラクタ。
【請求項11】
前記絶縁構造は、少なくとも、アモルファス材料からなる一つの層を含む、請求項1に記載のバラクタ。
【請求項12】
第1および第2導電層を、所与の電圧が第1および第2導電層にわたって印加されるよう互いに離間して配し、
前記第1および第2導電層の間に配された、少なくとも1つの絶縁層を含み、前記第1および第2導電層間のデバイスキャパシタンス値が所与の電圧に応じて変化するよう、前記第1および第2導電層と協働して所与の電圧の変化に応じて変化する電荷プールを生成するよう構成される絶縁構造を配する、
バラクタの作製方法。
【請求項13】
前記絶縁構造を、前記第1および第2導電層と協働して、前記所与の電圧を用いて、前記第1導電層よりも正方向に、前記第2導電層にだんだんバイアスをかけることで、対応するデバイスキャパシタンス値の増加を生成するよう構成する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記絶縁構造を、少なくとも、第1導電層に隣接する第1絶縁層と、第2導電層に隣接し、第1絶縁層と隣り合わせの関係にある第2絶縁層とを含み、その間に境界を規定し、前記複数の絶縁層の第1絶縁層との当該境界近傍で、前記複数の絶縁層の第2絶縁層内に電荷プールを生成するよう構成する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記所与の電圧に応じて第2導電層から第2絶縁層を通過する電子のトンネリングを生成させ、第1絶縁層を横切る電子のトンネリングを禁じて、前記電荷プールを生成するように、前記第1絶縁層が第1障壁高を含み、前記第2絶縁層が第2障壁高を含むように選択する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1障壁高は、前記第2障壁高よりも高い、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
第1障壁高は1eVよりもはるかに高く選択され、第2障壁高は0.3eVよりも低く選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第1絶縁層は第1キャパシタンス値を含み、前記第2絶縁層は第2キャパシタンス値を含み、
前記第2導電層に対して前記第1導電層がだんだん正になるようにする、所与の電圧の所与の閾値より低い、所与の電圧の印加により、デバイスキャパシタンス値が第1キャパシタンス値と第2キャパシタンス値の直列の組み合わせに近づき、
前記第2導電層に対して前記第1導電層がだんだん負になるようにする、所与の電圧の所与の閾値より高い、所与の電圧の印加により、デバイスキャパシタンス値が第1絶縁層の第1キャパシタンス値に近づくようになっている、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記バラクタを、所与の電圧の閾値をゼロボルト、少なくともほぼゼロボルト、に設定するよう構成する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記絶縁構造を、第1および第2導電層の間に1つのみの絶縁材料の層を含み、前記絶縁材料は第2導電層の第2層仕事関数と協働して前記絶縁材料と前記第2導電層との間に所与の電圧に応じて負の障壁高を作り出す絶縁障壁高を有し、前記電荷プールは前記絶縁体材料内の前記第2導電層との境界の近傍に形成されるよう構成される、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
電荷プールは所与の電圧の変化により変調される幅を備えている、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
絶縁構造の1部として、少なくとも、アモルファス材料の一つの層を用いる、請求項12に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−506265(P2008−506265A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520523(P2007−520523)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【国際出願番号】PCT/US2005/024207
【国際公開番号】WO2006/014574
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(303044077)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ コロラド (11)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of Colorado