説明

金属の回収装置

【課題】 金属含有溶液から金属を電気分解によって回収する従来の回転陰極式金属回収装置で用いられる、モーターなどの回転駆動部品を省き、金属の回収速度や効率を低下させずに装置の小型化とメンテナンス作業の低減、電力削減を実現させる。
【解決手段】陽極、陰極のいずれか一方または両方が、水流による駆動機構によって回転する機構を備えた金属回収装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属含有溶液から電気分解法により金属を回収する金属回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場等から排出される廃液の中には、例えば、金や銀、銅、白金族元素等の金属を含有しているものがあり、これらの廃液から金属を回収する方法としては、電気分解法が知られている。
【0003】
電気分解法を用いた金属の回収装置として、陰極を回転させることで、金属の回収速度や効率を上げたり、電気分解を妨げる物質の生成を抑えた装置が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、陰極槽に電動機を通じて回転駆動される円筒ドラム形の陰極を配置した、使用済み漂白定着液からの銀回収装置が提案されている。この回収装置では、陰極を回転させ、陰極槽内の液を攪拌することにより、陰極表面近傍の銀イオン濃度が局部的に低くなることを防いでいる。その結果当該定着液中のチオ硫酸の還元反応に由来する硫化銀の生成を抑制し、安定して効率よく金属銀を得ることを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−26796
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されている方法において陰極回転による攪拌効果を十分に発揮させるためには、陰極を回転させるモーターなどの大きな回転駆動部品が必要であり、装置の大型化やメンテナンス作業の増加といった課題があった。
【0007】
特に工場等から排出される廃液から金属を回収する場合、工場が稼動している間連続して金属回収装置を運転することが必要となるが、このような廃液は塩酸、硝酸、王水、苛性ソーダなどの強酸性または強アルカリ性の液であることが多く、それらの液が飛散もしくは揮発してモーターに付着することにより、その部分が腐食し、故障停止してしまうことがある。そして、運転を再開するために部品交換などのメンテナンスを行わなければならない。
【0008】
本発明は、金属含有溶液から電気分解法により金属を回収する装置であって、装置の小型化、メンテナンス作業の低減、電力の削減を実現させた金属回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、電極を回転させる金属回収装置において、電極を水流により回転させることが可能であることを見出した。
【0010】
工場等から発生する廃液から金属を回収する場合、一般的にはポンプ等を用いて該廃液の貯槽(以下、廃液貯槽とする)から前記金属回収装置へ液を供給する。ここで言う水流とは、該廃液の供給時に発生する液の流れを意味する。
【0011】
また、ここで言う電極とは陽極または陰極、もしくは陽極と陰極の両方を意味する。
【0012】
本発明者らは、前記水流により前記金属回収装置の電極を回転させる構造を備えることで、金属の回収速度や効率を低下させずに従来電極を回転させるために必要であったモーターなどの回転駆動部品を省くことに成功した。
【0013】
すなわち本発明は、金属含有溶液(以下、処理液とする)を電気分解して金属を回収する装置であって、処理液を入れる槽(以下、電解槽とする)と、陽極、陰極と水流による駆動機構とを有し、前記陽極、陰極のいずれか一方又は両方が前記駆動機構によって回転することを特徴とする金属の回収装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の装置は水流による駆動機構を設けることによって、ポンプ等から供給される処理液を電解槽に入れる時に発生する水流を利用して電極を回転させることができるため、従来必要であった電極の回転駆動部品を省き、装置の小型化とメンテナンス作業の低減、電力削減が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】 実施例1、2で使用した金属回収装置の断面図である。
【図2】 比較例1、2で使用した金属回収装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための好ましい形態について述べる。
【0017】
本装置は、前記電解槽と、陽極、陰極と水流による駆動装置とを有している。
【0018】
前記電解槽には、陽極と陰極のいずれか一方または両方を回転できる機構が配置されている。この機構の一つの例としては、陽極と陰極のいずれか一方または両方に軸を設け、ベアリングを介して軸を中心として周方向に自由に回転するものが挙げられる。
【0019】
前記電極を回転させる目的は、前述の通り陰極表面近傍の液の金属濃度が局部的に低下することを防ぐことであるため、陰極を回転させることが最も好ましい。しかし、陰極に大量の金属を析出させる場合は、電解の前後で陰極の重量が大きく変わるため、一定の速度で回転させることが難しくなり、安定した攪拌効果が得られない。そのような場合は陽極を回転させる、または陰極及び陽極を回転させる構造とすることで、安定した攪拌効果を得ることができる。
【0020】
水流による駆動機構は、槽内に水流を発生させ、陽極、陰極のいずれか一方または両方を回転させる部分であり、形態は特に限定されないが、処理液の吐出口を固定し、回転させる電極に向かって前記処理液を吐出してもよいし、槽内に回転可能な攪拌羽根を設置しこれに向かって前記処理液を吐出し攪拌羽根を回転させることで電極を間接的に回転させてもよい。
【0021】
前記駆動機構は陽極、陰極のいずれか一方と一体化させることもできる。つまり、陽極、陰極のいずれか一方にスプリンクラーの様な構造を設け、吐出口から吐出される水流によって該吐出口と一体化した陽極または陰極を回転させる、という構造とすることも可能である。
【0022】
回転させる電極の形状は、前記駆動機構からの水流により回転することができればどのような形状でもよく、例えば、円筒状、円板状、管状、棒状などが挙げられる。また、水流の力を受けやすいよう、突起や攪拌羽根のような形状を付加してもよい。
【0023】
前記電極表面の周速は使用する電解槽のサイズ、処理液の量、回収対象とする金属の種類及び濃度によって変化するため一義的に定めることは困難であるが、例えば貴金属を回収する場合は、0.1〜3m/secの範囲内になるように設定することが好ましい。0.1m/secより小さくすると攪拌効果が薄れ陰極表面近傍の金属濃度が局部的に低くなり、電気分解の効率が悪くなる。一方、3m/secより大きくすると前記処理液が大きく波立って前記電解槽より溢れる恐れがあり、安全面で問題があるし、電気分解の効率向上も認められない。
【0024】
前記駆動機構への処理液供給の方法として、例えば渦巻ポンプ、ダイアフラムポンプなど、一般に送液に用いられるポンプであれば何でも用いることができる。特に極板を安定して連続的に回転させるために、渦巻ポンプのように常に一定の吐出圧が得られるものが好ましい。ポンプ以外の方法としては、水力発電の水車を回転させる要領で所定の高さから当該溶液を落下させることも可能である。
【0025】
前記駆動機構の吐出口の数は特に限定されず、極板または攪拌羽根の形状や大きさにより適宜決めることができる。形状が円筒形であったり、人型の極板を用いる場合、吐出口は2つ以上ある方が効率良く極板を回転させることができる。
【0026】
前記駆動機構の吐出口の形状は特に限定されず、処理液を電解槽へ供給する流量(回収金属の種類、濃度、電気分解の際の電流密度、処理液の量によって決められる)と、後述する極板を回転させるために必要な水流の圧力、線速度との兼ね合いにより、適宜決定することができる。例えば、処理液の流量が大きく、それにより得られる水流の圧力、線速度が極板を回転させるために必要な圧力、線速度を満足している限りは、吐出口の径がそこに至るまでの径と変わらないものや、シャワーのように複数の穴が開いているものを好ましく用いることができる。逆に処理液の流量が小さく、それにより得られる水流の圧力、線速度が極板を回転させるのに不足な場合は、先端が細くなっているものや、吐出口付近の液を巻き込んで流量を増幅できる機構を設けたものを好ましく用いることができる。また、吐出口付近の配管に調節バルブを設け、水流の流量、圧力、線速度を任意に調整できるようにすることも可能である。
【0027】
前記処理液を吐出する位置は特に限定されず、例えば極板に直接前記処理液を吐出して回転させる場合、極板の内側、外側、上部、下部どの部分に吐出してもよいが、例えば直方体の上部が開放系となっている電解槽において、円筒状の陰極の外側に陽極を設け、陰極に前記処理液を吐出して回転させる場合は、電気分解反応が起こらない側の方が電気分解反応に与える影響が少ないため好ましく、また下部の方が処理液の飛散を防ぐことができるため好ましい。
【0028】
極板を回転させるために必要な前記水流の圧力は、極板の大きさや目標とする回転数、前記水流の断面積によっても異なるため一義的に決めるのは困難であるが、0.05〜10kg/cm2が好ましい。圧力が低すぎると極板を安定的に回転させることができず、高すぎると前記駆動機構の強度を上げる必要が生じることに加え、液が飛散するなどして好ましくない。
【0029】
極板に水流を吐出して回転させる場合、吐出口と極板との距離は1.0〜10cmの範囲内にあることが好ましい。距離が10cm以上離れると、前記電解槽中の処理液の抵抗により前記吐出液の圧力が失われ、前記電極を所定の周速で安定して回転させることができない。また、例えば陰極に水流を吐出して回転させる構造とした場合、当該距離が1cm未満となると極板に析出した金属と吐出口とが接触し、析出した金属が剥がれ落ちたり吐出口が破損する危険性がある。
【0030】
極板に水流を吐出して回転させる場合、極板に対する吐出口の角度は、極板に水流が当たる部分から、回転の中心に対して垂直に引いた線に対して45〜90°が好ましい。45°より小さくなると極板を回転させる方向に働く水流の力が小さくなり、90°より大きくなると安定した回転力が得られない。
【0031】
前記処理液の圧力を実現するために、ポンプの吐出圧は0.1〜12kg/cm2が好ましい。前記した極板の回転に必要な圧力より大きいが、これはポンプから水流を発生させ極板に到達するまでの間に、配管や槽内の液により圧力が失われるためである。
【0032】
前記吐出口から吐出される際の処理液の線速度は、吐出口の径、吐出口と極板との距離、極板の大きさによって異なるが、極板表面の周速の3倍以上であることが好ましい。3倍以下では吐出口の径及び吐出口と極板との距離を調整しても、目標とする0.1〜3m/secの周速を安定して得ることができない。
【0033】
本発明装置で回収できる金属として、例えば、貴金属や銅、ニッケルなどが挙げられる。
【0034】
本発明に用いられる金属含有溶液は、上記の金属を含有していればよく、代表的にはメッキ廃液や、写真の現像廃液、メッキ品を水洗した液、剥離液の廃液などが挙げられる。
【0035】
次に、本発明の金属回収装置について、図面を用いてより具体的に説明する。
【0036】
図1は、吐出口から処理液を吐出し、円筒状の陰極を回転させる金属回収装置の断面図である。なお、図1に示す金属回収装置は、本発明の一例を示す実施形態であり、これに限定する趣旨ではない。
【0037】
図1に示す金属回収装置は、軸4を中心にして回転する円筒状の陰極1と、該陰極1と対向するように配置された4枚の板状陽極2と、該陰極1をスムーズに回転させるためのベアリング3を備えた軸4と、水流による駆動機構として、処理液を陰極1に向かって吐出する吐出口5と、水流を受ける羽根6が設置されている。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明する。これらの実施例は図1に示す装置を用いて行ったものであるが、本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0039】
(実施例1)
角型電解槽(容量10L)の中央に配置された軸4には、円筒状の陰極1が取り付けられており、該陰極1は、軸4内に設置されたベアリング3を介して軸4を中心として周方向に自由に回転できる。
【0040】
該陰極1は、チタン製で直径160mm、長さ200mmの円筒状であり、該陰極1の内側下部から50mmの位置に、長さ50mm、幅10mmの羽根6が4枚設置されている。
【0041】
該陰極1の内側には、該陰極1の下部から75mmの位置に、前記の羽根6に向かって処理液を吐出できるように配置された吐出口5が2つ設けられており、処理液をポンプで供給し吐出口5から吐出することで、陰極1を回転できる構造となっている。吐出口5は先端が細い形状のもので、先端部分の径は8mm、吐出口5に至るまでの配管の径は15mmである。また、該吐出口5から前記羽根6までの最短距離は2cmで、吐出口5の陰極1に対する角度は60°とした。
【0042】
電解槽の内壁面には、各壁面に板状の不溶性陽極2(100mm×250mm)が1枚ずつ、計4枚設けられている。
【0043】
本実施例においては前記の廃液貯槽の代わりに、より容量の小さい槽(以下、循環槽9とする)を用いた。つまり、処理液は該循環槽9からポンプ8により電解槽7に供給され、上部よりオーバーフローして循環槽9に戻るようになっている。該ポンプ8として、エレポン化工機株式会社製のシールレス渦巻ポンプを用いた。
【0044】
循環槽9内に、処理液として金濃度80mg/Lの金含有シアン系メッキ品水洗水20Lを投入し、処理液を吐出圧1kg/cmのポンプ8で電解槽7内の吐出口5に供給し、陰極1内側の羽根6に処理液を流量30L/minで吐出して陰極1を回転させながら、電流密度0.01A/cmで電気分解を行った。この時の陰極1の周速は1m/sec(回転数120rpm)であった。
金濃度の変化を表1にまとめる。5時間経過時点で金濃度は1mg/L以下まで低下した。
【0045】
(比較例1)
モーターで円筒状陰極を回転させる、従来の金属回収装置を用いて実施例1との比較を実施した。用いた装置は、図2に示すように、図1の装置の陰極1の内側の羽根6と吐出口5が設置されておらず、代わりに軸4に直結した陰極1を回転させる駆動部品として定格出力20W、回転数120rpmのモーター10(径φ70mm、長さ120mm)を軸4の下部に配置したものである。電解槽7の容量や陰極1及び陽極2のサイズ、材質、処理液を電解槽7に投入する流量、ポンプ8の吐出圧、その他電解条件は実施例1と同じである。装置はモーター10とその固定台を設置した分20cm高くなった。
【0046】
実施例1と同じ処理液20Lを用い、モーター10で陰極1を回転させながら電気分解を行った。陰極1の周速は1m/sec(回転数120rpm)で、実施例1と同じである。金濃度の変化を表1にまとめる。5時間経過時点で金濃度は1mg/L以下まで低下した。
【0047】
水流により陰極を回転させる実施例1と、モーターで陰極を回転させる比較例1で同様な結果が得られており、モーターなどの回転駆動部品を省いても、従来の回収装置と同じ回収速度、効率を保てることを確認した。
【0048】
【表1】

【0049】
(実施例2)
実施例1において金濃度が1mg/L以下まで低下した液を循環槽9より排出し、新たに金濃度80mg/Lの金含有シアン系メッキ品水洗水20Lを投入して、実施例1と同じ条件で電気分解を行い、5時間後に再度液を入れ替えるという操作を繰り返し20回行ない、計100時間連続運転した。その間陰極1は連続して回転しており、投入した液の金濃度は5時間後の液の入れ替え時には常に1mg/L以下まで低下した。100時間連続運転後の消費電力は8kWh(ポンプ3kWh+整流器5kWh)であった。
【0050】
(比較例2)
比較例1において金濃度が1mg/L以下まで低下した液を循環槽9より排出し、新たに金濃度80mg/Lの金含有シアン系メッキ品水洗水20Lを投入して、実施例1と同じ条件で電気分解を行い、5時間後に再度液を入れ替えるという操作を繰り返し20回行ない、計100時間連続運転した。その間陰極1は連続して回転しており、投入した液の金濃度は5時間後の液の入れ替え時には常に1mg/L以下まで低下した。100時間連続運転後の消費電力は10kWh(モーター2kWh+ポンプ3kWh+整流器5kWh)であった。
【0051】
これにより、水流の力で陰極を回転させる実施例2はモーターを用いて陰極を回転させる比較例2に比べて消費電力を20%削減できることが確認された。
【符号の説明】
【0052】
1 陰極
2 陽極
3 ベアリング
4 軸
5 吐出口
6 羽根
7 電解槽
8 ポンプ
9 循環槽
10 モーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属含有溶液を電気分解して金属を回収する装置であって、前記溶液を入れる槽と陽極、陰極と水流による駆動機構とを有し、前記陽極、陰極のいずれか一方又は両方が前記駆動機構によって回転することを特徴とする金属の回収装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−58087(P2011−58087A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228499(P2009−228499)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(591234307)アサヒプリテック株式会社 (17)
【Fターム(参考)】